第二話〜遭遇〜
「ここかぁ。305号室だったな」
将太は依頼人が用意したマンションに来ていた。なかなかどうしていいマンションである。今自分が住んでいる所より大きいのではないだろうか。
「まったく。じいさんもこんなところを用意しなくてもいいのに」
ひとりごちながら部屋に着くと、室内に到着していた荷物を次々と整理していく。
といっても一人暮らしなのでそれほど荷物もなく、3時間ほどでほとんどの荷物が片付いた。
「さてと、ここからだな」
そう言うと将太は地図を取り出して机の上に広げた。地図はどうやらリリアン周辺のもののようだが、市販の物よりもずっと精巧に描かれている。
それを暫く見つめた後、ペンを取り出し印やら線やらをつけていく。
「う〜ん、ここはなかなか・・・」
「このルートは使えそうだな」
「ここから行くと・・・」
ぶつくさ言いながら、1時間後にして将太にしか分からないであろう地図が完成した。
それをもう一度目を通すと壁に貼り付けた。
「ま、こんなものかな・・・。さてと、次は現地調査『グゥッ』・・・・・・も兼ねて食事にでも行きますかね」
時計を見ると1時を過ぎている。道理で腹が減るはずだ。
お腹をさすりながら将太は部屋を後にしたのだった。
部屋を出た後、将太はリリアン周辺を自転車でぐるぐる回っていた。
食事より調査を優先したので、彼の腹のすき具合はそろそろ限界を迎えようとしていた。
「この辺りはもういいか。それよりいい加減に飯にしないとなぁって、ん?」
将太が反対車道を見ると、1人の女性が2人の男性に言い寄られている。
男たちは何とか女性を誘おうと努めているが、女性は見るからに嫌そうである。
あの女性、資料で見た。確か名前は・・・
「さて、どうしたもんかな」
助けるのが定石だろう。ここで助けた方が学園で相手に近づきやすい。
が、力であんな輩をねじ伏せることなど容易いが、それでは都合が悪いとなると・・・。
少し考えた後、
「よし、この手で行くか」
将太は反対車道に向かうのだった。
佐藤聖は参っていた。
ナンパは今までに何度もされたことはあるが、今日のはとりわけ性質が悪い。
「なぁいいだろう」
「そうそう、俺たちと遊びに行こうよ」
(しつこいなぁ、もう)
「興味ないって言ってるでしょ」
「そんなこと言わずに、なぁ」
「ちょっとだけだし、ね」
この調子である。
どうしたものかと考えていると、
「ちょっと失礼」
後ろから声がかかった。
後ろを見てみると、
1人の男が立っていた。
「ちょっと失礼」
将太は3人に声をかける。
3人は突然のことに呆けていたが、やがて男たちは
「あぁ」
「なんだ、おまえ」
と、ベタな反応を示してくれた。
聖はまだ状況を理解していないのか呆けたままである。
将太はかまわず続ける。
「申し訳ないけど、彼女は先約があるんだ。ここは引いてくれないかな」
ね、と聖にウインクをする。
聖はその意味を悟ると、将太の演技に合わせていく。
「そ、そう。この人と待ち合わせしていたの。」
「遅かったなぁ、も〜」というような感じで将太の方に寄っていく。
ついでに腕をからめて恋人のような演出をしているのは聖ならではのアドリブといったところだろうか。
これについては将太も内心ドキッとしたが、顔には出さない。
「というわけんなんだけど」
「うっ」
「・・・」
男たちは暫く将太と聖を見比べていたが、やがて観念したのか
「ちっ、いこーぜ」
「男なら女待たすんじゃねーよ」
とはき捨てながら去っていった。
「いやホントにありがとうね。正直どうしようか困ってたんだ〜」
「いやそんな、単に放っておけなかっただけだし、大したことしたわけじゃないよ」
「そんなことないよ。普通みんな見て見ぬフリするもの。十分大したことだよ」
「そうかな。じゃあそういうことにしておきます」
「はい、そうしてください♪」
将太は思う。自分は本当に大したことはしてない。助けたのはこちらの都合だ。
非難されることはあれ、賞賛されることはない。
素直にお礼を述べてくる彼女に心の中で謝罪を述べる。
「それじゃ、俺はこれで」
「あ、お礼とかしたいいんだけど・・・」
「いや、そんなのいらな『グゥッ』・・・いらないよ」
「フフッ、それじゃお礼に食事でもご馳走するわ」
聖は笑いを堪えながらお腹の警告に答えた。
「いや、本当『グゥッ』・・・・・・お願いします」
結局将太は観念し、食事を奢って貰うのだった。
最初の出会いは聖。
美姫 「颯爽と助けて名前も告げずに去って行く」
とはいかなかったみたいだな。
美姫 「空腹には勝てないわよね〜」
まあ、とりあえずは山百合会メンバーの一人と知り合ったわけだし。
美姫 「これを足がかりにって所かしらね」
かな。
美姫 「それじゃあ、次回を待ってますね」
ではでは。