そんな訳で二人を誘った後に俺は急いで病室に戻ったのだったが、時すでに遅し。
日は昇っていてレンは見事に眼を覚ましていた。そして、部屋に戻った俺を見るなり、
『蛍火のバカ。心配………………した』
と身代わり君2号をぎゅっと抱きしめながら涙をポロポロと流して胸を抉る言葉を口にしてくれました。
正直、死にたかったです。
第八十一話 赤白と薄紫
さて、レンを何とかなだめて機嫌を取って、エリザ、アムリタの二人に無理を言って喫茶店を一人占め。
といっても今日はcloseで来るモノは一人しか居ない。彼女の為だけに開店しているわけではないのだが、何かと便利なのだ、この店は。
防衛結界に、トラップ、ありとあらゆる小細工を詰め込んだ、toy boxがこの店の本当の姿。篭城戦もこの店があれば出来るだろう。尤も、こもることの出来る人数の限界は十人もいればすぐに迎えてしまうのだが。
チリンチリンとドアベルが来客を告げる。そこに居るのは無論、薄紫の髪をした中華服の少女。
「いらっしゃい」
磨いていたグラスを置いてエスカを迎え入れる。喫茶店に来たのが初めてなのか物珍しげに中をキョロキョロとしている。それとも、殺し屋である俺が喫茶店なんて平和なモノを営んでいる事に違和感でも覚えたのか。
どちらでも構わない事か。
「注文は何にしますか?」
「私より、貴方よりも強い人を」
大真面目な顔で言い切るエスカに笑いが堪えられなかった。ギャグとしては中々に。もし、本気で言っているのなら尚の事、笑えることだ。
強さゆえに迫害され、コミュニケーション能力なんぞ皆無だと思っていたが、以外と面白いヤツだ。
「了解です、という訳にもいかないでしょう。ここは喫茶店ですからきちんとしたもの」
「??」
円滑な会話を進めようというのにエスカは心底不思議な表情を俺に向けていた。もしかして、本気で言っていたんでしょうか? 冗談とかじゃなくて、本気で。
…………評価を改めよう。彼女はコミュニケーション能力が乏しい上に、天然だ。
こういう相手には素直に接するしかないのか。一番苦手だというのに。
「甘いものよりも、闘いの方という訳ですか」
「甘い物…………食べていいの?」
「………………えぇ、今作りますね」
「ん、ありがとう」
花が咲くように穏やかに笑うエスカの姿は確かに年頃と呼ぶべきほどに可愛らしい姿だった。
調理場に進む前に鼻歌を歌いながらキョロキョロと見回す姿からは、あの強さはうかがえないほどに、エスカは子供だった。
けど、やばい。ド天然だ、この娘。
ゲームであれば、可愛いキャラクターなのだろうが、現実では疲れるだけだ。大河当たりなら、気が合ったり、笑い飛ばしたり出来るのだろうが、俺には無理だ。主人公属性とかそういうの、俺には備わってないしな〜。無理。
パフェを出して、笑みを浮かべているエスカは、確かに可愛いと言えた。年頃の娘としか言いようがないほどに。
闘争の精霊であるというのに。
さてさて、エスカを伴って王都郊外へときたわけなのですが、肝心の大河は山狩りだった。
まぁ、大河にも色々とあったんだから無理もないとも言える。その気迫は鬼神の如しと言えるほどに強さを求めている。無論、カエデやリコをつれた山狩りや、救世主候補同士の戦闘などなど、多岐に渡っている。
何処に居るのかは何時も見張っているので分かるから早速、式神を。
今の大河は大河に会いたい女性がいるというよりも、試合をしないか? と書いた方がいいだろう。今でも、大河は悔やんでいる。亡くした事を、守れなかったこと、力無い事を。故に今はこれが一番いい。
あぁ、しまった。リコは呼ばないほうがいいな。注意書きしておこう。エスカの正体がばれてしまうかもしれない。
場所は幾らでも壊していい郊外。人通りが滅多に無い場所を選んだとはいえ、こない可能性がない訳ではない。だが、学園の闘技場を選ぶわけにはいかない。学園内というのは何だかんだいって情報漏洩の危険が高い。あそこは、学園長、ルビナス、リコ、ダリア、ダウニーなどといった、戦闘面ではない方で限りなく優秀な人材が揃いもそろっている。そんな彼らのテリトリーの中でこの二人を戦わせるわけにはいかない。
さすがに俺も隠し持っていたい札がある。まぁ、実際の所は、隠しておきたい札は数え切れないほどにあるのだが。
それを思えば、カエデの為に大河と闘技場で戦っていたのは間違いだったかもしれない。本当に、まだまだ未熟という事かorz
召喚に応じてくれた大河は、顔を泥に塗れながら、精悍に歩いていた。威風堂々という言葉が正に相応しい。そんな大河の姿に俺は期待してしまう。この物語を終らせる主人公に相応しい姿になってきている。
努力だけでは足りない、力だけでは足りない、心だけでは足りない。その全てをその身に宿す英雄のみが終らせる事が出来る。大河は、俺が望む英雄の姿に徐々に、徐々にだが確実に近づいている。
「蛍火、もういいのか?」
伺うような視線に俺は横に首をふる。体はダルトと戦った翌日にはすでに全快していたのだが、医者からはまだストップがかけられている。医療技術的に俺の回復力はありえないのだから仕方がないのかもしれない。それに、今戦ったとレンに知られれば、泣かれてしまう。正直、あの娘の涙は非常に胸が痛いのだ。
「私ではなく、彼女です」
俺が紹介した先には無論、大河を注意深く睨みつけるかのような視線で見つめているエスカ。その姿に大河はきょとんとしてしまった。俺の代わりを務めるエスカの腕は細く、指先は水仕事を経験した事がないかのようにキメ細やか、肌も焼けることをしらないかのように白い。
箱入り娘と見ることもできる。実際はその通りでもあるが。
「マジ?」
「はい、マジです。救世主候補ではないですが、戦闘能力の一点だけは救世主候補並ですね」
うん、嘘を言った。エスカの戦闘能力は救世主候補を超えている。状況をうまく使わなければリリィですらあっさりと負ける。召喚器を持たないからといって油断して戦ったら即、お陀仏確定。リコなら勝つだろうが。
俺の言葉を聞き、再度大河はエスカは見るが、何度も首を捻っていた。強そうには見えないのだろう。だが、そんな事を言ったら、リコとかどうなる。あんな明らかにロリ体系なのに、滅茶苦茶強いじゃないか。外見に惑わされてはいけない。
「両者共に、遠慮は無用。存分に戦いあってください」
「名前、聞いてなかったな。俺は、当真大河」
「私は、エスカ。エスカ・ロニア」
二人はお互いを認め合うように笑みを浮かべていた。その笑みは微笑ではなく、肉食獣を思わせるような獰猛な笑みでありながら子供のように純粋でもあった。
やっと見つけた運命の相手を見つめるようにドラマスティックで、殺劇を思わせるほどに寒気が走る笑み。
戦闘開始数分。俺は目の前の光景を見ながら後悔していた。
何、あの化物共。
とりあえず、この数分を脳内リプレイしよう。ついでに素数でも数えて。
戦闘開始直後からエスカはすぐに上空へと飛び上がり、氣弾を大量にばら撒いた。狙いが付けられないのか、大河だけに当たる事はなく、周囲一体に向かって本当にばら撒いている。一撃一撃はそこそこに重い程度。地面は抉れるがすり鉢状になる事はない。当たれば十mぐらい吹き飛ばされるぐらい? 2、3、5、7、11
だが、それが繰り返し吐き出されるとかなり厄介だ。案の定、大河も逃げ遅れたのか何発かその身に受けていた。だが、その中で大河はありえない行動を取った。
剣の状態のトレイターで体を護るようにしながら、エスカ目掛けて駆け出した。13、17、19、23、29、31、37
エスカの氣弾の爆撃は狙いが甘い。だが、それは離れた場合に限り、放出口であるエスカに近づけば、被弾率が洒落にならないほど上がっていき、エスカから打ち出される全ての氣弾をくらう事になる。一発一発は軽めと言ってもそれは今放出している量を纏めたモノと比較した場合だ。その全てをくらってしまえば、いかな大河とて無事ではすまない。無論、俺も。というか俺は絶対にしない。39、41、43、47、49
エスカの技への一般的な対処方法は範囲外へと逃げる事だ。闘争の精霊であろうとも無限に氣を放出し続ける事は出来ない。いつかは確実に限界が来る。その時まで待つのが定石だ。
だというのに、大河はエスカ目掛けて突進し、近づく直前にトレイターをナックルに変化させて殴り飛ばした。
二人して胴体着陸。立ち上がってすぐに不敵な笑みを浮かべていた。
うん、マジで化物だわ。あの二人。
「強ぇな」
「大河も……強いね」
二人して不敵に笑いあう。愛すべき宿敵に出会えた様に、楽しそうに笑みを浮かべている。強さを求めるが故に二人ともお互いの強さを頼もしく感じて笑っているのだろう。
その手に武器を携えて二人は笑う。間違わなくとも簡単に人を殺せる刃と拳を握り締めながら二人は笑う。強いが故に。強さを求めるが故に。
「雄ぉおおおおおおおおおっ!!」
「覇ぁあああああああああっ!!」
声と共に二人が揃って足を踏み出す。小細工など一切持たずに己の武器を振り上げて相手を絶殺する事の出来る距離まで詰める。その武器の違いの為に大河の方が僅かに距離が長い。
剣を振り下ろし、拳が弾く。
剣と拳という武器の差の為に生まれる変則的なインファイト。
拳で戦いながらも真っ向から剣を弾き、隙あらばエスカも氣を纏った脚で大河を狙う。
銀閃の嵐と薄紫の嵐がぶつかり合う。交点では二つの光がぶつかり合い、また別の光を生み出し続ける。
眩いまでの嵐のぶつかり合い。剣が縦横無尽にエスカの末端目掛けて襲い掛かるもその全てが薄紫に包まれた拳によって弾かれる。どんな角度であろうとも、どんな連撃であろうとも全てを薄紫の衣が弾き返す。
エスカを真正面から倒すには、エスカが反応できないほど速い攻撃を繰り出すか、エスカの防御力を超える一撃を叩きつけるかの二つしかない。
存在その物が闘う為に作られているエスカを倒すにはエスカ以上の闘争の化物になるしかない。それほどまでに、闘争の精霊という存在は桁外れなのだ。
だが、きっと大河は闘争の精霊を越えられる。誰よりもその資格がある為に真正面からでも越えてしまう。英雄となる資質を備えているが為に。
何よりも大河は、必殺の一撃をずっと隠したままで居る。それが勝敗を分ける。
剣と拳という圧倒的なリーチ差にエスカは攻撃しあぐねていたが、一方的に攻撃に晒されるだけのようなか弱い存在ではない。
「せぇいっ!」
呼吸と共に裏拳を一閃。袈裟懸けの一閃を弾き飛ばすだけには留まらずに大河の手からトレイターが弾き飛ばされる。
「てやっ、てやっ、てやっ!」
続く拳と脚撃。右前蹴りから、左正拳、体を回転させての胴回し回転蹴り、足を入れ替えての左ローキック、寸頸と流れるようなコンビネーション。始まってしまっては止める事は許されないと思ってしまうほどの連撃。
その連撃を大河も見事にガードして、急所に近い部分には一撃も入れていない。だが、大河の顔は歪んでいた。それもそうだろう。連撃であるはずなのに、あの一撃一撃がゴーレムなどの様な重量級の獣に攻撃されているかと錯覚してしまうほどに重い。俺の様に技術を使用している訳でもなく、純粋に一撃に載せられている力が大きい。だからこそ、大河でも予想外の一撃で顔を歪めてしまう。
「飛べっ!!」
連撃の最後にとばかりに呼気を荒げた声と共にエスカは大河を蹴り上げた。純然たる力でエスカは召喚器によって加護を受けている大河を蹴り上げてしまった。
大河が上がると同時にエスカも上空へと跳び上がる。俺と戦った後で、よくもまぁ上がれるモノだとは思わない。純粋な戦士としての場合ではエスカの空中戦の能力値はとんでもなく高い。魔法にも似た氣を使える為にある程度は自由に跳び回れる。俺との場合は籠を作ってしまった為に飛べなかっただけだ。
空中戦と成っていれば、空中であろうとも一撃の重いエスカに軍配が上がっていた可能性が高い。
空中での追撃がかかる、
「あめぇっ!!」
だが、それよりも早く大河は闘神に愛されているとしか言いようがないほどに体勢を直し、上へと浮き上がるだけだった体を下へと向けて、トレイターをエスカへと突きつけた。
それは反逆の意志。反逆の刃。
「っ!?」
トレイターが光を発して古典的な爆弾に形を変化させる。同時にエスカへと組み付き、地面へ向けて落下し始めた。自爆ともいえるような攻撃。だが、それは確かにエスカを捕らえている。
エスカの戦い方から見て分かるようにエスカは組み技を苦手としている。相手の体重を利用するような弱者の戦い方をする必要がない故に打撃技に偏っている。
組み付かれてしまえば我流で身につけた技は力が乗らずに使えない。誰よりも速すぎて、腕力がありすぎたが故の弊害。
「おらぁあああああっ!!」
盛大な爆煙が上がる。これほどの爆発の中にいては唯の人であれば即死だろう。スライムやスケイルなどの弱い獣でも一撃。そんな爆発を両者同時に身体の内側から浴びた。氣やマナで体をコーティングしているとはいえ内臓まで届いてしまう衝撃は殺しきれない。
もうもうと上がる煙によって二人の姿が確認できない。普通であれば両者ともにノックダウン。救世主候補達であれば、きっと大河たっている姿を想像しただろう。
だが、二人と戦ったことのある俺は…………
「へっ、今のも耐えるかよ」
「自爆技をかけてくるとは…………思わなかった」
二人が立つ。
泥で顔が汚れているというのに二人はやはり笑っている。強者と出会えたが為に。お互いに力を求めるが故に笑っている。だが、ここにきて二人の笑みの質が変化していた。微笑みのように笑うのはエスカ、獰猛に獣のように餓えている笑みを浮かべているのは大河。
その差は、今までの経験。
「そうかもな。けどよ、負ける訳にはもう、いかねぇええんだよっ!!」
トレイターを基本形態へと戻して大河は刃をエスカへと振りかざす。
ヘミングウェイは嘗て言った。『人は負けるようには出来ていない。死ぬようには出来てはいるが、負けはしない』と。
だが、それは正しいのだろうか? 人は負ける。力ある者に、器用な者に、賢しい者に、病に、事故に、災害に、寿命に、運命にあらゆるモノに敗北する。
そして、敗北した先にあるのは喪失。何を失うかはその時々だろう。己の体であったり、時間であったり、努力であったり、大切な人であったり。人は敗北する。敗北して何かを失う。
取り戻せる何かがある敗北は敗北とは言わない。取り返しのつかない何かを失い事こそが敗北。
大河は敗北を味わった。大切な人を失うという、二度と取り返しのつかない敗北を味わった。そんな大河が、決定的な敗北を知らないエスカに負けるはずもない。
再び剣の嵐が吹き荒れる。だが、先ほどよりも更に苛烈な嵐が大河によって呼び起こされる。剣閃は光となるほどの嵐に。それは正しくデュクロスとの戦闘の再現とすら呼べるほどに荒々しい嵐。初めの戦闘とは剣速も軌道も全てが違う。焼き回しとはならない。
「おぉおおおおおおおおおっ!!」
大河の気迫と剣閃にエスカも押され気味となっている。体を亀の様に固めて、氣を体中に巡らせて嵐をやり過ごそうとしている。今の大河が生み出す剣閃の嵐は四方八方からエスカを襲い掛かる。基本の剣術など置き去りにした剣閃。だが、それを行う者が大河ともなると暴力というよりも暴虐となりはてる。
右胴、袈裟、唐竹、切上、刺突とありとあらゆる剣筋が、それ以外の剣筋も混じってエスカの防御を切り裂こうと襲い掛かる。防御の隙間を突くような戦い方ではなく、真っ向からの力勝負。大河の性格を表したとしか言いようがないほどの戦い方。
己の思いを、己の意志を、全て全て刃に込めて叩き込む。
相手の防御も、相手の回避も関係ない、天下無敵の剣。王道にして正道の戦い方。
救世主となりえる者として、申し分ない程の戦い方。俺とは対極の戦い方だ。
そうこうしているうちに、エスカの方に動きが有った。体の防御を薄くして丹田に氣を僅かずつではあるが収束させている。何か大技をするのだろう。大河はその様子に気付いていない。
否、気付いていても気にしていない。何があろうとも真正面から叩き切るのが大河の戦い方。相手の技ごと大河は叩き切る気だ。
「私も……………………負けないっ!! 負けたくないっ!!!!」
心に響くほどの声。心の底からの渇望。敗北は喪失を意味する。敗北を味わった事の無い者であったとしても、強さを持つ者なら理解してしまう。戦いの果てに喪失しか無い事を理解している。敗北が何を意味するかを理解している。
丹田を、否。エスカを中心に氣が周囲に爆発するかのように拡がる。爆発と共に周囲の砂礫が舞い上がる。砂礫と弾きとんだ氣の二つが武器となって大河を襲い掛かる。
「あぁ、エスカもそうだよな。けど、俺はもっと負けられねぇっ!!!」
剣速が更に上がる。砂礫一つ一つ、全てを切り裂かんほどの速度。砂礫どころかマナすら断ち切れよとばかりの気迫。
光となるほどの剣撃は、攻撃に過ぎない剣撃は最強の防御となる。音すら断ち切る刃の前では砂礫などかいくぐることすら叶わない。
「りゃあぁあああああああああっ!!」
舞い上がった砂礫でエスカの姿は確認できない。だが、大河の剣速はエスカが何か行動を起すよりもずっと早く砂礫と切断した。記憶と違わぬ場所にエスカは居るだろう。
「何っ!?」
と思うのは浅はかだった。砂礫を切り裂き、エスカのいた場所を覆っていた砂塵すら切断した先には何もなく、影があるのみ。
上空から降り注ぐ陽光を遮って生じた人の影だけ。
「強いね、大河。けど、これが…………受け切れる?」
上空で手を掲げながらエスカは静止していた。手の平を太陽にむけ、その手の先には紫色の巨大な氣。小さな太陽を生み出したと錯覚しかねないほどの膨大なエネルギーが注ぎ込まれた氣弾。
戦闘開始時にばら撒かれた氣とは一線を隔す氣弾。最初のモノをショットガンと例えるのなら、今の氣弾はミサイル。それ程前に火力が違いすぎる。
見れば、エスカの顔色も悪くなっている。最後の悪あがきとも言うべきか。
氣弾は膨れ上がりすぎて操作性は皆無に等しいだろう。そんなモノは回避すれば何も負傷せずに済む。
「これが私の全力全開。大河………………受け切れる?」
挑発するにはいささか可愛らしい笑み。いたずらっ子のように何かを期待しつつも、自らの勝利を疑っていない純粋な笑み。
そして、大河は。
「あぁ、来いよ。エスカァアアアアアアっ!!!」
エスカと同じように真っ向から受け止めようと、受け止めて切り裂こうと不敵な笑みを浮かべていた。だが、エスカ同様に顔色は悪い。これまでの攻防の疲労が如実に出てきている。
主人公と呼ぶに相応しい選択。これでこそ大河。これでこそこの物語唯一の救世主。だからこそ、お前はこの物語りの本当の主人公なのだろうな。
放たれた氣弾。迎え撃つマナを最大限に充満させたトレイター。
その二つは、ぶつかり合い。
巨大な光を生んだ。
「どうでした?」
「強かった。大河は、私が求める強さを持っていた」
光が収まった後、エスカを回収してホワイトカーパスまで逃げた。まだ、二人が本格的に接触するには速すぎる。だから、回収させてもらった。
勝敗は、今は引き分け。両者共に、エネルギーを使い果たしてぶっ倒れていた。
だが、これで俺が最も強いわけではない。真正面から戦えば俺もこの二人に勝てる自信はない。今の所は経験と邪道という方法で二人に勝っているに過ぎない。邪道は何時か力をつけた正道に打ち滅ぼされる運命にある。
俺も…………目的の為には油断できない。
「それに、格好良かった」
僅かに頬を染めたエスカの姿に俺は面食らってしまう。生娘というよりも世間知らずの童女としか思えない少女が大河に恋をしてしまった。
初めて手に入れた同格の存在。同じ場所に居て、同じ高みを目指すたった一人の存在。
焦がれないはずもない…………か。
「次も戦う」
「舞台は整えますよ。それまで私の言う事を聞いてくださいね」
「大河と戦えるのならそれで、いい」
素直にエスカは頷いた。俺がこれから行う事が罪と血と怨嗟に塗れているとも知らずにエスカは頷いた。
「頑張ってくださいね」
俺は心のうちを隠しながら、表情だけはエスカを祝福した。
役者は揃い、舞台が完成しつつある。開幕の時まで、後………………僅か、
後書き
お久しぶりです。今回これほどに連続投稿したのは、新しい生活環境がネットに繋がっていない為です。その為、次に何時連載を開始できるか分からない状況なのでこうしたしだいです。浩さん、ご迷惑をおかけします。
さて、今回でエスカは白側に参入が確定しました。エスカの幼い感情を利用した蛍火の一人勝ちともいえますw 相変わらず主人公とは思えない黒さw
今回は大河とエスカの勝負は引き分けです。大河はまだまだ成長の余地があるので、これを糧に強くなってもらおうという算段です。無論、作中で蛍火が語っているのは本当で、ガチンコの勝負なら今の所三人は横ばいです。何でもありになると蛍火が有利になってしまいますが。
まだまだ、続きますので大河の成長にはご期待してくださっていいと思います。書ききれるかどうかは自身がありませんが(苦笑
次の話は下手したら夏まで更新できないかもしれませんが、私はこの物語の完結を諦めた訳ではありません。待っていてくださるととても嬉しいです。
では、次話で。
エスカまでも言い含めて駒としたか。
美姫 「言い方が悪いわね」
うっ、それはすまん。だが、事実!
美姫 「にしても、エスカが大河に」
本人が知れば喜ぶだろうな。
美姫 「まあ、今は強くなる事に夢中みたいだけれどね」
いやいや、そこは大河ですから。
美姫 「物語も更に盛り上がっているわね」
ああ。蛍火も覚醒で良いのかな、とにかくパワーアップしたし。
美姫 「大河も驚くぐらいに成長しているしね」
おまけにロベリアたちまで引き込んでましたよ。
美姫 「本当にどうなっていくのかしら」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」