「改めて考えてみるとすごいですよね〜」

 

 

 

 

 

 

 

第二十二話 少しずつ

 

 

 

 

 

 

 俺の言葉に誰もが箸を止めてこっちを見てきた。そんなにおかしな発言だったろうか?

 

「えーと、蛍火君。いきなりそんな事言われても分からないよ」

 

 メリッサが困り顔で俺に何を言っているのか問うてきた。ふむ、さすがに唐突過ぎたか。まぁ、俺も思いついただけだし、

 

「いえね。よく考えると一緒に夕食をとっているメンバーがいやに豪勢だなと」

 

 救世主候補が大河、未亜、カエデ、ベリオ、リリィの五人。破滅の将(未定)のセル。

調理科のアイドル、メリッサ。

王国騎士団一番の実力を持つイリーナ。遥か昔から王家の影として存在したグラキアス家の跡取りマリー。

本当に豪勢だ。しかもその内に赤の書の精のリコ。千年前の赤の主、ルビナスも増えると思う。

 つまり、ここに集まる者達が力を合わせればこの世界を手に入れるのも難しくない。その後も安心だしな。

 

「そうだね。私なんかいていいか迷っちゃうくらい。すごいよね」

「俺もここにいるのがたまに場違いに思えるぐらいだしな」

 

 メリッサとセルが重いため息を吐く。心なしか二人の周りを包む空気も重く暗いものになっている。

 

「お二人は将来にまだ期待できるからいいですよ。私なんて…。はぁ」

 

 ため息すら出てくる。ここにいる者達はその未来が光り輝いている。そして今もその魂は光り輝き、他者を魅了する。

俺には無い、そしてこれからも有り得ないその眩しさ。本当に俺にとってこの場所は場違いだ。

その言葉に全員が白い目で俺を見てくる。いや、本当に。今まで感じたことの無い異質な視線だ。

 

「馬鹿じゃないの? あんたはそれで今で十分この、メンバーに釣り合ってるわよ。そんな事言ったら他の人に失礼よ」

 

 リリィらしく馬鹿にしたような口調で俺を慰めてくれる。まぁ、相変わらず不器用だ。

そういう事をいってるんじゃないんだけどな。

 

あんた相手じゃ私たち全員でやっと釣り合うぐらいなのに

ほんまやなぁ

 

 リリィの小声にリリィの隣のマリーが賛同する。そうか?

 

「そうですよね。知名度だけでいったら蛍火さんは大河君よりも上ですからね」

「何!? ちょっとまて。初の男性救世主候補である俺よりも蛍火の知名度の方が高いんだ!!?」

 

 ベリオの発言に大河が待ったをかける。っていうか革命者の知名度ってそこまで高いのか。

 

「そうだな。市井の間では革命者と救世主候補は同率に扱われている。

つまり、大河たち救世主候補6人と蛍火一人の知名度が同じということになる。

知名度を分割すれば蛍火のほうが有名ということになるな」

 

 なるほどなぁ。人々にとってさしずめ救世主候補は希望。革命者は支えといったところなのだろう。

 

「有名になった感想はどうや? 蛍火?」

 

 意地の悪そうな表情でマリーが俺に聞いてくる。誰もが普通に食事しているが全員の気が俺に向いている。

そんな興味を示すことだろうか?

 

「どうもこうもありません。それに知名度というのは革命者であって私ではありませんから」

 

 その言葉に全員が?顔になる。分かりづらいか?

 

「人々にとって有名なのは私が言った言葉です。私ではない。それを言った本人のことなどどうでもいいはずですから」

 

 革命者は言葉という曖昧なものの上に成り立っている。だが、救世主候補は違う。召喚器という確固たるものが証となっているからだ。

簡単にいってしまえば偽者が現れたとき革命者は証明するものが無いということだ。

 

「そんな事ないよ。きっとみんなは蛍火君が言ったからそれを信じたんだよ。だから、蛍火君は自分を卑下しちゃだめだよ?」

 

 可愛らしい顔できついことを言ってくれる。俺には自身を誇るものなど何もない。

なら他者と比べたときは卑下するしかないというのに。

 曖昧な表情でとりあえずメリッサに返しておいた。

 

「でも、こんだけ救世主クラスの人間が集まってるんだからリコさんも来ればいいのになぁ」

 

 セルが不用意な発言をする。本人はその事実にいたって気づいていないようだが。むくわれないなイリーナ。

 

「リコは私たちとも触れ合おうとしませんから。ここに来ないのは当然なのかもしれません」

 

 まぁ、今は触れ合うことを恐れてる時期だからな。まっ、それも禁書庫にいくまでだろう。

ん? そうなったら料理の量を増やさないといけないな。

鉄人ランチγレベルを作らないといけないのだろうか? それとも大河から魔力供給されるからあまり必要じゃなくなるのだろうか?

忘れたな。

 

「そっかぁ。これでまた一人可愛い子がここに増えると思ったんだけどな。イテェ!!」

 

 セルの発言が終わると同時にイリーナがセルをつねった。どうしてこうなのかねぇ?

 

「セル。お前には精神修行がたりんらしいな? 明日からみっちりとそれ関係の修行を増やしてやろう」

 

 その言葉にセルは青ざめ、よほど嫌なのかイリーナを拝み倒している。まぁ、いつもの光景だ。

 ん? そういえばこういう時は大河がセルと同じ反応をしてお説教をくらうというのもお決まりだったはずだが?どうしたんだ?

 

当真? どうしました。いつもならセルビウムに賛同しているはずでしょう?」

 

 大河はいつもとは違う神妙な顔で答えた。

 

「いや、もしリコがここに来るんなら食費が大変だなって思ってさ。」

 

 リコが大食漢(?)だということは周知の事実なので誰もがその言葉に乾いた笑いを浮かべていた。

 

「まぁ、そうなったらそうなったでかまいません。

それに恐らくリコ・リスさんもその内ここで一緒に食事を取ることになると思いますよ?」

「何でだ?」

「彼女は貴方たちの仲間なのでしょう? なら、きっと今以上に仲良くなって貴方たちがここに連れてくるでしょうから。」

 

 契約後はリコのことを大河が放っておくはずが無いからという確証があるから出てくる言葉だが。

他の奴は違うように受け取ったようだ。なんだか感心している。ほんとによくわからん。

 

 

 

 

 

「当真、ヒイラギさん。もう少しゆっくり食べたらどうですか? 料理は逃げませんよ?」

 大河とカエデがものすごい勢いで料理を口に入れている。今日の夕飯が始まってからそうだったがさすがに耐え切れない。

料理人の端くれとしては料理はきちんと味わって食べて欲しい。

 

「んは、ほはひっへもほ。ひはんははっひゃふへはひんはへ?」

「まぁ、確かにそうかもしれませんけど、作った者としては味わって欲しいものですよ?

それに口に食べ物を入れたまま話すのは行儀が悪いです」

 

 俺の言葉に大河はこくこくと頷いてこれ以上話そうとはしなかった。しかし、依然。食べるスピードは驚異的だ。

 

「って、何であいつの言ってることがわかんのよ!!?」

 

 リリィからいい突込みが入った。さすがだな。

 ちなみに大河がさっき言っていたことを訳するとこうなる。(んな、事言ってもよ。時間は待っちゃくれないんだぜ?)である。

何故分かったのかというとまぁ、勘と大河の心理状況の分析によってだ。

 

「拙者も悪いとは思っているでござる。でも時間が惜しいでござる」

 

 まぁ、言いたいことは分かる。強くなるためには時間などいくらあっても足りないというのが現状だからな。

少しでも訓練に費やす時間が欲しいんだろう。

 しかし、早食いは消化に悪く、それが訓練の妨げになってしまう。よく噛んで食べるのが一番時間を無駄に使わずに済む。

取りあえず注意だけはしておくか。

 

「急いで食べるほうが体に悪いですよ?それに訓練するなら食後の2時間後から望ましいです。

胃に消化が済んでいないものがあると気持ち悪くなりますから。

ちゃんとよく噛んで食べるのが一番時間の浪費が少ないです。だから、もう少し味わってください」

 

 その言葉が効いたのか大河とカエデの食べるスピードが落ちる。

 

「んで、どうして急に時間を気にするようになったんだ? この後、何するんだ?」

 

 まぁ、セルの言う事ももっともだ。いつもは時間を気にせず食べて、この後はゆっくりするだけだったはずだ。

 

「ん? この後、カエデと訓練するつもりだ。」

 

 大河の言葉に一同絶句する。いや、だってあの大河がですよ? 自主訓練する奴では絶対にない。

 

「えぇえええええ〜!!!」

「お兄ちゃん!! 何か変なものでも食べたの!?」

「大河君。熱でもあるの?」

「大河。お前正気か?」

「悩みがあるなら聞きますよ?」

「あんた偽者ね!! さっさと正体を現しなさい!!」

 

 未亜、メリッサ、セル、ベリオ、リリィが次々と大河に詰め寄る。

俺も出来るなら詰め寄りたいところだがあいつらの剣幕では無理そうだ。

 

「変なものなんて食ってないし、熱も無い。俺は正気だし、悩みもない。いや、あるといえばあるか。

それとリリィ!!俺のどこが偽者なんだよ!!」

「授業すらまともに受けてない奴が急に自主訓練しようとするのよ!? 明らかにあんたは大河じゃないわよ!!」

 

 酷いいいようだ。まぁ、それも普段の大河の生活態度が悪いせいだが。いや、たしかに努力をしているわけではないな。

俺がさせてるし。

 

「だぁ〜!!うるせぇ!! 俺が努力しようとするのがそんなおかしいのかよ!!?」

 

 全員が頷く。この時ばかりは誰もが同じ思いになっただろう。それはおかしいと。

 

「それで大河くん。どうして急に自主訓練をしようと思ったんですか?」

「いやな。俺は自惚れてたんだなぁって実感してさ」

 

 またしても全員そろって今度は胡散臭そうな目で大河を見る。何を今更。自惚れていない大河など大河ではない。

まぁ、大河は自惚れてはいても過信はしていない。大河の自惚れは自信に繋がっているだけなので悪い事はない。

 まぁ、女性にとっては困ることだろうが。

 

「今まで俺は、召喚器を手に入れて、イリーナの訓練を受けていい気に成ってた。それだけで俺は強いって。何でも出来るって。

だけど違った。俺よりも強い奴はいる、俺よりも何でも出来る奴はいる。

そいつは本当に強くて大きかった。俺はそいつを超えたい。だから俺はもっと強くなりたい。そう思っただけだ。

それに俺は真の救世主になる存在だからな。こんなところで立ち止まれないぜ!!」

 

 いつにないシリアスな雰囲気で大河は自分の心境を語る。最後のほうは大河らしかったが。

そうか、あれでそう思ってくれたんなら俺も頑張ったかいがあるというものだ。

 大河の俺よりも強い発言で若干二名ほど俺のほうを向いたりしていたが気にしないことにした。

 

「えぇ!!? そんな人がいるんですか?」

「お兄ちゃんらしいね。でもお兄ちゃんよりも強い人ってどんな人だろ?」

「それはあれでしょ、未亜さん。筋骨隆々の熊みたいな奴に決まってるさ」

 

 さすがはベリオ。最後の発言はスルーですか。セル。それは酷いぞ。

 

「おぉ、いるいる。すっげぇのが。セル。そいつは熊って言ううよりもスリムだったぞ」

「で? 大河君が戦ったんでしょ? 勝ったんだよね?」

 

 メリッサの発言は当然だろう。この世界で最強とされているのは救世主候補だ。

その救世主候補がいくら相手の強さを認めたとはいえ負けるとは思えない。まぁ実際負けてないしね。勝ってもいないだろうけど。

 

「いや、そん時は勝ち負けを意識してたわけじゃないから、勝った、負けたはないけど。でも結果的には負けてたんだろうなぁ」

 

 大河が負けを認めるとは珍しい。だが、大河は負けてないぞ? しいて言うなら延長?

 

「そんな奴がいるとは是非とも一戦交えたいものだな」

 

 イリーナが戦うものとしてもっともな発言をする。本当にまっすぐだねぁ。

 

「大河に勝つような奴だって? 俺は絶対に出会いたくないな」

 

 勝ったような奴ではないがすでに君の目の前にいるよ? セル。

 

「セル、何を言う。武人なら強いものと立ち会うのは本望のはずだ。

その時がきたらもちろん、お前にも立ち会ってもらうように言うから覚悟しておけ」

「イリーナさん。ちょっと待ってくれよ!!俺は戦う気は無いって」

「男なら当たって砕けろ」

 

 いや、いや面白いなぁ。まぁ、セルと立ち会ってみるっていうのは面白いな。考えておこう。

 

「で、お兄ちゃん。その人って結局どんな人なの?」

 

 その言葉にマリーとリリィ以外の人の気がそっちに向く。別に気にしなくてもいいだろ?

 

「えーとだな。その、なんていうかだな。」

 

 大河は言葉につまり助けを求めるように俺のほうを見る。いや、俺のほうを見られても困る。俺は知らないはずなんだし。

 

「それはでござるな」

 

 大河の困ったところを助けようとカエデが口を挟む。カエデならあっさりと俺の名前を出すだろう。

 指向性を持った殺気をカエデに送る。臨戦態勢すらとらせることの出来ない濃密な殺気でカエデは口を出せないでいる。

 俺のほうを見てようやく意図を察したのか。慌てて弁解する。

 

「拙者もよくは知らないでござるよ!!」

 

 慌てていったせいか語尾が強くなっている。それでは逆効果だろう。まぁ、終わらすとしよう。

 

「つまり、この学園の関係者ではないということですね。なら、これ以上は聞いても無駄でしょう」

「そっそうなんだ。俺もよく知らない奴なんだよ」

 

 俺の言葉に合わせるように大河が慌ててつなげる。大丈夫かな?

 

「でも、大河くん。その人とは初めて会ったんですよね? なのにその人が大きいとか超えようとかってよく思えますね」

 

 若干あきれが混ざった言葉だった。矛盾点が多いよなぁ。

 

「ほら、戦うことで分かり合えるっていうかそんな感じだ」

 

 その言葉でしぶしぶと引き下がっていく。なんとか終わったか。

 

「それは分かった。しかし、特徴くらいは教えてくれてもいいだろう?」

 

 イリーナが終わらせてくれなかった。詮索するなよ。

 

「グラキアスさん、それぐらいにしておきましょう。当真にだって意地があります。

負けた相手のことを他の人に言いたくないでしょう。再挑戦意思があるのですから勝った暁には教えてくれると思いますよ」

「ふむ、それもそうか」

 

 あっさりと引き下がってくれてた。おそらく自分にも同じような経験があるからだろう。

 

「でもでも、蛍火君は気にならないの?」

 

 メリッサがまだ気になるのか俺を出しに聞き出そうとする。しかし、それは無駄というものだ。

 

「これは当真にとっての問題ですから。私が口出しするようなことではありません」

 

 大河とカエデが平然と嘘をつく俺に驚いている。ふっ、これが大人の余裕というものだ。

 

「そっか。残念」

 

 こうして大河と戦った相手の真相は闇に潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 食事が終わって、食後の紅茶、コーヒーをそれぞれがその時間を楽しんでいた。一人を除いて。

まぁ、他のやつには苦手なものの克服と説明としているので何もない。

 

「飲まないんですか?」

 

 それは当然、カエデだ。カエデの目の前には赤い赤い飲み物が鎮座していた。それはもちろん血液。ではなくてトマトジュースだ。

 

「うぅ、いくらなんでもすぐには慣れることは出来ないでござるよ。兄君」

 

 カエデの兄君発言で楽しいはずの食後のお茶の時間は黒い感情に包まれてしまった。

 

「へぇ、蛍火はそんな風に呼ばせとるんや」

「ふーん。蛍火君がそんな趣味だって知らなかったよ」

「えぇ、蛍火さんがそんな趣味持ってたなんて知りませんでした」

「蛍火、あんた最低ね」

 

 うわ、ひどっ!! うぅ、でもこの雰囲気で声を荒げることが出来ない。ここはなんとか弁解しないと。後が怖い。

 

「あのですね?」

「なんや?お兄ちゃん。

「なぁに? お兄ちゃん」

「どうかした? お義兄ちゃん」

「何? お兄ちゃん」

 

 完全にそんな趣味がある奴と思われている。俺にそんな趣味はないのに、

 それにしても未亜のイントネーションが他のと少し違ったような気がしたが気のせいか?

 

「あっ、あの拙者が勝手に兄君と呼んでいるだけで兄君のせいではないでござる!」

 

 兄君、兄君と連呼するな。あぁ、さらに黒くなっていく。

 

「へぇ、じゃあどうしてそんな風に呼んでるのかな?」

 

 未亜がこめかみを引きつらせながらカエデを糾弾する。マリー、メリッサ、リリィも同様だ。

 

「それはでござるな。兄君が兄君だからでござる!!」

 

 何をトチ狂ったことを言っている。血なんかつながってないぞ。案の定、全員が絶句している。

その様子にカエデも自分がおかしな事を言ったことに気づいた。

 

「あっ、兄弟とかそういう訳ではなくて、拙者に一人っ子だから兄弟に憧れていたのでござるよ。

兄君がいたらきっと蛍火殿のようだと思ったでござる。だから、兄君と呼んでいるのでござる」

 

 まぁ、そんなもんか。未亜とマリー、イリーナ以外がその言葉に納得顔をしている。何故に納得する。

 

そうですね。たしかに蛍火さんは私が小さかった頃の優しかった兄に雰囲気が似ています

 

 すこし、寂しそうにベリオがカエデに頷く。微妙な変化だったので事情を知る俺と大河以外は気づいている様子は無かったが。

 

「たしかにな。蛍火って俺たちと同じような年なのに俺たちより大人に思えるし」

 

 いやいや、セル。本当は違うぞ? 俺も今は二十代半ばだ。実際働いているしお前たちよりも大人に見えるのは仕方ない。

 

「私もその気持ちは分かるよ。妹と弟はいるけどお兄ちゃんはいなかったから。

うん。私が欲しいって思ってた理想像に蛍火君は一番近いよ」

 

 へぇ、メリッサには妹と弟がいたのか。知らなかった。

まぁ、救世主候補がいる所で家族の話は禁句だったからな。それも当然か。

 

「まぁ、私も分からなくないかな?」

 

 リリィが賛同するとは意外だな。まぁ、無いものには憧れるものか。

 

「うーん。うちにはちょっと理解できんなぁ」

「まぁ、私たちは蛍火を年下にしか見ていないからな」

「私にはお兄ちゃんがいるからその気持ちはちょっと分かりにくいかな?」

 

 マリー、イリーナ、未亜にはそう思えなくても仕方ないな。

特にマリーは俺を知っている。だからその印象が心に残り理想の兄には結びつかないだろう。

 

「はいはい、それはいいですから、せっかくの温かい飲み物が冷めて美味しくなくなってしまいますよ?」

 

 せっかく淹れたのだ。旨いうちに飲んでもらいたい。まぁ、それ以上に俺を話題に持ち上げもらいたくないのだが。

 全員が紅茶や珈琲を飲みなおし始める。しかし、相変わらずカエデだけはトマトジュースには手をつけない。

 はぁ、まったく何のために用意したと思っているんだ。

 

「ヒイラギさん。早く飲んでください。貴女のためにせっかく農業科の人から完全無農薬の完熟トマトを貰ってきたんですから」

 

 農業科の奴に頼んだら簡単にもらえた。時期があっていたのと俺が革命者だって事が理由だろうがな。

 

「うぅ、兄君。もう少し軽めからしたいでござるよ」

 

 昼間で克服することはできると分かっていてもすぐには無理か。それにカエデは臆病で意気地なしだ。

強制的にでもしないと今はまだ無理か。自主性を重んじたかったんだがな。

 

「はぁ、分かりました」

「ありがとうでござるよ。兄君」

 

 何故かカエデが喜んでいる。

俺は単にカエデが自分で飲むのを諦めただけであってカエデにトマトジュースを飲ませることを諦めたわけではない。勿体無いしな。

 

「いいえ、飲んでもらいますよ。自分では飲めなさそうですから、ここで二択。

辛い思いをして飲まされるか、少しいい思いをして飲むかどっちがいいですか?」

「うぅ、飲むことには変わらないのでござるな。じゃあ、せめていい思いをしたいでござるよ」

 

 ふふっ、やっぱりそっちを選んだか。さてさて、これから一波乱を起こるな。もっとも天災ではなく人災だが、

 

「分かりました。では当真。はい」

 

 俺はトマトジュースを大河に渡す。

え? 大河に渡しても何もならないって? いやいや、そんな事はない。面白いことがおきるのさ。

 

「いや、はいって渡されてもどうしたらいいんだよ」

「飲ませてあげてください」

 

 あぁ、久しぶりに俺はいい笑顔をしているだろう。その笑顔に大河の頬が引きつる。

まぁ、この顔をされていい思い出は無いだろうからな。

 

「もちろん。口移しで」

 

 はい。爆弾投下。

 

「ちょっと待ってください!! 苦手なものを克服させるためとはいえやりすぎです! そもそも、衆前でやることではありません!!」

「やりすぎだよ!!」

 

 ふむ、少しだけ未亜の追求が緩いか。なら、押し切れる。

 

「いえいえ、ヒイラギさんが飲まないのですから仕方ないでしょう?

ならば、ここは師匠である当真にがんばってもらわないと。それにこれはいわば、人工呼吸と同じです?」

「同じかなぁ?」

 

 いや、本当は違うけどね。というより、まったく違うけど。

 

「ヒイラギさん? 嫌ですか?」

「せっ、拙者は師匠とならがんばれるでござる。」

 

 おーおー、恥じらいながら許可を出すなんて高等な技を知ってるな。いや、天然か?

 

「くそう!! 大河ばっかり良い目に会いやがって!!」

 

 何やらセルが暴れている。よほど羨ましいのだろう。

その横でイリーナが困った顔をしている。セルの発言には怒りたいが出来れば自分もと考えているのだろう。いやはや、青春ですね。

 

「セルビウムもそう言うと思って、はい」

 

 セルにもジュースを渡す。受けとったセルは困った顔をしている。自分も未亜にしたいが勇気が無い。

でもしたい。しかし、断られたらどうしようと思いっきり顔に出ている。

その横ではイリーナが期待している顔をしている。しかし、自分には来ないと分かっている。でもして欲しい。

期待と不安と落胆が混じっている。う〜ん。面白いねぇ。

 

えっ? どこから出したかって? 細かいことは気にしないほうが身のためだよ?

 

「あぁ、トロープさんも当真さんも自分がしてもらわないから怒ってるんですね? ではこれをどうぞ」

 

 二人にも渡す。

 

「なななななっ!!」

「えっと」

 

 ベリオは事態についていけず、未亜は困り顔をしている。未亜は衆前でやることに不安なのだろう。

 っとそこに俺の裾を誰かが引っ張っている。誰だ?

 

「蛍火君。私の分は?」

 

 メリッサだ。ん〜、誰にするつもりか分からんが、まぁいいだろう。面白くなりそうだし。

 

「ありがとうね。じゃあ、蛍火君お願い」

 

 俺にもう一度ジュースが戻ってきた。俺にどうしろと? リリィと未亜、マリーの雰囲気がすごくなる。

カエデが兄君発言したときよりもさらに、

未亜よ。大河のほうに行っていたんじゃないのか?

俺はあくまでも傍観者なので丁重に断ることにした。

 

「すみません。私はその役割ではないので」

「そっかぁ。残念」

 

 三人の黒いものが消えていった。危なかった。ていうかさ。メリッサ。本気で残念がるなよ。

 

「トンプソンさん。場を弾ませるためとはいえそういう事は言わないほうが良いですよ? 勘違いしてしまいますから」

 

 釘を刺しておかないと次も悪乗りするかもしれない。もしも、本気でいっているのであれば俺には迷惑だからな。

 

勘違いして欲しいんだけどな

 

 小声で言っていたが俺には聞こえてしまった。しかし、俺は聞こえない振りをした。この身はすでに屍。生者に関与すべきではない。

 そろそろ、終わりだな。一服してこよう。

 未亜との夜間練習で色々とあったがここでは伏せておく。しいて言うなら鬼気迫る勢いがあったということだけを言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 


後書き

 蛍火と大河の戦いが終わって少ししたほのぼの。

 蛍火は自分を卑下しています。そして自分に興味がありません。ですから確実に他の人との自分の認識に差異が出てしまうわけです。

 蛍火は闇。そしてその他は光。本来は交わることがない者と一緒にいることは蛍火にとって苦痛でしかないでしょう。

 まぁ、蛍火からしたら誰かと共に在るということ自体が苦痛なのでしょうけど。

後半はちょっとギャグをはさんで。

 苦手なんですが上手く出来たか不安です。

 

 

??「ペルソナ、死んで」

 即効!?

観護(??ちゃんの逆鱗に触れたからね)

 いや、ギリギリ回避したじゃん!?

??「それでもアウト」

 なっ、分かった。君が出てきた暁には!

??「ほんと?」

 あぁ、なるべく頑張る。流石に二話連続で死にたくないよ

観護(まぁ、殺す機会はまだあるだろうし。次回にとっておきましょ?)

??「うん」

 次には遠慮なく殺されるのか(涙

??「次回予告」

観護(次回はタッグマッチ。未亜がどれだけ成長したかが現れるので期待してね)

 では、次の話でお会いいたしましょう








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