「今日から、ナナシさんが救世主クラスに入ります」
朝早くから呼び出されて開口一番にそれだった。
「学園長。それだけを伝えに?」
「えぇ、ですから今日の講義はすみませんが休講していただこうと」
「……えぇ、分かってます」
この後、一悶着あるのだ。
さすがに講義なんぞしていられない。それに……曲りなりとも救世主クラスの俺がナナシを迎えることをしなければならない。
ナナシとこれから一緒に飯を食うのか……毒でも盛ってやろうか?
えぇ、ナナシには微妙に腹が立ってますよ! あんなモノ食わせてくれて!
「そうですか」
「疲れてますね」
了承と受け取った俺を見て、少し疲れたようなため息を吐いていた。
徹夜だったし辛いのだろう。それに……ナナシの件か。
「えぇ、色々と」
「失敗しました?」
「……起せませんでしたよ。何故か」
それは無論、ルビナスのことだろう。復活の呪文を唱えたのに失敗したから余計に。
「どうやって起せばいいか知っていますね」
「えぇ、知ってます――――が教えませんよ」
「……でしたね。では、彼女はこの戦いの中で起きますか?」
「確実に」
俺からルビナスが起きるという事の確証を得て学園長は嬉しそうなため息を付いていた。
さすがに一人では辛いモノがあるのだろう。
それにこの世界では今はまだ迷い子に近いのだから。
リコとかいるけど気付いてないから意味ないし。
「では、ナナシさんの事をそれまで頼みますよ」
「大河が勝手にやりますよ。それに彼女はあれで強い」
「仮にもルビナスですからね」
第六十八話 褐色の救世主
翌日、朝の教室で扉が勢いよく開く。
「皆さ〜ん、おはよ〜ございます〜。って、蛍火君以外、元気ないわね〜」
ダリアの言葉通り、俺はいつも通りなのだが、他の面々は何処か疲れた顔をしており、全員が眠そうに目を細めていた。
「どっした〜って……乳は元気だねぇ」
「眠い」
「ふああ……っ! も、申し訳ありません神様」
「ござる……ござる…………Zzzzz…………」
「…………」
まぁ、慣れないうちは徹夜は辛いだろう。しかし、カエデよ。ござる、ござるという寝言はどうかと思うぞ?
というか忍者だろ。お前。一日徹夜ぐらいでどうして眠そうにしている?
「まあ、仕方ないですよ。あの騒ぎからまだ三時間と経っていないんですから」
あの後、闘技場の片付けや細かな報告などで、俺たちが解放されたのは空が明るみ始めた頃だった。
故に、皆眠たそうに目を擦ったり、あくびを噛み殺したりしている。
「でも、蛍火君は平気そうよね〜」
「私は寝なくても平気ですから」
そんな返事にダリアはニコニコとしている。そういえば夜更かしはお肌に悪いとか昨日言っていた気がするのだが。
ダリアはちゃんと寝たのだろうか?
「今日くらい、救世主クラスは休講にしてくれたってよぉ」
とは大河の意見だが、まぁ昨晩のことを考えればわからんでもない。とは言え、そうもいかないのが世の中なのだ。
ちなみにセルのほうはというと自主休講している。救世主クラスと傭兵科の違いだろう。
「駄目よん、今日は皆さんに大事なお知らせがあるんですからぁ」
「大事なお知らせ?」
未亜は不思議そうな声を上げる。まぁ、ダリアからの大事な知らせなんてよほどのことだしな。
だが、他のメンバーはというと
「……早く済ませて。それが終わったら寮に帰って寝る」
もはや限界に近いリリィ。
「あ、俺も〜」
普段では考えられない言葉遣いの大河。いい意見だとばかりリリィに便乗していた。
「私……いえ、何でもありません」
眠そうにしながらもベリオは意見を言うが、まぁ、眠そうだし寝たいんだよな?
「拙者も……拙者も……Zzzzzz」
恐らくは大河と同じといっているのだろう。
これが『大河と一緒の布団で拙者も』とかいうニュアンスが含まれていると面白いのに。
途中から寝ていたが。カエデ、お前って里一番の使い手だよな?
「…………」
リコは沈黙を保っている。いや、寝息も立てずに寝ていただけだった。
そしてそんな彼らを無視してダリアが宣言した。
「なんと! 今日は新しいお友達を紹介しま〜す」
「えっ!?」
ダリアの爆弾宣言に、まともな反応をしたのは未亜だけだった。他のメンバーはと言うと、
「あっそ……」
「良かったわねぇ……」
「はい、まったくです……」
「めでたい……めでたい……Zzzzz…………」
「…………っ!?」
他のメンバーは寝ぼけていた。まともな反応ではない。
いや、唯一リコだけがまともな反応をした。爆弾発言で起きたようだ。
赤の書が介入していない救世主候補とは確実に白の書経由という事になる。
そうでないとしても……この世界に招かれてもいないのに着たという事は相当な実力になる。
まぁ、確かに。アレは大層な実力なんだがな。
「なっ、何だってぇ!?」
最初に反応したのは、大河だった。大声を上げ、それに反応したかのように他の寝ぼけていたメンバーも目を覚ます。
「まさか転入生!?」
「また見つかったのでござるか!?」
「そんな……リコ!?」
「し、知らない」
全員が、一瞬で目が覚めた。俺と未亜は最初から目を覚ましていたが、
「はてさて、一体誰なのやら」
答えは知っているのだが、まぁ、ここは合わせるほうがいいだろう。
「それは、会ってからのお楽しみ〜♪」
ふむ、この後は選抜試験か。
少し、動いておくか……。
「みんな〜、拍手の準備はいいかな〜? それでは、入ってらっしゃ〜い♪」
ダリアがそう宣言した瞬間、なぜか大河は背筋を震わせていた。大河、残念だけどその予感は正解だ。
「失礼しま〜す、ですの〜」
「……あに?」
その声は、少なくとも大河にとってみれば、とてつもなく聞きたくない声だったのだろう。
「幻聴か……よし、幻聴だな」
小声ながらも勝手に自己完結する大河。だが残念な事に幾ら現実を否定しても目の前の光景は変わらない。
「わたし〜、今日から皆さんと一緒にお勉強する事になりました〜……」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………あ」
「……嫌な予感的中」
他のメンバーは無言。未亜は、あ、のみのコメント。大河は現実逃避のために明後日の方向を見ている。
「……はっ!? そこにいるのはダーリン!?」
「わざとらしーーーーーい!」
これが、ナナシの台詞に対する大河の感想だった。まぁ、確かにわからないでもない。
何しろ、教室の入り口から大河のいる席は丸見えなのだ。というよりも救世主クラスの者しかいないのだからすぐに分かるだろう。
となると、ナナシの台詞はわざとなのだろう。いや、ナナシだからこそ本気なのかもしれない。
いや、ダリアに仕込まれた? だとしたら何という最高の助言!
ダリア、GJ!
親指を立ててダリアに向かって笑っていたらしっかりと返してくれた。
ふむ、もしかして……色々と場を引っ掻き回すのを勉強しようと思えばマリーよりもダリアの下で修行すればよかったか?
「まさか、まさままさかっ! 同じクラスだなんて〜!これは運命ですの〜、ちょぉびっくりですの〜」
「ん〜! ナナシ感激〜! きゃい〜ん、ダ〜リ〜ン♪」
「離せ〜!!!」
心底嬉しそうに抱きつくナナシを大河は微妙に困った顔で何とか引き剥がそうとしていた。
そこでふと眼が合う。
「…………」
「…………」
ナナシと見詰め合う。
俺を見るナナシの表情が徐々に青くなっていって、白くなっていく。
褐色のはずなのに、何故か白いと思えるほどに顔色が悪く。
睨み返そう。
「けっ、蛍火ちゃんですのーーーーー!?!?!?!」
……とたんに体を震わせ、机の下に隠れてしまった。
机の下に隠れるといっても丸見えなのだが……
「……蛍火、お前一体コイツに何したんだよ?」
あからさまに俺を見て怯えているナナシの様子がさすがに怖かったのか大河の質問。
……怯える事は結構したなぁ〜。
「もっ、もう手足を逆にされて一日ず〜〜〜〜っと放って置かれるのは嫌ですのーーーーーーーーー!!!」
泣きべそをかいて、頭の上のリボンがへたっとしおれて震えていた。
あぁ、そういえばそんな事もしたな。最初の方の軽いお仕置きだから思いっきり忘れてたわ。
「そんな事したのかよ?」
「あんな毒物、ナナシは食べられないDeathのーーーーー!!」
大声を張り上げて体をガクガクと震わせているナナシを心配して大河がこっそりと聞いてくる。
「毒物って何よ?」
「以前、レンが作ったイチコロ料理です」
「確かに、あんなもん食ったらDeathするわな」
あれのお陰で死にかけたんだからな! 正しくイチコロだったわ!
まぁ、責任ぐらいはとらしてもこれぐらいは罰はあたらんだろ。
「ダーリンの幻影石を使って、落とし穴に落とされたりとか、竹やりが降ってきたりとか、油が落ちてきて火の玉が飛んでくるのも嫌ですのーーーーーー!!!!!!」
「……蛍火」
大河の何やってくれてるんじゃワラァ! てな感じの視線は究極無視。
やったけど、俺がしたという証拠なぞ残していない。
「ひ〜〜〜〜〜ん!! ダーリンと一緒だからって蛍火ちゃんのこと忘れてたですのーーーーーーーーー!!!!!!」
「どういうことッスか学園長! ちゃんと説明してくれるんでしょうねぇ!?」
学園長室に飛び込み、最初に大声で講義を開始したのは大河だった。
先ほど、取り乱したナナシの一件は皆、記憶の片隅に捨てて、ナナシがどうして救世主クラスに入るのかを追究していた。
俺とナナシのことに関してはスルー。見事にスルーだった。
大河の言い分も最もだろう。
確かに、事情を知らなければ納得のいかないところもあるな。
そもそも、新しい仲間がナナシとは、幾らなんでも、である。真実はどうあれ、ナナシはゾンビと思われているのだから。
それが仲間になると言うのは、形はどうあれ大河たちが受け入れるとは考えにくい。それに対する学園長の返答は、
「どういうことかしら? ちゃんと説明はあるでしょうね?」
非常に簡素で冷たいものだった。ってか、学園長の表情が厳しい表情をしている。
「聞いているのはこっちです!」
「授業時間中にクラス全員でここに押しかけてなんて……集団サボタージュは厳罰ですよ?」
「ぐ…………」
どうやら口の言い合いではミュリエルの方が分があるようだ。
俺の場合は当てはまらない。だってまず授業を取ってないし。その上休講届けは出してるし。
大河に向けられていた視線が俺とダリアに向けられる。
どうして何も説明しなかったのかと眼が言っていた。
そして、俺は、恐らくダリアもこう眼で答えた。
『面倒くさい』と。
それだけで分かったのか、学園長は深いため息を吐いていた。
部下に恵まれないっすね、学園長。
「大河……代わるわ」
「リリィ?」
冷静さを欠いた大河を、リリィが押しとどめる――――ように周りには見える。
だが、大河の肩を持ったリリィの手は震えまくっており、しかもあろうことか大河の方に食い込みまくっている。
どうやら冷静そうに見えて、滅茶苦茶怒っているらしい。
さすがだな、リリィ。
「お義母様……いえ、シアフィールド学園長、質問があります」
「本来なら許可しないのですが……言ってごらんなさい、リリィ・シアフィールド」
気のせいか、母娘の間に見えない火花が散ったような気がした。いや、たぶんだが気のせいではないと思う。
「本日、救世主クラスに転入生が入ったと、ダリア先生より聞き及びました」
「そう……」
「その転入生は、同じ救世主クラスの当真大河君と知り合いであるということも知りました」
「知り合いがいるのは心強いわ。大河君、彼女を助けてあげてね」
ダリアからの報告で知っているだろうに。
「話はこれからです……彼女は、実は……」
「学園地下に生息するアンデッドであり、生前の記憶どころか、名前すら覚えていない……というところかしら?」
「知ってるなら、どうしてっ!」
「リリィっ!」
その学園長の余裕の態度に、ついにリリィの怒りが決壊した。慌ててベリオが止めようとするが、リリィはまったく止まらない。
「よりにもよってアンデッドに世界の運命を委ねる気なんですか!?
死者に生者を助けることが出来るとでも思っているのですかっ!?」
「お、おい……」
大河もまたリリィを止めようとする。これまでのリリィなら考えられない行動だ。しかし、それでも言っていいことと悪いことがある。
死者だからこそ出来ることもある。
「……現在、王国に未曾有の危機が迫りつつあるのは皆も感じていますね?」
「……お義母様?」
だが、それでもミュリエルは、それの冷静で冷徹な仮面を崩さない。そこに、自分の娘の複雑な感情すらも考慮していない。
「先日の、全滅した村のことといい、他にも異常な事件が各地で連続して発生しています」
「全てに……破滅が関与している、と学園長先生はお考えですか?」
「そう考えるのが自然と思います」
「……」
ベリオの問いに、学園長は簡素にそう答えた。確かに、そう考えるのが自然だろう。
今までの異常なほどの異形たちの活発な動きや、異常なほどの局地的な自然災害。
ここ数百年無かった事だ。ならば、破滅が原因と考えるのがまったくもって自然な事なのである。
……最も、自然災害はどう考えてもダウニー達では制御できないのでそこに関しては白のせいではない。
破滅が関わっているというのは事実だが。
そもそも原因の一端である俺が言ったところで仕方ないだろう。というか原因の一端じゃなくて元凶?
「王国の警備隊や軍隊は、それらの解決の為に国中に散らばって活動しています。
しかし、事件の発生はそれを上回る速度で広がりつつあります。
そしてあなた達にも先日出動依頼があったように、我がフローリア学園にも学生の早期動員命令が出ています」
「早期動員命令?」
未亜が不思議そうな表情で呟く。少なくとも、その言葉には不穏な響きしかないのだが。
「その実力が正規隊員と同水準であれば、卒業を待たずして王国の各機関に臨時補給要員として派遣しろと言う命令です」
ふむ、士気が上がったとしてもそれに伴う実力が備わらなければ意味のないことだったな。
まぁ、こればっかりは手が出しようもない。俺には全てを救うなどという目的もないし、そういう契約でもない。
それに意味を失った俺ではな。
「それで? その早期動員命令と、アンデッドが救世主クラスに入ることと、なんの関係があるんですか?」
ある程度冷静さを取り戻したリリィが再びミュリエルに問いかける。とは言え、その表情は非常に硬い。
「我が校は、既に相当数の学生を派遣していますが、まだ事態の沈静化には至っていません。
また、王室からさらなる人材の派遣要求が来ています」
「いつの間に…………」
大河が呆然としたように呟く。学園祭というお祭りの後で気づかなかったのだろう。
実は参加出来なかった学科もあったのだ。
全員出そうと思ったんだが、復興の事を考えるとどうしても動かないといけない学科の者もいたからな。
「このままでは早晩、初期過程就学中の生徒まで動員せざる得なくなるでしょう」
「初期過程の生徒を? そんな……」
現状の事実にベリオは悲しそうなに呟いた。もっとも、だからと言って現実を変えることなど出来ない。
「例えそうだとしても、この学園は元々は王家のもの。私に王室の命令を拒む権利はありません」
学園長は悔しそうに返した。
千年前と同じ光景を見ていることが預かっている子供達が死に急ぐことになるのを止めることの出来ない自分の無力さを悔やんでいる。
「そんな……」
「出せと命令されれば、例え死地へ送り出すことと分かっていても学生達を軍へと送らねばならないのです」
現実とは、かくも厳しい。大河達が好む好まざるとに関係なく、世界は突き進んでいく――――俺が知る方向へ。
俺が理解している方向へ進んでいる。到達すべき場所に向かっている。
止められる者等、最初からいない。
「……本当にそんな事をなさるおつもりですか?」
厳しい表情で学園長を睨みながらリリィが訊ねる。そんな事、してほしくない。それがリリィの本音だ。
だが、先程も言ったとおり現実はいつも非情だ。
「先程も言った通り、私に選択権はありません」
そう、それは例え俺であったとしても無理だろう。まぁ、俺が提案すればお前一人でやって来いといわれかねないが。
「学園長先生……」
「ならば、その破滅の広げる死の翼の元で、
私に出来る事は……まだ戦う術を知らない幼い弟妹達を守る事の出来る強い兄妹達を送り出して、彼らを守ってもらうことだけ」
それは暗に守る為に死んで来いというモノだ。
幼い者を残すために年経た者を死地に送る。
生存率は違うだろうが……そこに差異はあるのだろうか?
「……お義母様」
「でも……どうしてそれが彼女なんですか?」
未亜がどうしても納得のいかないという表情で訊ねる。
確かに、先程までの学園長の話は確かに真実だが、だからと言ってナナシを救世主クラスに入れる事と直結しない。
「昨夜の1件を見て決めました」
「……あれだけで?」
ナナシが昨夜に起こした事象。俺からみれば必然だが見えていなかった者にとっては奇跡以外の何物でもないだろう。
「彼女は、自らと同じ、不死者に対して非常に特異な能力の持ち主です。
これは使い方によってはあなた達も凌駕する力かもしれませんよ?」
確かにそうだ。錬金術は、ルビナスが目覚めたとすれば現状の救世主候補を容易く上回るだろう。
大河はどうか分からないが。
「そ、それは確かにそうかもしれぬでござるが……」
「学園長先生は、彼女を死霊術者とお考えですか?」
「……かもしれないわね」
肯定も否定もしていない。
いやはや、まだ切り札は隠しておきたいのかね?
「それでしたら彼女に相応しいのは……魔術師クラスでは?」
確かに、ベリオの言う通り死霊術者というものは形はどうあれ魔術師だ。なら本来は魔術師クラスに入れるのが正解である。
まぁ、それを言ったらベリオも使っている魔法も死霊術の一部なのだが。
「彼女はアンデッドなのですよ? そんなクラスで彼女が1人でいて上手く働けますか?」
そんな特異な存在を人間が許容できるはずがない。人間は自分とは違うものを排斥するものだ。欲望のはけ口とするものだ。
ナナシが救世主クラス以外に行ったのなればどうなるか想像もできない。それ以前にそうなる可能性は皆無だが。
「それは……」
「彼女のようなイレギュラーを受け入れられる集団は、あなたたち救世主クラスしかないと思っているわ」
まぁ、俺という恐怖の対象でしかないものを認めている救世主クラスがナナシという戦力を入れるに相応しいだろう。
「これは依頼ではありません、指示です。彼女をあなた達のクラスに迎え入れること。
そして、みんなで力を合わせて破滅と戦う事――――いいわね?」
「…………」
誰も何も答えない。まぁ、当然だろう。こんなの、誰も答えれるとは思えない。俺は別に反論する気もないし。
「返事は?」
「できません」
誰よりも早くリリィは小さく否定の言葉を出した。
肯定の言葉が出るよりも早く、リリィは否定した。
誰よりも救世する事に意味を見出しているから。
「…………」
「こんな……やっぱり……承伏できませんっ!」
明確な否定の意思。もっとも、それは当たり前の事だった。なぜなら、リリィのアイデンティティにも関る事なのだから。
幾ら柔らかくなったとはいえ、救世主とはリリィにとって神聖なものだから。
「我々は救世主候補生として一番過酷な任務に就く部隊です。その為の訓練だって積んできました。
実力のない仲間と一緒では、足を引っ張られて共倒れの可能性もあります!」
「あくまでも反対というの?」
「…………」
リリィと学園長の間に再び火花が飛び散る。なんと言うか、普段の彼女達の仲からは考えられない超展開?
いや、まぁ、こうなるとは知っていたが、見ると知っているとではかくも違うものだ。
「納得が出来ません」
「他のみんなは?」
学園長が他のメンバーを見る。
「…………」
リコは相変わらず無反応。もしかしたら、あれがルビナスであると心のほうが分かっているのかもしれない。
「……私は…………別にかまわないですけど」
そう言っているものの、未亜の態度は積極的ではない。
「確かに……リリィ殿の言われる事は一理ある……かと」
カエデは消極的に反対。
「確かに……実力も分からない相手に背中を預けるのは怖くもあります」
ベリオは明確な反対。しかし、実力が分かれば許容できると揚げ足を取られるぞ。
というか、この中で実力が周りに知れ渡っていない俺とリコという二人がいて。
現在も爆発的に進化中の大河がいる時点でそれって無意味なんじゃ?
「蛍火君はどうなのですか?」
全員の視線が集まる。おいおい、そんなに見つめるなよ。俺に決定権はないはずだぞ。
「別にどちらでも。足手まといならなければそれでいいです。まぁ、ナナシさんが足手まといになる可能性は低そうですけどな」
彼女が足手まといになるなどありえない。
「……分かりました。そうまで言うなら、彼女の実力をみんなに見てもらいましょう」
と、突然ミュリエルがそう提案した。その提案に意外そうな表情を作る一同。
「実力って……どうやって?」
「あの〜、そろそろお話終わりましたかぁ?」
空気を読まないのか、それまで黙っていたナナシが声を出す。だが、誰もナナシの問いかけに答えない。
と言うより、答えることが出来ない。
「誰か代表を選びなさい」
「それって……」
「救世主資格試験を行います。それなら異存はないわね?」
「…………望むところです」
ミュリエルの提案にリリィが賛同する。ってか滅茶苦茶殺る気満々である。
なにやら、瞳の奥に暗い炎が灯っているように見えるのだが……まぁ、問題ないだろう。結末はすでに知っているのだから。
ちなみに、救世主資格試験を行う事になった当の本人はと言うと、
「はえ?」
間抜けな声を上げるだけであった。
しっかし、学園長もいじわるだね。
初めからどうやってもナナシが負けない舞台を仕上げるなんて。
後書き
さて、やっと仲間になったナナシ。
まぁ、原作通りに当たり前のように反対されるわけですが……
実はこのからくりってえげつないんですよね。
だって、勝負をする限りナナシはほぼ絶対といっていいほどに負けないんですから。
しかもルビナスに変わらなくてもという負けないという仕組み。
さすがミュリエル。
このからくり、読者の方は分かると思います。原作でも私はこの部分を読んでミュリエルが何をしてでもナナシを入れようとしているのが分かりましたから。
ナナシと蛍火のちょっとした話もありましたが、蛍火は結構ナナシが嫌いです。
いや、だってあんなイチコロ料理を食べるはめになった大本ですし?
観護(やっとナナシが仲間になったわね。ちょっと一悶着あったけど)
一悶着で済むのかどうか謎だがな。
観護(……そうね。それで、ミュリエルが立てた策って?)
次回だ。
観護(でないと切った意味が分からないわね)
おぉ、よくわかってらっしゃる。その通りだ。
観護(はぁ、まぁいいわ。今回は原作にだいたい沿ってるしさっさと次回予告)
次回、ナナシとリリィの戦い。熱くなるかはリリィ次第。
では、次話でお会いいたしましょう。
蛍火、さすがにやり過ぎじゃ。
美姫 「まあ、それだけ蛍火にとっては嫌な出来事だったのね」
いや、もう充分以上に仕返ししてないか。
美姫 「どうかしら。ともあれ、次回は試験ね」
どうなるのかな。
美姫 「次回も待っています」
ではでは。