第一話〜依頼〜

 

 

 

とある廃ビル。

昨年までは賑やかだったその百貨店も、近年の不況の所為か店じまいをし、かといって新たに借り受ける業者もないのかほったらかしになっている。

 

そんな荒れ放題のビルの中に

 

二人の男が立っていた。

 

一人は刀を持った長身の男。月の光で刀がギラリと光っている。

正面にいる男を睨み付けるその顔は、これから人を切ることが嬉しいのか愉悦に満ちている。

 

もう一人は影に隠れて顔はよく見えない。両手には何も持っておらず、かといって構えを取るようなこともしていない。

強いて言うなれば右足を出す右自然体を取っている。

 

二人は無言でにらみ合っていたが、痺れを切らしたのか刀を持った男が切りかかっていった。

 

 

 

 

数分後、元の場所には一つの死体と一人の男。

死体のそばには折れた刀が転がっている。

 

男は暫く死体を見つめていたが、興味をなくしたのか視線をはずすと携帯を取り出した。

 

「もしもし。ええ、とりあえずは終わりました。

 

そんなことないですよ、十分強敵でした。暫くこんな依頼は御免こうむりたいんですが。

 

はいはい、わかりました。それじゃ、後片付けと死体の弔いはよろしく頼みます」

 

廃ビルから出て空を見上げると、丸い月が鈍い輝きを出している。

 

「うん、いい月だ」

 

そう言いながら男は苦笑し、

 

「けど、今日という日には合わないな」

 

何事もなかったかのように夜の街へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

「リリアン女学園?」

 

「そ。今回の依頼はそこからよ。」

 

都内にあるどこにでもあるビルの一角、『村上かなえ探偵事務所』と札の下げられたオフィスでそのやり取りはされている。

 

一方は肩まで伸ばされたストレートヘアに、ビジネススーツに身を包んだ、凛とした雰囲気を持つ女性。

10人の男性に聞けば10人とも「きれい」と答えるだろう。

 

対するは短髪で、ポロシャツにジーンズというラフな格好をした青年だ。

体つきがしっかりしている以外は、とりわけこれといった特徴はない。

 

「で、何なんです?その依頼内容ってのは?」

 

青年、田中将太はソファの上でくつろぎながら興味なさげに聞く。

 

「護衛よ。ご・え・い」

 

はい、これ。と一枚のコピー用紙とクリップで留められた資料を渡した。

 

コピー用紙には

 

『リリアンに咲く薔薇、つぼみの命を頂きます』

 

と書かれていた。

 

「脅迫状ですか・・・。犯人の意図がさっぱりですね。悪戯か何かでは?」

 

「その可能性も考えられるわ。けど鍵のかかった理事長室にそれがあったのよ。

外部からのセキュリティは万全らしいわ。それが当てになってないということは・・・」

 

「学園内の関係者、もしくはそのセキュリティをかいくぐれるほどの実力者ですか」

 

「その通り」

 

かなえは満足そうに頷く。

 

「で、誰が行くんです?」

 

コーヒーを飲みながら将太は資料に目を通していく。

 

「あなたよ」

 

「ブフッッ!?」

 

口の中にあったコーヒーを一斉に吹き出した。

 

「あ、汚―い。」

 

「あなたが驚かすからでしょうが!

だいたい女学園にどうして俺が行けるんですか?俺のほうが怪しいでしょうが!」

 

将太は吹き出したコーヒーを拭きながら反論する。

 

「それがなんとかなるのよ。その薔薇の中に小笠原さんのお孫さんがいるのよね。」

 

してやったり、という顔でかなえは答える。

 

「え、あのはっちゃけじいさんの?」

 

「そ。学園の理事長が小笠原さんに相談したら、優秀な人物知ってるってこっちに連絡がきたのよ。

なんでも教師って設定らしいわよ、臨時教師。住む部屋も用意してくださるそうだし。必要経費も向こう持ち。

というわけでいってらっしゃいな」

 

にこやかにかなえは言うが、かなりむちゃくちゃな条件だ。これで食い下がる将太ではない。

 

「だからなんで俺なんです?!かなえさんや、それに兄さんがいるじゃないですか!」

 

「私は事務所の仕事があるから無理だし、それに」

 

さも当然のように、かなえは

 

「和明も駄目よ。私の和明に変な虫がついたら困るもの」

 

とのたまった。

 

 

 

 

数十分後・・・

 

「はぁ〜。わかりましたよ。行きますよ、はい」

 

将太はため息をつきながら降参した。

 

「よし、それじゃ2日後にリリアンに向かってね。ちなみに護衛対象の娘達には秘密になってるから。ばれないように。

それに相手の出方がわからない以上、長期ってことになるだろうから。ま、頼むわよ将太センセー。」

 

「はいはい。ま、この『穴だらけ』の脅迫状の意図はわかりませんが、これだけのお嬢様学校だ、面倒くさいことになりそうですね・・・」

 

この前依頼を終わらせたばっかなのに・・・、とぶつくさつぶやきながら、話はこれまでとばかりに将太はソファから立ち上がり、かなえに向き直り正対する。

 

目を閉じたっぷり5秒おいた後、将太はかなえを見据えて言う。

 

「それでは田中将太、依頼を遂行して参ります」

 

このセリフは、将太が正式に依頼を受けたということだ。

いくらかなえでも、本当にやる気のない人に依頼を押し付けたりはしない。

命の危険があるし、ましてや護衛だ。中途半端な気持ちでは注意が散漫になり、護衛対象を守りきれなくなってしまう。それは信頼の問題にもかかわってくる。

そうしたことを踏まえて将太は受けると言った。

ならばそれだけの覚悟があるということだ。

それがわかっているから、万感の信頼をこめてかなえはいつも通りの言葉で返す。

 

「ええ、任せたわ」

 

将太は軽い笑みを浮かべた後、事務所を後にした。

 

 

 

 

「さて、ここからは私の仕事ね」

 

一人になったオフィスで、かなえはひとりごちる。

確かに今回は不審な点が多々ある。とてもただの脅迫とは思えない。

学園関係によるものか、はたまた個人的恨みなのか、もしくはまったく別の何かか・・・。

考えればキリがない。

だが、将太は現場で頑張ってくれる。なら私はここで頑張るだけだ。

 

「さて、それじゃまずは学園関係から調べてみますか」

 

かなえは「よしっ」と気合を入れると、パソコンとその隣にある膨大な資料に向かっていくのだった。





ペンさん、投稿ありがとうございます。
美姫 「ございまーす」
マリみてとオリジナル〜。
美姫 「どうやら、狙われている薔薇たち」
一体全体、何が起ころうと言うのか!?
美姫 「ってな感じで、次回も楽しみにしてますね」
どうなるのかな〜。
次回も待ってます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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