昼ごろになったので俺は行きつけの喫茶店のほうに脚を向ける。

あまり気が進まないが報告もあるので行かなければならない。

今度にしてもいいのだが、いつかはレンのことが知られるので早いほうが後々気が楽だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十四話 蛍火の初めての経営! 〜アヴァターメイド喫茶物語〜

     静かな開店

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 蛍火君じゃないか。こんな時間にどうしたんだい?」

 

 店に着く少し前にキュリオの店長に遭遇した。

また休んでいたのか。

たしかに今日は平日だからそんなに混んでいないだろうがそれでも昼食をとりに来ているものはいるだろう。

大丈夫なのか?

 

「お店大丈夫なんですか?」

 

 俺の言葉にキュリオの店長はいつものように笑う。

 

「大丈夫だよ。うちは優秀なスタッフが多いから」

 

 だからといって店長がしっかりとしていないと駄目だろう。

まぁ、この人もしっかりしなければならないところはしているから大丈夫なのかもしれない。

 

「それで、その子が君の婚約者かい?」

 

 板橋店長が心底愉快そうな顔で聞いてきた。

違うと分かっていながら何故聞くのかね?

案の定、未亜とリリィから殺気が漏れる。

その殺気にレンが反応し、俺に抱きつき、さらに殺気があふれる。悪循環だ。

 

「くくく、取りあえずみんなのところに行こうか。全員に話すようなことだろう?」

 

 板橋店長と恵麻さんと仁だけでいいと思っていたんだが、たしかに、そうはいかないな。

 店長に引きつられ、俺はキュリオとファミーユに付く。

時間帯が時間帯なので昼を取ってからのほうがいいだろう。今日の飲み物は店に任せた。

 自分で言うのもなんだが俺が淹れるとその事が近隣の人に広まり、俺がいなくなるまで長蛇の列になる。

今日は閉店までいるわけにはいかないからな。

 

「今日はここで飲み物を淹れないの?」

 

 俺がここで働いていることを知っているリリィが不思議そうに聞いてきた。この前がこの前だからな。

 

「いえ、今日は用事がありますから。私が淹れてしまったら夕方まで寮に戻れませんよ」

 

 本当にどうしてこうなったのか。

 

「じゃあ、前から言われてる、時間帯によってとんでもなくおいしい飲み物が出るこの店って蛍火さんの仕業なんですか!? 」

 

 仕業って。俺のせいではないんだがな。板橋店長とか恵麻さんに強引に毎回淹れさせられてただけだしな。

 

「もう、蛍火さん。何でも有りですね」

 

 未亜がどこか諦めたように俺に言ってきた。褒められてる気がしねぇ。

 

「レン、好きなものを頼んでいいですよ。お二人も遠慮なく頼んでください。無理を言ってついて着て貰っているのですから」

 

 レンにメニューを渡す。二人にもメニューを渡し、おごりだと伝えておく。

そうでもしないと未亜は何も頼まないかもしれないからな。

もっともおごりといっても未亜は一番安いのしか頼まないと思うが。

 

 

 レンはメニューを見ながら難しい顔をしている。まぁ、めったに無いことだっただろうからな。悩むのも当然か。

 悩みぬいて決められなかったらしい。レンの目が俺に向く。

 

「蛍火。字が読めない」

 

 ははは、そっか。読めなくて悩んでたのか。そうか。辺境に住んでいたから字の読み書きが出来ないのか。

王都周辺に住んでいるからこの世界に済む全員が字を読めると思っていたのだが。生活水準が中世レベルだって事忘れてたよ。

 

 このまま字を読んでも料理の名前が分からないかもしれない。俺が選んでおくか。

 

「そうでしたね。私が選んで起きますから。お二人は決まりましたか?」

「こんなことで悩まないわよ」

「私も決まりました」

 

 未亜は当たり前のように一番安い料理を選んだ。別に一番高い料理でもこっちの財布は傷まないのに、

 

 

 余談だが俺の収入源は幾つかある。

まず、救世主候補として、学園の臨時教師として、喫茶店の店員として、たまに、執事としての。そして裏の仕事がある。

仕事は多いがその分全て高収入だ。この世界に来たときの数倍にまで膨れている。随分余ってるからな。使いどころが難しい。

 

「すみません」

 

 近くに由飛がいたので捕まえる。一番、被害が少ないはずだ。そう思いたい。

 

「はいはい。あっ、蛍火君。今日は……」

 

 未亜とリリィ、そしてレンを見て由飛が言葉を止める。その先は一体何を言いたい。

 

「あっ、うん。なんでもないよ。それでご注文は?」

 

 流してくれるのは嬉しいが、何だその眼は?期待に満ちたというか、異常なまでに輝いている眼は。

 

「これと、これと、これ。それとオムライス」

「蛍火君。オーダーが両方の店にまたがってるよ」

 

 あぁ、メニューを適当に取ったからどっちの店か気にしていなかったな。

 

「私からしたら同じです。両方で働かせられているんですから。」

「あはは、そうだったね〜。似顔絵はどうするの?」

 

 あぁ、そういえばファミーユにはオムライスに似顔絵を描くようにしていたんだったよな。さて、どうするか。

 何だかレンが眼をキラキラと輝かせている。頼んで欲しいのか?

 

「お願いします」

「わかったよ」

 

 楽しそうに鼻歌を歌いながら中に入っていく。こけなければいいか。あぁ、忘れていた。

 

「決して風美さんが作らないで下さいね」

 

 店の中で怒っている声が聞こえたが気にしない。

発案者なのに一番似顔絵が下手な人にはさせられないからな。

もちろん、俺も練習させられ何度描かされたことか。

 

「そういえば、そんなサービスしてたわね」

「上手く描けるんですか?」

 

 リリィが思い出したかのように言う。未亜は普段来ないからその腕前を知らないのだろう。

仁が描いてカトレアがもったいなくて食べられないといわせたほどの腕前だということを。

 

 そんなこの二店に関する裏話をしているうちに料理が運ばれてきた。運んできたのは由飛ではなく明日香だった。

 恐らく似顔絵を描くように頼んだのだろう。

 

「お待たせしました。似顔絵はどちらの方のを描けばいいでしょうか」

 

 由飛とは違いちゃんとした接客の仕方を出来ている。

まぁ、由飛のあの親しい接客はそれなりに好感を持たれているので問題は無いのだが。

 

「この子のをお願いします」

 

 レンの頭を軽く撫でながら伝える。

それを確認して明日香は滑らかな手捌きで似顔絵を描いていく。

その様子に未亜もリリィもレンも感嘆のため息をしている。

 

「出来ました。ではごゆっくり」

 

 去ろうとする明日香だが、彼女を呼び止める。

 

「あぁ、雪乃さん。後で両店員の方に話があるので時間をとってもらえますか?」

「えっと、蛍火さんの頼みだから大丈夫だと思うけど。時間が」

 

 明日香は俺が個人的に話したことにより普段の話し方に戻ってしまった。

それをとがめる気は無い。俺がプライベートの話をしてしまったからな。

 

たしかに、まだ一時にならないくらいだからな。

後一時間は待たなければならない。それまで待つしかないな。

 

「その間は待ちますので、」

 

 ん?それよりも俺が手伝ったほうが早いか。当然、飲み物の以外で。

 

「いえ、食べ終わったら私も飲み物以外で手伝います。出来れば早めに終わらせたいですから」

「分かりました。てんちょに言っておきますね」

 

 すぐに明日香はファミーユのほうに戻っていった。板橋店長はあれでも大丈夫だろう。

 

「ちょっと、いいの? そんな事約束して」

 

 リリィがつっかかってくる。

まぁ、レンをおいたままというのはあまりよくないだろうがまぁ、大人の事情というものだ。我慢してもらおう。

 

「出来るだけ先に済ませておきたいですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は食事を早めに済ませ、両方のヘルプに入る。

 

「仁君も蛍火君ぐらい働けないの?」

「無茶言うなよ、かすりさん。あれは人間技じゃない」

 

 俺が通常の三倍のスピードで仕事をしているとそんな声が聞こえた。

俺は同時に料理、皿洗い、レジをこなしている。もちろん、卵料理には手を出さない。仁の領分は犯すつもりは無いからな。

調理場にいないのに何故料理が出来るって?

ふっ、そんなもの必要ないさ。調理器具は魔力武具で作り、火は魔術でおこす。材料さえあれば何処でも料理は出来る。

まぁ、ちゃんとしたものがあるのが一番楽だが。今度、召喚魔法の応用で異次元ポケットを作ってみるかな?

 

 

 

 

 三十分でファミーユを抜け、キュリオのほうへ移る。ファミーユと同じように作業をする。

 

「うちの店長もあれぐらい働いてくれればねぇ」

「いや、さすがにあれは無理でしょ」

 

 などと囁かれた。俺は何処に言っても人外扱いのようだ。まぁ、精霊に人外認定されているので今さらだ。

 

 

 

 

 

 予定通り、二時には全員が休憩に入れるように終わることが出来た。客が来た場合は困るが、時間はとらせないつもりだ。

 

「それで、いったいどうしたんだ。蛍火」

 

 仁がこれから何を聞かされるか分からない全員を代表していう。

 

「実は先日、店を開くことが出来まして、そのお知らせをしようと」

 

 俺が告げると、驚きと喜びの声が聞こえた。

この人達はこんな俺ことでさえ、一つ一つのことで喜んでくれる。本当にいい人達だと思う。

 

「そっか、ついに自分の店を開くのか。人手が減るのは痛いけど、それでもおめでとう」

「ありがとうございます」

「う〜ん。でも、蛍火君が喫茶店をするとなると、新しいライバルが増えるね」

 

 喜んでいたムードが板橋店長の言葉によって静まる。

 

「しまった。蛍火が喫茶店を開いたら、料理、お菓子、飲み物の全てが完璧の喫茶店が出来る。

しかも店長は人格も優れてる。勝てる気がしない!」

「ねぇ、いっその事、キュリオと一緒に対抗したほうがいいんじゃ」

 

 などと不穏なことをいっているがそんな心配は無い。営利目的でやるわけじゃないからな。

 

「いえ、その心配はしなくてもいいですよ。道楽でするような喫茶店ですから。

カウンターが四つ。ボックスが一つしかないような小さなものですしね」

「いいのかい? 君がその気になればこの界隈で一番のキュリオとファミーユに対抗できるって言うのに」

 

 ライバルが出来るって心配したのに、なんでそこまで言ってくれるのだろう。

 

「いえ、静かに自分の時間を取れるような喫茶店で、たまに来る客相手に商売をする。それだけでいいですから。

それにここから近いので、飲み物をそちらに届けるようにすれば結構入りますしね」

 

 そういう風にすれば収入は入るし、人は来ない。それが一番だ。

今までとあまり変わらないような気もするが、それでも自分だけの場所を確保できるのはいい。

 

「まぁ、君がそういうのならいいけどね。じゃあ、これからはそこで休憩させてもらうかな」

「あっ、じゃあ私もする」

 

 板橋店長を皮切りに全員が遊びに来るといってきた。まったく。

 最終的に打ち上げなどをする場合は俺のところに来るという事までなってしまった。

のんびりしたいのに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからも雑貨を買い、その度に未亜とリリィに意見を聞いた。

さすがに生理用品は必要なかったようだ。年齢的にもう少し後だしな。

 髪飾りも雑貨屋で買い、レンはたいそう満足な表情をしていた。

その度に未亜とリリィの機嫌が悪くなっていったが。

 

「さて、もう買い物は終わりましたね。私とレンはこれから寄るところがあるので先に戻ってもらえませんか?」

「あんた、その子に変なことしないでしょうね」

 

 変なことといわれてもな。そんな事出来るはずもないし、するつもりも無い。

しようと思えばイムですればいいし。啼くだろうけどな。

 

「シアフィールドさんがどのようなことを考えているかは知りませんが、するつもりはありませんよ。

ちょっと、レンを紹介しにいかなければならない場所があるので」

 

 その言い方も語弊があるが、まぁいいだろう。

 

「さっさと帰ってきなさいよ」

 

 リリィはそれだけを言って、すぐに帰ってしまった。

未亜も名残惜しそうにこちらを何度か見ていたが、リリィを追いかけていった。

 

ふぅ、やっといったか。これでレンに店を見せられる。

 

「それじゃ、すみませんがまた歩きますよ」

 

 俺はレンを連れ、キュリオとファミーユがあるところまで戻る。

そして、少し行ったところに路地があり、その路地に入る。

 

 

 

 

 

路地を歩いていると程なくして目的地に着いた。

 外見は一軒家にしか見えない。だが、中身は違う。完全に喫茶店だ。

 

カランカラン

 

 出迎えるものがいないのに、まるで俺たちを迎えているようにベルが鳴る。

 木と石の香り。元の世界では中々嗅ぐことの出来ない香り。その香りが俺を落ち着かせる。

 俺はカウンターに入り、レンをカウンターに座らせる。

 

「ここは何?」

 

 店の中をしげしげの眺め眺め、結局ここが何か分からなかったようだ。

さっきはテラスで食べてたからな。

もう少し、一般常識を教える必要があるか。

 

「ここは私の店です。明日開店で、まだお客は誰も入っていません。良ければお客さま第一号になってもらえませんか?」

 

 レンはこれから親というものをなくして生きていかなくてはならない。

しかも、知り合いのいないこの王都で。

なら、せめてこれから、多くの人に係わり合いを持つだろうレンに何か、送ろうと思った。

そして、近い未来の別れの侘び。

 

 

 ふふふっ、この子がきてからというもの俺の考え方は変わっている。人らしくなりすぎている。

いや、第一の仮面がはがれないのか? 本当におかしい。

 

「何をすればいいの?」

「そこに座って、私が出すものを呑んでいただければ。それだけです」

 

 まだ、封の切られていない新しいコーヒー豆を取り出し、ミルで細かめに挽く。

サイフォンで使うから豆が荒いと味が出ない。豆を挽くと同時にサイフォンに火を入れる。

 

 ミルを挽く動きに合わせてレンの体が動く。ほほえましい光景だ。

 

 レンに入れるから、ブレンドでも甘みが出やすいブレンドにする。といってもミルクも砂糖も無しでは子供には飲めないだろうが。

 サイフォンの水がゆだってくる。ちょうどいい頃合か。

粉をサイフォンに入れ、お湯が昇ってくるのを待つ。

 少し待つとお湯が昇ってきてぽこぽこと沸き立つ。

その様子にレンは吃驚し、その後、面白いものを見るようにずっと眺めていた。

 

 粉がお湯に染み渡るように丁寧に混ぜる。そろそろ、降ろす時間か。

 アルコールランプをはずし、しばし待つ。蒸気が引き、上に上っていた水が落ちる。

 俺は暖めていたカップに移し、ミルクと砂糖を入れかき混ぜたものカップに落とす。完成だ。

 

「どうぞ」

 

 出来立てで湯気が昇るカップを不思議そうに眺め、そして意を決してレンはコーヒーを口に入れた。

 熱かったのか、かなり慌てている。

水をすぐに用意しレンに飲ませる。

 コクコクッと舌を冷やすために急いで呑んでいる。

 水を飲み終わるとレンは俺を睨んできた。熱いものを呑まされてかなりご立腹のようだ。

 

「レン。急いで呑むものではないんです。冷めるまでゆっくりと待ってそれから味わって呑めばいいんですよ」

「先に言って」

 

 レンはむくれた表情でカップを冷ましにかかった。

じっくりと時間をかけコーヒーを呑む姿は安心感に満ちていた。

 俺はその時間をレンと話をしたり店の手入れをしたりして時間をすごした。

ゆったりと流れる時間はこの世界に来て本当に久しぶりだ。

 

 

 

 

 

 

 大部時間がたってからレンはコーヒーを飲み終えた。ゆっくりしていいとは言ったがここまで時間をかけられては冷め切っているぞ。

 

「美味しかった」

 

 飾り気も何もない言葉。けれどそれが作った側の者としては一番嬉しい。

 

「そうですか。私はこれからほとんどここにいますから、用事があるときはいつでもきてください」

 

 俺は遠まわしにここにはあまり来ないようにと言う。本当に遠まわしにだが。

俺にはあまり懐いてほしくないからな。

 

「ん。分かった」

 

 レンはその一言だけを言った。本当に分かってるのか?

 俺は店を片付け寮に足を向ける。明日はまた、大変だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園に戻ると門番や、生徒、教師にまで注目が集まった。

大方俺の隣に知らない子供がいることが問題なのだろう。

しかし、何故だ、その危ないものを見るような目つきは。

 

 

 

 向こうのほうから土煙が上がりながらこちらに向かってくる物体がある。栗色に輝くポニーテール。あれはメリッサ!?

 すでに形相は般若の如く恐ろしいものになっている。レンもその様子にかなり怯えている。

怯えているためか、俺のコートに隠れるようにくっついてきた。

 

 

 そのすぐ後、土煙の上がる量が増えた。メリッサの視力では細かいところは見えないはずだが、これが女の力か。

 大方、誰かが曲解した噂を流したのだろう。

ふふっ、後で誰か知らんがつるし上げられることを覚悟しておけ。

 

 俺の黒い嗤いにレンはびくりと振るえ、俺に頼っていいものおろおろとしてしまった。

そんなに怖いかねぇ。

 

 さて、どうすんべや。カウンターを入れることは簡単だ。

しかし、そんな事すれば確実にメリッサは死ぬ。あの速度だからな。

 

「蛍火君!!」

 

 メリッサが黄泉の醜女のような声をだして接近する。

ごめん母ちゃん。俺、異世界で嫉妬にまみれて死にそうだ。

 

 あと少しのところでメリッサは急制動をかけ俺のちょうど前で止まる。

気のせいかな。地面と擦っている靴から火が出ていたような気がしたんだが。

 

 そして、メリッサは俺の胸倉を掴み、揺さぶってきた。

 

「蛍火君!!私というものがいながら幼女に手を出すなんて最低だよ!!

私たちに手を出さなかった理由はそういう事だったんだね!! 蛍火君殺して私も死ぬ〜!! 」

 

 ついにその手が俺の首にかかり、絞め殺そうとしているがその前にメリッサの頭に手刀を打つ。簡単に言うとチョップ。

 ズビシッといい音が鳴る。

当たり所があまりにも良すぎたのかメリッサが頭を抱え込みながら涙目でこっちを見てきた。

むっ、今日は幻影石を持ってないな。しまった。

 

「はぁ、トンプソンさん。よく聞いて下さい。この子は昨日の仕事で見つけて保護した子です。それで私が引き取った。そういう事です。

へんな勘違いをしないで下さい。そもそも私はトンプソンさんと付き合っていませんよ。

もっとトンプソンさんには似合う人がいますから勘違いさせないで下さい」

 

 今朝のように変なことは言わない。そういう時は面白くなるような面子でないと。メリッサ一人では反応が乏しくなる。

 それと、釘をさしておく。俺が鈍感であるということを、そして俺を見ないように。

 

うぅ、ストレートに言ってるのにどうして気付いてくれないかな?

 

それも気付かない振り。

まったく本当に聞こえないと思っているのか?

 ぶつぶつと何かメリッサは呟いていたが急に顔をはっと上げ、俺のほうを睨んできた。

ちなみに今回は聞こえなかったと言うよりは聞き取りにくかった。

 

「蛍火君。まっまさか、小さい頃から育てて蛍火君の理想の女の子をつくる気じゃ!? そんな……だめだよ!! 」

 

 どうしてそんな思考に行き着くのかね。はぁ、

 

「そんなつもりはありません。変なかんぐりは止めてください」

「はははっ、そうだよね。ごめん」

 

 俺の少し怒っている表情にメリッサはしゅんとなって謝ってきた。

 

「ほら、レン。自己紹介してください」

 

 今まで俺のコートに隠れていたレンがおずおずと出てきて、

 

「レン。レヴェリー・クロイツフェ」

 

 俺と出会った時のようにそれだけを言った。もっともあの時と違ってかなり怖がっているが。

 ふむ、資料と少し違う性格をしているな。母親がいなくなったから変わったということも考えられるが、分からん。

 

「へぇ、レンちゃんっていうの。私はメリッサ・トンプソン。メリッサお姉ちゃんって呼んでね」

 

 メリッサがにこやかにお姉ちゃんと呼ぶように強要した。

妹や弟はいるはずだが、何でわざわざそう呼ばせるんだ?

 

「分かった。メリッサお姉ちゃん。」

 

 レンの言葉にメリッサは有頂天といったように嬉しそうな顔をした。

周りにいる数人の男子がその表情に落とされている。

 

 

メリッサ、俺の敵をさらに作らないでくれ。

 さてさて、これで安心できる。のか?

 

でも、蛍火君に一番近いところにいるわけだから要注意だね。あの子が蛍火君を好きにならないって言う保障は無いし。

それに義理の親子の禁断の関係。シュチュエーションが整いすぎてるよ

 

なにやら、危ない発言をしているが放っておこう。

 

 

 

 

 

メリッサが沈静化して一安心と思い、俺は寮に戻るために足を動かそうとした。

 

「蛍火〜!!!! 」

 

 すると向こうのほうにまた土煙が上がってこちらに来るものを見た。

腰まで届く灰白色の髪を物理現象では有り得ないぐらいに逆立てている。

あれはマリーか。一難去ったと思ったらさらにまた、一難。厄日だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにこの噂を流したのはセルだった。

夕食のときに俺に「分かっている。何も言うな」などと言ってきたので笑顔で塵も残らず消えたいかと言ったら土下座で謝ってきた。

まったく、下らんことするなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


後書き

 今回もほのぼの、メリッサとマリーがギャグキャラに落ちていっているような気もしないでもないですが。

 気にしないで下さい。

 さて、今回はあまり話すことがないので、ここら辺で。

 

 

観護(えっと、ペルソナが前回蛍火君に殺されて復活しないまま、

レンちゃんは蛍火君の言葉を聞いてここには寄り付かなくなったので私一人で後書きをさせていただきます♪

今回もほのぼのというかほぼ平凡な一日。でもその中で蛍火君が建てたお店が漸く開店。

その中で蛍火君が少しレンちゃんに甘いように思えるかもしれないわね。

でも子供の可愛らしさを知ってくれたのは親としては嬉しいわね。

未亜にリリィ、メリッサ、マリーが蛍火君の前でまたしても轟沈。蛍火君も人並みの幸せを求めてくれればいいのに……。

けど、やっぱりペルソナがいないと後書きがしんみりとするわね。ほらっ、さっさと起きなさい!!)

ザクッザクッ ←死体となっているペルソナに対して刀身を突き刺している音

観護(あら? 身体が動くわね。くふふっ、これでレンちゃんがいなくてもペルソナにお仕置きできるわ。

では、次回予告。助けた二人を会いに行く事にになった蛍火君。その二人に蛍火君は選択を突きつける。

彼女達はその選択の中から何を選ぶのか? というか蛍火君、ハーレムになってるわよ?

では、次のお話でお会いいたしましょう♪)





だ、騙したな! メイド喫茶が、メイド喫茶じゃないじゃないか〜、ぶべらっ!
美姫 「さて、バカの戯言はさておき」
う、うぅぅ、だって、タイトルが、タイトルが。俺の希望が。
美姫 「はいはい。よく見ようね。ほら、タイトル、消えてるでしょう」
……はぁぁっ! お、お前の仕業か!
ぶべらっ!
美姫 「一瞬とはいえ、アンタの寝ぼけたタイトルが付いただけでもありがたく思うのね」
とはいえ、蛍火、本当にレンに甘いな。
美姫 「本当よね。まあ、変な噂が立っても仕方ないかもね」
次回は何が起こるのかな。
美姫 「次回も待ってます」
ではでは。



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