魔法少女リリカルなのはA’SIF
第二話〜戦嵐再来〜
〜12月2日夜 海鳴市封鎖領域結界内〜
なのはをかばうように対峙するフェイトはヴィータに武装解除を求めるが、ヴィータはそれを簡単に突っぱね離脱する。
フェイトはなのはをユーノに任せ、ヴィータを追う。
街の上空で対峙するフェイトとヴィータは互いに誘導系射撃魔法を放つ。
ヴィータはフェイトの「アークセイバー」を魔法障壁で防御。
フェイトはヴィータが放った四つの「シュヴァルベフリーゲン」を機動力と運動性で回避していく。
その様子を見ているヴィータの隙をつくように、犬の耳と尻尾を生やしたオレンジの髪の女性――アルフがヴィータに拳を振るう。
それを先程と同じ障壁で防御するが、魔法構成に割込みをかけられて砕ける。
アルフに魔力を込めたデバイスを振るうヴィータ。
盾を展開して防御をしたが、「テートリヒシュラーク」の一撃に吹き飛ばされる。
直後鉄球を凌いだフェイトのバルディッシュがヴィータに振るわれる。
〈Pferde〉
グラーフアイゼンがオートで飛行魔法を発動、足に魔法の渦ができ、上昇して回避する。
そこにアルフがリングバインドで相殺し、フェイトがヴィータを薙ぐ。
ヴィータはかろうじて防ぐが、その表情に焦りが滲み出始めていた。
(くそ…、ぶっ潰すだけなら簡単なんだけど、それじゃ意味ねえんだ。魔力をもって帰らなきゃ。
カートリッジ残り二発…。やれっか…?)
離れた二人は再びデバイスを振るう。
数度の攻防の末、ついにヴィータがリングバインドに捕らえられた。
それを見てフェイトがバルディッシュをヴィータに向ける。
「終わりだね。名前と出身世界、目的を教えてもらうよ」
ヴィータがフェイトとアルフに怒りを込めた目で見やる。
その時アルフが何か危険な気配を感じた。
直後、紫の髪の女性が三人の下から現れ、フェイトに横薙ぎを見舞う。
フェイトは咄嗟にデバイスで防ぐが、予想以上に強い力に吹き飛ばされる。
「シグナム……」
ヴィータが女性の名前を呟くように言った。
突然の事態に呆然としたアルフに、白髪の男――ザフィーラが蹴りを放つ。
片腕を上げて防ぐが、吹き飛ばされてしまうアルフ。
その間にシグナムは振り上げた己のデバイスに命じる。
「レヴァンティン、カートリッジロード」
〈Explosion〉
コッキング音と共に薬莢が飛び、レヴァンティンの刀身が炎に包まれる。
「紫電一閃!」
気迫の咆哮を上げ、フェイトに斬りかかる。
その一撃でバルディッシュの柄が断ち切られる。
もう一度振り上げられ、振り下ろされるレヴァンティン。
直撃を確信したフェイトが目を見開く。
〈Defenser〉
バルディッシュがオートで防御魔法を展開。
だが、効果があったのは一瞬。僅かな拮抗の後フェイトは下のビルに叩き落とされた。
アルフがフェイトの元へ行こうとしたが、ザフィーラが妨害する。
アルフはザフィーラを睨み、拳を交える。
シグナムはザフィーラに任せ、自分はヴィータの元へいく。
「どうしたヴィータ。油断でもしたか」
「うっせえ、こっから逆転する所だったんだ」
「そうか。それは邪魔をしたな。すまなかった」
そう言ってリングバインドを解除するシグナム。
「だが、あまり無茶はするな。お前が怪我でもしたら我が主も心配する」
「わかってるよ、そんな事」
ヴィータが憮然として自分の手首を撫でながら明後日の方を向く。
そんなヴィータにシグナムは破損を修復した帽子を被せると、ヴィータは憮然としながらも感謝を示した。
そして眼下の街を見る。
そこではザフィーラとアルフが戦闘を続けている。
さらに薄緑の光がフェイトの元へ走るのが見えた。
「実質3対3。1対1の戦いなら、ベルカの騎士に」
「負けはねぇ!」
シグナムに続くようにヴィータが叫び、揃って降下する。
すぐに腰に手をやるが、そこで闇の書がないことに気付いた。
だがもう、敵は目の前にいる。ヴィータは先に敵を倒す事を決めた。
再び戦いが始まった。
紫と金、赤と緑、オレンジと白の光が軌跡を描き、交わり、離れていく。
それを見て取れるほど離れたビルの屋上。
そこに二人の人物が立っていた。
一人は両手の人差し指と薬指に指輪をつけ、緑を基調としたゆったり目の服を着た女性。
自分の指輪に話しかけているという妙な状態だが、指輪の宝石からもれる声から通信しているのがわかる。
もう一人は緑の生地に金と銀の刺繍がついた服に無地のマントを羽織った男。
その顔には眼に当たる部分に蒼の宝玉がついただけの仮面が付けられ、その手には漆黒の十字架の杖が握られていた。
「なるべく、急いで帰りますから」
〈そんな、急がんでええから。気いつけてな〉
「はい。それじゃあ」
それを最後に女性――シャマルが手を下ろす。
そのタイミングを見計らって騎士が話しかける。
「狙いはやはり……」
「ええ、あの子よ」
そう言ってある場所を見る。
そこにいるのは緑の結界の中にいるなのはだった。
「それにしても、ヴィータちゃんったら。もう……」
そう言って自分の手にある闇の書を見る。騎士も見る。
「闇の書が単独で移動できて助かった。でなければ、あの四人の内の誰かに気付かれるところだった」
「そうね」
なのはに目を戻した騎士が自分の顎に手をやる。
「しかし、複雑だな……」
「え? どうして?」
「あの白服…なのははすずかの親友なんだ……」
「ええむぐっ!!?」
驚いて大声を上げたシャマルの口を慌てて押さえる。
「馬鹿者っ! 大声を出すな!」
声を出来るだけ小さくして怒鳴る騎士。
「ひょ、ひょんらことひわれたって…!」
口をもごもごと動かして聞き取りにくい言葉を喋るシャマルを押さえたまま、騎士は戦場の方を見やる。
どうやら気付いた者はいないらしい。
騎士は安堵の息を漏らしながら、シャマルから手を離す。
「そんな事言われたってしょうがないじゃない。いきなりそんなことを言われたら誰だって驚くわよ」
「確かにな。それに、俺もなのはが魔導師だという事を知らなかったしな」
緑の結界の中にいるなのはを見る騎士。
「どうするの?」
「お前はどうしたい」
シャマルにはそれが彼の答えだとわかった。
「あなたはいいの? それで……」
「今の俺は風の名を持つ槍の騎士、ヴィントだ」
仮面の騎士の言葉にシャマルは頷き、自らのデバイス「クラールヴィント」をペンダルフォルムに変える
武器の差か、もしくは技量の差か。あるいはその両方か。
ともかく戦場はヴォルケン側が優位に立っていた。
フェイトは射撃魔法「フォトンランサー」をシグナムに放つ。
それに対し、防御魔法「パンツァーガイスト」を展開するだけで微動だにしない。
シグナムを包む紫の光に弾かれる金色の弾丸。それを見てフェイトは驚きを禁じえなかった。
「魔導師にしては悪くないセンスだ」
そう言ってレヴァンティンを構えるシグナム。
「だが、ベルカの騎士に一対一を挑むには、まだ足りん!」
残像を残すほどの速度でフェイトの横へ移動するシグナム。
しかしそれはフェイントだった。
途中で上昇し、フェイトの真上から一気に降下し斬り下ろす。
寸での所で防御できたフェイトだが、吹き飛ばされ、ビルに激突してしまう。
痛みに震えるフェイトを見ながら、先程の攻撃でカートリッジを使い果たしたデバイスに弾丸を装填するシグナム。
その様を見て、フェイトの考えに確信を得た。
(あれだ…あの弾丸。あれで魔力を一時的に高めているんだ)
「どうした。もう終わりか? ならばじっとしていろ。大人しくしていれば命までは取らん」
「誰が!」
痛みに耐え、立ち上がりながら言った言葉に込められた気迫に、シグナムは思わず笑みを浮かべる。
「私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターが将、シグナム。そして我が剣、レヴァンティン」
「ミッドチルダの魔導師…時空管理局嘱託、フェイト・テスタロッサ。この子はバルディッシュ」
「テスタロッサ…それにバルディッシュか…」
「……」
二人は再び閃光になり、刃を振るった。
別の場所ではアルフがザフィーラに苦戦しており、転送の準備をしていたユーノも今ではヴィータの攻撃を凌ぐばかり。
二人はフェイトから結界の破壊と転送を頼まれていたが、ミッド式と異なる上に予想以上に強固な結界に手こずり、ついにはヴィータとザフィーラの戦闘力もあってどうこうできる状態ではなくなってしまっている。
六条の光が飛び交う光景を見て、なのはは心配そうな表情で呟いた。
「助けなきゃ……」
痛む腕を押さえながら、なのはは一歩、また一歩と進んでいく。
「みんなを…助けなきゃ…」
でも、何をすればいいのかわからない。
レイジングハートも自分もすでにボロボロになっている。
こんな状態で何ができるのだろうか。
〈Master〉
なのはのそんな悩みに応えるように呼びかける。
〈Shooting mode, acceleration〉
レイジングハートから一対の翼が生えた。
戦う事は出来ない。でも、みんなを助ける手はある。
そう言っているかのように。
「レイジングハート…?」
戸惑いながらも呼びかける。
返ってきた言葉はなのはの予想を上回るものだった。
〈Let's shoot it, Starlight Breaker〉
「え!?」
撃てといったのだ。なのはが持つ最強の砲撃魔法を。
「だめだよそんなの! あんな負担の掛かる魔法、レイジングハートが壊れちゃうよ!」
〈I believe my master.Trust me, my master〉(私はマスターを信じています。ですから、マスターも信じて下さい)
機械の体に与えられた仮初の心。
しかしその心が放った言葉は、確かに主従の絆が生んだ信頼だった。
「レイジングハートが私を信じるなら、私も信じるよ」
回復結界を解除したなのはは空に向けてレイジングハートを構える。
そしてレイジングハートの先に桜色の魔方陣が展開する。
〈フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん。わたしが結界を壊すから、隙を見て転送を!〉
〈なのは!?〉
〈なのは、大丈夫なのかい?〉
突然のなのはの念話にユーノとアルフは心配そうな声を出す。
〈大丈夫! スターライトブレイカーで打ち抜くから!〉
「レイジングハート、カウントを!」
〈All right〉
カウントと共に魔方陣とレイジングハートの間に魔力が集中する。
何かしらの魔法を放とうとしていることに気づいたシグナムたちはなのはの元へ行こうとするが、フェイトたちが妨害する。
一方なのははダメージでカウントにエラーが出たレイジングハートを気遣うが、レイジングハートは問題ないとカウントを続ける。
カウントが「2」となり、なのははレイジングハートを振り上げ――――衝撃が襲った。
「なの…は…?」
シグナムと交戦していたフェイトはなのはを見て呆然と呟いた。
それは胸元から第三の腕を出し、レイジングハートを振り上げたなのはの姿だった。
旅の鏡と呼ばれる引き寄せ型という珍しい転移魔法でなのはの体に腕を転送させたシャマル。
だが、なのはから出た腕には目的の物が納まってはいなかった。
「しまった。失敗しちゃった」
そういうシャマルにヴィントはふっと笑いそうになる。
「なによ」
「なにも、言ってないだろう」
仮面に隠され表情が見えなかったが、笑ったとわかったシャマルは睨んだが、ヴィントは肩を竦めるだけだった。
そんなヴィントにシャマルは軽く溜息をつくと、腕を一度抜き、もう一度鏡に入れる。
すると今度はなのはの体から桜色の球体がシャマルの手に収まる形で取り出された。
魔力の源、リンカーコア。彼女たちはこれを蒐集しているのだ。
「リンカーコア、捕獲」
シャマルは闇の書に触れる。隣に立つヴィントは旅の鏡に入れているシャマルの左腕に手を添えた。
シャマルの腕に魔力が流され、なのはのリンカーコアを挟むように、緑のベルカ式魔法陣が展開される。
「蒐集……開始」
〈Sammlung〉
ヴィントの言葉に応えるように闇の書が暗い輝きを放つ。
開かれた闇の書に次々と文字や図形が刻まれていく。魔力とともに蒐集対象が使う魔法をコピーしているのだ。
それに比例するように、なのはのリンカーコアが徐々に小さくなっていく。
自分の胸からでている腕に戸惑いつつも、レイジングハートを振り上げる。
「す……スターライト……………ブレイカーーーー!!!」
渾身の力で振り下ろし、魔法を打ち出す。
魔力は上空を目指し、結界を内部から破壊する。
しばらくして、シャマルが鏡から腕を抜くとともにヴィントも手を離す。
〈結界が抜かれた。引き上げるぞ〉
〈心得た〉
〈シャマルごめん…助かった〉
〈ううん。一度散って、いつもの場所にまた集合〉
その時、シャマルの肩をぽんっとヴィントが叩く。
「俺はこのまま戻る」
「わかったわ。また」
「ああ」
頷いて立ち去っていく仮面の騎士からは、少しばかり気まずそうな気配がした。
見送ったシャマルもまた転移魔法でビルから離れていく。
その頃衛星軌道上のアースラは医療班と医療施設の手配、ヴォルケンリッターの転送先の索敵していた。
次々と表示される画面の中で、クロノは驚くべきものを見つける。
『だめです…逃げられました…』
『仮面の人物の反応もビル内からロストしました』
「あ〜んもう!」
ランディとアレックスの報告を聞いて、エイミィはコンソールに平手打つ。
「ごめん、クロノ君…しくじった…」
謝罪するエイミィだが、何故かクロノは何も言わない。
普段なら何か言ってくるはずのクロノを見ると、彼はあるモニター画面を凝視している。
それは闇の書を抱えて転送するシャマルの姿を映したものだった。
「捜索指定遺失物…ロストロギア…闇の書」
「クロノ君、知ってるの…?」
クロノの手が無意識に強く握られた。
「ああ。知っている。少しばかり…いやな因縁があるんだ」
クロノは感情を抑えるように、そう呟いた。
なぜなら闇の書こそが、ハラオウン親子に「こんなはずではない人生」を与えたのだから。
ああ、なのはが。
美姫 「リンカーコアを蒐集されてしまったわね」
闇の書絡みの事件だと判明し、いよいよ管理局も本格的に動き出すぞ。
美姫 「これからどうなっていくのかしら」
続きを待っています。
美姫 「待ってますね」