学食は忙しい。俺が通ってた大学の食堂なんて目じゃない。この学園に一つしかないんだから当然だな。

てっきりこの食堂は料理長だけでやってるもんだと思ってたが。どうやら違ったらしい。

学園にある調理科の生徒が日替わりで実習に来る。

やってる事は俺と同じかレジばっかだ。これだけキッチンに人がいるのに料理を一から十まで任されている人間は誰もいない。

昔気質のようだ、料理長は……、

 

 

 

 

 

 

 

第六話 闇夜に出会うは虹色の蝶

 

 

 

 

 

 

 

 

「蛍火。何してんだ?こんな所で」

 

大河が注文の際俺を見つけたらしい。無視するのは周りが許してくれなさそうだ。

初の男性救世主候補がコックに声をかける。

それがどんな関係か気になるのだろう。周りの視線が集まってくる。

 

暇だねぇ、みんな。俺は日陰者でいたいんだが。

 

「バイトですよ。住むところまでは提供してもらえましたけど、

お金は別でしたから、世知辛い世の中ですよ、本当。それで何を頼むんですか?」

「AランチとDランチを頼む」

 

ちなみにこの学食ではA〜Dまでのランチと二十数種類のメニューと十種類のデザートがある。

ランチはAに近づくほど量が増え、値段が高くなる。

 

「了解。お金はあぁ、救世主クラスはお金を払わなくていいんでしたね。羨ましい限りです」

「蛍火も召喚器を呼び出せたら同じようになるさ」

「それは勘弁願いたいですね。はい、お待たせ」

 

口を動かしながらでも手はちゃんと作業をこなす。それ位は出来て当然だ。

だが一流の料理人にはそんなもの出来なくてもいい。料理中に口を開けば唾が入ってしまう。

料理の話が多いなぁ。

 

 

 

「蛍火さん。もしかしてあの人と知り合いなんですか?」

 

大河の料理を通した後で、話しかけられる。

もう、来たか。今は仕事中だぞ?個人的な質問は後に受け付けたい。

 

「ちょっとした知り合いですよ。お互いの事は良く知りませんしね」

 

俺が大河と交じり合う必要は皆無だ。俺は影を大河は陽の下で歩き続ける。俺が助言をしてそれだけだ。

それ以上はない。影と光は対極、交じり合う事など出来ない。

 

「でもでも、大河君、蛍火さんの名前呼んでたじゃないですか」

「自己紹介をちょっとしただけです。それだけです」

 

苦笑をして、お茶を濁す。うーん便利だね、笑顔っていうのは。

 

「そこ、手ぇ動かせ!!」

 

料理長から檄が飛んだ。俺のせいじゃないんだけどな。

 

「うわ、料理長怒ってる。また今度ね。」

 

爽やかに去ってくれる。二度と来ないでくれ。それからも黙々と料理を続けた。時間は半分を過ぎたくらいだろうか。

食堂の方から喧騒がなくなる。どうしたいったい?

 

気になったのだが、周りの奴はみんな平然としていた。

おかしく思い、近くにいた奴を捕まえ何が起きたか聞いてみる。

 

「あぁ、これはいつもの事だよ」

 

何でもないことのように言うがそんな事はとっくに理解できている。その先をさっさと話してくれ。

 

「救世主クラスのリコ・リスって娘が鉄人ランチを頼んだんだよ」

 

 その一言だけで納得できた。

なるほど、よく分かった。ここの料理長は豪勢な人だからな。

こういった事があったのだ。

 

若者は元気が無くちゃいかん。元気の元はもりもり食べることだというのがポリシーの人『だった』。

それに昂じてか、『特盛り鉄人ランチ』なる物凄い量のセットメニューを作り出した。

そして、それを食べ切った者は生涯学食を無料にするというイベントを毎月開催『していた』。

していた、と言うと今はしていないように聞こえるが、実際は未だイベントは続いている。

当たり前のように続いている。当然のように続いている。

 

ただし、今では誰も挑戦しない状態と化してしまった。

その原因のために、完全に目的が違ってしまうようになった。

 

ある日、リコがいつもより遅れて学食へ来た。

あいにくその日は別のメニューが売り切れていて、更に月一度のイベントの日。

元々世事に疎いリコは『仕方なく』一種類だけ残っていた特盛り鉄人ランチを注文した。

『仕方なく』特盛り鉄人ランチを注文したリコは、それを容易く平らげ、予鈴の前に悠々と席を立った。

まるでなんでもないという感じに。

 

おそらくリコにとってみれば、せいぜい普通に昼食を食した程度にしか思っていないのかもしれない。

それからと言うもの、特盛り鉄人ランチはただ一人のためだけに進化を続け、今に至るということを聞かされた。

しかしリコはサービスメニューが、どんどんお得になるくらいにしか考えていないだろう。

料理長………なんて、哀れなんだ。いくらやっても無駄だろ。相手は精霊だぞ?人の物差しで計れるような存在ではない。

昼休みが終わったときに料理長は真っ白になっていた。毎日こうなのか?

 

 

 

 

 

 

 

昼休みもすぎ、キッチンを抜け出し俺は闘技場に向かっている。

料理長には無理を言って抜けさせてもらった。俺には皿洗いよりも優先するべき仕事があるからな。

 

闘技場は昨日とは異なり喧騒はない。あるのは外からわずかに聞こえる程度の話し声。一日違うだけでこうも変わるか。

俺はこっちの方が好きだね。喧騒なんかよりも耳をすませば風の音が聞こえるこの世界が。

 

闘技場の中央ではリコと未亜が向き合っている。対戦相手はすでに決まったようだ。

少々くるのが遅かったか?

近くでは見れないな。近づきすぎたらリリィに絡まれるだろうから。少々遠いから音は拾えないが、我慢するしかないな。

 

始まった。未亜は様子見で二、三射打つ。リコは体を少し動かすだけ何もしない。いや、かすかに口が動いていた。

矢はリコの横を掠めるだけで当たりはしなかった。スライムが召喚され未亜を襲いに掛かる。未亜も応戦しスライムに向けて矢を射る。

途中で矢が増えスライムに何本も突き刺さる。矢を放ってすぐに未亜は高く飛び上がり雷がこもった矢を放ちスライムを倒した。

そのさらに上空にリコはテレポートして未亜を手に持った本で強打する。落ちた先にはいつの間に用意したのか魔方陣が書かれていた。

どういう原理で起動したのか分からないが魔法陣から剣が飛び出る。その剣を未亜は体をひねり剣をかわす。

未亜が地面につくときにはリコはすでテレポートした後で上空にはいない。

変わりに小さな隕石があった。未亜は迎撃できないと悟り、落下予測地より急いで移動する。

未亜が何かを感じ取ったのか後ろに向けて矢を射る。未亜が矢を射った方向にはリコがいた。

しかし、矢が当たる寸前テレポートで避ける。

次に現れたのが未亜の背後ですでに本を振りかぶっていた。未亜は矢を射った後の硬直が解けずそのまま綺麗にくらう。

未亜は結局立てずにリコの勝ちで試合は終わった。

 

この試験では敗者は勝者に一日の間言う事を聞かなければならないルールのはずだが未亜はいったいリコに何をさせられたんだ?

ゲームでも描写されなかったからな。謎だ。

 

「あらん? 蛍火君どうしたの。こんな所で?」

 

ダリアが俺に気付いたのか胸を揺らしながらこっちにくる。

この人には羞恥心という物がないのか? 

諜報員だから潜入工作の訓練を受けているときにそんなものは捨ててしまったのか?

 

「見学ですよ。私たちを守ってくれる救世主候補の実力はどれ程のものかをね」

「大河君も受かったんだから貴方も望めばあそこに入れるかもしれないわ」

「ご冗談を、彼らのいるところは眩しすぎます。そこにいたなら目が焼かれてしまうでしょう。

蝋で固めた翼を持つ者は神の怒りに触れ地に落とされる。自分の分は弁えているつもりです」

 

俺はあんたより暗いところに立つべき存在だからな。

 

「それで次のカード(試合)は誰と誰ですか?」

「大河君とベリオちゃんよ」

 

なるほど、ストーリー通りか。大河には勝って貰いたいね。他の救世主候補全員に勝ってもわないとルートに入れないし。

 

 

始まった。

大河はトレイターをナックルにして突進する。ベリオはそれに反応してホリーウォールを展開する。

大河は回避に上空を選んだが目の前にはスプラッシュが待ち構えていた。大河はランスに変化させさらに上空に逃げる。

その間にベリオはバックステップで下がる。その際シルフィスも発動させていた。

大河の着地とともにシルフィスが襲い掛かるがベリオの方に転がり回避する。

大河はトレイターを剣に戻しベリオに切りかかるがホーリーシールドで防ぐ。

深追いはせず大河はバックステップで下がる。……と思いきやナックルに変化させベリオに向かって突進する。

ベリオはすぐに反撃してくると予想していなかったのかシールドを解いていた。その為に大河の攻撃が直撃した。

大河の一撃が芯まで入ったらしくベリオは次の行動に移せず、大河が剣を突きつけ試合は終わった。

 

経験ではなく勘で勝つとは恐ろしい。戦闘センスと勘は誰よりもズバ抜けている。

大河が勝鬨の声を上げたあとベリオつれて闘技場を出て行った。

この後二人の情事か。大河、お前は一度節操と言う言葉を辞書で引く必要が有るぞ。

 

 

 

「初めての戦いなのに大河君が勝っちゃったわね。蛍火君の感想は?」

「一般的な意見としてはもう少し戦闘を組み立てるべきですね。

トロープさんよりも戦闘の組み立て方が上手い人にあったら確実に負けます」

 

そう、今の大河はダウニーと戦わせたら確実に負ける。リコでも同じだ。

もっと実戦を積ませないと。あいつには基礎も大事だがそれ以上に実戦を味あわせるほうが大事だろう。

さっきの試合でも確実にそして飛躍的に成長していた。

 

「手厳しいわね。もっと褒めてあげたら?」

「事実を言ったまでです。でも勝ってくれたのは嬉しいですね。

この世界では男にとって肩身が狭いですから。これからも活躍して欲しくはあります」

「あくまで蛍火君は戦う気はないのね」

「そうですね。戦わなければならない状況にならなければ、永遠に」

 

表で戦う必要がない限り俺は裏からでない。もっともその時は血に濡れすぎて出られないかもしれないが。

 

「ダリア先生。明日はよろしくお願いしますね」

「明日? あ〜、学園長が言ってたあれね。分かったわ。お願いされてあげる。でも服はこれと同じようなのしかないの。ごめんねぇ」

 

すまなさそうにしているが、本気で謝っているようには思えない。ていうかマジで!? 一日中目に毒なものが目の前にあるのか。

大河ならこの状況踊るほどに喜ぶだろうな。

先に服売ってるところに行って露出が少ない服に着替えてもらうことにしよう。

さて皿洗いの続きしなきゃね。

俺がダリアと話している間、ずっとリリィはこっちを睨んでいた。彼女にとっては大河以上に憎悪すべき対象だろうから当然か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の仕事を全て終えた俺は大河に飲みに行かないかと誘われた。酒は結構好きだし、異世界にどんな酒があるのか気になる。

できれば泡盛があると嬉しいけど。たぶん無いだろうなぁ。この世界は西洋文化が主体だし。仕方ない、ウィスキーでも飲んでおくか。

 

その時俺は初めてセルとあった。

やっぱりゲームの中と性格は同じだった。

ボルトと呼ぶのは変だったのでセルビウム君と呼ぶことにしたのだが、大河と同じように拒絶された。

妥協案としてセルビウムと呼ぶことになった。

 

最初はビールから始まり、ワイン、ウィスキー、ジンと二人は明らかなオーバーペースで飲んでいた。

最後にスピリタスを頼むもうとしていたときはさすがに止めた。あれは人が飲むようなものではない。

薬品くさくてカクテルにでもしないと飲む気にもなれないのに。良く飲む気になったな。

 

俺はすでに自分の限界を知っているので今日は無理せず大河たちの引率に徹する事にした。

それでも二人が飲んだ量を併せたくらい俺は飲んでいたが、

 

「今日はさらに呑むぞぉ!!」

 

 声高らかに大河が宣言する。まだ、飲む気なのか? 急性アル中で死んじまうぞ。

 

「おうよ!! こういう日は呑まずにいられるかってんだ!!」

 

と興奮気味のセル。それにつられるように大声を上げる大河。そんな2人を見ながら、俺はため息をつく事しか出来なかった。

どうして自分はこのような状況に陥ったのだろう。

どうしようもないくらいに他人のふりをしたくなった。こんな酔っ払いの2人と同類と思われたくはない。

 

「うらりゃぁぁぁ、うえぇぇぇぇ!!」

 

突然、セルがその場で胃の中の食べ物や酒などを吐き出し始めた。

それが道端で、この中庭の美しい庭園と言うか、そういうものの中に吐き出されなかったのは不幸中の幸いだろう。

 

「おいおいセルゥ〜、何吐いてんだよぉ〜!! まだまだこれからだろぉ〜!?」

 

そう言ってゲラゲラ笑う大河。俺、もしかして人選を間違ったかなと考えてしまったのは秘密だ。

 

「やれやれ、気が重いですね」

 

2人を見る限り、特に大河を見る限りには、そこに救世主候補としての威厳なんてない。

どうみても、酒を飲み過ぎて酔いつぶれる中年のサラリーマンのオヤジである。悲しいことだ。

 

「なぁ大河、俺と肩を組んでる幻影を1つ撮らせてくれよ。

将来お前が救世主になった時に、お前を育てたのは俺だーって自慢してやるんだ」

「あほー、誰が取らせるかよー! またそうやって、ナンパする気だなぁ」

「いいじゃねぇかよ、ケチー! その代わり、これからお前が活躍する場面をいっぱい撮ってやるからさぁ」

 

そう言うとセルはニヤリと嗤った。そう、笑ったのではなく、嗤ったのだ。

そりゃもう、邪なことを考えていますと言わんばかりの顔だ。

 

「その幻影石を集めて、個展なんて開くのはどうだ? 救世主当真大河の愛の軌跡……なんてどうよー?」

 

すでに俺を無視してどんどん話を進めていく二人。

 

「おーそれいいなー!」

 

などと同意をし始める大河。

俺というよりは世界よ、よくこんな奴選んだな。

後悔してないのか? それともそんな概念は無いのか?

 

「だろー? だからよ、その手始めに」

「ここで肩を組んだモンでいいかー!」

 

そう言って二人が肩を組む。ちなみに、俺は完全に蚊帳の外となっていた。

もっとも俺自身も、この2人の中には積極的に入りたいとは思わない。

 

「おい大河、もうちょい肩を傾けろ」

「お、こうか?」

「そうそう、じゃいくぜ……せーのー」

 

その時、何か空を切る音がした。ヒューという音と共に、ガシャン! と言う音が当たりに響き渡る。

 

「ぐふぅ!」

 

なにやら苦しそうな声と共に、セルが倒れ込んだ。

やっべぇ、酒飲んでて忘れてたけど、この後はブラックパピヨンの襲撃があったんだ。

 

「ありゃ?」

 

そんなセルを見て、不思議そうな顔をする大河。

前のめりに倒れ込んだセルを見て、大河が少しだけ嫌そうな顔をする。

まぁ、そりゃそうだろう。

顔を花壇に突っ込み、だらしなく開いた口からは胃の中の酒が再び逆流している。

もう汚いことこの上ない。

 

「うっわ汚ねぇ! だからよセル、程々にしとけって言ったのにぃ」

 

そりゃ、お前もだろう。

もっとも、口に出して矛先が自分に向いたら困るので何も言わない。

 

「ぐ、ぐふぅ」

 

何やら打ち所が悪かったのか、完全に昏睡しているセル。

 

「しょうがねぇなぁ、おい起きろセル! こんなところで寝ると風邪を引くぞ!」

 

などと言いながら起こそうとする大河。呑気なことだ。その瞬間、殺気が大河の背後に現れた。

振り返るまでもなく本能の命じるがままに横に飛びのく大河。一瞬後、彼のいた場所を鉢植えが通り過ぎた。

 

「あ、危ねぇ!?」

 ひゅんひゅんひゅん

ほっとする大河に続けざま飛来する鉢植え。

 その全てを大河はすんでのところでかわし続け、油断なく鉢植えの飛んできた方向を睨みつけた。

酔ってんのに良くかわせたなと本気で思ってしまう。

 

大河はトレイターをいつでも繰り出せるように戦闘態勢に移行する。

植木鉢を投げた人物が姿を現す。かなり派手な登場の仕方で。

 

「おーほほほほほほほ!」

 

今時お嬢笑い!?生で聞くと笑えねえ。これってやっぱ練習してんのかな?

 

「人はその外面から伺いしれない第二の自分を持っているもの、貴方の内面の素顔は一体どのようなものなのかしら。」

 

第二の自分ね。自分の事を言っているのか?ブラックパピヨン。

それにしても大河の素顔か、性欲丸出しな顔なのだろうか?それともピンク色?

 

「闇夜に羽ばたく虹色の蝶。ブラックパピヨン、見参!」

 

着地した衝撃でその素晴らしい大きさを誇る胸が揺れる。

顔をそれで隠しているのか?と疑いたくなるような蝶のマスクに、

ひものレオタードとしか言いようが無いものを着ている露出狂が立ちはだかる。

女の怪盗といえばレオタードなのか?しかし……よくベリオだとバレなかったな。

 

大河はブラックパピヨンの胸に視線が釘付けになっていた。自分に敵対している相手だというのに女であれば誰でもいいのか?

あっ、俺の中にいる大河の像が思いっきり頷いている。………そうなのか。

 

「ぶ、ブラックパピヨンって、怪盗のか!? なぜ俺を狙う!?」

「問答無用!!」

 

そう叫び、ブラックパピヨンは愛用の鞭を取り出すと、勢いよく振るった。

シュッン、と音をたてて鞭が大河に襲い掛かる。大河は避けられない。

まだ完全に酔いが収まっているわけではないからな。故に、大河はこの鞭の攻撃を受けることとなる。どんまい。

ブラックパピヨンはセルの手にあった。幻影石を取り、倒れている大河を撮る。

 

「ほほほ、これであんたの恥ずかしい写真が明日には学園中には知れ渡るよ。」

「なっ、くそっ、」

機会があれば、また会うこともあるだろうね。じゃね、おほほほほほほほほほ!!」

 

そう言って躊躇なくブラックパピヨンは逃げ出した。そりゃもう、楽しそうに。

あまりの自然な動作に、大河は反応が出来ていなかった。

俺は別に関係ないから追いかける必要がない。

 

「なっ、くそ! 待ちやがれ!」

 

そう叫びながら追いかけ始める大河。

取りあえず帰るか。と思った矢先大河は戻ってきて俺に手伝えと言ってきた。

寝させてくれ。

 

 

 

 

手始めに、大河と俺は召喚の塔に来ていた。

ほんの僅かな隙に、大河はブラックパピヨンを見失ってしまったのだ。

 

「リコ・リス!」

「………大河、さん? それに、そちらの方は?」

 

何故か、召喚の塔にはリコがいた。もう遅い。

少なくとも、普通の人ならすでに部屋に戻っている時間だ。

だと言うのに、リコはこんな夜遅くまで何かの作業をしていたらしい。まぁ、それを言ったら俺や大河もそうだろうが。

 

「初めまして。食堂で昨日より働いている。新城蛍火といいます。」

「どうしたんだよ、こんな夜遅くまで?」

 

大河がそう聞くと、リコは簡素に答えた。そういえばここでもブラックパピヨンが活躍してたんだよな。

 

「……………掃除」

「掃除? なんのだ?」

 

大河の呟きを聞き、リコは静かにそれを指差した。

見ると、床に描かれた召喚陣の部分に『夜の蝶、ブラックパピヨン参上!』と殴り書きされていた。

はっきり言って、かなり迷惑だろうな。

 

「これ・・・・」

 

ごしごしごし、とリコが濡れた布で床の召喚陣に殴り書きされた落書きを一生懸命消している。

表面を見る限り、リコはこの落書きに対して特に何も思うところがないようだ。

あくまで表面はな、内面はどうかはわからない。

 

「手伝おうか?」

 

大河がそう訊ねると、リコはふるふると首を横にふった。どうやら構わないらしい。

人の好意は素直に受け取ったほうが良いぞ。

再び失いたくないと思っていても。その部分に関しては俺とリコは似ているな。

もっともリコは俺程までに腐りきってなどいないが。

 

「いいのか?」

 

再び大河が訊ねると、リコは無言でこくんと頷いた。そこは無視してでも手伝ってやれよ、好感度を上げるチャンスだぜ。

 

「わかった、その代わり絶対にブラックパピヨンを見つけ出して仇をうってやるからな」

 

大河が決意したように言うと、リコは静かに首を横に何度か振った。

 

「いいんですか?」

 

思わず声が出てしまった。ゲームの中でなら納得できたことでも現実にそう言われると信じきれない。

 

「……私が、掃除すればいいですから…………」

 

と静かに答えた。健気というか、なんというか。これには俺でさえも心動かされるよなぁ。

 

「わかった、けど俺も手伝う」

 

そう言って大河は近くにあった布を手に取った。もちろん俺も参加する。

 

「大河……さん?」

 

不思議そうな顔をするリコ。俺に対しては何も無いのね。ちょっと悲しいよ。普通なら。

そんなリコに対して、大河は人懐っこそうな笑みを浮かべた。

 

「なぁに、こんなの3人でやればすぐに終わるって」

「……………とう」

「え?」

「………ありが……………とう」

 

小さく、小さな声でリコはそう答えた。二度目か。

 

 

 

 

 

 

色々なところに引っ張り回されたが結局見つからなかった。

まぁ当然か。すでに、ベリオに変わっているだろうからな。

 

「くそっ、ブラックパピヨンめ。あ〜、あの写真がばら撒かれたら俺のハーレムが実現できない。」

 

 結局君の思考の行き着く先はそこなのね。悲しすぎるよ。

神を倒すまでこんなののサポートをずっとしないといけないなんて。

 

「はいはい、怒るのは分かりますが今日はどうしようもありません。対策だけ考えて明日行動しましょう」

「あぁ、そうだな。昼にベリオから聞いた話によるとブラックパピヨンは学園関係者らしいから、

明日学園でブラックパピヨンのアジトを見つけてやる」

「食堂で聞いた話だと森の方でよく見るらしいです。行ってみる価値はあるでしょう」

 

情報を与えベリオとともに行動してもらおう。これで俺の知っているストーリーに確実に進んでくれるだろうな。

 

「そうだな。蛍火、必ずブラックパピヨンを捕まえるぞ」

「がんばってください」

「まかせとけ!!てっおい!!蛍火は手伝ってくれないのかよ!!」

 

心底不思議ですといった感じで聞いてきた。俺が参加したらベリオが大河に心を開いてくれないだろう。

それに俺には明日すでに約束がある。一度約束したことを反故するにはそれ以上に大切な理由がなければしてはならない。

だから行けない。それに、この出来事は俺が手を出さなくても大河自身が解決してくれるだろう。

 もしかして俺って大河に便利屋って思われてるのか?それは嫌だなぁ。

 

「私はすでに明日。先約があります。残念ですがセルビウムでも誘ってあげてください。」

「女か? 女なのか!?」

 

鼻息を荒らしながら詰め寄って来る。汚い。

たしかに女だが相手はある種商売敵で下手したら首を刈られても仕方ない相手に四六時中一緒にいることになるんだ。

それに色気も何にもない買い物だぞ。

 

「ただの買い物です。揃えたいものがそれなりに有りますからね。その人には案内役を頼んでいるんです。

当真が考えているような色気のあるものじゃないですよ。」

 

一つ思うんだが、大河お前がアヴァターにきて買い物をしている場面が出るのは物語中盤ぐらいしかないよな。

服はどうしたんだ?毎日未亜に洗濯させていたのか?

 

「それでもその相手は女だろ?なんとくそんな感じがする。いやっ、絶対そうだ!!」

 

何故ここまで確信して言える。お前は女に関しての勘は人外になれるのか?

 

「ダリア先生です。学園長に頼んだらそうなりました」

「何っ!! 乳ねーちゃんだと? 蛍火、俺も一緒に行くぞ。へへっ、明日はじっくりあの乳を眺められる」

「当真はブラックパピヨンの探索でしょう。下手したら学園中の笑われ者になりますよ?」

「ぐっ、そうだった。なぁ、蛍火。本当に手伝ってくれないのか?」

 

俺を頼っていてくれてるのか? それともダリアと一日一緒にいる俺が許せないのか?

うわぁ、何となく後者っぽい気がする。

 

「ふう、それぐらい自分で解決してください。自分の尻拭いぐらい自分でできなければ。

当真は真の救世主になるんでしょう? ならこれぐらいのこと自分で解決しなければ。

もちろん、人脈を使うのも英雄になるのに大切な条件です。明日はいろんな人に話を聞き未来に活かしてください」

「そうかもしれねぇな。たしかに救世主になるにはこれぐらいの困難乗り越えられないといけないよな!!」

 

さて、明日は十時に学園の広場に集合か。遅れないようにしないとな。まぁ、大河は大丈夫だろう。

 

 

 

 


後書き

後、今回初めてきちんとした戦闘シーンを書いたのですがかなり難しいです。

改めて他の戦闘ものを書かれている作家さんはすごいなぁと思いました。

これからも精進します。

 

次回、蛍火とダリアのデート。色々な意味でドキドキワクワクなデートです。では、七話でお会いしましょう。





裏方が裏方で大変だというのが良く分かるよね〜。
美姫 「本当に、日頃からもっと私に感謝するのよ」
……裏方?
美姫 「裏方じゃない」
いや、思いっきり……ゴホンッゴホン。
あ、あー、次回は互いに腹に何かを抱えている者同士のお出掛けみたいだな。
美姫 「どうなるのかしらね」
まさに化かし合いだな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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