なのは's Monologue

え〜、高町なのはです。
とある事情で並行世界に飛ばされ、今はその世界の高町家に居ます。
もう一人の自分とその兄と出会ったときは驚きましたが……
そして、現在私はというと、私と共に転移したロストロギア-ヴォルクルス-の探索を並行世界の兄・恭也君と一緒に探している最中。
……なのですが、今私は高町家の食卓にて修羅場(質問攻め)の最中だったりしています。

魔法少女リリカルなのは
−White Angel & Black Swordmaster−

Act:03「事態は突然にやってくる、なの」

なのは's View

縁側で休んでいた私は、なのはちゃんの声を聞いて食卓にやってきました。
そこには、恭也君となのはちゃんの他に、桃子さん、美由希さん、フィアッセさん、晶ちゃん、レンちゃんが既にいます。
美由希さんと初めて会ったときは、それはもうパニックになりましたが……

「きょっ、恭ちゃんが女の子を連れて来たぁぁぁぁあ!!」

と大声で騒ぎ、恭也君に制裁くらって倒れてたんだけど……
こっちのお姉ちゃん・美由希さんは学習能力が無いのか、恭也君に小言言うたびに制裁を食らっています。
というか、私となのはちゃんが似ている事よりも、恭也君が女性を連れてくる事に驚くなんて思ってもいなかったのですが。
まぁ、晶ちゃんもレンちゃんも驚いてはいましたが……
桃子さんとフィアッセさんは、今が初顔合わせです。
連絡自体はなのはちゃんがやってくれたみたいなので、それほど大騒ぎににはなってませんが……

「え〜と、初めまして。
 御神菜乃葉っていいます」

「あっ、あなたが菜乃葉ちゃんね。
 うちのなのはがいっていた娘は……
 初めまして、高町桃子です。
 よろしくね」

「私は、フィアッセ。
 フィアッセ・クリステラ、よろしくね〜。
 現在、歌手を休業中で翠屋のチーフウェイトレスをやってるの」

「よろしくお願いします、桃子さん、フィアッセさん」

初対面同士挨拶します。
それにしても、こちらの世界のお母さん・桃子さんも若く見えるなぁ。
年齢的には8歳ずれているだけなのに、33歳には見えない。
それにスタイルもいいしなぁ。
そんなことを考える私でした。

「あ〜、菜乃葉ちゃん。
 そこの席にすわってね。」

「あっ、はい。
 わかりました」

私は、桃子さんに指定された席に座りました。
そして、皆が席に座ったのを確認して、桃子さんが音頭を取り食事が始まりました。
私は、一口おかずを口にしたんですが……

「おっ、おいしいです」

なのはちゃんが昼前に言っていた料理の鉄人って言うのは、晶ちゃんとレンちゃんと桃子さんのことでした。
もっとも桃子さんは売り物を作っている手前美味しくて当然なんですが……
晶ちゃん、レンちゃんはまだ中学生なのにこの腕前。
ちょっと羨ましいです。

「えへへ、お口にあったようでなによりです」

そういって照れている晶ちゃん。
本日は和食がメインだということで晶ちゃんがメインみたい。

「おサルが柄にも無く照れてる」

「うるさいぞ、亀」

あらら、晶ちゃんとレンちゃんはなんか戦闘形態に入っています。
二人とも動き出そうとした瞬間、なのはちゃんの席から音が聞こえました。

「晶ちゃん、レンちゃん……」

「なっ、なのちゃん、これはその……」

「ちゃうんや、喧嘩とはちゃうんや……」

そういって慌てて席に座る二人。
二人の姿を見届けたなのはちゃんはと言うと、満面な笑みを浮かべて再び食事を始めました。
う〜む、なのはちゃんて怒らせるとかなり怖いんだなと私は思うのでした。

「ところで菜乃葉ちゃん」

「なんでしょう、桃子さん?」

なんか嫌な予感がしつつも、私は桃子さんに対応します。

「うちの恭也とどういう関係なの?」

「えっ、え〜と、親戚だと説明されてたんじゃないんですか?」

「いやぁ、ただの親戚の割には、恭也はそわそわしてるし……
 初めて会うわりには、妙になのはと仲がいいしね」

うっ、桃子さん、妙に鋭いです。
なんて答えればいいんだろう……
思案してた私に恭也君はというと、助け舟どころか爆弾を投下しました。

「なに、許婚……」

「いっ、許婚ぇぇぇえ!?」

「きょっ、恭ちゃん!
 いっ、許婚ぇぇぇって!?」

「恭也、いつのまに!?」

「師匠!?」

「お師匠!?」

なのはちゃん以外全員は驚愕。
私も、唖然として声がだせないんですが……
その時、私の腕をつつくなのはちゃんに気づき振り向くと……

「ここからがおにーちゃんの真骨頂だから。
 菜乃おね〜ちゃんはおにーちゃんになるべく合わせてね」

そう、小声で話すなのはちゃんに私は頷くのでした。
つまり、恭也君のごまかしが始まっているということ。
ちょっと、複雑な感情を抱いたのはここだけの秘密だけど……

「おぃ、話を途中で遮るな。
 こっちはまだ話中だ」

「いや、だってぇ〜」

恭也君の小言にふてくされる美由希さん。
他のみんなも落ち着いた所で、再び恭也君が話し出しました。

「まぁ、なんていうか……
 もともと俺たちは、親戚のなかでは結構仲が良かったんでな。
 それに気づいたとーさんの奴が、俺と菜乃葉を許婚にしようと企んだわけだ」

「企んだってことは、その企みは成立しているの?」

「いや、事が露見し、美影さん……
 まぁ、俺のお婆さんでありとーさんの母にあたる人物が親父に制裁を加えて、その計画自体なかったことになってる」

「師匠、紛らわしいです!」

「お師匠、そいういことは先に言って下さい!」

「まったく、恭ちゃんは紛らわしいったらありゃしない」

そういってホッとする、美由希さんに晶ちゃん、レンちゃん。
私はというと恭也君の嘘に、ただただ頷くのみです。
桃子さんは、何故かため息をついています。
フィアッセさんは苦笑い。

「もう少しで、恭也の子供が拝めるとおもったんだけどなぁ」

「桃子、気が早いよぉ」

「ちょっと待て、高町母。
 何故いきなり子供まで飛ぶんだ?」

恭也君の憮然とした一言に、から笑いを浮かべてごまかす桃子さん。

「いや、だってぇ〜。
 恭也の子供、見たいし〜」

「かーさん、あんた年は幾つだ」

「恭也、女性に年齢は禁句よ」

あきれ返る恭也君に、憮然と反論する桃子さん。
確かに女性に年齢の話題は禁句なのはわかるのですが……
今回は恭也君に同意です。
明らかに子供っぽいし……

「仲が良かったわりには連絡はとってなかったのね」

フィアッセさんの疑問はもっともです。
その疑問にも恭也君は平然と答えました。

「御神宗家が襲われたテロ事件……
 彼女はそれに巻き込まれてるんだ」

「あっ」

恭也君のその一言でフィアッセさんは理解したようです。
桃子さん、美由希さんも同様に理解したようですが、晶ちゃん、レンちゃんは疑問顔。
恭也君は、そのまま続けます。

「もっとも、俺はというと……
 とーさんが路銀を使い果たしたおかげで命拾いしたわけなのだが……
 まあ、それは兎も角、現地に行ったときには跡形も無かったわけで、俺は亡くなったと判断してたわけだ」

「当時の状況だと、そう判断しても仕方ないとおもいます」

私も、恭也君の話に合わせます。

「だが、彼女の話だと、自分だけ運がよく助け出されたそうだ。
 もっとも、酷い怪我をしてたらしく半年ほど入院してたそうだがな」

「はい」

え〜と、確かに酷い怪我はしましたし半年ほど入院したのも事実ですが……
何故に恭也君は知っているのだろうか?
私、そのことに関しては話していないのに……
まぁ、無傷で助け出されたって事にしたら不信に思われるのはミエミエなんだけど。
そんな事を思いながら黙っていると、他のみんなは、そのまま恭也君の話に聞き入っています。
恭也君は、お茶を飲み一息いれてから再び話し出しました。

「まぁ、それで退院した時に親戚を探してたそうだが、当時美沙斗さんは行方不明。
 とーさんは書類上親戚と見なされなかった訳で、そのまま孤児院送りになったそうだ。
 それで、義務教育終了後、海外救助活動に参加してた訳なのだが、親戚が生きていると聞きつけ戻ってきたと言うことだ」

どうやら恭也君、時空管理局の仕事を海外救助活動に置き換えたみたいです。
それから、恭也くんが私にアイコンタクトをしてきました。
私は、恭也君の意思を読みそのまま続けます。

「それで、戻ってきたのは良いんですが……
 情けないことに路銀を使い果たしまして、彷徨ってた所に恭也君となのはちゃんに出会ったわけです」

恭也君と私の嘘丸出しな話を皆は納得してくれたみたいですが、桃子さんは何故か不満顔。
桃子さんの表情に疑問を持った恭也君は、桃子さんにたずねます。

「かーさん、何が不満なんだ」

「いやねぇ、恭也が菜乃葉ちゃんの事をどう思ってるかって聞きたかったんだけど?
 まぁ、菜乃葉ちゃんが辛い体験をしてきたのは分かったけどね」

「うぐっ」

桃子さんの発言に喉を詰まらせる恭也君。
私も頬を染めて驚いています。
桃子さんはと言うと、完全にお祭りモードに入っています。
それに気づいた恭也君は、さらに憮然とした表情で答えました。
……すこし表情が赤くなってましたが。

「だから、さっきも言った。
 結構仲が良かった親戚だと」

「むぅ、恭也に聞いても無駄なようね。
 まったく、昔に比べて無愛想は直ってきたけど鈍感と朴念仁な所は相変わらずねぇ」

そういってため息をつく桃子さん。
だけど、その後に私に話題をふってきました。
何かを企んだよな笑みを浮かべて……

「ねぇ、菜乃葉ちゃん?」

「はっ、はい」

「菜乃葉ちゃんは、恭也の事……
 どう思っているのかなぁ?」

どう思っていると言われても……
出会って数時間しか立ってない訳だし、答えられないよ。

「えっ、え〜と……
 どうって言われましても……
 優しい人だなとしか……」

そう言いながら私は顔が赤くなるのを自覚しました。
これは完全に拷問です。
そんな私を見かねたなのはちゃんがフォローを入れてくれました。

「おか〜さん!!
 あんまり菜乃おね〜ちゃんを困らせちゃだめだよ!!」

「なっ、なのは!
 う〜、だって〜!!」

「だってもへったくれもありません!!
 大体、菜乃おね〜ちゃんは帰国したばっかなんですから!!」

「あぅ、なのはに説教された……」

なのはちゃんの説教に真っ白になった桃子さん。
なのはちゃんありがとうと心の中で言います。

「まったく、人騒がせな親だ。
 菜乃葉、不愉快な思いをさせて済まんな」

「あっ、ううん。
 気にしないで」

恭也君に謝られた私ですが、恭也君が悪いわけじゃないので……
諸悪の根源は桃子さんなわけですから。
それにしても、この家のヒエラルキーのトップはなのはちゃんで決定なのかな?

「まぁ、桃子はなのなに頭上がらないからね」

「恭ちゃんも、なのはにはあまいよ。
 そのあまさを私に欲しいくらい……」

「お前は下らん事を言うからだ。
 ついでに、今日の鍛錬は覚えておけ……」

「あぅ」

フィアッセさんの一言で、なのはちゃんがヒエラルキーのトップは確定みたい。
それに便乗した美由希さんでしたが、恭也君にあっさり撃墜され、桃子さん同様真っ白。
蚊帳の外状態になっていた料理人二人は黙々と食事をしていました。
巻き込まれたらたまらんって言うような表情をして。

「あっ、菜乃葉さん。
 お変わりいります?」

「うん、じゃぁ、少しだけもらえるかな?」

断るのもあれなので、晶ちゃんにお変わりをもらう事にしました。
先程の模擬戦でも結構消費しているからってのもありますが、美味しい食事は久しぶりなもので自然に進みます。
ここ最近は忙しくて局の食堂ばっかでしたし……

「菜乃おね〜ちゃん、楽しんでる?」

「うん」

「そう、よかった」

なのはちゃんの質問に、微笑みつきで返答する私。
なのはちゃんが言うには、なのはちゃんと恭也君は半分・父親の血しか繋がっていない。
さらに、美由希さんは実は従妹なのだそうです。
そして、居候組みのフィアッセさんに、晶ちゃん、レンちゃん……
それでも、この家では家族として成り立っているようで凄い事だなと思う。
そう、血のつながりなんかよりも強い結びつきが出来てる家族……
私の家族はどうだったかというと、お父さんとお母さんは万年新婚カップルを見せ付けてくれるし、お兄ちゃんもお姉ちゃんも仲が良かった。
確かに家族は私によくしてくれたと思うけど……
幼い頃の経験はいまだ私の心に闇を作っています。

「ところで菜乃葉?」

「えっと、フィアッセさん。
 なんでしょう?」

そんな風に考えてたとき、不意にフィアッセさんが話してきたので合わせます。

「う〜ん、よくみるとね……
 なのはに似ているなと思って」

「あはははは、偶然ですよ」

まぁ、別世界の自分ですから似てて当然なんですが……

「あっ、俺もおもってた」

「ウチも。
 それに、なのちゃんとも親しいし」

「なのはちゃんとは、出会って直ぐに意気投合しちゃいましたし」

「うん!」

晶ちゃんもレンちゃんもフィアッセさんと同じ事を思っていたみたい。
まぁ、なのはちゃんとは同じ自分って事もあるんだろうけど、直ぐに意気投合しちゃったし。
今まで読んだことがる話だと、同じ自分を嫌う可能性もあったわけで……
そういう風にならなかったのは、たぶんなのはちゃんの性格が良かったからだと思う。

「それに、菜乃おね〜ちゃんみたいな"まとも"なおね〜ちゃんが欲しかったし」

なのはちゃんの爆弾発言に高町家仮想4人の姉は絶句……
あっ、一人はまだ真っ白になったまま帰っていないから3人かな。
そんな彼女たちを気にすることも無く、話を続けるなのはちゃん。

「だって、フィアッセさんはやさしいし、英語の講師もしてくれるけど……」

「けど?」

「ティオレさんやおにーちゃんと一緒にいたずらしてくるし……」

「あははは……
 せめて、スキンシップって言って欲しいなぁ」

なのはちゃんの告白にフィアッセさんは苦笑してました。
まぁ、でもなのはちゃんにとって姉として一番慕っているのはフィアッセさんなのかも。
それに、話している割には嫌そうな顔はしていなしね、なのはちゃんは。

「それで、おね〜ちゃんはと言うと、おっちょこちょいだし料理最悪だし……」

「事実だからねぇ」

「それ同感」

「まったくだ」

「それ納得」

「まぁ、美由希ちゃんだしなぁ」

なのはちゃんによる美由希さんの評価に当の本人を放っておいてみんな納得してます。
何気に一番酷い扱いだよね……
と言うか、桃子さんも恭也君も肯定しています。
当の本人は……

「うぅ、ここの住人は人でなしばっかだよぉ」

何かうめき声を上げながら涙を流していました。

「酷いのは、お前の料理だ」

恭也君の酷い一言にみんなはうなずくのみ。
というより、誰一人否定する人はいないんですね。
美由希さんは、完全に魂が抜けていました。

「それから、晶ちゃんとレンちゃんはしょっちゅう喧嘩するから」

「それは、この亀が……」

「いや、このおサルが……」

「二人とも……」

「はい」

「はい」

なのはちゃんに指摘された晶ちゃんとレンちゃんは言い訳をしようとしてましたが、なのはちゃんの圧力により反論することもなく黄昏ています。
まぁ、側から見ればなのはちゃんの方が年上にしか見えない光景です。

「まぁ、精神年齢だけで言えばフィアッセの次に来るからな、なのはは」

「う〜ん、否定はできないわね」

恭也君の一言に苦笑して肯定するフィアッセさん。

「だけど、菜乃葉ちゃんも家の家族になると次女確定ね」

「うん、おね〜ちゃんより菜乃おね〜ちゃんの方がしっかりしているもん」

桃子さんの言葉に嬉しそうに肯定するなのはちゃん。
って、今なんておっしゃいました?
私も家族って……
私の頭の中はぐるぐる回っています。

「菜乃葉ちゃん」

「はい」

桃子さんの真剣な目つきをして聞いてきたので、こんがりながらも合わせました。

「菜乃葉ちゃんがどう思うかはわからないけど……
 私はあなたを家族だと認めるわ。
 ううん、私だけじゃない、ここのみんなも」

「えっ、でも……」

いきなり桃子さんから言われたことに、私自身戸惑っています。

「まぁ、ここの家は複雑だし、居候も多いけど……
 全てを含めて家族だと私は認識しているつもりよ。
 それに、なのはがここまで懐くのも珍しいしね」

私はというと、桃子さんの真剣な目つきに囚われて聞き入ってました。

「だから、気兼ねなく頼りにしてね」

「あっ、ありがとうございます」

桃子さんはそういって微笑むのでした。
そんな桃子さんの心遣いに私は感謝していたのですが……
とたんに桃子さんは何かを企んだよな表情をしました。
私の頭の中では、明らかに危険信号が灯っています。

「まぁ、恭也とくっついたら正真正銘の家族になるんだけどね」

まったくこの人は、何を考えているんだろうか?
まぁ、恭也君のことはどちらかと言うと気になっているのは事実ですが……
私の気持ちも知らずに桃子さんは話を続けます。

「でも、現状で恭也のハートを射止めそうなのは、那美ちゃんだね」

「そうだね。
 おにーちゃん、那美さんだけ妙に優しいしね」

「こらこら、勝手に決めるな。
 大体、こんな俺を神咲さんが好きになるわけないだろ」

桃子さんの話になのはちゃんも乗ってきます。
まぁ、私も他人の恋愛には興味はありますが……
そして恭也君はというと、憮然として二人に話します。

「あ〜、もう。
 家の息子は、こうも鈍感なのよ〜」

「何気に失礼な事を言われているような気がするが?
 大体、神咲さんは俺にとって命の恩人だ。
 その恩人に対してやさしくするのは当たり前だろ?」

桃子さんの一言に、呆れながらも答える恭也君。
なのはちゃんはというと、完全に苦笑しています。
神咲那美さん……
久遠ちゃんの飼い主であり霊媒師ってのは恭也君となのはちゃんから聞いていますが……
恭也君にとって、本当に命の恩人だけなのかな?
って、なんで私、こんなことを考えているの?
何故かは分からないのですが、妙な気分を感じながら私は食事を終えるのでした。



恭也' View

俺は食事を終えた後、自室にて休憩及び夜の鍛錬の準備を行なっていた。
まぁ、詳しい話を菜乃葉から聞くことも考えたのだが、家族が俺と菜乃葉の関係に興味津々で下手に一緒にいると危険だと判断した俺たちは現在個別行動になっている。
菜乃葉の方はというと、なのはがべったりな事もあり一緒に行動している。
本当に、仲の良い姉妹にしか見えん。
俺はそんな事を思いながら、愛刀『八景』の手入れをする。
二刀目の手入れが終わる頃、周りの空気が変わった。
そして、ドカドカと家の中を走ってくる音がする。
この音と気配だと美由希に間違いない。
そんなことは露知らず、美由希は俺の部屋の扉を勢いよく開けた。

「なんだ騒々しい……
 家の中を走るなって言われてるだろうが」

「うっ、ゴメン、恭ちゃん……
 じゃっ、なくて、大変だよ恭ちゃん!
 ちょっとリビングに来て!!」

美由希のただならぬ雰囲気に、俺は真面目に聞く。

「何が起きたんだ?」

「口で説明するよりも、テレビを見たほうが早いから来てよ」

そう催促する美由希に閉口しながらも、俺は部屋出ようとした。
とたんに俺の携帯電話がなる。
電話番号を確認すると、俺の知っている人物であるリスティという人の名がディスプレイに表示されていた。

「もしもし、高町です」

『ハイ、恭也!
 元気してるかい?』

「ええ、おかげさまで。
 妹さんのマッサージもいい具合に効いていますから」

リスティさんの声を聞きながら、俺はリビングに向かっていた。
フィリスが聞いたら喜ぶぞってリスティさんはからかってくるが、不意にリスティさんが真面目モードになる。

『流石に時間が欲しいから単刀直入に言う。
 力を貸して欲しい』

リスティさんの一言に何かが起こっていることを認識した。
何時ものごとく荒事が発生したのだろう。

「荒事ですね?」

『正直に言うとそうだ……
 といっても、今までの依頼とは明らかに別物であるが』

どういうとこだと聞こうとしたが、リビングに着いた俺はテレビの光景に絶句し、そして納得した。
海鳴市周辺に突如発生した化け物。
その化け物たちは所構わず破壊活動を開始していた……
と、ニュースに流れて放送されていた。

「……その依頼、化け物退治ですね」

『ご名答、よくわかったな?』

「今、テレビを見たらそのニュースがかかっていたわけでして……」

『じゃっ、説明は不要だね。
 こっちも人数動かしているけど数が数だからってのもあるし、君や妹さんの戦闘力は知っているからね』

リスティさんとは、半年前に起きたチャリティーコンサートの時からの付き合いになる。
俺と美由希は実戦も兼ねてリスティさんの仕事に協力していた。
そういうこともあって、リスティさんは俺たちの戦闘力を知っている。

「……で、俺たちはどこに行けば良いですか?」

『海鳴駅前と八束神社の方をお願い。
 特に八束神社には、今那美がいるはずだから、あの子の救出もお願いする。
 臨海公園と大学病院はこちらで何とかする』

「了解しました」

『頼むよ』

そういってリスティさんは電話を切った。
俺はというと、電話を切りしだい美由希に指示をだした。

「美由希、お前は八束神社に向かってくれ。
 リスティさんの話だと、神咲さんが居るはずだ。
 まぁ、久遠がいるからよほどの事が無い限り大丈夫だと思うが……」

「恭ちゃんは?」

「俺はリスティさんの頼みにより、駅前へ向かう。
 晶、レン……
 家は頼むぞ」

「師匠、お任せを!」

「お師匠は自分の仕事に専念してくださいな」

「恭ちゃんも気をつけてね」

「うむ」

二人の意思を確認した俺は、戦闘の準備をする為に自分の部屋に戻った。
飛針と鋼糸をジャケットに格納し、愛刀を腰に二刀挿しし部屋を出ようとした。
その時気配を感じ、俺が扉の方に振り向いたのと同時に菜乃葉が部屋にやってきた。

「菜乃葉か?」

「うん……
 って、どうしてわかったの?」

「気配を感じた」

俺の答えに菜乃葉は苦笑し、直ぐに真剣な表情に変わる。
異変に気づいた俺は、菜乃葉に確認する。

「何か、感じたのか?」

「うん、現地へ行ってみないと確証は取れないけど、たぶん魔法絡みの事件だと思う」

俺が人を気配で感じるのと同様、菜乃葉は魔力を感じることができる。
そのなのはが感じたって事は、おそらくそうなのだろう。

「お前が先程というより出会った時に言っていたヴォルクルスではないんだな?」

「うん。
 テレビで見てたけど、大きさも数も違ってるからヴォルクルスでは無いのは確かなんだけど……」

「関わりがある可能性は否定できんと言うことか?」

「うん」

話を聞いたのとテレビで見たのでは姿形が明らかに違っていたし、なにより数が違う。
漫画に出てくる泥人形……
ゲーム好きの3姉妹曰く、ゴーレムだそうだが……
それが海鳴市臨海公園、海鳴大学病院、海鳴駅前、八束神社の4箇所で大量に現れた。
何かが起きる前兆でなければよいのだが……

「単刀直入に聞くが、俺の戦闘力はあの泥人形に通用すると思うか」

「うん、あれだけの大きさなら問題ないよ。
 問題があるとすれば、数に対して……」

「体力が持つかどうか、だな」

「うん」

そういって頷く菜乃葉に俺はホッとする。
俺が通用すると言うことは、美由希も通用すると言うことだ。

「その様子だと、恭也君自身よりも美由希さんの方が通用するか確認したかったみたいだね」

「むっ、わかるのか?」

「ううん、なんとなくそう思っただけ」

そういって微笑みだす菜乃葉。
なんか心が読まれていて妙な気分だ。
だが、あんまり時間も無いので俺は出発することにする。

「……菜乃葉も来るか?」

「えっ、いいの?」

俺の言葉に驚く菜乃葉。
どうやら、俺が止めるとでも思ってたみたいだ。

「どうせ来るなっと言っても、飛び出すつもりだろ?」

「あぅ、ばれてる」

こういう所も、本当になのはとそっくりだ。
だが俺は、先程の模擬戦で菜乃葉の実力を知っている。
さらに言うと、魔力を感じた菜乃葉を家にいさせるよりも一緒に行動した方が得だと俺は判断した。

「おまえ自身が感じたんだ、俺に止める筋合いは無い。
 それに、先程の模擬戦である程度実力は知っているからな」

「うん、そうだね」

俺の言葉に、素直に頷く菜乃葉。
問題があるとすれば、菜乃葉の実力を知らない家族をどう誤魔化すかなんだが……

「……家族に対する説明はお前自身が考えろよ。
 流石に能力までは説明できん」

「え〜と……
 フォローを入れてくれると私としては嬉しいかなぁ」

「……善処する」

まぁ、菜乃葉については古武術を嗜んでいたということで誤魔化したが……
美由希が駄々を捏ねたが、制裁を加えると脅し突っぱねることに成功。
そうして俺たちは家を出て、海鳴駅前に向かった。



なのは's View

現在、私と恭也君は化け物が発生した海鳴駅前に向かっています。
流石に、化け物と連呼する訳にもいかず、私たちは仮称として-ゴーレム-と名づけましたが……
そのゴーレムを退治しに行く途中なわけです。
ちょうど、二人きりになっていたので食事の時に気になった事を恭也君に聞いてみました。

「ねぇ、恭也君?」

「なんだ?」

走りながらもたずね返す恭也君。

「私が怪我をしてたって、どうして分かったの?」

私の言葉を聞いた恭也君はというと、一瞬キョトンとしましたが納得した表情で答えました。

「先程の模擬戦でのことだが……」

「模擬戦?」

「ああ、そうだ。
 その時、お前が攻撃する時にも身体を庇っていたぞ」

「!!」

恭也君が、先程の模擬戦でそこまで私の事を見抜いていたとは思ってもみませんでした。
近接戦闘だけなら、フェイトちゃんやシグナムさんと結構やっていたのですが、二人は気づいていなかったような気がする。
というか、私自身そんな癖がついていたとは思ってもいなかったんだけど……

「……やはりな。
 その様子だと気づいていなかったか」

そういって苦笑する恭也君。

「まぁ、俺も人の事は言えないんだけどな」

「えっ、どういうこと?」

恭也君の言葉に興味を持った私は聞き返していました。

「俺自身、交通事故に遭ったことがあってな……
 その時の怪我で一番酷い箇所が右膝だったんだ」

恭也君の独白に私は聞き入っていました。

「それで回復したのは良いんだが……
 半年前のチャリティーコンサートでの戦闘で敵対した人に指摘されたんだ、右膝を庇ってるってな」

恭也君が私の癖に気づいたのは自身の経験から判断していたんだ。
その時、私は不覚にも妙に親近感が沸くのを感じていました。

「だから、お前の癖に気づいた俺は、昔、大怪我を負ったことがあるんではないかと予想したわけだ。
 もっとも、治療にかかった日数とかは完全に出鱈目だけどな」

「そっか」

「それに、無傷で助け出されたって言ったら、それこそ不信な目で見られるのがオチだしな」

「あはははは、そうだね」

確かに、あの誤魔化し話で無傷だったら可笑しいよね。
私たちは互いに苦笑していました。
不意に恭也君は真剣な表情をして聞いてきました。

「一つ確認したい」

「うん、いいよ?」

「お前がどういった理由で大怪我を負ったかはあえて聞かない。
 だが、その怪我は既に完治しているのか?」

恭也君の質問に、私はどう答えようかと迷いました。
みんなには心配かけたくないので完治しているって嘘を言っていましたが……
けど、恭也君にだけは隠したくないとも思ったのでありのまま答えました。

「……完治しているかって聞かれたら、完治はしているよ。
 でも、再び同じ怪我をしたら……」

「そうか」

恭也君は、私の話を途中で遮り、それ以上何も言うなと言わんばかりに話を終わらせました。

「……後で、腕のいい治癒能力者を紹介してやる」

「えっ、それってどういう意味?」

恭也君が何を言っているのかが分からない私は聞き返しました。
恭也君はと言うと、そんな私に苦笑して話を続けました。

「何、この世界には魔法と似たような力を持つものがいるって言っただろ?」

「うん、聞いた」

それは初めて会ったときに聞いた話。
私自身は話半分で聞いていたんだけど、実はフィアッセさんがその力を持っている人の一人だったわけで……
不思議な世界だなと思っていたんだけど。

「その中に、怪我が無かったことに出来る能力を持った人間がいるんだ」

「そんな都合がいいことが出来るの」

そんなご都合主義が出来るとは信じられないんですが……
ただでさえ治療魔法が発達しているミッドでの治療でも無理だって言われたのに……

「大怪我を負った状態でそれをやると、治療を行なっている人の体力の消耗は激しいんだが……
 お前の場合ほぼ完治している状態だからな」

そういって苦笑する恭也君。
つまり、その治療の代価は治療を行なう人の体力みたいで……
なんかその人に悪いような気もするんですが……

「なんせ、俺が体験済みだからな」

つまり恭也君自身が経験者な訳でして、その治癒能力持ちな方は恭也君の知りあり……
って、まさか!?

「恭也君、もしかして……
 その能力を持っている人って、命の恩人って言ってた……」

「ああ、神咲那美さんだ」

恭也君の話を聞きながら、ふと私は思いました。
こちらの恭也君の周りには普通な方が少ないのだろうか?
まぁ、私のお父さんやお兄ちゃん、お姉ちゃんも一般人かと聞かれたら疑問に思う部分は無きにしも非ずなんですけどね。
でも恭也君の周りだと、恭也君と美由希さんは一般人以上の戦闘能力持ちだし、晶ちゃんやレンちゃんも恭也君たち程ではなくてもやはり一般人よりも強いし……
フィアッセさんはHGS能力持ち……
もっとも、フィアッセさん曰く身体を痛めるためあまり能力は使えないそうですが……
そして、こちらの世界の忍さんはと言うと-夜の一族-って言う種族らしいですし……
聞くところによると、性格もアレみたいですけど。
さらに、那美さんは霊能力者であり治癒能力者……
最後に、覚醒はしていないけどなのはちゃんも魔法使いの片鱗はあるわけだし……
ここの高町家は、一種の特異点なのかもしれません。
でも、恭也君が経験者なら治るのは確かなんだろうなと考えていながら走っていたわけです。
ある程度駅に近づいたところで、恭也君の雰囲気が変わります。
同時に私の目つきも変わります。

「なのは、ゴーレムたちは俺が引き付ける」

「うん、私は上空から援護するね」

「頼むぞ」

恭也君は言うと同時に、ゴーレムたちに向かって突撃を行ないました。
私は、バリアジャケットを身にまとい上空から恭也君を援護します。
この程度の数なら普段は私一人で問題は無いんですけど、現状カートリッジの残りが4マガジン24発……
アースラとの合流が現時点では無理だし、何時合流できるかも分からない現状対ヴォルクルスの為にも消費は抑えるべき。
そのことも恭也君は認識していてくれているので、ゴーレムたちの相手は恭也君に任せて私はフォローに徹することにしました。
この戦いが長い夜の幕開けになるとは、この時恭也君も私も思ってはいませんでした。



恭也' View

海鳴駅前に発生したゴーレムの退治の為に来た俺となのはは現在戦闘を開始している。
その数、約100体……
だが、その大きさに比例して動きは遅い分、こちらに速さでは分があるのは確かだ。
しかし俺の場合、対人戦闘以外だと月村を襲撃して来た自動人形かノエルとの模擬戦ぐらいしかない。
そう思いながらもゴーレムたちの腕を斬りおとしていったが、ゴーレムたちは痛覚が無いのか止まらずに破壊活動を行なっている。

「アレだけダメージを与えても行動は止まらないか……
 予想は出来た事だがな」

まぁ、ある程度は予測していた事でもあるからあまり驚かないが、早めに弱点を見つけないとジリ貧なのは確実だ。
不意に、なのはが精製した魔弾-アクセルシューター-がゴーレムの頭上……
額部分の赤く光っている宝石に直撃。
直撃を受けたゴーレムは砂のように崩れだした。

「あそこが弱点だな?」

『うん、そうみたいだね』

俺の質問に、携帯電話からなのはの答えが届いた。
なのはが言うには魔導師どうしなら「念話」という一種のテレパシーで会話ができるそうだが、あいにく俺は魔法が使えない。
その為、上空にいる場合、会話が出来ない事を懸念したなのはが俺の携帯に細工を施してくれた。
おかげで、戦いながらもお互いの状況が分かるようになっている。
そして俺はゴーレムの額にある赤く光る宝石だけを狙うように行動する。
一体、二体、三体……
次々に砂の山になるゴーレムたちの成れの果てを無視し、俺は新たな標的を探す。
なのはの方も上空からの魔弾操作で次々に砂の山を築いていった。
本来は、結界を張った上で結界内で大技を叩き込めば直ぐに済む話らしいのだが、現状なのはは広域結界を張れないそうだ。
その上で大技を放つと、周りの建物に被害が出てしまうので使用出来ない。
その為、俺が矢面に立ってゴーレムたちの撃破を行なっている。
もっとも、上空に対し攻撃手段が無いゴーレムたちは、自然に俺を標的にしているが……
そして、あらかた片付けた俺は、上空に陣取り状況把握を行なっているなのはに確認した。

「なのは、残りは?」

『魔力反応だと40体だね……
 恭也君、身体は大丈夫?』

「あぁ、問題ない」

なのはの気配りには感謝するが、実際に俺は無傷である。
まぁ、体力は流石に消耗しているが……
だが、神速を使用することも無い現状それ程負担はかかっていない。

「なのは、お前の方は?」

『う〜ん、恭也君が矢面に立っていてくれるおかげで全然平気だよ』

「そうか」

その様子だと、なのはの方もあまり負担はかかっていないようだ。
まぁ、あいつの場合、無理してても無理していないと答えそうだが……
だが、今の発音の強さから言っても無理はしていないのは判断出来たのでよしとする。
そして、残り40体。

『屋内の方にも何体か入り込んでるから、そちらをお願い出来るかな?』

「了解した、任せておけ」

『うん』

上空から状況を把握しながら魔弾を正確に操作するなのはだが、流石に屋内に入り込んだ奴を任せるには負担が大きすぎる。
最悪、ミスを起こして建物が崩壊しかねない状況である。
もっとも、現状でも建物が崩壊しそうにはなっているが……
よって俺は、なのはに屋外を任せて屋内に入り込んだゴーレムたちを撃破しにいく。
相変わらず、動きが遅いゴーレムだが屋外とは違い所構わず破壊し、破壊した物体の破片が俺に向かってくる。
俺は、襲ってくる破片を的確に回避しゴーレムに近づき撃破した。
屋内に入り込んでいたゴーレムを片付けた俺は、屋外に出たとき周りの気配が変わったのを確認した。
そして、なのはが魔法を放つときに現れる魔法陣と似たような物が上空に現れていた。
それも不気味な色で装飾された魔法陣が……

「なっ、なんだあれは?」

俺は完全に驚愕していた。
今まで感じたことが無いくらいの悪寒が走る。
そう、美沙斗さんと敵対した時に走った悪寒以上の物を俺はあの魔法陣から感じていた。
不意に屋外にまだ残っていたゴーレムが俺を襲ってきた。
俺は、魔法陣に意識を残しつつもゴーレムからの攻撃を避け、返り討ちにする。

「なのは!?
 状況は?」

俺の言葉に反応しない。
慌てて俺は上空を見た。
なのははというと、魔法陣を直視して固まっている。
取り合えずなのはの無事を確認した俺は、なのはを覚醒させる。

「なのは!!」

『にゃっ、にゃっ!
 ビックリしたぁ』

「……「ビックリしたぁ」じゃないだろ。
 完全に攻撃の的になっていたぞ」

『ご、ゴメン、恭也君』

現場の雰囲気に場違いな対応をしたなのはを呆れながら俺は注意しておく。
まぁ、なのはの気持ちも分からない事は無いが……
というより、俺自身があれほどの悪寒を感じているということは、魔力を感じる事の出来るなのははそれ以上のプレッシャーを受けていたわけで……

「……大丈夫か?」

『うん、大丈夫……
 心配かけてゴメンね』

「いや、お前が無事ならそれでいい……
 それより何か感じたのか?」

無事が確認出来たのでよしとする。
そして、状況を確認しようとしてなのはに声をかけたが、俺の言葉に反応したなのははというと魔法陣を睨みつけ話し出した。

『うん、忘れたくても忘れられない魔力……
 私がこの世界に来る事になったきっかけ……』

「あれが……
 ヴォルクルスが現れると言うのか……」

なのはの言葉に俺が相槌を打つのと同時に、魔法陣は輝きだし中央から赤い宝玉が現れた。
その宝玉は地面に向けて真っ逆さまに落ち、地面すれすれで浮遊。
それと同時に魔力の竜巻らしき物がその宝玉を取り囲み、その竜巻が消失した時……
ヴォルクルスは覚醒した。

「つっ、話には聞いていたが……
 何ていう大きさだ……」

爆風の衝撃を耐えながら細めで確認していた俺は、完全に呆れていた。
それと同時に地面が先程の禍々しい光で輝きだした。

『まさか、結界魔法!?』

「……どういうことだ?」

驚愕しているなのはに俺は確認をする。
なのはが言うには結界魔法をかける理由は建物の崩壊を防ぐのもあるが、本当の目的は敵の離脱の阻止。
その結界をヴォルクルスがかけたと言う事は……

『私たち、完全に閉じ込められたってこと』

つまり脱出不能って訳だ。
まぁ、ここまでの大きさだとは思わなかったが、かといって放って置くわけにはいかないのも事実だ。

『ご、ゴメンね、恭也君……』

「それ以上は言うな」

なのはが俺に対して巻き込んだことを謝ろうとしたが、俺は遮った。
謝って事態が好転する状況でもない。

「今は、現状を打破する事を考えろ」

『うん』

そう、俺は諦めない。
諦めることは出来ない。
何故なら、ここで諦めたら俺が護るべきものにも被害が出るから。
護るべきものの為に戦うことが、-御神流の理-だから。

「それに言ったはずだぞ。
 例えお前が断っても、俺は放っておかないと……」

『「-護るべきもの-がある限り、俺は戦う」……
 そう言ってたね』

「ああ、だから気にするな。
 俺自身が決めたことだからな」

『うん、ありがとう』

なのはの言葉に安堵らしき感情を感じられた。
だが、現状は悪化するばかりである。

「なのは、奴の状態は?」

『うん、私がこの世界に飛ばされる前には80%ぐらいまでダメージを蓄積してたけど……』

「自己修復能力である程度は回復していると見た方がいいってことだな?」

『うん。
 だけど、コアの部分の破損はまだ完全に修復できてないよ。
 ところどころに大きなヒビが入っているし……』

そういってヴォルクルスの状態を確認していた俺たちだが、不意にヴォルクルスからの砲撃を受ける。
紙一重でかわした俺だったが、その威力を垣間見て驚愕した。
模擬戦でなのはが使用したディバインバスターと同様の純魔力砲撃らしいが、地面に大きな穴を開けている。
話には聞いていたが、百聞は一見にしかずとは言ったものだ。
そして、その攻撃間隔はあまり無い。
なのはが相対した時は隙が無い状態だったらしいが……
そして、鞭になっている触手や鎌になっている腕が目の前を破壊しようと暴れている。
ところどころに傷があるのは、なのはがここに来る前に与えたダメージがいまだ修復されていないのだろう。
俺は砲撃の嵐を掻い潜り触手などを斬りおとした。
一本、二本、三本……
目の前の触手を何本かを斬りおとしたが埒が明かないので一旦離脱し態勢を立て直す。
なのはの方も砲撃の嵐を掻い潜り砲撃を行なっていたが、バリアに阻まれて有効なダメージを与えられていなかった。

「……どちらにしろ、あの砲撃とバリアをどうにかしないと無理だな」

『うん、そうなんだけど……』

現状は俺たちにとって明らかに不利。
この現状を打破するには、バリアと砲撃をどうにかしないとならない。
不意になのはが言っていたことを思い出し、問いただした。

「なのは、確認したいことがあるがいいか?」

『うん、何?』

ヴォルクルスの砲撃をかわしながら聞き返してくるなのは。
俺もまた回避行動に徹しながら話を続ける。

「赤い宝玉がコアで青い宝玉が補助って言ったよな?」

『うん、それは説明したけど?』

俺の意図に気づいていないなのはは聞き返してくる。
だが、現状を破るとしたらあの青い宝玉をどうにかして潰すしかないと俺は判断した。

「赤い方は多重バリアで固めてるって言ったが……」

『うん、それも言った』

「なら、青い方も多重バリアで固めているのか?」

『!!』

ようやく俺の意図に気づいたようだ。
驚いた声で聞き返してくるなのは。

『アレを破壊すると言うの?』

「俺たちがこの状態を打破する為にはあの青いのを破壊するべきだと思うが?」

『それは、そうなんだけど……
 でも、フェイトちゃんのスピードでもあそこの防衛網は突破できなかった……』

そう言いながらもヴォルクルスの攻撃を回避しながらも思案しているなのは。

『だけど、あの時は完全の状態だったわけだから今なら破壊できるかもしれないけど……』

「俺が神速を使用すれば問題無いだろ?」

先程のゴーレムの時も、今ヴォルクルスを相対している時も、まだ神速を使用していない。
体力の都合上、一回の戦闘で使用できる回数は制限されるが、今はまだ余裕がある。
なのはの方も思案していたようだが、覚悟は決まったのか作戦を伝えて来た。

『恭也君の事だから、無茶するなと言っても無茶するんだよね?』

「お前にだけは言われたくはないぞ?」

そう言って俺たちは軽口を叩く。
軽口を叩けるって事はまだ心に余裕があるって事だ。
そうやって笑いあった俺たちだが、共に真剣な表情になるのが分かった。

『でも、先程の模擬戦でも恭也君の戦闘力は分かっているし、恭也君が私以上に修羅場を潜り抜けて来たこともわかる。
 だから、私がバリアを破壊するから……』

「その隙をついて青い宝玉を破壊する」

『うん』

作戦は決まった。
なのはは俺を援護するために行動を開始する。
俺はなのはの期待に応えるため、ヴォルクルスの懐にめがけて突撃を開始した。



???'s View

我は虚空空間で彷徨っていた。
ヴォルクルスの反応を追っていた我は、不意に強大な魔力反応を見つけた。

『でかい魔力反応が3つあるにゃ』

『一つはヴォルクルスで確定ね。
 量産型-劣化コピー-だけど……』

確かに、この反応は量産型-劣化コピー-であり、我が反応したオリジナルでは無い。
だが、残り二つの魔力反応に我は興味を抱いた。

『残り二つの魔力反応のうち、一つは未覚醒状態のようだにゃ』

『もう一つは覚醒状態。
 二つとも容量自体は選定基準を満たしているにゃ』

我がサポート人格がそれぞれ反応を評価している。
その様子だと、我の主と為るべき器を持つものは珍しく複数いるということだ。

『後は相性の問題にゃんだけど……』

『まぁ、珍しくどちらも相性はよさそうだけど……
 覚醒している方よりも未覚醒の方がより相性はよさそうだにゃ。』

これもまた珍しい事だ。
我の属性は『風』。
我の属性と相性が良い者と出会うのはそうそう無い。
それも、複数いることに……

『問題は主とにゃるべき器の持ち主の性格にゃんだが』

『こればっかりは選んでみにゃければ始まらにゃいにゃ』

『まぁ、にゃるようににゃるだけね』

我の持ち主として相応しくない人格の持ち主なら、その身体を乗っ取り我が標的と戦うだけだ。
もっとも、我がそのような行動を起こしたことはあまりないが。

『でも、二つの魔力反応とも、劣化コピーと敵対していることから問題はにゃいんじゃにゃい?』

『そうだにゃ〜』

『ならば、向かうぞ。
 我の主と為るべき器の持ち主のところに』

『わかったにゃ』

『了解だにゃ』

そして我は、主と為るべき器の持ち主に出会う為に動き出した。



なのは's View

私はというと、今は上空から恭也君のサポートを行なっています。
現状、私と恭也君だけで出来る事と言えば、青い宝玉を破壊して隙を作ること。
完全状態の時で同じ作戦をやった場合、無茶を通り越して無謀な作戦だけど……
ダメージをかなり当てている現状だと無謀ではなく……
また、フェイトちゃんよりも早く動ける恭也君なら確実に懐に入りそれを破壊してくれると私は確信しています。
これが新人だったら絶対に止めているだろうし、それでも聞かないのなら問答無用で気絶させるんですが。
それに、模擬戦をして分かったことですが恭也君の状況判断能力は私よりも上ですし、空間把握能力も私と同レベルかそれ以上だと認識しています。
なので、私は躊躇無くこの作戦を立てました。
まぁ、お互い無茶する事には変わりないんですが……
ヴォルクルスの攻撃は相変わらず続いています。
私はその攻撃をよけながら恭也君の動きを追います。

「ディバインバスター!!」

私の一撃がヴォルクルスの左腰部に存在する青い宝玉を捕らえます。
食らう直前、ヴォルクルスがバリアを展開……
ディバインバスターの光が収束した時、ヴォルクルスのバリアは崩壊。
その隙を突いて神速を使用した恭也君は、既に青い宝玉の目の前にいました。

『御神流・奥義之壱-虎切-』

模擬戦では見せなかった御神流の奥義の一つを恭也君は使用。
レイジングハートから届いた恭也君の声と同時に、青い宝玉は崩壊。
とたんに維持が出来なくなったのか左腰部の宝石があった所より下にあった触手などもろもろが崩壊していきました。
恭也君は既に次の標的に向けて動き出してます。
もっとも、無傷とはいかずそれなりのかすり傷を負っていますが、動きには問題無いようです。
そして、先程と違いわずかながらも明らかに分かるぐらい敵の砲撃間隔が開きました。

「恭也君、次はどの部分?」

『さっき潰したやつの隣だ!
 先に左全部を潰して動きを封じ込める!』

「了解!」

恭也君の意図は理解できました。
さっき潰した宝玉の影響で崩壊したのを確認した恭也君は、先に左にある宝玉を潰しバランスを崩そうとしています。
私も同じ考えだったので同意し、恭也君が狙っている宝玉に狙いを定め再びディバインバスターを放ちました。
二個目を捕らえた一撃も、やはりバリアによって阻まれます。
恭也君もその隙を突いて再び奥義を放ちます。
2個目の宝玉も失ったヴォルクルスはその宝玉が支えていた部分を崩壊させ、明らかにバランスを崩しました。
恭也君は一旦離脱し呼吸を整えています。
致命傷には至っていませんが、明らかに先程よりも傷が増えていました。

「恭也君……」

『心配するな』

私の心配をよそに次の目標に向けて動き出す恭也君。
でも、その言葉は心配する必要も無いくらいハッキリとした声でした。
だから、私は彼を信じ三度ディバインバスターを放ちます。
その結果も同じ。
恭也君によって破壊された宝玉によりバランスを維持できなくなったヴォルクルスの身体は崩れていきます。
そして、砲撃もバリア強度も明らかに差が出始めてきました。
明らかにこちらが有利な状況になってきました。

「このままいけば、何とかなるかも……」

《マスター、その油断が今まで状況を悪化させたことをお忘れなく》

『戦場で油断は命取りになるぞ』

「はぅっ!?」

私の一言に容赦ないツッコミを入れてくれるレイジングハートと恭也君。
実際、油断して手痛いしっぺ返しを食らっている私には堪える一言なわけで……
それに私もそれなりの修羅場は体験しているとはいえ、恭也君みたいに生死を分けた戦いをしてきたかと言われればあまり無い。
なので、恭也君の一言には重みがあり私は勉強させられます。
本当に、私なんかが教導官でいいのだろうか?
少し自身喪失……

『やはり、このまますんなり終わらせてはくれないか』

恭也君の一言に意識を取り戻した私は、場の空気が変わったことを感じました。
私と恭也君はヴォルクルスの上空を睨みつけています。
目の前にいるヴォルクルスの遥か上空に、再びあの禍々しい光を帯びた魔法陣が浮かびあがりました。
そして、魔法陣の中心からヴォルクルスのコアが現れます。

「この状況で二体目!?」

『……だからといって逃げ出す事は出来まい。
 たとえ逃げ出す事に成功しても、周りが破壊されていくだけだ』

恭也君は既に覚悟を決めています。
恭也君の言うとおり逃げ道は無い……
ならば私も覚悟を決めるだけです。

「ゴメンね……
 少し弱気になった」

『気にするな』

そっけなく答える恭也君。
だけど、その言葉とは裏腹に不器用なやさしさが感じられるわけで……

「うん」

そして、私と恭也君は事の成り行きを見てるだけしか出来ませんでした。
現れたコアは、ボロボロになっているヴォルクルスのコアを吸収。
コアを失ったヴォルクルスの身体は光になって消失。
逆に、吸収したコアは新たな身体を再構成し実体化しました。

「姿が変わっている」

『と言うより、先程の身体に上半身を付け足した姿だな』

恭也君の意見の方が的を得ています。
さっき戦っていたヴォルクルスの身体を土台に別の身体をくっつけたような感じの姿……
想像上の動物だとウマがケンタウロスになったような感じですか。
そんな事を考えていると、ヴォルクルスの再構成が終わったのか攻撃を再開してきました。
アクセルシューターみたいなスフィアを広範囲に撒き散らし、ディバインバスター似の砲撃を再び行なってきます。
私と恭也君はその砲撃を回避していたのですが……

『つっ!!
 あの球体で砲撃の軌道を反射しただと!?』

「ちょっ、ちょっと!
 聞いてないんですけど!?」

そう、先程の砲撃と違って、スフィアにぶつかった砲撃は光を当てた鏡みたいに反射。
それが同時に別方向から襲ってくるものですから手も足も出ません。

『ちぃっ!?
 このままだとジリ貧か?』

「さっきみたいに青い宝玉を破壊できればいいんだけど……」

『あの状態だと懐に入ることさえ無理だな。
 予想外の方向からの砲撃をも気にしなければならないしな』

恭也君は回避しながらも冷静に状況を判断しています。
下半身だけでの状態でも空が飛べるフェイトちゃんですら懐に入れなかった防衛網よりも厳しい状態。
さらに恭也君がいくら早くても空が飛べない事には懐に入ることさえ困難なのは分かること。
先程の場合は、ある程度ダメージを負わせていたおかげで動きが鈍かったこともあり足で登ることが可能だったから出来たこと。
でも、恭也君の目はまだ死んでいない。
この状況を動かす隙を明らかに狙っている表情。
その様子が見て取れた私も諦めるわけにはいきません。
そう思って再びヴォルクルスを睨みつけた私でしたが、予想外の方向からの砲撃に回避行動する余裕も無くシールドを展開。

「きゃぁぁぁぁぁぁあ」

だけど、その衝撃は凄まじく私は反動で吹き飛ばされました。
地面に叩きつけられる事を覚悟したんですが、気づいたら私は恭也君の腕の中でした。

「大丈夫か?」

「私は大丈夫……
 って、恭也君!
 その傷!?」

恭也君は私を助ける為に無茶をし、左肩に大きな魔力ダメージを負っていました。

「ゴメンね、私が油断してたばかりに……」

「気にするな。
 それに先程の場合、俺でも対処出来るかは分からん」

そういって微笑む恭也君。
その笑顔に場違いながらも見とれてしまった私でした。
だけど、そんな和やか雰囲気もヴォルクルスの砲撃で崩壊。
体勢がよければ抱えながらも脱出できたのでしょうが、体勢が悪かった為恭也君は私を突き飛ばしました。

「きょっ、恭也君!?」

私は驚いて恭也君を見ましたが、恭也君は笑っているだけです。
覚悟を決めた人はこんな表情をするのかと一瞬思ってしまったのですが、恭也君を失いたくない私は絶叫していました。

「恭也君!!
 逃げてぇぇぇぇぇぇえ!!」

私の絶叫と同時に爆風が発生し視界が悪くなります。
そんな光景を涙を流しながら見てた私でしたが、視界が良くなるにつれ予想外の事態に驚きと喜びが入り混じった表情をするのが分かります。
結論から言うと、恭也君は無事でした。
恭也君の目の前にはヴォルクルスが放つ禍々しい紫色の光ではなく、青白い光を放つ球体が存在しています。
そしてその球体を中心に魔法陣が展開されていました。
その魔法陣はどちらかと言うとミッドチルダ式の魔法陣には似ていますが、私は見たことも無い物です。
恭也君自身も驚愕していました。
さらに驚いたことにその球体が話し始めました。

《ようやく見つけたぞ、我が主に相応しき器を持つものよ》

そう、レイジングハートと同じ機械音声。
ということは、デバイスなのは確実。
そして、青い球体をしたデバイスは明らかに恭也君を選んでいます。

《我が名は-サイフィス-。
 『風』の精霊王の名を持つデバイスなり。
 汝の名を示せ、我が主に相応しき者よ》

こうして、恭也君は魔導師として覚醒するのでした。

to be continued





後書き

どうも、猫神TOMです。
ようやく3話目にて事態が動きだしました。
といっても、あくまで前半戦最大の山場ですが……

それと、菜乃葉もといなのは(リリカル)の立場ですが、とらハ3世界での扱いは一応親戚です。
それも恭也君と一番親しかったという扱いになっています。
まぁ、美由希は記憶には残っていないと思いますが。
そういうことなので、なのはが恭也君にたいして「君」づけで呼んでる理由は昔から親しかったからってことです。
当初はある時点まで「さん」づけにして描こうとも思ったのですが……
もっとも、この話を送ると同時に2話の修正版も送っています。
それには「君」づけしている理由を追記して頂きましたので納得して頂けたら幸いです。

後散々恭也君が強いって言われていますが……
まぁ、最強キャラではありませんのであしからず。
他のキャラの見せ場を取るようなマネはしないと思います。
なのは、クロノ、フェイト、はやては好きですからね。
なお、前半戦終了後にフェイトやはやて視点の物語が入る予定なので、そちらもお楽しみ頂けたら幸いです。

……それにしても戦闘シーンを描画するのが難しいです。
ほのぼのシーンの方が筆が進む猫神TOMでした。

では。



ピンチになった所で、デバイスらしきものの登場。
美姫 「これにより、恭也も魔導師として覚醒するのかしら」
むむむ、とってもいい所で続く。
美姫 「気になるわよね」
なりまくり! ああー、次回が待ち遠しいよ〜。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
首を長くして待っています。



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