第四話〜指導〜
「それではよろしくお願いします」
「はい、わかりました」
次の日の早朝、将太はリリアン女学園の理事長室を訪れていた。
こちらに来て最初に顔は合わせているのだが、これからの護衛についてはもちろんのこと、リリアンの風習、授業内容など様々なことを再確認しておく必要があったのだ。
挨拶を済ませ理事長室を出ると、朝礼までは随分時間があるため校内を散歩することにした。
「しかしでかいよなぁ」
感心してしまう広さだな。さすがはお嬢様学校ってところか。
それだけ狙われやすいのかな、内からも外からも。
まぁいたずらで終わればいいんだけど、ね・・・。
これからのことを考えながら歩いていくうち、気付くと武道場の前を通り過ぎようとしていた。
「これが武道場か。立派なもんだが、ん・・・?」
武道場の中から人の気配がする。こんな時間から練習か。おもしろそうだな、行ってみるか。
将太は武道場の中へと向かっていく。
中に入り一礼し、顔を上げるとちょうど練習が一区切り付いたのか、壁に背を預けスポーツドリンクを飲んでいる女性と眼が合った。
「えっと、どちら様?」
(あ、支倉令)
そりゃそうか。まだ俺の顔は知られていないわけだし・・・
令の尤もな言葉に心の中で突っ込みを入れると、相手に不審がられないように話を切り出していく。
「今日からここで講師をすることになった田中将太です。武道場の中を見てみようと思ったんだけど、人が居るとは思わなくて」
「そうだんだったんですか。それは失礼しました。私以外には居ないので、どうぞゆっくりと見ていってください」
「どうも」
本当は見たかったのは練習姿ですとはとても言えず、適当に言いつくろってごまかす。
ぶらぶらと場内をみて回った後、令のところに来た。
「ジャマしてごめんね。もう出て行くし」
次の場所に行く前に令に挨拶して早々に去ろうとしたのだが、次の一言で踏み止まった。
「いえ。それより、田中先生は武道をおやりになるのですか?」
そんな質問が飛んでくるとは思わず、将太は一瞬動揺するものの顔には出さず、無難に切り返す。
「少し、ね。剣道じゃないけど。でもよくわかったね」
「道場に入って礼をしましたが、その礼があまりに自然だったので、つい」
なるほど、よく見ている。伊達にエースと呼ばれてないか。
見ればなかなか鍛え上げられている体をしているし、一般としてはなかなかのレベルなんだろうな。
将太が感心していると、令は真剣な顔で迫ってきた。
「あのっ!」
「ん、なんだい?」
質問に対処できるよう準備する。ここでボロを出して都合を悪くするわけにはいかない。
が、出てきた言葉は予想を大きく外れるものだった。
「よろしければ私の練習を見て頂けませんか」
「へっ?」
令は上機嫌だった。
練習でこれだけ充実したのはいつ以来だろう。
今日上手くなったことが自分でもわかった。思わず笑みがこぼれてしまいそうなほどに。
「そうそう、そんな感じだよ」
「はい。でも教えるの本当に上手ですね。剣道でないとしたら何をなさっているのですか?」
令にはそれが不思議だった。
彼は剣道は習っていないと言っていた。
だとしたら彼はいったい何をやっているのだろう。嘘をついていて、実は剣の達人だったりして。
「いや、たいしたもんじゃないよ。
それに、上手くなったのは純粋に君自身の力だ。俺はちょっと後押ししただけ。
だから君はそのまま真っ直ぐ伸びてくれ」
令はそう言った将太の真剣な顔に思わずドキッとする。
「一生懸命やるだけでは行き詰る。真剣にやってこそ、先があるんだ。
目先に囚われるな。呼吸を落として先を見なよ。君はもっと上を目指せるんだから」
「は、はい」
『キーンコーンカーンコーン』
ちょうどいい具合でチャイムが鳴った。そろそろ支度をしないと本気で朝礼に間に合わなくなるので、お開きにすることにする。
令としてはまだ見てもらいたかったのだが、まだ時間はこれからたっぷりあると無理やり納得することにした。
「それじゃ、そろそろ行くかな」
「本当にありがとうございました」
「ん。じゃあ、朝礼遅れないようにね」
令に釘を刺すと将太は道場を出て行った。
独りになった道場の中で令は思う。
将太は、彼は何者なんだろう。先生で、武道の達人?何か違う気がする。
お父さんなら何かわかるのだろうか?
そういえば田中将太先生って
「何の授業なんだろう?」
もしかしたら教えてもらうことになったりして、ね。
ふふっ、楽しみだな。
ふと時計を見ると結構な時間になっていた。
「もうこんな時間か。急がなきゃ」
令は急いでシャワーを浴び、着替えを済ますと体育館へと向かった。
新しい出会いに胸を躍らせながら。
今回は令との出会いみたいだね。
美姫 「そうね。この調子で他の面々とも知り合っていくのかしら」
うーん、だとしたら次は誰かな〜。
美姫 「一体、どうなっていくのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」