『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』
CU]X 本番です! 〜バンド編〜
正直、レンと晶は困り果てていた。
今は本番数分前で、現在地は校庭に建てられた仮設ステージの舞台裏だ。校内バンドコンテストというイベントが突発的に開催される流れになり、体育館からこちらに移動して来たのが二十分ほど前。
各バンドに割り当てられた楽屋代わりの大テントの一角で、唐突に双子は喧嘩を初めてしまったのだ。
唖然としているボーカル二人を尻目に、エスカレートし始めた矢先、一緒に楽屋にいた別のバンドメンバーが慌てて取り押さえた。
それから双子は背中を向け合って、無言で互いを牽制している。
本当に高町家で喧嘩している自分達を見ているようで、二人は恥ずかしいやら情けないやらどうしたものかと顔を見合わせた。
まず喧嘩の原因がわからない。
レンと晶が控え室に入った直後に、先に戻っていた双子が喧嘩を始めたので、原因となる一部始終を見ていない。
止めに入った他のバンドのメンバーに聞いても、双子を意識していなかったので、会話内容がわからないという。
「……なぁ。一体何が原因なんだ?」
そう先程から晶が説得を試みているが、じろりとねめ上げるばかりで、口はチャックがついたように閉ざされたままだ。
原因もわからず、双子は喧嘩。ボーカル二人は初めてのステージに揃わない歌唱と、不安材料ばかりが募っている。
「これはも棄権しかないんかなぁ」
そういうぼやきが自然と零れても、決してレンのせいではないだろう。
ただ、こんなぼやきに反応したのは、今のいままで喧嘩真っ最中だった双子であった。
「それは!」
「ダメ!」
何でこういうのだけは、見事に息をそろえるんだ?
信吾が先で、信二が締めというコンビネーションは、なるほど、喧嘩していてもさすがに双子というだけはある。
ただ、何故、それが喧嘩に発展しているのかわからない。
「まぁ、ダメならダメで、喧嘩を止めてくれないと、本気で時間なくなるぞ? レンじゃないけど、タイムアップでまともな演奏できなかった。なんてみっともないんじゃないのか?」
あくまで、自分とレンはゲストである。
ボーカルに抜擢されたといえど、深深と口を出さないでいるのは、レンと二人で決めたルールだ。
それでも、こういう場面で緩衝材よろしく、止めに入るのは基本的に二人の仕事のようで、半分諦めてしまった感も否めないのだが。
とりあえず、睨み合いながらでも喧嘩を終了させた双子は、互いに眼前にいる少女を見ては、再び互いの片割れを睨むという動作を数回繰り返した後、信吾が渋々と挙手した。
「はい、信吾君」
「正直、原因については語りたくありません」
直後、信吾に晶から心を尽くしたエルボーが後頭部を直撃。そのまま白目を剥くが、さらりと流して蓮飛は、もう心から服従したくなるような見事な微笑を浮かべて信二を見つめた。
「さて、原因を言いたくないんやったら、本番直前のこの時間に何をしておったんやろね?」
「……や、ちょ、ちょっとまって……」
無言のままタイムアップを狙おうと心に浮かべた瞬間、晶の拳が目に付いて思わず、速攻で一時停戦を申し入れてしまった。
「猶予時間は三秒や」
「みじか!」
「ニ〜一〜」
「わ〜! わ〜! わ〜! ほ、本気で勘弁してくれ! 今は言えないんだってば!」
「今はって事は、いつなら言えるんだ?」
「……え〜っと……」
「晶」
「おう」
「きょ、今日の舞台で言えます!」
その舞台のために喧嘩していたのだが、そんな事を言い放った信二に、再度蓮飛と晶は顔を見合わせた
「……とりあえず、楽器のチューニングと、合わせを簡単にやっちまおう。舞台上で何も言わなかったら、戻り次第ぶん殴る方向で」
「了解や。ウチもそれでええわ」
「ひ、被害者の目の前で予告してほしくな……い、いえ、なんでもないっす」
思いっきり頭上から睨み落とされた怒りの視線に、まだ意識の戻ってない信吾を引きずり楽器へと向かった双子を嘆息して見送り、二人は疲れた表情のまま一度控えのテントを出た。
本日の天気は晴天。
テントから出た途端、秋口だというのに暑さを感じる日差しに目を細めた。
「あ、いたいた」
「ん?」
そんな彼女達に少し遠くからかけられた呼び声に振り向くと、いつもの三人組から一人引いた剣心と巴の姿があった。
「お〜、剣心君。劇みたで〜。いや〜。お師匠と美由希ちゃんの鍛錬もすごいけど、さすがに剣心君のもすごかったで」
「そうそう。こっちの練習もあったから少しだけだったけど、あれは燃えた。今度、俺とも組み手やろーぜ」
「や、さすがにそれは……。そんな事より、俺達の劇を見てくれたように、レンさんと晶さんを応援に来たんだけど、大丈夫そう?」
「あ〜……ウチらはまだええんやけどなぁ」
「どうも楽器の二人組が喧嘩しててな。実際どうなることか」
大きく溜息をつくところを見ると、困惑と不安が半々という複雑な感情がひしひしと伝わってくる。
何とか少しでも和らげようかと、頭をフル回転させ始めた剣心の横にすっと移動しながら、彼女にしては珍しく拳を握った手を胸の前に持って来て、力強く頷いた。
「……ふぁいと」
「おう!」
「アリガトな〜」
珍しいこともあるものだと、巴の横でぽかんと呆けつつ、すぐに嘆息した。転校してきて以来、何を気に入ったのか剣心と夕凪と共に毎日一緒にいるが、最近は特に様々な表情を見せるように感じていた。
もちろん、二人の関係者に限っての部分も大きいが、それでも転校初日に比べれば雲泥の差だ。
そう考えていた時、ふと思い出した事があり、剣心は二人が話し巴が頷いているという会話の流れを、申し訳なさげに塞き止めた。
「あ、そういえば、シェリーさんって人見なかった?」
「シェリーさん?」
「いや、俺達はずっとここにいたから知らないな。シェリーさんがどうかしたのか?」
「さっきリスティさんとオレンジ色のつなぎを来た男の人と擦れ違った時に聞かれたんだ。でも、俺達はシェリーさんって知らないから、わからないって答えると、すぐにまた血相変えてどっか行っちゃって」
「シェリーさんはリスティさんの妹さんだから、見たら一発でわかるからな」
「そそ。でも血相変えてなんて何かあったんやろか?」
「そこまではわかんないけど。とりあえず見つけたら連絡してあげた方がいいかなと思って、二人にも諜報員として任務を与えようかと」
「ああ。OK。見つけたらリスティさんに連絡するよ」
「ありがと。それじゃ観覧席でしっかり聞かせてもらおうかな」
「うわ。後輩が生意気言ってる」
「これはウチラがガツン! とせなあかんな」
言いつつ、口元にしっかりと冗談ではないという印である邪悪な笑みが浮かんでいるのを見て、剣心は乾いた笑いを上げながら、そそくさと舞台裏を退場していった。
「ヤレヤレ」
「でも本当にしっかりしないとな」
「そうやな。それじゃそろそろ戻ろうか」
何気ない応援に気合を入れた二人は、踵を返すと再びテントの中に戻っていった。
ちなみに、二人とは別行動を取っていた夕凪は――。
「お、お、お、おひさ、しぶりで、す」
「うん。久しぶり。元気だった?」
「は、はい! それしか取り得ないですか、ら」
「元気なのはいいことだよ。さて、それじゃそろそろ行こうか?」
「は、はいぃ!」
耕介から聞いていた北斗の女殺しに、那美が被害者が出る前に夕凪とくっつけてしまおうというおおよそ巫女が考えるものじゃない作戦に巻き込まれ、北斗の前で緊張しきりになった夕凪であった。
なお、北斗に対する被害者というのは、自分自身の実体験だったりする。
……合掌。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
校庭に作られた特設ステージでは、楽器設置のために教育された生徒会ローディ部隊が、リハーサルでチューニングされた配置へ手際良く並べていた。
そしてその様子を、互いに気付く事無く剣心と巴、学園祭見物に来ていたフィアッセとゆうひ、それに浩。また少し離れた場所には恭也、美由希、なのは兄妹がステージはまだかと待ち焦がれていた。
ほんの数分後。
ようやく姿を見せたバンドメンバーに、会場は今日一番の盛り上がりを見せた。
信吾と信二は市内のライブで慣れているのだろうが、初体験である晶と蓮飛は歓声に戸惑いを隠せない。
その緊張している様子に、剣心達は微笑みながら見つめていた。
そして――ライブが始まった。
POP調のリズムが始まり、合わせて晶と蓮飛がリズムを取っていく。
その後ろで、キーボード担当である信二が備え付けのマイクに曲名を伝える。
「ファーストナンバー! HAPPY COSMOS! オリジナルbyPoppinS」
ボーカル二人には聞いた事のない曲だが、どうやら双子が晶と蓮飛をボーカルに迎えた時点で、頭に浮かんだアニメEDだという。
ただ、曲を聴いて、それなりに気に入ったので、心を込めて歌いだせる。
観衆は初めて耳にするだろう。
それでも盛り上がっている観衆には関係なく、ボルテージが上がっていく。
その中で、フィアッセとゆうひ、それに浩だけが感心したように息をついた。
「あのキーボードの子、随分と練習したんやな。MIDI再生に合わせて上手くひいとるわ」
「ギターの子も上手ね。今まで聞こえていたバンドの子に比べて、錬度が全然違うもの」
フィアッセに同意するように浩は頷く。
お墨付きももらえて満面の笑みを浮べたフィアッセは、と、次の瞬間、まるで亡くなった母親のような悪魔的笑みを浮べると、隣でリズムを取っているゆうひにこそこそと耳打ちし始めた。
それを嘆息しつつ無視すると、浩は続く曲を聴くべくステージに集中し始めた。
元々晶と蓮飛達には一時間と言う長い時間を与えられている。
それは、信吾と信二がすでに市内で人気のデュオである事実に起因するが、それ以外にも実は現生徒会長が、晶と同じ道場に通っていると言う裏事情もあったりする。
だから、信吾と信二は最初に万人受けしそうなコミカルな曲を持ってきた。
続くオリジナルに繋ぐために。
オリジナルは、晶がメインになるものと、蓮飛がメインになるものと半分程度に割り振られている。
いや、本来はどちらかに統一するべきである! と兄弟喧嘩をしていた双子を、実力で黙らせて自分達で半分ずつに割ってしまったのが実情ではあるが。
だから、残り十五分となった時、普段はやらないステージでの歌披露という事態に、晶も蓮飛も思った以上に疲れていた。
曲が終わり、一服となる水分補給の際に互いの瞳に浮かんだ色を見て、晶も蓮飛も小さくため息をついた。
「何だかんだで後二曲か」
「長かったよーな短かったよーな」
「まぁ長かったのは作者の遅筆が原因」
「そうやな」
などとちょっと両親にグサっとくるような発言を内緒で行いつつ、残りも頑張ろうと振り返ったところで、二人はポカンと足を止めた。
「信二、準備OKか?」
「もち。何のためにフォークギター買ったと思ってるんだよ?」
「OK。なら失敗すんなよ」
そう言いながら信二から離れてくる信吾の袖を捕まえて、晶は見苦しくないように舞台袖に引きずっていく。
「お?」
「お? じゃなくて、何で信二君が一人でギター持って真ん中に座ってるんだよ? この後はオリジナルを後二曲やって終わりだろ?」
予定では、晶と蓮飛が二人でデュエットをする流れである。
だが、少なくとも信二が一人でギターを持ったり、ステージ真ん中に椅子を持って座るなど聞いてもいなかった。
尤も、ステージ前に細かい確認をしている暇もなかったので、予定変更の可能性はある。
ただ、それにしてもボーカルである晶と蓮飛に何も知らされていないのは気にかかった。
だかだこそ信吾を捕まえたのだが、当の本人は一瞬だけぽかんとした表情になった後、すぐに満面の笑みを浮べた。
「大丈夫、大丈夫。元々こういう予定だったのよ」
「は?」
「ステージの最後は俺と信二のソロって予定」
「聞いてないぞ?」
「どっきりの予定だもーん」
つまり知らなかったのは晶と蓮飛のみという事。
「……何のためにだよ?」
「それは聞いてのお楽しみさ」
そして笑みの次に浮べた何かを画策しているであろう余裕を含んだ眼差しに、晶はそれ以上言葉を紡ぐ事は出来なかった。
「え〜、では、最後の二曲は牧野信二と牧野信吾のソロとなります。ちょ〜っと個人的感情が多分に入ってるんで、わかり難い部分も多いと思うけど、是非最後まで聞いてください」
信二の前置きがそのタイミングで終わった。
どうするべきか戸惑っている蓮飛に、仕方なく晶が舞台袖まで引っ張ってくると、まるで見計らったように信二はギターを掻き鳴らした。
いつからだろう
君を追いかけていたのは
気づいた時には君を探して、気付いた時には笑顔を見つめていた
友達と一緒にふざけあっている時も
一人で静かに物思いに耽っている時も
それでもわからない
瞳の奥に見える悲しみと寂しさの色の理由は
本当はわかっていた
本当は理解していた
自分も同じだったから
自分も大切な人達に同じ思いをさせてしまっていたから
一人森の中泣いていた
降りかかる重みに耐えようとしていた
それでも拭い去れない悲しみは僕が隣で涙を拭おう
心から愛していると
貴方を笑顔にさせるための初めての魔法で
「これ、あいつの初めての作詞なんだ」
「え?」
返事をしたのはどちらだったのだろう。
それは信吾には関係ない事だ。
ただ下手なりに頑張った歌詞が、信二の思い人に通じてさえくれれば、兄として何も言う事はないのだから。
それでも歌詞や思いだけでは伝わらない事がある。特に詩は短い文章に思いを乗せる事は可能だが、深い意味まで伝える事は叶わない。
だから、そんな事情を伝えるのは自分の役目だと昔から自負していた。
「実は……」
そうして口を開こうとして晶と蓮飛へと視線を向けて、彼はそれ以上言葉を紡ぐ事ができなかった。
隣にいる晶も同様だ。
ただ、蓮飛だけは大粒の涙を零していた。
「あ、あれ? なんや? 何で涙出てくるんや? お、おかしいな……」
二人の視線に気付いたのだろう。
蓮飛は己の頬を濡らしている涙にも同時に気付き、慌てて手の甲で拭った。しかし涙はそれでも流れ続けている。
「別に、どこがどうって、言う訳やないのに、なんでだろ? 信二君は……何かウチと一緒なんやとか思って……」
「レンさん、それ、本当に感じた?」
「え? あ、うん。多分……」
歌にのった思いなど本人以外には伝わりにくいだろう。
それでも間違いなく蓮飛が感じている気持ちは、信二の心だと信吾もまた安堵した。
「あいつさ」
「うん」
「生まれてからHGSに近い遺伝子難病だったんだ」
「え?」
「毎日泣いてたよ。俺はこんななのに、何で一緒に生まれた兄貴は健康なんだって」
今でも信吾は時々夢に見る。
二段ベットの上の段で、苦痛に耐えながら泣き声を必死に堪えている信二の姿を。そして、何度か心に溜まってしまった膿を吐き出すように、彼は信吾に対して拳を向けていた。
「そんな時だったかな。病院帰りに病院の裏山で見かけた女の子が気になったって話聞いたのは」
――なあ、今日さ、病院の裏山で泣いてる子見たんだ。あの子も俺と一緒なのかな……――。
「それからかな。やっぱり言葉でしかなかった、苦しいのはお前だけじゃないって意味を本当の意味で見てくれるようになったのはさ」
「そっか……」
頷き、歌い続ける信二の横顔には、悲壮感などなくただ純粋に思いを伝えたいという色が浮かんでいた。
思いを伝える?
何の思いなのだろう?
誰に?
それは蓮飛に。
なら伝えたい思いとは?
「……後は本人に聞いてくれ。俺から言うこっちゃないしな」
「そうやな。でも、なんとな〜く、もう受け取ったけど」
「それはまた。後でしっかり返事してやってくれ」
そこで、信二のソロは終了した。
会場からは拍手が聞こえる。その中には満足そうに頷いているフィアッセの姿もあるが、浩はヤレヤレと言った様子だが、これはまた後の話である。
ステージ上では、緊張したのか頬を高揚させている弟からギターを受け取った兄が、交代に中央に向かって歩を進めていた。
「あれ? 信吾も歌うのか?」
戻った信二を横目にしつつ、晶は入れ替わりに中央に移動した信吾を指差した。
それに大きく頷くと、にやりと心底意地の悪そうな笑みを浮べた。
ま、俺と同じ目的のためにってところだけどね。
しかし、それは口にしなかった。
フォークギターがかき鳴らされていく。
信二のバラード調の曲に比べて、こちらはジャズに近い。音がコミカルに飛んでいくが、中心に添えたリズムが乱れないので、聞く者に不快感はない。
It was always looking.
Your back which will go previously if which will advance a pace
When it saw on the roof, you were gazing at twilight far somewhere.
I could do it only as I was merely looking, and I was gazing at the weary pupil.
It is running. It is running.
It is merely running intently so that it may refuse for tears to roll down on the ground.
Can I do it only as I am looking at the sight of my back?
Although nothing is made and there is nothing. I can sing.
Although only it is made, I want to support the back for the way to which it goes even if you shed tears.
Since you are strong. Since I am weak. Even if it does not see here, I want to be in a side.
英語の歌詞。
しかも一介の高校生が必死に訳して作った歌詞だ。中身はところどころ乱れていて、イギリス人であるフィアッセから見れば、ボロボロというものだ。
だが、その中に込められた意思が何を感じ、誰に向けられているのかを理解すると、ああ、なるほど。と納得がいった。
「ああ、これは晶への……ふふ、ラブソングかな」
「ラブソング? 応援歌だろ?」
一応リスニングができる浩は、隣の呟きに小首を傾げる事もなく、言葉で疑問をぶつけた。
「そうだけれど、それって、そこまで晶を見ていたって事実じゃない」
「……なるほどな」
そう言いつつ、ステージ上の晶に視線を移すと、先程の蓮飛と同じく、どこか呆然としながらも、頬が桃色に染まっている。
「歌詞の意味がわからなくても、気持ちは通じるものよ」
歌が終わる。
途端に、どれだけ離れていてもはっきりと耳に届くくらいに、晶の顔が茹った。
もちろん、破裂音込みだ。
ただ高町家の長女としては、あの一番恋愛に疎かった四女にも彼氏ができそうな気配に、嬉しい限りだ。
尤も、三女も同じような雰囲気だったが、どちらかと言えば女性らしさがあるので、あまり心配などしていなかったが。
ステージ上では、逃げ出した三女と四女を除いた双子が、カーテンコールとばかりに礼を述べている。
その様子を見ながら、フィアッセは楽しい事を行うために人ごみの中を縫うようにステージに向かった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
学園祭は盛り上りの内に幕を閉じた。
散り散りになっていた兄弟親友と合流した美由希は、その中に最近仲良くなった剣士の姿がないのに気付いた。
「あれ? 剣心君は?」
しかし、聞いた相手から返答はない。
おかしいなと感じて視線を探索から向けると、その相手――相楽夕凪はどこか夢心地な表情で、只管「北斗さん」と呟いている。
しっかりと心まで虜になったご様子だ。
普段は見れない姿に苦笑しながら、再度周囲を見回す。
と、校舎の屋上に人影があるのに気付いた。
「あんなところに居る。どうしたんだろ」
「美由希? どうした?」
「うん。剣心君を呼んで来る。先に翠屋に行ってて」
この後、親友同士でお茶会の流れとなっていたので、揃っていないのが彼女にはどうもしっくりとこなかった。
いや、それは単純にその場に居ないのが嫌というだけなのか?
東京で事件に巻き込まれた時、剣心がとある女性と一緒に夜の新宿に買い物へと言った際も、同じような感情のうねりがあったのではないか?
そんなものはないと階段を昇りながら首を振る。
しかし、どこかしこりが心に残っているのは感じている。
これは何なのだろう?
昔……と言っても数年前に一度感じた痛みに似ている。
その痛みの名は何なのだろう?
一気に屋上まで駆け上り、鉄製の思い扉を開いた時、痛みは名を浮き彫りにさせた。
数年前は己から諦めたから大した事はなかった。
だが今度は違った。
諦めという心の方向性を考えていなかったため、直接衝撃が脳裏を掠め、足から力を奪い去っていく。
そこで崩れ落ちなかったのは、普段の超人的な鍛錬の成果であり、身を翻したのは混乱した意識の中で働いた反射神経のおかげだ。
それでも、風によってもたらされた言葉と、重なり合った影は美由希の目に焼きついたまま離れなかった。
何時もは大人しい剣心と夕凪の新しい親友である巴の一言が――。
「……私、緋村さんの事、好きです」
と。
無事にバンドも終了〜。
美姫 「最後の二曲は晶とレンにとってどういったものとなるのかしらね」
まあ、すぐに答えが出るかどうかは別として……。
何よりも、この最後どうよ?
美姫 「とっても気になるわよね」
だよな〜。ぬぬぬ、とんでもない場面に遭遇した美由希。
美姫 「しかも、自分の気持ちをまだ理解していない時に」
ああ、どうなるんだろうか。
美姫 「続きがとっても楽しみよね」
次回も楽しみに待っています!
美姫 「待ってますね〜」