今日は午後から救世主候補の選抜試験がある。すでにカエデはこの世界に来ているので必然的に今日、大河が戦うのはリコになる。

 ここで、勝ってもらわなければ歴史が思い通りにいかない。まぁ、心配するだけ無駄だろう。

この前の大河の出来具合からいって、リコには勝てるぐらいには成長している。

 さらにあの時から大河の訓練の姿勢がより前向きになっている。もともと自主訓練をせずとも才能だけでリコに勝てたのだ。

……大丈夫だろう。

もっとも、俺もリコの本気が一度しか見たことが無いので希望的観測だが。

 さて、それよりも仕込みを昼の仕込みに集中しなければ、

 

「で? 貴方たちは何故こんな時間にここにいるのですか?」

 

 ここは食堂。時間はまだ授業をしているはずの時間だ。なのに、大河とセルは食堂のイスに座り雑談していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十四話 整う条件

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、授業サボってるんだ。普段から出てるからたまには休んでも良いだろ?」

「俺も同じ」

 

 セルは結構真面目に授業に取り組んでるのは知ってるが大河は授業に出てるだけで普段は寝てるだろ?

たまにはじゃなくて、いつもサボってるも同然だろう。

 あぁ、どうして知っているかって? 学食で働いてるからいろんな情報が回ってくるんだ。

そのお陰で全員の動きを把握しやすくて本当に助かる。

 

「で? サボってまで何を話しているんですか?」

 

 事としだいによっては叩き出そう。

 

「この前、クレアが来たときセルと合コンの約束破っちまっただろ? だからそれをもう一度やろうと思って会議をしてるんだ」

 

 約束を守ろうとする心意気は認めたいが内容が内容だ。呆れるより他ない。

 

「強くなることよりも女の子の方が大事だということですね」

「「当然だ!!」」

 

 おぉ、力強く頷いた。ついでにセルも。

セル、そんな事ではイリーナに見捨てられるぞ? はぁ、大河。本当にお前は本能に性欲が刻まれているんだな。

 

「って、前なら力強く頷いてたが今ではおんなじぐらい大事だ」

 

 それでも同じぐらい!?

重症だ。いや、良くなったほうか。一に女、二に女。三四も女で五も女の思考の持ち主だもんな。

その中に割り込んだだけでもいいと思い込んでおこう。そうでもしないとやっていけん。

 

 

 

 

 

その後もいろいろと話し込んでいたが急に今日の試験の話しに変わった。

 

「後、戦ってないのはリコとリリィか」

「そっか、取りあえず俺の感だと今日の対戦相手はリコ・リスちゃんのような気がする」

 

 そうつぶやいた後、セルは珍しく真面目な表情を作り、声を落として話す。

 

「大河、彼女には気をつけた方が良いぜ」

「なんでだ?」

「彼女と初めて戦う相手は、大抵負けているからさ。

リリィ・シアフィールドしかり、寮長しかり。未亜さんも初戦では、リコ・リスちゃんに負けているだろう」

 

「何!! リリィもなのか?」

 

 セルの言葉を聞いていないのか? ちゃんとリリィもと言ったぞ。

まぁ、信じられんのは仕方ないかもしれん。今では最下位だし、

 

「ああ。現在救世主候補クラストップの彼女も、最初のリコ・リスちゃんとの試合では、手も足も出なくてころりと負けたんだよ」

「おいおい、馬鹿な事言うなよ。俺が知る限りリコがリリィに勝つのは、十回に一回もないはずだぜ?」

 

 あぁ、俺も数度見たことがあるが見事な手の抜きようだった。いや、手を抜いているわけではないな。

綿密に負けるために戦術を練っていたのだから。

 

「ああ、まさにそこなんだ、謎なのは。俺が思うに、彼女は最初の対戦以外、全て手を抜いているんじゃないか」

「たしかにそう考えられるな。だけど、そうなるとなんでそんな事をするかだな」

 

 まぁ、あまり茶々を入れないほうがいいな。

 

「それが分からないんだよな。だから、謎なんだけどな。本当は実力No1なのに、あえてそれを隠す必要とは何か。

そして、どうして最初の対戦の時だけ本気を出すのか」

「確かに気になるな。なぁ、蛍火。どうしてだと思う?」

 

 おいおい、俺に振るのかよ。たしかに知ってるけど答えるわけにいかんよな。

 

「さすがに分かりませんね。ずっと手を抜いているならともかく初戦の相手だけ本気を出すとなると」

「そうだよなぁ」

 

 というか何でもかんでも俺に聞けば分かると思うなよ。俺は解説役じゃないんだから。

 

「まあ、今日の対戦でもし、本当にリコ・リスちゃんと対戦する事になったら、頑張れよ。

もし勝てたら、大河がNo1って事になるかもよ?」

「よっしゃ!! なら絶対に勝ってやる!! そしてリコと……。グフフッ」

「えぇ、それでこそ当真です」

「おい、蛍火。何でそんなに吐き捨てるように言うんだよ?」

 

 当然だろう。まぁ、とりあえずリコとの試験はがんばれ。というか絶対に勝てよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂での仕事を終え、俺は今図書館の地下。禁書庫にいる。

いずれ入らなければならないと思って前々からこの場所は調べていた。鍛錬のためでもあるのだが、

 

 カエデが来た時から俺は世界を渡っていない。

正確に言うと師匠がいるあの世界に行っていない。理由は二つある。

第一に肉体的成長が終わる時期にさしかかったためこれ以上無駄に年をとると筋力を衰えさせてしまうからだ。

そして、師匠がもういないからだ。別に死んでしまったわけではない。

いや、もう死んでいるかもしれないな。あっちの世界では俺が初めていったときから三十年以上たっている。

師匠もいい年だ。というか還暦なんぞとっくに過ぎていた。

それでも俺を簡単に打ちのめしていたのだから恐ろしい。

皆伝を貰ったらもう来るなといわれた。

俺にただ、朽ちていく姿を見せたくなかったのだろう。師匠らしい。

 

この二つの理由のせいで俺は世界を渡らなくなった。そして俺は鍛錬相手を失ってしまった。

マリーとでは小太刀での戦闘はなんとかなるが召喚器を持ってしまっては相手にならない。

だから、俺は実戦に鍛錬を移し、そして最も近くで相手も強い禁書庫を選んだというわけだ。

学園長が造ったとあってここは鍛錬にはもってこいだ。まず、一度外に出ればまたモンスターが出てくる。

それに回復場所なんかも実はある。学園長自身がもし潜ったときのためのものだろう。結構役に立つ。

それにここは禁書庫だ。俺の好奇心を満たす本が数え切れないほどある。

いろいろと読み漁っていたお陰で技が増えた。魔法を武器に纏わせ攻撃する方法。簡単に言ってしまえば魔法剣だ。

俺が使っているのは刀なので魔法刀の方が正しいのかもしれないが、魔法刀じゃ語呂が悪いから魔法剣と呼んでいる。

 

いろいろと試してみたがこれは召喚器で無いと使えない。

通常の武器では魔力の浸透度が低く、かつ反属性の魔法を連続して武器に纏わせると武器の中に残留した属性と反発しあって砕けてしまう。

まぁ、二刀流のときに反属性にならないように分けて使えばいいのだが、結構面倒くさい。

 

魔力武具は纏わせると魔力武具自体がその属性に変化してしまい、一度魔力武具を消さないと違う属性を纏わせることができない。

通常の武器と同じように二刀流で対処すれば出来なくはないが、普通の武器のとき以上に面倒くさい。

 

あぁ、魔力弓は術式を魔力の矢に書き込んでいるのでその術式が起動するまで矢に属性が帯びないので相手にも何が出てくるか分からないようにしている。

 

「後残すは最下層だけか」

(見に行かないの?)

(あれは重要な分岐点だ。俺が手出ししていいものではない)

 

 そう、最下層にて導きの書を守る守護者は未亜を白の主にするための重要な要素だ。それに俺もここで死ぬわけには行かない。

 

(何故そんな事を聞く?)

 

 それは観護にもよく分かっているはずだ。神を倒すことを悲願としている観護達が本来の進み方を阻害するはずが無いのだが。

 

(え〜と、ほら、未亜が危険な目に会うじゃない? そうなる前に、蛍火君にバッサリやって欲しくて)

 

 親心とは複雑だな。そんな事すれば歴史が狂ってしまうのは分かっているだろうに、

 

(危険な目に会うだけだ。死ぬわけじゃない)

 

 そう。ただ、守護者に犯されそうになるだけだ。処女を散らしたぐらいでなんだというのだ?

 

(蛍火君!! 女の子にとって初めてっていうのは神聖なものなの!!  死ななければいい? ふざけんじゃないわよ!!!)

 

 どうやら、かなりご立腹らしい。

男の俺には判るはずもないだろうに、観護の男のほうにも同意を示してもらいところだが恐らくあれたちもキレるだろう。

 

(で? あれ、殺してくれるわよね? 殺すわよね? てゆーか殺せ。)

 

 最後は命令形か。それこそ未来は不確定になるぞ。

 

(無理だな。あれを今の俺では殺しきれない。)

 

 俺が否定すると観護が黙ってしまった。体があればぽかんと口をあけて呆けていることだろう。

 

(え!? 非常識の塊の蛍火君が出来ない? 嘘言わないでよ)

 

 たしかに俺は非常識の塊だが、出来ないことは出来ない。

 

(事実だ。俺には火力が足りない。みじん切りにすることは出来ても、癌細胞のようなあれをこの世から消すことは俺には出来ない)

 

 そう、出来ないのだ。俺は全てを一人でこなすことが出来る。それ故に、俺は究極の一を持つことが出来なかった。

全ての技を修めることは出来た。しかし、極めることは出来なかった。多様性を求めたが故か。

 人や雑魚相手ならそれで事足りる。しかし、真正の化け物には太刀打ちできない。絶対的なものを持っていないが故に、

 

(そっか、無理言ってごめんね)

(分かればいい。というより物語から外れることを要求するな)

(はい)

 

 観護は納得し、黙ってしまった。

 たしかに、今の俺では、普通にあれを倒すことは出来ない。だが、第五の仮面のときに普通ではない手段でやれば出来ないことはない。

 禁書庫で魔法剣の事が記されている本とは別のものに記されていた禁伎なら出来るだろう。

もっともそうやすやすと使えるものではない。

禁伎とされているあれは確実に代償を必要とする。その代償を支払えば戦闘の続行などほぼ不可能だ。

まぁ、やれんことも無いがな。しかし、そうまでして守護者を殺す理由が今の俺にはない。

 

 

 

 

 

 

 逆召喚をして図書館の最下層一歩手前から出る。異世界にも渡れるのだから、これぐらいは難しくは無い。

外に出てまず、目に付いたのが夕陽だった。どこまでも赤く、そして空は茜色に染まっていた。

その眩しさに思わず目を細めてしまう。

今日の夕飯はメリッサと未亜に頼んでいる。禁書庫探索をしていては夕飯を作るのに間に合わないと分かっていたからな。

まぁ、手伝うだけでもするか。

 

「あれ? 今日は用事があるからって出かけてたのにもう帰ってきたの?」

「えぇ、思いのほか速く終わりまして。それで手伝うだけでもしようと思いまして」

 

 キッチンを見るがあまり料理は出来ていない。ん? 十人分は必要だから今の時点でもっと出来ていないといけないのだが。

 奥のほうで未亜とイリーナが何かしている。ていうかイリーナ!? 今まで一度も手伝いに来た事のないイリーナが? 何で?

 

「あぁ、蛍火君が遅れるって知って手伝ってくれるって言ってくれたんだけど」

 

 そういう事か。まぁ、それ以外にもいろいろと理由はあるだろうが。例えばセルとか、セルとか、セルとか。

 ふむ、未亜がついているがそれなりに迷っている態度は無い。練習はしてきたのだろう。

今まで料理はしたこと無いって言ってたのに。けな気だねぇ。

 

「なるほどがんばっているということですか。この場合私と当真はグラキアスさんの料理に手をつけないほうがいいのでしょうか?」

 

 俺としては女心は分からんからな。まぁ、食べていいと言われても最初はセルに食わせなければならないことぐらいは分かっている。

 メリッサの返事が来ないのでイリーナから目を離しメリッサのほうを向いた。とんでもなく俺を見て驚いていた。

どこに驚くところがある?

 

「トンプソンさん?」

 

 目の前で手を少し振る。反応は薄い。大丈夫か?

 

「はっ、ごっごめん。何か蛍火君から有り得ない言葉を聞いた気がしたから。もう一回言ってくれるかな?」

「いえね。グラキアスさんが作った料理は私と当真が食べても良いのかと」

 

 今度も固まってしまった。一体どうしたというのだ?

 

「偽者」

 

 何か今すっげー不穏当な発言が聞こえたんですけど。

メリッサの俺を見る視線がきつくなってくる。

 

「返して!」

「はっ?」

 

 メリッサの剣幕がさらに悪くなる。というか錯乱してるだろ。

 

「蛍火君を返して!!」

「いえ、私は蛍火ですけど」

 

 メリッサの長いポニーテイルが大きく左右に揺れる。

 

「そんなはずないもん。蛍火君はすっっっごく鈍感だもん。

イリーナさんの気持ちが分かるはずないもん。返して! 私の蛍火君を返して!!」

 

 いつの間に俺はメリッサのものに成ったんだ? メリッサの私の発言でキッチンの奥のほうから瘴気が漂ってきた。

あぁ、間近にいるイリーナは酷いことになっているだろうな。

 

「いい加減にしないと口をふさぎますよ? 」

 

 少しこめかみに青筋が浮かんでいるだろう。というより俺も何をトチ狂ったことを言っているのだろう。

それにメリッサが漸く気づいたようだが、なんだか様子がおかしい。俺の言葉を数度小さく繰り返して勢いよく顔を上げ、

 

「むしろどんと来い!!」

 

 うわぁ、何か間違えたっぽい。やべぇ、キッチンの奥のほうの瘴気がさらに濃くなってきた気がする。早く気づけ、メリッサ。

 

「ほら、早く早く!」

 

 メリッサが急かすようにさらに言葉を言い続ける。なんかやばい。かなりやばい。

 さらに近づいてくる。えーとこれは避けていいんだよな?

 

「メリッサさん。速く夕飯の支度しなきゃ。遅れるよ?」

 

 未亜が止めてくれた。助かった………と思えるほど世の中は甘くない。

 未亜は苦笑しながら言っていたが眼は、眼だけは笑っていなかった。というよりあれは夜叉の目だった。

そして未亜の右手にさっきまでイリーナが使っていた包丁が握られている。力強くこれから何かを刺すかのように力強く。

 その様子にメリッサもさすがに諦めた。これからはもう少し、気をつけて発言しよう。

 未亜の厳しい視線とメリッサのねだるような視線を感じながら料理を作った。生きた心地がしなかったよ。

 

 

 

 

 

 食卓にはいつも通り様々な料理が並んでいる。その一角に少しだけ形が崩れた料理が並んでいる。

それの配置は俺と大河が届かず、セルには容易に取りやすくなっていた。

そこまでやるか。

 

セルはその料理には目もくれず、他の料理を食べていた。セルの手がその料理に近くに行くとイリーナが期待し喜ぶ。

だが、その横の料理に手が下りると落胆とその繰り返し。

 いやいや、見ていて楽しいですよ? まぁ、俺は手を出さずに見ていよう。

 それよりも俺としては大河の勝敗が気になる。まぁ、大河の様子を見る限り負けたという風には取れないのだが、念のためだ。

 

「当真。今日のリコ・リスさんとの対戦はどうでした?」

「ん? もちろん勝ったぞ。結構きつかったけどな」

 

 ふむ、大勢の前で強がらないとは本当に変わった。

 

「すごかったでござるよ。押しも押されぬ戦い。見ているこっちが手を握ったほどでござる」

 

 リコはとの戦いは白熱してそれで勝ったか。これでまた新たな道が開けた。

明日の禁書庫に行くのを気づかれずにサポートすれば当分仕事がなくなるな。

暇だし喫茶店でも開けてみようか。

 

「それにしても最下位のリコ相手にあんなに苦戦するなんて、口だけね」

 

 それはカエデが着てすぐの時の言葉の話だろう。強くなるといったからな。

 

「いや、リコは強かった」

 

 それは負け惜しみではなく正直な感想。その言葉にマリーとイリーナが頷く。

 

「でも、リコはいつも通りでしたよ?」

 

 いつもと同じ火力で大河を追い詰めるか。長く生きた分、戦術は磨かれていったのだろう。

 

「そやな。この前見た時と魔法の威力はかわらへん。でも戦い方がいつもと違っとったで。いつもより綿密な魔法の配置やった」

「そうだな。私でもあそこまでの戦術は見たことが無い。あれ相手に勝つことは容易ではない。よく勝ったな、大河」

 

 マリーとイリーナが感想を述べる。ついでに大河もほめていた。この前までならそこで浮かれてイリーナにちょっかいをかけていたが今はもうしていない。

もしかしてイリーナがセルのことを好きだと薄々気づいているのかもしれない。

 

「やっぱり俺の思ったとおりリコ・リスちゃんは強かったのか」

「やっぱりって何? リコは実力を隠してたって言うの?」

 

 リリィの言葉はいらだっていた。今まで強くなるために全力でやっていたのに手を抜かれていたのかもしれないのだから。

まぁ、生真面目だからな。

 

「そうがなるな。そして、リコが隠すほどの実力にすら俺は勝ったってわけだ。

だから救世主クラスでは俺が一番強いことになるな。ははははっ」

 

 大河の馬鹿笑いがリリィの神経を逆なでしていく。魔法を放つのは止めてくれ。

今日はイリーナがせっかくがんばった料理があるのだから。

 

「はっ、何言ってんのよ。救世主クラス最強はあんたなんかじゃないわ」

「けど、リコにも相手にされない奴よりも強いのは確実だな」

 

 教室と同じ事をここでするつもりか? イリーナがキレるぞ。

 

「ぐっ、確かにそうかもしれない。けどあんたが最強じゃないって言うのは確かよ」

「ほぉ、それは自分だって言うのか? リコにも相手にされてないのに?」

「違うわよ。それはあんたじゃなくて……。なんでもない」

 

 リリィが何か言いかけていたがそれを口にすることなく話を終わらせてしまった。まぁ、俺が終わらせたんだけど。

 

「はぁ? どうしたんだ?リリィ。」

「そうですよ。言いかけたことを止めるなんてリリィらしくないですよ。」

 

 いや、止めるしかなかったんだからしょうがないよ。

それにリリィは結構言いかけて止めることが多いですよ。恋愛沙汰になると特に。

 

「別に本当になんでもない。それよりもしリコが実力を隠してたって言うんなら何でかしら? 蛍火。分からない?」

 

 大河と同じ事を聞く。俺に聞けば何でも分かると思うな。四次元ポケットを持ってるタヌキ型ロボットじゃないぞ。

 

「いや、蛍火も分からんらしいぞ。試験前にも聞いたしな」

「そうですか。残念です」

 

 全員が落胆している。本当にタヌキ型ロボット扱いだ。

 

「じゃあ、推測だけしてみましょう。対戦前のリコ・リスさんの言葉と終わった後の言葉を思い出してもらえたら出来ますから」

「そう言えば、何かいろいろ言ってたけど小さくて聞こえなかった。ん〜。

おう、そうだ。最後に試させてもらいますっていうのだけは聞こえたぞ」

「負けた後は呆然としてたよ。すっごく意外そうだった」

 

 まぁ、同じか。というか本当にゲームと一緒だな。

 

「なら、待っていたのかもしれませんね」

「「「待っていた?」」」」

 

 全員がまたしても?を浮かべている。俺が解説するとこればかりだな。

 

「えぇ、彼女は自分を倒すことの出来る人物を待っていたのでしょう。もちろん本気の彼女をですけどね」

「なんでそんな人を待つ必要があるの?」

「さぁ、そこまでは。私はリコ・リスさんじゃないので、ただ、彼女は待っていた。未熟でありながらも強い存在を」

 

 そう、リコは待っていた。

因果の鎖を断つものを、この数えるのも愚かしいほど繰り返された救世主戦争を終わらせることの出来る存在を。

そして大河はその目にかなった。それだけの事だ。

 

「なんだかよく分かんないな」

 

 俺の言葉を考えていたためか、セルは最も近くにあった料理を口に運ぶ。それすなわちイリーナの料理。

 

「あれ? なんかこれいつもと味付け違うな」

 

 それはそうだ。作った人がまず違う。さて、ここでどう出てくれるかな?

 

「そうか、不味いのか?」

 

 イリーナが不安そうにセルに聞いた。その様子にセルはまったく気づいていない。やれやれだ。

いや、ここはむしろ気づかないほうが良いのか?

 

「いや、不味いってほどじゃない。今は他の料理に比べたらダメだけど期待は出来るな」

 

その一言にイリーナは小さくガッツポーズ。メリッサも未亜も我がことのように喜んでいる。気づかれないようにだが。

 しかし、一度何故、隠し事で俺に聞くんだろうか? まぁその内、解説役のリコがここに来るから気にしないでおこうか。

 

 

 

 


後書き

 大河とリコが戦う裏で蛍火はその次に起こることを予想して準備していました。

 決して、戦闘を書くのが面倒くさいからじゃないですよ?

このSSの主人公は蛍火です。なので、蛍火が見ていない場面を今ここで語る事は出来ないのです。

 作中で蛍火は極めていないといいましたがそれは事実です。

 全てを等しく極めるなどという事は人では無理です。蛍火が求めたのはどんな状況でも対応しうる力。

 その為に、極めた物同士の戦いでは現時点では中々に手をだせません。以後は分かりませんけどね。

 

 

 

 ごめんなさい(土下座)

観護(まったくよ。前回の予告で破滅の片鱗に触れるとかいいながらまったく触れてないじゃない)

??「最低……」

 うぅうう、本当にごめんなさい。だって、この前送ったのって一話当たりがかなり長くなってたんだ。

読みやすさを考えたらここで切らなきゃいけないんだ。

観護(まぁ、たしかに、前回はかなり長かったしね)

 うん、まぁ取り合えず今回は本来は大河とリコの戦う日。だけど、蛍火は明日のために禁書庫に潜っていてそれが見れなかった。

??「……面倒くさいからって手を抜いた?」

 ちっ、違う!! 断じてそうじゃない!! 蛍火は大河のことを信じてたから明日のために用意をしてたんだよ!!

観護(本当かしら?)

 本当だよ。信じてくれよ……、

観護(まぁ、いいわ。それにしても蛍火君に出来ないことがあるって言うのが今でも信じられないんだけど)

 蛍火は万能だからね。だから、究極の一を持つ存在には勝てないんだ。

??「蛍火は一番強い」

 無茶言わないでよ。一番強かったら小説が成り立たないよ。

観護(まぁ、その話は置いておいて、気になるところはやっぱりイリーナの行動ね。純情だわ〜)

 うん、初々しくていいよね。

??「使える……、」

 ??…、まぁ、そろそろ巻いていこう。

??「次回予告」

観護(今度こそ、本当に破滅の片鱗に触れる大河たち。シリアスあり、ギャグありのお話でっす…。

ってなんでシリアスのはずなのにギャグがあるのよ!!)

??「ペルソナ、ちゃんと場を考える!!」

 ぎっ、ぎにゃー!!!!!!!

 

 それと、今更ですが氷瀬さん、美姫さん。Schwarzes Anormalesを送るたびに感想を頂きありがとうございます。

 送るたびにお二人にどんな感想を頂けるかとても楽しみでした。

 今まで言わなかった事、本当にすみませんでした。





感想に関してお礼を言われてしまった。
美姫 「ちょっと照れるわね」
いや、お前はそれぐらい謙虚の方が大人しくなって丁度良……ぶべらっ!
美姫 「悪は滅びた」
……うぅぅ。酷い仕打ち。
美姫 「今回は大河とリコの対決が裏であって」
肝心の蛍火は何やらコソコソと仕込んでいたみたいだな。
美姫 「一体、何をしていたのかしらね」
うーん、明日の為の準備と言う事だからな。
美姫 「どんな展開を見せてくれるのかしら」
気になる次回は……。
美姫 「すぐそこに!」



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