「蛍火、お前可笑しいだろ?」

 

 ハリセンという非常識な武器で倒してしまった事でセルは呆気に取られている。

 他にも傭兵科の者達は呆けている。

 

 別にやろうと思えばセルだって出来るというのに……

 

 少しばかりセルの実力を見てみようか……気になるし、知っておくべきだ。

 

「そうでもないですよ? まだまだ昇華するべき部分も直すべき部分もありましたし。

 仮にも教師ですから、生徒に負けるわけにはいかないですよ」

「いや、まだ直すべき部分って中々見つからないぞ?」

「隙が簡単につけるようではね? セルだって見つけられるでしょう?」

「いや、まぁ、蛍火みたいにはいかないけどな……」

 

 セルは謙遜しているが……あの三人程度の実力なら簡単に見つけられるだろう。

 セルは間違いなくあの三人の隙を見つけられるし、その隙をつけるだけの技術を持ち、経験をこなしている。

 

 白の騎士に堕ちるだけはあるだろう……

 

 

 

 

 

「セル、戦ってみますか?」

「はぁ?」

 

 セルが呆気に取られた顔をしている。

 さすがに唐突過ぎたかもしれない。だが、今、セルの力量を判断すべきだと俺の中が語りかけている。

 

 セルは……下手をすれば現時点の大河と戦えるかもしれない。

 さすがに今の大河と対等に戦えるのは無理かもしれないが……足止めなら十分にこなせる。

 まぁ、トレイターがジャスティを合さった覚醒状態にはスピードが追いつけないだろうが……

 

 

 セルには最終局面で救世主候補を除いた王国群の最前線で救世主候補の代わりを務めてもらわなければならない。

 救世主候補は全てガルガンチュアで白の将達と戦わせるからな……

 

 未亜をどうしようか? 俺が入った事によって本来大河と相対すべき未亜の役があまる。

 誰かもう一人白側に……出来れば学園長クラスの人材が欲しいな。

 最低限、ムドウクラスがいる。さすがに白の将クラスがポンポンといるわけでもない。

 さて、どうするべきか……

 

 ……っと今はセルの方だったな。

 

 

「えぇ、折角、グラキアスさんにあなたをつけたんですから、提案者としては実力の程を知る権利があると思いますが?」

「まぁ、お前のお陰で俺も力を付けられたけど……いや、頼む。

 最近、大河と一緒に訓練してないから俺もどれぐらい腕が上がったのか見てみたい。

 お前達にどれぐらい近づけたのか」

「えぇ、では戦いましょうか」

「あぁ、ちょっと待っててくれ」

 

 セルはそういってセルは武器庫の方に行く。

 己が背負うべき武器を取りにいったのだろう。

 

 俺は小太刀を使うか。

 さっきみたいにふざけて戦えるほどセルの隙は大きくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十話 届かない理由

 

 

 

 

 

 

 

 

「蛍火、回らないの?」

 

 近づいてきたレンが裾を引っ張り先を促す。

 あぁ、セルのことばかり考えていて、三人の事をすっかり忘れていた。

 

「すみません、仕事もしないと」

「えっと、どっちかっていうと趣味に走ってるように僕には見えるけど?」

 

 責任者としては今の行動はアムリタの言う通り趣味に走っている用かもしれない。

 だが、俺の役目、観護との契約内容を考えればセルとは戦っておくべきだ。

 

 実力しだいでは俺はこれからの事をさらに考えないといけない。

 もはや諦めているとはいえ、それでも俺には契約が残っているのだから……

 

「戦場に出るものとしての仕事です。それに教師としてもね」

 

 教師として一人のみを見るのは宜しくないのだろうが……

 臨時教師という事の特権という事で許してもらおう。

 

「もう、仕方ないですね」

 

 エリザが苦笑して戦う事を認めてくれる。

 一番上のエリザが認めたので仕方なくといった感じでアムリタも引き下がる。

 まだまだアムリタは遊びたい盛りの年。申し訳無い事をしたな。

 

「すみませんね。レン」

「蛍火の馬鹿っ…………早く終わってね」

「難しいですけどその後はじっくりと回りましょう。祭りは夜遅くまでやっていますから」

 

 レンにも本当に申し訳無い事をした。

 一番気にすべき、一番に頼みごとを聞くべき相手を蔑ろにするのは気が引ける。

 いや、それ以上か…………

 

 レン、ごめんな。この後で肩車でもするから、

 

 

 

 

 

 

「待たせたな」

「いえ、さて始めましょうか……」

 

 抜き放った小太刀をセルに突きつける。

 同時にセルの気配も普段から戦う者の気配に変わっていく。

 

 いつの間にかギャラリーが出来ていて、息を呑んで俺とセルを見つめていた。

 

 だが、俺もセルも関係ない。そんなものは関係ない。

 戦うのは俺たち二人だけ。外に気を使う必要なんてない。

 

 さぁ、戦い始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Interlude others view

 

「おぉおおおおおおおっ!!!!」

 

 声を荒げてセルが蛍火に接近を試みる。

 セルは蛍火よりも大河と戦い方が似ている。先陣を切って真っ直ぐに相手を叩き伏せる。

 無論、セルにも大河と異なる部分がある。

 

 それは、汚さだ。

 戦闘に置いて、奇襲、闇討ち、挟撃を簡単に認め、地理さえも利用する。

 

 

 

 

 セルが接近にあわせて足元の石を蹴り上げる。

 石と剣が同時に蛍火に襲いかかる。

 

 両方とも無視は出来ない。

 

 

 石を蛍火は片手の小太刀で切り捨て、もう片方の小太刀を一瞬で逆手に握り替え、セルの攻撃を逸らす。

 

 セルもそれを予測していたのか勢いに任せたまま、そのまま後ろに流れる。

 下手に逆らうよりも身体を流す事を選んだ。

 

 

 一瞬、背中を向け合う。

 

 刹那、セルは足を踏みしめ身体を回転させて肘を回す。

 肘打ちを受け流そうと蛍火は逆手で握った左手を動かそうとするが、中断して後ろに下がる。

 

 肘のさらに後ろには肘と同じように遠心力をつけた剣。

 

 切っ先が蛍火の顔面のすれすれのところを通る。

 一瞬でも判断が遅れていれば避けきる事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 一瞬の攻防。

 蛍火は全て流し、避けきったが心の中ではセルを賞賛していた。

 

(大河と似て非なる戦い方。大河が最善の戦い方をするならセルは最適の戦い方。

 叩き伏せる剣を使いながらも俺に近い戦い方か……恐ろしいヤツだ)

 

 

「さすがですね」

「よく言うよ。蛍火用に考えた攻撃を避けきったくせに」

「まさか。もしセルが救世主候補の時の私用の攻撃を繰り出していればもっと危険でしたよ」

「あっ、分かったのか?」

「えぇ、さすがに分かります」

 

 セルの攻撃。それは救世主として能力が底上げされた状態の蛍火ではなく、小太刀を使った時の蛍火用の攻撃。

 蛍火は持つ武器によって戦闘スタイルを変えられる。

 だからこそ相対する者は蛍火のスタイルによって対処の仕方を変えなければならない。

 

 それをほぼ見切りその状態専用の技を考え付くセルは戦う者としてかなり上位にいる。

 

「誘っておいてなんですけど、以前私と戦いたくないと言いませんでしたっけ?」

「あん時はお前だって知らなかったからな。知ってる今なら話は別だ」

 

 セルの心は以前と比べて格段に成長している。

 相手が蛍火ということもあるだろう。今まで色々と与えてくれた者だからというのもあるだろう。

 セルは何時も目の前にいて、生身で人の可能性を示してくれた蛍火だからこそ戦いたいと思うのだろう。

 そして、蛍火が未亜の好きになった人ということもある。

 

「怖くありません? 私はその気になれば貴方を一瞬で灰すら残さずに殺せると言うのに」

「怖くないって言ったら嘘だな。けど今は怖くないだろ? あん時のほうがよっぽど怖かったぜ。

それにな、俺はあの時お前を信じるって決めたんだ。

戦ってるときのお前じゃなくて普段俺達に接してくれてるお前のことを信じるってな。」

「感謝すべきですかね?」

「態度で見せてくれた尚嬉しい――――なっ!」

 

 

 声と共にセルが剣を振るう。

 一閃。それを見極めるように見つめながら蛍火は避ける。

 続く一閃。先ほどの一閃から繋げるように繰り出される攻撃。

 

 その一閃をさらに細かな部分を見ながら、セルの全体を見ながら避ける。

 

 さらに続く蹴撃。次の剣を振るための時間稼ぎでありながらその蹴撃は相手をしとめるほどの威力を持つ。

 

 

 剣を振るいながら足、肘など、さらに砂地を蹴って目潰しに使い、使えるものは全てを使う。

 

 剣士と呼ぶには邪道。騎士といえるほどの士道はなく、剣士のようなこだわりもない。

 だが、がむしゃらに繰り出され続けるように見える攻撃は、内実緻密に計算され次への攻撃の布石。

 布石でありながらその攻撃は一撃必殺の力を持っている。

 

 蛍火と似ていながら違う。

 蛍火は一撃必殺を捨てて殺せる状況を作り出す。

 

 大河と似ていながらも異なる。

 大河のように一撃にかけるのではなく次への布石を考えて繰り出す。

 

 

 己が剣を振る、突く、振る、振る、突く。

 己が足を動かし、蹴り、捌き、蹴り、蹴り、捌く。

 己が身体を動かし、狙う、避ける、振る。

 

 己が今出来る最大限を惜しみなく使う。使い切る。

 蛍火が未だに攻撃してこない事を不審に思いながらもそれでも最適の攻撃を繰り出す。

 

 

 

 

 

 そんなセルの攻撃を蛍火は見極めていた。

 蛍火は後の先を取るタイプの戦い方をする。その為に攻撃をしていないと見えるかもしれない。

 だが、蛍火はセルの実力を見切ることを優先としていた。

 中途半端に手を出せない。

見切りに徹しなければならないほどにセルの剣は鋭い。

 

 そしてそれ以上にセルの攻撃には隙が少ない。

蛍火が予想してたよりもセルの攻撃には隙が少ないのだ。

 

 無論、攻撃に移る際にはセルの隙を見つけられる。

 だが、それが蛍火の予想以上に少ない。

 蛍火からしてもセルを倒すには隙を見つけるのではなく、隙を作らせなければならない。

 十分にセルは救世主候補と戦える。

 

(技術は十分にある。経験も十二分にある。……だが、まだ足りない)

 

 セルの攻撃の中で蛍火は見つけた。

 セルの中になくて、蛍火を除いた全ての救世主候補達にある物を。

 

 セルが果敢に攻めている事を。勇猛果敢に、途切れる事無く。

 絶え間なく、終わる事知らないように、全てを絞りつくすように……

 

 セルの攻撃は考えられて作られている。

 だが、そこに足りない物がある。

 それは言い方を悪くすれば恐怖心。失う事に対する恐怖がない。

 

 

 そして、セルと救世主候補を分けるもう一つの物は何をしてでも失いたくないモノが無いということ。

 

 

 絶え間なく、留まる事を知らないセルの攻撃の一つが頭上から迫る。

 それを今までと異なり、避ける事無く両の小太刀で受け止め、その隙にセルの腹に蹴りを叩きつける。

 がセルは瞬時に剣から手を離し、肘で蹴撃をガードする。

 

 肘でガードされて蛍火は顔をしかめるがそのまま足を押し切り、セルを吹き飛ばす。

 

 

 

 

「さすがですね」

 

 距離の取れたセルにもう一度語りかける。

 

「何処がだよ。全部避けられて、その上予想外の止められ方されてあっけなく吹っ飛ばされてる」

 

 セルビウムは呆れた調子で言う。

 どんなに苛烈に攻撃をしても一度たりともとどかなかった事に、かすりもしなかった事を悔しそうに。

 

「予想外でありながら反応しておいてそれを言いますか。

貴方は十分に強い。それこそ、救世主クラスに入っていても可笑しくないくらい」

「はっ? 何言ってるんだよ?」

「嘘じゃないですよ。それどころか、救世主クラスと対等に戦う事さえ可能かもしれない」

 

 さらに言うなればセルはベリオとなら戦えば追い込めるだろう。

 だが、セルはまだ失う恐ろしさを知らないために無謀に攻め込む可能性が高い。

 故にセルは負ける可能性も高い。

 

そして、決意がない。

 セルは何としてでも勝つ気概はあるが、何としても負けてはいけない理由がない。

 

 

「過大評価だな。召喚器を持ってる救世主候補に叶うはずもない。」

「私は勝った事が在りますけど?」

「お前は例外だろ? お前みたいな奴を天才って言うんだ。」

 

 蛍火はセルビウムの天才という言葉に対して笑った。

 

「何を言いますか。それは当真に適用される言葉だ。そして、貴方にも。

天才? 違う。私は沢山の物を犠牲にした上で手に入れただけ。天才ではない。」

「それは悪かった」

 

 セルビウムはバツの悪そうな顔をした。セルとて天才といわれたとき腹が立った。

自分は努力しているのにそれを否定されたように思えた。だからこそセルビウムは謝った。

 

 最も、蛍火は事実を言ったに過ぎない。

 

 

 

 

 蛍火は今まで抜き放っていた小太刀を納刀する。

 

「さて、準備はいいですか?」

 

 今までと違った攻めるという宣言。

 

 その言葉にセルは構える。

 避けていたときとは蛍火の気配が異なる。

 

 だが、その気配を見せながらも蛍火は何時攻撃してくるのかが全く見えない。

 先ほどまで測れていたはずの小太刀の間合いが分からない。

 

 全ての情報がかき消されていく。

 蛍火という朧にして濃密な気配に圧されていくのをセルは感じた。

 

 

 

 

 

 気配というよりも直感に近かった。

 急に蛍火が視界から消えた。だがそれは消えたわけではない。

 ゼロからMAXへの急加速。思っている以上の加速度で蛍火がセルに迫る。

 

 

 避けるという判断はセルの中にはなかった。

 

 接近する蛍火を正面から叩き潰す。

 下がろうにも蛍火のほうが足が速い。なら正面から叩き潰す方が可能性があるとセルは踏んでいた。

 

 

右の小太刀が抜き放たれる。

 その小太刀がセルの予想通りの軌跡を描く。

 

 右の小太刀がセルの左手一本で支えた剣とがぶつかり辺り一体に響くほどの金属音が鳴り響く。

 だが、それは蛍火の予想通りだ。

 

 己の手が痺れるのを感じていたが次に備えて右手を備える。

 セルの予想よりも上を行く速さで左の抜刀が迫る。

 

 だが、それもセルの予想通りだったが……

 

 

 軌跡はセルの予想に反して柄頭が右の小太刀にぶつかるように描き、

 

 前回の衝撃が逃げ切っていないうちに後から来た衝撃が手の中に広がり、

 

 炸裂する。

 

 

 

 

我流・奥義乃壱 鬼切

 

 蛍火が磨き上げてきた技は寸分違わずセルの剣を砕いた。

 より正確に言うのならば断ち砕いた。切ると砕くの両方の性質を兼ね備えた抜刀術。

 

 

 剣を砕いた左の小太刀を捻ってセルの首筋に剣をそえる。

 

 同時に今まで出す事のなかった殺気を叩きつける。

 

 

「え?」

Checkmate

 

 叩きつけられた殺気に呆然とするセルに終わりを突きつけた。

 

Others view out

 

 

 

 

 

 

 

 セルとの戦いも終わり殺気を解く。

 無論、殺気を叩きつけたのには意味がある。

 セルがまだ知らない殺されるかもしれないという恐怖を知ってもらうために、

 すでに知っているかもしれない。だが、それでも失う恐怖をさらに強めて欲しかった。

 

 信念はまだ期待しない。それは知ってもらうのではなく気付いてもらわなければならないから。

 

 

 あぁ、だが。大河にセル、はっきり言ってこの二人の力の付け具合は凄すぎる。

俺なんかよりも圧倒的に早いスピードで成長している。

 俺の成長も比較すればまだ速い方らしいがそれでも数ヶ月という単位であそこまで成長するのは、

最早才能が与えられたとしか言いようがない。

大河には世界から、セルには神から。

 

 だけどセルは力だけが付いている。心がまだ救世主クラスと違って育っていない。

 いや、育っていないというのは語弊があるな。

 

 セルは決定的な恐怖を知らずに育ったから、決定的なモノを失っていないから……失う恐怖を知らない。

 もっとも、失う事によって大切なモノに救世主候補を固執してしまうが……

 

 失っていないから理由がない。恐れる理由がない。

 大切なモノを見つけられない。見つけにくい。凄く近くにあるというのに。

 

「セル。怖かったですか?」

「あっ、あぁ……よっと」

 

 殺気を叩きつけたにも関わらずすぐにセルは己を取り戻し立ち上がった。

 

「くそっ、剣が砕けてやがる。蛍火、お前は非常識すぎないか?」

 

 立ち直りに速さと言葉の悪さに苦笑してしまう。

 本当に強い。失う恐怖を知らないからこその強さだろうか?

 それとも生来の気質だろうか?

 

 だが少しばかりその勇猛さを削ろう。

 そうしないとセルは無茶をしてしまう可能性が高い。

 

 

 後、セルが出撃する事になったら剣を贈るか。

 皇帝から貰った武器を死蔵してるし……もったいない。

 

 

「セル。貴方の敗因を教えてあげます。一つは圧倒的な経験の差。

これはまぁ、仕方がない。私と貴方では潜り抜けてきた戦場の数が違います」

 

 その言葉にセルは頷く。セルは学生でしかない。

幾ら、大河よりも戦闘に携わっている時間が短いとはいえ、総合時間で言えば確実に俺が上になる。

俺はこの世界に来てから、あっちの世界で数々の修羅場を潜り抜けた。その差ははっきり言って大きい。

 

大きくないとやってられるかっ!

 

「そして、それ以上の敗因。貴方はこれを何とかしない限り、救世主候補に勝つことは出来ません。

技術的に見ればもう追いついているにもかかわらず」

 

 幼少からの研鑽の賜物だろう。その技術はベリオに勝っている。

だというのにセルと救世主候補が殺し合いを演じればセルは確実に負ける。それは確定事項にも等しい。

比較としては殺し合いになる可能性は俺がさせないがな。

 

 というか白側と比較するのはちと無理があるんだよな。

 あっちは俺と同じ人を殺す事を目的として研鑽しているから……用途が違う。

 

 

 

「何で具体的に言わないんだ?」

「それは自分で気付くものだからです。まぁ、ヒントぐらいは与えましょう。救世主候補たちが強いのは何故だと思います?」

「え?召喚器を持ってるからじゃないのか?」

 

 まだ、それにこだわるのか。そんなもの無くてもあいつらは強いのに。

 

「いいえ。それは唯の武器です。切れ味の鋭い剣や魔法力を上げる宝石と変わりありません。

救世主候補たちは敗けられない理由をもっている。それを持っているが故にそれが有るから敗けるという選択肢を持たない。

 けれど、貴方のそれは救世主候補達に比べれば小さい。だから今の貴方は救世主候補に敵わない」

「いや、余計に分からないんだけど」

「答えは案外、すぐ近くにあるものです。早く気付いてあげなさい」

 

 救世主候補とセル、いや、救世主候補とその他を分けるのは覚悟と決意。

その差だ。辛い経験をしたから、苦い思いをしたからその覚悟と決意は硬い。

そして失う事に対する恐怖心が

 

 セルは気付こうとしていない。覚悟を決めるのに重要な要素はすぐ近くに、イリーナがいるというのに。

 セルは気付いていない。セル自身がイリーナに向けている視線がすでに愛情に満ちていることを。

 早く気付いてやれ。まぁ、明日になれば変わるかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い」

 

 セルとの戦いが終わってレンを迎えにいくとすでにむくれていた。

 

「すみませんね」

 

 エリザとアムリタのほうにも眼を向けるとやっぱりいい顔をしていなかった。

 どっ、どうしようか?

 まずはレンを優先。

 

「レン、すみません」

「馬鹿っ」

 

 一向に機嫌を直そうとしてくれない。

 うぅ、本気で困った。どうしようか? あんまりしたくないんだが……

 

「レン。ほら、機嫌を直してください。今日はご飯の代わり甘いものだけでもいいですから」

 

 その言葉にレンはプイッと顔を逸らしてしまう。まるで食べ物では釣られたりなんかしないと意思表示しているかのようだ。

 そこまで怒っているのか……。やっぱり肩車しないといけないか?

 

「蛍火さん。僕たちに対しては何もないの?」

 

 アムリタが不機嫌そうに袖を引っ張ってくる。何か退化してないか?

 レンに構いすぎていたからかもしれないな。でもレンがまだ機嫌直してないんだよな。

 

 まずは目の前の問題から……

 

「あー、じゃあ。あれです。今度仁君に教えてもらった卵料理のマンツーマンでの指導でいかがでしょう?」

「お願いします!!」

 

 エリザは即座に喰らいついてきた。まぁ、これでオムライスが自分でも作れることになるしな。

というよりもマンツーマンのほうに喰らいついたのかもしれないが。

 

 女って怖いのかもしれない。

 

「僕もそれでいっか」

 

 アムリタもそれで妥協できたようだ。考えている事がエリザと同じで無い事を祈りたい。

 

 これで解決。問題はレンのほうなんだよな。

 

 

「レン、肩車で許してもらえますか?」

「やだ、…………ぎゅってしてくれたら許す」

「えっと、それで許してもらえるのなら構いませんけど……」

 

レンを抱きしめる。温もりと優しい髪の香りがした。

 しかし、肩車とどう違うのだろう? 接触している事には変わらないのに。

 高いところが怖いとか……ないよな?

 

「ん〜」

「どうしました?」

「蛍火の匂いがする」

「動いたから汗が出てますし」

「違う、そういう意味じゃない。うん、えへへ」

 

 レンが至福といった表情をする。

 抱きしめただけで機嫌が直るのは嬉しいのだが……周りからの視線が辛い。

 特にエリザとアムリタのレンを羨ましがる視線が痛い。

 

 

 一分ぐらい抱きしめているのだが、レンからの許しが出ない。

 そろそろ動きたいんだが……

 

「え〜と。私はどうしたら?」

「そのまま」

「そのままですか……」

「うん♪」

 

 もう少しだけこうしててもいいか……

 背中に突き刺さる視線さえなければ、

 

 

 

 


後書き

 

 今回は今まで活躍の場が少なかったセルが活躍!

 大河よりも先にセルを活躍させるのはどうかと思いますが……まぁ、随分前に大河も活躍したという事でイーブンで。

 

 セルは十分に強いと思います。

 未亜ルートでは大河が戸惑っていたとはいえ大河と互角に近い戦いを繰り広げられたセルは十分に強い。

 白の騎士になっていた時はセルには護りたい人がいたから余計に強かったですよね。

 私はあのセルが一番好きでした。JUSTICEルートのセルよりも(苦笑

 

 この世界では原作とは違う経験をこなしているのですから技術的にはさらに強くなっています。

 

 Schwarzes Anormalesの中ではセルは大河と蛍火の間ぐらいの戦闘方法を取ることにしています。

 中途半端とか言わないで下さい。

 大河と蛍火を知っているセルはきっと二人のいいところ取りをしようと思いますから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観護(セル君。強くなってるのね)

 そりゃ、強くなってもらわなくちゃ困る。

 その為に蛍火はイリーナにセルも頼んだんだから……

観護(セル君。これで気付けたら一層に強くなれるかしら?)

 さぁ、それはこれからしだい。

 でもセルが結構好きだから頑張って欲しいのよね。

観護(セル、剣砕いちゃったけど大丈夫よね?)

 セルもパワーアップ予定。ぶっちゃけ蛍火が死蔵している武器は反則クラスが沢山あるから……

観護(そういえば蛍火君。結構貰ってたような)

 まぁ、それはもう少し先の話だ。

観護(さて、次回予告?)

 まだまだ学園祭一日目は続きます!

観護(詳しく言わないの?)                                                                                                                                      

 どこで切るか途中で気が変わって話を増やすかもしれないから……





セルの現時点での力量か。
美姫 「召還器ありのベリオと同等かそれを凌ぐとはね」
ただし、そこにはやっぱり足りないものがあるわけだな。
美姫 「今後の課題ね。これから、どこまで成長できるのかしらね」
セルの成長も楽しみになったな。
美姫 「まだまだ続く学園祭」
次はどんな催しものが。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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