『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




CU]U 大変ですね

 さてさて。
 そんなこんなで学園祭まで残り一週間となった九月中旬。
 留学となったほのかは風ヶ丘学園の食堂で、ぼんやりとBLTサンドをつまみながら外を眺めていた。
 元々リリアン女学院という純粋培養の世界で育っていたため、このような共学制の学校生活に慣れなく、更に仲良くなれる重要なイベントの学園祭ですら部活の方で忙しく、結果、クラス内で浮いてしまっている状態になってしまった。
 一志は元々共学出身だったのでそれなりに打ち解けているのだが、どうも彼女には真似できなかった。
 そんな理由で彼女は暇だった。
 まだ馴染めない部活に、浮いてしまったクラス。
 何となく手持ち無沙汰になってたどり着くのはいつも食堂だ。
 視線が校庭に注がれて、隅では相変わらず剣心達が熱心に稽古している。
 飛天御剣流を使うと聞いた時には何を考えているのかと疑問に思ったが、ほのかの兄は何かを感じているらしく、指示に従っている。同じように夏休み以降仲良くなった夕凪もまた何処か真剣だ。
 いくら横暴の塊である美姫の指示とはいえ、やはり不思議だった。
 また世話になっている高町家の居候の二人も最初嫌がっていたが、今で毎日遅くまでバンドの練習だ。
 やはり……というか何となくだが、家にも所在無さ気な感覚に陥り、気分的にモヤモヤ感が拭えない。
 仕方なく食べ終えたサンドウィッチの皿を脇に寄せてテーブルの上に突っ伏した。
「はぁ……。頼んで帰ろうかな……」
 何でお母さんは私をここに送ったんだろう? そりゃお兄ちゃんと一緒にいられるのはうれしいけどさ。
 真意が読めないから不安になり、先がわからないから心が折れる。
 何度となく大きな溜息をついていると、ふと自分に影がかかった。何事かと顔を上げると、そこにクラスメイトで後ろの席に座っている麻生カズサが普段通りの大人しそうな表情のまま立っていた。
「麻生さん? 何?」
「えと、その……」
 そしてこちらも普段通り、引っ込み思案なのか言葉を口にする前にタメを要求されてしまう話し方で口を開いた。
「い、今剣道部の方は……いいのかな?」
「うん。部活時間を削りたくないからって前々から準備をしていたみたいで、途中から入った私の出番はもうなくなっちゃったみたいですね」
 おかげで準備時間が長くなるこの時期に暇になっている訳だが。
「な、なら、少しクラスの方、手伝ってもらえる?」
「……いいですけど、何かありました?」
「ちょっと……」
 クラスのお客様を頼らないといけない程度には何かあったらしいと推測したほのかは、いいよ。と返事をして立ち上がった。

◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆

「……で、これは何ごとですか?」
 その一言を呟いたほのかを見て、カズサは場違いに「じょうおうさま」と平仮名で風景を眺めてしまった。
 事の発端は些細な事だ。
 ほのか達のクラスは学年唯一の喫茶店を獲得し、方向性としてお手製衣装で統一した純喫茶店を目標にしていた。だが中学年で共学だ。一番悪ぶりたい時期の男子が居るのだからそこには手伝う手伝わないという当然のような衝突が起こる。最初はクラス委員と男子生徒の言い争い程度だったが、男子生徒が軽くクラス委員を突き飛ばしたのが引き金で、クラスの血気盛んなメンバーが参戦。気付いた時には準備していた衣装も含めて使用不可能なレベルまで到達していた。そこでカズサは前の席に座っているあまり話した事のない留学生が、師範代レベルの剣の使い手だったという転校直後の質問攻めの合間に聞こえてきた言葉を思い出し、呼びに言ったという事なのだ。
 別の生徒が担任の相沢を呼びにいったのだが、彼が駆けつけた時にはすでにほのかが木刀一閃騒ぎを収集させ、鬼の形相で問題の中心人物に説教している最中だった。
「……よし、任せておこう」
「せ、先生」
「いや、あれはいい機会だよ。特に緋村にはな」
「え?」
 合いも変わらず底が見えない回答を残して去っていく担任を他所に、ほのかの説教はまだ続いていた。
 しかしさすがである。
 男女問わずクラスの半分近いメンバーでの大掛かりな喧嘩だったにも関わらず、ほのかは木刀の一閃で三人は吹き飛ばし、柄を打ちつけ、刃を滑らせて僅か数分で全員を床に這い蹲らせていた。
 もちろんクラス全員に、緋村ほのか=逆らってはいけないという方程式が刷り込まれたが、それ以上にまとめてくれるその姿は頼りあるものに映った。
 そうこうしている内に事情を聞き終えたほのかは大きく溜息をついた。
「なるほど。それで残っている衣装の材料は?」
「えと、こんだけかな?」
 喧嘩に参加しなかったクラスメイトが隅に寄せられた布地の山を指し示す。それを見た後でほのかは床に散らばった完成した、もしくは間近だった衣装を見回した。
「麻生さん」
「は、はい!」
 急に名前を呼ばれて文字通り飛び跳ねて驚いたカズサはカチコチになった体を強引に動かして前に出た。
 そんなクラスメイトに気付かずに、ほのかは落ちていた紙とペンで電話番号を書くとそれをカズサに手渡した。
「そこに電話して余ってる布地で作れる制服案を聞いておいてください」
「……制服案?」
「ええ。緋村ほのかの名前を出せばいやいやでもFAXしてくる筈です。手の空いている人は布地の長さや使える制服をまとめてカウントして、麻生さんに伝えてください」
 混乱しているカズサ達に指示を出し終えると、今度は暴れていた男子中心のメンバーをぎろりと睨み付けた。
「貴方達にはFAXが届き次第、買出しに行ってもらいます。サボった場合、どのような罰が待っているか覚悟して行ってください。それまでは掃除」
『イ、イエッサー!』
 どこぞの軍隊ですか。
 そんな感想を心の中で呟きながらも、剣心は大きく息をついた。
「は〜。ほのかちゃんてあんなに仕切り屋だったのか」
「……なんだったっけ? あいつの東京の高校に、スール制度ってのがあるんだけどな」
「スール?」
「フランス語で姉妹って意味らしい。で、上級生が下級生を選んで擬似的な姉妹を作り、上級生が下級生を生活態度まで含めて指導する……って制度」
「言っていい?」
「どうぞ」
「変なの」
「言うな。それはともかく、そこの生徒会になる山百合会ってのがあるんだけど、その生徒会長から直々に次の生徒会長候補で妹にならないかと言われたこともあるらしい」
「つまり、指導力抜群と」
「そういうこと」
「でも、お兄さんとしては妹は心配だったと」
「……さ、教室戻らないと龍一がうるさいな」
「あ、逃げた」

◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆◇    ◆

 関東地区の九月はまだまだ暑く、塾へ行こうとしているなのはにとってもぐったりしてしまう時間帯だ。
 特に今日は買い物もあったのでいつもより三十分は早いのだ。おかげでお日様は頂点より少しずれた程度の時間から人ごみの中を歩く羽目になっている。
「と、わ!」
 そんな状態だったので、なのはは何もないタイルの継ぎ目に爪先を取られてバランスを崩した。兄姉と違ってそこそこの体力と身体能力しか持ち合わせていない彼女には、手をばたつかせて倒れていくのを止められない。
 思わず強く瞼を閉じた。
 ――閉じたのだが、ぶつかる衝撃は一向に訪れず、また体に浮遊感が感じられる。
 おそるおそる瞼を開けると、眼前にタイルが焦点が合わない距離で存在していた。
「わ、わ、わ!」
「大丈夫?」
 優しげな女性の声が、慌てたなのはの気を引いた。
 ゆっくりと声の方向を見ると美沙斗に似た切れ長の瞳をした女性が見つめていた。
「あ、はい。ありがとうございます」
「何もないからと言って慌てちゃ駄目よ」
「はい。すいません……」
 小学校六年生にもなって幼稚園児のような指摘を受けてしまった事に恥ずかしくなり、顔が真っ赤になる。
 その様子を微笑んで女性は見ていた。
「あ、蓉子さん、急に居なくなるんで驚いたよ」
 その時、蓉子と呼ばれた女性の連れなのだろう。
 なのはの知り合いに似た男性が手を振りながら駆けて来るのが目に入った。
「ああ、ごめんなさい。ちょっとこの子がハンカチを拾ってくれたの」
 そう言われて初めてなのはは自分の手の中に見覚えなのないハンカチが握られているのに気付いた。
「ありがとう。大事な人からの贈り物だから、失くしたら大変だったわ」
 どうやらなのはが恥ずかしがっている事を言うつもりはなく、そのためにわざわざハンカチを握らせてくれたらしい。
 そう察したなのはは首を横に振りながらハンカチを返した。
「それじゃ私達はこれで」
「はい。それじゃ失礼します」
 そうして別れた後で、なのはは一度足を止めた。振り返り人波に消えていく蓉子の背中を見ながら、漠然と思った。

(また……会えるような気がする……)





蓉子「ふ。ようやく私も海鳴到着よ」
夕凪「と、いうか、今回時間の流れ速いな〜」
蓉子「ああ、普通にこのモノが構成力ないだけよ」

 そう言って足元に転がる璃斗を踏む。

夕凪「それに関しては否定なし」
蓉子「とりあえず、本格参戦するのは次回かしらね」
夕凪「あ〜、話によると次回もないかも……」
蓉子「……へぇ」

 そう呟くと、璃斗を引きずって何処かへ行ってしまった。
 その後姿を手を合わせて拝む夕凪。
 
 南無南無(チーン)



海鳴へと何かに導かれるかのように集い来る者たち。
美姫 「さてさて、学園祭も間近に迫り、いよいよかしらね」
何かが起こるのか、起こらないのか。
美姫 「本当に次回が待ち遠しいわね」
次は何が起こるかな〜。
美姫 「この次も楽しみに待っていますね」
待ってます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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