三人の機嫌が直ったところで食堂へと向かう。

 セルとの戦いとか、弓で色々と時間を取りすぎてしまった事もある。

 

 それ以上にあの後、指導してくれってやつが多かったことがあるのだが、

 

 お陰でレンがまた拗ねてしまった。

 うぅ、どうしてくれるんだよ。

 

 

 

 

 

第六十一話 考え方の違い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂に行くまでに三人には何とか機嫌を直してもらった。

 内容は……聞かないで欲しいです。

 

 食堂のほうへ行くと結構な混雑振りだった。普段とほぼ同じかそれ以上。

子供から老人までいることが普段とは異なるが。

 

 

 

 隣にいるレンの機嫌が微妙に悪いのが泣きたいです。

 

 

 あぁ、だが、食堂の所々に見えるネコ耳メイド服がやはり目につく。

 何人もいるのだが……一人して同じ服を着ていない。

 服飾科は頑張ったんだな。

 

「あっ、いらっしゃい。蛍火君」

 

 混雑している人ごみの中で声が聞こえた。

 声からしてメリッサか。

 

接客のほうに回っているのだろう。しかし、この忙しいのにウェイトレスが立ち止まっていいのか?

 

 

 後ろを振り向くと、やっぱりメリッサがいた。

メリッサはウェイトレスの服装を見事に着こなしていた。

 

 問題があるといえば、ネコ耳メイドさんだったことだろう。

 

ピンクに近い赤を基調としたスモックタイプのブラウス。

片元は大きく開いていて、鎖骨が僅かに見える。

 首元に飾られているのは黒一色の付け襟。

付け襟に結ばれた赤いリボンはそのままエプロンのリボンとなっている。

 その赤さがさらに首を拘束しているような背徳的な雰囲気を出している。

 純白のエプロンは淵にフリルがふんだんに使われていて、それが幼さをかもし出す。

 メリッサの僅かに残っている幼さがフリルによって際立つ。

 

 腰に巻かれた黒いコルセット。そのコルセットは前の部分であいており赤いリボンがコルセットを閉めている。

 赤と黒の対比。それは緊縛感をより一層強める。

 プリーツスカートは膝よりもさらに上で、ニーソックスとの間に絶対領域を作り出していた。

 

 そんな服装のメイド服にネコ耳メイド服。

普段はポニーテイルしている髪を下ろした姿は服装の幼さに反して大人の女性を見せてくれた。

 

 

 

 

 …………というかなんで俺はこんなに詳しく解説しているんだろうな?

 

「リタ。明日はあの服を借りましょう」

「うん。結構可愛いし、いいね。蛍火さんもあの服に釘図けだし」

 

 何か不穏な事をいわれている気がするが違うぞ? 

俺が気になっているのは服じゃなくて本当は目の前で動いている猫耳ですよ?

 

目の前でふらふらと揺れている尻尾、ヒクヒクと動く耳。

うっ、触りたい。どうなっているのかかなり気になる。

好奇心があるから触れるんだ。それ以外に理由はない。ほんとだよ?

 

「ふふっ、蛍火君。触りたんでしょ。いいよ。蛍火君になら。」

 

 そう言ってメリッサは一歩近づいてきた。俺はその衝動に身を任せて尻尾とネコ耳に触れた。柔らかい。

 

「あん。もっと優しく触って。」

 

 何!! 神経が通っているのか!?うわっ、マジでどうなってるんだ?

 好奇心がさらに増大し、その尻尾と耳を触ろうとした。

 

「公衆の面前で何してんのよ!!

 

 はっ、殺気。その方向に向いたら。ハリセンが迫っている。しまった。避けたらいけないと本能が告げている。

 小気味いい音が響き、若干の痛みが俺に走った。

 そこには炎のような真っ赤な髪が特徴のリリィがいた。服装はいつもと変わらない。あそこに行かなかったのか。

 

 ちょっと残念と読者の代弁をしてみる。

 

 むっ、久しぶりに電波を受信したか?

 

「シアフィールドさん。相変わらずいいツッコミです。それでお一人ですか?」

「いつものメンバーよ」

 

 なるほど、救世主クラスが集まっているのか。

でも、よく目立たないな。まぁ、そんな事言ったら黒一色のこの集団のほうが目立つか。

 

「みんなはあっちのほうにいるから」

 

 リリィの案内で救世主候補たちが集まる場所に行く。

 メリッサは仕事中と事もあって、いけなかった。まぁ、仕事だしな。

 

 

 

 

 

 

そこには相変わらず大量のさらがあった。

しかし、今日は鉄人ランチはおいてなかったはずなんだがな。

 まぁ、気にしないほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 席は三人分しか空いていない。

 だが、ここで誰か一人を外すと後がうるさいだろうな。

 俺が外れても確実にいらない時間が使われる事が確定だ。

 

 なら、二人で一つの席に座るか……

 

 

「レン。おいで」

 

 

 イスに座り、レンを呼ぶ。レンが近くまで来たので、レンを持ち上げ膝の上に乗せる。

突然のことに戸惑っていたが、すぐに満悦状態になった。

 

「「「「くっ」」」」

 

 何人かの悔しそうな声が聞こえた。ここまでくれば最早誰が上げているかは気にするに必要はない。

いつもの四人は当然として、周りからも声を上げられているだろう。特に俺に対して悔しそうに。

というか子供相手に悔しがらないでくれますか?

後、結構子持ちで苦労してるんですけど。

 

「蛍火さん。どうして急にそんな事を?」

 

 エリザがみんなを代表して悔しそうに言う。少し大人気ない。

 

「いえ、以前レンにして欲しいと頼まれたのですが、その時は断りましてね。

それをここにくる途中で思い出したので。今日はレンの我侭を精一杯聞くと決めていましたから」

 

 そう言いながら、レンの髪の毛を梳く。何時触れてもレンの髪は引っかかることなく綺麗に指から流れる。

 

 以前、レンの髪を梳いている時に言われたのだ。

 その時はこんな結末が用意されているなどと知らなかったからな。

 

 

 

「あの、その衣装はどうされたのですか?」

 

 リコから珍しい意見が飛び出す。ふむ、身近な人が飾っていると気になるものなのか。

それとも大河のためにこういうのを着たいと思ったのだろうか?

 

 あっ、よく見ると大河が近くを歩いているネコ耳メイド服の女の子に眼を奪われている。

 ちらちらと盗み見ているようだが、気付かれているぞ?

 

大河がコスプレに眼を奪われている事に気付いているから後者っぽいな。

 

「服飾科の出し物のところで借りてきたんです。皆さんも借りてきては? 専用の服を用意してくれているみたいですから」

「へぇ。そこまで用意してくれたのか」

 

 大河はしきりに感心している。ふむ、何かおかしいな。

 

「リコ・リスさんがレンみたいな服を着たらきっと精霊みたいに見えるんでしょうね」

 

 精霊という言葉に未亜などの面々は俺がそういったことに驚き、大河とリコは精霊というリコ自身を表す言葉に驚く。

やっぱりからかうと面白いな。

 

「あれ?違ったかな。あぁ、妖精でしたね。まぁ、ここにいる皆さんは美人ですからどんな服を着ても似合うでしょうね」

 

 その言葉で女性陣が赤くなる。

むぅ、もしかして正直な感想を言うと墓穴を掘るのだろうか?

 

「まぁ、服の事は置いておいて。私よりも、貴方たちは楽しんでいますか?

救世主クラスがメインの催しは何もないみたいですからね」

 

 救世主クラスは企画書を出していない。個人個人が他の学科に出向いてそこで手伝っている。

最優秀クラスに対するご褒美が救世主クラスにとっては価値のないものだが、試合を放棄するとは思えない。

特にリリィと大河が。

 

「おいおい、俺たちは他の学科みたいにその分野で固まってるわけじゃないんだぜ? 出し物を何にしていいかがまず決まらない」

 

 たしかに、救世主クラスは戦闘に特化したクラスである。

しかもそれ一つで遠征できるぐらいに役職が多種多様だ。一人としてその役職がかぶさっていない。

強いて言うなら俺がリコと大河を除いたものと被っているぐらいか。

 まぁ、それも所詮代理を務めるのが精一杯だが。

 

「それに拙者達では何をするにしても人数が少なすぎでござるよ」

 

 たしかに他の学科は一学年平均して百人ぐらいだ。

しかし、救世主クラスは俺を入れても7人。まだナナシが……いやルビナスがいないからな。

エリザやアムリタ、イリーナやマリーに手を貸してもらったとしてもやっと十人を超えるだけだ。

 しかし、他の学科。町の人に手を貸してもらうことも出来るだろうに。

 

「何か隠してもませんか?」

「えっと、どうしてかな?」

 

 未亜がイイ笑顔で逆に質問してくる。あぁ、あれは確実に隠している。

 

「それはお祭り騒ぎで当真が何もしないなんて性格上考えられません」

 

 大河ならこれを好機と普段なら出来ないことをあふれんばかりに考えて実行しそうだ。

まぁ、実際。裏行事というか違法行為の出し物には大河も一枚どころかかなり関わっている。

 

 主に盗撮関連とか、コスプレ服とかの衣装についての提案とか……

 女性関係ばっかりだな?

 

 しかし、らしくない。大河なら大々的に何かやるはずなのに。

 

そしてそれに従う形で未亜とカエデ、リコが手伝い、引きずられる形でリリィとベリオが参加すると思っていたのに。

 

「あんたが参加しないんじゃ何したって救世主クラスの出し物にはならないわよ。全員そらわないと意味がないわ」

 

 元々、別行動の多い俺を気にする必要などないのにな。まぁ、それもこいつららしいか。

 

「私には仕事がありましたからね。一緒に何か作業するのは無理があります」

「そうなんだけどな。なんかしたいとか思わなかったのか?」

「学園祭を運営するので精一杯です。そうですね、したかった事といえばやっぱり学園祭ですかね。

ですから、私の出し物はこの学園祭ということになります」

「あっ、ずりぃ。…………まぁ、こっちはこっちで楽しむか」

 

 それがいい。元々俺と大河は別の道を歩むべく存在だ。いつまでも交わっているわけには行かない。

 

「この学園祭は要人を呼んでいるんですよね? 警備とかは大丈夫なんですか?」

 

 ベリオが心配そうに聞いてきた。もしかしたらクレアのことを心配しているのかもしれないな。

 クレアも一応、責任者としてこの学園祭に来ているからな。

 

 ……遊んでいる可能性が高そうだ。ダリア、頑張ってクレアの手綱を握っててくれ。

 無理だと分かってるけど。

 

 

「ご安心を。ヒルベルト家から相当数を借りていますから。

門で武器の所持が認められたら入れませんし、学園の中には私服の警備員がいます。

それに要人が一人で出歩くなどしませんからね」

 

 クレア以外は……ね。

 

「そうですか。よかった」

 

 ほっ、安心のため息。二度しかあっていない人物や一度もあったことのない人物を心配するとは……

やはり、救世主候補は優しすぎる。

 

「ヒルベルトってどっかで聞いたことあるな」

「そういえば、マリーさんの家名がそうだった気がするね」

「えぇ、ヒルベルトさんのご実家です」

 

 クレアが当日の警護は王宮から手配するといってくれていたからな。

まぁ、それがまさかマリーの実家だとは思っていなかったが。

 

「ヒルベルト家とはそんなにすごいのでござるか?」

「はい。ヒルベルト家といえば要人警護と情報収集力で貴族となった家です。

千年前の破滅との戦いでは初代ヒルベルト氏がその力を生かして破滅との戦いを有利にしたというのは有名ですから。

要人警護と情報収集力においては右に出るものはいないと言われています」

「なぁ、カエデ。今更だが俺たちって結構すごい奴に教えてもらってたんだな」

 

 まぁな。俺もヒルベルト家を調べたときにはかなり驚いた。

千年前では救世主候補の次に優遇されていたらしい。

 

「もしかして、イリーナさんも?」

 

 恐々とした様子で未亜がリコに聞いている。結構失礼なこととかしたからな。

まぁ、相手もお嬢様って感じじゃないから気にも留めないだろうな。

 

「いえ、グラキアス家は貴族ではありませんが代々、騎士を輩出してきた家系です。

こちらはヒルベルト家よりもさらに前からですね。ちなみにイリーナさんは王国騎士団の副団長をなさっています」

 

 そう、よく友人だからって騎士団の副団長を呼べたものだ。

学園長の人脈の太さは恐ろしい。

 

グラキアス家がどれほど前から位前から栄えていたかリコなら一発で分かるはずだが、

詳しく言ってしまうと怪しまれちまうもんな。ついでに言うと実年齢がばれちまう。

 

「驚きだ」

「でござるな」

 

 大河とカエデが絶句している。それほど驚くべきことだろうか?

 

「普通なら驚くべきトコで驚けない俺に驚きだ」

「仕方ないでござるよ。兄君に比べればこれぐらいのこと驚きではないでござる」

「そういえば、そうですね」

 

 全員がしきりに頷いている。なんかもう、旅立っていいですか?

 

「おいおい、いちいちそんな事気にするなよ。そんなんじゃ禿げるぜ?」

 

 なっ、おい!今しゃれに成らんこと言っただろ? 

禿げるだと!! …………まぁ、そん時はそん時か。

 特に自分の髪が大事だと思った事がないし。

 

 

「そうですね。禿げた時は鬘でも被りましょう。ついでに色はレンと同じ色にしましょうかね」

 

 レンと同じ髪の色というのもいいかもしれない。

 出来るとは思っていないが……

 

 レンの髪を手櫛で梳く。やはり綺麗だな。トリートメントを欠かさずやっているだけのことはある。

俺が。

 

 唐突にレンが体の向きを変え、向き合うようになる。正面から見られているのだが。何をしたいのだ?

 と、レンの右手が俺の頭のほうへ向いてくる。ちょっと、待て!!

 レンの右手を掴み、

 

「レン。何をするつもりだったのですか?」

「蛍火は禿げたらおそろいの髪の毛の色にしてくれるって言った」

 

 あぁ、確かに言った。言ったさ。けどなそれは自然に禿げたらの話だ。

 

「だから、蛍火の髪の毛を取ろうとした」

 

 おいおい、極端だな。痛覚を切っていない状態で髪を毟り取られたら俺だってさすがに痛いぞ。

 それに今は全身黒に統一しているからな。髪だけが白くなってしまったら違和感が出るだろ。

 

「レン。そんな事されては困ります。さすがに私でも痛い。

そうですね、この戦いが終わったら髪を白に脱色しましょう。生え際が黒くなるでしょうがその度に脱色しますから」

「分かった。我慢する」

 

 まったく。本当にそれだけのことに一生懸命になるなんて。

 大河が俺を何とも表現しがたい表情で見ている。というよりもニタニタ?

 

「何ですか?」

「親バカだな」

 

 そうなのかな〜? ……そうかもしれないな。

 ちょっと落ち込みました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大河たちと分かれ、今は何故かお化け屋敷にいる。この出し物は映像科と美容科の合作である。

映像科は映画製作や写真撮影の技術を磨く学科で今回はそれを幻影石を使っての立体映像の作成。

美容科は理髪、メイクの技術を磨く学科である。それを特殊メイクという形で使っている。

 

 準プロが作っただけあって遊園地のアトラクション並みによく出来ているのだが、何故こんなところに来たのだろう?

 はっきり言って大人でも泣き出してしまうほど出来がいいというのに。

 そういえば、あの服飾科の女の子のうちの一人がここの事をエリザ達に話していた気がする。まさかな。

 

「いらっしゃい。おっ、蛍火さんか。女の子を連れてって事は。ははぁ〜ん。蛍火さんもやるねぇ」

 

 何がやるのかは知らない。まぁ、一応は知っているのだが俺のせいではない。

 女の子と一緒に入って抱きついてもらおう何て不埒な考えはしていない。

その目的があるのはこの三人だろう。

 

「んじゃ。四名様ご案内!!」

 

 

 

 

 

 店員により通される。中は暗かった。

不規則におかれた照明と外の光を遮った暗幕のため夜よりも余計に暗く感じられた。

 

 俺にとっては何ともないところだがこの三人にとっては別だろうな。

それにしてもこれもよく出来ているな。風や木の葉のざわめきが不定期に流れている。ふむ魔法だろうか?

 

「うぅぅぅ。暗いよー」

「まあ、明るいお化け屋敷なんて聞かないですしね」

 

すっかり怖がっているアムリタ。怖いと思うなら何故入ろうとしたんだ。

その段階で諦めてくれればいい物を。

 

と言っても諦めるのは俺のほうか。三方をがっちり固められては一人で動くことも出来ない。

 怖いからといって抱きついてくるとは。まぁ、それがこのお化け屋敷の売りだからな。

 ……もっともあまりに怖すぎて破局するカップルも午前中だけで十件ほどいたらしい。

 

 情報収集して、仕事はきちんとしてるんだぞ?

 

 

 

 

 

「こっ、怖いです」

 

 なら最初から入ろうとしないでくれ。抱き付かれるのはあまり好きじゃないんだ。

 

「蛍火」

 

 今まで以上にレンが抱きついてくる。頭を撫でて安心させてやりたいのだがあいにくと手が塞がっている。

やれやれ。

 

「けっ、蛍火さんは怖くないの? 僕は、こういうの駄目だよ」

 

 だろうな。へっぴり腰で俺の腕を掴んでいる姿を見れば分かる。

 

「別に私は怖くありませんよ。仕事柄夜に行動しますし。それにお化けなんて今まで数え切れないぐらいに殺してますからね」

 

 救出が遅れて、ゴーストとなった者達を斬り捨てたこともある。

わざとゴーストを作りそれを殺すことで救世主クラスの名を上げるなんてこともした。今さらだ。

 

 

それになぁ、仕掛けとか見せられてるし、それに何処に配置してあるのかも知ってるからな。

計画書に全部書いてあったし。

 

 井戸が見えてきた。そろそろか。

 井戸があるということで三人は井戸に気を取られ、というか井戸に警戒している。

 しかし本命は井戸ではない。後ろのほうでぼこぼこと土が盛り上がり人の形をした物が出てくる。

 メイクもばっちりで顔は腐肉だらけで片目が窪んでいるものや目が飛び出しているものなどオーソドックスなゾンビが現れる。

 

「「きゃあぁあああああああ!!」」

 

 音に気付き後ろを振り向いたエリザとアムリタは悲鳴を上げさらにしがみ付いてくる。

レンは声も出ずに目を閉じ俺に身をゆだねてくる。まったく。

 

俺はゾンビに気にせず前に進む。

このまま見ていてもゾンビが土の中に戻っていくシュールな光景を見るだけだ。

 

お化け屋敷なんて応じてそんなものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 それからもガーゴイルやワーウルフなどの獣の投影。

鎧が動くや、絵画の目が動くなどの古典的なもの。

ついでにこんにゃくを首筋に触れさせるなどの冷静に見ればジョークにしか思えないものなどが沢山あった。

 

というかよくこんにゃくがあったな?

 

 

 

「うぅ、帰りたいよぅ。」

「目先の欲にくらんでしまいました」

「…………」

 

 ゴール手前ということもあり二人に気力が戻ってきた。レンはもうぐったりとしているが。

 まぁ、ここから先は唯暗いだけで何もない。気楽に進むとしよう。

 

 

 と思っていたのだが、目の前には火の玉。ふむ、どっきりか?

よく出来ている。しかし、この火の玉は暖かいな。熱いのではなく人のぬくもりのような温かさ。

 火の玉が一つ、また一つと増えていく。凝った演出だ。しかしこのままだと火事を起こしかねんな。

まぁ、そこら辺は考えているだろう。いざとなったら消火器を持ち出すだろうし。

 

 あれ?消火器って置いてあったっけ?

 

「はぅ」

「うにゃぁ」

 

 アムリタとエリザが火の玉を見て気絶していた。

 安心していたところに出来てのだ、限界だったのだろう。

 

レンのほうを見ていると。

 

「…………」

 

 目を開いた状態で気絶していた。器用だな。

 

「びえ〜〜ん。ひどいですの〜」

 

 この能天気な声は聞き覚えがある。ナナシだな。

ふむ、どういうことだ?

 

 そこには手が足として、足が手として付いているナナシがいた。なんというか本当にシュールだ。

 

「どうしました?」

「誰だか分からないですけど〜。助かりましたですの〜。

酷いんですの〜、ナナシをみて二人組みの人がぶつかってきたんですの〜」

 

 それはお気の毒に。そのぶつかった奴が。

 

「助けて欲しいですの〜」

 

 まぁ、ここにいられても困るのでさっさと腕と足を?いで元の位置に戻すことしよう。

 

 

当たり前のように左と右を逆にするなどというお約束はしない。

 

 したほうが良かったかもしれない……レンにあの料理を教えてやがって。

 

「ありがとですの〜。でもなんで今日はこんなに賑やかですの〜?」

 

 まだ、俺が誰だか分かっていないようでのんきに聞いてくる。

 しかし、ナナシに誰も教えていなかったか。

大河当たりが伝えているのかと思っていたが。まぁ、ナナシ自体が神出鬼没だからな。

 

「学園祭というお祭りをしてるんです」

「お祭りですの〜!?楽しそうですの〜、ダーリンと一緒に回って……きゃい〜〜ん」

 

 よく分からない奇声を上げて喜んでいる。

 

「色々と親切にしてくれ…………て?」

 

 礼を言おうとしているところでナナシは止まってしまった。

 というかやっとこっちを向いて俺を認識できたのだろう。

 

 ガクガクと体を震わせ、頭の上のリボンも奇妙に震えている。

 

「けっ、蛍火ちゃんですのーーー!!! もうっ、――とか――はいやーんですのーーーーー!!!」

 

 ナナシはわき目も振らずに出て行った。

 あぁ、そういえばそんな事もしてやったな。あの時のお仕置きと称して。

 

まぁ、ナナシにも楽しんでもおうか。下手したナナシとして最後の楽しいことかもしれないからな。

 さて、取りあえず三人を運ぶとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 お化け屋敷から出て数分。漸くエリザが目を覚ます。

 

「おはようございます。気分はどうですか?」

 

 少々俺の言葉を理解できていないようで首をかしげている。

自分の体と周りを見ているうちに何があったのか思い出したか急に顔を赤くした。

 

「あのっ、醜態をお見せいたしました」

 

 深々と頭を下げている。別に粗相をしたわけでもないのに気にする必要はない。

恐怖とは人にとって重要な感情なのだから。                       

 

「お気になさらず。誰にだって怖いものはありますから」

「それは蛍火さんもですか?」

「それはもちろん」

 

 頷くとエリザは酷く驚いていた。まぁ、俺に怖いものがあるほうが怖いかもしれないな。

 

「それは?」

「そうですね。一番怖いのは人間ですね」

 

 そう、世界で一番恐ろしいのは人間だ。

人の天敵は、人が最も恐怖すべき対象は人間だ。

 

 ずっと昔から……裏切り、妬み、自分勝手にしていた人間だ。

 それだけが……何よりも恐ろしい。

 

 俺を傷つける事はもう叶わないだろうが……それでも人間がレンを傷つけてしまう事を。

 

 

「蛍火さんは面白いことを言うんですね。人間が一番優しいのに」

 

 あぁ、その答えは間違っている。優しいのは人であり、人間ではない。

だが、彼女には人間が優しいように見えるのかもしれないな。

 さて、そろそろ二人のお姫様も目が覚めるだろう。今度は屋台でもめぐるとしますかね。

 

 

 

 


後書き

 

 今回はそれほど大きなこともなく学園祭の昼は終わりです。

 まぁ、前回のように戦う事はないですから。

 というかあったら警備として動いている蛍火も色々と困ってしまうのですが……

 

 メリッサのメイド服が書けただけで満足です。

 あぁ、ちなみにメリッサが着ていたメイド服は『朝比奈みくる』が着ているメイド服です♪

 

 

 

 

 

 

観護(蛍火君が怖いものか……)

 まぁ、蛍火が怖いものといったら人間しかない。

 蛍火を裏切ったのも、蛍火を傷つけたのも人間だし。

観護(でも……信じられるようになったわよね?)

 いや、蛍火が信じているのは身近な人だけだ。それ以外の人という種は信じられていない。

 それだけ蛍火の恐怖は根深いよ。

観護(何時か、それもなくなるといいわね)

 そうだろうか? 人全てを信じていられるほど、社会は優しくなんてないだろ?

 人はそれほど綺麗じゃないだろ?

観護(あんたも屈折してるわね)

 屈折してないとこんな話かけないさ。

観護(さて、次回予告)

 次回も実はまだ学園祭一日目が続きます。

観護(何でよ? 終わったんじゃないの?)

 まだ、重要な話があるんだよ。では、次話でお会いいたしましょう。





難しい話は置いておいて、とりあえずはバンザー……ぶべらっ!
美姫 「あの馬鹿に口火を切らせたら、絶対にメイドにしか触れないので先に攻撃を」
……酷い。
美姫 「いや、始まり方からしてその雰囲気だったし」
メイドを語らせないなんて、酷いよ。
美姫 「って、そっちの非難だったの!?」
ぶべらっ!
美姫 「まだまだ学園祭は続くみたいね。定番のお化け屋敷とかも出てきたし」
メイドさんもね。
美姫 「定番じゃないと思うわ」
ぐっ……。
美姫 「まだ一日目は終わらない」
次は何が待っているのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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