*注意書き

   これは彼が仮面を被るに至った過程を語るお話ですが、ある意味でリアリティに溢れています。

   ですので、これを読んで欝になる可能性があります。

   そこら辺をご理解の上、お読みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では語るとしよう。

 

 誰もが知りたいと想い、誰もが知りたくないと思ったであろう、

 

 彼が仮面を被るに至った過程を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面へと至る道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼も小さい頃は何処にでもいる普通の人間“だった”。

 

 家も特別裕福ではなかったが、特別貧乏でもなかった。

 

 親がロクデナシだったとか、血が繋がっていないなどという事もなく平凡な家庭だった。

 

 人並みに愛情を注がれ、裕福でもないが貧乏でもない子供時代を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 彼は本当に普通だった。

 特別成績がいいわけでもなく、特別スポーツが出来たわけでもなかった。

 その他に何か特別な事は特になかった。

 自然に笑い、同年代の子供と遊び、普遍的な日常を過ごしてきた。

 

 

 

 けれど彼はたった一つだけ、他とは違った。

 

 

 

 それは彼が自分が嫌いだった事。

 

 彼は自分が嫌いだった。

 弱くてどうしようもない自分が嫌いだった。

 

 

 彼はその頃いじめを受けていたわけではない。

 しかし、気付いてしまったのだ。自分がとてつもなく弱いということを。

 理由などない。本当にふと真理に気づいてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 気付いてしまった彼は弱い自分を何とかしようと必死に動いた。

 読書をして、自分なりに身体を鍛えて、

 

 強くなりたかったわけではない。誰よりも強くなるために力を求めたのではなかった。

 唯、負けないために彼は力を欲した。

 

 不幸だったのは彼は子供ながらに賢しすぎて、他人に頼る事を知らなかった事、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼がその真理に気付いた時よりも少しだけ大きくなった時、彼は死んだ。

 

 彼はその雰囲気などからそれなりに女子に好意を持たれていた。

 それが発端だった。

 

 彼の親友とも呼べる人物は彼を好きになった女子に好意を寄せていた。

 それは子供ながらにかなり真剣な。

 

 

 

 だからこそ、その親友とも呼べた人物は彼を怨んだ。

 彼がいなくなればいいと思った。

 そうすれば好意を寄せている人物が自分にその気持ちを向けてくれるかもしれないという酷く子供な考えで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、彼は死んだ。

 詳細など語る必要はない。彼はこの時、本当に死んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 しかし、何の間違いか彼は息を取り戻した。

 本当にこの時死んでいれば彼は幸せで終われたかもしれない。

 

 

 

 彼は生き返ると共に眼に映る世界の全てが空虚に見えた。

 今まで信じてきた物が音も立てずに崩れ落ちていた。

 

 彼は親友を無くした。

 彼は人を信じる心を無くした。

 彼は人を愛する感情が殺され尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 彼が復帰すると同時に彼の親友だった人物はいなくなった。

 真相など分からない。しかし、離れていったのは事実だ。

 

 

 それだけで彼は噂の的となった。

 子供だからこその想像力によって耳に入る誹謗中傷。

 

 痛かった。

 感情が死んでいてもそれでも痛いと思えた。

 

 だが、反応などすれば格好の的となる事は理解できた。

 だから彼は――笑顔の仮面を付けた。

 

 

 

 

 虚構の笑いを浮かべながら誰かと話をする。

 それは彼にとってとてつもなく空虚だった。

 

 

 その空虚さを無くすためにさらに仮面を深く被り、何も感じないと自分を騙し続けた。

 

 

 他者を騙し続けるにも限界がある。

 だから彼は自らの中に掟を定めた。当初は些細な、本当に些細な自らだけのルール。

 他者との距離を一定にするための簡単なルール。

 

 

 

 

 

 

 彼も進学し、周囲の状況も一変して彼はさらに仮面を被った。

 

 誰にでも嫌われない、けれど深くは入らない紳士的な仮面を、

 

 

 誰かと真剣に話をする事もなく、怒るとしても心の底から何に対しても怒れない。

 日々、読書だけをして何も感動を受けない惰性の日々。

 

 

 それはさらに彼の仮面を強くしていった。

 何も感じない、何も動かない、何も揺れない、そんな心が奥底で作り上げられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 彼も何の因果か周りと関係を持つ事になった。

 

 そこには多種多様な人物達が。

年上もいれば年下も、人として良識に優れている者もいれば、その逆も。

 

 だからこそ、彼はその中で己を隔絶するために仮面を被りなおす日々を送った。

 

 そしてその人物達との距離を明確にする為にさらに掟を契約に変えて彼は過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時からだろう?

 その仮面を被りなおす行動の中で一体どれが本当の自分だったのか分からなくなったのは、

 

 何時からだろう?

 笑っているのに無感動な心になったのは、無表情なのに何処かで笑っている自分がいるようになったのは、

 

 何時からだろう?

 唯、己にしか効力のないモノが契約というものになってしまったのは、

 

 

 

 初めは唯、負けないために力を求めたのに、

 彼は何かに負けて失ってしまった。自分自身を、心を、

 

初めは唯、今までと同じ日常を取り戻すためだったのに、

 彼は律しすぎた。関係を契約という明確なモノで縛ってしまいすぎるぐらいに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当につまらない事だ。

 結節もありきたり、過程も何処にでもありふれている事で彼は終わってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、間違えてはいけない。ここは物語が始まった場所ではない事を………………

 

 

 


後書き

 今回は蛍火の過去。まだ蛍火が蛍火ではなかった頃の彼の過去。

 誰もが知りたいと思い、誰もが知りたくないと思った過去。

 現代社会という歪が生み出してしまった彼。

 些細なすれ違い、些細な行き違い、そう本当に些細な事の積み重ねが彼という物を作り上げてしまった。

 仮面を被る事を常とする存在を……仮面を被らなければ生きていけない存在を…………

 

 この話で分かりにくいでしょうが、彼がレンを気にする理由が語られています。

 レンは人の誹謗中傷によって仮面を被り続けなければならない立場になりかねない状態だったからです。

 エリザやアムリタは精神が出来上がっています。しかし精神が出来上がっていないレンは同じ道を辿りかねない。

 だから、彼はレンを気にしてしまう。

 代償行為なのか、同族憐憫なのか……それは私では図りかねる事です。

 

 

 

 恐らく、誰もが知りたいと思っている蛍火の過去です。

観護(何処までも普通の中から今の蛍火君は生まれたのね)

 あぁ蛍火は、いや、この時はまだ違うか。まぁ、いいや、蛍火はごく普通の世界で死んでそして、化物に生まれ変わった。

そこに至る過程で誰かが気付いてあげれば蛍火は仮面を被る必要がなかったかもしれない。

けど、気づく事も出来ないぐらいに蛍火は仮面を深く被っていたんだ。

ねぇ、この状況を見て気付かない?誰かととても似ている事を。

観護(えっと、ごめん分からないわ)

 あぁ、別にいいよ。これはね、レンの状況と似ているんだ。

 子供でありながら生き残ってしまった。そして、これから誰かが護らなければ誹謗中傷の的となる。

観護(そういえば……そうね。だから蛍火君は自分の過去の境遇と似たレンちゃんに、過去の自分を重ねて甘いのね?)

蛍火「違うな。俺がレンに甘いのはレンが俺のような化物にならないためだ。子供とは無限の可能性がある。

その中にも俺のような化物になる可能性があるからな。もう一人でも生まれればそれは計画の障害になる。それだけだ」

観護(それが過去の自分と重ねているんじゃないの?)

蛍火「断じて違う…………しかし、俺の過去を晒すとは………………」

 ロリコンの烙印押されるよりもマシだろ?

蛍火「いや、まだそちらのほうがマシだ。俺の最も嫌っている過去を晒されるぐらいなら俺はその烙印を甘んじる」

 君は自分が嫌いだからね。

 

 

 

 

 さて、次回予告。

蛍火「今まで幾度か語った俺の弱さ」

 仮面の奥底に仕舞われ語られる事の無かった彼の弱さ。

蛍火「それは逃れられないほどの弱さ」

 それは致命的なまでの彼の弱さ。

蛍火「何も持たなかったが故に表に出てこなかった」

 何も持とうとしなかったが故に表に出てこなかった。

蛍火「人でなかったが故に、表に出てこなかった」

 誰よりも人であるが故に、表に出てこなかった。

蛍火「だが、気付いてしまった」

 しかし、取り戻してしまった。

蛍火「きっとそれは化け物であった俺からすれば滑稽な」

 きっとそれは人である彼にとってとても苦しい。

蛍火「他者からすれば愚かしい」

 彼からすれば嘆かわしい。

蛍火「観客からすれば喜劇」

 役者からすれば悲劇。

蛍火「気付かなければ俺は……」

 取り戻さなければ彼は……

蛍火「気付いてしまった俺の弱さは舞台裏にて語られる」

 取り戻してしまった彼の弱さは舞台中にて語られる。

 

 次回『彼の……』

 最後の欠片の意味に気付いてしまった今、彼は結末の欠片を知る。

 この醜くも残酷な、優しくない世界の結末の欠片を………





蛍火がまだ蛍火になる前のお話。
美姫 「不幸なる偶然の結果、今の蛍火になったのね」
みたいだな。始めは本当に何処にでもあるような出来事だったのかもしれないけれど。
美姫 「周囲を偽るための仮面が、いつしか自身さえも偽っていたのかもね」
だから、自分でもどれが本当の自分か分からなくなったのかもな。
美姫 「さて、今回は蛍火誕生の切っ掛けという事で、番外編的な感じだけれど」
うん、本編の方も気になるな。
美姫 「本編はどうなるのかしらね」
本編も待ってます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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