闘技場の中に入る。それと同時に割れんばかりの歓声が上がる。耳が痛いな。
第三十三話 帯剣の儀
『さあ、これから救世主候補序列試験が始まります。挑むは、飲み物の達人、執事の中の執事、革命者の異名を持つ新城蛍火!! 』
その言葉でさらに声があがる。といよりも俺が執事として働いていたことはかなり有名になっていたようだ。
暇つぶしにやっただけだというのに。
『対するは黒髪の鮮やかな純白の弓を射手。密かにファンクラブも存在し、救世主クラス一守ってあげたくなる容姿を持つ。
初の男性救世主候補の妹でありながらその世話を担う、当真未亜!!』
その紹介で一部の男から声が上がる。
「未亜さんに傷つけたら容赦しないぞ!! 」
「召喚器を持ってようが闇討ちするからな!!」
その言葉に未亜も苦笑してしまう。俺に闇討ちは無理だ。
『実況は私、アリス・オーランド。そして解説はこのフローリア学園の学園長を勤めるミュリエル・シアフィールドさんです』
『よろしく』
学園長、そんなところいるのか。普通に観戦していると思っていたのだが。
『学園長。どちらが勝つと思いますか?』
『分かりませんね。勝負とは終わってみるまで分からないもの。それに蛍火君の実力は未知数です。勝敗はまったくわかりません』
『たしかにそうですね。つまりはどちらが勝ってもおかしくないということですね。
蛍火選手、未亜選手のどちらが勝つのか非常に楽しみです』
一部から野次が上がったが気にしないでおこう。
「蛍火さん。この場所でこんな事を言うのはわがままかもしれませんが。今、ここで卒業試験を受けさせてください」
俺に力を求めたときと同じような未亜の表情。
驚いた。それは新たな救世主候補お披露目の場で未亜の師匠として、一般人と同じ力で戦ってくれということだ。
普段の未亜なら絶対に言わない。
おそらく、不安なのだろう。
俺に追いつきそうなところだったのにまた、遠くに行ってしまう。
ならせめて今まで追いかけてきたものだけでも追い越そうとそんな事だろう。
まぁ、師匠としては嬉しいことだ。受けることにするか……。それに未亜と本気で戦るのは初めてだしな。
それに、士気上げにもなるか…、
「えぇ、貴方の師としてその申し出を受けましょう」
出していた俺は観護を還す。そして、魔力を集め魔力弓を作る。そして出来ると同時に未亜に向けて射る。
Others view
開始合図も無く試合は始まった。
未亜も闘技場に入る前からジャスティを構えていた。彼女は他の誰でもなく蛍火に鍛えられたのだ。
戦いは合図よりも前に、すでに出会った時から始まっていることを痛いほど理解している。
未亜は放たれた矢を自らの矢で持って迎撃する。動くことはかなわない。
その場から動くことそれは蛍火の戦術にはまるということ。ならば、純粋に技量の勝負に持ち込めば彼女にも勝機はある。
未亜は続けざまに矢を放つ。絶え間なく矢を放ち続ける。
蛍火も同じように矢を放ち続ける。そこには魔法は使われていない。厳密に言うと蛍火の魔力武具は魔法になるがこの際気にしない。
弾幕の如く矢が飛び交う。その様子に人々は蛍火が二つ目の武器を出して驚いていた事から抜け出し、さらに絶句する。
『ちょ、どういう事ですか!? 学園長。蛍火さんが召喚器を二つも持ってるなんて!!』
いち早く気を取り戻した実況が叫ぶ。その言葉にここにいる全ての人が同じように思う。
違うのは戦っている本人たちと事情を知る学園長、リリィのみである。
『例外はどこにでもあると言いたいところですが違います。あれは魔法。魔力の凝縮による武器化。
そして失われた原初の魔法。あれはどこででも出せる唯の武器です』
その言葉に魔法を習うものは絶句する。たしかにあれは原始的な魔法だ。しかしそれを今使えるものは皆無に等しい。
極度の集中をしながらでないと作成することなど出来ないもの。その武器で持って戦闘をするなど普通の人間には難しすぎる。
『じゃあ、彼は蛍火さんは私たちと変わらない状態で未亜さんと戦っているというんですか!?』
本来、召喚器とは出している状態でこそ加護を得られる。蛍火は未亜との戦闘が始まる前に還してしまった。
つまり、一般人と変わらない状態で救世主候補に挑んでいるのである。
といっても蛍火は常時、自動修復という補助魔法をかけている。
新陳代謝増幅という行ってはいけない回復魔法。
血流を増幅させ、心臓を常にフル稼働させ、脳内に常に新鮮な酸素を送り込み、筋肉内の疲労を溜めない。
ある意味で理想的な身体状況を作り出す魔法。
しかし、それと同時に使用者の寿命を縮める禁呪。
だが、蛍火にとっては禁断とならない。蛍火にとって自らの命は大切な物ではない。
この戦いが終わりまで持てばいい。なら、それを蛍火は平然と使えるのだ。
『そうなります』
その言葉に誰もが息を呑む。絶対に届かないものだと思っていた。だというのに目の前の男はそれを服した。
届かない存在が急に届くといわれたのだ、信じられるはずが無い。目の前の光景が、その言葉が。
だが、ここにいるものは見ていなければならない。生身で救世主候補に近づいた者の姿を。
「そんな、信じられません」
ベリオが唖然としながらその言葉だけを搾り出す。彼女は召喚器の凄さを知っている。それ故に目の前の光景の異常さを認識できた。
「リリィ。あれが前に言ってた。魔力武具って奴なんだよな?」
大河はベリオのことなど無視して蛍火と未亜から片時も目を放さずこの場で一番蛍火のことを知っている人物に言葉だけで問う。
彼が平然としていられるのは蛍火を一度戦ったため耐性がついていたからだ。
しかし、彼も少なからずショックを受けている。近接で自分と渡り合ったというのに遠距離でしかも未亜と同じ武器で渡り合っている。
どこまで底なしなのかと。
「そうよ。自分の魔力のみで武器を作り攻撃するあれが魔力武具。唯それだけ。召喚器みたいにブーストがあるわけじゃないわ」
リリィも大河と同じく言葉だけで返す。その目は蛍火を睨みつけている。
魔法の中にも自分を補助するための魔法がある。しかし、蛍火からはその発動を感じられない。
彼は正真正銘、生身で戦っているのだ。
「そんな……」
リコが絶句していた。数え切れないほど生きてきた彼女にとっても蛍火は異常だった。
生身で渡り合える、それがどれほど異常なことか。
彼の成長は大河並みとは言えないがそれでもおかしい。わずか六年という歳月で世界に加護受けし者と対等に渡り合っているのだ。
師が素晴らしかった。それもある。観護の経験が自らに浸透した。それもある。しかし、一番の要因は……。
二人の応酬は激しさを増す。矢が放たれた後分かれる。そして分かれた矢同士がぶつかる。
矢の密度は高くなり、矢が放たれる速度が上がる。
そんな中、未亜に疲労が浮かんできた。同じ応酬をしている蛍火はまだ、涼しい顔をしている。
スタミナが違うと言われればそれだけだが。それにしても未亜に疲労が来るにしては早すぎるのだ。
「蛍火の奴最初に比べて矢が随分と速くなってやがる」
「そうね。未亜もそれに無理に合わせてるからだいぶ疲れてるみたい」
大河とリリィは相変わらず言葉だけで話す。だが、思わぬところからその推察は否定される。
「違うでござる。矢が早くなっているのではなく距離が縮まっているのでござるよ」
カエデの指摘に大河とリリィが二人を注視する。蛍火と未亜の距離は最初の三分の二ほどになっていた。
「距離が短くなった分、矢が速くなったと感じるのでござるよ。そして未亜殿はそれに気付かず焦って疲れているのでござる。
でもそろそろ未亜殿も気付くころでござるよ」
カエデの言うとおり未亜も気付き決意を固めた。
「なら、ここは距離を取るのがセオリーですよね?」
ベリオが疑問を持って聞く。遠距離がメインの未亜に近接戦闘は無いとベリオは思っていた。
「それは普通の相手だろ? 相手は召喚器無しでガチでやれるんだ。普通にしてても意味はねぇよ」
相手を知っているからこその発言。しかし、それも同時有り得ないと大河は思っている。
確かに遠距離も蛍火は出来ているが彼は近接戦闘でさえ救世主候補と渡り合える。遠距離が得意な未亜では勝てない。
未亜は急遽、矢を放ちながら蛍火に向け前進する。その歩みは前衛の救世主候補に比べれば遅い。
しかし、それは怯えのまったく無い前進、その歩みは大河を髣髴させる。
血は半分しか繋がっていなくとも二人は確実に兄妹なのだと実感させられる。
未亜が前進した事を救世主クラスを除いた全員が驚く。後衛にとっては有り得ない行動。そして、さらに人々は驚く。
蛍火も未亜に合わせ前進する。
前進による零距離射撃しかないと人々は思った。しかし、またもや二人はその考えとは異なる行動をする。
蛍火が片手で袈裟懸けを放つ。それは遠心力加わってまさに斬戟と呼ぶにふさわしき一撃。
蛍火の攻撃に対して未亜は両手で弓を握り、末弭で受け流し本弭で左切上を返す。
さらに蛍火は手を強引に捻り、未亜の攻撃を弓に本弭で受け流し、末弭を使い唐竹の斬撃で返す。
片方が攻撃し、それを受け流し倍の速度で返す。
風が巻き起こる。一つ一つの攻撃では小さな風しか動かないが、繰り出されるたびに上がる速度で、
その増え続ける手数によって二人を中心に風がまきを起こる。
その攻防まさに嵐。もはや一般人には視認するのが難しいほどの攻撃の嵐が起き続ける。
数え切れないほどの攻防が繰り広げられた。見ている人の中ではもはやどちらが優勢なのか分からない。
もちろんそれは当人たちにも。
そこで未亜が動いた。蛍火の唐竹に繰り出された斬戟を弦の弾力を生かし、蛍火の斬戟をはね返す。
この戦い始まっての受け流す以外の行動。それまでの動きになれていた蛍火が突然の攻撃の変え方に隙が生じてしまった。
そして未亜は空いた胴に左薙を繰り出す。
その速度、角度、隙の作り方、申し分なかった。誰もが一瞬で決まったと思った。そう、蛍火が片手で魔力弓を扱っていなければ。
蛍火は左手を腰に回し、小太刀を抜き去りその左薙を迎撃する。その衝撃に耐え切れず、ビキリと音を立てて小太刀が砕け散る。
小太刀が砕けるとともに蛍火は瞬時に魔力弓に術式を組み込み発動させる。その瞬間急な発光で闘技場が包まれた。
その目暗ましをしている間に蛍火は気配を殺し、未亜の後ろに回りこむ。
そして、発光が収まるとともにもう片方の小太刀を抜き去り未亜の首筋に刃を添える。
「Checkmate」
その首筋に当たる冷たい感触に、
「参りました」
未亜は敗北を認めた。
「「「「「うおおぉおおおお!!」」」」」」」
歓声が上がる。勝者を褒め称えるために。
『素晴らしい攻防でした。まさに息つく暇もないくらいに素晴らしかった。そしてその攻防で勝利を収めたのは新城蛍火!!』
実況が勝者を認めることによってさらに歓声が増した。
「あーあ、結局負けちゃった。卒業はまだまだか」
未亜が残念そうに言う。口調はあくまでも軽いが、それは未亜の強がりだ。蛍火の前だけで見せる強がり。
その事を蛍火はよく知っている。
だが、蛍火は慰めることはない。ただ、事実だけを伝える。
「いえ、卒業ですよ。私に他の武器を使わせたんですから。それに私に勝つことが卒業の条件ではない。
あなたは私にその技だけで追い詰めた。それが合格の条件でしたから」
蛍火は事実のみを言う。しかし、未亜の顔は晴れることはない。彼女はここで彼に勝っておきたかったから。
『新城蛍火。彼は召喚器を持たない状態で、私たちと変わらない状態で救世主候補に勝ちました!!
彼はまたしても私たちの常識を打ち破ってくれた!!彼は証明してくれたのです。
私たちでもあの領域まで強くなることが出来ると!!』
実況と観客は盛り上がっている。新たな可能性が開けたことにより新たな希望が浮き上がってきた、ただそれだけで、
『学園長!! 素晴らしかったですね!!』
実況のアリスが学園長に聞く。しかし、学園長の顔はアリスのように決して晴れやかではない。
『たしかに、素晴らしかったです。召喚器を出さない状況であそこまで戦える。素晴らしいことです』
そこで一息学園長は息を整えた。そして、
『だからこそ私は見てみたい。彼が召喚器を使った状態での戦った姿を』
学園長が観客全てに語りかけるように話す。その言葉に人々はその言葉の通りだと思う。
見てみたい。蛍火がどこまでの高みにいるのか。
学園長をするだけあって人心掌握術は確かなものだ。
人々が願う。蛍火が召喚器を持って戦うことを。しかし、そこは新城蛍火。
めんどくさい事はなるべくしたくない。当然、断りを入れる。
「すいません、学園長。疲れてるんで終わっていいですか?」
ここにいる人々を敵に回す発言を軽くする。彼からすれば出来るだけ敵には回したくない。
だが、それだけである。敵に回ったならそれはそれでと考えている。
『何を言いますか。汗すらかいていないのですからまだ戦えるはずです』
実況の席からでは蛍火の細かな状態は分からないはずなのに学園長は断言した。
さすがに蛍火も汗はかいているのだがそれでも未亜に比べれば少ない。
召喚器の加護を受けた未亜よりも持久力がある蛍火は明らかに非常識である。
『それにこれからともに戦う救世主クラスのものにある程度の実力すら知らせないと連携も取れませんよ?』
学園長が痛い事を言う。これから救世主クラスともに戦うのだから信用関係は築かなければならない。
だからといってここで戦う必要性はまったくないのだ。
「蛍火さん。わがまま言った私が言うのもなんですがお願いします。見せてください」
未亜からも懇願される。これには蛍火も困る。なんだかんだ言っても優しい蛍火である。
未亜の言葉を断りきれない。確かに未亜が言うのも何だと思うが。
「相手にもよります」
蛍火は譲歩した。その言葉に今まで観戦していた救世主候補たちがざわめき立つ。
もし、大河が選ばれたのならば蛍火は問答無用で断るつもりだった。彼は大河と最期でしか戦わないと決めていたから。
『モンスターを相手にしてもらいます。その方が貴方も気兼ねしなくていいでしょうから』
学園長がモンスターを選んだのは蛍火が殺しを最も得意とすること知っているからだ。
彼も考える。未亜との戦いは面白かったが彼にとっては欲求不満である。その憂さを晴らすにはちょうど良かった。
「何が相手ですか?」
『貴方の実力に見合ったモンスターを選びます』
蛍火の実力に見合ったモンスター。そんなものはこの学園にはいない。しかし、それでもいいかと彼は思ってしまった。
「分かりました。その前に準備させてくださいね。あぁ、当真さん。闘技場を出てもらえます? これから結界張りますから」
未亜はその言葉を聞きすぐさま闘技場から出た。もともとでなければならなかったのだが。
彼はまた魔力弓を取り出した。矢を東西南北の壁と闘技場の中央に打つ。そしてまた矢を取り出し、今度は空にめがけて矢を放つ。
その矢が空で五つに分かれる。そして、その矢が先程刺さった場所と寸分たがわず突き刺さる。矢の一本一本が赤、青、白、黒、金の炎を上げる。
「四方を守護せし、聖獣よ。中央にて四聖獣を従えし聖獣よ。その力を解き放て。
この場を守護するために、この場より外敵を逃さぬために、外より内は容易く内より外は叶わず。
完成せよ。迎撃術式・内殺結界」
蛍火が呪をとなえ。矢の炎が広がり闘技場を覆い尽くす半球状になる。
内殺結界。それは外から入ることは容易だが中から出るにはよほどの力で持って破壊しない限り出ることが出来ない結界。
中にいる敵を確実に殺すための結界である。
「あっ。この結界は中に入ることは簡単に出来ますから。危なくなったら助けてくださいね」
結界を張った事を何でもない事のように言う。
その事実に学園の魔術学科の者はもとより教師でさえも度肝を抜かれているというのに、
それに彼が助けを求めるような相手が出てきたのであればここにいる誰もが相手にならない真正の化け物しかいない。
実質彼が助けを呼ぶことはないのだ。
学園長に呼ばれ実況席にダリアが駆け寄る。
「はいは〜い。なんですか? 学園長」
どこまでいってもお気楽である。大河とは違う方面で救いようがない。
「今いるモンスターは何がどれだけいますか?」
「えーとスライムが十五体。ブラックワーウルフとその眷属が合わせて二十体。キマイラ二体にゴーレム一体ですわ」
学園長がモンスターの数の多さに驚く。前々から蛍火が密かに救世主候補のために禁書庫から持ち出していたからである。
最も蛍火自身、自分が相手になるとは露とも思っていなかったが。
「ゴーレムはともかくキマイラですか。よく捕まえられましたね」
「なんでもダウニー先生が取ってきたとか」
「では、キマイラ以外の全てを出してください」
学園長が躊躇なく厳しい選択肢をとる。救世主候補でもこの相手はかなり厳しい。
それを覚醒したてとなっている相手に出すものではない。
「がっ、学園長!?それはさすがに厳しすぎます。もっと軽くしないと」
余りのことにアリスが止める。さすがにそれだけの数は多すぎる。一般人基準では
「そうですわ。学園長。モンスター相手になったら急に実力が出ないって人もいますからぁ、
ここはワーウルフ一体あたりが妥当だと思いますわ〜」
ダリアが進言する。その言葉に学園長が苦い顔をする。
蛍火が実戦をすでに幾つもこなしているからこそその程度では相手にならないことを知っている。彼女は蛍火の限界が知りたいのだ。
たかが、ワーウルフ一体では蛍火が素手で倒してしまうことが分かりきっている。
しかし、そのことを告げるわけには行かない。ゆえに彼女は続ける。
「分かりました。まずはそうしましょう。それでも彼の実力が測れないのであれば先程言った通りにしてください」
「分かりましたわん」
実際ダリアも学園長の案に乗りたかったのだ。諜報員として彼の実力を知るために。
しかし、教員としては学園長の発言は許可できない。
ダリアは来た時と同じように胸を揺らしながら離れていった。
獣の咆哮が場内に響き渡り、歓声が止む。それから先は一瞬だった。
門が開け放たれたと同時に、蛍火を獲物だと認識したワーウルフが一直線に蛍火に向かって走り出す。
その速さは、まさしく矢の如き速さ。
蛍火はワーウルフを認識すると構えた。それは抜刀の構えではなく、どちらかというと空手の構え方に近い。
右手の正拳を繰り出す構え。
そしてワーウルフが肉薄する。彼は戸惑うことなく左足と同時に左手を放つ。
ワーウルフに攻撃が届く前に蛍火の攻撃が決まる。本来では考えられないことだがワーウルフの腹には穴が開いていた。
追撃をかけるように右手でワーウルフの首を掴み、そのまま頚椎を握りつぶす。
そしてそのまま地面に叩きつける体勢に持ち込み、自らも飛ぶ。膝をワーウルフの額に押し付けそのまま頭を砕く。
召喚器を出すまでもなく一瞬で人々の前で躊躇することなく殺した。
その事に誰もが驚く。彼が強いのは分かっていた。しかし、躊躇することなくその手で生き物を殺せることには驚くより他なかった。
『蛍火君、どういうつもりですか? 私は召喚器を使って戦って欲しいといっていたのですが?』
その言葉には怒気がこめられていた。約束を破るはずのない彼が約束を破ったことに。
彼からしたらそれは約束でもなんでもないのだが。
さすがにヤバイと思ったのか彼は弁解する。
「ははっ、すみません。この相手だとリベンジしたくなってしまって」
その言葉に全員が?を浮かべたが学園長だけはその意味が分かった。
蛍火の最初の帯剣の儀での対戦相手がこのワーウルフと同タイプだった。
『次は召喚器を使ってくださいね。ではダリア先生。お願いします』
学園長はそれだけしか追及しなかった。彼女も人だ。その気持ちが分からないわけではなかったのだろう。
蛍火の戦いを見て彼は震えていた。
召喚器さえも使わずに救世主候補に勝ち、躊躇なく敵を殺すという現救世主候補ではありえない行動に彼は恐れを抱いた。
「彼は……、危険すぎる」
男はそう呟き、目的の場所へと向かった。
後書き
蛍火と未亜の戦い。蛍火は未亜の願いを受け取ったのは士気上げもあります。
召喚器を持たなくても戦えることを示せばそれだけで士気が上がります。
蛍火はやはりだれかの思いだけでは動けない。打算も無いと動けないんです。
それと次回もothers viewが続きますので。
さて、今回は未亜と蛍火の戦い。
観護(でっ、何で私達の出番が一切ないのかしら?)(怒)
そっ、それはほら、未亜がどれだけ成長したかを見るために仕方なく………、
観護(??ちゃん、遠慮なくやっちゃって!!)
??「我流・奥義乃参 牙穿!!」
今度はオリジナルver!!?
あー、もう。我流奥義は殺し技なんだから気軽に使わないで欲しいよ。顔と心臓に穴が開いちゃったじゃないか。
??「本当になんで生きてるの?」
観護(くっ、これは美姫さんに助けを請う必要があるかもしれないわね)
いやいやいや、やめれ! そんな事したらさすがに私も死んじゃうよ!!
観護(どうすればいいのか後で聞きに行こう?)
??「分かった。だから、この話について……蛍火、やっぱり強い」
君はやっぱりそこなんだ。まぁ、というよりも蛍火の場合は戦闘手段と武器を持ちすぎなんだよ。
だから、どんな場合にでも対応できる。それに未亜の戦いの癖とかも掴んでるからね。
観護(それだけじゃないようだけど)
まぁね。今の蛍火と真正面からで且つ一対一で勝つ可能性があるのは大河だけ。それ以外が勝つには物量戦。
しかも味方すら囮にして戦うっていう戦法以外にない。
観護(反則的ね)
色々とそれには理由がある。けど言えないよ?
??「責任放棄?」
違うって展開に一応関わるからね。って前にも言った気がするんだけど。ちなみに蛍火がワーウルフに使ったのは修羅の門の巌颪です。
分かる人は結構いると思うんですが……。
観護(何処までも技をパクるつもりね)
我流奥義に関しては完全にパクった訳じゃないけどね。というか巌颪に関しても本物よりもかなりグロくなってるよ?
??「ねぇ、ペルソナ。私の出番はまだ?」
あー、悪いね。今回と次回の投稿で君は後書き以外は欠片として出てこない。
観護(私は?)
近いうちに出てくるんじゃない?
観護(何で疑問系なのよ!!)
??「さっさと私を出す!!!」
ぶへらっ うぅ、本当に私の扱いが酷い。でも負けないよ。きっといつか……、
観護(さって、そんなペルソナは放っておいて次回予告よ)
??「次回は学園長の強引な方法によりまたしても戦う蛍火」
その中で動く影、その影とは一体? というか散々その人物について触れてる気がするけどね。それでは次話でお会いいたしましょう。
観護(さっ、美姫さんの所に相談に行きましょ)
??「早く行こう」
やっ、やめてぇえええええええええ〜!!!!
蛍火の勝ちか。
美姫 「まあ、未亜に闘い方を教えたのは蛍火だしね」
でも、未亜も成長したよな〜。
美姫 「本当に」
それにしても、学園長もかなり強引に蛍火に連戦を。
美姫 「学園長からすれば、蛍火をどこまで信用するかってのがあるんでしょうね」
だからこそ、今のうちに力を見ておきたいって所なのかな。
美姫 「さて、次回はモンスターたちとの戦いね」
最後に出てきた男の呟きも気になるな。
また何かが起こるのか。そして、今度は召還器が呼ばれるのか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。
美姫 「それじゃあ、お客様をお迎えする用意をしないとね」
……素直に歓迎するのはペルソナさんの為にもまずいような。
美姫 「ああ、邪魔したら……分かってるわよね♪」
あ、あははは。当たり前じゃないか〜♪
……う、うぅぅ、弱い僕を許して。
美姫 「ああ、そうそう、お土産にケーキを持ってくるそうよ〜」
ケーキ?(ピク)
美姫 「ええ。お茶の用意をしておかないと」
いやー、楽しみだな〜。早く来ないかな〜。
美姫 「既に何しに来るのかは忘れてるみたいね。まあ、こっちとして助かるけれど。
でも、その記憶力の無さは、相棒として悲しくなるわ……」