何の捻りもない告白の後の断り。

 それによって誰もが想定できていなかったのだろうか?

 その為に会場は妙な静けさに満ちていた。

 

 あぁ、だが本当に誰も気付いていなかったのだろうか?

 俺はこうなったら確実に断るということを……

 

 

 

 

 

 

 

第六十四話 変わらぬ関係

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も言葉を発しない中、やはり俺は断る理由を告げねばならないだろう。

 

 

「何時か、こんな日が来るだろうと分かっていました」

 

 会場がさらに静まり返る。俺の言っている意味が理解できないのは仕方ないな。

 

「私に好意を寄せている六人のうち、最初に告白してくるのは貴女だというのは分かっていました」

 

 会場がざわめく。内容は聞き取ることは出来ない。

 俺は知っていた。こうなる事を……この企画があった時点で……

 レンが参加すると思ってなかったから逃げきるつもりでいたんだけどな〜。

 

「どうして……」

 

 メリッサが呆然と言葉を呟く。知られていないとでも本当に思っていたのか?

 

「これまでの彼方達の行動を見て気付かないのは本当の鈍感です。私だってさすがにあれだけやられれば気付きます」

 

 ついでに言うとその六人の好意がどういうものから派生しているかも。

メリッサは憧れと尊敬。マリーは恐怖と好奇心。未亜は大河との重ね合わせ。リリィは尊敬と親愛。

エリザとアムリタは助けられたことによる生存本能の刺激。

 それぐらいは分かる。

 

「気付いてたのならどうして教えてくれなかったの!!?

「どうやって言えばいいのですか? 貴女は私が好きですかと確認すればよかったのですか?」

 

 そんなもの関係が気まずくなるだけだ。

 壊す必要があるとでも言うのか?

 

「その気持ちに応える答えを持ち合わせていない私に?」

 

 その好意を向けられていたとしても、それに気付いていたとしてもどうやって応えろというのだ?

明確な答えを持ち合わせていない俺はそのまだ伝えられていない想いにどう答えればいい?

 

「ごめん」

「謝罪は結構です。それで貴女の告白に対する返事はNoです。

例えそれが貴族の令嬢だとしても、戦友だとしても、一時期師匠として支持を受けていた方だとしても、

私の被保護者であったとしても。誰に対してもその好意に対する応えはNoです」

 

 そう、本来はレンであったとしても俺はその好意を受け取れない。受け取ってはいけない。

 けれど、あの娘の答えだけは引き伸ばしてしまった。嬉しかったからだろうな。

 

「どうして!? 私に何か悪いところでもあるの?」

「いえ、貴女は本当に魅力的な女性です。私に好意を向けているのがもったいないくらいに。」

 

 本当に俺なんかを好きにならなければ誰だって虜に出来ただろう。俺でなければ。

 

「じゃあ」

 

 メリッサの期待を込めた声。しかし、その思い答えることはできない。

 

「無理です。一つ聞きますが、私の居場所って何処にあると思います?」

 

 俺の質問にメリッサははてなを浮かべる。会場全ても同様だ。この質問の意味は理解できないだろう。

 

「救世主クラス?」

「いえ、調理場でも喫茶店でも、学園長室でもこの学園でもない。私の居場所は戦場です」

 

 そう、それこそが俺の居場所。何処にも居場所がないわけではなかった。俺の居場所は戦場。

 もう俺にはそこにしか居場所がなくなってしまった。表に出てきてしまった為に、死伎を人前で使ってしまった為に、

 

「貴女の知っている戦場、あなたの知らない戦場。

ここにいる誰かが知っている戦場、ここにいる誰もが知らない戦場。それが私の居場所です」

「もし……もしそうだとしても私の告白を断る理由にならないよ!!

 

 それが成るのだ。それが本当に断る理由でもあるし、建前でもある。

 

「聞きますが、私が戦場に行くたびにその心配をして、

戦いが始まれば私が死なないことを祈り、私が戦場から戻ってくることを祈り続けることが出来ますか?」

 

 そう、俺とその思いを結ぶとはそういうことだ。この戦いが終わるまではそれ延々と繰り返さなければいけない。

祈りの届かない神に対して祈り続けなければ成らない。

 

 本来ならレンにもそんな事はして欲しくなかった。

 

「耐え切れますか? その事に」

「私にとっては今も同じ。蛍火君と恋人なってもそれは変わらない」

 

 うーん。そう言えばそうか。メリッサにとっては今までそれほど変わらないよな。

これじゃ諦めさせる理由にはならないか。

 

「それにね。この戦争が終わる頃にはもしかしたら私は死んでいるかもしれませんよ?

刹那の幸せと引き換えに長きに渡る喪失感を得るつもりですか?」

「それは他の人も同じでしょ? 他にも戦う人も同じ」

 

 違うんだよな。俺は他の奴と違って異端だから、俺と他の奴の戦場に出る数が違う。

 救世主候補として、学園長の諜報員として、白の主として、そして俺自身として、

 最低でも俺は四種の戦場を抱えている。

 

「メリッサさんは。いえ、他の人もかもしれませんが貴方達は私の立場というものを理解していない。

 私はね。下手したら一人で破滅の軍勢と戦わなければならない可能性も有る」

「そんな事、ないよ」

「いいえ。知っているでしょう? キマイラ相手に塵すら残さず消滅させることが出来る技を。

敗戦が色濃くなったのなら私は殿を勤めてそれを連発しなければならない」

 

 それは確実な地獄の光景だろう。

地面はガラス状になり、大気は冷え切り、大気が帯電し、空気は限りなく薄く、光を曲げるほどの重力がのしかかる。

 それはありえる光景なのだ。俺ならば作り出せる光景なのだ。

 

 といっても死伎は都合上五度しか使え無い事になっているのだが、

 

 まぁ、王国側がそうなる前に全て終わらせる気だ。

 

「どうして、そこまで未来に希望を持てないの?」

「あなた方を絶望させたくないから」

 

 それは唯の建前だ。俺は誰とも付き合えない。

その精神が、その生き方が、その存在のあり方が誰かと寄り添うように出来ていないのだ。

 

 それ以上にこの物語りの結末が……許すはずも無い。

 

「それに、私は今この戦いのことで忙しい。誰かと付き合うとかそういうのは枠の外のことです」

 

 白の主として、救世主候補として、学園長の直属の隠密として俺はかなり忙しい。後、喫茶店の経営者としてとか。

 一番大事なのがレンの保護者なのだが……保護者だよな、俺?

 娘にキスされる保護者って保護者っていうのか?

 

 

 

「じゃあ、この戦いが終わったら蛍火君は考えてくれるって事だよね?」

 

 うーん。まだ諦めきれないか。まだ、切れるんだけどこれってある意味諸刃なんだよな。まぁ、切るしかないか。

 

「考えはしますけど、そこでも貴女は耐え切れないと思いますよ?

あの伎を持つ私は平和な世界にとっていらない、いえ。邪魔な存在なんです。

 今は破滅という明確な敵がいるからいい。けれど破滅がいなくなったら私の力は恐怖しか呼ばない。

そうなったら確実に排斥されますね。

 人と触れ合うことも出来ない山奥で暮らし続けなければ成らない。平和な世界に大きすぎる力は災いしか呼ばないんです。

 私の居場所が戦場であるのはそういうことでもあるのです。平穏な生活を送るには戦争のある世界しかない」

 

 そう、英雄は平和が確定した世界に必要ない。

議長が、クレアが、学園長が幾ら努力しようとも俺は排斥されるだろう。この大きすぎる、意味のない力故に。

 誰もが想像できただろう。俺は平和な世界に必要とされないことが。

 

「なら、なら私は、蛍火君が何の心配もなく暮らせるように努力する!!

蛍火君が戦うのをがんばってる間、私は蛍火君が静かに人の中で暮らせるように努力する!!」

 

 メリッサは諦めていなかった。その努力は報われないかもしれないのに。

諦めれば楽になれるのにそれでもメリッサは俺を諦めていなかった。

 

 

 

 赤の力は恐ろしい。理論や理屈では赤の力は、他人の心は折ることは出来ない。それは分かっていたことなのにな。

 歴代の白の主が赤の主に必ずといっていいほど負けていたことで分かっていたはずなのにな。

 

「今は返事がなくてもいい。でも、この戦いが終わって蛍火君が平穏に暮らせることが約束されたなら、

私の告白にもう一度向き合ってくれる?」

 

 ここまで言われて、断ったのなら俺は確実に悪役だろう。

まぁ、悪役なのだが。折れない心というのは本当に恐ろしい。頷くしかないじゃないか。

 

 

 それに収穫もあった。

 メリッサが居る事によって大河達は戦争が終わった後も今までのように暮らせるだろう。

 

 

「分かりました。戦争が終わって、私が生きていたのなら考えましょう」

 

 本当に、この戦争が無事に終わったのなら考えてもいい。

 でもレンとの約束が優先だ。約束なんて基本的に先着順だし?

 

「あぁ、でも今から十年たってからですけど。昨夜、レンと十年後まだ、私のことが好きならレンの気持ちを考えるといったので」

「ちょっと待って!!?それかなりレンちゃんに有利じゃない!?

 

 まぁ、十年後ともなったらメリッサは三十に手が届きそうな位置だしな。

俺もその時には三十の半ばだ。ふむ、確かにレンが有利だな。

 舞台袖のレンを見ると自信ありげに胸を張っていた。

…………若いという事は強いな。

 

「それまでに私を夢中にさせれば言いだけです。がんばってください」

「自分のことなのに他人事みたいに言わないでよ! いいよ。これからもっとアプローチかけるから」

 

 いや、戦争中は止めて欲しいな。何よりもそばにはレンがいるから、情操教育に悪影響が出そうだ。

 ……すでにレンの母親によってレンの情操教育はぶっ飛んでいる可能性が高いが考えないで置こう。

 

 

「さて、長引いてしまったようですから、次に移りましょうか」

 

 俺の長話のせいでもあるが。まぁ、諦めさせられなかった俺が悪いか。

 

「ちょっと、待ちなさい!! メリッサばっかりいい格好させないわよ!!

私だって蛍火のことがその……好きなんだから。だから私だって例えどんなことをしても蛍火が平和に暮らせる世界を作るわ!!」

「そうだね。これじゃ後からのっかたみたいな私たちが不利だよ。

だから、今ここで私も蛍火さんのために頑張る!! 蛍火さんが好きだからね。」

「チョイ待ち!! 蛍火を好きになったんはうちが一番最初や!! 蛍火の事は譲らんで!!」

「酷いよ。僕たちは最初のほうだから、遠慮したのに。僕だって蛍火さんの事好きだから諦めないよ!!」

「私もです。蛍火さんが心休めるような場所になるように努力します!!」

「ダメ。蛍火は私の」

 

 リリィ、未亜、マリー、エリザ、アムリタ。そしてレンまで俺に告白してきた。

 なんというか。もはや、ダメダメだ。この企画を立てた奴に文句を言うべきだろう。大河にでも八つ当たりをしておこう。

 

 

 これで当分は誰も俺の中には入ってこれない。

 あぁ、それだけで一安心だ。

 

 

 

 俺を抜きにして七人で言い争っている。もう、要らないだろうから俺は審査員席に戻った。

 そこでは絶対零度の怨念のこもった学園長の視線が待っていた。

 

「蛍火君。リリィを泣かせたら承知しませんからね」

 

 静かな声だったのにとても痛かった。もうやだ。

 

「はぁ、私のそばにいる限り悲しむことになると思いますよ。私ほど幸せと縁遠い存在はいないと思いますから」

 

 あの七人がどれだけ努力しようともきっと徒労にしかならない。

 それは誰よりも俺が理解している。

 

「もう、蛍火君はモテモテね。私も参加しちゃおうかしら?」

 

 沈みかかった空気を呼んでかダリアが助け舟を出してくれた。泥舟に近い気がするが。

 

「そうですね。実年齢を教えてくださったら考えてもいいですよ?」

 

 俺がどれだけ調べてもダリアの実年齢は分からなかった。

というかダリアという名前自体が偽名であることが分かったからな。

 

 

「蛍火君、死にたい?」

 

 その時のダリアは黒化した未亜と変わらないプレッシャーを放っていた。やはり女性に年齢ネタは厳禁だ。

 

「ごめんなさい」

 

 すぐさま謝るしかなかった。横にいたダウニーも震えていたしな。

 

「よろしい」

 

 ダリアの声とともにプレッシャーが霧散する。でもなんでこんなに年について気にするのだろう?不思議だ。

 

「まぁ、蛍火君。何があろうとも私は蛍火君を忌避したりはしません」

 

 ダウニーよ。それは破滅の主幹としてだろ? まぁ、本当にどうでもいいいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの七人に触発されたのか、カエデにリコ、ベリオ、乱入したナナシの壮絶なアピールというか暴露がされた。

主に大河にされた行為がどれだけ過激だったかの言い合いだった。十八禁の内容も話されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 女子の部門は終わり、男子の部門に移った。しかし、誰もが唯、見栄えがいいだけだった。

大河のように内面から輝いているような人物はいない。

 大河に唯一対抗できそうなセルは棄権した。というかさせた。さすがに今は何も手に付かないだろうからな。

 

「さて、いよいよこのミスコンも最終段階に入ってきました。皆さんお待ちかねのこの世界初の男性救世主候補の当真大河君です!!」

「やっと出番だ!! よろしくな!!」

 

 散々な目に会っていたためにここで漸く普通の出番に大河は歓喜していた。なんか悲しいな。

 

「ねぇ、君も俺のハーレムに加わらない?」

 

 俺は大河のその言葉と共に、ナイフを取り出し大河を掠めるように投げつける。

 

「大河。次ぎやったら眉間ですよ?」

「イエスサー!」

 

 大河は敬礼をして引き下がった。まったくそんな事したらどうなるか分かってるのに何でやるのかね。

 

「蛍火さん?」

 

 大河のほうを向いているはずのアリスが俺のほうを向いている。しかもかなり怒っている。

ふむ、何か悪いことをしただろうか?

 

「なんでそんな物を持ってるんですか!!? この敷地内は武器の携帯は不許可なはずです!!

 

 まぁ、そうだな。そうするようにしたの俺だし。

 

「でも、私は警護もかねてますから、武器は所持していないと」

「危険すぎます。没収です」

 

 まるでこの場所を支配しているような声だった。事実そうなのだけど。

 

「いえ、ですけどね。」

「でもも、ストもありません。隠してる武器を出しなさい!」

 

 はっきり言って断れる雰囲気ではなかった。このままだと説教されかねない。

 あれー? なんで怒られてるんだろ?

 

「コートに隠してる武器をですか?」

「そうです」

 

 そう断言されては俺も従わなければならない。責任者として場を壊すようなことは出来ないからな。

 俺はコートに隠している小太刀四本、ナイフを二十本、飛針二十本、鋼糸を十五本奪われた。うぅ、なんか体が軽くて不安だ。

 

「これで、全部ですか?」

「はい。コートに隠しているのはそれで全部です」

 

 うん。コートに隠しているのはそれで全てだ。その下とかコートのポケットに入っているのは別だけど。

 

「よろしい。では、大河君のほうに戻りましょう。

大河君には色々と質問がありますが、その中でも一番多かったのは短時間で強くなった秘訣は?」

 

 それは随分と答えにくい質問だな。誰にだって簡単に答えられる質問じゃないだろう。

大河はどう応えるのだろうか? 少し、興味がある。

 

「そりゃ、目標を持つことだ」

 

 さっき、アリスにナンパをかけた時は別人のように意思をこめた言葉が出てくる。その声は自信と誇りを感じ取れた。

 

「俺は、蛍火っていう身近で越えられない壁が近くにあったから俺は頑張れた。

ここまで強くなれた。蛍火がいたから毎日頑張れた。蛍火が越えたいと思えるぐらいの奴だから俺はここまで強くなれたんだ」

 

 その言葉とても力強くてなによりも確信に満ちていた。大河の慢心を砕いたのは俺だ。

けれどあそこまで俺を意識しているとは思っていなかった。

 

 もう、大河に俺は必要ないかもしれない。大河はもはや俺にとって油断ならない敵だ。

 近くで大河の強さを見たアリスは顔を赤くして呆然としていた。あれは惚れたな。

 

 舞台裏から木に釘を打ちつける音が聞こえてきた。リコ。本当に変わったね。

 

「ん? どうしたんだ?」

「はっ、すっ、すみません!! あっ、あの次の質問は大河君の好きな人は誰ですか!?」

 

 読んでいて自分の失態に気付いたのか声が裏返っていた。本当に学ばない娘だな。

 

「決まってる。全世界の女の子だ!!」

 

 大河はやはり大河だった。本当にさすがだ。

 

「あの〜。蛍火さん。あれはいいんですか?」

 

 もはや熱は冷めてしまったのか、アリスは俺の方に向いて不安げに聞いてくる。

 

「いいんですよ。あぁでなければ当真じゃないですから」

 

 本当にあんな大河だからこそ赤と白の理を超えることが出来たのだから。

全てを愛し、全てに誠実である大河だからこそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで終わりですね。やっと開放される」

 

 本当に終わってよかった。というよりも強制的に終わらせよう。

俺の脳裏にまたしてもニゲロニゲロニゲロドアヲアケロとエンドレスで流れている。

こういう場合の本能は本当によく当たるからな。

 

「いえ、本日のメインイベントがまだです。さて、会場の皆さん、長らくお待たせしまた。男子最後のエントリー。

数々の称号を得た生きた伝説と化した人。新城蛍火!!!!」

 

 その言葉を聞く前に逃げるべきだった。何よりも本能に忠実にさっさと逃げるべきだった。

責任者としての義務? そんなものは彼岸の彼方にでも捨ててしまえ!

 

 

 逃げようとした矢先に俺に向かって火の玉が飛んでくる。レジストしている暇はない!コートで弾き飛ばす!!

 

「蛍火。責任は取らないといけないわね」

 

 リリィが俺の前に立ちふさがる。学園長もダリアもダウニーも俺を囲んでいる。

これでは空中に逃げることも出来ない。

 

 というか学園長とダリアとダウニーが俺の隣に配置されてたのってこういう理由だったのね!?

 

 

 しかし、俺は召還士でもある!  テレポートを使い俺はその包囲網を抜けた。これで!

 

 

 刃と刃が重なり合う硬質な音が鳴り響く。

 

 不意打ちに近い形で大河が襲ってきていた。俺は咄嗟のことに切り札に近いナイフで大河の攻撃を受け止めていた。

 小太刀と違って耐久度だけを考えて作られたモノだから、本当に最後まで使わないものだ。

 

 

「おいおい、さっき武器は全部取り上げられただろ?」

「えぇ、コートに隠している武器はね。これはホルスターに収めていたものですから。隠していたわけじゃないです」

 

 大河と距離を取る。観護は出せない。お祭り好きのあいつらのことだ。確実に妨害してくる。

 

「蛍火。お前の敗因はレンを一緒に連れてこなかったことだ」

 

 突きつけるような大河の言葉。凄く自信に満ちていました。

 大河の言葉にははっと気付き、ステージを見た。

 

「たすけてー」

 

 そこには助けてと棒読みで俺を呼んでいるレンとその傍らに黒のインク壷を持ったベリオがいた。

 おいっ!! ちょっと待て! 俺が行かなければそのインクでレンの髪を黒く染めるつもりか!? 

 ちょっ、それは止めて。マジ止めて。

 

 というかベリオ! お前今明らかにパピヨンに変わってるだろ! 笑顔がすっごく邪悪だぞ!

 というか黒くなりすぎだ!

 

「降参です。ですから、レンの髪の毛を黒く染めるのだけは勘弁してください」

「お前。本当に親バカだな」

 

 そうかもしれない。

 でもな……インクって中々落ちないんだぞ? 髪の毛についたらお風呂の時間が……うぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人しく質問されますか?」

 

 その言葉は脅迫というものだ。アリスの傍らには未だにレンとインク壷を持ったベリオがいる。

 インク壷の脅迫に屈したのは、恐らくこの世界で俺が初だろう。

 むしろアヴァターを根源とする世界初じゃね?

 

「それじゃ、まずはっと」

 

 アリスは分厚い紙束をめくっている。他の奴にはなかったのに何でだ?

 

「あぁ、蛍火さんに関してはとんでもなく集まったんですよ。蛍火さんは謎な部分が他の人と違ってかなり多いですからね」

 

 まぁ、たしかに隠していることはかなりあるが。そこまで興味を持たなくても

 

「え〜。まずはこれ。紅茶を上手く入れることが出来ません。アドバイスをお願いします」

 

 なんというか今までにない質問だった。まぁ、これなら困らないし。

 

「そうですね。紅茶は時間、水量、温度など茶葉の種類によって違います。

けれど、どんな紅茶にも通じるある程度の法則があるんです。

それを見つけてその時に入れるお茶を少し工夫して入れれば大抵は大丈夫です

まぁ、それを見つけのはやっぱり経験がモノを言いますがね」

 

 それまでに幾通りもの紅茶を入れなければならないが、それでもそれさえ覚えてしまえばある程度は簡単に入れられる。

 

「なるほど、では。蛍火さんは随分と武器を持っていますけど、何故ですか?

召喚器があるんだから武器を持ち歩かなくてもいいじゃないですか? とのことです」

 それは以前にもメリッサに聞かれたな。

 

「それはですね。召喚器も万能ではないからです。例えば密林で戦うとすればこの刀身の長さは邪魔でしかないです。

 それにあらゆる場所であらゆる状況で戦えて勝ちをもぎ取れなければならない。

 無論、私のように器用貧乏になる可能性も有るのですがね……」

 

 そう、これは俺が観護を信用していない証。

 この世界にきたばかりは誰も信用していなかった。

 この物語りの行く末を知ってしまった俺は観護が信頼できないような存在では無いと理解している。

 だが、それでもこの体に染み付いた習性は取れない。

 大河のようにトレイターという一を極めるのではなく、数多を修める。

 それが俺。

 

 そして俺は単一の状況でしか動けないというのでは困るのだ。

未だに裏方に居る俺はどんな状況であろうとも、どんな場所であろうとも、勝ちをもぎ取らなければならない。

この身を武器で固め、最善の結果を叩き出せなければ成らない。

 

 そして、俺がこれだけ武器を求めるのは俺が単騎で敵の殲滅を目的としているからだ。

大河たちは集団での戦闘を目的としている。

実際は個人戦を集団に適用しているのだが、それでも足りない部分を他で補う形をとっている。

 俺は一人で援護し、隙を作り、止めを刺す。だからこそ武器が多く必要なのだ。

 

「あの、ポケットの中じゃダメなんですか? 昨日もポケットからお玉とフライ返しを出したって聞きましたけど」

「ダメですよ。ポケットの中から取り出すのに二秒は掛かってしまう。それでは致命的過ぎますから」

「たった二秒ですよ?」

「その二秒もあれば首を刈り取れます。戦闘ではほんの些細なミスと戸惑いが生死を分けますから。

すぐにでも取り出せるようにしておかないと」

 

 二秒あれば、きっと大河どころか未亜でさえ俺から首を刈り取れる。

 まぁ、あの二人が躊躇しなければの話か。それが出来る腕前はあるんだが……

 

「なるほど、では次は。どうやったら蛍火さんみたいに強くなれますか」

 

 俺にも大河と同じような質問が来たか。しかし、この質問は俺には無意味だな。

 

「その質問には答えられませんね」

「何ででしょうか?」

 

 アリサはとても不思議そうに聞いてくる。会場の者も不思議そうだ。不満そうな表情もあるが。

 

「だって、私は強くなんて無いですから」

「いや、それはおかしいです。蛍火さん以上に強い人はアヴァターにいませんよ」

 

 強さに対する認識の違いだろうな。戦力を基準とするのなら俺に並ぶものはいないだろう。

しかし、それは数字で表したものに過ぎない。

 

「たしかに、この世界では私以上に力を有しているものはいないでしょう。それよりもまず強さとは一体何をさすと思いますか?

 戦力? 権力? 名声? 金? 私はそのどれもが強さには通じないと思っています。本当の強さとは心にあるものです。

 例え、状況が絶望的であろうとも挫けない、負けたとしても這い上がれる。それが強さだと思います。

 私は負ける戦はしません。初めから勝つことが確定している戦しかしません」

 

大半がだが。だが、俺は一度として勝つ可能性が低い敵と対峙した覚えが無い。

蒼牙は別だな。あれは戦わなければならなかった。

 

「だから、私は強くない。まぁ、それでも力を得る方法は教えることが出来ますが。

それはやっぱり師に付き、志を持ち、幾多もの実戦を潜り抜ける。それだけです」

 

 本当はもう一つあるのだが、それは捨てること。目的以外の全てを捨てて修羅になること。

親も子も友人も隣人も、未来も過去も全てを捨て去ってその目的に恋焦がれるように突き進むこと。

 俺はそれに近い。だが、俺は捨てたのではなく初めからなかっただけだ。

 

「なんというか在り来たりですね」

「普通が一番確実で安全ですよ」

 

 そう、修羅になる方法を知る必要はない。それになるのはこの中でもほんの一握りしかいないだろうから。必要ない。

 それに教える必要もない。修羅になったものは必然的にその道を選ぶ。だから、口に出す必要がない。

 それから、色々と下らないこととか戦闘に関して聞かれた。俺だけ数が多いのは不公平だ。

 

 

 

 


後書き

 

 という訳で、今回は蛍火が告白を断った理由と大河の強さの秘訣。

 そして蛍火の親馬鹿さ加減w

 

 断った理由は色々と並べてますが……用はこれ以上誰かに心の中に入ってきてほしく無いからですね。

 心配させてくないけど、出来れば他の人と幸せになってほしいけど、それ以上近づいて欲しくない。

 だからです。結局蛍火が恋人を作らないのはまだ人が怖いからです。

 これ以上、誰かに許されるのが怖いからです。

 

 馬鹿ですよね?

 だって、彼はこんなにも誰かを気遣う事が出来るのに。

 様々に並べた理由。それは諦めさせる手段であると同時に本音でもある。

 彼はこんなにも他人を気遣えるようになったのに……そんな事にさえ気付いていない。

 本当に愚かです。

 

 大河がまだ強くなる理由はやっぱりカエデの血液恐怖症の時から変わっていません。

 いえ、蛍火が大河の前で戦うたびにそれは大きくなっていったと思います。

 大河はやっぱり原作の主人公だけあって考える事が大きい。

 

 

 

 

観護(メリッサの告白を断ったと思ったら保留!?)

 というかメリッサとかは簡単に引かないだろ? だからだよ。

観護(でも蛍火君はなんであんなに最悪な方向にばかり考えるのかしら?)

 それが蛍火の役割だろ? 他の救世主候補の最低が訪れないために最悪を回避するのは蛍火の役目。

 最悪を考えていない蛍火は蛍火じゃない。

 それでも今回は完全に予測できなかったようだな。心の芯を変えるのは難しいよ。

蛍火としては完全に断りたかったけど断る理由が無いからな。このヘタレめ!

観護(アンタが人の事言えるの?)

 すみません。中々に進まない私も十分にヘタレだ。

観護(大河の出番が少なかったけど久しぶりに出てきたわね)

 まぁな。それにかなり格好良くなってる。

 大河の今の言葉は原作と違ってきちんと経験が宿っている。

 無論、原作の大河も嫌いじゃない。けど想いを語るにはやっぱり経験がないと重みが無いからね。

観護(そうね。そして蛍火君は変わってるのね)

 あぁ、少しずつだけど確実に変わっている。断った理由は以前と変わりは無いかもしれないけどそれでも変化がある。

観護(嬉しいことね)

 まぁ、レンのお陰だね。

観護(で、なんで蛍火君に限って切ったの? まだ終わって無いでしょ?)

 うむ、終わってないよ。次回はあの痣に関して書くから切った。

 後、尺の都合上仕方なく。

観護(最初からきちんと投稿用に考えていれば苦労しないですんだのに)

 当初は投稿せずに自己完結するつもりだったからな。

観護(次回予告)

 まだまだ続く蛍火への尋問。そしてこの物語りの大きな謎、死伎と関連する蛍火の体にある痣について!

 そして、ついに終わる学園祭! 長かった(涙 

 祭りの最後に相応しきものを…… では、次話でお会いいたしましょう。





うーん、答えを保留という形になったか。
美姫 「やっぱり、そう簡単には諦めれないのね」
ちょっと前の蛍火なら、それでも断ったかもな。
美姫 「そして始まる質問と言う名の尋問」
どうやら、次回にまだまだ続いているみたいだけれど。
美姫 「でも、何処まで答えてくれるのかしら」
学園祭の最後も兼ねているみたいだけれど。
美姫 「次回を待っていますね〜」
待ってます。



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