「ぐぅ、はぁはぁはぁはぁ」

 暗闇の中、もがく様な声が聞こえる。辺り一面に撒き散らされた血。赫に満たされた世界

 当たり前だ。この惨状は俺が作り出したのだ。穿ち、斬り裂き、抉り、燃やし、氷付けにして、明滅するほどの電撃を浴びせる。

 そう、理解している。それでは無理な事を。それでは無理な事を。だが、それでも確認したかった。決意したとしてもそれはそれ以外に選びようのない二択のうち一つを選び抜いただけ。可能なら三つ目の選択肢を選びたい。だが、出来ないという事は理解していた。だから、落胆はそれほど大きくない。

 

「ははははっ、そうか、やはり…………無理か」

 

 口に出すまでもなくわかりきっていた事だ。しかし、それでもその一縷の希望にかけたかった。だが、届かない。

 

「そんな愚かな願いを叶えようとする事さえ、許されないのか。……………一体俺は誰に助けを求めればいい?」

 

 答えが返ってこないことは知っている。この全てが敵の世界で、俺の手を拾い上げてくれる人物がいない事など識っている。

 

「やはり、あいつにかけるしかないのか」

 

だからこそ、最悪のシナリオに頼るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十七話 真の覚悟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロの遺跡の調査が終わって早二日。俺は今、保健室のベットに括り付けられていた。死伎を使ったこともあって精密検査にかけられること十回。学園長の検査を十三回受けさせられた。ついでにベリオ、未亜、学園長の三連コンボの説教を受けた。

 俺の怪我は気にする必要はない。すでにシギを使った後に治っていた。当り前だ。俺は三度目のシギを使ってしまったのだから。

 

 だというのにベットからは一歩も動けない状態になってしまっている。入院()から救世主候補達を除いて毎日誰かが来てくれた。お陰で一人になる時間さえもなかった。

 そして何よりも辛いのが食事の時間。箸さえも持たせてくれない徹底振り。重病人じゃないんだからさ。

 

「蛍火、あ〜ん」

 

 そして、箸を握らせてもらえないから当然のように誰かに食べさせられる。その誰かには大抵がレンだった。毎回俺に食事を取らせるための壮絶なジャンケンが開催されるのだが、何故かレンが勝つことが多い。というか今までレンしか勝っていない。どういう偶然が重なればこうなるのだろうか? アレの意思か?

 レンだから危険なことはないだろうと最初は思っていた。あぁ、思っていたというよりも願っていたさ!

 けれど、その願いは容易く破られた。

 

「む?蛍火、もしかして口移しのほうが良かった?」

「いっ、いえ。食べますよ?」

 

 急いで俺はフォークに口を近づけて食べる。最初に拒んだ時は口移しで食べさせられかけた。娘として接してきたのに、そんな事をされるとは思っていなかったし、してほしくなかった。

 

「蛍火、耳かき」

 

 レンが手に持っているのは無論、木の棒。耳あかを落とすための道具。

 

 ベッドの頭の方に腰かけてレンはポンポンと自分の膝を叩いた。それはあれですか、俺に耳かきをしてあげるという事でしょうか? その上で俺はレンに膝枕されないといけないのでしょうか?

 君は娘なのに、何故俺は、そんな恋人チックな事をしないといけないのか心底不思議です。というか凄く恥ずかしいぞ!?

 

「や?」

 

 うわぁ、そんなウルウルとした眼で見上げられるとすごく良心が、良心が痛む。どこでこんな高等テクニックを覚えたというのだ?

 逃げ切れずに結局耳かきをされてしまった。なぜか、レンの耳かきはとても上手かったです。誰かに見られなくて良かった。

 

 

 

 

 さて、俺の近況報告はそれまでにしておいて、今の救世主クラスの面々はというと、特訓していた。

 いや、その言葉すらも生温いかもしれない。必死というのも生温く、死ぬ思いをして、周りから見たら自殺を図っているようにも見えるぐらいに自らを鍛えていた。

 俺にシギを使わせてしまった。止めることが出来なかったことと悔やんで自らの体を酷使しているらしい。

 学園長も、教師も、学園生もそのことを知っているのか救世主クラスを止めることはない。いや、それどころか、救世主クラスの気迫に触発されるように誰もが大河たちに近いような特訓をしていた。

 その行動は学園だけに留まらずに王国全土に移っていった。はっきり言って学園祭を行った後よりも赤側の士気は高い。参ったな。今更嘘ですとか言えないしな。

 

 

 まぁ、どちらにしろそんな事は関係なく、俺は一人、レンの髪を撫でながらのんびりと過ごしていた。看病疲れなのか、俺の膝の上で体を丸めてまるで猫のようにしながら眠っていた。

 

 

「レン、君は今、幸せかい?」

 

 眠っているレンから答えが返ってこない事など百も承知。だが、それでも尋ねずにはいられない。

分かっている。俺がこう尋ねればレンがどう答えるかぐらいは分かっている。自惚れてしまうほどに分かっている。だからこそ……

 

 

俺はこの子を護りたいのだと理解する。この子だけを護りたいのだと理解する。

 この子は俺に俺以外の役割を求めなかった。救世主候補としてでなく、頼れる誰かとしてでもなく、共に戦う仲間としてでもなく、駒としてでもなく、ただ一人、ありのままの俺だけを求めてくれた。それがどれほど救いになっただろうか? たったそれだけの事を……本当の俺は求めていた。

 中身の詰った(偽りの)俺じゃない。伽藍堂(本物)の俺を求めてくれた。

 くだらないかもしれないが、それが俺にとって一番欲しかった。それが繰られた上で埋め込まれた感情であろうとも。

 

 そして、この子は俺の傍にいてくれた。何の見返りも求めずに俺の傍にいてくれた。俺が血に濡れている存在と知らなくともそれがどれだけ俺の許しとなった事か。

 そんなこの子の為に……

 

 

 レンの頭を撫でながら俺は少し考える。この子の為と言いながら、俺は人を殺していいのだろうか? 誰かのためという免罪符を使って人を殺していいのだろうか?

 それは、とてつもなく罪深いことではないだろうか? 誰かのために何かをするというのは美しい行為かもしれない。

 

 誰かを死なせたくないから盗みを働いた、誰かが大切な人を傷つけたから報復としてその人を傷つけた。美談かもしれない。だが、それはその人の為と口にする事で犯した行為を正当化していないだろうか? 犯した行為の免罪符にしていないだろうか?

 

 大切な人の為に人を殺すという行為は……大切な人に責任を押し付けているようで。

 

 俺も中途半端な覚悟だったようだ。ここまで決めていながら俺は誰かのせいにしようとしている。それは許されない。

あぁ、そうだ。俺はこの子の為に殺すんじゃない。この子の為にという綺麗な言葉の為に戦う訳じゃない。そうだろ? だって、俺は一以外の全てを捨てるのだから。だとすれば、俺は俺の為に戦うべきだ。一を助けたいという俺が願う為に、一を護りたいという身勝手な俺の願いの為に行うのだ。

 

 免罪符はいらない。正当化する必要などない。なぜなら俺は……自らこの行為を間違っていると知りながら行うのだから。

 

 

 

 

 

 

 眠ってしまったレンの髪を梳いているとレンが身震いする。ふむ、目を覚ますか?

 

「うにゃ、おはようございます」

「はい、おはようございます」

 

 こうして寝起きのレンを見れるのはあとどれくらいなのだろうか? 訪れる結末までの時間ならばある程度俺でも操れるが、相手が相手だ。予想もつかない方法を使って時計の針を早く進めるのかもしれない。

 

「変な夢見た」

 

 変な夢と言ってレンはしきりに首をひねっていた。その顔にわずかな悲しさがうかがい知れる。だが、それにしては戸惑いが多いような気がする。

 

「木を育ててるの。けど、私は木を育てるために葉っぱをちぎらないとダメなの。けど、葉っぱにはアリとかが一杯いる。アリと一緒に葉っぱを千切って捨てないといけない。アリが凄く、可哀そう」

 

 そういって、レンは己の手を見る。ちぎってしまった葉っぱはもう気には戻れない。その気にいたアリは生きていけない。それがレンにも分かっているのだろう。

 

 しかし、レンがこんな夢を見るとは。俺が傍にいたせいで見やすくなってしまったのか。それともそろそろそういう時期に差し掛かって来たという事か。それとも俺という存在を通して見てしまったのかもしれない。

 可能性などいくらでも語れる。そしてどれが正解であろうとも意味はない。事実のみに意味があるのだ。

 

 

 

 

 

 

「開いていますよ?」

 

悲しくなりすぎてうつむいているレンの頭を撫で、髪を梳きながらのんびりしていると外には三人ほどの気配。学園長、リコ、ルビナスの三人の気配。

 

「失礼します」

 

 三人がそろってここに来るという事は随分と物騒な事になりそうだ。大方、あの時の事を尋問するつもりなのだろう。いや〜、ブチ切れててかなりギリギリな発言、何度も口走ってしまったし? というかよく核心に迫る言葉を吐かなかったと思う。吐いててもおかしくないぐらいにブチ切れたのに。

 

「あぁ〜、学園長。その前にこの子を外に出していいですか? なんか話が物騒になりそうですし」

「構いません。レンさんの教育にもよくないでしょうし」

 

 やっぱり尋問? JINMONですか!? 教育にもよろしくないのでエッチ方面は勘弁してくださいよ? まぁ、リコとルビナスは確実に拒否するだろうからあり得ないけど。

 

「レン、すみませんが、学園長と大切な話があるので遊びに行って来てもらえますか」

「うん」

 

 いつまでも悲しみに沈んだままではいられなかったレンは俺の言いつけを守り、この校舎からも随分と離れた場所まで行ってくれた。少なくとも二、三時間は戻ってこないだろう。

 

「さて、レンは外に行きました。何か用がありましたか?」

「えぇ、ゼロの遺跡での事――いえ、それ以外にも貴方が私達に隠している事全てを話してもらおうと」

 

 俺を厳しいというよりも睨みつけながら学園長が尋問を開始する。しかし、『全部』とは、随分と強欲な話だ。知らない方が幸せな事など世界には五万とあるというのに、これはその最たるモノだ。知っている俺だって知らない方がきっと苦しまずに済んだと理解している。

 これは、あまりのも残酷すぎる。

 

「さて、全部と言われましても、というかゼロの遺跡での事って詳しく何を話せばいいでしょうか?」

 

 とりあえずはすっとボケる。というか、頭に血が上りすぎていて何を口走ったか覚えてませんって白を切ります。彼女たちには踊ってもらうのだから。

 

「まずは貴方の召喚器に関して、リコから聞きましたが随分と形を変えられるようですね。大河くんのトレイターのように」

「切り札です。奇襲にしか使えませんが……戦闘する者としては切り札の一つや二つ隠しているのが当たり前でしょう? お三方もそれぐらいは理解していると思いますが?」

「………………それで納得しておきましょう」

 

 どれだけ親しくなろうとも戦闘において切り札を隠し持つのは当たり前だ。どこぞの剣士はどれだけ親しくなろうとも剣をしている事自体隠しているなんて事もしている。それを考えると切り札の一つや二つ隠していても全く不思議ではない。

 それに、いつ敵対するか分からないのに持っていないのも可笑しな話だ。味方に裏切られるなんて戦争では当たり前。その時、対処できるように隠し事をしておくのは当然。大河達のように今が発展途上で力を出し惜しみなく戦わなければならないのなら仕方がないのかもしれないが、元々力があるのなら隠していても不思議は全くない。

 

 まぁ、これについては学園長もジャブにすらならない挨拶程度にしか考えていないだろう。

 

「あのドラゴンの事。ドラゴンと戦っている時に蛍火さんが口に出した事についてです」

「ドラゴンについては語れますね。あのドラゴンは実は知りあいでして、いやまぁ、仲が良かったものですから。それが破滅に染まってしまったのでかなり頭にきていました。ぶっちゃけ戦闘中の事は覚えていません」

「「「…………」」」

 

 三人にとんでもなく胡散臭そうな目で見られた。というか、『嘘ついてるだろ? 吐けやゴラァ』的な眼で睨まれてます。いやいや女性がそんな眼をしない方がいいと本気で思うんですけど?

 

「リコに確認したのだけど、ドラゴンが破滅になるなんて事はリコが生まれてから一度もなかったらしい。分かるでしょ、この意味が?」

 

 ルビナスの確認するような口調。言われなくても理解している。救世主戦争のほぼ最初からという随分と時の長い間起こり得なかった事象が目の前で起きてしまったのだから。まぁ、原因は知っているんですけどね? ドラゴンの成り立ちを知っているのなら何が原因とかすぐに分かるし。

 

「はい、ですが前例がない事が起きただけですよね? 今回では初の男性救世主候補が生まれた。そんなイレギュラーがあるんですから、イレギュラーはイレギュラーを呼ぶとも言います。まぁ、これからはドラゴンも気をつけないという事ですね」

「蛍火君、貴方はドラゴンが破滅になった理由を知っているのではないのですか?」

「全然」

「蛍火さんはドラゴンに語りかけるというよりも他の何かに語りかけていたようですが、それは誰ですか?」

「記憶にございません」

「貴方は何に気付いたのかしら?」

「記憶にございません」

 

 何度も玉虫色の回答をする。俺は政治家になったわけじゃないんだけど、この返答の仕方ってすごく楽だわ〜。言う側になって初めて分かるこの言葉のありがたみだねっ!現在がシリアスだという事は分かっているんですけどね? けどはっきりとうざいとしか言いようがない。

 語る気持ちは欠片もありはしない。語れるはずもない事ばかりだ。

 

 

「答えたくないと?」

 

 額に青筋を浮かべ、眉をひそめ、眉間にしわを寄せながら学園長は俺に詰め寄る。そこまで必死になる理由は理解できる。ただし、理解できても話せない事はある。

 

「というか記憶にない事ばかり聞かれても困ります」

 

 本当はばっちり記憶に残ってますけどねっ♪ いや、なんというか性格が少しというかかなり軽くなった気がする。あれだな、きっと自らがやりたい事と、しなければならない事を知ったから。今までは本当にしたい事なんて見つからないまま過ごしてきたから……その反動だろう。たぶん。確証は持てないんだがな〜。

 

 

「貴方は一体何なの? 未来の事を知っていたり、私の事を知っていたり、リコの事を知っていたり」

「…………ルビナス……」

 

 ルビナスがそう発言した途端、リコがルビナスをとても頭の足りない可哀相な子を見るような目線でルビナスを見ていた。まぁ、確かに唐突に言ったら、頭のおかしい子に見えるわな。

 

「ちょっ、リコ!? そんな眼で私を見ないでよ!?」

「いえ、千年も眠っていたのですから、頭が大変な事になっていても仕方ないですね。えぇ、仕方ないです」

 

 同情に満ちた目でリコは慈愛を込めてルビナスを見つめていた。うわぁ、すごく心にダメージを負いそうな目で…………リコ、やっぱり俺のせいで性格悪くなってない?

 原作と随分と違いすぎますよ?

 

「うわぁああんっ! ミュリエル、リコにきちんと教えてあげてっ!」

「リコ。ルビナスの頭が少しおかしいのは千年前からです。今はそんな事おいておいて、蛍火君の尋問が先です」

「そんな事!?」

 

 学園長、えぐいです。えげつないです。自分が説明したらリコにルビナスを見ていた時と同じような眼で見られるのが嫌だからって、そんな話の逸らし方したら人としてどうかと思いますよ? 俺が言うのもすごくなんですが。

 

「というか、学園長。いつの間にリコさんに話したんですか?」

「ルビナスが話を通していてくれたようです」

「えぇ、その部分に関して頭は大丈夫だったようです」

 

 リコ、やっぱり恐ろしいよ! 変わりすぎだよ、性格っ! 

 

「まぁ、千年越しの再開ができてよかったです。お祝い申し上げますよ」

「ありがとうございます、蛍火君。ご祝儀はいろんなことを話してくれると嬉しいですね」

 

 あぁ、やっぱり話は反らせないか。このまま居座られるのも困るしな。なんかレンが最近、微妙に嫉妬深くなってきたみたいで、困るんだよね。

 となってもこのままでは自白剤なんか打たれかねない。打たれても全然平気なのだが……あの創造料理(レンの初料理)を目の前に出されたりなんかしたらこっちの命が危ない。あれは生きながらにして地獄を味わう事になる。人間という領域を六割はみ出している俺が今、食ったりなんかしたら、気絶もできずに消化するまで地獄を味わう可能性がすごく高い。あれだけは…………いくら俺でも二度と味わいたくない。

 

 かといって情報を漏らすわけにはいかないしな。生涯を通して俺は今回の事を隠し通すと決めてしまっている。これは誰かに話していいモノではないし、誰かに話した所で解決にならないモノ。というか話すだけ無駄な代物だ。

 普通に聞いたらあまりにも壮大すぎて信じられない。俺もこの痣の本当の意味に気付けたから、レンの存在の意味に気付けたから、大河と俺にどんな役割が課せられているか知ったからやっと納得できる話だ。

 どれも知らない人間に話したとしても荒唐無稽な話にしかならない。

 

「というか、エルダーアークに聞いた方が早いんじゃないですか?」

「…………何で私の召喚器の名前まで知ってるのよ。まぁ、いいけど。千年前にも色々聞いたわ。けど答えられない事もあった。そこを貴方は知っているのじゃないかと思ってるの」

「最古の花嫁ですら知らないのなら私も知りませんよ」

「召喚器は何? 救世主って何? 何故破滅は千年周期でしか現れないの? 答えてくれないと自白剤打つわよ?」

 

 ちょっ、脅迫!? ルビナスさん、自白剤は尋問において美しくないと思いますっ! 俺だって使った事無いよ? 爪をはいだりとか、五寸釘を打ち付けたりは普通にしたけどさ。後、水責めとかした事もあるけど、薬は使った事ないですっ!!

 ルビナスの眼が語っている。本気でやるぞって眼で語っている。ついでに、学園長もリコもルビナスを咎めるような眼をしていない。というか推奨している!?

 

「はぁ、トレイターに聞いたらどうですか? 私も詳しくは知らないですけど、アレが一番の情報を握っているらしいです」

「? 何故そこでトレイターが出てくるのですか?」

「マスターの召喚器…………」

「初の男性救世主の持つ武器。あれがそもそものイレギュラーです。当真を使って聞いてみたらどうでしょうか? アッチの方が情報は正確ですし、私のは憶測ですから」

 

 うん、嘘です。そもそものイレギュラーは別の所にある。それにどうせ今は神が全ての召喚器の監視している。大したことは語れない。

 ただ、トレイターが色々と情報を握っているのは嘘ではない。原作ではトレイターが真実を語っていた。だから、召喚器の中(観護は召喚器の亜種、とうか別モノ?)では最も情報を知っているだろう。

 

「それは未来の情報なのね?」

「……ルビナス…………」

 

 リコの眼がまだこの子おかしい事いってるよって眼をしている。うん、リコ。君は強くなったね。たぶん、強くなっちゃいけない方向に。

 いい加減、ルビナスの事が可哀そうになってきた。ナナシは嫌いだけど、ルビナスはまだ嫌いじゃないし。

 

「蛍火くんっ!! いい加減、リコに教えて!」

 

 なんかそんな涙眼で見られると顔がナナシでもすっごくゾクゾクしてくるんだけど? 具体的にはもっと泣かせたい?

 まぁ、いい加減にしておこう。さすがにこれで印象が悪くなったら――すでに印象は最悪かもしれないが――よろしくないし助け船を出そう。

 

「まぁ、未来から来てしまったというのは事実だと思いますよ。どれぐらい先の未来か、誰の子供か、とかは今は語りませんけど」

「本当……なのですか?」

「証拠はすでにないですけどね」

 

 うん、そもそも未来から来たなんて嘘っぱちだし。証拠がないのは当たり前なんですけどね? 

 しかし、リコ。ルビナスの言葉は疑って俺の言葉は何故すんなり信じてくれるでしょう? 疑ってるんじゃなかったっけ?

 

「やけにすんなり信じますね」

「後ろでミュリエルがこっそり本当だと教えてくれました」

 

 ニコリと花が咲くように恐ろしい事をのたまってくれました。ちょっ、実は全然俺の発言信じられてない!? というか千年前の主は信じないのに千年前の仲間の事は信じるのは何で!?

 

「リコ曰く、ルビナスはライバルで、私は安パイだからだそうです」

「………………なるほど」

 

 酷く納得がいくような、いかないような。たぶん、からかっていたんだろうなぁ〜。

 

「蛍火君、事態は変わっているを貴方は言った。だとしたら協力すべく情報はなるべく出してください」

「事態が変わっているから偽の情報を掴ませるかもしれないですから、この情報は私の中からも消しておきますよ。役に立たないでしょうし」

 

 役に立たないのは本当の事だ。知っていたところでどうしようもないのだ。この情報は。

 簡単に言えば、明日隕石が落ちてきます。ミサイルでも迎撃できません。ぶっちゃけ人類は滅亡ですとか言われてもどうしようもないのと同じレベルなのだ。本当は少し違うが。

 

 尋問対象をトレイターに移したお陰で彼女たちも諦めてくれた。というか俺よりもトレイターの方が情報を引き出しやすいと思ったのだろう。

 後で三人が話しているのを聞いたが、結局トレイターから情報は得られなかったらしい。まぁ、当り前なのですが?

 

 

 

 


後書き

 

 色々と送れてしまって申し訳ないです。リアルが……

 言い訳はこれまでにしておいて今話のモロモロについて♪

 

 今回の蛍火の覚悟。誰かの為に何かをするのじゃなくて自分の為に何かをするという覚悟。作中でもあるように、私は誰かに為にという言葉があまり好きでは有りません。勿忘草の花言葉なんで大嫌いです。

 誰かの為というのはある意味で逃げ言葉だと思っています。誰かの為に何かをしました。それは逆を返せば……その誰かがいなかったらその行動をしなかったという事になってしまいます。

 確かに誰かの為に動けるというのは美談でしょう。物語としては美しく映えるとは思います。勿忘草の逸話など正しくそうでしょう。ですが、私はそこにその願いをした、その願いを口にした人物達の身勝手さを感じてしまいます。

 そして、何よりも行動を起すのなら誰かではなく己に責を持って欲しい。誰かの為に罪を犯したとして、それを口にした途端にとても見苦しいものに成り代わってしまうのが私はとても嫌いです。

 

 誰かの為というのはある意味で責任の所在が自分ではなく誰かにあると言っているといっても過言ではありません。だからこそ、私は誰かの為という言葉を好みません。

 

 だからこそ、彼には責任を己に持って欲しかった。誰かの為という責任をその誰かに押し付けるのではなく、これから起す全ての行動を自分が考え、自分がしたいと思って、自分の為にやったと思って欲しい。

 誰よりもレンを大切に思っている彼に見苦しくあってほしくないという私の願いなのですがね。

 

 誰かの為という部分に対する解釈を人によっては受け入れられないでしょう。とても極端な言い分ですからね。

 

 

 では、次の話でお会いいたしましょう。




戦いその後。レンも積極的になったものだ。
美姫 「結構、前から積極的だったけれどね」
まあな。さて、今回は蛍火を尋問して何か情報を吐かせるかと思ったけれど。
美姫 「やっぱり蛍火の方が上手なのかしらね」
まあ、必要なカードを握っているのが蛍火の方だしな。
仮に提示されたとしても、その真偽をまた判断できないし。
美姫 「トレイターの方も流石にまだ沈黙しているしね」
さてさて、次回はどうなるのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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