まどろみの中、恭也は夢をみた。
何処か懐かしい夢を、見たはずもない記憶の夢を
『恭也・・・・、すまねぇ、・・・・・・すまねぇ』
夢の中で目の前の女性が泣いていた。
その女性を恭也は見た記憶がない。
しかし、何故か懐かしく、暖かく感じられる。
そう、まるで美沙斗や琴絵、美影に似た安らげる感覚。
『私の所じゃ、恭也を無事に育てられねぇ。生まれつき霊力の無いお前は親父たちに殺される。よしんば育てることが出来たとしても私の家で育ったらお前は確実にいじめられる。その時、殺される可能性もあるんだ』
女性は自らの不甲斐無さに泣いている。恭也に謝る様に泣いている。
『恭也と二人で生きていければいい。けれど私にはそれが出来ない。恭也の傍にいたいけどいられない』
それはどれほど悲しいことだろう。共にあることを願うのにそれが許されない。共にあることさえ許されない。
『だから、お前を士郎に預ける。一番信頼できるあいつに。恭也の父親であるあいつに預ける。恭也、士郎の下で元気に育ってくれよ?』
女性は泣きながら恭也を地面に置き、手紙を握らせた。
『恭也、憶えてなくてもいい。私の顔を見て気付いてくれなくてもいい。母親だって認めてくれなくてもいい。
けれど、けれど・・・、私は何時も恭也のことを想ってるからな。お前が幸せになってくれることを何時でも願ってるからな。愛してる、恭也・・・・・』
涙雨の降る刻
今朝見た奇妙な夢を思い出しながら、恭也は今日もデスクワークに励んでいた。
そんな所に恭也のところに指令書がきた。大老直筆の・・・・、
「って、お前なんでこんなもんがきてるんだよ!!」
「知るか。内容も見ていないのに分かるはずもないだろう!!」
指令書にいち早く気付いた赤龍によって恭也が問い詰められるが恭也とて分からない。
大老直接の指令など赤龍クラスでも中々に来ない。
大抵そういう指令は内部の裏切り者の抹殺や、敵対組織との単独戦闘など限りなく難しい指令なのだが。
入って間もない恭也にそんな信頼が優先される指令が来るとは思えない。
しかし、その指令書には大老直筆である証拠があった。
「俺だけの指令のようだからな。赤龍見るなよ?」
「わぁ〜ってるって。お前よりもここにいるのが長い俺が見るはずもないだろう?」
最重要指定される指令を他人が見るのは許されない。情報機密は組織内部でも当たり前のようにあるのだ。
恭也は部署から離れ、指令書をあけるとそこには・・・・・・・母親を殺せとの事だった。
大老によって用意された飛行機に乗り、急ぎ日本の某所へと向かった。
パスポートなど様々なものが用意されていたお陰で恭也は難なく、もう一度日本の地を踏むことが出来た。
大老に指定された人物を見つけるのは苦もなかった。その人物の詳細、その日の日課、行動予定などが事細かく書かれていたために、事前に調査する内容はあまりにも少なかった。
かといって恭也は全ての情報を鵜呑みにする事なく調べていた。信じきる事など出来ない。
これが罠である可能性がないわけではないのだ。
細心の注意を払い、目標となる人物を追跡する。
その人物の足運び、周りへの気の配り方、さらにその隠された剣気は凄まじい。
そのような人物は士郎や御神家の者を除いたら恭也は見たことがない。
明らかに恭也よりも腕の持つ者。恭也が闇討ちをかけたとしても勝てる見込みはかなり低い。
しかし、どんなに優れた腕を持っていようとも相手は人だ。
油断する時もある。気を抜く時もある。そこに付け入れば恭也とて勝つ可能性は有る。
勝つ事を念頭に置き、恭也は辛抱強くその人物を追跡する。
だが、その人物が資料とは違う道を歩み始め、人がいない方向へと歩みを向けていくにつれて恭也は嫌な予感がしてきた。
いや、それは最早予感ではなく確信。
自分の存在が相手に知られていると恭也は確信できた。
確信は出来たが、それでもすぐさまに出て行くような真似はしない。正面から挑んで勝つ可能性など今の恭也には限りなく低いのだから。
完全に人気の途絶えた逢魔ヶ刻の森の中。その人物は漸く足を止めた。
「なぁ、何時まで私を追いかけてるつもりだ? いい加減出てきてくんねぇかな?」
その人物の声により、最早姿を現すしかなくなった。
その人物の様子を見ると恭也の位置は知られている可能性が高い。
森の中に身を隠しているとはいえ、場所まで知られていれば分が悪すぎた。
恭也は静かに姿を女性に現すと同時に、女性に襲い掛かった。
奥義乃壱 虎切
出会いがしらに恭也が持つ最長射程の技であり、恭也が奥義の中で薙旋に次いで信頼している抜刀系奥義・虎切を出す。御神流基本技の斬ではなく徹を使って。
「おいおい、話し合いじゃないのかよ!」
女性はさして驚くような様子もなく、恭也の虎切を隠し持っていた刀で迎撃する。
一瞬の鍔迫り合い。
しかし、未だに身体の出来上がっていない恭也では相手がいくら女性とはいえ力勝負には持ち込めない。
奥義乃壱 虎切
今度は左の小太刀での虎切。
だが、恭也は左の小太刀での虎切を女性に向けるのではなく、右の小太刀の峰に向かって当てる。
変形 奥義乃肆 雷徹
虎切からの雷徹への奥義の繋ぎ。恭也が女性に対抗する手段として考え出した技である。
さすがに御神流においての最大の攻撃力を誇る技をまともに受けては女性も厳しい。
刀の芯をずらして、衝撃が緩和されるようにして右斜め後ろに身体を引いた。
女性が簡単に引けたのは無茶な奥義の繋ぎによる威力減衰が原因でもあるだろう。
二人の距離が離れると同時に、陽の加減によって今まで見えていなかった相手の姿が初めて見えた。
「し・・・ろ・・・・う?」
女性は恭也の顔を見るなり呆然と呟いた。
今の恭也は同じ年だったころの士郎と酷似していた。もし士郎だけを知っている人物が恭也を見れば士郎が縮んだと勘違いしてもおかしくはない。
そして、御神流の奥義を受けた事もあってそう思い込んでしまった。
「いやっ、そんなはずねぇ。あいつは死んだ。それに縮むはずがねぇ」
女性は自ら出した答えをすぐに否定した。だが、もう一つの可能性を口に出したくなかった。
認めたくなかった。
けれど、聞きたかった。
敵だとしてもかまわなかった。
ずっと逢いたくて逢いたくて堪らなかった。逢うことが許されなかった彼女の息子の可能性があるのだから。
「・・・・じゃあ、・・・・・じゃあ、まさか恭・・・・也・・・・なのか?」
彼女は愛しい息子の名を呆然としながら口にした。
そう、彼女の名前は天津夏織。恭也の産みの母親。恭也と直接血の繋がる最後の女性。
その事に恭也は頷かなかった。
恭也とて目の前の人物が産みの母親だという事は資料によって随分前に知らされていた。
そして彼女が自分を捨てる経緯も知らされた。
出来るのならば、再会を喜びたい。
しかし、今の恭也は龍の構成員の一人。
そこに私情を挟む事など出来ない。
この任務には家族の命が掛かっているのも同じ。
これによって漸く龍における信頼を獲得できる任務。
彼女を殺して漸く、家族の未来が獲得できる。
自分勝手な理由で母を殺そうとしている。
だからこそ、頷かない事が最大の手向けになると思った。
夏織は息子に殺されたのではなく、何処とも知れない者に殺される。
それが夏織にとって幸せだと恭也は思ったから。
「なぁ、恭也なんだろ? 恭也なんだろ! 分かるんだよ!! 何時もお前のことを想ってたから、何時もお前の幸せを願ってたから!! なぁ、答えてくれよ!!」
夏織の悲痛な叫びでも恭也は頷かなかった。
それほどに想っている人物にどうして名乗り上げることが出来よう?
これから殺さなければならない母に対してどうして名乗り上げることが出来よう?
殺したくない。出来るのならば彼女の抱擁を受けたい。けれど出来ない。
もう、それは出来ない。
(俺は家族を護る為に闇に堕ちる決意した。地獄に堕ちる決意した。鬼にでも修羅にでもなると決意した。だから、彼女の言葉に揺らされるな!!
俺は彼女を殺すんだ。例え、彼女がどれほど俺を想っていてくれようとも。俺の心が彼女と触れ合う事を望もうとも。殺すんだ!!)
「俺は龍の構成員の一人、氷狼だ」
ただ、一言告げた。
彼女にとっても忌むべき名を。
だが、それだけで夏織は気付いてしまった。気付けてしまった。
裏の事情を多少なりとも知っているから、何時も想っていた恭也の考えていることが手に取るように分かった。
恭也は士郎亡き高町家を護る為に自分を殺そうとしていることを。
士郎の息子だからこそ恭也がそう行動する事が容易に想像できた。
その事実に夏織は悲しくなった。
自分よりも育ての母親や、妹を取ったことを。
その為ならば自分を殺してもかまわないと思われたことを。
(当然か・・・・・・。恭也からしたら私は何処とも知れない女。母親ですらない女。だから、躊躇しないんだろうな)
悲しかった。けれど嬉しかった。
自分が愛したもう一人の男、士郎の生き方を歪でありながらも正しく受け継いでいる恭也に、
例え、殺されるのだとしても生涯逢う事の出来ない最愛の息子に逢う事が出来たのだから。
そして、他の誰でもない。最愛の息子に殺される。
自分が母親だと恭也が知らずとも恭也の心の中には永遠に残る。
記憶に残るはずもなかった自分が恭也の中で悲しい記憶とはいえ、ずっと残る。
殺されることで恭也が助かる、恭也が未来を手に入れられる。初めて、恭也のために何か出来る。
それだけでも嬉しかった。例え、自分の命が散ることになろうとも。
「はははっ、そっか。お前は龍の構成員か。士郎の仇か。なら・・・・、殺してやるよ!!」
内心の悲しみと喜びを隠して夏織は恭也に接近した。
もはや彼女の心の中には恭也に殺されることしかない。
幾度となく続く斬戟。
初めての親子の語らい。
それが二人の心に嬉しさを齎す。
例え、それが母を殺す事だとしても、例え、それが息子に殺される事だとしても。
再び、二人は距離を取った。
そして恭也は小太刀を納刀し、自らが最も得意とする技を繰り出そうとする。
自らが最も修練した技を最後に見せることが手向けになると思ったから。
恭也の想いは夏織に通じた。
分かるのだ。その気迫で、その剣気で、その意思のこもった瞳で。
恭也にとっての最高の一撃の下に殺されることを。
奥義乃六 薙旋
抜刀の速度は今までの中で一番速い。
その遠心力のこもった一撃も重い。
恭也の想いを乗せた奥義が夏織に綺麗に入っていく。
意図して動かなかったわけではない。避けられなかったのだ。
恭也が悲しくて、苦しくて、辛くて、何よりも想いを乗せてくれた一撃は夏織がそんな思考を持つ必要すらないくらいに洗練されていたから。
四条の傷跡から命の雫が零れ落ちる。
これから死に逝くのに夏織の顔は笑っている。満足そうに、幸せそうに笑っている。
「なぁ・・・・・・・、恭也・・・・。凄かったぞ・・・・、士郎なんか目じゃない位に・・・・・・、すげぇ技だった」
夏織は嬉しそうに恭也を褒める。
その成長に携わっていないが、それでも恭也のこれまでを見ることが出来た。
死に向かいながらもそれでも自分のことを認めてくれる暖かな夏織の想いに恭也は泣きそうになった。涙が零れ落ちそうになった。
けれどもそれは許されない。自分が殺した相手に涙を向けてはいけない。苦しくても、悲しくても、辛くても涙を見せてはいけない。
彼女の最後の記憶が自分の涙であるなどとさせたくない。
だから、恭也は泣かなかった。
「恭也が・・・・、ここまで・・・成長してくれて・・・・嬉しい。恭也が・・・誰かを・・・護る為に・・・戦って・・くれてること・・・・が嬉しい。
・・・・・・・・そういえば・・・・・、そろそろ・・・誕生日だった・・・よな? ごめんな・・・・、なんにも・・・用意・・・出来てねぇ」
恭也は気付いた。
これが母の優しさか。これが母の温もりか。
桃子からも受け取った。しかし、桃子は護るべき人だ。
だから、受け取りはしてもここまで心に沁みる事などなかった。
だからこそ、恭也は最後にだけでも夏織の為に、夏織の息子として話し合おうと思えた。
「必要ない。母さんと逢う事が出来た。母さんと語らうことが出来た。それだけで十分だ」
恭也の偽りのない本心。
「ははっ、・・・・私の・・・事を・・・・、母さんって・・・・呼んで・・・・くれるのか?」
「当たり前だ。貴女は俺の母親だ。過ごした時間が無くとも、共有する記憶が無くとも貴女は俺にとって偽り無く母親だ」
「あぁ・・・・、本当に・・・嬉しいな。・・・・・呼ばれる事・・・なんて・・・・無かったと・・・・想ったのに」
夏織は笑いながら泣いた。
例え、これが最初で最後だとしても恭也に母と認めてくれたことが嬉しくて、嬉しくて涙が零れた。
「なぁ・・・・、恭也・・・・。この二つ・・・・受け取ってくれ。・・・・・気の・・・効かない・・・誕生日・・・・プレゼント・・・かも・・・・しれないけど・・・・受け取って・・・・欲しい」
夏織が差し出したのは剣士の命とも言える刀。彼女が成人してからずっと共にあり続けた愛刀。そして、紛失したはずの八景。
そんな重い物を恭也は受け取れないと想った。
これほどに重くて、想いが篭っている物をこんなにも親不孝な自分が受け取れるはずがない。
だと言うのに、どうしてそれが嬉しいのだろう? どうして意思と反してその手がその二刀に伸びるのだろうか?
手に掛かる重さは夏織の人生と想いが篭っているかのように、やけに恭也の手には重く感じられた。
けれど、嬉しい。こんなにも重くて、想いの篭ったプレゼントを愛してくれている母から貰えた事が。
(何て、重いんだ。何て、暖かいんだ。俺は・・・・、こんなにも想いの篭った物を渡してくれるほどの母を殺したのか。
俺は・・・・・・、
泣くな! 母さんは俺の泣き顔を望むはずなどない。だから、笑え。苦しいけれど、辛いけれど、それでも笑え。
この胸にある嬉しさと、喜びは偽りではないのだから)
「しかと受け取った。こんなに嬉しい誕生日プレゼントは初めてだ」
その二つを胸に抱き、恭也は優しく、嬉しそうに、泣きそうになりながら笑った。
本当に、心の底から嬉しかった。
ここまで想いの篭ったプレゼントが他にあるだろうか?
「あぁ・・・・、喜んで・・貰えて・・・、こっちも・・・嬉しいよ。
恭也・・・・、辛いかも・・しれないけど・・・・・、苦しい・・・かもしれないけど・・・・、それでも・・・・、例え・・・・、何が・・あっても・・・生きてくれ・・・・。生き抜・・・・いてくれ」
「約束する。俺は死ねない。俺はまだ終われないから」
その言葉に夏織はほっと安心したように笑って息絶えた。
もう、夏織が身体を動かすことは無い。
もう、夏織が恭也に声をかけることは無い。
苦しかった。悲しかった。辛かった。切なかった。
ここまで想ってくれる人を自分の独善の為に殺したのが。
だから恭也は哭いた。
声を上げずに、涙を出さずに、恭也は哭いた。
哭きながら新たな決意を胸に抱いた。
(止まらない。止まれない。止まってたまるか!! 母さんの想いを無駄になどしない。母さんの心を無駄になど出来ない!!
走り続けろ!! 苦しくても、悲しくても、辛くても、切なくても走れ。唯、護る為に、あの笑顔を護る為に、母さんの想いを無駄にしないために走り続けろ!!!
後戻りなどしない! 後悔などしない!!! それこそ、母さんに失礼ではないか!!!!)
苦しみながらも恭也は走る続けることを誓う。
あの笑顔に、あの笑顔の続く未来に、そして母から貰ったこの刀と父の刀に、
その頬に空から冷たい雫が当たる。
まるで恭也の流せない涙を空が代わりに流しているかのように。
まさにその雨は涙雨。
(龍、次は無いと思え!! 次に家族に手を出したならば、次に俺に手を出させるのならばお前たちを滅ぼしてやる!!
今は家族の為にしない。今は母さんの想いがあるからしない。しかし、次は決して無い!!)
脆いはずの心を新たな想いと、決意で固めて恭也は走り続ける。
ただ、護る為に・・・・・、
後書き
涙雨出来上がりました。
ざから「随分と暗くなったな」
今回は恭也が龍で信頼を勝ち取るためには恭也が血の繋がる母を殺してまで忠誠を誓えるっていう図式を示すために仕方なかったんだよ。
ざから「しかし、今までで一番悲しいな」
だろうね。夏織は恭也を捨てたくて捨てたわけじゃないって設定だからね。
ざから「これも大老は分かっていたのか?」
うん、悲しみにくれながらも前に進むことが出来る精神を持つために大老がお膳立てした任務。
悲しいけれど恭也はまた一つ強さを手に入れたんだ。
ざから「決して持たぬほうが良い強さじゃな」
そうだね。
ざから「のぉ、あの奥義の連携はまさか・・・」
そう、その通り。あれは恭也がこれから創る我流奥義の雛形。
あれから恭也は完全なる我流奥義を創る。あれはまさしく夏織との絆の技なんだ。
さて、しんみりもここら辺にして次回は前回で予告したとおりの閑話、高町家の恭也がいない日常です。
後、下にこの話では書けなかった詳細が乗っていますので読んでいただけると嬉しいです。
では、次の話でお会いいたしましょう。
天津夏織
天津退魔流宗家の長女。
天津退魔流は妖魔や鬼などの実体を持つ魔に対して戦ってきた。神咲一灯流は逆に怨霊や悪霊などの実体なき魔と戦ってきたという設定。
両家は仲がよく、親交もあり日本の退魔組織を二分している。
夏織は士郎との大恋愛の末に恭也を身籠る。士郎という御神家でも類稀なる血が入ることを天津家も喜んでいたが、それは恭也が生まれるまでだった。
恭也が生まれ持っての霊力零という生物としては無い現象に天津家は揺れ、恭也を殺そうという行動に出ようとした。
しかし、恭也を士郎に預け、天津とはこれ以後一切関わらないことを条件に恭也は生き延びることを許された。
夏織は天津宗家長女と言うこともあり、秘術などを数多く知っている。それ故に完全に家から離れることが出来ない。
また、天津家を裏切ると言うことは日本の退魔組織全てを、ひいては日本全体を敵に回すことになり、恭也を安全に育てるためには天津を裏切ることが出来なかった。
夏織が士郎から八景を盗んだのは士郎と恭也との絆を忘れないために。何時でも思い出せるために。そして、皆伝した恭也がこの八景を取り戻しに来るという小さな希望を抱いたためである。
捕捉 全ての魔に属していない生物(つまり動物は元より虫から草木にいたる全て)には霊力がある。霊力とは生命力と言ってもいい。
魔に属していない生物には生命力と呼べる霊力があるのでそれが零だという事は生物としてありえない。あってはならない。しかし、恭也は零だった。故に鬼子として扱われることになる。
恭也に霊力が零の理由はこれ以後の話に詳しく書く予定である。また、霊力が零という理由やその意味を大老は知っている。何処までも恭也を狂愛している男である。
うぅぅ、本当に悲しい話だな。
美姫 「本当に。悲しすぎるわね」
恭也に関して、謎めいた部分が発覚してそこは気になるけれど。
美姫 「今後の展開を楽しみにしましょう」
だな。それでは、また次回で。
美姫 「まったね〜」