俺は自らの弱さを取り戻したその日は静かに過ごし、レンとの約束を護る為に必死に頭を動かした。

 誰も俺に異変に気付く様子は無い。

あぁ、当たり前だ。もし誰かに気付かれてしまったのなら俺が仮面を被ってきた意味がなくなる。

 

誰にも気付かれなかったことこそが幸い。そしてそれこそが俺の愚かな証。

だが、俺の小さくて確かな救い。

 

 

 

 

 

 

第五十五話 学園祭を始めよう!

 

 

 

 

 

 

 

 俺は前日に纏めた書類を手に持って、学園長室に走った。

 昨日、他の時間を全てを犠牲にしたかいだけあって、今この腕の中にあるものは中々の出来になっている。

 後は、何とか説得するのみ、

 

 

 

 学園長室の前に付くと知っている人物の気配がした。

 それはクレアの気配。あぁ、何て都合がいい。それともそれすらも…………

 

 余計な事を考えるのはよそう。今は約束を果すだけだ。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。クレアさんがいるなんて珍しいですね」

「まぁな。ちと学園に用事があっただけだ」

 

 相変わらず年に似合わない威風堂々とした態度と言うか枯れている態度と言うか。

あの態度から言って本当に公務関係だろう。

 

「すみませんが少し話を聞いてもらっても宜しいでしょうか?」

 

 俺の真剣な態度に当てられたのか、二人は居住まいを正し、俺の方を真面目な表情でむいた。

 本当に今はありがたい。

 

「近日中に学園祭を開きたいと思うんですけど、いいでしょうか?」

「「学園祭?」」

 

 二人はその言葉の意味が分からないようだ。そうか、この世界には学園祭と言う概念はないのか。

 

 俺は自分が経験した学園祭をこと細かく説明した。

 

「つまり、生徒主催で騒ぐ行事ですね」

 

 まぁ、要約するとそうなるな。だが、それでは身も蓋もない。

 

「楽しそうだな」

 

 学園長とは対照的にクレアが子供のように目を輝かせながら呟く。

そうだよな。普段は遠くから見るしかないし、この世界の祭りは基本的に神事が多いしな。

 

「やってみてもいいかもしれぬな」

「殿下! 感情だけでお決めになってはいけません。それで、蛍火君。何故それを行おうとするのですか?

 理由と行うメリットを話してください」

 

 それもそうだな。金が掛かると成ったとしたら、大変だ。

 

 大丈夫、そこはきちんと考えている。

 

「えぇ、その前に私が話した学園祭と今回行おうとする学園祭は根本的に違います。

楽しむことは当然ですが、これを成績につなげようと思います。

 学園祭の成績のつけ方は基本的にテストです。しかしそれだけではその人の持つ人間性までは図れません。

例えば、リーダーシップ、金勘定、発案力、などなどのテストでは見えない点を評価するためにしたいと思います。

 また、学園の外、王宮からや貴族の方も呼んで学生の評価をしてもらいます。

そこで誰が気に入ったか見て貰います。普段この学園からは推薦はしても逆に指名をしてもらう制度はありません。

これを期に雇用主の方たちとの関係を深めたいと思います。

 補助金は一切なし。その中でどういったやりくりをするかも評価対象とします」

「ちょっとまて、一切の金をかけないのは理想的だが、それでは規模が小さくなるだろう?」

 

 たしかに、クレアの言う通りだ。だが、その中でもやりくりは出来る。

 

「確かにそうなってしまう可能性も否定できません。ですが、それすらも評価対象。

自分たちでお金を出し合うもスポンサーを求めるも借金を使用もそれすらも見るべきところです。

 そして、学科ごとの特色を持たせて今までの習ってきたことの集大成として何かをさせる。

そうすれば多くの理解を求められると思います」

「この行事を行う際の全ての行動が評価の対象と言うわけですか。たしかに、メリットはありますね。

学園と国民の関係は意外と薄いですから。それにこれを今までの授業の成果を見ることが出来る。

しかし、何故、この時期にしようとするのですか?」

 

学園長は訝しげな表情とキツイ視線でこちらを見てくる。それが妥当かもしれない。

だが、今この時期で無いとならないのだ。まだ、破滅が活性していないこの時期でないと出来ない。

そして、それ以上にレンと約束したのだ。だから、出来るだけ早く叶えてやりたい。

 

「これを行う理由。まずは学園の有用性を示すため。

そうすればこの学園がこの戦いが終わった後にも存続できる。そしてそれは来年もする事が出来るという事にもなる。

 この祭りが成功すればこんな楽しい事が来年にも待っている。

そう考えることが出来れば今、下降の傾向にある士気を向上できるからです。

 そしてこのためにがんばろうという気を起こさせるため。逃げ出すものを減らすのと士気の向上をもたらす事出来ると思います」

 

 士気の向上、それは白の主である俺がしてはならないこと。

けれど、人の心を取り戻してしまった俺はレンとの約束を護りたい。

せめて、最後を笑顔になれるように努力したい。

 

「それだけですか?」

 

 学園長が伺うように聞いてくる。これだけの理由では不服だろうか?

確かに俺がこれを行おうとする理由がない。もう一つ、嘘であって嘘で無い嘘をつこう。

 

「…………これは公にしたくないですが、この祭りは鎮魂際です。これまで犠牲になった命に対する――あなた方のお陰でこういったことができると言う感謝の気持ちを込めて。

そして、これから死に行くものへの鎮魂際。せめて最後は優しい夢で終われるようにとの意味合いです」

 

 すでに犠牲になった人の為にするのではない。これから眠りに付くであろうたった一人の為にする祭り。

思い出せるものが美しくあるように。ただ、そのため。

 

「そうか、そこまでの理由があるのか。だが、それによって生じるデメリットはどうする? 

理想だけでは人は動けんぞ?」

 

 クレアの言う通り、ただ単にメリットだけに眼を向けているだけでは人は動けない。

 ましてや国が動くとなれば何かを行う際に出てくるデメリットを無視できない。

 

「私だけではデメリットを解決できません。ですから王国に助力を願いたい」

「ふむ、それにかかる費用は誰が出すつもりだ?」

「もちろん、私が出しますよ」

 

 当たり前だ。これは俺の我がまま。

幾ら、王国と学園にメリットが存在するとはいえ、それによって生み出されるデメリットは全て俺が背負わなければならない。

 

「らしくないぞ、蛍火」

「…………思う所が在りますから」

 

 全ては答えられない。彼女達は知ってはいけない。誰にも教えてはいけない。

 俺の心の中は、そうでもしないと俺は…………

 

「よかろう、全てのデメリットをお前が背負うというのなら、私達はメリットだけだ」

「ありがとうございます、殿下」

 

 クレアに頭を下げ、感謝の言葉を紡ぐ。

 俺のわがままを聞いてくれたことは本当にありがたい。

 

 

「蛍火君、それだけの負担を背負いきれますか?」

 

 学園長の心配とそれ以外の感情が混じった視線が貫く。

 彼女は一応は俺の雇い主。それ以上に彼女にとって俺は有用な情報源。

 壊れるわけにはいかないのだろう。

 

「平気ですよ、私が自ら選んだモノぐらいは背負いきってみせます」

 

 俺はやると決めたのだ。レンのために、そして、俺のために。

多少の無茶など平気だ。無理を押し通してきたのだから。

 

 だが、背負いきってみせるか……背負いきれなかった俺が何を虚言を……

 

「して、開催は何時にしようか」

「準備期間は明日から一週間。代表者会議は明日一時からにしましょう」

「早すぎませんか?」

 

 さすがに困惑を隠せていない学園長。

 まぁ、あっちの学園祭でもこんな短い期間のはないだろうな。俺が言おうとする前に思わぬところから声が出た。

 

「それすらも評価対象と言いたいのだろう?」

 

 大河に良く似たいたずら小僧を思わせるクレアの笑み。

 さすがにクレアには読まれたか。まぁ、その言葉を結構繰り返していたからな。

 

「えぇ、詳細は作ってますので学園長とクレアさんは王宮の方を。根回しはしておきますから、

学園長は明日の朝、生徒に伝えておいてください。

今日教えて、明日まで時間をかけるよりも明日の朝、唐突に教えて行った方がいいですから、

クレアさん。すみませんが、当日までの破滅の情報を私に渡してください」

「うむ、それぐらいは容易いぞ。任せい」

 

 クレアの言葉を聞き、俺は退室する。さて、いろんなところに圧力とかかけておかないとな。

 ドアに手をかけたとき、後ろから、声が掛かってきた。

 

「蛍火君。貴方は何もかも背負いすぎです。少しは誰かに頼ったほうがいいのでは?」

 

 未来を知っているという俺の事を知る学園長からの気遣いの言葉。

 警戒は未だにしているが、それでも気遣ってくれる学園長は本当に優しい。

だが、それさえも不要。俺は独りで生きる。

今も、これからも、誰にも話さずに独りで生きると決めたんだ。

 

「性分ですので。それに自分の荷物を誰かに持たせるほど私は落ちぶれてはいません」

 

 そう、自分の責務を果たす。それだけだ。

 さて、ダウニーを説得しないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方までにはすでに王宮の方では案件が通り、全面のバックアップを得られた。

 後は、白の側の動きを抑えるだけだ。

 

 

 夜のガルガンチュアにて全員にことの経緯を話した。

 まだ、準備が整っていないこともあって、誰もが不詳ながらも了承してくれた。

 

 ロベリアや、イムはこちらに来る気満々だったがきちんと釘を刺しておいた。

 ルビナスが目覚めていないとはいえ、リコは目覚めているのだ。

 それに大河はイムを知っている。俺とイムの関係を知られるわけにはいかない。

 まだ、それを知るには舞台が整っていない。まだ早い。

 

 酒を傾けていると人の気配。あぁ、やはりダウニーか。

 

「らしくないですね」

 

 ダウニーが不機嫌そうにしている。

 それはそうだろう。学園祭について最後まで抵抗していたのはダウニーなのだから。

 

「そうですね。私もそう思います」

「どうして、今更鎮魂祭など考えたのです? 今まで貴方は人を殺してきても何も感じているようには見えませんでしたよ?」

 

 ダウニーの言う通りだ。俺は今まで人を殺してきても何も感じなかった。

 けれど、大切な人を失う恐さを思い出した俺はやっと人を殺すことの重さを知った。

 どんな事をしても人は帰ってこない。だから、本当は鎮魂祭になんて意味は無い。

 送るときに笑顔になったとしても送った者は笑えないのだ。

 

「さて、どうしてでしょうか? ふと思ったからです」

「真意を私に言う気は?」

「ありませんよ?」

 

 答えられない。今までのように答えないではない。答えられない。

 だから、俺は誤魔化すしかない。無様だな。

 

「…………」

「…………」

 

「……ふぅ、分かりました。元々貴方に真意を聞けるとは思っていませんでしたし」

「そうですか」

 

 自棄酒のようにグラスをあおるダウニー。やはり気になるのだろう。

 

「ですが、今の貴方のままでいてもらうのは困ります。何があったのか知りません。

 貴方は我らの王。祭りが終わるまでには以前のようにしていてください」

 

 睨み付けるような言葉に絶句してしまった。

 あぁ、そうか。俺はまだ、新城蛍火に戻れていなかったのか。

 

「ふふっ、そうでしたね」

 

 

 あぁ、感謝するダウニー。俺が何でいなければならないのか思い出させてくれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、昼食の時間も終わって、そろそろ時計の短針が一の文字に掛かろうとする頃。俺はある教室の前にいる。

 その中からすでに喧騒が聞こえる。まぁ、内容はこの前の初めての授業の時よりも戸惑いのほうが多い。

いきなりの告知ですぐに容易しろだもんな。

 さってと、始めますか。

 

「はーい、日直。号令」

 

 俺はこの前と同じように極自然と中に入る。やはり、驚いているものが大半だ。

特に大河とベリオ。俺は普段この時間学園にいないことを良く知っているから誰よりも驚いている。

 

「なぁ、蛍火。この学園に日直の制度はないんだけど」

 

 セルが比較的冷静に言葉を発した。

けれど、かなり動揺しているな。ツッコミにいつもの切れがない。及第点っと、

 

「冗談はその位にしておいて、さて、皆さんも知っていると思いますが、これより一週間後に学園祭を開きます。

突発的なイベントなので何をしていいか分からないと思いますので今から説明をしたいですが、面倒なので色々とはしょりますね」

 

 面倒の発言で倒れているものが数人いる。ふむ、お約束を理解しているとはアヴァターも侮れないな。

 

「大体のことはすでに紙に刷っていますからそれを見てください。別に隅から隅まで見る必要はありませんから、軽く見る程度で」

 

 ここにいるもの大半が戸惑いながらも俺が用意したプリントを注意深く見ている。まぁ、相変わらず大河は例外だが。

 情報の有用性と少ない情報から有益なものを引き出そうとする姿勢は例え戦闘をするものでなくても、

いや、生きることにおいて重要なことだ。それをここにいる者は理解している。

 選ばれただけはある。これなら、戦が終わった後の世界も暗くはならないだろう。

 

明るい未来とは言わない。

神を倒した後に待っているのはきっと人と人との欲望のぶつかりあいだから。それはどの世界も同じだろう。

 

「あのっ」

 

 少々くだらないことを考えすぎたようだ。読み終えた農業科の女性が質問をしようと声をあげているのを気付くが遅れるなんて。

 そうだ、本当にくだらない。俺がこの世界の行く末を考える必要は皆無なのに、

 

「この学園祭の目的が士気向上と言うことですけど…………」

 

 そこで言いよどむという事は、そのさらに先を考えていると言うことか。

これは戦争のための汚い行事だとな。たしかに、その一面もあるが、

 

「たしかに、その一面もあります。これから戦争はより厳しくなるでしょうから遊べるうちに遊ぼうと言うことですけどね。

ぶっちゃけると私が遊びたいだけなんです。この世界に来てから娯楽と言う娯楽を体験していなかったので、

要は私の我侭で作った行事なんです。そこに書いてある目的は周りを納得させるためのものですから」

「それは職権乱用では?」

「ふふふっ、権力なんて物は使うためにあるものです」

 

 数人が呆けている。まぁ、俺はあまりそういう事を言う奴ではないからな。

というよりも権力は嫌いだからな。おそらく俺の対するイメージが崩れたんだろう。

 

「といっても完全にお遊びでは出来ません。一応学園祭自体も授業の一環として行う予定です。

ですのでクラスごとの出し物をしてもらいます。その出し物は自分たちの学科の特色を持ったものにしてもらう予定です」

「あの、戦闘関連の学科とか、出し物に適さない学科は難しいのでは?」

 

 その学生の言う通り、かなり難しいだろう。だが、そこは俺の知ったことではない。

 俺は、祭りをしたいだけなのだから。

 

「そこは工夫です。そういうところが成績に関係しますから、がんばって知恵を出してください。

それと、別に他の学科と合同でしてはいけないなどという事はないです。

何処と組めば自分たちの特色を出せるのかを考えるのもいいでしょう」

 

 その言葉を聞き、戦闘関連の学科や、放送科、建設科は少し考えている。

期間が短いこともあるからな。今から考えなければ間に合わない。

 

「あのっ、補助金の類は一切出ないとかいてあるんですけど」

 

 ふむ、それは大きな要項ではなく、細かいところに書いたんだが良く気づいたな。

 

「はい。一切出ません。資金をどうやって用意するか考えてください。

まぁ、その代わり売り上げは貴方たちのものですから。損をしないようにがんばってください」

 

 沈黙が部屋を覆う。まぁ、ある意味学園祭の間だけの自営業と変わらないからな。

さて、この中のうち、一体どれだけがスポンサーを求めるのだろうか? 楽しみだ。

 

「ついでに、学園祭でアンケートをとって一番面白い出し物をしたと認められたクラスには卒業までの間の学食での食べ放題の権利か、

キュリオかファミーユの一週間分食べ放題の権利が与えられます」

 

 食べ放題のところで全員から喜色の悲鳴が上がる。ここに通っている者の大半が苦学生だからな。喜ぶのも当然か。

 

 

「まだありますよ。配布したプリントに書いてあるように、この学園祭は逆指名制の試験です。

この学園祭で最も雇いたいとオファーが来た人にはホテル・アヴァターのロイヤルスイートルームに一泊二日のペアでのご招待券を用意します。選ばれた際には是非とも楽しんでくださいね」

 

 先ほどの悲鳴よりもさらに大きい、悲鳴と言うよりも絶叫が部屋に満ちる。

大河は思案顔で、ベリオは妄想にふけり、その他の者も結構酷い状態だ。

 

 

ホテル・アヴァターといえばこの世界における最高のホテルだ。予約は一年前から取らなければいけないほどだ。

サービスも最高級。その中でもスイートに泊まるなどこの世界でも数えるほどしか出来ない。

俺はこの世界に一年も前に居たわけではないし、学園祭について考えたのも今日だ。

本来なら取れるはずはないが、まぁ、そこは人脈の使いどころだ。無駄に広いからな。後、裏金?

 

「狂喜乱舞するのは分かりますが最後まで話を聞いてくださいね」

 

 その言葉だけで、ぴたりと喧騒がやむ。先ほどまで騒ぎようが嘘のようだ。

大河は先ほどからずっと静かだが。なんとなく誰を誘うか考えていたのだと思う。

もう自分が最優秀賞に選ばれると思っているのだろうか? さすが、大河。

 

「今回の学園祭は景品が豪華ですし、尚且つ始めての行事ですから色々と張っちゃけてしまうでしょう。

中には法律に触れるようなことを考える人も居ると思います」

 

 数人が顔を横に逸らした。すでに考えていたのか。本当に優秀な奴が多いな。

 

「しかもみなさんは学生ですからね。やりたいことはたくさんあるでしょう。

けれど、そういう法律に触れるようなことは決して――――――ばれないようにしてくださいね?」

 

 全員が全員、口をぽかんと開けている。本当にこいつらはリアクションがいいな。優秀だとリアクションも上手いのだろうか?

 

「あの、蛍火さん。こういう場合はしないように注意するんじゃないんですか?」

 

 比較的俺の突飛な行動に慣れているベリオがおずおずとした感じで全員の心情を代表して言った。

普通の職員ならそういうだろうな。しかし、俺は臨時職員だし別に気にする必要もない。

 

「無理に押さえつけてもどこかで暴発してしまいますからね。それに私も学生だったんですから無茶をしたい気持ちはよく分かります。でも、モラルに反する事は出来るだけしないで下さい。さすがに、そこはフォローできませんからね」

 

 さすがに盗撮写真の売買をされては学園の品位を疑われる。

それも決して見つからないように出来るのなら俺は止める気はない。

 

「さて、期間は短いですから全力で取り掛かってください。あっ、ついでに言うと明日から一週間。

通常の授業は休講になりますから、午前から奮闘してくださいね。それでは解散です」

 

 一人、また一人と教室から学生が出いく。さて、伝えるべき事は終わった。俺もさっさと用事を済ませないとな。

俺のせいで学園祭が開催できないとなったら目も当てられない。

 

 

 

 

 

 

 

「蛍火さん。すぐにみんな呼んできますから待っててくださいね」

 

 ベリオが謎の言葉を残して教室から出て行った。どういうことだ?

 

「蛍火もとんでもない事するな。学園全部巻き込んで遊ぶのかよ。まぁ、俺は楽しけりゃそれでいいけどな」

 

 大河は心底楽しそうに笑う。俺と似たような世界から来た大河にとってもこのイベントは嬉しいものなのだろう。

 

 

 

 意味もなく大河と雑談をしていると扉が開いた。結構早いな。

 

「まったく、厄介な事してくれるわね」

 

 俺を見るなり開口一番が皮肉か。さすがはリリィ。こういう行事をする事になっても変わらない。

 

「リリィさんの言う通りだけど、でもこういう楽しいことが会ってもいいんじゃないかな?」

「けれど、破滅が活性化しているこの時期に遊ぼうとするのは危険です」

「確かにリコ殿の言う通りでござるが、楽しむときに楽しまないと戦えないでござるよ。

それに行方不明のものの結構居るでござるからな。気分転換も必要でござる」

 

 口々に上がる救世主候補達の意見。

賛否両論というところか。まぁ、今更だ。もう行うことは決定しているのだから。

 

「まぁ、やるからには徹底的にしないとね。この学園の象徴である私たちが他の学科に巻けるわけには行かないわ」

 

 リリィよ。この場合は徹底的ではなく全力で、ではないだろうか? 言い方が物騒だぞ。

 

「そうですね。まずは私たちが学園祭で何をするか決めないと。

蛍火さん。貴方がこの行事を考えたんですからすでに出し物は決まっているんですよね?」

 

 出し物を決めている? もしかして俺も救世主クラスとして学園祭で活動すると思っているのだろうか?

あぁ、その可能性は高いな。

 

「ありませんよ。そもそも私はこの学園祭の責任者ですから出し物をしている余裕はありません」

「…………ちょっと待ちなさいよ。あんたは救世主クラスの一員でしょ!? なんで参加しないのよ!」

 

 リリィの言葉に俺は驚きを隠せなかった。リリィが人を頼るなんて。

リリィのことだから俺の事なんか考えもせずに出し物を決めると思っていたのだが。

 

「参加したいのは山々なんですけどね。急にこの行事をする事にしてしまいましたから、色々と準備が必要なんです。

私の仕事を手伝ってくれると言うのなら私も参加しますが」

「どんな仕事ですか?」

 

 リコも俺に参加して欲しいのか小さなことなら手伝うといった気概で話しかけてくれた。

だけどなぁ、たぶん無理なんだよな。

 

「まずは、貴族の招待状書き。その上でその屋敷に赴いての学園祭の説明。王都の各店舗に赴いての協力要請。

学園の当日警備の配置。開会式、閉会式の段取りの決定。などなど、他にもたくさん。

手伝ってもらえるとしたなら紹介状を貴族の屋敷に届けてもらうのですかね」

 

 まぁ、一番大きな学園祭準備期間中の近隣の警備は言わないほうがいいだろう。

警備の事を言ってしまえばこいつらが学園祭を楽しむことは出来ない。

 

「うげ、あいつらと直接話さないといけないの?」

 

 リリィだけがいやそうな顔をする。そういえば、リリィは学園長の娘なんだから面識とか付き合いはあるよな。

たしかに、辺に格式ばっているし面倒なことが多い。面会だけでもかなり面倒だからな。

 

「リリィさん。そんなに嫌なの?」

「嫌も何も、行く度に形式ばった挨拶しないといけないし、その上、必ず適齢期の屋敷の人を紹介されるのよ」

 

 紹介とは名ばかりで、殆んどお見合いに近いものだ。俺も幾度か紹介されたが、きっぱりと断っている。

リリィの場合は学園長のためと耐えているから毎回紹介されるのだろう。

 となると、未亜とか、ベリオは大変なことになるな。断りきれないだろうし。その点、リコとカエデは時間をとられないだろう。

 リコは話術で、カエデは天然で乗り切ってしまうだろう。

というよりも大河が伴侶だと言いかねない。まぁ、俺は別にそれでもかまわないが。

 

「大変ですねぇ。その様子だと、手伝ってもらうだけで一週間は過ぎてしまいますね」

「ですが、私たちが手伝わなければ蛍火さんは期日までに終わらないのでは?」

「いえ、私みたいな化け物と類縁を結びたいと考える貴族の方は少ないですから。手伝ってもらわないほうが早く終わります」

 

 俺の力に恐怖し、俺を疎むものは貴族には数え切れないほど居る。それだけ俺の力が異質だと言うことなのだが、

 まぁ、それと同時に俺が持つ力を欲する馬鹿がいる。そんな輩はどうなったか、クスクス

 

「そんな!! 蛍火さんは化け物なんかじゃないです!!」

 

 未亜が声を荒げて化け物という言葉を否定する。

しかし、俺が化け物と言う事実に変わりはない。それは誰よりも俺が知っている。

 

「物のたとえです。恐らく私の手伝いをしてもらったら学園祭の準備をする時間はなくなるでしょう。

私のことは気にせず学園祭を盛り上げる準備をしてくれたほうが私としては助かります」

「でも……」

 

 未亜はまだ納得できないようだ。まぁ、その中には俺を手伝って好感度アップなどと言う乙女心もあるのだろう。

 

「未亜、無理言うな」

「お兄ちゃん」

 

 それ以上の言葉を優しく遮る大河。

 

「蛍火の仕事は俺達には手伝えそうも無い。だから、俺達には俺達に出来る事をしないとな」

 

 己の領分をこの中で大河は誰よりも理解しているのかもしれない。

 大河はそういう男なのだろう。

 

「まぁ、馬鹿大河の言う通りね、私達は私達でやらないと。初めての事だからって気を抜けないわよ?

 私達はこの学園を代表する救世主クラスなんだから」

 

 未亜に挑発的な視線を送るリリィ。

 リリィも切り替えが早い。そして自らのことをよく理解している。

 

「そうですね。今までしたことが無いことですからちょっと気後れしてたかもしれません。

 でも、最優秀賞は譲りませんよ?」

 

 何処か挑発的な笑みを浮かべるベリオ。

 まさか、最優秀賞で出るので大河を誘おうとしているのか?

 

「いくらベリオ殿とて、最優秀賞はゆずらぬでござるよ」

 

 何気にカエデも狙っているらしい。

 もしかして、高級ホテルで好きな人と過ごすのって乙女の中でブーム?

 

「そうですね。私もゆずりません。今までの中でこんな事をした事はないですけど、負けませんよ?」

 

 ベリオとカエデを睨みつけるリコ。

 ん? 何か違和感があるんだが……

 

「……私も負けないよ。こんな事は初めてだけどそれでも負けない!!」

 

 拳を握り締めて燃え上がる未亜。

 何か、いらない対抗心が未亜にまで移ってしまったらしい。

 

 俺と大河はそんな光景を少し困った表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

「頑張ってください。準備の手伝いは出来ませんが当日の手伝いは出来るかもしれませんから、その時は声をかけてください」

 

 俺は今回教員として学園祭にかかわっている。それもあってどこかの学科にだけ手伝うことは出来ない。

 そもそも学生主体の行事に教師がしゃしゃり出てくるのはあまりよろしくない。

 というよりも臨時教師としてたっていることを知っているのだからその事に思い至るはずなのだが、

一緒に朝と夕の食事を取っているからそういう印象が薄いのだろうか?

 

 

 

 


後書き

 またしても先週は出せなくてすみません。

 この話では蛍火が学園祭をするにおいての準備。

 どんなに急いでも決めた次の日に出来るなんて無理がありすぎます。

 

 ダウニーの言葉によって彼がやっと蛍火に戻れました。

 彼は外面だけでなく内面にさえ仮面を被って生きています。その為前半と後半で随分と地文が違うと思います。

 最初から、彼は弱かったのです。

 

 赤側の者達ではなく何故ダウニーだったのか。救世主候補達もそれ以外も気付いていました。

 別にダウニーでなくてもいいんです。誰かが口にすれば彼は蛍火に戻っていました。

 けど救世主候補達は蛍火が何時か頼ってくれると信頼していたのがいけなかったのです。

 蛍火は話しません。何があったとしても。

 

 DUEL SAIVERで学園祭なんてしたのは私ぐらいじゃないだろうか?

 赤と白の両方に融通の利く蛍火だからこそですね〜。

 

 あぁ、今回観護がいないのは前回のように追い出した訳でなく蛍火に連れ去られたからです。

 美姫さん、遅かったようです。蛍火にはばっちり聞こえてたみたいで、なんか凄くヤバイ表情をしてました。

浩さん、死なないで下さい。

 

 予定では後三話分ぐらいは文化祭準備編です。話を纏める能力が低くてすみません。

では、次話でお会いいたしましょう。





ああー! 学園なんだから、このネタは確かにありじゃないか!
美姫 「盲点だったわね」
ああ。しかし、それをやるとは流石です。
美姫 「商品も豪華だし」
一体、どうなるのやら。
って、あれ、あれれ? 急に真っ暗に!?
美姫 「あら、久しぶりね」
蛍火 「俺の存在に気付きながら、何も言わないとは。寧ろ、こいつが憐れに思えるな」
美姫 「同情なんて似合わないわよ」
蛍火 「まあな。ただ言っただけだ」
……えっと〜。どんなご用件で?
蛍火 「死ね」
うぎゃぁ、な、何の理由も語らずにいきなり何しますか!?
蛍火 「……これぐらいでどうこうなるとは思ってなかったが」
美姫 「あ、やっぱり胸から観護を生やしても喋ってるという現象には多少驚くのね」
蛍火 「驚かないおまえたちの方が本来は可笑しいんだがな」
とりあえず、仮面をもう少し被ってもらえると助かるんですが?
蛍火 「死伎……」
待て待て待て!
って、ぎゃぉぉっぉぉぉ!
美姫 「あららら。消滅しちゃった」
蛍火 「ぜ、前回の教訓も踏まえ、念には念を入れて……」
美姫 「ぜーはー、言いながら何かしてる所悪いんだけれど、私にちょっとでも害が出たら……」
蛍火 「勿論、そんな愚は犯しませんよ」
美姫 「なら、好きにして」
蛍火 「中々に酷いですね。ですが、お言葉に甘えまして……」
美姫 「で、それは?」
蛍火 「とりあえず、封印のよなものと思ってください。
     恐らく、後十話……五話ぐらいは復活できないでしょうから」
美姫 「言い直したわね。まあ、でも五話は私一人で静かに進行できるのね」
蛍火 「ええ。それでは、私はこれで」
美姫 「それじゃあ、次回を楽しみにしてるわ」



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