高町家のリビングにて、恭也と美由希──二人の剣士が相対していた

恭也は溢れ出る殺気を抑えようともせずに、美由希はそんな恭也の様子に戸惑いを隠せずに

 

「・・・・・・美由希、やはり貴様を倒さねば禍根は完全に断てぬようだな」

「恭ちゃん、どうして?」

「・・・・・・どうして、だと?」

「こんなの絶対におかしいよ!何で私達が闘わなければならないの!?」

 

美由希の悲痛な叫びがリビングに虚しく響き渡る

 

「・・・俺の護るべき者の為に、美由希──貴様を倒さねばならないからだ」

「何で!?どうしてそんな事を言うの、恭ちゃん?私達は家族のはずだよ!」

 

恭也の言葉が信じられないのか、美由希は目に涙を浮かべながら恭也の説得を続ける

諦めずに想いを伝えれば、この不可解な状況が打開される・・・・・・そう信じて

しかし、恭也は美由希が『家族』と言った瞬間、殺気を増大させる

 

「・・・・・・『家族』・・・・・・だと?」

「───っ!そうだよ、恭ちゃん!」

 

美由希は恭也の殺気を受け、怯みながらも、諦めずに言葉を紡ぐ

 

「確かに私達は他とは少し違うかもしれないけれど、『家族』なのは間違いのない事でしょう?!私にとって──私『達』にとって『家族』は護るべき者なんじゃないの?!」

「・・・・・・その護るべき『家族』を危機に陥れようとしているのは・・・・・・何処のどいつだ?」

「恭ちゃん!何でそんな事を言うの!?私はただ──」

 

美由希はそこで一回区切り、万感の想いを込めて言葉を紡ぐ──

 

「私はただ、料理を作って、恭ちゃんを──みんなを見返したかっただけなのに!!」

「それが『家族』の危機だと言っているんだ!!この馬鹿弟子が!!」

 

 

 

 

 

時刻は少し遡る──

 

病院での診察を無事?終えた恭也は特にする事もないので、美沙斗とともに真っ直ぐ家路に着いた

しかし──御神の剣士としてのカンが警鐘を鳴らす

 

『この先には進むな!戻れ!』──と

 

隣を見上げてみると、美沙斗も顔を強張らせていた

ともに超一流と言っても差し支えがない程の技量を持った剣士である

当然危機察知能力は常人を遥かに凌駕する

 

「美沙斗さん、嫌な予感がするのですが・・・」

「奇遇だね、私もだよ・・・」

 

それは家に近づくにつれ徐々に、しかし確実に大きくなっていく

そして、玄関に辿り着いた瞬間──二人は、黒い靄が家を覆い尽している光景を見たような気がした

 

「・・・・・・美沙斗さん」

「・・・・・・なんだい、恭也?」

「このまま回れ右をして、香港にでも行きませんか?」

 

『闘えば勝つ』御神流であっても、闘いたくない相手もいるのである

そんな恭也の心情を感じ取ったのか、自身もそう考えたのか──おそらく後者であろう──

美沙斗は苦笑しながら答えた

 

「そうしたいのは山々だけれども、実際に実行するわけにもいかないだろう・・・」

「そうですね・・・」

 

二人は何処か諦めきった様な表情で玄関に入り──絶句した

 

「「なのは(ちゃん)?」」

 

玄関では二人──正確には恭也一人──の帰宅を待っていたのか、なのはが座り込んでいた

二人が驚いたのはなのはが玄関で座り込んでいたことではない・・・・・・その表情が絶望に染まっていたからだ

 

「・・・おにーちゃん・・・おねーちゃんが・・・おねーちゃんが・・・」

 

恭也の姿を確認したなのはは涙を流しながら恭也に抱きつき、ただ「おねーちゃんが・・・おねーちゃんが・・・」とうわ言のように繰り返すだけだった

恭也はそんななのはを落ち着かせる為に、しばらく頭を撫でながら背中を優しく叩いていた

 

(何所の誰だか分からんが・・・覚悟しておけ、なのはを泣かした罪は万死に値する)

 

胸中でそう呟きながら・・・

 

 

 

数分後──

 

「それで、なのは、一体何があった?」

 

恭也はなのはが落ち着いたのを確認してからなのはが取り乱した原因を尋ねる事にした

その原因を自分が排除する覚悟を決めながら・・・

 

「えっとね、おねーちゃんが・・・・・・・・・・・・・・・料理を・・・・・・・・・」

 

 

ピシッ

 

 

その瞬間・・・・・・・・・・・・・・・世界が止まった・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「晶、レン、無事か?」

 

あの後何とか再起動を果たした恭也は美沙斗となのは──なのはは腕にしがみ付いている──を伴って、台所の入り口で立ち尽くし戦々恐々と中の様子を伺っている妹分に声をかけた

 

「「・・・(お)師匠、お帰りなさい」」

「オレは平気です」

「ウチも何とか・・・」

 

恭也は二人の妹分が被害に遭わなかった事に胸を撫で下ろした

 

「それで、美由希の様子は?」

「それは・・・・・・」

「見れば分かります・・・・・・」

 

美由希の様子を聞いてきた恭也に、晶とレンの二人は何処か諦めたかのようにそう答えた

それを聞いた恭也も何処か祈るような気持ちで中を覗いて見ると──

 

「フフッ・・・・・・フフフフフ・・・・・・これで見返してやるんだから・・・・・・」

 

美由希が何やらブツブツと呟きながら、ぐつぐつと煮え立つ鍋をかき回しながら、時おり怪しい物体を鍋の中に入れていく

ハッキリ言ってその姿は、御伽噺に出てくる魔女の様である

 

「・・・・・・晶、レン・・・・・・あいつは一体何を作っているんだ?」

「え〜と・・・・・・一応カレーみたいですけれど・・・・・・」

「・・・・・・あないな色のカレーは・・・・・・」

 

恭也に尋ねられた二人は言い難そうに美由希の『料理』を答える

二人の様子──特にレンの言葉──に何かを感じ取ったのか、恭也もそれ以上は聞かなかった

 

「しかし、何でまたあいつは料理なんてしようと思ったんだ?しかも、昨日の今日で」

 

恭也が当然のように浮かんだ疑問を呟く

いつもの美由希なら連続で料理をする事がないからだ

 

「えっと、リベンジ・・・だって」

「リベンジ?」

「師匠、おそらく朝のやり取りが原因ではないかと」

「朝のやり取り・・・と言うと・・・」

「お師匠がそないになった原因が、美由希ちゃんの料理だと言いなさった事かと」

 

恭也の疑問に高町家年少組みがそれぞれ答える

 

「はた迷惑な・・・」

 

答えを得た恭也は苦々しく呟いた

 

「しかし・・・そろそろ止めないと本気で『アレ』が夕食となってしまうな」

 

恭也のその言葉に全員(恭也を含む)が顔を青ざめさせる

いくら美由希の料理と言えども、食卓に並んでしまっては食べざるを得ないからだ

 

『出されたものは残さず食べる』

 

高町家では常識としてそう教えられている

それは食材や料理人に対する感謝や最低限の礼儀として

・・・・・・そう、それは例え美由希の料理といえども例外ではない(完食出来るかは別として)

 

「おにーちゃん・・・」

「師匠・・・」

「お師匠・・・」

「恭也・・・」

 

恭也はみんなの言おうとしている事が理解出来たので、何も言わずに頷いた

あの状態の美由希を止めるのは、力ずくでないと不可能だからだ

なのはは論外、晶・レンも流石に力不足、美沙斗も実の娘とは戦いにくい──鍛錬は別として──

 

「それでは行ってくる」

 

恭也はそう言って己の大切な者を護る為、家族の危機を排除する為、戦場へ向かった

 

 

 

そして、時は戻る──

 

「何で私の料理が家族の危機になるのよ!?」

「・・・・・・自覚もないのか、貴様は?」

 

恭也が呆れたかのように言い、美由希を除く周囲も項垂れため息を吐く

その反応に納得が出来ない美由希は、反論しようと試みるも・・・

 

「さて、美由希よ・・・覚悟はいいか?」

 

恭也が機先を制し八景を抜きながら最後通告を告げる

しかし──

 

「フッフッフッ」

 

恭也の最後通告にも美由希は余裕の態度を崩さない

いつもなら、顔を青ざめさせるなりするからだ

その様子に周囲は不思議な物を見るかの様に美由希の方を見やる

 

「今の恭ちゃんに私が負ける訳がないでしょう?」

 

確かに今の恭也は小さくなっている

その為、筋力や体力等と言った点で美由希に劣るだろう

それが美由希の余裕の正体なのだが・・・・・・

 

「試してみるか?」

 

恭也は特に何でもないかのように言い放つ

 

「恭ちゃん、後悔してからじゃ遅いんだからね!」

「御託はいい、さっさとかかって来い」

 

恭也のその言葉を切っ掛けに美由希は自身必殺の構えを取る

 

(・・・やはり居抜きか)

 

御神流に於ける最長射程を誇り、追撃の多様性にこそ真骨頂がある居抜きを防ぐ方法は3つ

避け切るか防ぎ切る、もしくは放たれる前に叩き潰す──

 

(後手に回るのは得策ではないな)

 

そう、普段の恭也ならば後手に回った所で、美由希の居抜きならば対処しきれるだろう

しかし、今の恭也は身体が小さくなっている為、後手に回ると対処しきれない可能性の方が高い

故に恭也がとった方法は・・・

 

(ならば、派生もさせずに初撃で叩き潰す)

 

そう結論付けた恭也も自身必殺の構えを取る

 

 

 

(薙旋・・・・・・でも今の恭ちゃんなら警戒する必要はない)

 

いつもなら追撃も含めて全て迎撃されている技だが、恭也が小さくなっている今ならば力で押し切れるだろう

そう考え美由希は居抜きを放つ

対する恭也は動かない・・・・・・いつもなら迎撃する為に動き出す間合いに入っても動かない・・・・・・動いたように見えない

 

(見切れていない?それとも罠?)

 

美由希は一瞬悩むもそれに構わずに突っ込む

見切れていないならば勝敗はその時点で決するだろうし、仮に罠であろうとも今の恭也ならば対処しきれる・・・そう考えて

しかしその考えは、相手を侮り、自身が油断している事に他ならない

そして、美由希の居抜きが恭也に届かんとする刹那の瞬間──

 

(えっ?消えた!まさか神速!?)

 

美由希の視界から恭也が消えた

今の恭也が神速を使うとは思ってもみなかったので、恭也が神速を使用したであろう事実に驚くも、即座に自身も意識を神速の領域にシフトさせるが──

 

(居ない!?)

 

ありえない、神速の領域でも捉えきれない速度なんて・・・

そして、周囲の気配を探り恭也の位置を見つけようと思った瞬間──

 

(ガハッ・・・・・・・!!)

 

いつの間にか背後に回っていた恭也の薙旋──もちろん峰撃ち──を防御する事も適わずに全弾浴びた

 

(そんな!?いつの間に後・・・・・・ろ・・・・・・に・・・・・・・・・)

 

「なのはを泣かした罪、その身で贖え」

 

恭也のその言葉を聞きながら、美由希は意識を手放した

 

 

 

「ふっ・・・逝ったか」

 

小太刀を鞘に収めた恭也はそう呟いた

その声はかなり嬉しそうだ・・・・・・親しい人間にしか分からないが

 

「はや〜、やっぱりおにーちゃんはすごいね」

 

そう言ってなのはは恭也に抱き着きながら、羨望の眼差しで恭也を見上げるようにして言う

 

「なのはを護る為ならば・・・な」

 

恭也は微笑を浮かべ、なのはの頭を撫でながら言う

 

(はや〜、やっぱりおにーちゃんはカッコイイなぁ)

 

恭也の微笑を直視したなのはは顔を赤くした

そんななのはの変化に恭也が気付かないはずもなく

 

「なのは、顔が赤いがどうかしたか?」

「にゃ!何でもないよ」

「そうか?・・・しかし・・・」

 

なのはの言葉に納得がいかない恭也は強硬手段に出る事にした

そう、なのはの額と自分の額を合わせたのだ

 

「おおおおおおおおおにーちゃん、なななななななな何を?」

 

当然なのはのは慌て、顔も更に赤くなる

 

「ふむ、少し熱があるようだが?」

「だだだだだ大丈夫だよ」

 

すぐ目の前に大好きな兄の顔がある

流石にこの状況は刺激が強すぎるのか、なのはは恭也の言葉を懸命に否定する

 

「そうか?辛くなったら言うんだぞ」

「・・・・・・・・・うん」

 

恭也は、いつもの事か・・・と納得しながらなのはから離れた

なのはは離れていく恭也の顔を残念そうに見つめていたが・・・

 

「さて、晶、レン、大変だと思うが大至急で頼む」

 

そろそろかーさん達が帰ってくる頃だしな・・・そう付け加えながら高町家料理番に頼む

頼まれた二人が時計を見るといつもの時間よりも大分遅くなっていた

美由希を止めるのと料理と言う名の毒物を処理するのに思った以上に時間が掛かった様だ

 

「了解です」

「任せてください」

 

そう言いながら、普段とは違い喧嘩せずに超特急で夕食を作っていく

 

こうして高町家の平和は護られた

 

 

 

おまけ

 

「「ただいま〜・・・って美由希!?」」

「かーさん、フィアッセお帰り」

「恭也、何で美由希が縛られているの?」

「そうだよ恭也、どうしてこんな事を?」

「なに、こいつが料理を作ろうとしていたんでな」

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

「安心しろ、いま晶とレンが作り直しているところだ」

「「ありがと〜恭也〜」」

 

 

 

 


あとがき

 

セティ「・・・・・・・・・3ヶ月・・・ね(ピクピク)」

3ヵ月・・・だな(ビクビク)

セティ「今まで何をしていたのかな?(怒)」

・・・いろいろです・・・はい(ビクビク)

セティ「・・・・・・・・・OGs(ボソ)」

(ビクッ)ソソソ、ソンナコトハアリマセンヨ

セティ「図星・・・と、それはそうと忘れられているんじゃないの?」

・・・まぁ、これだけ開いていたら仕方ないかと

セティ「しかも、予定と違う内容だし」

一応書くだけ書いたんだが、恭也がまったく出てこなかったし面白くなかったので没にした

セティ「で、次ぎはどうするの?」

続きは書く気でいるぞ、ちと当初の予定とは変わるかもしれんが

セティ「大至急書きなさい」

アイ、マム

セティ「見捨てられなければいいわね」

・・・・・・・・・そうだな





美由希の料理って……。
美姫 「本当に信用されてないわね」
練習しなければ上手にはならず、
美姫 「されど、その練習すらさせてもらえない」
ある意味、これも悪循環なのか。
美姫 「ナナシさん、投稿ありがとうございました」
次回も待ってますね。



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