注意書き

この作品はオリジナルが主人公ではっきり言ってむちゃくちゃな人物です。

ですのでそれに嫌悪感をもたれる方は見ないほうがいいと思います。

しかもかなりネタバレしています。もう第一話にしてかなり。ですので原作を先に見たいという方も見ないほうがいいと思われます。

では、稚拙ながらもお贈りさせていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが俺は今、死にかけている。これは比喩でもなんでもなく、厳然たる事実だ。

俺の命を脅かしているのはトラックでも、バスでも、バイクでもない。

交通事故の類ではなく、どちらかといえば人殺しなどの分類が近い。近いのか?

というより猛獣に襲われているのは確かだ。

 

目の前にいるのは熊でもライオンでも、トラでもないのだが。

今俺の目の前にいるのは日本では絶滅したはずの狼だ。しかも、二足歩行の。

ゲーム世界などで出てくるワーウルフに分類されるだろう。ていうかそれしかないと思う。

サーカスにでも売りに出したらさぞやいい値で取引してくれるだろう。その後大惨事になる可能性はかなり高いが。

などと無駄なことを考えている時間はない。本気でヤバイ。

うぉ、今掠った!?

 

狼(もういいやワーウルフで)の攻撃を視認することはかなり難しい。

自分で言うのもなんだが動体視力は結構いいほうだと思っていたのに。

もう見えないからほとんど勘に頼るしかない。……勘だけでよくここまで持っているな。

自分でやると決めたとはいえここまでとは笑ってしまう。歓喜で気が狂ってしまいそうだ。

 

 

どうしてこんなことになったのかというと話はだいたい6時間前に遡る。

あぁ、速く出てきてくれないと回想が終わるまで身が持たない。あの時聞こえた声は俺の勘違いだったのか?

父さん、母さん。俺はおとなしく勤勉に賽の河原で石積みすることにします。

所で俺の年でも賽の河原で石積みしなければいけないのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

第一話 異世界に招かれて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は四年制大学に通っている、少し変わった一般人だ。超能力を持っているわけでも格闘技を習っているわけでもない。

思考が破滅的で日本に俺と同じような人間はかなり少ないと思われるがいたって平凡な学生だ(友人はそうとは思っていないが)。

ちなみに趣味といわれ挙げられるものといえば珈琲とバイクと読書だ。

 

 

 

バイトを終えアパートに帰宅途中に、道路の真ん中に赤い古びた本が落ちているのを見つけた。

かなり古い本みたいだが表紙などは綺麗にされていてかなり大事にされている代物だと伺えた。

本の虫の血が騒ぎそれを読んでみたいという衝動に襲われ思わずその本を手にとってしまった。

 

思えばそれが運命の転機だったのだろう。本を手にした瞬間、眩い光が俺を襲ってきた。

あまりの光の強さに耐え切れず目を閉じてしまう。目を閉じているのに何故か目眩に近い感覚におとずれ意識が落ちていった。

落ちていく寸前幾つもの声が、いや耳に聞こえるものではなく頭に直接響いてくるようなものが……、

 

 

「優しくも残酷な」

 

「強くも弱い矛盾を抱えし汝に」

 

「我が子らの行く末と」

 

「我が子らを解き放ってくれることを頼みたい」

 

「「行く末を知る汝が我が子らの道標となってくれることを願って」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めるとそこはレンガが一面に敷き詰められた部屋だった。

今まで自分がいたところを考えるとこんな場所で目を覚ますのは可笑しい。夢としか考えられない。

本当の俺は布団の中で眠っている。そうであって欲しいなぁ。

まぁ、その確立は限りなく低いだろうな。

余談だが俺は明晰夢は見ない。見るのは基本的に日常的なものでしかも予知夢につながるようなものだ。

といっても確立はたかだか3割だがな。

という訳で夢の可能性はほぼ無し。

 

なら幻覚か? いや、それもないだろう。

ヘビースモーカーだが麻薬の類には一切手を出していない。よし、幻覚の線も無しだな。

次はドッキリの線も考えたがその可能性も無い。

こんな事をしそうな知り合いはいないし、こんなことするには金がかなり掛かる。

 

なら後は誰かに連れ去られたとしか考えられない。

うん、それしか考えられない。しかし、いったいどこのどいつが俺を連れ去ったりするのだろうか?

両親や親戚が特別金持ちではないし、特別な能力はないし、特別成績がいい訳ではない。

俺を誘拐して得られるものなど何も無いし、誘拐するならもっと幼い子供を狙うだろう。

はっ、これはうわさに聞く拉致ってやつか? 

なら、ここは北朝鮮ってことになっちまうな。昔のことで俺には関係ないって思ってたのに。その報いか?

 

と思考のループに陥っていた時、誰かの声が聞こえた。

 

「おい、未亜起きろ」

「うぅん。お兄ちゃん?」

 

その時俺は我が目を疑った。何度も目をこすった。レンガ積みの部屋よりも可笑しなもの。いや、人。しかも男女。

男の方はぼさぼさの髪で前髪が目の下まで被っている。何処にでもあるようなブレザーを着ていて高校生だとわかる。

女の方はストレートの髪が腰まで届いている。男とは異なりセーラー服を着ている。

二人をよく見ると校章が同じだった。おそらく同じ高校に通っているのだろう。

 

俺はその男女をよく知っている。いや、その言い方には語弊がある。

二人に直接会ったわけではない。芸能人のことを知っている感覚と同じ知っているなのだ。

Duel Saviorのゲーム出てくる。当真大河と当真未亜の二人がそこで言い争っていた。

 

まず、頬を抓ってみた。痛い。

やはり、現実のようだ。

まださっき考えていたことのほうが信憑性が高いのに、もっとも在り得ない筈の異世界(しかもゲームの中)に来てしまったようだ。

 

「は、ははははははははははははははは!!!」

 

 意志とは関係なしに口から笑い声が上がっている。まさか俺が異世界に来るなんて。

これなら、元の世界に返ったときに宇宙人とか超能力者も信じられる。

 いつもいつもいつも、日常は退屈でつまらないと思っていたのに、

こんな事を与えてくれるとは、あの時聞こえた声の主には何度感謝しても尽きないくらいだ。

 

 

狂笑によって俺の存在にやっと気付いた、当真大河と当真未亜は俺のほうに近づいてきた。

 

しかし、近づいてきたはいいが、話しかけてこない。

まぁ当然か。

何処とも知れないところに連れ去られて自分達以外の存在を確かめたと思ったら狂笑をしている危なげな人物がいたとあっては、

 

「おい、あんた。ここは何処だ。俺たちは何でここにいる?」

 

 当真大河、面倒だな。下の名前でいいや。

大河が俺に思い切って話しかけてきた。ゲーム中通り、後先考えない性格のようだ。

 俺は真面目そうな青年の顔に変えて大河に答える。

 

「すみません。私も知らないんですよ。気付いたらここに」

 

真っ赤な大嘘だ。ここがどこだか。何故彼らがここに呼ばれたのかよく知っている。しかもこの後の展開も、

 

ちなみに俺は初対面の相手には敬語を使う。クセなので仕方ない。

これから色々と渡り歩かないといけだろうし敬語を常に話すように慣れておいて損はないだろう。

この口調を貫き通すとしよう。

 

「そうなんですか。すみません」

 

 未亜も話しかけてきた。大河への対応で話は通じる相手だと判断してくれたようだ。

 

「いえ、こちらこそ。役に立つような情報を提供できず」

「まったくだ。笑い出したから、てっきり何か知ってると思ったのに」

 

 不遜な態度で心底期待して損したと行った口ぶりだ。

知っているから笑ったのさ。それとこの世の可笑しさに、

 

「あぁ、すみません。笑ったのは今の自分の境遇があまりにも現実離れしているせいで。

つい、それにほら、笑う門には福来るって言うじゃないですか」

「用法を間違ってると思いますけど」

 

未亜が常識的なツッコミをいれてくれる。さすがだ。

 

「あれっ、そうでしたっけ? まぁ、細かいことは気にしないようにしましょう」

「そうだぜ、未亜」

 

大河も賛同してくれた。さすが大河。細かいことには本当に気にしない性格だ。

 

「うん。まぁ、お兄ちゃんが言うなら」

 

 大河の言葉で仕方なくといった感じで納得した。未亜のブラコンは顕在か。いや、序盤なのだからまだ軽いほうだな。

後半になったら、恐ろしい。こんなおとなしそうな子がルートを間違えるとあんなに恐ろしくなるのか。恋愛感情は怖いね。

 

「そういえば、自己紹介をしていませんでしたね。私は新城蛍火といいます。呼びやすいように呼んで下さってかまいません」

「分かった、蛍火。俺は当真大河」

「分かりました。蛍火さん。私は当真未亜です。口の悪い兄の妹です」

 

よく知っている。

二人が自分達は義理の兄妹だと思っていて、実は半分血のつながった兄妹ということも、

二人が世界の行く末を決める人物だということも。

 しかし、今の俺は何も知らないと定義付けされている存在。全てを知らない振りをしなければ、

 

「ご兄妹でしたか。当真君、しっかりしていらっしゃる妹さんですね」

「俺にはもったいない位だけどな。それと当真君なんて呼び方はやめてくれ。呼び捨てでいい。

後そんな敬語はやめてくれ。背中が痒くなる」

「そうですか、……そうですね。では、当真と呼んでかまいませんか?

それと、この話し方は癖みたいなものでして、中々直せないんですよ」

 

 背中が痒くなると言われてもこの話し方をやめるつもりは無い。

 

「えっと、蛍火さん。私たち兄妹ですから、苗字で呼ばれると区別がつかないですから下の名前で呼んでくれませんか?」

 

これは困った。俺は今まで他人の名前を呼んだことがない。

故にそのような習慣がついていないから名前で呼ぶと気分が悪くなってくる。さて、どうしよう?

 

「それは難しいですね。他人の名前を今まで一度も呼んだことが無いので慣れてないんです。

妹さんのほうを当真さんと呼んで区別するので勘弁して下さい」

 

自慢ではないが彼女が今まで一度もいない。だから女性の名前を呼び捨てにするなど出来るはずが無い。

リコの時はどうしよう? リスさんなんて呼びにくいしな。ここはリコ・リスさんとフルネームで呼ぶことにしよう。

 

「未亜の事をさん付けか。なんだか、未亜のほうが俺より年上に聞こえるな」

「精神年齢はあきらかに当真さんの方が上だと思いますよ?」

 

それ以後数分間、大河や未亜をからかって遊んでいた。

俺の言うことを二人は簡単に信じていた。なぁ、二人とも。簡単に他人の言うことを信じるのはよくないぞ。

 

 

追記として俺がまだ二十歳になっていないと知ってかなり驚いていた。

幾つくらいだと思っていたと聞くと二十代後半だとぬかしやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日、召喚の儀があるなんてあの子の何もいってなかったのに」

 

 ダリアが来た。やっとか。

ゲームではすぐ来たと描写されていたけど、これは俺が登場したことによる変革か。些細なことか。

しかし、ダリアはかなりきわどい服だ。ゲーム中と同じ服装をしているが体感で視覚情報として入ってくると眼の毒でしかないな。

 

「まぁ、いっかぁ。ようこそ救世主、根の世界アヴァターへ」

 

 こちらのことは一切気にせず自分の話しに持っていく。人の都合や他人に対する配慮が足りてないぞ。

もう少しこの二人を気遣ってやってくれ。

 

「あなたは四人目の救世主よん」

 

 大河たちは話についていけず、というよりは突如現れて勝手に話を進めていくダリアにあきれ果てているのだろう。

俺が大河たちと同じ立場だったのなら確実に大河たちと同じような反応しか示せなかっただろう。

 

「あたしはダリア。ここの戦技科の教師をしているの。よろしくね♪」

「教師……、学園なのかここ?」

「戦技科ってなに?」

 

 たしかにこんな人物が教師とは考えられない。

それにしてもやっと少しは目の前を認識できたか。

大河に関してはもしかしたらダリアの胸に意識が行き過ぎているせいなのかもしれない。

 

「あなたはこの世界を救う救世主の候補に選ばれたの。おめでとう♪」

「おめでとうって」

「おい、乳のでかいねーちゃん。あんたいきなり何をわけの分からないことを」

 

 大河はダリアの胸を見ながら台詞を喋っている。

こんな状況でも見るところは見てるのね。お前らしいよ。

 

「わけ分からないはないでしょう。救世主に選ばれるのは世界一の大富豪になるより難しいんだから。

今のところ全次元の世界合わせてあなたで四人」

「はぁ」

「ファンタジーだ」

 

 未亜は話についていけず上の空で、大河は半現実逃避。

未亜、もう少しちゃんと話していることを聞かないといけないぞ。

他人が話していることを鵜呑みにするのは愚かだが、他人が与えてくれている情報を聞き流すのはさらに愚かしいぞ。

 

「しかも、真の救世主に選ばれたのなら、全ての世界は思うがまま。こんなおいしい話を放っておく手は無いわよね?」

「えっ、えっと」

「紛うことなきファンタジーだ」

 

ここまで話していて二人(特に未亜)の反応が薄いこと、というより戸惑っていることにやっとダリアは気が付いた。遅すぎるぞ。

 

「ん〜。ひょっとして救世主のことリコから何も聞いてない? アヴァターの事とか赤の書の事とか」

「アヴァター…?」

 

二人はその言葉でも頭から?を浮かべていた。

 

「あらぁ、ひょっとして何も説明せずにいきなり召喚したのぉ? まずいわねぁ、それ」

 

ダリアは辺りをきょろきょろと見回している。出来ればやめて欲しい。

体の動きにあわせて胸が揺れて凄まじい光景になっている。眼の毒だ。

おい、大河あんまり凝視するなよ。未亜に後で抓られるぞ。

 

「そういえば、当のリコの姿がないわね。どうしたのかしら?」

「どうかしたのは俺たちだ」

「え〜とあなたたちには黙秘権があり、あなたたちの発言は裁判で証拠として採用され」

「越権逮捕だ、オラァ!!」

「やぁねぇ。単なる異世界ネタじゃない。通じてよかった」

 

 いや、今はギャグを挟むところではないぞ、ダリア。

大河お前もよく反応できたな。

 

「異世界?」

「いいわ。こんなところで立ち話もなんだし学園長室で詳しい話をしましょ。さっ、道すがらこの学園の簡単な説明をしてあげるわん」

 

 未亜の発言を見事にスルー。救世主候補なんだからもう少しいたわってやれよ。

 

「でっ、でも帰らないと夕飯の支度が」

「バイト完全に遅刻だ。どうしてくれるんだ。乳もませろよ」

 

 未亜は見当違いのことを大河はセクハラを。

大河、文脈につながりがないぞ。後軽くセクハラ発言するな。男はそんなもんだとアヴァター中の女の子に誤解されるだろう。

俺はそんなの嫌だぞ。

 

「あはは、面白いわね。このセクハラ人形。可愛い顔しておかしな趣味してるのね、あなた。」

「は?」

「セクハラ にんぎょう?」

 

 今までで一番何をいっているのか分からないといった風である。

大河が人形扱いされるのもこの世界では仕方ない。赤の書に召喚されるのは基本的に女の子だけだからな。

今の大河の存在は常識外というわけだ。無論、俺もだが。

 

「喋り方も動きも人間そっくりだわ。よくもまぁ、こんな精巧な人形作ったわねぇ。」

 

 ダリアは大河をジロジロと観察している。さて、そろそろ大河がキレる頃か。ここまで言われて我慢はできないだろう。

 

「おい、人をバカにするのもいい加減にしろよ」

 

 言い終えた後、ダリアの胸を揉んだ。

大河、相手が無礼でお前達からみたら電波入ってる人間だとしても初対面の人の胸は揉まないだろ。普通?

 

「あん」

「お兄ちゃん(怒)」

 

 未亜が大河の手を叩く。ふむ、適切な処置だ。それが嫉妬という感情からくるのだとしても常識的に考えれば正しい行動のはずだ。

 

「何やってるのよ。お兄ちゃん」

「いっ、いきなり揉まないでよ。ちょっと感じちゃったじゃない」

 

 少し顔を赤くして胸を隠して恥ずかしがっているようにも思える。

だがそれは言葉に出すべき様なことか?

さて、ただ聞いているのもそろそろ飽きてきたな。少しこの中を引っ掻き回すことにするか。

 

「彼が無礼なことをして申し訳ありません。ダリア様」

「あらん。そういえばまだいたわね。喋らないから忘れてたわ」

 

 本気で忘れていたようだ。たしかに俺は一言も発していないがそれはかなり酷いぞ。

 

「発言する必要性を感じなかったものですから。彼は私よりも先に作られた人形でして、マスターの兄君に似せて作られたものです。

そのせいで人形なのに人に迷惑をかけてしまうことがしばしば。まったく……」

「こっちも率直に言うわねぇ。こっちのほうが論理的に喋るから出来が良いのかしら?」

「えっ? えっ?」

 

 未亜が混乱している姿はけっこう可愛らしい。ここで未亜に答えられてしまってはこの冗談が終わってしまう。

未亜を遮って俺が答えなければ。

まぁ、未亜が答えても面白い展開には簡単に持ち込めるのだが、

 

「出来がいいかどうかはマスターがお決めになることですので分かりませんが、完成したのはそちらのものよりも後期です。

役割としては主にマスターの仕事関連の補助ですので、人間に似せて作るよりも機能を優先されています」

 

 自分でもよくもまぁ、こんなにすらすらと法螺が吹けるものだ。感心してしまう。

 

 俺は決して嘘はついてはいない。ただ法螺を吹いているだけだ。

俺的に嘘は最後まで突き通すもので、法螺はすぐにバレる物のことだと思っている。

 

「ふ〜ん。そうなのん。あなたはあっちのには嫉妬したりしないのかしらん?」

 

と、大河を指差しながら俺に聞いてきた。人を指差すのは全世界共通で悪いこととされているからやめて方がいいぞ。

ここは異世界だから関係ないのか?

 

ダリアの発言は人形に聞くようなものではないと思う。

というかそもそも、人形遣いの人形って自分の意志で動くことが出来るのか? 謎である。

 

「私はマスターの人形です。そのような感情は持ち合わせていません。マスターの喜びが私にとっての最優先事項です」

 

 ロボット三原則にのっとって答えてみたが、大丈夫なのだろうか?

 

「あらん、本当によく出来てるわ。ねぇ、こっちの方私に譲ってくれないかしらん」

 

 俺を指差し、未亜に交渉を持ちかけている。自分の欲望に忠実でずぼらだという風によく演じきれている。

俺もゲームをしていなければこれがダリアだと思えただろう。それとも、もしかしてこの状態が素なのか?

 

 ダリアの本気の交渉で未亜は困り果てている。大河はついていけずにフリーズ状態だ。

そろそろ冗談も終わりにしないと話が進まないな。俺も速く学園長に話をつけたいことだし、

 

「すみません。私の所有権は当真さんは持っていませんから、詰め寄るのはやめてあげてください。

それと私が人形だというのは冗談ですから。もちろん当真も」

「へ?」

 

 おぉ、ダリアの困惑してる表情なんてゲームの中でもなかなか拝めなかったものが拝めたぞ。

うん、以外に面白い。

 

「冗談?」

「冗談です。私が話した部分のほぼ全部が」

「全部、冗談?」

 

 まだ、呆けている。俺達が人形じゃないとそんな信じられないことなのだろうか?

常識という物はある種、足枷のようなものだ。

 

「はい」

 

 たぶん、今俺は飛びっきりの笑顔で答えているだろう。

まさかここまでの反応を示してくれるとは思いもよらなかったからな。

 しかし、ダリアが呆けていたのは俺が想像していた理由とはかなり異なっていた。

 

「何てことしてくれんのよ!!

せっかく人形を手に入れて部屋の掃除とかお夜食とかマッサージとかしてもらおうと考えてたのに、あんまりだわ〜(泣)」

 

 本気に取れるように嘆いている。

この女、真剣にそんなことを考えていたのか、普段の行動とかは演技じゃなくて本当に素だったのか。

 

「じゃあ、あなたはいったい何なのよ?」

「性別が男で、種族は人です」

「あなた……、人間? 嘘。………本当に?」

 

思考がショートしてしまったようだ。ゲームでは結構柔軟に大河には対応できていたのにこの差はなんだ?

もしかして、からかわれ慣れていないのか? ふふっ、ならもう少しからかってみるとしよう。

 

「嘘ではないですよ。私はそうだと思っていますから。もしかしたら、そう思い込んでいるだけの自動人形かもしれませんけどね」

 

 この言葉は嘘でも法螺でもない。人は自らが人だということを認識しているのは記憶のおかげだ。

今までどのように過ごし、どのような人間関係を構築してきたかそれによって自らを己と認識できる。

しかし、俺達が生まれたのは実は十秒前なのかもしれない。十秒前の以前の記憶を転送され、今いる場所に配置されたのかもしれない。

それとも今見ている風景、今まで見てきた風景、家族、友人それら全てが仮想なのかも知れない。

俺達の実態は電極を脳に射されている姿かもしれない。電極から入力されたものを現実としてみているのかもしれない。

 

おっと、これは哲学の分野だった。ファンタジーには必要ない部分だったな。失礼。

 

「もう、結局どっちなのよ?」

 

 少しだけ額に青筋が浮かんでいる。怒らせてしまった。

引き際をあやまったな。これ以上刺激するのはあまりよろしくないな。まぁ、話を先に進めるとするか。

 

「どちらかというと男?」

「人間か自動人形かどうか答えてないじゃない。しかも文末がなんで?になるのよ!!」

 

 しまった。先に進めようとしたのに、クセというのは恐ろしいな。

 

「まぁ、落ち着いてください」

「怒らせたのはどっちよ」

 

ギロリと睨んでくる。さすが諜報員、迫力は満点だ。一般人の俺としては辛い限りだ。

 

「それよりも早く、学園長室に行って詳しい話を聞かせてください」

「そうねぇ。咽渇いちゃったし」

「同感です」

「まっ、待ってください」

 

 未亜が俺たちを止める。まぁ、このまま行けばなし崩しのまま帰れなくされるからな。勘のいい。

 

「何がなんだか、分からないです。いえ、分からなくてもいいから私たちを帰してください!」

「そうだ。このままなし崩し的にここに残らされるなんて勘弁ならねぇぞ。

俊子ちゃんも美里ちゃんも遙ちゃんもデートに誘ってないのに!!」

 

 大河、結局そこに思考が行き着いてしまうのか?

現実でこんな奴が目の前にいると泣けてくるよ。

それに、お前の近くにはお前のことを本当に案じてくれている人がいるっていうのに、義理の妹だけど。

というか半分血のつながった存在だけど。

 

「悪いけど、あなたたちを帰すわけにはいかないの」

「どうして!?」

「ふざんけんなよ」

 

そういいながら大河は手を握ったり、手を開いたりするのを繰り返している。いやらしいぞ手つきが。

 

「お兄ちゃん」

 

未亜のドスの効いた声が耳に入った。小さい声のはずなのに耳の奥のほうまで響いてくる。

ダリアに睨まれるよりも恐ろしいぞ。

 

「二人とも、ダリア先生の言葉を思い出してください」

 

 俺の言葉で二人は少し考えるそぶりをする。大河は何か思い当たったのか手をぽんとたたいた。

 

「感じちゃったことか?」

 

 なぜその言葉がまず思い浮かぶ? 本当に頭の中がピンク色に統一されているな。

 

「当真さんに対して救世主と呼んだことです。

そのように呼ばれるということはこの場所が危機的状況に陥っているか、その寸前にあるということ。

そんな状況でその状況を改善できると思われる人物が現れたとしたら、その人を簡単に放置できますか?」

「そっ、それは」

 

 未亜が言い淀む。自分が困っている状況で助けてくれるかもしれない人物が目の前に現れたなら普通はその人物の都合は気にしない。

そして未亜は今、その目の前に現れたほうなのだから。

 

「そんなの関係ないね。俺たちは俺たちだし、そいつらはそいつらだ。そんな他力本願な奴のことなんか気にする必要ねぇ。

俺たちには俺たちの都合があるんだからな」

 

大河の決然とした態度。

それは物事の本質だけど、色々なしがらみによって発することできないはずの言葉なのに、凄い奴だ。

 

「そうだよね。うん、そうだよねお兄ちゃん」

 

 何かを決意した顔で未亜がこちらに向く。

はぁ、せっかく未亜の良心に訴えてここを動こうと思ったんだけど。

 

「帰してください。私たちを元の場所へ帰してください!」

 

 さすがは白の主に選ばれることは在る。

一度決めたことに対する意志の強さ。それを前面に押し出せる強さ。真似はできないな。

 

「どうしてもって言うなら、出来なくは無いけどぉ」

 

未亜の迫力に負け、ダリアはしぶしぶといった感じで答えた。

この世界に住む彼女としての本心としては帰したくはないだろうが、

戦闘者としては命令に逆らう存在はどれだけ強かろうと邪魔でしかないとよく理解している。

 

「なら」

「でも、あんまりお勧めできないわ」

「ここまで来て出し渋りか? いい加減にしろよ」

 

 大河も頭にきているのか今は手をワキワキさせていない。

なんだか指先を曲げたり、伸ばしていたりするような気もするが。気のせいだ。

 

「二人ともダリア先生をそんなに困らせないであげて下さい。この事態に一番戸惑っているのはダリア先生ですから」

「どういうことですか?」

「ダリア先生の態度と言動に注意していれば分かります。私たちがこの世界にとってイレギュラーな存在だということが。

召喚されたのにいつもならその召喚を担っている人物がいない。召喚される日時は予め分かっているのに突然現れた。

女性しか召喚されるはずが無いのに私と当真が召喚されている。

ほら、こんなにもイレギュラー要素がいっぱい」

 

 ダリアは最初、俺の擁護的な言葉に喜んでいたが徐々に眉間に皺を寄せていった。

注視していなければ分からないぐらい微かなものだったが。

彼女としてはここまでの洞察眼を持っている存在に警戒しているのだろう。諜報員として要チェックしなければならない人物だと、

でしゃばり過ぎたかな?

 

「イレギュラーな状態でここにこさせられた私たちには通常の方法では元の場所に戻れない。

もし、無理に元の場所に戻ろうとしたなら次元の狭間に入ってしまうかもしれません」

 

 これに関しては嘘だった。

リコほどの世界への干渉力を持つ存在ならば召喚陣を調べ、俺達が何処から召喚されたのかログを見ればすぐに分かるだろう。

しかし、二人に元の世界に帰ってもらうことは出来ない。これから始まる物語に二人は必要不可欠な存在なのだから。

 

「そんな…………」

「嘘だろ……」

 

 目の前にあった希望を摘み取られた二人は愕然としていた。希望与えてから絶望へ突き落とすのはなんとも甘美だ。

あー、でもこれじゃただの変態だな。

 

「だから、この事態を詳しく説明できる人に会いに行かなければ。そうすれば元の場所に戻る算段が付くかもしれません」

 

 もっとも学園長がそれ以上にこの世界に留まるように言うのは分かっていることだが、

 

「分かった。そいつの所に行こうじゃねぇか」

「お兄ちゃん!?」

「未亜、ここで立ち止まってても何も状況は変わらない。俺たちで動かさないと」

「そうだね。分かったよ」

 

 決断の速さと状況認識力はすばらしいな。これに努力することと、感情に動かされず冷静に物事を判断できるようになれば……、

 

いや、大河に感情を動かないようにするのはダメだな。

あいつのいいところは感情によって大きな力を出せることと後先考えない突進力だから。

 

「という訳で、ダリア先生。私たちを学園長室に連れて行ってください」

「それはこちらとしても嬉しいわ。それじゃ、道すがら「ダリア先生。」何かしらん?」

「私たちは魔法の無い世界から来ました。ですから……」

 

 あぁ、今俺はこの上なく嗤っているだろう。これから、二人が陥ることを想像すればするほど、顔がにやけてしまう。

前々からもしかしてとは思っていたが俺は真性のサディストなのかもしれない。

 

「その二人にこの世界の、そして魔法の何たるかを存分に教えてあげてください」

「了解したわん♪」

 

 ダリアは二人を抱え窓から空中散歩に出る。

それを見届けた後、俺は召喚の塔を降りることにした。後ろから大河の怨みの声と未亜の悲鳴を聞きながら、

 

 

 

 ss


後書き

 初めまして、ペルソナです。初めての投稿となりかなりドキドキです。

誤字はないか? 間違っている解釈の部分はないかなどなど、かなり心配です。

 何分、初めて書くものなので稚拙な部分が多々あると思います。

そこは承知ですので、問題点があったのなら遠慮なく指摘してください。よりよい作品を、面白い作品を作りたいと思っています。

 題名ですが、ドイツ語で黒き異常です。日本語に訳すとあんまりかっこよくないですよね。

この黒き異常はもちろん、主人公のことをさしています。色々な意味で。

 えー、最後になりましたがSchwarzes Anormalesを読んでいただき真に有り難うございます。

しかも、後書きまで呼んで貰えるなんてとても嬉しいです。

では、次の話でお会いしたいと思います。

 

 

 修正版

 私の作品を読んでくださっている読者の皆さんに多大な迷惑をお掛けしてすみません。

 削除してもらいましたが、内容はほぼ変わっていません。文字数が多かったので話を切り分けただけです。

 ですので、以前読まれた方は飛ばしてもらってかまいませんので。

 

 





おお、これは初のパターン?
美姫 「私に聞かないでよ。でも、確かに初めてのパターンかもね」
現実世界からゲーム世界へと召喚。
この先起こる事を知りつつ、どう立ち回っていくのか。
美姫 「蛍火の介入で既に歴史は変わってしまってるような気もするけれどね」
だけど、大まかな部分では変化しないんじゃないかな。
ともあれ、どうなっていくのか。
美姫 「次回もお待ちしてます」



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