さてさて、今、俺は白の要塞ガルガンチュアに来ています。

ゼロの遺跡の下にあり、光がなくて陰鬱な場所だと思っていた。しかし、中に入ってみるとそれは間違いだと言うことがわかる。

建物自体が外の光を取り込む材質をした物で作られているため明るい。

 

 

 

 

 

 

第三十六話 白との確約

 

 

 

 

 

 

「マスター。そんなきょろきょろとしないで、みっともないわよ」

 

 イムが呆れてそんな事を言ってくる。でもな、やっぱ気になるよ。

 

「イム、頼んだ物は用意してくれましたか?」

「ちゃんと言われた通り持ってきたわ。でも何であんなもの好きなの? マスターならあれよりも速く走ること出来るでしょ?」

 

 ははっ、まぁ確かに、出来ないこともない。

 

「今度、イムも後ろに乗ってみます? そうすれば分かるかもしれませんよ?」

 

 まぁ、ダートを走ることになるがそこは腕の見せ所だな。

 

「まぁ、機会があったら」

 

 ふむ、必ず乗せよう。案外面白いことになりそうだし。

 

「さて、到着よ。喧嘩を吹っかけられるかもしれないけど、マスター……」

 

 イムが神妙な顔をして俺を見てくる。というよりもお願い?

 

「くれぐれも召喚器で殺さないでね。ロベリアでもそれじゃ生き返せないし」

 

 俺の心配じゃないのか。基本的に人殺すときは観護じゃなくて小太刀使ってるけどな。

 

「私の心配はしてくれないんですか?」

 

 ちょっと聞いてみたい。ぜんぜんって言われたらちょっと凹むぞ。

 

「必要ないでしょ? 守護者を消滅することすら出来るマスターだもの。むしろ相手のほうを心配するわ」

 

 うわっ、酷。でも裏を返せばそこまで信頼されてるのかね? それで納得しておこう。

 

「着いたわ」

 

 おーおーいるいる。ムドウは昼から酒を飲んでるな。おぉ!? あれは幻の銘酒・無冠帝!? 今度貰おう。

シェザルは銃器の手入れが感心だな。余ってるなら一丁欲しいな。日本にいたから銃なんて撃ったことないし欲しい。

ロベリアはティータイムか。香りから言ってアッサムか。ミルクティーにしないのか?

ダウニーは書類整理だ。学園の仕事持ち込むなよ。

 

全員同じ部屋にいるのにスペース分けしてるな。

白の軍勢は自分の主義に会うからいるだけだし、友好を持とうなんて考えていないだろうからな。

 全員がこっち向いた。

気配でだろう。こんなところで気配を殺す必要はない。

 ダウニーの奴慌ててやがる。

 

「イムニティ。そいつが新しい白の主?」

 

 ロベリアがイムに聞いてくる。しかし、顔のラインは綺麗だよな。眼帯なかったらもっと綺麗なのに。

まぁ、あれはルビナスの身体だしな。

 

 はぁ、まったく。ここにいる連中はある種俺の部下としては相応しい人物たちだ。

 

「はい、私が今代の白の主、新城蛍火です。以後よろしくお願いします」

 

 初対面では丁寧にそれが俺のもっとうだ。他にもやられたらやり返せとか、やる時は完膚なきまでにとかあるが。

 

「おいおい、こんな優男で大丈夫なのかよ?」

「仮にも私たちの上に立つ者がこんなとは」

 

 ムドウとシェザルが言いたい放題言ってくれる。

他人に実力を悟らせるようなことはしないが。それでもある程度実力は分かるだろ。

 

「心配無用です。彼の強さは私が保証しますから」

 

 ダウニーが俺を援護してくれた。キマイラのことがばれた時のためにここでポイント稼いでおくつもりなのだろう。

 

「イムニティから白の主が決まったと聞きましたがまさか貴方とは」

 

 ダウニーは意外そうにしていた。

確かに、まさかだろうな。殺そうとした相手が白の主だったなんて。

 

「私もこんな形でこの戦いにかかわるとは思っていませんでしたよ」

 

 本当にこんな形でかかわるとは思っていなかった。裏からかかわるつもりだった。

 

「あぁ、イムからある程度聞いていますので紹介はいいです」

「そうですか。しかし、貴方が白の軍勢に加わってくれるとあれば私たちが勝つことはたやすそうですね。いえ、確実に勝てる」

 

 ダウニーがどこか心酔したような目で語りだす。水を差すつもりはなかったんだが、仕方ないか。

 

「そうそう、私は当分こっちで表立って戦うつもりないですから」

 

 その言葉にダウニーは元よりロベリアまで固まった。シェザルとムドウはどうでもいいようだ。イムははぁ、とため息を着いている。

 

「何故!? 貴方が参戦してくれるとあれば王国の民も大勢こちらに回って有利になるというのに!?」

 

 ダウニーが詰め寄ってくる。男に詰め寄られてもうれしくないぞ。

 

「今度自分の店を開くことにしたのでその準備で忙しいんですよ」

 

 もう、決めた。立地条件のいい場所も見つけたし、キュリオの総店長にも話した。

 

「そんな事のために!?」

 

 むっ、そんな事だと? 結構がんばってるのに。少なくとも俺にとっては白の活動よりもそっちのほうが大切だ。

 

「前々から、決めていたことですから。それに途中で投げ出したくないんですよ」

「へっ、少し力を持ってるからっていい気になってんな。主幹さんよ。こういう奴は力で聞かせたほうが速いぜ?」

「ムドウと同じ意見というのは癪だが同感です」

 

 ムドウとシェザルが出張ってきた。うーん。早速戦う羽目になったか。口で終わらしたかったんだけどな。

 

「貴方たち!」

「やめときなよ。言っても聞かない。それにそっちのほうが都合がいい」

 

 ロベリアがダウニーを止めてしまった。ダウニーと同意見でいて欲しかったんだがな。

 

「へへ、主幹からお前のことはよく聞いてたぜ。その済ました顔をぐちゃぐちゃにしてみたかったんだ」

 

 ムドウがまるで雑魚キャラのようなことを言う。その時点でお前が負けてるって気付いてないのか?

 さて、戦いますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Interlude イムニティs view

 

「イムニティ、止めなくていいのか?」

 

 ロベリアが聞いてきた。でも嗾けた貴女が言う言葉じゃないと思うんだけど。

 

「そういう、ロベリアこそ何で戦わなかったのかしら?」

「弱いものいじめになるさ。ここで壊れられても困るからね」

 

 弱いものいじめねぇ。少なくともマスターには適用されないわね。むしろムドウとシェゼルにあてはまるのにかしら。

 

「まぁ、機会があったら指導してやるよ」

 

 ロベリアらしい。千年前から変わってない。でもマスターのムドウとシェザルとの戦いを見てまだそんな事が言えるのかしら?

 ロベリアは観戦に気を向けてしまった。あら? 主幹は観戦してないわね。

 

「主幹。見ないんですか?」

「イムニティ。見る必要があると思いますか?」

 

 主幹の言うとおりだ。結果なんて見えている。もちろん、マスターの勝ちで。

 

「彼がこちらにいるのは嬉しいのですが、はぁ」

 

 ため息なんてついてこんな重傷なため息は始めてみたわね。聞いてみよう。

 

「一体どうしたんですか?」

「いえ、彼の最初の試験のときキマイラを暴走させてしまったんです。しかもそれが予想以上に強くなって。

その他にも以前、闇討ちをかけたりそれが知られてしまったらと悩んでね」

 

 主幹の予想以上にキマイラが強くなって言葉はとても気になる。まぁ、マスターがいる限り大丈夫でしょうけどね。

それにしても、重症だわ。私が聞いて簡単に答えるなんて。でも、そんなに気にすることかしら?

 

「マスターのことだからすでに気付いてるんじゃない?」

 

 私の言葉に主幹が青ざめる。あのマスターが敵に回ったら破滅の軍団全て投入しても平気で勝ちそうだからね。

 

「わっ、私はどうすれば」

 

 主幹が混乱して私に助けを求めてくるけど、私に求めないでよ。

 

「気にする必要ないんじゃない? マスターなら笑って許してくれるわよ」

 

 そう、マスターならその程度のことなんとも思っていないでしょうしね。てゆーか腕を切り落とされても笑うんじゃないかしら。

一言、いや困ったって。うわぁ、ほんとにありえそうだわ。

 

「そうでしょうか? 彼はそこまで優しいと?」

「えぇ、マスターは究極に優しいわ」

 

 そう、究極の優しさを持っている。それはもはや赤の主とは対極にある優しさ。

 

「私としては助かりますが、そんな事で彼はこちらでやっていけるでしょうか?」

 

 主幹が困り顔というよりも心配顔で私に聞いてきた。心配性ね。

 

「大丈夫よ。マスターは究極に優しいのだから」

 

 私はマスターと契約した夜のことを思い出す。私が始めてマスターの極限の優しさ。つまり残酷さを知った夜のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅刻よ。マスター」

 

 マスターがやっと来た。一体どれだけ待たせるつもりだったのだろう?

 

「すみませんね。ごたごたしていたものですから」

 

 苦笑しながら私のほうへ歩いてくる。苦笑が似合うなんてどんな人生送ってるのかしら?

 私に近づいてきてマスターは私の顔を覗き込んだ。

 

「何?」

「いえ、当真たちとの戦いで傷を負っていないかどうかの確認です。イムの顔に傷がついたら嫌ですから。

傷がついていなくてよかったです」

 

 まただ。マスターは私を普通の女の子扱いする。マスターからすればたいした事はないのかもしれない。

だってあんな攻撃が出来るんですもの。

 

「それでは説明をお願いします」

「えぇ、といってもオルタラと話しているのを聞いたと思うからそこの部分は省くわ。まずは私とオルタラが対立する訳。

白と赤、その二つは交わらない。それは存在が対立するから。

私が司るのは因果率、完全帰結型ロジックの原理。対して赤が司るのは無から有を生み出し、世界を成長させる精神の力。

私からすれば赤の力は零×零から一や二が生み出されるの。

そんな事が起きれば世界の法則が崩れる。だから、私とオルタラは存在自体が対立しているの。」

「分かりました。ではなぜ、救世主は特別視、特別な力を持つと言われているのですか?」

 

 マスターが普通なら聞かないことを聞く。でもそれでこそ白の主だわ。

 

「何故、救世主が特別とされるか。何故、救世主が破滅を滅ぼせるとされるか。何故、人は救世主を目指すか。

それは真の救世主は世界を作ることが出来る存在だから。救世主は特権として世界を自分の思い通りに作れるから。

だから救世主は破滅を滅ぼすといわれている」

 

 といっても白と赤、その二つを収めて世界を変えたものはいない。その情報量に耐え切れなかったからだ。

 マスターは世界を作ると聞いても変化はなかった。話についていけないというよりは興味がないように見える。何故?

 

「マスター。普通は世界を思い通りに作れると聞いて何か反応があると思うんだけど」

「別に私の思い通りの世界なんて興味ないですから」

 

 えっ? 今なんていったの?

 

「私の思い通りになる世界なんて面白くなんともありません。

世界は思い通りに行かないなから、不条理で不平等で誰にも優しく無いからこそ面白いのですよ?」

 

 そんな。それじゃ、戦えないじゃない!!

 

「………マスターは赤の主と戦うつもりが無いのね?」

 

 その言葉にマスターは嗤った。

 

「冗談を。私がこの世界に来たのは戦うため。退屈な日常から脱出するため。

なのに、何故、私が赤の主との対決を避けなければならないのです? 世界の命運を宿した戦い。それこそが一番面白いというのに」

 

 マスターは心底楽しそうに嗤う。ロベリアとは違う。この世界の理不尽が許せなくて戦うんじゃない。

楽しいから戦うのだ。ムドウやシェザルにも似ているけど、根本的に何かが違う。こんな人種がいたなんて。

 

「話は変わるけど、マスターには白の主として破滅の軍団の主幹に会って欲しいの。

あぁ、破滅の軍団って言うのは白こそが、世界の理として王国に敵対するものなの。

これは従者からのお願いでしかないわ。断ってもいいし」

 

 そういいながら、私はマスターが断るだろうと見当をつけている。わざわざ、オルタラを護衛するぐらいだもの。

 

「いいですよ」

 

 その言葉に私は絶句してしまった。だって、マスターの行動と今選んだ行動は一致しない。矛盾している。

 

「といっても条件付きですが」

 

 その言葉で私は納得した。

そうよね。そんなに簡単に今までの考え方と逆は取れないわよね。きっと無理難題を押し付けてくるに違いない。

 

「主幹に直接言ったほうが速いわよ?」

 

 できればガルガンチュアまで来て欲しい。まぁ、どうしても嫌ならそれに従うけど。

 

「いえ、これはイムでも出来ることですから。というより一つはイムにしかできないことです?」

 

 どう言う事かしら。私にしか出来ない?

 

「一つ。私が破滅につくとして、その場所のキッチン設備を整えること。当然、調味料なんかもです。

ついで私の世界の私の部屋からもとってきてくれると嬉しい。あぁ、飲み物関係もいいものを揃えてくださいね。

二つ目。私の世界においたままのバイクを取ってきて欲しい。それといつでも給油できるようにして欲しい」

「ちょっと待って!? マスター。そんな事でいいの!? 」

 

 私は驚く。確かに私でないと出来ないことだが、それでも条件が安すぎる。

 

「むっ、私にとっては重要なことですよ?」

 

 マスターがかなり不機嫌な顔をする。私が思っているよりも大事なのかもしれない。でも、いくらなんでも軽すぎるわよ。

 

「で? これは聞いてくれるのですか?」

「それぐらいならすぐに出来るけど。でもそれでいいの? 望めばいろんな物が手に入るのに」

「多くを望むものはいつか身を滅ぼします。これ位がちょうどいい」

 

 マスターの感覚が分からない。

 

「では最後の条件は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イムニティ。ですが優しいだけではこの破滅の軍団をまとめられない」

 

 思い出すのが長すぎたようね。主幹が声をかけるまで気付かなかったわ。

 

「大丈夫よ。マスターがこちらにつく条件として何を要求したと思う?」

 

 意地悪な質問をしてみる。だってこの答えは想像の外にしかないものだ物。

 

「あれだけでないのですか?」

 

 主幹の目線の先には厳ついけれどどこか気品を漂わせるバイクと、そのさらに先にあるキッチンを指していた。

 

「それだけじゃないわ」

「分かりませんね」

 

 それはそうよね。私だってあんな事を要求されるとは思っていなかったもの。

 

「最後の条件。それは町外れにある村に連れて行け、だったわ」

 

 主幹がまだ、疑問を浮かべている。そうよね。私もそれだけを言われたときは輪からならかったから。

 

「そこでマスターは村一つを壊滅させたわ。主幹なら知ってるでしょ? コーギュラント州の村が一つ滅んだことを」

 

 主幹が顔色を変える。

 

「あっ、あれはモンスターが勝手に暴れたのでは!? 」

「そう見えるように偽装までしてたわ」

 

 そう、彼は一つの村を壊滅させた。男も女も老人も子供、全てその手で殺した。

全てに慈悲を込め一太刀で、痛みを感じさせることすらなく……殺した。

 

「何故そのような事を?」

 

 幾分か主幹が落ち着きを取り戻していた。でもまだ、驚きは隠せていないようだ。

 

「マスターが言っていたわ。これから自分の都合のいいように世界を変える。

なら、はじめの犠牲者は自分の意思で選び自分の手で自分の意思で殺す。その事を、犠牲を強いることを胸に刻むためにって」

 

 その言葉に主幹は酷く驚き、納得した。

 

「彼の決意は本当なのですね。そして他者を騙すためにあそこまで出来るとは、本当に素晴らしい」

 

 あの時? 何時のことだろう。主幹はそれ以降話さず、仕事に戻ってしまった。

 

 あっ、そろそろマスターの戦いが終わる。ムドウを倒してムドウの体を盾にしてシェザルを倒すなんて。本当に強い。

 

「マスター、お疲れ様」

Interlude out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェザルとムドウの戦いは終わったんだが疲れた。

今の具合から言って、今の救世主候補達ではまだ、この二人とサシで戦いあっては勝てないだろう。

まぁ、この前から訓練がかなり強化されたから、後は実戦でどれだけ腕が上がるかか。

 

「マスター、お疲れさま」

 

 イムニティがこちらに向かっている。もう少し気の効いた言葉が言えんかね?

 

「疲れましたよ。二人は強かったですし」

「まぁ、一休みしたら?」

 

 もう少し優しくしてくれてもいいのに。

 ん? ロベリアの様子がおかしい。こう、眼帯で目が見えないはずなのだが睨み付けられている。

ふむ、恐らく俺が闇の伎を使うからか。その内、戦いを挑まれるかもな。

 

「さて、これで私の自由は確保してもらえるんですよね?」

 

 ダウニーに確認を取る。ダウニーが一番えらいからな。

 

「かまいません。しかし、たまにはこちらに顔を出してください。それだけはお願いします」

 

 まぁそれぐらいならいいか。というか週末ごとに来るだろうな。こっちにしかバイクないし。

 

「えぇ、了解。さて、わがままを言って申し訳ありませんが一つ聴いてもらいたいことがあります」

 

 俺は第五仮面を被る。そのほうが効率がいい。

俺の気配が変わったことによりここにいる全て、いや、ガルガンチュア全体にいる生き物が強張る。

 

「白の主として一つだけ命令を下す。今はまだ。救世主候補を殺すな」

 

 その言葉に破滅の将たちがざわめく。言いたい事は理解できる。

 

「まだ、最後まで言っていない。気を静めろ」

 

 その言葉にしぶしぶとしたがって気は静まった。

 

「今はまだ、殺すなといっただけだ。時が来れば殺してもいい」

「何故、殺せるときに殺さないのですか?」

 

 ダウニーが声を震わせながら質問をした。破滅の将を纏めるだけはあるか。

 

「今はまだ、救世主候補たちは熟していない。楽しむなら熟してからだ。それともお前たちは成長したあいつらを殺す自信がないのか?」

 

 嘲りを混ぜて告げる。その言葉によって得た憤怒によって話すことが出来る状態になる。

 

「はっ、ガキ相手に俺様が負けるかよ。いいぜ。その言葉に従ってやるよ」

 

 この中で一番好戦的なムドウが従った。なら、後の者も従うだろう。

 

「戦っている最中に不慮で殺してしまうのはかまわん。その場合はそいつらの行く先はそこまでだっただけだ。俺の命令は以上だ」

 

 命令を終え、第五の仮面をはずす。さて、ご飯作らないとな。

 

「さて、命令も聞いてもらったところでご飯にしましょう。リクエストがあったなら聞きますよ?」

 

 俺の突然の変化にイム以外がついていけていない。まぁ、仕方ないか。

 

「マスター。せっかくマスターの世界から道具をそろえたんだから、マスターの世界の料理を作って」

 

 イムからの希望が上がった。他はまだ話を聞けるほどではないか。さて、作るとしよう。

 追記として俺の料理は破滅の将たちにかなり気に入られた。当然。食後のお茶も

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここでの用事は終わった。向こうに戻るとしよう。もう少し先にある授業のために準備をしないといけないんだよな。

 

「マスター、ちょっと時間いいかしら?」

 

 うん? どうしたというのだろう。後は送るだけのはずだが。

 

 

 

 

 

 取りあえず俺はイムについていった。着いていった先はイムの部屋だったのだが。

 

「単刀直入に言うわ。抱いて」

 

 ブハッ。単刀直入すぎやしませんか!?

 

「マスター、汚い」

 

 イムが睨むような目で見てきた。あぁ、少しつばが飛んでいたようだ。

 

「あっ、すみません。じゃなくてっ!! 女の子がそんな事言っちゃいけません!」

 

 一体なんて事を言い出すんだ。俺でなければ必ず襲い掛かってたぞ。

 

「別に変な意味は無いわ。契約の段階を上げようと思って」

 

 さらっと当然のように話を続ける。あぁ、なるほどそういう事か。たしかに最も深い契約の仕方はそれだろう。

でも未亜が白の主のときは出来なかっただろ? なら、必要ないんじゃないのか?

 

「今の契約段階ではいけないのですか?」

「えぇ、パスは通ってるんだけど、それがすごく細いの。比べるなら前白の主の四分の一ぐらい」

 

 比較が出来ないからよく分からないがかなりやばくねぇ? よくそれでリコと戦えたな。

 

「えーと私の、世界の根源から吸い取る門が狭いのでは?」

 

 それなら有り得るだが。

 

「馬鹿なこと言わないで。あんな化け物クラスの技を使うときに世界から力を引き出してるんだから。そんなはずはないわ」

「いえ、私はその世界からの力を吸い取ることを任意に出来るので普段はほぼ閉めている状態にしていますから。そのせいでは?」

 

 普段は観護を構成する程度しか開けていない。

だって、必要ないし。だから、イムに力が供給されていないのかもしれない。

 

「確かにそれもあるわ。でも、私が言ってるのはパスの太さ。

今の状態では、マスターがどんなに世界から力を吸い取っても少量ずつしか私に来ない」

 

 なるほどな。栓の問題ではなく、ホースの問題か。

 

「それで契約段階を上げようというわけですか」

「えぇ、そうよ。だからさっさと抱いて」

 

 情緒が無いなぁ。もう少し、恥じらいが欲しい。俺だって初めてなんだから。

 

「イム、私は初めてですから、加減は出来ませんよ? 貴女だって初めてなんでしょう?」

「別にかまいはしないわ。ほら、さっさとする」

 

 萎えるなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、色々あったが取りあえずゴチになりました。

 イムはもう息絶え絶えとなっている。ちょっとやりすぎたか。

 

「イム、大丈夫ですか?」

「はぁはぁはぁ、だい……じょう……ぶ…なわ………けないでしょ」

 

 だよな。すっげー苦しそうだもん。とりあえず、イムが落ち着くまで待つ。

 

「はぁ、はぁ」

 

 こうなんか。その様子がまた襲いたくなってくるな。いや、もう出し切ったけどね。

 

「うぅ、酷い目に会った」

 

 涙目で見てくる姿がなんとも可愛い。まぁ、二度と拝めることはないだろう。今のうちにじっくり見ておく。

 

「マスター!! 何であんなに……。ごにょごにょ

 

 ん? 最後のほうが何言ってるか聞こえなかったな。何だ?取りあえず耳を近づける。

 

「何ですか?」

 

 俺が聞いたことによってイムがさらに顔を赤らめる。ここに幻影石がないのが心底恨めしい。

 

「何で、何であんなに上手なのよ!! 明らかに初めてじゃないでしょ!!」

 

 いや、実際初めてなんだけどな。イムが睨んでくる。さっさと答えろと。

 

「いえ、私が持てる技術を全て駆使しただけですよ?」

 

 そりゃもう、師匠に習った快楽を与える拷問術とか、身体が麻痺する魔術とかあらゆる技を駆使しただけです。

初めて実践するから加減がわからなくてな。失敗失敗。

 

「それだけであんなにならないでしょ!?」

 

 いや、まぁ、そうかもしれないが。取りあえず契約段階が上がったかどうかを聞かなくては。話も逸らしたいし。

 

「それで契約段階は上がったのですか?」

 

 突然の質問で困っているようだ。それで目をつぶって確認している。少し険しい。失敗したのか?

 

「契約段階は上がったわ。さっきまでの一.五倍までは」

「そうですか良かったです」

「良くないわよ!!」

 

 イムニティが地団駄を踏みながら怒る。かなり癇癪を起こしているな。

 

「あんなに苦しい思いして一.五倍よ!! 一.五倍!!! ロベリアの時と比べたら八分の三よ!!」

「気持ちよく無かったですか?」

 

 少し意地が悪いことを聞く。案の定イムは真っ赤になってしまった。

 

「それで、何か分かったことはないのですか?」

 

 ここまでやったんだ。原因が分かるぐらいの成果は欲しい。

 

「分からないわ。何かに阻害されているみたい」

 

 俺がまじめな話にかえると何とか話してくれた。女の子の機嫌をとるのは大変だ。

 ふむ、それにしても何かに阻害か。となると前段階が間違っている可能性が高い。 契約にとって最も重要なこと。

信頼? そんなもの無くても出来るし、利害の一致。それはこなしている。となると何だ?

契約にとって一番重要なこと? それは………

 

「あぁ、イム、何故パスが薄いのか分かりました。」

「ほんと!?」

 

 イムが大声を上げて喜んでいる。このまま分からないからもう一戦とならなかったことを喜んでいる節もあるみたいだが。

 

「えぇ、別にかまいませんが」

 

 少しだけ意地悪をしよう。イムはからかいがいがあるからなぁ。その一つ一つの反応が可愛いし。

 

「もう一度イムに啼いて貰う事になりますがいいですか?」

「いい!! それならいい!!」

 

 イムが涙目なって拒んでいる。論理を司るイムが感情に走るとは、ちょっと悪ふざけが過ぎたか。

涙目になっているイムの頭を優しく撫でる。

 

「すみません、冗談が過ぎました」

あぅ

 

 俺に頭を撫でられるがままになっている。ここで怒鳴れると思ったんだが。泣き止んだので手を離す。

 

「あっ」

 

 イムが残念そうな声を上げる。えっ? 何で残念そうになるんだ?

 

「そっ、それでマスター。何に阻害されているの?」

 

 イムが慌てて俺に聞いてきた。まぁ、気にしないでおこう。

 

「えぇ、ですが言えません」

「なんで?」

 

 甘えてくるように聞いてきた。ふむ、女の子らしくなったのはいいのだがここは怒鳴られたほうが良かったな。

 

「すみません。これは新城蛍火にとってとても重要で誰にも話せないことなのです」

 

 イムが?を浮かべている。契約でそこまで重要なものは無いはずだ。しかし、俺にとっては別なのだ。

 

「新城蛍火の存在理由を侵すものです。だから、いつか話すことになりますがそれまでは今のままで我慢してください」

 

 俺の言葉にイムはため息をついて

 

「わかったわ。今は聞かない。でもちゃんといつか話してね?」

 

 優しく、俺を許してくれた。

 

「えぇ、何時か」

 

 イムは本当に何も聞かずに俺を送ってくれた。

 

 

 

 

 俺とイムの契約を阻害するもの。それは名前、

契約とはまずお互いを認識しあう事が前提となる。認識しあうには名前が重要となる。だが、俺は名前を偽っている。

 俺は俺が生まれたときにつけられた名を名乗ることは出来ない。

ここでは俺は新城蛍火として生活することを決め、新城蛍火として生きると決めた。だから、俺は名乗れない。

 俺はイムにこのことを話すことは無いだろう。話すことになるとすればそれはきっと………

 

 

 

 


後書き

 蛍火が白側に入り、白の決定権をほぼ握りました。

 きっと蛍火が尽力を振り絞れば白と赤は限りなく優しい世界を作る可能性が出てきます。

 しかし、蛍火は契約者。だからこそ大勢の人が死ぬ事になろうとも蛍火は止まれない。

 蛍火は器用ですが、心はとても不器用なんです。

 後、蛍火VSシェザル&ムドウは面倒だからって手を抜いたわけじゃないですよ?

 イムニティのInterludeを入れるために仕方なく省いたのです。そこはご了承ください。

 

 それと最初の方でも触れたように新城蛍火という名前は偽りです。

 蛍火の生まれたときに名付けられた名は別ですが、蛍火の本当の名前にあまり意味はありません。

 蛍火が名を隠しているという事自体に意味が在るのです。どこに関わってくるかはまだ秘密という事で。

 

 

 

 

 ふふふっ、今回は蛍火が破滅の側にいってこれからのことに対して命令を下すってお話だね。

観護(表からも裏からも戦争を操ろうとするなんて。ある意味で悪人よ?)

 いや、蛍火はダークサイドヒーローだから。

観護(ねぇ、蛍火君はシェザルとムドウにあっさりと勝ったみたいだけどパワーバランス崩れない?)

 今回は相性が悪かったんだ。

??「蛍火との?」

 それもある。蛍火とあの二人は殺人者だけど決定的に違う。

 蛍火は仕事、二人は快楽のため。蛍火は一撃で殺すけど、二人は嬲り殺すというその違いが関係してたし、

 それとあの二人がタッグを組む上での相性が最悪なんだ。

観護(たしかに、我が強すぎるものね)

 そう、タッグを組むのが必ずしも有利になるとは限らないからね。

 それに蛍火は相打ちにさせるような戦い方が得意だから。

??「ねぇ、蛍火が両方に働きかけたらもしかして戦争は終わる?」

 終わるね。確実に、でも蛍火はそれを出来ない。

??「しないじゃなくて?」

 そう、観護との契約があるから戦争を回避する事を出来ない。

観護(もしかして、私のせいで沢山の人が死ぬの?)

 うん、かなりの数が死ぬ。そして蛍火が殺す。

観護(!!!!???)←かなりショックを受けている

 そういう契約なのに今更なにを驚いているんだか。

??「ねぇ、蛍火は一体イムニティに何をしたの?」←無垢な瞳

(汗)えーと、そっ、そうだ。浩さんに聞いてみたら分かるかもしれないよ?

うぅ、浩さん。すみません、すみません。私はもう、もう、死にたくないんです。てゆーか蛍火にだけは殺されたくないんです!!

あれに殺されたら確実に死んじゃうんですよ!!!?

??「分かった。今度美姫お姉ちゃんの所に遊びにいったついでに聞いてくる。

蛍火が作った特製ケーキを持っていったら話してくれそう」

 そっ、それよりも次回予告にしよう。すみません、浩さん。

??「次回は欲望渦巻く、賢人会議。

賢人とは名ばかりの薄汚れた老人達の責任の擦り付け合いの中、クレアはどう動くの? って、蛍火が出てこない?」

 気にしないで。という訳で次話でお会いいたしましょう浩さん、死なないで下さいね?





よしよし、お兄さんが詳しく教えてあげよう。
ただし、それをやったのは俺じゃないからね。恨むのなら、俺じゃない人を。
美姫 「何気に酷いわね、アンタ」
馬鹿野郎! 俺だって死にたくは無い!
美姫 「大丈夫だって、アンタなら」
その無意味な自信は何故に…。
美姫 「信用してるわよ」
嫌な信用のされ方だな、おい。
さて、話を戻して…。
美姫 「そうね、今回は白側の動きね」
まず、蛍火はイムニティの耳元で優しく囁く。勿論、本当に心から思っている言葉ではなく、書物などの娯楽で知りえた知識、
そして、敵側の異性から情報を得るための手段として師匠から散々叩き込まれた篭絡の為の一手段として。
けれど、女の子としての扱いになれていないイムニティには、その言葉をそのまま間に受けてしまい、顔を真っ赤にする。
そんな滅多にない、いや、初めてとも言えるイムニティの表情に、蛍火の悪戯心に火が点き、まずは焦らすように背中へと手を伸ばし、
触るか触らないかという微妙な手付きで何度も背中を上へ下へと撫ですさる。
もう一方の手で首筋をくすぐるように撫でながら、こそばゆい感触に身を震わすイムニティへとそっと顔を……ぶべらぼげらっ!
美姫 「アンタ、どっちの話に戻ってるのよ!」
う、うぅぅ。だって、??が聞きに来るらしいから予行練習を。
美姫 「しなくて良いの! って言うか、アンタ間違いなくやられるわよ」
いやいや、俺はあの時起こった事を正直に説明するだけで、実際にやったのは蛍火とその後ろにいらっしゃる偉い人。
だから、俺には危害が及ばないはず!
美姫 「断定する割には、推定の言葉が入るのね」
うっ。えっと、とりあえず、今度こそ本当に話を戻して…。
白側の動きをある程度押さえた蛍火。
美姫 「でも、これを利用して逆に大河たちに実戦を経験させそうね」
確かにな。目的のためには手段を選ばないって感じで。
美姫 「あちこちで騒動を起こし、徐々にモンスターたちも強くしていく」
それによって実戦で大河たちを鍛えるか。
ありえそうで怖いな。
美姫 「実際にどんな展開をするのかしらね」
次回も楽しみに待ってます!
美姫 「新装開店するお店も楽しみにしてます」





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