『リング』
ファフナーの炎 第三章
「帝国軍の四つの艦隊ですが」
「うむ」
次の日ヴァルターはコートナーからの報告を受けていた。
「どうやら四つの星系にそれぞれ分散配置されているようです」
「四つの星系にか」
「はい。今のところ彼等は防衛に専念しているようです。そして我等の規模もあまり知らないようです」
「ふむ」
ヴァルターはそれを聞いて顎に手を当てた。そして思索に入った。
「我々の勢力を見誤っているということか」
「その可能性もあります。四つの艦隊はそれぞれ分かれて防衛にあたっていますから」
「それぞれの艦隊の規模は」
「大したことはありません。どれも最初の敵艦隊と同じ程です。ただ奥にいる艦隊だけは別です」
「というと」
「その艦隊の司令官はギャールプのようです」
「ギャールプが」
「どうやら敵の司令官の一人が出て来ているようなのです。どうも陣頭指揮を執るつもりのようで」
「そうか、敵の司令官がわざわざか」
彼はそれを聞いて呟いた。
「だが他の艦隊の規模を考えると。どうにも杜撰さがあるな」
「やはり我々の戦力を見誤っているのでしょうか」
「その可能性はあるな。おそらく先の三つの艦隊は補助戦力だ」
「はい」
「ギャールプ自身が率いる艦隊こそ主力だ。おそらくこの艦隊はかなり強力だ」
「ではまず彼の艦隊から」
「いや、ここは枝から取り払っていこう」
しかしヴァルターはそれをよしとはしなかった。
「枝から」
「そうだ。これより我が軍はこの三個艦隊を以って機動戦を仕掛ける」
彼は言った。
「敵艦隊を一個ずつ各個撃破していく。よいな」
「ハッ」
「そしてその後でギャールプの艦隊と決戦を挑む。それで異存はないか」
「司令」
「アイスリンガー提督」
ここでアイスリンガーが前に出て来た。
「その案で基本的にはいいと思いますが」
「不備がある。と言いたいのだな」
「御言葉ですが」
アイスリンガーは述べた。
「幹を倒すのにはまず枝からと申されましたが」
「駄目か」
「いえ、大筋においてはいいと思います。ただ」
「ただ。何かあるのか」
「その際ギャールプの艦隊を常に捕捉しておくことが重要であると思います。彼の動きで今後の戦いが決まります」
「彼の艦隊か」
「はい。当然他の三艦隊もそれは同じですが。そしてこちらは迅速に動き彼等に動きを掴ませないのが肝心です」
「わかった。それではそうしよう」
「はい」
「まずはギャールプの艦隊を警戒せよ」
「はっ」
「それに注意を払いつつ各艦隊を各個撃破していく。それでよいな」
「わかりました。それでは」
「その際惑星占領は後回しにする」
「宜しいのですか?」
「まずは敵艦隊を倒してからだ。それは後でゆっくりとする」
彼は言った。
「まずは敵艦隊ですか」
「惑星占領の際こちらの居場所を知られては元も子もないからな。まずはギャールプの艦隊を倒してからだ」
「わかりました。それでは」
「では三個艦隊はすぐに敵艦隊の撃破に向かう」
あらためて指示を下した。
「よいな。そして一個艦隊を倒したならば」
「もう一個艦隊を」
「うむ」
「それではすぐに取り掛かりましょう」
こうしてヴァルターが直率三個艦隊は敵艦隊の各個撃破に向かった。そして程無く機動戦術を活かし三個艦隊を殲滅した。残るはギャールプが率いる主力艦隊だけであった。
「敵の司令官の一人であるギャールプですが」
次席参謀であるモーザーが報告していた。
「今その艦隊と共にマグダレーネ星系におります。その数百隻以上」
「流石に多いな」
「二個艦隊を組み合わせて一個にしたもののようです。あと補助戦力として一個艦隊を援軍に迎えたようです」
「実質には三個艦隊か」
「はい。今の帝国軍辺境方面軍の主力です」
モーザーはまた述べた。
「この艦隊で以って我々に対抗するつもりのようです。既にマグダレーネに集結し戦闘準備に取り掛かっているようです」
「ということは既に我々の位置を掴んでいるということか」
「いえ、それはないようです」
だが彼はそれを否定した。
「では何故進もうというのだ?」
ルシャナは問うた。
「それはわかりませんが。ただやけに慌しく戦闘準備に入っているようです」
「ふむ」
「どういうわけか迎撃態勢を整えております」
「迎撃態勢を」
「はい。我等の位置を掴んでいても迎撃というのは」
「有り得ないな。どういうことだ」
今ヴァルターの艦隊はマグダレーネからは離れている。敵の三個艦隊を各個撃破しているうちにマグダレーネから離れた場所に移動してしまっていたのだ。
「何かあるのでしょうか」
「それはわからない。だがマグダレーネには向かうぞ」
「はい」
ヴァルターは三個艦隊を率いてマグダレーネに向かった。少数の艦隊を大艦隊で各個撃破してきた為その数は殆ど減ってはいなかった。補給を済ませ万全の状況でマグダレーネに向かった。
マグダレーネに向かうとまずはその静かさに驚いた。帝国軍の気配が何処にもないのだ。
「レーダーに反応はあるか」
「いえ」
レーダーは何も語らなかった。
「偵察部隊からの報告は」
「妙です。敵影は何処にもないとのことです」
「馬鹿な、そんな筈がない」
ヴァルターはそれを聞いてまずそれを否定した。
「ここには敵の大艦隊がいる筈だ。それで敵影が一つも見当たらないとは」
「ですが本当です」
別の部下が答えた。
「何も見当たらないのです。このマグダレーネに」
「どういうことだ」
いぶかしんだその時であった。偵察部隊のうちの一つから報告があった。
「司令」
「いたか」
「はい。いることにはいましたが」
その部隊の指揮官が口ごもりながら応えた。
「ですが」
「何かあったのか」
「はい」
「そして彼等は今何処にいる」
「マグダレーネの外側です。今戦闘中です」
「戦闘中!?馬鹿な」
ヴァルターは最初にそれを聞いた時それを信じようとはしなかった。
「ここにいる戦闘部隊は我等と帝国軍のものだけの筈だ。それが何故」
「ですが実際に戦闘中です。帝国軍の艦隊が押されています」
「彼等が」
「圧倒的な状況です。最早彼等に勝ち目はありません」
「そんなに強いのか」
「はい。宜しければこちらに来られますか」
「うむ。全艦隊マグダレーネの外側にまで行くぞ」
「ハッ」
皆ヴァルターの言葉に頷いた。こうしてヴァルターの軍はマグダレーネの外縁に向かった。
そこでは今まさに帝国軍の艦隊が殲滅されようとしていた。包囲捕捉され今無残に殲滅されていた。戦いが謎の軍の勝利に終わるのは誰の目にも明らかであった。
「帝国軍消滅しました」
ヴァルターにその報告が入った。
「一隻も残ってはおりません。ギャールプは戦死した模様です」
「信じられん」
ヴァルターはそれを聞いて一言こう呟いた。
「あれだけの大艦隊をいとも簡単に。しかも数も多い」
「彼等は一体何者でしょうか」
「わからん。若しかすると敵かも知れん」
「敵」
「帝国と敵対しているからといって我等の味方とは限らないということだ」
ヴァルターはこう述べて全軍に戦闘態勢に入るように指示を下した。
「全艦戦闘用意」
「はっ」
今まさに入ろうとしたこの時であった。突如としてモニターが開いた。
「ぬっ!?」
「あちらの艦隊からです」
部下から報告が入った。そしてモニターに一人の男が姿を現わした。
「はじめまして、シュトルツィング執政官」
「私を知っているようだな」
「はい」
男はそれに応えた。金属製の鎧の様な服にその全身を包んでおり顔はよくわからなかった。だがその兜の様な帽子から溢れ出ている黄色の長い髪が印象的であった。少なくともヴァルターは彼を見たのははじめてであった。
新たなに現れた謎の男。
美姫 「彼は果たして、敵か味方か!?」
全くの無関係者ということも…。
美姫 「それはそれで面白いかもね」
ええっ!
美姫 「何はともあれ、次回が気になるわね」
ああ。一体、彼の口から出てくるのは。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
ではでは。