学園長室においてある学園長の私物であろう紅茶の茶葉を物色する。

 

ふむふむ、結構良い茶葉が揃っているな。これならいいお茶が淹れられそうだ。

 しかし、主のいない部屋で物を漁ってるなんて泥棒と同じだぞ。

いや、まさしく泥棒か、金品が狙いじゃないだけの………、

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話 契約者

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい。勝手ながら紅茶淹れさして貰いました。気分を落ち着かせるためにも一杯いかがですか?

あぁ、危ないものは一切入れていませんのでご安心を」

「勝手に部屋をあさらないで下さい。……まぁ、いいです。貰いましょう」

 

 語気を荒らしているがカップを手に取る動作は優雅だ。これも生きている数のなせる業だね。

 

「今、何か不穏なことを考えませんでしたか?」

 

 学園長が睨みつけるようにこちらを見てくる。

野生の勘!? これからは不用意に学園長の前で年の事考えるのはよしたほうがいいな。

 

「……おいしい………」

 

 お茶のおかげかかなりリラックスできている。ふむ、まずまずの出来か。

まぁ俺が技術の粋を込めて淹れたものだからな。これぐらいの感想は貰わないと。

 

「喜んでいただけて、光栄ですね」

「あなたは飲まないのですか?」

 

 俺の手元に何も無いのに気付き、優しい言葉をかけてくれた。

紅茶のリラックス効果での一時的なものだろうが。

 

「私は紅茶を入れることはできても、味わう事は出来ないんですよ。体質的に」

 

 そう、本当に飲めないのだ。紅茶を飲むと気分が悪くなり、下手をしたら飲んだそばから吐いてしまうことがある。

緑茶や烏龍茶は飲めるのに、どうしてだろ?

 

「そうですか」

 

学園長はカップ一杯の紅茶を存分に楽しんでもらい終わった頃に本題を切り出すとしよう。

 

「さて、商談のほうに移りたいのですが、私から情報を買うかどうかは決めてもらえたでしょうか?」

「そうですね。全てを信じられるわけではありませんが、あなたが少なからず未来の情報を持っている事については信用しましょう」

 

 だが、それだけだと言外には告げていた。それだけ信じてもらえれば俺としては上出来だね。

未来から来たわけじゃないんだから、未来から来たと思われても困る。

 

「ありがとうございます。

さて、信じてもらってすぐに裏切るようで申し訳ないですが未来に関する情報を全て貴女に売る事は出来ません。

今現在だけでなく、将来的にも。そして、誰にも」

「どういうことですか?」

 

 学園長がかなりの怒気を込めている。

まぁ怒るのも無理はないな。信頼を得ておいてすぐさま裏切るなどという事は取引をする気がないという事と同義だからな。

 

「勘違いしないで下さい。売らないとは一言も言っていません。

それに、あなたが全てを知る事によって私にデメリットが生じるんですよ」

「どういう意味ですか?」

「貴女がこれから起こるすべての事を知ってしまえば未来が代わってしまう可能性が大きくなる。

それによって、私が迎えて欲しい結末が遠のいてしまうかもしれないからです。

貴女はこの世界でのサブキャスト。

貴女が違う動きをすれば私の知っている未来がなくなってしまいます。

私の知っているこの物語は私のように先のことを知っている存在は登場していませんでしたから」

 

そう、すでに俺というイレギュラーが紛れ込んでいるのだ。

これ以上変えてしまっては取り返しのつかないことになってしまう可能性がある。

 

「なるほど、私が知る事で生じるデメリットはよく分かりました。ですがあなたがいる事によって未来が変化してしまうのでは?」

「私は極力裏方に徹するつもりです。表に出てこなければ知っているものと同じようになるでしょう。

もし、私の知っている結末と異なる方向に向かっていたならその都度修正にまわるつもりです」

 

俺に日の当たる舞台は似合わない。裏でコソコソとやっているのが似合いだ。

おそらく、俺を召喚した存在も俺が裏方に徹する事を願うだろう。

 

「あなたの知る結末とは?」

「破滅に怯える必要の無い世界が来ること」

「なっ、そんなことが可能なのですか?」

 

 震えている。それは驚きか…、それとも歓喜か……、

だが学園長が驚くのも無理は無い。救世主を目指したものにとってそれは悲願。そして、叶うはずの無い願い。

だが、神殺しの剣を持つ大河という存在がそれを伏す。大河は世界に望まれた存在だから、

 

「といっても、それは数ある結末のうちの一つにしかすぎませんが」

 

 そう、俺が大河たちに迎えさせたいエンディングは八個在るうちの一つ。

それを迎えさせてやりたい。俺をこの世界に運んだ存在はおそらくそのつもりだろうからな。

 

「貴方が望んでいると言っている結末を貴方は本当に迎えるつもりですか? 貴方が望めば世界を変えることも容易なはず」

 

 まだ、疑われている。仕方はないな。

 

「たしかに、変える事の方がとても簡単です。ですがせっかく幸せな結末を迎えられるのにそれを捨てる手は無いでしょう」

 

 バッドエンドを迎えるよりはそっちのほうが見ていてストーリー性が高くて面白いからな

 

「信じられませんね」

「まぁ、あなたの立場上をそう易々と信じるわけにはいかないですからね。しかし、私はこの世界に来る際、契約を結んだんですよ」

 

 おそろしく一方的なものだったが。

 

「私は契約を交わして相手が裏切らない限り、こちらも裏切りません。

そんな事をすれば私は私を許せない。私にとって契約は何よりも優先されるものとしていますから」

 

 学園長が俺の目の奥を覗いてくる。まるで俺の心を覗くかのように、

俺は目を逸らすことはせず睨み返す。

俺にとって契約とは譲れないものだ。それを疑われるのは許容できない。

 

「あなたの契約に対する姿勢は信じましょう。疑ったりして悪かったわ」

 

 口調がさっきまでよりも柔らかくなっている。

信用はしてくれたか。これでこれから動きやすくなるだろう。色々としたい事はあるしね。

 

「かまいません。では、重要な情報を貴女に渡しますがそれに対する代価を先に幾つか要求します。何、高いものではありません」

「物にもよります」

 

 険しい顔をしている。すでに王宮から予算カットを議案にされているくらいだ、気にはするだろう。

 

「殆んど物ではないんですが、まず一つ目。私に秘密裏に帯剣の儀を受けさせて下さい」

「何故ですか?」

 

 今日で幾つ目だろう、学園長が驚いたのは。

まぁ、裏方に徹するとか言いながら召喚器を手に入れようとするのは明らかに矛盾だからな。

 

「これから、裏方に徹するとしても私には圧倒的に力がありません。

ある程度の権力と情報は貴女に用意してもらえばいいです。

ですが今代の救世主パーティーの補助となれば私自身の力が必要です。結末への補助は私しか出来ませんからね」

 

 実際、俺でなくともやろうと思えば出来るだろう。だが、折角退屈な日常から抜け出す事が出来たんだ。

目一杯のスリルと数多の戦闘と数多もの種族の血を味わいたいじゃないか。

 

「たしかに、あなたが望む結末に向かうにはその方法が手っ取り早いですね。

では、今から闘技場に向かうとしましょう。学園にモンスターはそこにしか居ませんから」

 

 と、闘技場に向けて足を進めていった。案内してくれなくても学園の中にある主要な建物の場所は知っているぞ。

 

「分かりました。あぁ、重要情報は帯剣の儀終了後にお渡しします。その後残りの代価を」

「はぁ……、高い買い物をしましたね」

 

 文句を言っている割には彼女の表情は晴れ晴れとしていた。

今まで背負ってきた重い、重い荷物を降ろしたようなm長い間続いた雨がやっとやんだような。

とても澄んでいてとても優しい顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、まぁそういう経緯があって、今俺は死に掛けている。くそっ、己の領分を弁えていないとでも言いたいのか?

それにしても、よく回想中死ななかったな。奇跡だ。

奇跡なのか? 随分と安い奇跡だな。

疲労はピークに達している。息が荒い。足が思うように動かない。目の前が霞む。こんな事なら日頃定期的に運動しておけばよかった。

あぁ、いい加減疲れた。逃げ回っているのも飽きた。ただ一つ気紛れで反復し続けたこの技で反撃をしよう。

 

ワーウルフの攻撃を避けた後、俺は足を止める。そして空手で正拳を繰り出すように右足を引き構えを取る。

俺の動きが止まったのを見て獲物がもう動けないと勘違いしたのか、ワーウルフが今まででもっとも速い速度で迫ってくる。

止めを射す気だ。

距離が縮まる。リーチは同じ、ならこちらのほうが先に攻撃できる。

ワーウルフの間合い一歩手前で()()を繰り出す。

ワーウルフの爪はまだ俺の目の前で止まっている。

 

「ぐぁああああああ!!!」

 

 思わず声が漏れてしまう。クソッ、皮膚が硬すぎて衝撃が伝わらずこちらの拳だけを痛めてしまった。

情けない。痛みに耐え即離脱するよう地面を蹴る。

 しかし、痛みによって俺は思ったより硬直していた。目の前にワーウルフの爪が迫る。

目の前の爪はスローモーションで迫っているというのに俺の体は一向に動かない。

 あぁ、これは死ぬ。しかも確実に、……………………ふざけるな!! まだ死ねるかよ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思った瞬間、世界が止まった。先程感じたものとは違う。本物の時間の停止。

やっとか。待たせすぎだ。

 

「遅刻だ。呼びつけておいてどういうつもりだ?」

 

 俺は苛立ちを隠さず、まだ見えない相手に問う。

 

「貴方が自らの意志で戦うことしくれるまで待っていました。そうでもしないと貴方は本気になってくれませんからね」

 

 俺をアヴァターに運んだ奴の声とはまた違う声が聞こえてきた。

 

「平和ボケした頭にはよく効いた」

 

 たしかに自分がいかに平和ボケしていたかよく分かった。

 

「それでいくつか聞きたい事がある。俺をここに連れてきた意味は? お前はどういう存在だ? お前の銘は?」

「そういくつも一度に聞かずともきちんと答える」

 

 また先刻とは違う声が聞こえた。男の声と女の声が両方聞こえる。

俺を呼んだ奴がこの世界にとってトレイター以上に在りえない存在という事は分かっていたつもりだが……、

召喚器は歴代の救世主と救世主候補が神によって変えられた存在。

本来、一人が一つの召喚器になるはず。なのに、複数声が聞こえるのはどういうことだ?

 

「その前に、話す奴を誰か一人にしてくれ」

「分かりました。では私が話しましょう。まず私たちがどのような存在かを説明しましょう。

私たちは過去の救世主、そして救世主候補達の親です」

 

 親? なぜ救世主の親でしかない存在が召喚器になれる?

 

「私たちは自分達の子が戦う様子を死後、幽霊となって観ていました。

そしてあの子達が傷つき、理想の違いで傷つきあい、最後には悲惨な死を迎えているのを見ていました。

私たちの子が何故こんな過酷な事をしなければならないのか神を恨みました。

子が苦しんでいるのにただ見ている事しか出来なかった事が悔やみました。

幾つもの私たちの想いが重なり、一つに凝縮したとき神の暴挙に堪えられなくなった世界が力を与えてくれ、

召喚器と同じようなものになったのです」

 

 たくさんの声が聞こえるのは納得できた。しかし、本当にそうなのか?

勝手に言っているだけで真相は違う可能性もある。

声だけで本当のことを話しているか嘘を言っているかどうか俺には読み取る事が出来ん。

 

「疑り深いですね。まぁ、だからこそ貴方を選んだのですが」

 

 心を読まれている!? そうか。召喚器は持ち主の魂の一部でここは精神世界とも言える場所。

ならば、こちらの考えている事は筒抜けになっている可能性が高い。

 

「その通りですね。ですが、勝手に流れ込んでくるんですよ」

 

 諦めるしかない。俺には切れるカードが何一つとして存在しない。

 

「賢明ですね。その切り替えの速さも私たちの望んだとおりです」

「そこはいい。お前が言った通りならあんたは誰の親だ?」

「ジャスティと………、今は名を捨ててしまったトレイターの母です」

 

 その声は悔恨に満ちていた。子が名を捨てるほどの事が起きた事を恨んでいるのだろうか?

だが、俺にはそんな事は関係ない。

 

「では、何故俺を呼んだのか理由を教えろ」

「私たちの子を導いて欲しいのです。そして、私たちの子を解き放って欲しいんです」

「具体的に。それとお前らはすでに死んだ救世主たちの親ではなかったのか?」

「たしかに、大半がそうです。

でも私たちは私たちの子がこの世界に召喚されると同時に引き剥がされここに集められ、子供たちの行く末をただ観させられました。

それに私たちの子と同じ運命を辿ろうとしている子に自分の子の姿を重ねてしまっても不思議はないでしょう?」

 

親心という物は不思議なものだ。自らの子の姿と重ね合わせるのはただの同情に過ぎない。

だが、そこに本物に近い愛といった感情を感じる事が出来るのだから、

 

「して欲しい具体的なことは私たちの子が幸せな結末を迎える事、破滅の元凶であり、

人のいない新しい世界を創ろうとしているアレを滅ぼしてくれる事です」

 

 ここが精神世界だとしても神の名前は容易く口には出せないのか。それほどまでに監視の目が鋭いとは恐れ入る。

 

「随分と難しい注文だ。ロベリアを幸せな結末に向かわせるのは無理だ。殺すしか術はない」

 

 ロベリアの心の傷は深すぎて癒す事はできない。世の中には殺してやる事が慈悲になる事もある。

誰かが生きていれば何処だって天国だと言っていたがそんなものは嘘だ。

生きるよりも死ぬ事のほうがそいつにとって幸せな事もある。

 

「それがあの子の幸せになると言うなら」

 

 これで俺の方針は確実に決まった、大河が神を殺す方向に導く事。

方針は決まったがまだ俺をここに呼んだ理由として知りたいことがある。

 

「どうして俺を選んだのかを知りたい。俺でなくてもこの役割を演じられるはずだ」

 

 そう、俺以外でもDuel Saviorを知っている存在は腐るほどいるはずだ。なのに何故俺を選んだのか解らない。

 

「あみだくじで選びました」

 

 今この場所で冗談を言えるとは、子供の命運を賭けた人選だというのにそんな適当なもので選ぶはずが無い。

俺はそいつがいると思われる場所を睨む。

 

「冗談です。私たちが欲しかった人物は、どのような状況に陥っても生活できる人。物事を深く考え裏を読み取ろうとする人。

思考の切り替えが速い人。戦闘では慎重に時には大胆に行動できる人。現状に満足できていない人」

「随分とハードルが高いな。よくそんな条件に俺が引っかかったものだ」

「いえ、あなた以外でも十人ほどいました。その中で貴方を選んだ理由は貴方がその中で誰よりも契約を重んじていたから。

貴方にとって契約は人命よりも大切なものだから」

「その点だけは納得できる。それでお前らの銘は? 形状は?」

 

 これからの主力武器になるのだ。知っていないと不便だ。

 

「私たちに銘はありませんし、形状もありません。

集合体ですから誰か一人の名を出すわけにもいきませんし、一人一人扱う武器が違いますから。

よろしければ銘は貴方が付けていただけませんか?」

 

 難しい事を言う。名前をつけるのと感想文を書くのをもっとも苦手としているというのに……、

数十秒考えた末にひとつの名前が浮かんだ。

 

「観護(みもり)でいいか。一応女の名前のように取れる」

「皮肉ですか? 観ていることしかできないのに、護ろうとする。矛盾しているのに私たちを的確に表している。それにしましょう」

 

納得してくれたか。半分はそのつもりで、もう半分は俺自身の役割を表していて俺が不用意な行動をしないように戒めるために付けたつもりだ。

 

「で、形状はどうしますか?」

「打刀で頼む」

「マニアックですね」

「好きなんだ」

 

 日本人なら憧れるのは打刀だろう。

 

目の前に現れた打刀を掴む。

羽のように軽く、重心はしっかりしていて振りぬきもしやすい。切れ味は?

 自分の外腕を切りつけ切れ味を視る。素晴らしい。

 

「なっ、何してるんですか!? 危ないでしょう」

「他に試し切りするものが無かったからだ」

「はぁ、あなたがクレイジーだという事を忘れていました」

 

 失礼な。至極真っ当な判断をしただけだ。断じてイカレてなどいない。

 

「それで特殊能力は何が付く?」

 

 そう、召喚器には特殊能力が付く。ジャスティなら軌道補正、ユーフォニアなら神聖力の増加、ライテウスなら魔力増加と起動補正。

といったように扱う人間が最大限能力を発揮できるようになっている。

 

「現存するほぼ全ての召喚器に形状を変えられ、その特殊能力を発揮できる事ですね。

あぁ、後その担い手の技術などを共感できます。もっとも、能力や威力は少し劣りますが」

 

 なっ、全て!? どんな人間でも状況によっては力を発揮できない場面が出てくるのにそれを皆無にするだと。

恐ろしいな。これでは某赤い騎士みたいだな。会社が違うが。

 

「私たちは救世主たちの親ですよ。殆んどの救世主は親に技を習って成長していますから。

子に教えた私たちができないはずが無いでしょう?」

「使いようによってはこの世界を滅ぼせるな」

 

 そう、実戦もしていない救世主候補相手なら勝てる可能性がかなり高い。ダウニー相手でも状況によっては勝てる可能性もある。

 

「契約を重んじる貴方がそんな事を出来るはずがありません」

 

 たしかに………、

するはずがないのではない。出来ないのだ。

俺にとって契約は鎖。契約を重んじる人間を選ぶ理由が納得いった。

 

「では契約を結んだと思ってかまいませんか?」

「まだ俺に対する報酬がないぞ。」

「あなたに報酬が必要ですか? 地位も名誉も富も女すら必要としない貴方に」

 

 たしかにそんなものあっても困るだけだが、無償で奉仕するような偽善者じゃない。

 

「なら、リリィとミュリエルでどうですか? 親娘丼ですよ?」

「「ちょっと待て。俺は(私は)そんなこと。許さんぞ!!」」

「今のは誰だ?」

「リリィとミュリエルの父親です。母親には了解を取ったというのに困りましたね」

 

 困るのはこっちだ。要らないものを貰っても嬉しくなどない。

 

「「なんだと!? 娘を愚弄する気か!!!」」

 

 考えている事が筒抜けなのを忘れていた。厄介だ。どうにかしろ。

 

「「あなた(パパ)はこっちにきて下さい」」

「「まっ、待て、母さん(ママ)。まだアイツに話が!!」」

 

 退場していったか。…………そういえば俺は今、死に掛けてる所だった。

こいつらのせいで忘れていたな。

 

「私たちが言うのも何ですけど。結構いい娘ですよ?」

「触れられもしないものは欲しくない。それに俺は独りでないと生きていけないしな」

 

 俺は何故か他人に触れると触れた部分に悪寒が走る。握手はなんとか我慢ができるが女を抱くなんてできるはずが無い。

それに俺は何よりも独りでいることを好む。他人といても疲れるだけだ。

たとえ本当に俺一人しかいなくなったとしても独りで生きていく自信がある。

だから、そんなものいくら進められても受け取ることは出来ない。

 

「と言われても、私たちに渡せるものは在りませんし」

「……いい。最初から期待していなかった。それにこの世界に俺を連れてきてくれた。それだけで十分だ」

 

 退屈な日常から抜け出させてくれて血と狂気と裏切りが渦巻く闘争の世界に連れてきてくれただけで十分だ。

 

「最初からそのつもりだったでしょう」

「何か貰えるなら、貰おうとは思ったが」

「なら、リリィとミュリエルを」

「「キサマ!!」」

 

 もうその話はいい。

 

「それより、時間を進めてくれ。俺はやる事がかなり残されているんだから」

「分かりました。マスター」

「………何だ?その呼び名は……」

 

 今、鳥肌がたった。気持ち悪い。

 

「それともご主人様のほうがよかったですか?」

 

完全に俺をからかっている。契約破棄しようか?

 

「もう、からかいがいがないですね。でも萌えは必要ですよ?」

「現実でやられたら気持ち悪いだけだ。名前で呼んでくれ」

「はいはい。分かりましたよ」

 

 投げやりな声で肯定してくる。トレイター、お前がこんなはっちゃけた母親を持っていたことに同情するよ。

 

 さて、する事は増えた。まずは大河の戦力の増強、何をするにしても大河が強くなることは必要だ。

 それと俺の人脈作りか。学園長のみに頼るわけには行かないからな。

 後は、俺が観護を扱いきれるかが問題だな。

 

「ゆ、「その名で俺を呼ぶな、俺は新城蛍火だ。」分かりましたよ。蛍火君」

「それでいい」

 

 ふざけ過ぎだ。これからもこれの相手をするのは面倒だ。まぁ、まずはワーウルフを片付けるとしよう。

 

「それでは時間を戻します。貴方が我が子を助けてくれるのを願って。貴方に幸せが訪れるのを願っています」

 

 余計なお世話だ。

 

 

 

 


後書き

 今回で三話目になります。ここで漸く一話目の声の主が分かったわけです。

が、自分で書いておいてなんですが三話目にして、主人公がかなり強くなりすぎている。

 現時点でも可笑しいだろと思うぐらいに観護の特殊能力は強すぎます。

ただ、当分蛍火の戦闘シーンはありません。

 

私が言うのもなんですが、かなり変わった主人公ですから。








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