華やかな都市、香港。
表通りはネオンにより煌めき、人々は活気付いている。あまりにも綺麗だ。
だが、表が綺麗であればあるほどその裏は汚れている、穢れている可能性が高い。
それはこの香港でも同じ、
今日も裏通りから嗅ぎなれた者には芳しい。嗅ぎ慣れぬ者には鼻を覆う臭いが溢れている。
別れを約束された出会い
香港の裏通りに恭也はいた。
傍らに恭也の手によって気絶した龍の構成員を共にしながら。
(これで十九人目)
人を斬ったによってこびり付いた血と脂を拭い、鞘にしまう。
まさか八景がこのように使われることがあるなどと士郎は思わなかっただろう。
高町家から旅立って早二週間。見つけた龍の構成員を片っ端から潰していった。
殺すことなどしない。
そんな事をすれば龍とは敵対してしまう。だからこそ、殺せない。
恭也とて御神を滅ぼした、士郎を殺した組織の構成員が憎い。怨めしい。
出来るのならば気絶しているこの男を斬り殺したい。出来るのならば今まで出会った構成員全てを殺してやりたい。
だが、出来ない。どれだけ憎くても、どれだけ怨めしくてもなのはや、桃子、美由紀のために殺してはいけない。
(まだか?)
恭也は焦っていた。
もう、二週間もたった。下手をすれば高町家に新たな刺客が送られていても不思議ではないのだ。
無論、倒した構成員に連絡を取ってもらえれば一番早い。
しかし、それでは何時切り捨てられるか分からない。向こうから願い出てくるのが一番家族に手が届きにくくなる。
そして、それ以上に人を傷つけるという行為が苦しかった。
一人傷つけるたびに、自分が血に塗れていく。
一太刀振るうごとに、自分の罪が増えていく。
一人傷つけるたびに、一太刀振るうごとに二度と家族と触れ合えないと実感していく。
恭也は気付いていた。もはや自分はあの明るく、暖かく、何よりも優しい家族とかつてのように触れ合えないということを。
それでも恭也は動き続ける。
(決めただろう? 俺は護ると、・・・・・・例え何を捨ててでも、例えどれほどの罪を犯そうとも家族を護ると。
辛いのが何だ、苦しいのが何だ、触れ合えないのは当たり前だ。
俺はあの笑顔と未来を護るために闇に、地獄に落ちると決めたのだから・・・・・・)
一人傷つけるたびに決意を固め、恭也は今日も龍の構成員を狩り続ける。
「あ〜、頭イテェ」
「隊長、早く書類を書き上げてください。唯でさえ、最近辻斬りの性でうちの部署の人員が削られてるんですから」
ここは香港某所、龍の拠点の一室。
「うちからは三人だよな。まったく、頭が痛い。そう思わないか、泊龍?」
「確かに痛いですけど・・・・、他の部署では五人も削られていても正常に機能しているところもあります。赤龍隊長が仕事をしていないだけです」
赤龍と呼ばれた男は泊龍と呼んだ少女の言葉が聞こえないように耳を塞いでいた。子供くさい男である。
「まぁ、そういうなよ。しっかし、証言によると犯人は単独、しかもまだガキときたもんだ。そしてとっておきの情報が小太刀を使っていたこと。鴉が二人に増えた気分だぜ」
「傷口から見て明らかに鴉の関係者です」
鴉。それは御神美沙斗の事だった。彼女は御神家が滅んだときより、香港で活動していた。
最近になって実行犯を龍と知ったのか、かなり過激に構成員が殺されている。
「だが、鴉は殺してる。こいつは殺してない。目的が違うのかもしれないな」
「分かりませんね。接触でもして見なければ」
泊龍の言葉を聞き赤龍は子供のような無邪気な表情をした。
それを見た泊龍は失言だったと気付く。この男は外見に似合わず、やんちゃなのだ。
「なぁ、泊「ダメです」んな硬い事いうなよ。ちょっと様子を見に行くだけだからよ」
「ならせめて、書類を整理してからにしてください」
この男が書類整理を苦手としていることは分かっている。それを引き合いに出されれば諦めると伯龍は思っていたのだが。
「よっしゃ!! ならさっさとやっちまおう!!」
伯龍の予想外だったのは、赤龍が好奇心のためならば普段苦手としているものさえも克服できることだった。
赤龍は辻斬りの犯人と接触するために香港に住む情報屋を回ってやっと犯人がいると思わしき場所を見つけた。
犯人と思わしき人物を見つけたとき、赤龍に電撃が走った。まさしく、運命の出会いともいえるような。
「何のようだ?」
子供とは思えないほどの堅苦しい話し方。その年齢には不釣合いの気迫。そして何よりもその年代と違うのは眼だ。
(なんて、真っ直ぐで決意を秘めた眼だ。こんな眼は見たことがねぇ。)
裏社会では珍しいくらいに真っ直ぐで綺麗な目。あまりにもこの場は似つかわしくない。
(こいつは、違う。鴉とは違う。こいつの目は明らかに護る者の眼だ)
その護る者が何故、龍に接触しているか興味を赤龍は持った。
「龍の手の者って言ったら分かるか?」
赤龍は自分が龍の手の者だと証明するために、手の甲にある刺青を恭也に見せた。
それを見た、恭也の表情は筆舌にしがたい。
嬉しさと、辛さと、苦しさと、安堵の混じった表情。
その表情がさらに赤龍の確信を深めた。
「そうか、それで組織の構成員に手を出した俺を始末にでもきたのか?」
「いや、お前に興味があってな!」
唐突に赤龍は唐突に恭也に向かって手に隠し持っていた銃を向ける。
その事に恭也はさして驚くこともなく、射線からずれた。
発砲音が二、三度するがその全てを射線を見て、恭也は避けた。
「よく避けたな」
「こうなる可能性も考えていた」
(報告しやがった奴、まったくコイツの事を見てなかったな。コイツはガキじゃねぇ。戦士であり、男だ。コイツは本当に面白ぇ)
「言っておくが、これはお前の腕試しだ。仲間に入れるのなら戦力がどれほどあるのか見たいからな」
「スカウトに来たというのか?」
「あぁ、だから、お前の全てを見せてみろ!!」
「言われずとも!!!」
恭也が射線を一定にさせないようにジグザグに走りながら赤龍に接近する。
赤龍は近づけさせまいと数発、銃を撃つが当たらない。だが、その射撃は正確で恭也の肝を冷やさせる。
さすがに危険を感じた恭也は手首を見えない程度に軽く動かし、鋼糸を飛ばす。
赤龍と恭也の距離が限りなく近くなったその時、ついに赤龍の銃が恭也を捉える。
数度の発砲音。
しかし、その弾丸は恭也には当たらない。事前に鋼糸を銃に捲きつけ、照準が恭也にあってもそれを狂わせるようにしていたのだ。
斬
御神流の基礎にして、恭也が今まで最も修練を重ねてきた技を、容赦なく戸惑いなく、赤龍に向けて放つ。
だが、赤龍が取り出したナイフによって恭也の小太刀は受け止められる。
赤龍は接近を許すまいとナイフを力任せに振り、恭也を弾き飛ばす。
両者の胸中に会ったのは驚きだ。
恭也は自分にとって現時点で最も繰り返してきた技が返された。
赤龍は実力を見誤っていたことを。
その後彼らの応酬は似たことを繰り返す。
赤龍の弾丸は恭也を捕らえきることが出来ず、恭也が近づき攻撃を仕掛けようにもナイフによって防がれる。
徹を使おうにも銃によって零距離射撃をされ、貫を使おうにも相手は勘だけで避けてしまう。
両者とも決定的な決め手を欠いていた。
(恐ろしい男だな。これでまだ子供の年齢なんだろ? 御神家ってのはやっぱり化け物の集まりだよ。大老が滅ぼせっていった理由が分かるぜ)
赤龍はこの戦いで恭也が御神の生き残りであることに気が付いた。
以前、何度か戦場で御神の剣士に出会っていたために恭也が御神の剣士であることが分かった。
だが、それでも赤龍は恭也を引き入れるつもりだった。恭也が何を求めているのか、何を護ろうとしているのか知りたいと思ったから。
(くっ、強い。俺が襲った構成員とは段違いの強さだ。基本技だけでは明らかに勝てない)
強いことは分かった。だが、恭也には引けない理由がある。勝たなければならない理由がある。
(アレを使うしかない・・・・・、勝つんだ、ここにはいない家族のために。家族の未来のために、笑顔のために!!!)
それを打破しようと恭也が小太刀を納刀した。
さすがにその行動に赤龍は慌てた。
殺し合いに近いが赤龍に恭也を殺す気はない。
赤龍の慌てていることなど気にせず、恭也は走りながら飛針を銃にだけ狙いをつけ、照準を合わせられないように突進してくる。
赤龍の脳内で警鐘がなる。次に来る技は確実に危険なものだと。
奥義の六 薙旋
一太刀目で相手の銃を弾く、二太刀目でナイフを弾く。三太刀目が赤龍が踏み込んできたことにより肩口で止まってしまう。四太刀目が引き戻された銃によって弾き返された。
奥義を放ったことにより恭也は完全なる無防備状態。
その状態で赤龍に吹き飛ばされる。
慣れない奥義を放ったために、これまで禄に休息を取れなかったために溜まっていた疲労が一気に出てきた。
恭也はその状況に絶望を感じた。死が目の前に迫っている。
(護れない・・・・・・・・、みんなを護れない。俺程度じゃ護れない)
走馬灯のように記憶が駆け巡っていく。御神家のみんなの笑顔が、今まで出会った人たちの笑顔が、そして、なのは、美由紀、桃子の笑顔が・・・・、
今も生きている三人の笑顔。
忘れられもしない。彼女達の笑顔のためならば未来を捨てると決めた。
(違う!! 例え、何があっても護ってみせると誓った!! あの笑顔を失わないために、あの笑顔が続く未来のために誓った!!! 例え何をしてでも護って見せると誓った!!!
諦めるな!! まだ、俺は何も始めていない!!!!!)
「あぁああああああああ!!!!!」
叫び、前を見据えた瞬間、恭也はモノクロの世界にいた。
極限の状況で、自らの意思によって恭也は御神が最強たる由縁の技を会得した。
ゼリーのように重い空気の中、体を動かす。
技術も何もない、しかし、想いだけは十分に乗った斬戟を赤龍の武器に向かって放った。
「なっ!?」
唐突に恭也が消え、気付いた時には赤龍の武器は見事に真っ二つに切れていた。
赤龍は驚愕と歓喜の表情で自らの武器を見て、そして、恭也を見つめた。
(ははははっ、面白ぇ。本当に面白ぇ!! お前は何処まで行くか見せて欲しいなぁ!! 龍に入ったことでお前がどれだけ成長するか知りてぇ。
お前が御神だということで上とかが何か言ってくるかも知れねぇがんな事知ったことか! 俺はお前を見たいぞ!! )
恭也の底力を見て嬉しそうに笑っている赤龍と、頭痛の酷い状態で、虚勢でも戦えることを示した恭也という硬直状態が生じ、戦いの終わりを告げた。
「ふぅ、まいった。お前の覚悟と決意は見せてもらったよ」
戦闘状態とは打って変わったフランクな赤龍に恭也は勝てたことを理解した。
「さて、今度こそ本当にスカウトだ。この俺、赤龍はお前が欲しい」
「ストレートだな・・・・、いいだろう。元々、龍にアピールするために構成員を狩っていたんだからな。俺は恭也・・・・、お前達の手を取ろう。」
その事に赤龍は笑いながら、恭也に手を差し伸べた。赤龍は明らかに御神の者だと分かる恭也に手を差し出した。
恭也も疲れている体に鞭を打ち、その手を握った。憎むべき敵に首をたれるために、家族の笑顔を護るためだけに。
こうして二人は出会った。
近い未来に相棒と呼び合えるほどの人物と。
遠い未来に殺しあうことが約束された人物と。
後書き
ふぅ、漸く書き終わった。
ざから「今回はどちらかというと赤龍視点じゃな。して、赤龍とは誰のことじゃ?」
赤龍は過去との決別で出てきた相棒のこと。こっちの後ろのほうに設定を一応載せておくよ。
ざから「しかし、恭也が龍に入ったのが相棒のお陰とはな」
うん、赤龍が恭也に興味を持ったお陰で恭也は龍に入ったっている設定。
ざから「という事は、次はFLANKERさんのリクエストの赤龍との共闘シーンか?」
いや、まだ氷瀬さんのリクが終わってない。現時点では恭也が入った過程だ。けど、龍に入ったらそこで赤龍が幾ら隠そうとも恭也が不破恭也だって知られる。
だから、恭也はそこでどうやって高町家の安全を獲得したのかを頑張って書く予定。
ざから「たしかに、幾ら犯罪組織とて身元は調べるか」
そゆこと、
ざから「そういえば、恭也は学業の成績がかなり悪かったと思ったが何故中国語を苦もなく話せる?」
うっ、そこはほらこれはIFものだから。
それに恭也って成績が悪いだけでかなり頭はいいと思うんだよね。そうでもなければ美由紀を一人前の剣士に出来ないと思うし。
ざから「言い訳じゃな」
あぁ。もう逃げさせて貰う。
それじゃ本当に次が何時になるか分かりませんが次の話でお会いいたしましょう。
赤龍(21歳、男)
子供のころに龍に拾われて殺しの技術などの戦闘技術を与えられた人物。
この若さにして一部隊を任せられているだけあって実力など様々なものが高い。
得意武器は銃とナイフ。両方を使って遠・近距離を対応できる。
過去との決別では赤龍は28歳ということになります。
この赤龍って男、中々面白いな。
美姫 「確かにね。でも、こうじゃないとわざわざ滅ぼした御神を引き入れないんじゃないかしら」
美沙斗みたいに利用するという手は、初めから龍だと分かっている恭也には通じないし?
美姫 「そうそう。後は、恭也がどうやって龍と交渉したかよね」
戸籍上は士郎が細工したから、そうそうばれないとしても、技とかからばれるか。
美姫 「もしくは、恭也自身が口にするか」
どちらにせよ、どんな展開になるのかは楽しみだね。
美姫 「本当に。次回も楽しみにしてますね〜」
ではでは。