『リング』




     ファフナーの炎   第二章  

「まさかファフナーを投入して来るとはな」
 ヴァルターは会議の席においてはまずこう述べた。
「思いもしなかった。これはニーベルングが本気だということか」
「このような辺境の場所にまで、ですからね」
 部下の一人がそれに応えた。
「奴は一体何を考えているのだろう」
「今の時点ではまだはっきりしたことは言えないな」
「はい。情報が少な過ぎます」
「今はここを拠点に情報収集に務めますか」
「それからですね。何事も」
「そうだな。では暫くは目立った動きは控える」
「はっ」
「情報収集とフランケンの統治に専念する。それでいいな」
「了解」
「わかりました」
 武官も文官達もそれに応えた。こうしてとりあえずの方針が決定したのであった。
 ヴァルターは暫くの間戦力の拡充と国力の充実、そして情報収集に務めた。その結果色々と面白いことがわかってきた
のであった。
「メーロト=フォン=ヴェーゼンドルクという男がか」
「はい」
 彼はそこでメーロトという男を知った。
「かってはローエングリン=フォン=ブラバント提督の第三艦隊に所属していた男のようですが。今ではニーベルングの軍にいるそうです」
「その際共に作戦行動にあたっていたジークムント=フォン=ヴェルズングに重傷を負わせたということです」
「ローエングリン=フォン=ブラバントにジークムント=フォン=ヴェルズングか」
「御存知ですか」
「個人的にはないがな。あの二人は有名だ」
 ヴァルターは新設された司令室で一連の話を聞いていた。そしてこう応えたのであった。
「ブラバントは名門の出身で自身も指揮官として優秀なことで知られている」
「はい」
「ヴェルズングは元々彼の部下だった。帝国きってのエースパイロットだ」
「そのようですね」
「その二人と関わりがあったというのか」
「その男が今各地で帝国に抵抗する者達を滅ぼしている、とのことです」
「ふむ」
 ヴァルターはそこまで聞いてまた思索に入った。
「ではマインを襲ったファフナーもか」
「はい、そのようです」
「やはりな。そして彼は今何処にいるか」
「そこまではわかりません。ただ」
「ただ。何だ」
「どうやらヴェルズングが彼を追っているそうです。何でも怪我の借りを返すとか」
「だとするとヴェーゼンドルクも厄介な男を敵に回したな」
「はあ」
「では今のところヴェーゼンドルクはいい。それよりも今はこの周辺にいる帝国軍だ」
「彼等をですか」
「そうだ。彼等についてわかっているところはあるか」
「こちらに向けられている帝国軍は二人の将によって率いられています」
「誰と誰だ」
「ギャールプ=ゲイルレズとグレイプ=ゲイルレズの兄弟です」
「その二人か」
「はい。それぞれ艦隊を率いてこの辺境地域の制圧に取り掛かっているそうです。既にこの周辺にまで進出しております」
「そうか」
「その数十個艦隊。かなりのものです」
「それに対してこちらは二個艦隊が整ったところです。数のうえではかなり劣勢かと存じます」
「そうだな。だがそれはそれで戦い方がある」
「といいますと」
 報告を続けていた幕僚達はヴァルターの言葉に顔を上げた。
「まずはこの二個艦隊で周辺星域を掌握していく」
「はい」
「この辺りに展開している敵艦隊は幾つだ」
「確か一個艦隊が来ておりますが」
「ならばその艦隊をその二つの艦隊で叩く。よいな」
「わかりました」
「そしてそこでまた国力を伸張させていく。それから」
「それから」
「敵艦隊を少しずつ誘き寄せ各個撃破していく。それで徐々に進んでいくぞ」
「わかりました」
「敵は何者かわからないが地の利はこちらにある」
 ヴァルターは冷静な言葉でこう述べた。
「それならば勝機は十二分にある。戦争は数だけではないからな」
 その言葉で全てが決まった。こうしてヴァルターは二個艦隊を繰り出してまずは近くに展開していた帝国軍の艦隊を討つことにした。艦隊はヴァルター自身が率いていた。
 まずは中立にある星系を次々と説得していった。既に帝国の脅威は全ての星系に伝わっており説得にも骨が折れたがヴァルターの卓越した交渉能力と話術によりそういった難問を通過していった。
 これで彼は幾つかの星系を手中に収めた。そして気がつけば遂に帝国軍の艦隊の側にまで来ていた。
「帝国軍の艦隊が隣の星系にまで進出してきております」
 部下の一人が報告してきた。
「場所は」
「ベックメッサー星系です」
「そうか、あそこか」
 ヴァルターはそれを聞いて呟いた。
「ならばすぐにそこに艦隊を全て向けよう」
「はっ」
「まず第一艦隊は私が率いる」
 彼は言った。
「第二艦隊はウルリヒ=アイスリンガー提督が指揮をとってくれ」
「了解しました」
 金色の髪に鷲鼻の男がその言葉に頷いた。
「それではすぐに」
「うん。貴官は左から先に星系に入ってくれ」
「左からですか」
「そう、そして私は右から後で入る。つまり時間差で挟み撃ちを仕掛けるのだ」
「各個撃破される怖れもありますが」
「大丈夫だ。貴官の采配を信じている」
 アイスリンガーの顔を見ながら言った。
「機動力を使って相手を惑わせてくれ。そのうちに我が軍は敵の背後に回る」
「そしてそこで戦いを挑まれるのですか」
「そう。これなら問題なく勝てるな」
「はい」
 アイスリンガーはそれを聞いて頷いた。
「それではそれでいきましょう」
「うむ」
 ヴァルターは二個艦隊をベックメッサーに差し向けた。そしてアイスリンガーの艦隊に陽動を仕掛けさせつつ後方から敵艦隊に接近した。敵が気付いた時には既に挟み撃ちの姿勢を整えていた。
「敵艦隊、完全に捕捉しました」
「うむ」
 彼はザックスの艦橋にいた。そして報告を聞いていた。
「敵艦隊の規模は」
「巡洋艦が主軸です。ビーム艦とミサイル艦が十隻ずつ程です」
「思ったより少ないな」
「先遣艦隊でしょうか」
「おそらくな。どうやら我々のことはあまり意識していなかったらしい」
「ではチャンスですね。すぐに叩いておきましょう」
「うむ。では攻撃開始」
 ヴァルターの手があがる。
「アイスリンガー提督の艦隊はそのまま機動力を生かして側面を衝くように。我が艦隊はこのまま正面に進む。よいな」
「はっ」
「そして敵はできるだけ生かして捕らえよ」
「生かして、ですか」
「捕虜はいた方がいい。我々はまだ何も知らないのと同じだからな」
 彼は政治的判断を下した。
「捕虜から何かと聞き出せることは多い。いいな」
「わかりました。それでは」
「頼むぞ。全ては情報からだ」
「わかりました」
 ヴァルターは部下達と戦いの後の処理まで話しながら進んでいった。そして遂に攻撃射程内にまで入った。
「敵は気付いているか」
「いえ、まだです」
 彼等は既に敵を見ていた。しかし帝国軍の方はまだそれに気付いてはいなかった。
「相変わらずアイスリンガー提督の艦隊に気を取られているようです」
「そうか、それは何よりだ」
 ヴァルターはそれを聞いて静かに笑った。
「では絶交の機会だな。まずは中央部に戦艦及び巡洋艦を集中させる」
「はい」
「集中攻撃により打撃を与えた後で前方にいるアイスリンガー提督の艦隊と連動して敵を叩く。それでいいな」
「わかりました。それでは」
「その後は包囲殲滅していく。ただし降伏勧告を行いながらだ」
「了解しました。それでは」
「うむ」
 戦艦及び巡洋艦が中央に向けて集結させられた。そしてビームとミサイルによる一斉射撃が加えられた。
 これで帝国軍の艦隊に大きな穴が開いた。ヴァルターはそれを逃さなかった。
「今だ!」
 彼は言った。
「弱った部分にさらに攻撃を仕掛けよ。ビーム艦及びミサイル艦は左右に移動しろ!」
「了解!」
「戦艦及び巡洋艦はそのまま中央だ。そして攻撃をさらに強めよ!アイスリンガー提督の艦隊は扇形になりそこから広範囲な攻撃を仕掛けよ!」
「わかりました」
 モニターにアイスリンガーが姿を現わした。そしてそれに答える。
「それではそのように」
「うむ」
「戦いはこれで決まりでしょうか」
「既に決まっている」
 ヴァルターは落ち着いた声を返した。
「我等が後ろをとった時点でな。既に決まっていた」
「そうだったのですか」
「後はその勝利を現実のものとするだけだ。それも次の一撃で決まる」
「それでは」
「もう一度攻撃を仕掛ける。よいな」
「はっ」
「全艦攻撃に移れ」
「あっ、待って下さい」
 だがここで制止が入った。
「どうした」
「敵が降伏を申し出て来ました」
「もうか」
「如何致しますか」
「さっき言った通りだ。変えるつもりはない」
 彼はこう返した。
「受諾すると伝えてくれ」
「わかりました」
「これで何か情報がわかればいいがな」
「はい」
 こうして降伏勧告は受諾された。帝国軍は投降しベックメッサー星系は彼の手に落ちた。そして情報も得られた。
「タンホイザー=フォン=オフターディンゲンが?」
「御存知ですか?」
「知っているも何も彼もまた有名だ」
 ヴァルターは部下の問いにこう答えた。
「チューリンゲンの王家に次ぐ名家の当主なのだからな」
「そうだったのですか」
 帝国は皇室の下に所謂藩王と呼ばれる王家が多数存在していた。その他にも知事や執政官等が置かれ非常に複雑で多様な統治形態となっていたのである。
 タンホイザーのオフターディンゲン家はヴァルターの言葉通りチューリンゲンでは王家に次ぐ名門であった。彼の家は中央にも強い力を持ちその発言力は無視できないものがあったのだ。
「その彼がどうしたのだ」
 ヴァルターはあらためて問うた。
「何かあったのは間違いないようだが」
「どうやら彼が率いる海賊であるワルキューレの追跡をはじめたようなのです」
「ワルキューレのか」
 それを聞いてまた眉を顰めさせた。
「何故ワルキューレをだ」
「チューリンゲンが彼等に攻撃を受け壊滅したそうです」
「馬鹿な、有り得ない」
 彼はすぐにそれを否定した。
「ワルキューレというとジークフリート=ヴァンフリートだったな」
「はい」
「彼はあくまで帝国の艦隊とその惑星のみを狙っている。どうしてそれでチューリンゲンなぞを襲うのだ」
「そこまではわかりませんが」
「チューリンゲン王家は皇室に対して最も忠実な王家の一つだった。しかもオフターディンゲン家もだ。それがどうして」
「何かの手違いでしょうか」
「ジークフリートは手違いを起こすような男ではないと聞いているが」
 ヴァルターは自分で言いながらさらにわからなくなっていた。
「それがどうしてだ。まるでわからない」
「ですがそれによりオフターディンゲン卿の奥方であるヴェーヌス様が行方不明になられたそうです」
「そうか」
 ヴァルターはそれを聞いて沈んだ顔になった。
「彼もまた、か」
「オフターディンゲン卿はヴァルター様がワルキューレに捕われたと聞き彼等を警戒しているとのことです」
「またわからないな」
 また眉を顰めさせた。
「ヴァンフリートは武器を持たない者、女子供には手を出さない筈だが」
「それでもそうした情報が入っておりますが」
「わからなくなってきたな。どうやら銀河のあちこちで色々と起こっているらしい」
「はい」
「引き続き情報を収集していく。周囲に帝国軍は」
「あとは帝国領となっている星系だけですが」
「よし、ではその星系を占領していこう。陸戦部隊を降下させよ」
「了解」
 こうして各星系に陸戦部隊が投入された。こうして周囲の帝国領は全てヴァルターのものとなったのであった。一応は第四帝国が奪還した形となった。ヴァルターはすぐに民生を安定させその国力を軍事に回していった。それにより彼は予想よりも一個多い艦隊を手に入れることができたのであった。
「我が軍はこれで四個艦隊となりました」
「うむ」
 彼はザックスの艦橋で武官及び文官達の報告を聞いていた。
「まずは今の本拠地であるフランケンに防衛の為一個艦隊を向ける」
「はい」
「そして残る三個艦隊で帝国軍の攻撃にあたることにする。異存はないか」
「今のところありません」
 部下達はそれに異論はなかった。
「よし」
 ヴァルターはそれを確かめるとすぐに次に指示に移った。
「ではすぐにまた進撃開始だ。帝国軍は今何処にいるか」
「既に四個艦隊がこちらに向かって来ているようですが」
「四個艦隊が」
「はい。どうされますか」
「数のうえでは不利だが」
 彼は考えながら応えた。
「その四つの艦隊の実情が知りたい。一体どのように展開しているか」
「ハッ」
 それを受けて参謀であるフリッツ=コートナーが報告した。
「ではすぐに調査致します」
「頼むぞ。それまで攻撃は控える」
「はい」
「すぐに情報を割り出してくれ。いいな」
「わかりました」
 こうして情報収集及び分析が開始された。その結果帝国軍に関しておおよそのことがわかった。






第二幕〜。
美姫 「今回も面白いわね」
ええっと。あれがあれで……。
美姫 「もしも〜し」
ちょっと待ってくれ。
よ、横文字は少し苦手で・
登場人物や単語の整理をしているから。
美姫 「よ、横文字って……」
うん。よし!
美姫 「いや、もう良いわ。つまるところ、アンタの馬鹿さ加減がよく分かったって事よね」
ひ、酷い言われようだな。
美姫 「いや、言いたくもなるわよ」
シクシク。
美姫 「こんな馬鹿は放っておいて、次回も楽しみにしてますね〜」
ではでは。




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