屋台を巡り、その後数店見回った。

本来なら全ての店を直接見に行かなければならないのだが、レンの願いを優先した。

まぁ、報告書とか他の人を頼っても別にかまわないだろう。

夕食はいつものメンバーが揃っては食べなかった。

屋台には普段は食べられないものが結構出ていたから間食のし過ぎで夕食が入らないかもしれないと考えていたからだ。

 

案の定、大河やカエデ、レンでさえも食べ過ぎて夕食を取ろうとしなかった。

かく言う俺もレンにつき合わされて結構食べていたのだが……特の甘い物を。

お陰で夕食は食べる気がしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十二話 果せぬ約束

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を取らなかったために集まる事はなく各々が自由に過ごしていた。

今まで経験していない祭りという物で疲れているのもあるだろう。それを止める理由はない。

恐らく今日は俺以外は鍛錬をしないだろう。

 

反して俺はいつも通りの時間に鍛錬をした。

一日の遅れが……一日、繰り返さないだけでこの力は、技は鈍る。

俺が使うのは護る術でも、倒す術でもない。何かを壊し、殺す術だ。

 

だから怠ける事はできない。敵対するモノが苦しむ事無く死ねるように、誰にも気付かれないために……

 

 

 

 

 

 

『あーあー、マイクテステス』

 

 鍛錬の途中、声が聞こえた。

 とびっきり大きな声が、とても聞きなれた声が。

 

 大河しかない。こんな馬鹿なことをしでかしてくれるのは大河しかいない。

 

 何かしでかすと思って、大河が着たら無条件で明け渡すように言い渡しておいて良かった。

 

 

『夜だからって祭りは休みだと思うなよ! おらっ! 打ち上げ開始っ!!!』

 

 

 大河の声と共に、夜空が輝いた。

 そこには大輪の花。だけでなく、火の時雨。

 

 色とりどりの火の花が夜空に煌めく。

 止まる事を知らず、とめることを知らず、夜空を明るくする。

 

 それは正しく夜空を斬り裂く光。

 大河を表すべく、闇と夜を切り開き、希望を灯す光。明日へと繋げる光。

 

 

 俺とは対極的な光。

 

「綺麗」

 

 木に寄りかかっていたレンが夜空を見上げ呟く。

 あぁ、確かに綺麗だ。

 

 

『これだけじゃないぞ! 広場にキャンプファイヤーを組んである!

 フォークダンス用の曲もっ! あっ? 何だセル? フォークダンスが分からない?

 あ〜、フォークダンスってのはあれだ。とりあえず相手を選んでゆっくりと踊るやつだ!

 ステップなんて気にするな! 思うように踊ってくれよ!』

 

 それだけ言って、放送は途絶えてしまった。

 

 何かとうるさい学園長から逃げるためだろう。

 声を出した時点で捕まるという事は考えなかったのだろうか?

 

 

 まぁ、捕まる事はないし、別に気にする必要もないか……

 

 

 

 

「蛍火、行きたい」

 

 花火の音で効き取りにくいなかで呟かれたレンの声。

 

 あぁ、それもいいかもしれない。

 

 

「行きましょうか……レン(我が愛しの姫君)」

 

 声には出さない。俺がレンをどう思っているかは声には出さない。

 想いが届いて欲しいとも思わない。心に込めた声が気付いて欲しいとも思わない。

 

 届かないでいて欲しい。気付かないでいて欲しい。

 

 そうとしか思えない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広場にはすでに人は集まっていた。

 もう音楽は流れていて、皆が思い思いに踊っていた。

 

 そこには踊る人をすぐに変えて踊っている大河。

 無論、変わっている人たちは、カエデ、リコ、ベリオの三人だ。

 

 あっ、なんかナナシが参加してきてカオスになってる。

 うわぁ、これは面白い。

 

 向こうでは、セルとイリーナが踊っていた。

 セルが誘ったとは思えないし、イリーナが誘ったのか。

 おぉ、本当によく頑張ったな。

 

 

 誰もが笑って踊っていた。

 未来にある絶望を少しでも見ないために、少しでも未来が明るくなると信じて踊っていた。

 

 あぁ、それでいい。

 これが最後の人間も少なからずいるだろう。

 ここにいるかなりの数が確実に命を散らすだろう。

 

 だから、刻んでくれ。この学園祭という思い出が最後の最後で思い出せるぐらいに、

 最後の最後までこの日常を護りたいと思える為に……

 

 

 俺は残酷だな。

 

 

「蛍火、踊ろ?」

 

 そんな暗い思考に陥りかけていた俺に声がかかる。

 キャンプファイヤーを背に俺に手を出してくれる。

 

 俺を光の世界に誘ってくれるような手。

 俺を光の下に歩く事を赦してくれる手。

 俺を光と共に生きる事を認めてくれる手。

 

 

 俺はこの手を取っていいのだろうか?

 俺はこの手を握っていいのだろうか?

 

 疑念は尽きない。

 恐怖は拭えない。

 幾ら、諦めたとしても、それでも……

 

 

 

 

 葛藤している俺の手を強引に握ってレンは火の元へと連れ出した。

 

 眼を焼くほどに輝かしい、キャンプファイヤー。

 赤いとオレンジと黄色の光の中で尚、輝きを失わないその銀糸。

 寧ろ、その光を受けてより一層、より多彩に光を放っていた。

 

「むっ、踊り方分からない」

「ははっ」

 

 俺を光に誘ってくれたレンは踊り方を知らなくて尚誘ってくれていた。

 光に進む事に恐怖を持たずに、俺を誘ってくれた。

 

「じゃあ、私の声と一緒動いてください。リードは男性の務めですから」

 

 執事として仕事をしたことがあるから当然、ダンスは知っている。

 

「イチ、ニー、イチ、ニー」

 

 俺にリードに合わせて、レンが足を動かす。

 とても単純な動き、社交界ではダンスとは呼べないような稚拙な動き。

 

 だが、それが一番いい。

 そんな気取ったダンスはしたくない。

 自然体で踊れる事が何よりも嬉しい。

 

 

 火の光を背に受けて、レンが微笑んでいた。レンが嬉しそうに、楽しそうに微笑んでいた。

 それが見たかった。それだけが見たかった。それさせ見れれば良かった。

 

 

 今、俺は微笑んでいるだろうか?

 今、俺は微笑めているだろうか?

 

 この娘の前で、こんなにも楽しい時に、こんなにも嬉しい時に、俺は笑っていられるだろうか?

 

 

 あぁ、断言できる。

 俺は今、きっと今まで一番、自然に笑えている。

 

 

 

 夜空に残る闇、夜空を斬り裂く花火、暗闇を照らす炎を背に、

その中で最も輝ける銀の月と共に、音楽が途切れるまで続いた。続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

興奮も冷めないうちに毎度変わらずレンと一緒にお風呂。

当たり前のように性的なものはしていないぞ? 手を出したら犯罪だからな?

 

 

 

 

 

レンの髪を梳き、水気をきちんと取ってからベッドへと向かう。

いつもなら、俺はレンに話をして、寝入るまで時間を過ごしているのだが……

今日はレンと一緒に布団に入る。

 レンを連れてきたあの日以来の、一緒の布団。

 

 布団自体の冷たさはあった。

 だが、それ以上に誰かと共に布団を暖められるという温もりがあった。

 

 あの時は疲れていて感じられなかった温もりがそこにはあった。

 

 

「レン、まだ眠れませんか?」

「うん、今日は楽しくて胸がまだドキドキしてる。それに、蛍火と一緒のお布団だから……もう少し起きてたい」

「そうですか……今日は楽しかったですか?」

「うん、楽しかった。沢山の服を着せられた時は疲れたけど楽しかった。

蛍火と一緒に踊れた。それに蛍火のかっこいいところ見れたし」

 

 眼をキラキラと輝かせながら今日を振り返っている。

 疲れはしたのだろうが、それでも楽しかったと思えてもらえて本当に良かった。

 

 だが、俺がかっこいい? 闘技場でのことだろうか?

 俺は格好よくなんてないのにな……力だけを余してしまった愚か者なのに……

 

 

「良かった。レンが楽しくなければ意味がないですからね」

「?」

 

 俺の言った意味が全ては分からなかったのだろう。

だがそれでいい。

 

 

この祭りはレンのためのものだが、そこに込められた俺の思いを知る必要はないのだから。

 誰も知る必要はない。誰にも知って欲しくない。

 この胸の中にある想いだけは……この胸の中にある醜い感情だけは……

 

 

「楽しんでいただけるのならそれだけで十分です。さて、明日は何処を周りましょうか?」

「午後は行くとこ、決まってる」

 

へぇ。行きたいところがあるのだろうか? それとも誰かと約束したのだろうか?

どちらにしても嬉しい限りだ。レンが自ら決められるということが……

 

「そうですか。そこには私も一緒に行っていいのですか?」

「ずっと一緒」

 

 何を当たり前をといったようにレンはすぐさま返事をした。

俺はレンにとってずっと付いていってもいい存在なのか……

 

 あぁ、重いな。安易な言葉だが護ると同じぐらいに重い。

だからこそ、その言葉には頷けない。言葉を濁すしかない。

俺は強くなんてないから

 

「そうですね。この学園祭の間は一緒でしたね」

「うん」

 

 レンは嬉しそうに頷いた。

たったそれだけで喜ぶレンの姿が、そんな些細なことで喜ぶレンが今の俺には辛い。

 

 

 

「レン。一人で眠るのが寂しいのならカルメルさんやフォルスティさんに一緒に寝てもらったほうがいいのでは?」

 

 この言葉はすでに幾度か言っている。エリザやアムリタはその事を拒絶しないだろう。

と言うよりもむしろ諸手を挙げて喜ぶだろう。

それに俺と一緒にいるよりも同性と一緒にいた方が何かと便利だろうに。

俺にはわからないことも二人なら分かるだろうし。

特に女性の生理関係。俺は男だから詳しくなんてないし。

 

 

レンが二人と一緒に住みたいというようになったら俺は屋根裏に戻ればいい。

今もあそこで寝ているのだから実質変わらない。

 

距離をそろそろ取るべきだ。…………何よりも俺の為に……

 

 

「ダメ。ここは蛍火と私の部屋」

 

強い否定の言葉。視線もそれは絶対に許さないと語っている。

それは一体どういう意味で言ったのだろうか?

元々答えが予測できていなかったのだがさらに分からなくなってしまった。

 

俺はこの言葉をどういう意味で取ったらいいのか。

やはりこの年頃の女の子は分からない。どう言葉を返したらいいのか本当に悩んでしまう。

 

「蛍火」

 

俺が沈黙していたからだろうか。レンが少し困ったように声を出した。

いかんな。こんな事でレンに寂しい思いをさせては。

 

「明日でお祭り終わっちゃうけど。明日も一緒に寝てくれる?」

 

何て、何て刹那い願いなのだろうか。

これからもずっと一緒に寝て欲しいという思いを持っているはずだ。

なのにレンはあと一日だけと口にした。

 

出来る事ならばレンの心のうちにある願いを聞き届けたい。

しかし、俺にはその願いを叶えることさえ許されない。

それをレンも本能で知っているのかもしれない。だからこそあと一日だけと。

あぁ、本当に。そんな簡単な願いすら聞き届けられない俺が、強さのない俺が、覚悟の無い俺が憎い。

 

「えぇ、いいですよ」

 

 なるべく自らのうちから発生した自己憎悪を押し殺し、優しくいつものように言う。

 

「うん」

 

 それだけの事なのにレンは何よりも喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだレンは眠りにつかない。

 無論、俺に訪れる予定の眠気は数時間は後だ。普段から睡眠時間がかなり削れてるし。

 

 

クイクイと俺の袖が引っ張られる。

 

「どうかしましたか?」

「……」

「黙っていては分かりませんよ?」

 

 口を開こうとしないレンに問いかける。だがレンは口を開こうとしない。

気付けばレンの視線は俺の腕に注がれていた。

 

「腕がどうかしましたか?」

「……腕枕…………」

 

その言葉で全て理解する。レンは唯、腕枕をして欲しいのだ。

そんな事さえ俺はレンにしたことがなかったんだな。

 

 だが、俺はレンに触れていいんだろうか?

 俺からレンに触れていいんだろうか?

 

 この掌はすでに数多の血で穢れている。

 俺が人を感情で殺さなければ、戸惑っていなかったかもしれない。

 

 俺は人として罪を犯しすぎている。

 理由があったとはいえ、それをなす必要があったとはいえ……

 

「蛍火?」

 

 俺の迷いを断ち切るようにレンが問いかけてくる。

 俺を疑う事を知らない眼が俺に問いかけてくる。

 

 その眼を見ていると許されているとどうしても思ってしまう。

 本当にどうしようもない人間だな、俺は。

 

 

延ばされた腕を抱えるように頭を乗せられた。

優しい重さ。僅かとはいえ、レンという存在の重さを実感する。

重量的には軽いはずなのに……とても重い。

 

「うん、あったかい」

「なんですか、それは」

「あったかいからいいの、ずっと腕枕して」

「横で寝ているときだけですよ」

「ヤダ」

 

 小さなレンの反抗。だがそれさえも愛おしい。

 そんな些細な事で喜んでくれて、そんな詰まらない事を大切にしてくれるレンがとても……

 

 気付けば、俺が差し出した左手はレンの左手と絡まっていた。

 掌に伝わる温もり。

 

 あぁ、失いたくない。

 だが……叶わない夢は見れない。

 

 

 

 

「レン、寂しくないですか?」

 

 ふと、以前から思っていた事。

 だが、思っていた為に、聞こうとしなかった言葉。それは踏み込む言葉であるが故に聞こうとはしなかった言の葉。

 

「何が?」

「お母さんがいなくて」

「大丈夫」

 

 予想とは正反対だった。まだ母親の温もりを求めていると思っていたのに。

 それともレンは違う想いを持っているのだろうか?

 

「蛍火がいる。だから大丈夫」

「私は普段は、レンの傍にいられませんよ?」

「それでも蛍火がいるからお母さんが傍にいなくても大丈夫」

 

 レンの表情は本当に救われた表情だった。

 たぶん、他の者も同じような言葉をいうかもしれない。他の者も同じ認識かもしれない。

 

 

 だけど…………違う。

 俺たちが出逢って本当に救われたのは俺だ。

 

 レンと出逢った事で、人の身であったにも関わらず人の心を有していなかった俺は救われた。

 全てを隠して、弱さも、脆さも、醜さも全て全て隠していた俺に気付かせてくれた。

 人の温もりを教えてくれた。人と触れ合う事でこんなにも心が温まる事を教えてくれた。

 

 思い出させてくれた。

 

 だから、誰がレンの言葉を認めようと、肯定しようと俺は言い続けよう。胸に刻み続けよう。

 

 レンと出逢って、レンと巡りあえて、レンと触れ合えて、レンと共に過ごせて救われたのは

 

 

俺だと。

 

 

これだけは何があったとしても忘れない。

 これだけは何があったとしても譲れない。

 

そして俺の心に刻み続けよう。俺を人にしてくれたレンのことを。

 今、この場所だけにしかないこの日々を……

 

 

 それが例え……作られたモノだとしても…………

 

 

 

 

 何時にない安らかな心が必然と眠りを誘っていて……俺は眠りに落ちた。

 暖かい心を持って、暖かい布団の中で、暖かな眠りに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜は深まり草木も眠る深夜。

俺は不意に目が覚めた。何か不穏な気配や殺気を感じたわけでもない。

しかし、何故か目が覚めた。

 

 

 

 

このまま目を開けずにもう一度眠りに付いてもよかった。

しかし、俺はこの時目を開けてしまった。

 

 

 

目を開けた時、レンの顔で視界の全てが覆われていた。何故?

しかも少しずつレンの顔は近づいてくる。

 

 

俺は混乱していて唯、硬直していた。何がどうなっているのか、何故こんな事になっているのかも分からない。

 

本当に動けない。

月明かりに照らされたレンの銀糸が輝きすぎて、レンが普段は見せない表情を見せていることで、

 

 

そして、俺とレンとの距離が零になる。その時、唇が温かさに満ちていた。

 

 

一秒? 二秒? それともそれ以上の時間が経過した?

 

 

時間感覚の壊れた俺にはその時間がとても長く感じられた。

 

 

 

 

そして、唇から温もりが離れる。

離れていったレンは幸せが溢れんばかりの満ち足りたうっとりとした表情をしていた。

 

「何を……」

 

 この時、何も言葉を口にしなければよかったのかもしれない。

しかし俺は、この行動の意味を聞いてしまった。

 

 俺の言葉により魔法が解けたようにレンの幸せそうな表情は消え、ビクッと体を震わせ驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「レン。どういう…………つもりですか?」

 

 何故俺がここまで理由を知りたかったのか俺にもわからない。しかし、俺はレンの行動の理由を聞いた。

 

 そこで何故かレンは黙ってしまった。

まるで決心がいまだ付かないかのように。しかし、それも数秒の事だった。

 

「蛍火の事、好きだから」

 

 それはとても簡潔だった。唯、好きだから。

それ以上の理由は必要ないとでも言うかのように。

 

 そうか。俺のことが好きだからなのか。

そうだよな、母親にはやってもらっただろうな。

俺の記憶には存在しないが。それでもレンはそうだったのだろう。てゆーかそれで納得しておけ。

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 その声は少し機械的だった。けれどその時はそれで精一杯だったのだ。

 

「違う。蛍火の言ってる好きと私が思ってる好きは違う。結婚したいと思うぐらいに蛍火の事は好き」

 

けっこん。ケッコン。血痕?

いやいや、この場合はこの名詞は当てはまらないだろう。

だとするとレンが口にした名詞は結婚?

いやいやそれこそ待て。あり得ないだろう。

 

 

「お母さんが言ってた。ずっと一緒にいたいと思うくらい好きな人とは結婚しないさいって。

その思いを伝えたいのならキスしなさいって」

 

 おい。ちょっと待て。それは安直だろう。

 とゆーかレンのお母さん、あんた教育の仕方間違えてる!

 なんだか分からないけど凄く間違えてる!!

 

 

 

「まだ、好きって気持ちを伝える勇気がないのなら寝ている間にしとけって言ってた」

 

 レンのお母さん、凄く間違ってます!

 処女だったくせになんでそんな事いってるんだよ!

 

「私はそれを間違ってないと思う」

 

 どこまでも純粋な眼。

 それを間違っていないと思っていて、その想いを間違っていないと思っている眼だ。

 

 あぁ、だが何故、レンがそこまで思ったのか俺には分からない。

けれどレンはきっと思い違いをしている。

 

「レン、貴女は思い違いをしている。レンには異性の保護者が、父親がいなかった。

保護者代理である私にその役目を求めても不思議ではありません。

 だからレンのその思いは父親に向けているものと同じ思いなのです」

 

 そうだ。レンは父親がいなかったのだから小さい頃に『大きくなったらお父さんのお嫁さんになる』

といった感情を知らずに育ったのだ。

 だから、その代わりである俺にそれを向けてしまった。それだけだ。

 とゆーかそれで納得したいです。

 

「違う」

 

 レンはそれとは違うという。それとは確実に違うと分かっているかのように否定する。

 

「違いません。さぁ、もう寝なさい。学園祭は今日もまだ続くのですから」

 

 レンは否定する。しかし、俺はそうだと思う。

そしてそうであって欲しい。だから俺はこのまま終わりを望んだ。

 

 

「…………じゃあ、それでもいい。でも蛍火とは血が繋がってないから結婚できる。だから」

 

 レンはそれでも諦めきれないといった表情で俺に訴えてくる。何がレンをそこまで駆り立てるのだろう?

何故、そこまでして俺と共にいたいのだろう?

 

 確かに俺はレンとは法律上結婚できる(戸籍云々は別とする)

だがレンの俺に向ける感情は父親に向けているものと同じのはずだ。だから時間に任せよう。

 

「分かりました。なら、十年たってもその思いが変わらなければその時にもう一度言ってください。

その時ならレンも結婚が出来る年齢ですから」

「分かった。約束」

 

 その言葉にレンは頷いた。元より今は叶わないと思っていたのかもしれない。

しかし、その約束が叶うことはないだろう。

 

人の心は雲と同じだ。微かな風でさえその形を変え、一秒たりとも同じ形を保っていない雲と同じ。

日々という大きな風と人という小さな風によってレンの心はその思いを別のものと理解する日が来るだろう。

 

 

 

 

 俺はこの時、覚えている限りで初めて果せない約束をした。

十年後、俺はこの世界の何処にもいないはずだろう。役目を終えた俺はこの世界に必要ない。

だから、その約束は果せそうにない。

 

 

 

 

 

果せないと知りながら交わす約束がこれほどに苦しいなんて。

嘘と果たせない約束が一つずつ、一つずつ積み重なっていく。

俺の心を押しつぶすように重みを増しながら、じわりじわりと苦しみと辛さと自己憎悪が沁みる。

 

 

 あぁ、本当に俺は情けない。

 

 

 

 


後書き

 

 今回は自分でも糖度が高めだと思いました。

 さて、幸せに戸惑う蛍火が上手く出せていたらいいなと本気で思っています。

 

 そもそも蛍火は幸せをしりません。

これは表に出てこない設定ですが……蛍火は物心ついたころから鍵っ子だったので、温もりを知りません。

 ですのでこんなにも人が温かいことを知りませんでした。

 

 今までずっと光が灯らない世界の中で一人、彷徨っていた蛍火。

 そんな蛍火を光の中に誘ってくれる唯一の存在がレン。

 光の中へ進みことを、幸せを掴む事を許してくれのがレンです。

 レンはずっとそれを許してくれてましたから、

 彼がこれを気に光の中へ進めるかというと……今は無理です。

 まだ、彼は諦めていますから。

 

 蛍火のセカンドキスもレンのモノです。

 しかも二回ともレンからのキス。情けないな、蛍火。

 

 まぁ、蛍火からするなんて読者の方も想像できないと思いますがw

 

 

 蛍火が初めてした……果たす事のできない約束。

 彼はそもそも『護る』や、未来を定める約束をほとんどしません。

 例外が観護としたあの契約だけで……後は、最善の努力をするというモノだけです。

 

 そんな蛍火がした、果せないと知っている約束。

 これは蛍火にとってきっと何よりも辛いでしょう。契約は蛍火にとっての生きる理由。生きる術。

 それを自ら否定したのですから、辛さは一押しです。

 

 いつか、蛍火はこの果せない約束を果せるでしょうか?

 本当にこれからしだいですね。

 

 

 

 

 一日早いがHappy birthday!!

観護(急に叫んでどうしたのよ? というか誰の誕生日? まさか自分の誕生日とか言わないわよね?)

 まさか、私の誕生日なはずがないだろ? 明日はレンの誕生日だ。

観護(はっ? レンちゃんはアヴァターの住人だから誕生日はこっち基準じゃないでしょ?)

 いや、もろもろの事情があって、こっちのレンの誕生日も113日なのよ。

観護(いや、意味分からないから。もろもろの事情が特に)

 気にするな。さて、今話のNGを紹介。

 実は、レンと蛍火が雰囲気よさ気に踊っている中で、実は7人が影で指を咥えてみてましたw

観護(七人って二人多くない?)

 間違ってない。まぁ、それは次の話だな。

 さて、急にだが、特別ゲスト登場!

レン「久しぶり」

観護(あら、レンちゃん。お久しぶりね)

レン「観護も久しぶり」

観護(まぁ、何はともあれ、一日早いけど誕生日おめでとう)

レン「ありがとう。ペルソナ。誕生日プレゼントないの?」

 意図したわけではないが、今回のセカンドキスがプレゼントだ。

観護(蛍火君と起きてる時の唇の感触は?)

レン「胸が凄く暖かくなって、とっても気持ちよかった」

 熱い台詞ありがとうな。……くそっ、蛍火のヤツめ。羨ましい!

蛍火「ほぉ、羨ましいか? なら変わりにキサマは地面と口付けでもしていろ!」

 ぐぼはっ!?

蛍火「汚物は汚物らしく地面にはいつくばっていろ」

観護(蛍火君も久しぶりね)

蛍火「あぁ、というか。お前を使ったのは何時以来だ?」

観護(随分と前ね(涙)……それで蛍火君、レンちゃんとのキスの感想は?)

蛍火「……(赤 言わせるな」

 うわ、娘からキスされた赤くなってやがる!

蛍火「そうか。唯の攻撃では死なんか。喰らうといい、灰月・禁伎・水奪閃!!」

 今後使われる予定にない技?!

レン「蛍火、終わったし帰ろ?」

蛍火「むっ、すみません。何故か今、浩さんが不愉快な事を考えていると感じたので、それが終わってからで」

レン「早く帰ってきてね?」

蛍火「分かっています」

 

観護(久しぶりにペルソナが居ないわね。

   しかし、レンちゃんがいる事で蛍火君はこんなにも変われたのね。

   これで、レンちゃんのお母さんがいたりしたら話が根底から変わっていたんじゃないかしら?

   だめね。ありえない仮定は話すものじゃない。余計に切なくなるだけね。

   では、次回予告。

   まだまだ続く、学園祭! 次からは二日目!

   ペルソナが詳しく決めてないので何処まで続くか分かりません。

   では、次話でお会いいたしましょう)

 

観護(浩さん、変なことを言わないで置くと蛍火君に襲われませんので)





誰にも言論の自由は邪魔されない!
美姫 「自由と無謀、無責任、それらを間違えたらお終いだけれどね」
うーん、ちょっぴり切ない感じの今回。その雰囲気を壊すかもしれないが、敢えて言おう!
レンの蛍火ロリ化計画、着々と進行中!
……ぐげらぼげぇぇっ!
美姫 「ああ、何処からともなく、炎、氷、雷の矢が飛んできて、浩に降り注いでいるわ」
って、何でお前は無事な……ぐぎょみょぼえぇ!
美姫 「その状況で突っ込む余裕のあるのは流石ね。まあ、間違いなく蛍火の攻撃でしょう。相変わらず、いい腕ね」
お、お前を盾に……。
美姫 「いや〜、触らないで〜」
ぶべらっ! ……お、お前の一撃が……い、一番きく……がっ。
美姫 「さてさて、おねんねした浩は捨て置いて、今回は蛍火がした約束ね。
     守れないと分かっていても、レンと約束を。ちょっぴり、しんみりしちゃうわね。
     さーて、そんな雰囲気はひとまず置いておいて、次回もまだまだ学園祭ね。
     今度はどんなお話が待っているのかしら。次回も待っていますね」



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