ジャァアアアア、フライパンを暖め、具材を炒める。そろそろ、リゾットの方も出来上がるな。後はスープの味を調えるだけか。

 今はイリーナとマリーの夕食を作っている。昼に約束した通り夕食を作っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十一話 力を欲する者達

 

 

 

 

 

 

 

 さて、話を少し変えるが何故あそこまで変われるか。どこまで変われるかを話そう。

 

俺は人と付き合う上で仮面に近いものを被って対応している。

それによって丁寧で紳士な話し方、フランクでも優しさのある話し方、ギャグなども言う親しい友人との時の話し方。

敵もしくはそれに順ずる相手に対する感情を押し殺した話し方、そしてすべてを取り払ったすでに人として死んでいる状態の話し方である。

 

本当の自分が三番目か、五番目か分からない。いや、さらに正確に言うのならどれが自分か俺も知らない。

よく、小説の中ではどれもが自分であると言っているからな。

 

この世界で使うのは一つ目と四つ目が多くなりそうだが、ちなみに終わった後に丁寧な話し方したら戸惑われた。

というか変と言われた。観護と同じこと言うなよ。

 

 

 とくだらない話はここらで終わりにしておく。そろそろ次の具材を入れないといけない。

 

「そっちの大河とセルはどうやったんや?」

 

 今は料理を作りながら観護を使って盗み聞きをしている。便利だけど頼り切るわけにはいかないな。

その内、魔法で盗み聞きできるような術式編むか。

 

「二人とも素晴らしかったぞ。蛍火がいったように異常なまでの成長速度で伸びていった。

特に大河の伸びは凄かったぞ。先が楽しみだ。蛍火のほうはどうだったのだ?」

「あぁ、そっち見てへんかったから比べられへんけど、えらいスピードで伸びていったわ。化け物みたいな奴やで」

 

 マリーの言葉には疑問を感じてしまう。成長率はそんなに良くないと思っていたが。

まぁ、観護のおかげかも知れない。

 

「蛍火が化け物か。一度相手をしたいものだな」

「止めとき、あんたでも手に負える相手やない。好奇心は猫を殺してまうで」

 

 マリーの言葉に少し感心してしまう。

ほう、あの状態の少し前に言ったことを覚えているのか。普通ならあの時のインパクトが強すぎて覚えていないのに、

 さて、料理は仕上がったか。持っていくとしよう。俺も大河とセルに関しては詳しく聞きたいし、

 

「料理出来上がりましたよ。それで、グラキアスさん。大河とセルの訓練の様子はどうでした?」

「蛍火の言う通り、面白いように成長していった。大河は話に聞いたように凄かったが、セルの伸びも凄かったぞ。

もしかしたら大河は一ヶ月もしないうちに救世主クラスの誰よりも強くなるかもしれん」

 

 本物の戦士でもそう取ったか。半分は憶測だったのだが、当たっていて良かった。

 一月までの間にリコに勝てるぐらいには成長して欲しい。話が進まないからな。

 

それにその後はイムニティ、ダウニー、神と待ち構えている。主を得ていないリコに勝てないようではそいつらには勝てない。

 

「そう言えばヒルベルトさん。化け物だなんて言わないで下さい。いくらなんでも傷つきますよ?」

「そうだな、たしかに酷い。マリーこれからはあまり言ってやるなよ」

 

 マリーは押し黙った。口は傷つきもせぇへんやろ、と動いていた。

たしかにそんな事で傷つくはずなど無いが言っておかないと不便になるからな。イリーナは知らないことだし。

 

「料理、出来ましたからどうぞ。まだ、修行中の身ですから口に合うかどうかわかりませんけど」

 

 俺の忠告を聞く前から二人はもう食べ始めていた。最後まで人の話は聞くものだ。

 

「結構いけるで」

「悪くは無い。もう少し味を締めたほうが良いがこれはこれで良い」

 

 満足そうに食べてくれている。評価は悪くないか。だが、まだまだだな。

俺自体の好みは薄味だがこの世界の人は総じて濃いめの味付けのほうが好みのようだ。

 調味料の味をきちんと覚えて些細な味の違い出せるようにしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味そうだな、俺にもくれ」

 

 三人で静かに食事を取っていると大河が話しかけてきた。その後ろには未亜、ベリオ。

リコはいないんだな。まぁ、リリィは来ないだろう。今日あんなことあったし一週間ほど俺の前には現れることはないだろう。

 

「お兄ちゃん!!」

 

 さすが大河のストッパー。救世主クラス一の常識人にしてブラコン。もう少し、躾けておいてくれ。

未亜の言うことなら大概聞くはずだし。もちろん例外は女関係のことだ。

 

「すみません。これ一応私の給料から出してるんです。お金を払ってくれるというなら作りますよ?」

 

 料理長に許可は貰ったが食材は自分で買っている。でも、俺の副収入が削られるだけだし、問題はない。

裏の仕事がかなり実入りがいいようになっているからな。

 大河達も給料に近いものは貰っているが俺ほどではない。

仕事量が違うから当然だ。

 

「んじゃ、いいや」

「ごめんなさい、蛍火さん」

 

 大河が言ったことなのに未亜が謝ってくる。こうするのはすでに習慣の域に入っているかのごとく、自然な動きだった。

そんな簡単にいらないと言われたらそれはそれで傷つくぞ。これでも料理人魂があるからな。

そのうちリコに鉄人ランチ対決でも申し込むかな?

 

 

 もちろん、傷ついているのは仮面の部分だけだ。深層にある素の自分が出てこれば精神的に傷つくことはありえない。

そんな風に俺は出来てしまっているからな。

 

「美味しそうですね。男の人で料理が出来るのはそちらの世界では普通なんですか?」

「最近はそういう傾向がありますね。あっちの世界では元から一流シェフは男の人が多いですから。

それにこっちではコックを職業としてますから上達はしないと」

本業はちゃうくせに

「何か言いましたか?ヒルベルトさん」

 

 今思いっきり頭に青筋が浮かんでいるだろう。口が軽いと死に直結するぞ、マリー。死人にくちなしって言うほどだから物理的にそのようにしてやろうか?それとも精神的に破壊しつくしてやろうか?

 

「なっ、なんでもないで。」

 

 かなり焦っている。下手に手を出すからだ。話が変な方向に行く前に料理のほうに戻すか。

 

「そういえばみなさんは料理するんですか? 料理人として気になりますからね」

「うちは少しぐらいは出来るな。現地調達して生で食べるわけにはいかんからな」

 

 がさつだから出来ないと思っていたが、職業柄出来て当然だよな。得意料理は野菜炒め辺りだろうか? 

あー、なんか他の家事も案外このタイプは上手いんだよな。俺の調査によると。

 

「私はあまり出来るほうではないな。普段も外食で済ませている。こんな家庭的な料理は久しぶりだ」

 

 意外だな。てっきり自分で全部出来るほうだと思ったが。

なら、教えれば案外上達する可能性がある。このタイプは面倒くさがって手をつけない。

楽しみを教えれば日頃からするようになるだろう。今度教えてみよう。

 

「私もあまり蛍火さんのように上手ではないですね。教会の手伝いや、授業で時間もありませんし」

 

 さすが優等生、模範解答だね。でも、教会に住んでたときもあったから一通り料理は出来るだろうな。

おそらく腕はマリーと同じくらいだろう。

 

「家事手伝いでしてたぐらいで私もそんなに料理は上手じゃないです」

 

 未亜がそう言うが、小さいころからずっと家事はやっているんだからそんな事は無いだろう。

本気で料理をやっている相手がいるから謙遜しただけか。

もう少し自分に自信を持ってもいいと思う。

腕としては俺と同等か、それ以上かな?少しくやしいな。

 

「俺は」

「当真はいいです。当真さんに家事全てまかせっきりだということは分かりますから」

 

 いや、案外一つの料理だけは上手いのかもしれない。男は自分の好きな料理に関しては凝る傾向がある。

採算を気にせず料理を作り、妻を怒らせるというのは良くあることだ。

 

「当真。今日の訓練はどうでしたか?」

「自分ではよく分からないな。でも我武者羅にトレイター振ってるだけじゃダメっていうのはよく分かった」

 

 すでに今日の訓練について振り返っていたのだろう。はっきりとした声で告げてくれた。

自分の弱さを自覚できることはいいことだ。それに気付くことが出来なければ進むことは出来ない。

これからよく考えて、状況に応じてトレイターを操ることが出来ればさらに進歩するだろう。

 

そうなったら戦ってみたいものだ。

 まぁ、その場合どちらかが確実に死ぬだろうからな、なるべく実現しないほうが好ましいかもしれない。

 

「自分の弱さに気付けたか。良いことだぞ。これからの上達が楽しみだな」

「あまり当真を褒め過ぎないでください。慢心は成長の妨げになりますから」

 

 当真はどちらかというと叩けば叩くほど伸びるたちだ。というより、人間は負の感情の方が強い。

当真はその傾向がかなり強いが、叱るのではなく悔しがらせるほうが確実に伸びやすい。こういう所で人間観察は役に立つ。

 

「あぁ、それと当真。トレイターの形態変化を一日百回はやって置いてください。もちろんランダムにですよ。

日頃から体にトレイターの変化に慣れておくと便利ですから」

「んっ、分かった」

 

 軽く聞き流しているように思えるがちゃんとしてくれるだろう。何気に俺のことは認めてくれているみたいだし。

 

「後、グラキアスさん。一月ほどしたら普通の剣での戦い方を教えておいてください。

備えあれば憂いなしといいますから、技術はあっても困りませんしね」

「どうしてですか?大河君には召喚器があるのに必要は無いと思います」

 

 不思議そうにベリオが聞いてくる。彼女としては納得いかないのだろう。

ベリオも召喚器に頼りすぎているか。もっとも、ベリオの場合気にしなくても良いかもしれない。

彼女自身は回復役だから召喚器は補助的な役割しか果たしていないしな。

 

いや、それも甘えか。精神的な支えを失くすことに耐え切れるかどうかも分からない。

 

「もしものためです。召喚器とて壊れる可能性が無くは無い。この世に有り得ないなんて有り得ない。

という言葉があるくらいですからどんなことにも例外は付き物です。特に当真はすでに例外なんですから」

「やっぱり蛍火さんは私たちと考え方が違うんですね。そんな事考えたことも無かったです」

 

 感心したように、そして尊敬に近い声でそんな事を言ってくれた。

未亜は現状の維持と意固地になりやすい傾向もあるからそう考えるのもあるだろう。大河だって俺が言うまで気付かなかったのだ。

 それに俺の場合は特にもしものためを用意しておかなければならない。

例外中の例外の観護を持ち、何時裏切られるかも分からない状況だからな。

 

信じるものは何処にも無い。確かなものは一つだけ。形あるものには死が訪れるということのみ。

絶対といわれる神でさえ、死ぬ事があるのだから……、

 

「そんな事はないです。唯、不安なだけですよ。さて、食後のティータイムとしましょうか。何にしますか?」

「うち、紅茶」

「私も紅茶で」

「紅茶でお願いします」

「わっ、私も紅茶で」

「俺、珈琲」

 

 女性陣は紅茶か。大河、普通その流れだったら紅茶を選ぶだろ。

俺は紅茶は飲めないから嬉しいけどね。珈琲党がいることは嬉しいよ。

 

「お兄ちゃん。みんな紅茶頼んだんだからそれにしようよ」

「構いませんよ。私自身も珈琲を飲もうと思っていましたから」

「すみません」

「蛍火もそう言ってるんだから謝る必要ないぞ、未亜」

 

 いや、それはお前が言うことじゃないだろう。俺のセリフだぞ?

 まぁ、これが大河だしな。いちいち気にする必要はないか。

 部屋から持ってきておいた紅茶と珈琲を使って全員分を淹れ、雑談へと移っていった。

 ティータイムの間、未亜は何か決意を決めたような顔をした。

嫌な予感がする。外れて欲しいんだが、当たるだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリーとイリーナに別れを告げ、寮に戻ることとなった。煙管が無性に吸いたくなったので広場で星を見ながら一服。美味いな。

 そういえば、門ってもう閉まってよな。まぁ、あの二人のことだ。学園長に許可を貰ってるだろ。

 

 

 

 

 ぼんやりとしていると自分以外の気配がするのを感じた。未亜だろうな、きっと。

ブラックパピヨンのほうがもしかしたらマシかもしれない。

 

「蛍火さん。相談したいことがあるんですけどいいですか?」

 

 控えめながら有無を言わせぬと感じられる声が俺の耳に入った。やっぱり予感的中。

おそらく自分にも戦闘指導の人をつけて欲しいということだろう。大河においていかれることを何より嫌う妹だしな。

 

「何ですか? 話ぐらい聞くことは出来ますからね」

 

 できれば聞くだけにさせて欲しい。…が無理だろうな。

 

「私にもお兄ちゃんのように戦い方を教えてくれる人を紹介して欲しいんです」

 

 やっぱりか。

だが、出来ればそれはしたくない。彼女には強くなりすぎてもらっては困るのだ。

大河が俺の望む道と違う道を走り最悪の結果に辿り付いた時、彼女が最大の敵となる。

未亜自体は戦闘に対する才能は低い。だが、救世主としてのポテンシャルは恐ろしいほどに高い。

だから、ある程度の実力を保ってもらわなければ困る。

さて、どうするか?

 

「何故、力を欲しますか?」

「お兄ちゃんは強くなろうと努力してます。普段はまったく努力してないのに一生懸命。

私自身は今でも元の世界に帰れるなら帰りたいです。でもそれまでお兄ちゃんの足手まといになりたくない」

 

 決意に満ちた表情で告げてくる。今まで見てきた中で一番真剣な表情で、

それにしてもホントにブラコンだね。せめて足手まといになりたくない……か。

 

「貴女が強くなりたい理由は分かりました。ですが、お引き受けできません」

「どうして!? お兄ちゃんには紹介したのに、どうして!」

「貴女に投資したとしても返ってくるものが見込めないというだけの話です」

 

 汚いいい訳だがこれで納得して欲しい。

残念ながらこれしか良い言い訳が思いつかなかった。

未亜は傷つくだろうな。

 

「お兄ちゃんには何か返ってくるものがあるんですか?」

 

 俺の想像とは裏腹に未亜は傷ついてはいなかった。

言った話の疑問点を的確に突いてくる。聡い娘だ。

 

「当真は真の救世主となり、破滅を完全に滅ぼす可能性を秘めている。平和な未来という結果が返ってきます」

「お兄ちゃんが? でも、そんな分かりもしない可能性のためにするんですか?」

 

 未亜は困惑に近い表情をしている。信じられないというよりは、思いもしなかったのだろう。

俺としては確定されたことだが。

それに観護との契約の上でその方が物事を進めやすいという判断をしたからでもある。

 

「投資とは不確定な未来を予測してするものです。ですから間違ったことは何もしていない。

当真さんにはそれを感じないから出来ません」

「そんな」

 

 絶望的に声を上げている。近くにいると思っていた大河がいきなり遠くにいると思えてしまったのだ。無理も無いだろう。

 

「それに、貴女の戦い方を教えることが出来る人がおそらくいない。

弓と魔法を混合させたような戦い方をするには魔法に耐えうる弓と矢を手に入れなければならない。

一矢ごとに数万という単位のお金が飛ぶのですからね」

 

 未亜に教えることの出来る人物がいないというのはおそらく事実だろう。

一流の魔術師であり、一流の弓使いであるという人物がいればすでに俺の耳に入っていても不思議ではない。

 

 だが、俺の話を聞いても未亜の決意は揺らいでいない。まだ顔をこっちに向け、意志を貫こうとしている。

 

「何とか成りませんか? お兄ちゃんのために強くなりたいんです!」

 

 未亜は意志をまったく曲げていない。

意固地な性格と兄への想いのために諦めることが出来ないか。強くなるという以外の方法に向けないとダメか。

 

「はぁ、分かりました」

「やった」

 

 控えめだがかなり喜んでいる。

だが喜ぶのはまだ早いぞ?

 

「まだ喜ばないで下さい。先ほどもいったように貴女の指導を出来る人はおそらくいないでしょうから

違う方法で当真の手助けが出来るようにしましょう」

「どういうことですか?」

「貴女には料理を練習してもらいます」

 

 そう、救世主戦争の最中でも役に立ち、終わった後も実用できる料理が一番誤魔化す方法としては最適だ。

食を侮るなかれ、人として最も必要なものは食なのだから、

 

「破滅との戦いが始まったとき、王都の外に出て戦う必要があります。いちいち学園には戻ってこれません。

それに戦闘力のない調理科の人を連れて行くことも出来ないでしょう。

その時、美味しい料理を作る人がいればそれだけ士気が上がりますから、

それと普段からでも栄養面を考えて当真に料理を出せばかなり支えになると思います。元に世界に帰っても役には立ちますし」

 

 他にも、戦争中未亜が作った料理を戦っている人達に配れば鼓舞し、士気は格段に向上するだろう。

 救世主候補は価値は高い。それを利用しない手はない。

まぁ、未亜に言う必要は無いだろう。

 

「これで納得していただけませんか?

私としてはこれでもかなり考え、これしか貴女の役に、そして当真の役に立つことは思いつきませんでした」

 

 未亜は俺が言ったことを何も言い返さず聞いてくれていた。今も静かにしている。

きっと色々と俺が言ったことを理解しようとしているのだろう。

おそらく、これで傾いてくれると思う。

 

未亜自体は戦うことを好まない。それに戦うということ以外の方法でしかも、大河の支えになるのならこれを選んでくれると思う。

唯一の懸念は意固地になりすぎていることだ。

 

「どうですか?」

「分かりました」

 

 納得してくれたか。これで安心してできる。

と思ったのもつかの間、

 

「でも、お兄ちゃんの足手まといになるのは出来ません」

 

 決意をよりいっそう固め、まっすぐとこちらを見てくる。自分ひとりでも何とかして見せるといった覇気に満ちている。

最悪だ、本当に最悪の予想が実現してしまった。だが、放っておくことは出来ない。

未亜は必ず無理をする。それで自滅してしまっては俺が契約不履行となってしまう。

 

「………はぁ、負けました。どうにかしましょう」

「えっ?」

 

 そんな言葉が返ってくるとは思ってもいなかったのだろう。明らかに困惑している。

 だが、こうするより他ない。それにしても俺の知っている話とはかなり変わってきている。

修正できるか?

 

「明日、またこの時間にここに来てください。その時に詳しい話をしますから」

「いいんですか?」

 

 俺が無茶をすると分かったのだろう。申し訳なさそうにしている。だが、半面かなり喜んでいる。

 気にする必要はない。俺がそうすると決めたのだ。契約は守る。

 

「期待はしないで下さいよ。それと今日と明日は無茶をしないで下さい。それが出来なければこの話は無しです」

「ありがとうございます。でも見込みのない私に投資していいんですか?」

 

 くすくすと意地が悪いように聞いてくる。だが、そんなものはでっち上げだから関係ない。

 

「投資しないより、投資した方がリスクが少ないと判断しただけです。大河に恨まれそうですからね。

それにお茶を汲みに行く回数が増えるだけで済みますから」

 

 俺の甘さを誤魔化しているだけだ。

誰かが言ってたな。自分すら誤魔化しきれない嘘は付くべきではないと。

 

「くすっ、分かりました」

 

 未亜も俺が嘘を付いているのを気付いたのだろう。大河に向けるような笑顔で笑っていた。

大河と同じ不器用な優しさと受け取ったのだろう。

それはそれで好都合だな。俺は打算でしか動かないが、

 

 上手くいけば未亜の成長をコントロールできる。最悪、学園長に頼らなければ成らないな。

タダッて訳にはいかないから、今度はどんな情報を渡そうか?

 

俺は悩みながら寮の裏側に向かった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もいないことを確認して、観護を呼び出す。

 

(どうかしたの。こんな夜中に、自主訓練?)

(いや、聞きたいことがあってな。お前達を使って世界を渡れるか知りたい)

(出来なくは無いけど………、したくないわ)

 

理由は分かる。魔力の少ないものが世界を渡るとき次元断層を飛び越えられず到着したとき時間に誤差が出る。

学園長みたいにアヴァターに戻ってきたときに千年たっていたでは許されないのだ。

 

(誤差なく渡るには俺に魔力が足りないと言いたいのだな?)

(そうね。今の蛍火君じゃ逆立ちしたってひねる出せるものではないわ。必要な量は私も分からない。

渡るのだとしたら書の精と同じくらいは欲しい。どうしてそんな事考えたの?)

 

 出て行く必要が感じられない。もしかして逃げるのか?と追求してくるように聞いてきた。

 そんなつもりはない。こんな面白いことから逃げ出すはずが無い。何よりもこれからの展開を楽しみにしているというのに、

 

(時間が無いからな。少しでも力を付けたい)

(そうよかった)

 

心底安心したように言葉を吐き出した。安心しろ。お前達が裏切らない限り、俺は裏切るつもりは無い。

 

 力が欲しい。

未亜に指導でき、未亜の成長を操れるほどの力を、

 そしてそれ以上に今日、マリーとの訓練で力の無さを痛感した。

 今の俺では観護に裏切られたときに何も出来ない。

 

(お前達も世界から力を汲み取ることが出来るのか?)

(他の召喚器よりも汲み取りやすいわ、成り立ちが違うもの。でも汲み取れるかどうかはやっぱり持ち主しだい)

 

 召喚器の本当の力は世界から力を汲み取ることが出来ることだ。それが出来なければ救世主にも選ばれない。

救世主とは召喚器をどれだけ有効に使えるかが必要とされる。

もっともそれはこの残酷なシステムを作った神が決めた基準なのだが、

 

(好都合だ。ではこの世界よりも遅い時間流の世界に行くつもりでいる。検索しておいてくれ。

出来ればこちらの時間で一日が一年ぐらいの所が望ましい)

(本気でやるの?)

 

 心配しているのだろう。

ゲーム中では汲み取った代償としてベリオは貧血といった軽い症状だったが、カエデは一月ぐらい昏睡している。

だが、やるしかない。

 

 

俺は精神を集中させ、拡散させる。自分の深いところに潜り込むように、周囲の自然に溶け込むように矛盾した精神の向け方をする。

この状態では周りにある全てを認識でき、全てを断ち切っている。 恐ろしく矛盾したあり方。

 

 集中し、拡散させ続け、十分? 一時間? それともまだ一分もたっていない? 

この状態では時間を上手く認識できない。

 

 

その時一つの光を感じた。力強い、なにかの波動。これがおそらく世界の力。

それを掬い取るような感覚に精神を移行する。

 

 グッ、アァ、クァッ。これが世界の力。内側から体がはじけそうなほどの圧力がかかる。

それを無理やり体に通す。その際、色々な知識が流れ込んでいる。思わぬ収穫。

これが世界からの先納代価というわけか粋なことをしてくれる。 

だが、その状態を維持させているだけで体が張り裂けそうだ。速く事を済ませねば。

 

(観護。……これだ…け、あれば十分………か?)

(なっ、そんな!? 世界丸一つ分くらいの力? どうして?)

 

 力の大きさに困惑している。そうかそれほどの力を汲み取ったのか。苦しいわけだ。所詮この体は人の身、限界値が低すぎるか。

 

(速く、術…式を組み上……げてくれ。後、一分も…持ちそ………うに無い)

(その状態で三十秒以上保つだけでも脅威よ。大丈夫いけるわ)

 

 

 

 

 

 

 俺は意識を失いかけながら、二度目の世界を渡ることが出来たことを確信した。

そこで色々な人に出会い、小太刀二刀を使った暗殺術を覚えたり、観護の扱いを覚えたり、

世界から汲み取ったときに得た知識の中から魔力弓(魔力を実体化させ武器として扱う方法の一つ)を覚たり、

隠密行動の仕方を訓練したりした。

 

 

 

詳細は語りたくない。一言だけ語るとしたら、あれは……………地獄だった。

アヴァターの時間で六時間ほど、向こうの世界で実に三ヶ月ほどの時間を過ごし少しは実力が上がった。

戻るときには必要な力が分かっていたのでスムーズに渡れ、気を失うことは無かった。

これから、これをアヴァターの時間で二ヶ月ほど繰りかえすつもりだ。

最終的には二十五歳まで年を食うのか。

 

 

 

 


後書き

大河が戦い方を教えてもらうことにより大河はこれからかなり強くなっていきます。

もう、原作以上に強くなっていきます。

最終的に何処まで強くするかはまだ決めていませんがそれでもかなりといってもいいでしょう。

そして、未亜も決意を固めて、原作以上に精神的に肉体的に強くなっていきます。

 

イレギュラーがかなり起こってますが、蛍火は何もしてない訳じゃないですからね?





未亜の成長は仲間としては頼もしいけれど。
美姫 「結末次第では恐ろしいわよね」
だな。蛍火が必死に修正しようとするよな。
美姫 「まあね。下手したら、最悪な結末だものね」
さてさて、未亜の鍛錬という予定外の出来事にどう転がっていく事になるか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。



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