* 注意書き この物語はファンタジーではなく現代モノです。
その為、中身が微妙にリアルなので銀紙を噛み潰したような感覚を受ける可能性があるのでご注意ください。
『道化は何故笑うのか?』
緑化が進む街中の一つの公園。
小さいとは言い切れず、大きいとも言い切れない中途半端な公園。
そこは普段は井戸端会議に華を咲かせる主婦や、遊んでいる子供達の声で賑わっているはずだった。
だが、今日は違う。
今日はある一人のピエロが公園の中心で演じていた。
上手い下手かはそこでピエロを見ている者達には分からない。
だが、それによって笑いが絶えなかったのは事実だ。
演目も終わり、おひねりも貰ったピエロはいそいそと身支度を整える。
演目が終わって人が居なくなったのでトイレで化粧を落していた。
「なぁ、おっさん」
そんな最中に一人の子供がピエロに声をかけてきた。
まだ化粧も落し終わっておらず話しかけるのはピエロとしてどうかと思ったのだがピエロは子供に向く。
「ん? どうした」
「おっさんはどうしてピエロなんてやってるんだ?」
子供の質問はとても簡単で答えるのがとても難しい。
だが、子供からすれば当然の疑問だろう。
ピエロとは笑われるための存在だ。好き好んでこんな職業に尽きたいとは思えない。
笑わせるならまだ楽しい。そうすれば充実感がある。だが、ピエロとはその逆の笑われるための存在だ。
「ん? なんでそんな事に興味を持つんだ?」
「おっさんの芸は最初の方はすごかった。けどさ、何でこう俺たちが凄いと思ってるところでわざと失敗してるように見えたから」
子供の言葉にピエロは苦笑した。
確かにわざと失敗した。だが、それを観客に分かられてしまってはピエロとして失格だ。
「あぁ〜、芸が下手で悪かったな」
「そういう意味じゃねぇよ。俺以外誰も気付いてなかったし」
「そいつは嬉しいな」
まれに洞察眼に鋭い者がいても可笑しくないかとピエロは笑う。
そしてそんなピエロを子供は不審な目で見る。
「なんでピエロなんてやってるんだ?」
「まずその質問が逆だ。俺はピエロを演じてるんじゃない。元々道化だったからピエロにしかなれなかっただけだ」
「わけわかんねぇぞ?」
ピエロの言葉を幼い子供は理解できなかった。
元々が道化だったという意味はいったい何を指すのだろう?と
「簡単に言うとだな。俺の心が弱かったからだよ」
「心が弱かったらピエロになっちまうのか?」
「んにゃ、それだけじゃない」
「他にもあんのか?」
「おうよ。人間が嫌いでないとダメだ」
「はっ?」
子供はピエロの言葉にキョトンとしていて、その子供にピエロは笑っていた。
心が弱いことと人間が嫌い。
その二つに何か関連性があるのかを理解できなかった。
そもそも人間が嫌いであれば人と接触するピエロを演じるのはおかしい。
わざわざ人の前に出るような事をするのは理にかなわない。
「おかしくねぇ? 人間が嫌いだったら誰とも会わなけりゃいいんじゃねぇか?」
「ん、そうだな。俺は人間が嫌いだ。だけど誰とも会えないのは怖いんだよ」
「はっ? 人間が嫌いな癖に一人ぼっちが嫌なのか?」
「そうだな。一人は寂しい。一人は寒い。一人はつまらない。今思いつく限りでもそんだけある」
「中途半端だな」
「そうだな」
「でもそれだったら誰か信用できる奴が傍に居ればいいんじゃねぇか?」
ピエロが言った言葉に子供は反論する。
人間が嫌いならその中から好きになれる、信頼できる人を作ればいい。
そうかもしれない。
「いや、俺は誰もが怖い。考えてもみろ? 傍に誰かいたら何時裏切られるかわからねぇじゃねぇか」
「そうならない人が傍にいればいいんじゃねぇか?」
「あははっ、坊主。分かってねぇな。人は裏切る生き物だぜ?」
「そんなはずねぇだろ? というか子供扱いすんな!」
子供は子供であるが為に傍にいる人が裏切るとは思っていない。
だが、大人になれば親しかった友人が金の為に裏切る可能性がある。
大人になれば上下関係で裏切る可能性もある。人は何時、何処で裏切られるか分からない。
「蹴りやがったなっ! クソガキ!」
「子供扱いすんな!」
子ども扱いされた子供はピエロに怒りをあらわす。
そんな子供をいなしながらもピエロは子供をからかった。
「それでどこまで話したっけ?」
「裏切られるって所までだ」
二人して息を切らしながら話の方向を修正した。
いい加減、からかいあうのは疲れたようだ。
「おぉ、そうだったな」
「おっさん、年か?」
「痴呆はまだ始まってなかったと思ったがな。まぁいい。裏切られるから俺は人との距離を測る」
「怖がりなのか?」
「そうだな。それでだ。だけど俺は弱いから人が恋しい。誰かに裏切られるのが怖いくせに誰かに傍に居て欲しい」
「不器用だな」
「まぁな。それでだ。裏切られる中でもいっとう辛いのが近い奴からの裏切りだ。坊主にも覚えがあるだろ?
例えば、まぁ、親に何処か連れて行ってやるといわれたけど当日にいけないとか言われたら」
「……まぁ、嫌だ」
その事は誰にでもある。
小さいがそれでもそれは裏切りだ。それよりも重要な事が入って裏切られる事は、期待していたほうには辛い。
「だろうな。だから裏切られてもいいように俺は道化を演じる。
俺の心が痛まないために、俺の心が傷付かないために道化を演じる。
誰かと上辺だけの付き合いなら裏切られても痛みはすくねぇからな」
上辺だけの存在を維持する。
それは辛い事だ。たとえ、本心でこうして欲しいと思っていてもそれを言わない。
本心で嫌だということも上辺だけの付き合いならば付き合わなければならない。
心を押し殺し続けなければ成らない。
「心をずっと押し殺して上辺だけの付き合いをして、嘘の笑顔を浮かべて……これが道化以外の何だ?」
「……」
「俺は自分で自分が道化に成っている事に気付いている。だけどそれでも人との触れ合いが欲しい。
だからピエロになって、自分を隠してそれで人の温もりを求めているんだ」
このピエロは中途半端すぎた。
人の温もりを求める必要が無いほどに心が強ければ道化を演じずにすんだ。
何もかも怖くて誰かに泣きつけるほどに心が弱ければ道化を演じずにすんだ。
どちらにもよる事が出来ず、どちらにもなりきれないからこのピエロは道化になってしまった。
「その涙はおっさんの涙か?」
少年が指しているのはまだ落しきっていない化粧によってつけられたピエロの涙。
笑わせるための化粧の涙は本人の涙。
「いや、違うな。そう決められてるからだ。けど俺の涙かもしれねぇな。
心が寂しさに震えて、それでも誰とも親しくなれなくて。
心を偽って、心を騙して、それが辛くて、でも誰にも相談できなくて。
辛くて、悲しくて、寂しくて流してる涙かもしれねぇな」
本人さえ理解していない。
いや、ピエロは誰よりも理解している。その涙は流せない涙だと。
「誰かに相談しろよ」
「ば〜か。相談できねぇよ。誰かに笑われたらどうする?」
「笑われるのがピエロじゃねぇのか?」
笑われるのはピエロの本質。
本質であるが……そこに隠された本質があってもおかしく無い。
「ちげぇな。本当に笑われたくない部分があって、それを誰にも笑われたくないから笑わせてるんだ。
他の部分で笑わせる事で笑われたくない部分を隠してるんだよ」
本当は誰にも笑われたくない。
けれど、これだけは笑われたくない部分があるからそれを誰にも見せないために笑われる。
矛盾している。だが、それ以上に隠す術は無い。
「笑われたくなくて、誰にも知って欲しく無いからピエロになんのか?」
「俺にとってはそうだな」
辛いのに、それでも隠したくて道化になる。
誰も彼もが怖いから、それでも温もりを求めてしまうから道化になる。
裏切られたくなくて、だから裏切られても痛くないように道化を演じて痛みを軽減する。
「笑ってて辛くないか?」
「笑ってないほうが辛いさ。それにずっと笑ってるから笑顔以外の表情を忘れちまった」
その言葉に子供は驚いた表情をした。
感情を表情を忘れるなど出来るのか? 出来る。人はそれが出来てしまえる。
「忘れられるのか?」
「忘れてちまうもんだよ。幸か不幸か……な」
「なんかよくわかねんねぇけど面白かった」
「おう、俺のようになんなよ? 坊主」
「子ども扱いすんなって何度も言ってるだろ!」
道化は何故笑うのだろうか?
決まっている。笑っていないと何も出来ないからだ。
道化は何故笑うのだろうか?
決まっている。笑っていないと隠しているものに押しつぶされてしまうからだ。
道化は何故笑うのだろうか?
決まっている。笑うことによって寂しさを拭うためだ。
道化は何故笑うのだろうか?
決まっている。本当は流している涙を隠すためだ。
道化は何故泣くのだろうか?
決まっている。世界の無常さと世界があまりにも優しくなさ過ぎるからだ。
道化は何故泣くのだろうか?
決まっている。温もりを欲して、それでも得られぬからだ。
道化は何故泣くのだろうか?
決まっている。弱い自分が嫌いで仕方が無いからだ。
道化は泣く。道化は笑う。
自らの内に隠したモノを誰にも見せず、一人孤独に……
後書き
今回は初のオリジナル。
といってもファンタジーでもなく、戦闘モノでもない現代モノ。
かといって日常を描いているわけでもありませんがね。(苦笑
今回の主人公は無論、今私が連載しているキャラたちとの関連性は一切ありません。
このピエロはあくまでもピエロなだけです。
唯、こういう人種がいるかもしれないという話なだけです。
実際にいるかどうかは別の話ですよ。当たり前ですけどw
オチもヤマもないですしね。
今後、オリジナルを書く機会があるかどうか分かりませんが、その時はでもまた、
オリジナル〜。
美姫 「投稿ありがとうございました」
道化を演じるしかなかったという事か。
美姫 「とあるピエロの少しの本心ってところね」
だな。それじゃあ、今回はこの辺りで。
美姫 「それじゃ〜ね〜」