はっきり言ってこの一週間はハードだった。

出撃回数は十を越え、奥義や禁伎を使いまくった。

お陰で結構反動がきている。まぁ、それは我慢すればよかっただけだが。

 

学生やその他の人ががんばったお陰で当日にはきちんと間に合い、学生が作ったとは思えない内容の充実振りだった。

元々が育成学校の集合体だったために随分と内容がハイレベルだ。

 

さて、こんなくだらない前振りをしているのにはわけがある。

今は当日なのだが、開会式が異様に長い。初の試みであるので、色々と注意事項が伝えられている。

学園長の話は年を食っているだけあって長い。

睨んできた!?

すみません、もう不用意な事は考えません。

 

クレアも色々といわれているのかそこそこに長い。そして議長も長い。

学生たちも辟易としている。手をつないでいるレンもつまらなそうな顔をしている。

後少しだし我慢してくれ。

 

漸く、お偉い方の長話が終わり、俺の番に回ってくる。

責任者でもあるので開会式と閉会式は何か言わなければならない。取り敢えずはっちゃけよう。

 

 マイクを握りながら壇上に立つ。少しばかり奇異の視線が向いてくる。

まぁ、隣にレンがいて、手をずっと握っているのだからな。

 

 無論、いかがわしい視線を向けてきた相手には殺気をぶつける。

 

 

「おほん。長話は面倒くさいので省きます。さて、私からお伝えする事が幾つかあります。

皆さんも知っていると思いますが、最優秀のクラスにはご褒美が出ると伝えていましたが変更します」

 

 その言葉に落胆の声やブーイングが来る。おいおい最後まで話を聞けよ。

 

「最優秀クラスだけでなく、その設営などの裏方を手伝ったグループにもご褒美出すことにします」

 

 それを聞くと口々に賞賛の声が上がってくる。現金な奴らめ。

 

「もう一つ。最優秀人物にはホテル・アヴァターの一泊二日のペア招待券でしたが、それをとった人物の都合もあるでしょうから、

学園祭終了翌日から一週間分とりました。好きな日に、というか一週間ずっといても構いませんから」

「いいぞー!!」

「太っ腹―!!」

「蛍火さん。かっこいいー!!」

 

 先ほどまでと違って歓声が沸きあがる。

 だが、まだ隠し玉はあるんだぞー。

 

「まだありますよー。なんとオファーが五十以上来た人には私か学園長が一つだけお願いを聞いてあげます。

あっ、これは該当した人全員ですからね」

「「「「うぉおおおおおお」」」」

 

 会場がゆれる。ふふっ、まぁ喜ぶことだな。学園長ならば学園でのことは何でも叶う。

俺に頼めば有り得ないことまで叶うからな。おっと、釘さしとかないと。

 

「ちなみに、娘さんを下さいなどというふざけたことは許しませんので」

 

 会場が一度シンとなる。む、殺気が漏れていたか?

 

「んじゃ。第一回王立フローラリア学園・学園祭を開催します!! 見つかってもフォローはしませんからねー」

「おぉおおおお!!!」

 

 こうしてレンのために催された学園祭は開催した。

 

 

 

 

 

第五十九話 学園祭開催

 

 

 

 

 

 

 

 壇上から降りて二人の元へ行く。勿論その二人はエリザとアムリタだ。

俺はレンと二人で回ろうと思っていたのだが、レンが二人と一緒に行くといったから四人で周る事と成った。

 家族サービスということで他の者には遠慮してもらっている。一週間前レンの騒ぎをみんな知っているからな。

 まぁ、その内どこか出会うだろう。

 

「レンちゃん、何処に行こうか? あっ、これ面白そうだね。うーん。こっちも面白そうだし。悩むなぁ」

 

 レンに聞いているようにも思えるが完全に自分が楽しむことを優先している。

この学園祭を楽しもうとするアムリタはとても生き生きとしていた。

 年相応だ。それが少しばかり嬉しく思う。

 

「悩まなくても最初に行くところは決めています。さぁ、行きましょう」

 

 この学園の何処で何がやっているかはすでに頭の中に入っている。

毎日のようにそういう書類を見ていればいやでも覚えてしまうのだ。まぁ、それでよかったと今では思える。

 

「あら、何処ですか?」

「着いてからのお楽しみです」

 

 三人を連れて、大講堂のほうへ行く。そこには色とりどりのたくさんの服が置いてあった。

 ここは服飾科と彫金科の合作出し物で貸衣装をしている。

学生の貸衣装と侮るなかれ。ここにある全てが売り物にしたとしても遜色のないものがそろっている。

 もちろん、アクセサリー類もそろっている。宝石が付けられたものから銀細工まで様々にそろっている。

 

タダというわけではないがそれでもかなり安い。

その裏には気に入ってもらったのならそれを買ってもらうというシステムを採用しているからだろう。

 

 まぁ、失くした場合は弁償しなければならないが、その場合は高い物を借りなければいいだけだ。

安くても質のいいものは豊富だからな。

 

 このシステム、誰が一番客受けがいいかをクラス内で対抗できるいいものだ。この企画書を見たときは本当に感心した。

 

「おっ、初のお客さんだ。いらっしゃい。ん? おぉ、蛍火さんじゃん。蛍火さんが最初に来てくれるなんてうちも幸先いいね」

「何ですか、それは。人を福の神みたいに」

 

 もし神を名乗るのなら福の神ではなく死神だと思う。

間違っても商売繁盛のご利益はない。

 

「いいじゃん、いいじゃん。んで? 蛍火さんはどんな服を借りに来たの?」

「私ではなく、内のお姫様の服を借りにね」

 

 俺の後ろにいる三人を首で指す。エリザとアムリタは少し赤くなっていた。

お姫様発言は少しやりすぎたかな?

 

「ヒュ〜、言うねぇ。で、どんなのがお望み?」

「三人のお姫様を一番輝かせるようなものをお願いします。お金に上限は付けませんから」

「腕が鳴るねぇ。任してよ。少し時間が掛かると思うけどそこは男の甲斐性ってことで」

 

 店員のこざっぱりとしたやり取りに少し苦笑し、店員が三人を奥のほうへ連れて行いくのを見送ろうとした。

 しかし、レンは俺の手を握ったままだった。もしかして更衣室の前まで俺も行けということですか?

 レンは俺の手を話そうとしない。といよりも一層、手を強く握ってきた。

一緒にいるとは言ったがこれは勘弁してくれよ。

 

 はぁ、更衣室の前で三十分は待つことになりそうだ。

エリザとアムリタは素材がいいから何を着ても似合う。服飾科の者も結構悩むだろう。

 

 そしてそれ以上にレン。服装によっては幻想的で神秘的な姿になる。それは悩むところだろう。

それに学園では結構可愛がられているからここぞとばかりに着せ替え人形にされる可能性が高いしな。

 

 レンが近くにいる以上煙草をすうわけにも行かず手持ち無沙汰にしていたところに一人の店員が寄ってきた。

 

「蛍火さんは着替えないんですか?」

 

 心なしか目を輝かせながらずいっと詰め寄りながら聞いてきた。

その言葉に苦笑してしまう。俺は着替えられないからな。職業上。性格上。

 

「これですからね。私まで時間をかけては楽しむ時間を減らしてしまいますから」

 

 俺はレンとつながっている左手を少し上げながら苦笑する。

更衣室にいるのに、レンは袖を通すとき以外は手を離そうとしない。まったく。

 

 ふと、先ほどまで話しかけていた少女に眼を向けると真っ赤になって機能停止していた。何故に?

 十秒ほどで少女は再起動した。ふむ、この一週間無理をしていたのだろうな。

 

「おっ、王子様がそんなのでは駄目ですよ〜?」

 

 搾り出すように、というか悔しそうに少女はその言葉を吐き出した。一体どうしたというんだ?

 それにしても俺が王子様ね。俺、黒髪なんだけどな。

 

「王子様って柄じゃないですから」

「たしかに、蛍火さんは王子様って言うよりも騎士じゃないか?」

 

 さっきの店員が戻ってきた。終わったのか?

 

「まださ。今は服装に合わせてアクセサリーを選んでるトコ。もう少し待ってくれ。後さ。蛍火さんは騎士だろ?」

 

 あと少しか。我慢するかね。

 

「あー、たしかにそうかも。蛍火さんは王子様よりも騎士だね」

 

 暗殺者のほうが似合ってる。というよりも暗殺者そのものだからな。

それに俺には騎士道精神なんてもの持ち合わせていない。

 

「だろ? んじゃ、お姫様に相応しい騎士様の格好に着替えてもらわないとね」

「残念ですけど。お断りします。一応警護の役割もありますので慣れている服で無いといざという時困るんですよ」

「大丈夫。鎧パクッて来るから」

 

 行動力があるな。というか、一応責任者の目の前で堂々といわないで欲しい。

 

「却下です。そもそも責任者の前で堂々と違法行為を働こうとしないで下さい」

「違法行為にも眼を瞑るといったのはどこのどなたかな〜?」

 

 店員の言うように眼を瞑ると俺は言っている。

 だが、それはあくまでも眼に入っていない場合の話しだ。

 

「さすがに目の前でされると止めないと……」

「苦労するね」

 

 かけているのは何処の誰だろう?

 まぁ、それも負いたいと思ったから負っただけなのだが……

 

「出来ましたよ〜」

 

 また違う女の子の声が聞こえた。さてさて、お姫様を迎えに行くとするか。

 

 

 

 迎えに行くと二人は自分の魅力を完全に引き出されていた。

やれやれ、自分でいっておきながらやりすぎだろ。今日一日は嫉妬の視線が突き刺さるだろうな。

 

 

エリザは黒を基調に鈴蘭が描かれたチャイナ服。

スリットは下着が見えそうで見えない位置まで大胆に開かれている。

菖蒲色の髪は留められることなく風に揺れ、耳には黒ダイヤをあしらった小さなイヤリング。

普段は隠している大人の色気を出ている。

 

アムリタは白のノースリーブのカッター。そこに黒のネクタイ。

黒と白のフリルで構成されたスカート。淡緑色の髪には黒のリボンで一房だけ飾られている。

パンジーの花が下げられているブレスレット。アムリタの子供っぽさと大人の中間をよく表している。

 

「お二人ともよくお似合いですよ」

 

 本当によく似合っている。俺が傍にいては彼女達の魅力を損なってしまうのではないかと思えるほどに輝いている。

 褒め言葉を呟くと二人は揃って頬を赤く染めていた。

 だが、そこには少しだけ悔しさが見えていた。はて、なにがだろう?

 

 

「本命がまだだよ。さぁ、ご登場!」

 

 演出がかったように更衣室のカーテンが開く。

 

 

 

そこには比喩無しにお姫様がいた。

 

シックな黒のドレスにケープ。シンプルなドレスだからこそ素材のよさが際立つ。

露出されている部分は少なく、胸元が少々開いているだけだ。背中に露出はない。

全体的にシックでありながらも何処か気品を感じさせる。寧ろ全体が覆い隠すようなドレスがレンを引き立てる。

そして、ドレスが黒いためレンの髪の、肌の神秘的な白さが際立つ。

髪には黒の大きなリボン。黒いリボンがより一層レンの白さを印象付けてくれる。

そして胸元にはツユクサの花を模したアクセサリーが輝いていた。

 

 

「ほらほら、感想ぐらい言ってあげないと」

 

 店員の言葉で漸く俺はレンが俺の言葉を待っていることに気付いた。

俺は言葉を失って呆けていたらしい。本当にらしくないね。

 

 

「とてもよく似合っていますよ。えぇ、本当に。写真に収めておきたいくらいです」

 

 本当によく似合っている。特に彼女達の体のどこかに飾られている花は……

エリザは幸福を取り戻す、純愛。アムリタは純愛、私のことを想って。レンには密かな恋、尊敬か。

 本当にレンの密かな恋を除いては的確に表している。

 

「んじゃ、写真に収めますか」

 

 店員の指示により写真を取る準備が速やかに行われた。

 

「ほら、並んで、並んで」

 

 三人の中に俺も入れようと店員が押してくる。

おい、俺は写る気はないぞ。そういおうと思った矢先に

 

「蛍火、一緒に写真とって」

 

 レンにお願いされてしまった。うぅ、写真は本当に好きじゃないのに。

 写真を撮るなんてすぐのことなのだが、少し緊張してしまった。

 

「おし、終わり」

 

 はぁ、やっと終わった。

そう思ったが、レンがくいくいっと袖を引っ張った。嫌な予感が。

 

「次はツーショット」

 

 はぁ、災難だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、一人ずつツーショットを取る羽目になった。うぅ、写真嫌い。

 

「いい絵が取れたよ。後で人数分焼き増しするから」

「はぁ、ありがとうございます。それにしても、全員黒にする必要はないのでは?」

 

 四人で取った写真では黒一色である意味不気味だった。

 

「なんとなくね。蛍火さんの傍にいるのはやっぱり黒だから」

 

 そこまで黒が固定されてるのかね。まぁ、それ以外を着たことはこの世界に来てからは一度しか無いしな。

 だが、全員オーダーメイドをしたように似合っている。

 

「もしかして、以前から用意していたんですか?」

「そ、学園の有名人の奴はね。やっぱり私たちとしてはそういう人を着飾りたいと想うじゃん? もちろん、彫金科のやつらもね」

「もしかして私のも?」

「んにゃ。あんたのは別。あんたの場合はイメージが固定しなくて作れなかった。職人泣かせだよ」

 

 店員が

 そうかもしれないな。俺の中身は矛盾と混沌。イメージとしては黒しかない。

 

 

「みんな着飾ってるんだから。少しは何か付けたら?」

 

 お祭りなんだし、アクセサリーぐらいは付けるかな。

アクセサリーの置いてある棚を物色しているとに面白い物を見つけた。

 アクセサリーのモチーフにするには相応しくない花言葉を持ったブローチ。それはアザミの花を模っていた。

 

「これをお借りしますね」

 

 それを手に取り、店員に見せる。当然、微妙な表情をしていた。

 

「どうしてそれを?」

「作りが気に入ったんですよ」

 

 俺はそれを胸に付けた。誰が作ったのかは知らないが本当に俺をよく表している。

 料金を払い、俺は大講堂を出た。最初の客なだけあって、店員の殆んどが見送ってくれた。

 

「知っていて選んだのなら残酷だよ」

 

 去り際にあの店員が呟いた言葉がとても耳に痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。次は何処に行こっか?ご飯にはまだ早いし、でも他を周るには時間が有りすぎるし、困ったね」

「でも、お昼に行けば込んでますよ?」

 

 アムリタとエリザは次を何処に行こうかと楽しそうに話し合っている。エリザもこの学園祭を楽しんでくれているようだ。

 

「屋台もありますからそこは気にしないでいいですよ」

 

 混雑を予想して王都にある屋台もここに出して言いと通知してある。

当日はここがにぎわうと予想して相当な数の屋台が出展しているのだ。

屋台はアンケートに記入しないように注意書きしてあるから大丈夫だろう。

 

「レン、何処に行きましょうか?」

「蛍火に任せる」

 

 甘えていいと言ったがそれぐらいは考えて欲しいものだ。

まぁ、それがレンらしい甘え方かもしれないな。

 もう一度、レンの掌の温もりを確かめる為に少しだけ強く握った。

 

 たったそれだけの事でレンは微笑んでくれる。

 

 

 

 

 

「では、少し体を動かしに行きましょうか?」

「それがいいですね」

 

 という訳で闘技場に向かうことにした。闘技場では戦闘系の学科が合同で行っている催しがある。

 無論、ここにはセルもいる。傭兵科の方で受付をしているようだ。

 なんだかんだ言ってもセルは強いからなぁ〜。学園でも上位に入るぐらいに…………

 

 複数あるのだが基本的に賭け事に近い。お客と試合をして勝ったなら景品を手に入れられる。

 よくゲームなどにある闘技場のシステムと同じだと考えてもらったらいい。

 

 

 といっても俺が向かっているのはそちらのほうではなく弓兵科の方の的当てである。

縁日にある射的ではなく、どちらかというと弓道やアーチェリーに近い。

高い点数を取ればそれだけいい景品を手に入れられるということだ。

 

 

 学生が各自持ち寄ったぬいぐるみやらアクセサリー、武器まで置いてあった。

他にも商店街から有志で送られてきた景品も。

 

 

 もちろん、俺は見学である。だって、こういう出し物に手を出したら景品を根こそぎ取れてしまうから。

 

「いらっしゃ、なっ!!」

 

 店員が挨拶の途中でおかしな声を上げた。

相手が俺だったら警戒しないといけないしな。

 

「えーと、まさか蛍火さんがやるわけじゃないですよね?」

 

 店員が恐る恐るといった感じで聞いてくる。そこまで警戒しなくてもいいのにな。

俺だってそれぐらいは理解している。

 

「まさか。やるのは後ろの三人です。お願いしますね。」

 

後ろの三人を指す。さすがに弓なんて持ったこともないだろうから教えてもらうように言っておいた。

 鏃が付いていないとはいえ弓はかなり危険なものだ。

実際、日本でも年に数件弓道場で矢に当たって人が死ぬということが起きている。         

 

 

 

 三人に教えると有って弓兵科の中で内乱が起こっている。

中には女性がいて「お姉さまに触れるな!!」とか叫んでいるのがいた。

やっぱり人数が多いだけあって多趣味な人がいるなぁ〜。失敗したかな?

 

 内乱が終わるのを待つのもめんどくさいので内乱にかかわっていない二人を捕まえて頼んだ。

内乱参加者に睨まれてかなり居心地悪そうにしていたが、気にしないでいいだろう。

 

 

 エリザとアムリタは弓兵科の学生に任せて俺はレンに取り掛かった。

エリザとアムリタはレンに羨ましそうな視線を送っていたが、相手がレンだけあってすぐに諦めたようだ。

 

 レンの体は小さいのでショートボウを用意してもらいレンの様子を見る。

俺はあまり手を出さないつもりであった。遊びだし自分なりにしたいと思ったからな。

 

「蛍火。教えて、分からない」

 

 しかし、一射もせずに俺に教えを請ってきた。そんなに欲しい景品でもあったのだろうか?

 二人羽織のようにレンを後ろ包み、やり方を教える。といっても本格的なものでもないが。

 当然、一射目は的から大きく外れた。俺はレンの手を支えているだけだったからな。

距離十メートルとはいえ初めてでは厳しいだろう。

 

 二射目は的の端のほうに当たった。当たりはしたのだがレンは嬉しそうな表情ではなく難しい表情をしていた。

 三射目は二射目よりは内に当たった。結構な高得点なのにレンは嬉しそうではない。ふむ、どうしたものか?

 

 レンはそれから結構な回数をした。繰り返すたびにレンの機嫌は悪くなっていく。

幾らしてもらっても別に財布は尽きないのだが…………あぁ、ダメだ。

お金を際限なく使えるというのは教育上よろしくない。

 

それに一つの場所にずっとい続けては他を見回れない。

一応、責任者なので色々なところに回らなければならないのだ。

 

 

 

「レン。ここら辺で止めておきましょう」

「やだ」

 

 何時になくレンはこれにこだわっている。

回数をこなしているだけ有って結構な数の景品を手に入れているのだが。

もしかして、最高ランクの景品が欲しいのか?

 

 実はこの的当て。どれだけ的に当たっても中心に当てなければ最高ランクの景品は手に入らない。

中心とその周りにはそれだけの得点の差がある。

 

 ダーツよりも厳しいんじゃないのか?

 

「レン。欲しい景品はどれですか? 私が取りますから」

「あれ」

 

 レンが指差した先には巨大なぬいぐるみがあった。全長1.5メートルはあるぬいぐるみだ。

もちろん最高ランクの景品である。あぁ、そりゃ無理だわな。

 

「分かりました」

「あっ、じゃあ僕もお願いしていい?」

「私もいいでしょうか?」

 

 彼女たちも欲しい景品は手に入らなかったようだ。

手にはちり紙があった。一矢も的に当たらなかったのか。

 

「どれですか?」

 

 エリザが指差したのは銘酒・雪桜。年に数本しか製造されない幻の銘酒。

アムリタが指差したのは豪華食材ギフトセット。どちらも最高ランクのものだ。

 おいおい、三射とも真ん中に当てないといけないじゃないか。

 

「…………はぁ、すみませんが私も参加していいですか?」

 

 受付の学生はかなり驚いていた。

俺も責任者だしそれぐらいは参加はしないほうがいいという事は本当に分かっているのだがな。

 

「でっ、でも」

「難易度は上げてもらってかまいませんから。お願いします」

 

 レンの頼みだからな。何とかしてやりたい。譲歩案をだして何とか納得してもらった。

 俺が頭を下げている事にかなり慌てていた。頭を簡単に下げる立場じゃないってことなのかね?

 

「分かりました。その代わり、かなり難易度を高くしますよ」

「えぇ、お願いします」

 

 

 

 

 

 

 でっ、用意してもらったのだが。距離五十で的は固定されておらず、つるされている。

しかも振り子のように揺れていた。なぁ、幾らなんでもあんまりじゃないか?

 

「さぁ、どうぞ」

 

 学生がいい笑顔で俺に弓を渡してくる。さすがに魔力弓は使わせてもらえないか。

有ったとしてもジャスティのように軌道補正をしてくれるわけじゃない。

 

 

 

 

 人が集まっている。さすがにこんなのに挑戦する奴はいないからだろう。

だが、関係ない。すでにイメージは固まっている。

 

 揺れていようが距離が離れていようが内なる的にすでに的中が描かれている。なら、俺はそれに従って矢を放すだけ。

 だが、いつもよりもさらに集中する。三本全て中心に的中させるのだ。

イメージ上で矢が重ならないようにしなければならない。

 イメージは固定。風向、風速、許容範囲内。後は矢を放すだけだ。俺は一息に三本矢を順次に放った。

 

 

 風切音を響かせて矢が突き進む。結果は見るまでもない。すでに当たっているのだから。

 歓声が上がる。全てが同じ箇所に突き刺さる。

つるされているお陰で他の矢が邪魔に成ることはなく三本の矢が交叉するように決まった。

 

 

 

 歓声が上がるがそんなものを気にせず俺は景品を手に取り三人に渡した。

 三人に景品を渡すと嬉しそうな表情をしてくれた。少し頑張った甲斐があるというものだ。

 

 ぬいぐるみを受け取ったレンはぬいぐるみを抱えているのかぬいぐるみに抱えられているのか分からない状態になっていた。

 回るのに支障が出るので受付のほうに預かってもらたのだが、そのときのレンの寂しそうな表情が少し俺の胸に痛かった。

 

 

 

「よっす、お疲れさん」

 

 受付業務をほっぽりだしてきたのかセルが話しかけてくる。

 セルの眼に映るのはもちろん景品の数々。

 

「さすがにあれぐらいじゃ蛍火にはダメか」

「厳しかったですけどね」

 

 セルの言葉に苦笑してしまう。

 あれは幾らなんでも厳しすぎると思う。当てた自分がいうのもなんだが。

 

 

 

 唐突に聞こえた悲鳴。

 そこには一般参加者をひれ伏させている傭兵科の男、三人。

 

「へへっ、こちとら毎日鍛えてんだよ!」

 

 倒れている人に唾を吐きかけるように罵る。

 阿呆は何処にでもいるのか。学園の質ももう少し考え直さないといかんな。

 

「アイツラ、またかよ」

「またという事は、何度か?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。これは今回初めてだけど……」

「なるほど、普段から素行が悪いと」

「あぁ、そういうことだ」

 

 苦々しく語るセル。セルとしても何とかしたいのだろうが。

 いかんせんセルは教師ではない。それにセル自身、優等生とはとても呼べない。

 実技だけ見れば相当なのだが…………普段の行いが……

 

 

「やれやれ、責任者として諌めないといけませんね」

「あいつら、三人揃うと実力が結構あるぞ?」

「セルが本気を出したとしても?」

「いや、最近は慣れてるからギリギリ勝てるけどさ……」

「なら、なんとかなりますね」

「おいおい、蛍火なら楽勝だろ?」

「……はぁ……」

 

 セルの言い方にため息を付いてしまう。

 セルは武器さえ良質なモノが揃えば体術が苦手なベリオと戦う事さえできる。

 

 それぐらいの力量は備えているというのに…………比較対象が俺や大河だからだろうか?

 

 

 レンとアムリタ、エリザに謝りながら俺は責任者としての責務を果すべく足を向けた。

 

 

 

 

 

 

「すみませんが、私と一戦お願いできますか?」

「あぁ? ひっ」

 

 俺が言葉をかけるとすぐさま身体をすくみあがらせた。

 なんというか本当に弱者しかいたぶれない下種のようだ。

 …………それは俺も変わらんか……

 

「模擬戦を一つお願いします。こちらはこれで」

 

 俺は内ポケットから、お玉とフライ返しを取り出す。これが今回の武器だ。

 

「って、おいそれは危ないだろ!!」

 

 脇で見ていたはずのセルの綺麗なツッコミが入る。ふむ、確かに危険か。

三人組に少し待ったをかけて俺は受付に言って画用紙を貰う。

 

 どうやらあの三人組は付いていけないようだ。

 

受付に画用紙が何故あったのかは突っ込まない。この世界に何故あるかも突っ込んではいけない。

 

もちろん、このままは使わない。折りたたんで。よし、出来た。

 

「なぁ、蛍火。それは何だ?」

「見て分かりません? ハリセンです」

 

 浪速の最強武器ハリセン。お玉とフライ返しが使えないのならこちらを使うしかない!

 

「そんな事は分かってる!!お玉とフライ返しが危ないからって何でハリセンが出てくるんだ!!

「えっ?だって、金属製のものは怪我させてしまうかもしれないから危険だってセルが言ったじゃないですか」

 

 だから、完全に殺傷性のない物を取り出したのだ。

 

「違う!! お・ま・えが危ないって言ったんだ!!

 

 セルの必死な説得で漸く意味が分かった。

 あぁ、なるほど。俺が危なかったのか。考え付かなかったな。

ここまでボケを続けているし、もう少し続けるか。

 

「セル。ハリセンをなめないで下さい! ハリセンは最強の武器なんですよ!

「んなわけないだろ!!

「いえ、漫才においてと私の世界のとあるゲームでは最強武器ですよ」

 

 漫才においてはもちろん、テイルズ・オブ・シン○ォニアでは店で手に入る武器としては最強だった。

というか使えば使うほど成長する魔剣は反則だと思う。

 

 

「さて、では一手ご教授願いますかね?」

「って、本気でそれで戦うのか!?」

「えぇ、お遊びですから」

 

 

 もう一度、あの三人組に向かい合うと何故か怒っていた。

 怒る原因なんて一つしか思い浮かばないが、

 

「さて、始めましょうか。あぁ、先に言っておきますけどハリセンだからって手を抜きませんからね?」

 

 俺の言葉を挑発と受け取ったのか三人組は構えていく。

 隙が中々にない構えだ。三人で戦う事に慣れているのか即座に立ち居地を変えている。

 

 セルが言うほどの事はある。

 

 

 

 

 ……だが、それだけだ。

 

 

「なめやがって!」

「もう取り消さねぇからな!」

「救世主候補だからっていきがってんじゃねぇ!」

 

 

 三人が襲い掛かってくる。

 三人で上手く分担して攻撃が重ならないようにしている。セルの言う通り三人揃うとそれなりに強さを誇るようだ。

だが遅い。

 圧倒的に遅すぎる。大河になんか及びつかない。カエデにも追いつけない。

 セルなんてもってのほかだ。恐らくリリィでさえも逃げ切れるだろう。

 ベリオはちょっと難しいかもしれないが……

 

 

「遅い」

 

 一人目の側面に回り、ハリセンを一閃。

 小気味いい音をしながら相手の顔面にはじける。

 大きな音と決して無いわけではない衝撃によって相手が態勢を悪くする。

 

 これで一人。

 

 一人目が痛みに悶えている事にあまり気にせずに二人目が突っ込んでくる。

 そこは褒めよう。

 

「だが、剣筋が単純すぎるぞ?」

 

 一直線に切る事しか考えていないその剣筋は読み安すぎる。

 一定以上の練度を持つ相手ならばその攻撃は容易く読み取れる。

 

 またハリセンを一閃。

 今度は刺突の形で持って咽に突きつける。

 紙だからといって甘く見ていたのだろう。予想以上に痛みに悶えている。

 

 戦おうと思えば紙一つでも十分に人を殺せる。

 その意志とそれを行えるだけの腕さえあれば簡単に……

 

 

 地獄突きを食らって悶えている仲間のせいで反応が鈍い三人目。

 考えにくい現実に翻弄されているのだろう。

 

 だが、戦闘を行っているのであればそれは致命的だ。

 

「止まっている暇があると思うのか? 戦場はそれほど優しくないぞ?」

 

 二つのハリセンを重ねるようにして浸透頸をたたきつける。

 紙だからといってこんな芸当が出来ないのでは話しにならない。

 

 

 

 十秒もかからないうちにいきがっていた三人は潰れてしまった。

 やれやれ情けない。

 

 それとも精神的に余裕をなくしすぎたか?

 

 

 

 


後書き

 ついに始まった学園祭。

 といっても私自身はあまり大きな学園祭という物を経験した事がないのできちんと描写できているかちょっと不安です。

 最初のコスプレ?では三人に似合う服を。レンのコスプレが歌月十夜のレンとそっくりって言わないで下さいね?

蛍火がつけたアザミのブローチ。アザミの花言葉は独立。そして、私に触れないで。その他にもあります。

ある意味で蛍火にぴったりの花です。皮肉な事ですけどね(苦笑

 気になるのでしたら調べてみてください。面白い結果が出てくるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

観護(さて、弁解は?(怒))

 ごめんなさい(土下座

観護(先週休んだなんて……理由は?)

 リアル事情です。うぅうう、すみません。

観護(馬鹿野郎!!)

 ぐはっ、うぅ、本当にすみません。

観護(反省だけはしてるみたね、ペルソナをいじめてても話は進まないし進めるわよ。

蛍火君。はっちゃけてるわね)

 学生だけがはっちゃけるようなイベントじゃないし。

観護(でも、ハリセンを使うなんて……どうして私を使ってくれないのよ!)

 使ったらダメだろ。明らかに相手にならないし。

観護(それ以前に蛍火君が相手になった時点であの三人の負けは確定でしょ?)

 そだな。あんなのに負けるはずないし。

観護(でも、レンちゃん。可愛かったわね〜。きれいともいえるわ)

 そだな〜。白を際立たせるには黒しかないだろ?

観護(その意見は安直じゃないかしら?)

 あ〜、まだまだ未熟ってことだな。そこは精進するわ。これからも。

観護(がんばりなさい。さて次回予告)

 次回はちょっとばかり戦闘が? その後のイベントも! ……起こる予定です。

観護(まだまだ続く学園祭一日目!)

 学園祭は二日で終わりますので……話数がかなり多いですが。

 では、次の話でお会いいたしましょう。





三人娘の衣装チェンジがメイン!
美姫 「うわー、言い切っちゃったよこの人……」
それぞれ、素晴らしい姿を披露してくれた訳だが。
美姫 「他にも学園祭、それもアヴァターならではみたいなのもあるわね」
闘技場なんかはそうだね。他にどんな展示物があるのかな。
美姫 「救世主候補たちの出し物は何かしら」
大河がいる時点でメイド喫茶とかを期待しているんだが。
美姫 「まあ、すぐに却下されるでしょうけれどね」
ぐぬぬ、どんな出し物が出てくるのか楽しみにしていよう。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます。



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