* 注意書き
この作品はとらハ3の数ヵ月後という設定ですが、本編と違うところが多々あります。
それをご理解のうえで呼んでいただけると嬉しいです。
「はぁあああああああ!!!」
「おぉおおおおおおお!!!」
草木も眠る丑三刻、二人の男が殺し合いを演じていた。
風を斬るような斬戟が絶え間なく両者の間で巻き起こる。
風が斬れる度に両方の男達の体から、紅い飛沫が飛ぶ。
「さすがだな。七年前も化け物じみてると思っていたが、今はさらに化け物になっちまいやがった。」
「お前も、あの頃に比べて随分と腕を上げたようだ。」
両者はただ、確認事項のようにお互いを認め合っていた。気があった友人のように、長い間連れ添ってきた親友のように、
過去との決別
授業も終わり、一人高町家へと帰宅した恭也。
この時間はこの家には誰もいないのでお帰りという温かい言葉はない。だが、それもいつもの事と割り切り、恭也は玄関を開けた。
この時間に高町家に住人はいない。よって、恭也が高町家へと帰ってきてする事はまず、郵便受けを見ることだった。
郵便受けを見るとそこに封筒が一通だけ入っていた。
しかし、その封筒には恭也へとしか書かれていなかった。
普通なら高町家の住所なり、差出人が書かれているものだがその封筒には一切書かれていなかった。
自分の名以外に何も書かれていないことを理解した恭也の顔は能面のように何の感情も示していなかった。強いて言うのならば来るときが来たといった物のみだ。
そんな恭也を家族、友人、知人が見たならば恭也と認識が出来ないぐらいに常とはまったく違う表情だった。
恭也は念のために封筒をその場で開けずに自室へと戻り、封を切り、中を読み上げていく。
「やはりか・・・」
封筒の中身を読みきっても恭也の表情は能面から変わることなく呟き、庭に下りた。
そこでマッチをすり手紙を燃やす。煙が小さく上がり、封筒を唯の消し炭に変えていく。
「午前零時に九台桜隅にて待つか・・・」
完全な消し炭となり風に乗って飛んでいく封筒の残骸を見ながら恭也は誰に言うのでもなくつぶやいた。
ただ、その顔は先ほどまでの能面のようなものではなく、何処か嬉しさと悲しさを交えたような表情をしていた。
「変わらんな、あいつも」
ふっと、優しそうに微笑み、その後すぐに能面に戻ってこれから必ず起こる戦闘の準備をし始めた。
午前一時 九台桜隅にて、恭也と中国系と思われる人物が対峙していた。
「久しぶりだな、恭也」
「あぁ、そうだな。お前と組むことも無くなってすでに七年が過ぎたか」
「七年か・・・・、時間ってのは過ぎるのが早いな」
「そうだろうな、その間俺たちは一切連絡を取り合っていなかったのだから特にな」
恭也と男は再会を分かち合うように少しだけ楽しそうに話し合う。
「連絡なんて取れるはずもないだろ? 俺たちの関係は普通の奴らみたいに綺麗な関係じゃないからな」
男は当たり前のように自分達の関係が汚れているものだといった。だからこそ連絡取り合えるはずも無いと。
そして、それに恭也も頷いた。
「あぁ、色々なことをやった。他組織の麻薬ルートの壊滅、組織を裏切った者への制裁、敵対組織との戦争とかばかりだったな」
恭也は平然と懐かしむかのように二人で行ってきたことを語る。
今この会話を恭也の知り合いが聞いたのならば耳を疑っただろう。それほどに普段の恭也からは考えられないことが恭也の口からつむがれた。
「あぁ、そうだよ。ったく、お前のお陰で俺がどれだけ苦労したか。お前が世間一般の綺麗な政治家殺しをしたくなって命令を拒否ったからだぜ」
「何を言う、お前だって敵対組織との戦争では楽しんでいたじゃないか」
「まぁな」
二人は懐かしむように過去を語る。
だが、二人の表情は一致していない。男は楽しそうに、恭也は苦しそうに話していた。
「でも、それもお前がここの監視に任務が移るまでだったな」
「あぁ、この海鳴は世界でも有数の霊地であり、力を持つ者が集まりやすい場所。力を持つ者が多い場所に監視を置くのは定石だろう?」
「あぁ、そうだな。それは“龍”としては正しい判断だ」
男が口にした龍という組織。それは本来恭也にとって忌避すべき単語だ。
世界全体を叉にかける犯罪組織。麻薬の密売、人体実験、暗殺などなど数え上げればきりが無いほどの犯罪を犯している組織。
だが、恭也にとってはそれ以上に意味がある。龍は御神流にテロを行った組織であり、アルバート・クリステラを狙い父である士郎を殺した組織であり、数ヶ月前に行われたクリステラチャリティコンサートを狙った組織。
そう、恭也にとっては憎むべき物であり、血族を家族を殺した怨むべき組織だ。
「今でも覚えてるぜ。お前がガキの頃に単独で龍の構成員を片っ端からブチのめして、自分を龍で雇えっていった時の事はよ」
男はその光景を思い浮かべ楽しそうに、まるで子供のように楽しそうに語る。
「そうだな。だが、おかしいと思わなかったのか? 御神の者が腕を磨くために龍に入ろうとしたことを」
恭也のその言葉に男はさらに笑う。
「はっ、お前を一目見たときからお前が腕を磨くために龍に入ったんじゃないって気付いていたさ」
その言葉に恭也は僅かに眉をひそめた。一緒に任務をしている間に気付かれたのならまだしも、初見で見破られていたとは。
「お前は守るために龍に入った。違うか?」
男が口にしたことを恭也は否定しなかった。この痛いほどの沈黙がそれが答えだと暗に告げていた。
「そうだ、俺は父さんの代わりに家族を守らなければ成らなかった」
「だが、お前一人じゃ限界があったわけだろ?」
「そうだ、父さんが死んで我武者羅に鍛錬していた頃に襲い掛かってきた龍の構成員をなんとか倒せたことで俺の力だけでは無理だと気付いた」
搾り出すように恭也は言葉を吐いた。自分の弱さを嘆くように、自分の不甲斐無さを嘆くように、
「しかし、当時の俺には香港警防隊とは面識がなかったからな。それに人員を裂くだけの価値もなかった」
諦めにも似た感情を示しながら恭也は呟く。
だが、それだけではなかった。もし当時、香港警防隊と接触を取れたのなら龍を捕らえるための餌にされていたかもしれない。
それならば血族の無念も晴らすことが出来るだろう。だが、家族が危険に晒されるようでは意味がなかった。
だからこそ、恭也は香港警防隊とは連絡をとろうとしなかった。
「だから、龍に入って家族に手を出させないようにしたのか」
「あぁ、俺にはそれしかみんなを守るための方法を見つけられなかった」
龍に入れば家族が龍に狙われる可能性がぐっと減る。
従順にしていれば組織自体が高町家を狙う必要がない。後は恭也を妬んだり、怨んだ人物が高町家を襲わないように監視し、必要とあらば殺せばよかった。
元々龍が御神家を崩壊させたのはその戦力の大きさを危惧した事と、御神流を収める人物に恐怖したからだ。
それが手駒に加わるというのならば龍にとって高町家などどうでも良かった。
そして、恭也の叔母である御神美沙斗を嘘の情報で龍に従わせることを恭也が提案したことにより美沙斗の安全も一時的に守られた。
恭也は周りにいる誰よりも強く大人だった。自らを犠牲にし、怨敵である龍に媚び諂う。それが普通の人間なら耐え切れるだろうか?
確実に出来はしないだろう。だが、恭也は家族を護るために耐えきった。
だが、その決意の、その想いの、その行動のなんと悲しいことか。
護るべきものに何も知られることなく護り続ける。自らが血反吐を吐き、血を纏っていながら。
そんな自らの傍らで家族は何も知らずに平穏に過ごしている。普通なら殺意が沸いてもおかしくはない。
だが、恭也はそんな思いを欠片として抱くことなく何よりも大切な、何よりも護りたい家族のために戦ってきた。殺してきた。
「馬鹿だな」
「そんな事は承知していたさ。だが、それでも護りたかったんだ」
「本当に馬鹿だな。何も知らない奴らのために傷ついて、傷つけて、死にそうな目にあって下手したら疎まれるかもしれなんだぞ?」
「あぁ、それも承知していた。だが、傷付くことは恐くない。自らの力を持って他者を傷つけることは恐くない。大切な人達に疎まれることは恐くない。自分が死ぬことは恐くない。
それよりも俺には恐いものがある。
其れは大切な人達が傷付くこと、其れは大切な人達が死ぬこと、其れは大切な人達の心が壊れること、其れは大切な人達に二度と触れ合えないこと
かつて其れを経験したから、もう其れを二度と経験したくない。
傷付くことは痛い、傷付けることは辛い、疎まれるのは嫌だ、死にたくは無い。
しかし、しかしそれで大切な人達が助かるというのなら、護れるというのなら俺は自ら血を纏おう。自ら穢れよう。
其の為に俺は傷付くことを恐れない。其の為に俺は傷つけることを恐れない。其の為に俺は疎まれることを恐れない。其の為に俺は死ぬことを恐れない」
硬く、悲しいまでの決意。
捨ててしまえばもっと楽に生きられただろう。捨ててしまえればもっと楽しく生きていることが出来たかもしれない。
だが、恭也にそれは出来ない。それが捨てられないからこそ、それを護り続けるからこそ恭也は恭也なのだ。
「やっぱりお前の決意は硬いんだな」
男が諦めたように悔しそうに恭也に確認をする。
「あぁ」
「答えはわかってるけど一応聞く。戻ってくる気はないか、恭也? いや、氷狼よ」
龍の内部では称号や役職を示す名があるがそのどれもに龍の名が何処かに付く。しかし、男が恭也の龍での名を氷狼と呼んだ。
それだけの特別待遇。それだけ恭也が龍内部では異端だということだろう。
「戻ってくる気があるのなら俺が上に言ってクリステラコンサートの件はなかった方向にして貰える様に打診してもいい」
「無理だな、龍は俺の家族に手を出した。俺は家族に手を出させないために龍に入ったんだ。その龍が牙をむけたのならば放置できるはずもない」
恭也は男の誘いをきっぱりと断った。話し合う余地など数ヶ月前からすでにないのだ。
「そっか・・・・・、まぁ、そうだよな。そんな事はお前が龍に入ったときから予想できたことなんだからな」
「そうだ。始めから決まっていたことだ」
男はため息を一度つき、顔を引き締める。
そこにいるのは恭也との再会を喜んでいた知人ではない。恭也の敵だ。龍からの刺客だ。
思想の交わることの出来ぬ、もはや取り戻すことの出来ぬ知人であって知人ではない存在。
もう、殺しあうことでしか事態は終わらない。
「では、これより組織を離反した氷狼の始末を開始する」
「ならば俺は家族に手を出そうとしたお前達をこの世界から消すとしよう」
十数分という時間が経過し、その時にはすでに決着が付いていた。
地面に倒れ付しているのは恭也ではなく男のほうだった。その体から夥しいまでの紅黒いものが地面に流れていた。
「ガフッ、さすが・・・、だな」
「お前に迷いが一切なければ結果は変わっていたかもしれんさ」
そう、恭也は言いながら血が流れている左腕を押さえながら男を見ていた。
「バカいうな・・・、最初から・・・お前に敵いっこないなんて・・・・、俺が一番・・分かってたんだからな」
男はさらに吐血する。もう、手術をしようともこの男は助からない。
それは恭也も分かっている。手に残る感触がそうだと告げているのだから。
「恭也・・・、俺が死んだからには・・・・・、龍も本格的に・・・動いてくる・・・・・。負けんなよ」
「あぁ、俺は負けられんからな・・・・・・。さよなら、相棒」
「あぁ・・・・、あばよ。相棒」
恭也はそれだけを言って男の息の根を止めるために小太刀を振るった。
それから一年後、裏の世界を震撼するニュースが報道される。
龍が何者かによって崩壊させられたとそれだけが伝えられた。その何者かを香港警防隊や犯罪組織は躍起になって探したが欠片として見つからなかった。
そしてそれを行った本人は、大学に通いつつも家族を護るために今日も戦い続ける。
人知れず、血を流し、血を纏い、死を振り撒きながら。
後書き
えーと、今回はとらハ3に初挑戦です。といっても随分前に殆んど同じような物を考えていました。
その時は長編にしようとしていたのですが自分のパソコンがなくて・・・・。
ざから「情けないのぉ」
なっ、お前は死蔵したオリキャラ!?
ざから「失礼な、妾はれっきとしたとらハキャラじゃぞ? 正確にはラブちゃのキャラじゃが」
いや、ざからが女性化してSSに出てくるのってかなり稀だし、しかもラブちゃじゃ魔獣としてしか出てこなかったから。君はほぼオリキャラだよ?
ざから「そうじゃな。まぁ、仕方ないのかも知れんな。・・・しかし、今更出してくるとはどういう心算じゃ?」
いや、改めてとらハSSを読んでると唐突に書きたくなって。それに今書いてる連載ものでもこれの事触れてるからね。
ざから「まぁ、そうじゃな。Schwarzes Anormalesの第十二話で出てきた技は間違いなく恭也の技じゃからな。・・・しかし、随分と温い攻撃をするな。恭也が考えた我流奥義はもっとえげつなかったぞ」
そりゃ、今回は殺すわけに使ったわけじゃないから。自分で考えておいてなんだけどあれはかなりえげつない。
ざから「そうじゃな。あれは思い出すだけでも寒気がしてくるわ。ところでお主が挫折したこれの本当の話はどんなのじゃった? 正確に言うと妾の位置づけは?」
本当の話は恭也が何かとトラブルに巻き込まれてそれを解決していくって言う話。んでもってざからの位置づけはヒロイン候補。とらハキャラって魅力的な人が多すぎて。
ざから「優柔不断じゃな」
わかってますよ
ざから「こっちでは戦闘シーンは入れぬのか?」
ライトに読んでもらおうと思って省いたんだ
ざから「の割には重い話よな」
そうなんだよね。元々これを考えた経緯は、ゲームをやった時にどうして恭也たちは龍に狙われることなく高校まで無事に過ごせたのかって思ったから。
何もしなければ明らかに無理だと思い、恭也の性格などから龍に入ったのではないのかと妄想してしまったんだ
ざから「成る程のぉ。恭也は家族想いじゃからな」
そういう訳
ざから「過去編などは考えておらぬのか?」
考えてはいるけどそれだけ。過去編から無理やり連載化にする事も不可能じゃないけどその場合は本編再構成になっちゃう。さすがに今はSchwarzes Anormalesで一杯一杯。
終わったら書いてみたいと思ってる。
ざから「妾が出てくるのはかなり先じゃな」
というよりも書くかどうかも本当に分からない。
ざから「阿呆が!!」
ぶへらっ!! こっちでも殴られるなんて。
ざから「では、当分はSchwarzes Anormalesでな」
そちらの方も宜しくお願いいたします。
悲しいまでに強い決意。
美姫 「こういう展開も面白いわね」
うんうん。
龍時代の恭也というのも興味があるな。
美姫 「本当に。どんな風に周りを騙していたのかしら」
考えると色々と浮かんでくるな。
美姫 「とりあえず、それは置いておいて。投稿ありがとうございます」
ございました。