何時か重なり合う未来(あした)へ 異伝
MUV−LUV alternative イン・ザ・クロスワールド
二話
日本帝国神奈川県横浜市 国連軍横浜基地軍港区画 X−00係留埠頭
11月24日 AM02:17
深夜、丑三つ時。人気の無い埠頭に音も無く1,000mを超える超大型艦が現れ、プレハブで作られたドックに艦尾から進入する……。
「投錨、接岸用意!」
裕一がブリッジで命令を発する。
「了解。位置修正0−0−4、各部スラスターON。自動修正開始」
「接舷・接岸アーム。左舷一番から八番まで起動、展開」
「接岸位置確認!マーク!!」
「要員配置につきました」
「接岸準備完了!」
横に立つ老士官……《まほろば》艦長のヴァンデルノートが裕一に顔を向ける。
「閣下。準備完了しました」
「うん。……接岸開始!!」
裕一は頷いて命令を下す。
「接岸開始!」
各所に命令が復唱されてゆく。
「各スラスター、全力運転!」
「接岸位置まで30」
「接舷・接岸アーム先端部通電開始」
「接岸位置まで20、…15、…10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……」
「コンタクト!!」
「接舷・接岸アーム、トラクト!!艦体固定!!」
微かな振動が艦を揺らす。
「投錨開始!」
ブリッジに安堵の空気に包まれる。
「……世界を変える第一歩だね」
「……はい」
裕一の言葉に頷く艦長。
「さつき」
「はい、閣下」
「基地司令部には早朝挨拶しに行く。向こうにはこっちのスケジュールを伝えておいてくれ」
「わかりました」
「艦長、乗員の上陸は手続きが終了してからだ。現配置から第一種警戒配置へ移行」
「了解です。総員第一種警戒配置!当直警備要員は完全武装で配置に就け!」
国連軍横浜基地 基地司令官執務室
裕一は横浜基地司令官ラダビノッド准将に着任の挨拶をするため司令官執務室を訪れていた。
裕一はラダビノッド司令官の前に立つと書類の入った小型のジェラルミンケースを足元に置き姿勢を正し敬礼する。
「申告します、国連事務総長閣下並びに国連軍総司令官閣下の命令により本日只今より裕一・イサレリアス以下独立第一特務戦術機甲装備実験団4834名、環太平洋方面第11軍横浜基地に駐留・着任します」
「着任を許可します少将殿」
「早速ですが優先事項の高い順から話をします。まず一つ目、現時点を持って准将は昇進となります」
裕一はジェラルミンケースを開け、昇進辞令書と階級章の入った黒いケースを取り出し机の上に置き、ラダビノッド司令官の前に押しやる。
「尚、現任務は引き続き行うようにと言付かっています」
「うむ、他には?」
准将の階級章を外し新しい階級章に取り替えながら尋ねてくる。口調も階級が並んだ為普段の物になっている。
「X−00係留埠頭周辺を第一種立ち入り制限区画に指定して頂きます」
「解った、総司令部からも便宜を図るように通達が出ているからな。各部署に書面で回覧しておこう」
「後の細部事項に関しては此方の書類に記載されています。此方のディスクには独立第一特務戦術機甲装備実験団4834名の人事データが記録されています」
書類とディスクケースを机に置く。
「挨拶回りが有りますので私はこれで失礼させて戴きます」
再度敬礼する。
「これから宜しく頼む、イサレリアス団司令」
「はい、了解しました基地司令殿」
国連軍横浜基地 地下19階
基地司令執務室の外に待機していたさつきを連れて基地主要部署に挨拶に廻った裕一は最後に夕呼に会った。
「随分お早い着任ね、イサレリアス司令?」
開口一番に夕呼は皮肉に言う。
「出前迅速は僕の十八番ですよ?」
皮肉で返す裕一。
視線をずらして銀髪ツインテールの少女……社霞を見ると霞は夕呼に隠れて裕一と皐月を見る。
「……隣の方は何方かしら?紹介ぐらいはして欲しいわね」
夕呼は初対面となるさつきが気になるのか裕一に説明を求める。
「ああ、これはうっかりした事を。彼女は僕の妻兼秘書の……」
「さつき・イサレリアスです。香月博士、今後ともよしなに」
さつきは夕呼に一礼する。
「アンタ、結婚してたの?」
「何か誤解してませんか?」
夕呼の言葉に裕一が『何でさ』と言う顔で夕呼の目を見る。
「結婚してる様には見えなかったからよ」
そう見えなかったんだからしょうがないじゃないと笑って誤魔化す夕呼。
「……その子が社霞ですか?」
裕一とさつきの視線が霞に向けられる。その視線に驚いた霞はウサギの耳状の髪飾り
をぴんと立て夕呼の背に隠れる。
「……ほら、社。挨拶なさい」
夕呼は霞の両肩に手を置き、霞を祐一達の前に優しく押しやる。その仕草は年の離れた姉の様に見える。
「……社霞です」
霞は二人を見つめる。
「裕一・イサレリアスです。よろしくな」
「さつき・イサレリアスです。よろしくね」
「……はい」
霞は頷いた。
「で、例の物は持ってきたのかしら」
夕呼は真剣な表情で裕一に尋ねる。
「ええ、……さつき」
「はい」
裕一はさつきを促すとさつきは持ち込んだバスケットを持ち中身を見せる。
「……へぇ、おいしそうなケーキね……ってちがうでしょ!」
女性らしい反応を見せた後一瞬にして変え怒鳴る夕呼。
「はははは、期待通りの反応でしたね。そっちの菓子折りは本気ですが本命はこれ、
私たちが持ち込んだ計画に必要と思われる理論と技術、物資のデータの入ったディスクはここに」
裕一はジェラルミンケースを持ち、夕呼の執務机にどかっと置いた。
11月27日 18:30
横浜基地戦術機シミュレーター区画シミュレーターデッキ
裕一は夕呼に呼び出されてシミュレーターデッキに来ていた。
『ちょっとした用事があるからプログラマー貸してくれって言われて貸したけど、それってXM3の事だよな?……忍、趣味に走っていないと良いけどなぁ』
プログラミング作業に派遣した裕一の妹分、月村忍の事を思い浮かべる。
夕呼はシュミュレーターデッキの中央にいた。そして彼女も夕呼とともにいる……。
裕一の存在に気付いた夕呼は忍との会話を止めて顔を向ける。
「良く来たわね、イサレリアス少将」
「……僕を呼び出したって事は何かしらのプログラムが形になったと言う事ですか?」
「ええ、彼女のおかげで大幅な成果が上がりそうよ。嬉しい誤算って所かしらね」
口元を吊り上げて夕呼は笑う。
「所で何のプログラムです?」
「あら、知ってるんじゃないの?」
「念のための確認です」
「……ふぅん、まぁいいわ。白銀発案の新OSよ、名前はXM3」
呆れた顔で答える夕呼。
「それで今からロケテストをするんだけど……」
忍は不満顔だ。
「今は白銀待ちよ」
遅いわね何処で油売ってんのかしらと呟く夕呼。
「で、僕が呼び出されたのは?」
「単に見せたいから呼んだだけよ」
当然じゃないと夕呼はそう言う。
「何事かと思って事務仕事を急いで片付けて来たと思えば……」
裕一は煤けて肩を落とす。
「あはは、しょうがないんじゃないかなー」
忍が慰める。
「で、忍。そのOS、僕らが組み上げてる新機体に組み込んで使えるのか?」
「ん、ばっちり。バグ取り終われば組み込むつもりだよ」
忍は任せなさいと言わんばかりに胸を張る。
「あら、あんた達そんな物を作っていたの?」
「ええ、当然です。表向き僕らは開発部隊ですから、仕事はしないと」
ウインク一つ決めて無邪気に笑う。
「どんなのか興味あるわね」
夕呼の興味を引いたようだ。
「それは、まだ秘密です」
口元に人差し指を当てて意地悪く笑う裕一。
「ケチねぇー、ケチは嫌われるわよ」
「ははは、楽しみは後に取っておく方が良いんですよ。それに…」
視線を忍に向ける。
「こんな事も在ろうかと、と言って発表するのは研究者や技術者にとってロマンじゃないですか」
我が意を得たりとばかりに裕一の言葉を継ぐ忍。
「くっ、そこまで言えるとは……流石だわ忍。アンタとは永く付き合えそうね」
「うふふ、こちらこそ」
互いに手を取り堅く握手する。
その姿を見て背筋に冷たい汗が浮かんでいた事は内緒にしたい。そう感じた裕一であった。
「先生〜〜〜?」
霞と共に一人の青年…白銀武が入ってくる。裕一は表情には出さず内心で生きた彼に
逢えた事を喜ぶ。
「待ってたわ」
夕呼は武を一瞥する。
「例の処置が終わったんですか?」
「その前に紹介するわ。新OSの開発に携わった月村中尉と監督者のイサレリアス少将。私達の信頼できる有力な協力者よ。イサレリアス少将達は先日着任したばかりで紹介できる機会が中々出来なかったけど」
夕呼は裕一達を紹介すると武は慌てて敬礼する。
「横浜衛士訓練学校207隊、白銀武訓練兵であります!」
「独立第一特務戦術機甲装備実験団司令、裕一・イサレリアスです。よろしく白銀君」
「同じく独立第一特務戦術機甲装備実験団技術1課、月村忍よ。よろしくね」
裕一と忍は答礼して自己紹介する。
「社、これが終わったら少しはゆっくりできるからね」
夕呼は霞の頭をなでる。
「・……………」
「あれ?霞も何かやっていたのか?」
「……はい」
武の問いに答える霞。
「あんまりしゃべると、馬鹿が感染するから気を付けなさい」
霞が頭を縦に振り、裕一と忍は苦笑する。
「おい」
「シミュレーターデッキに呼ばれたのに、強化服に着替えずやってくる馬鹿の傍にいちゃ駄目よ?」
「うげ……」
「……ばいばい」
「出直し」
武は更衣室に走った。
一通りのテストが終わりデバック作業を開始する。
「博士、いい結果に繋がりそうですか?」
「ええ、最初は白銀には即応性が30%と言ったけど本当は40%なの。でもデバックを進めて行けば50%に届くと思うけど、忍はどうかしら?」
「私もそれに近い数字は行くんじゃないかなと思う」
「……なら、こっちの機体も急ぐか」
続く
物語はこの辺りから動き出すのか。
美姫 「さてさて、ここから更にどう歴史が動くのかしらね」
まだ始まったばかりだけれど、続きが気になる所です。
美姫 「次回も楽しみに待っていますね」
ではでは。