『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚 119』




C]\ 決定ですか?

「へぇ。剣心君が?」
 高町家の食卓に三人の家族が増えての食事時に、お昼にあった出来事を晶が溜息混じりに説明を終えたところだった。
 それを聞いた第一声が美由希から零れた。
「二人の殺陣か。中々に面白そうだ。見に行くか」
 すでに見学決定した様子の恭也に、嬉しそうに両手を挙げて賛同しているなのはという仲良し兄妹と眺めて、徐にフィアッセの隣に座っている浩は口を開いた。
「あんな愚弟の殺陣などあまり役には立たないと思うが?」
「全然! 私なんて恭ちゃん並に負け越してますよ」
「彼の腕は達人クラスです。いつかしっかりと決着をつけてみたい」
 どうやらそう思っていたのは浩だけらしく、御神の剣士兄妹は半ば同時に否定の声を上げた。
 その様子に浩はどことなく嬉しくなり、小さく微笑みながら鰈の姿煮を解した。
「へぇ。私はこの間初めて会ったけど、剣心君? ん〜言い難いから剣君でいいや。剣君強いんだ?」
 海藻サラダ中華ドレッシング風味を食しつつ、今度はフィアッセが会話に参加した。
 実はフィアッセは今年度末に行われるCSS全員参加の合同コンサートの初回開催地として海鳴を選択し、今回ゆうひと一緒に帰ってきたのは、その準備のために三ヶ月以上の長期滞在となったのだ。
 それで桃子へは連絡をしたが、それ以外には秘密にするという事で悪戯を画策し、数日前に帰宅となった。
 ちなみにその時一緒に戻ったゆうひは新撰組の齋藤一と共にさざなみ寮へ特別滞在となっている。
「ええ。あたしも何度か会ったけどすっごくいい子よ〜」
 若干フィアッセの論点と違うのだが、大して気にもとめず桃子の意見に頷いている。
「でも……」
 そこで、一旦言葉を切り、桃子は話題の発信源になった二人を見た。
「あたしは晶とレンの歌、聴いてみたいな」
「あ、私もー」
「うんー。なのはも聞いてみたいな」
 もうドミノ式に高町母娘が期待の眼差しを向けてくるのを晶と蓮飛は大きな溜息とご飯を掻っ込む事で態度で示した。
「絶対にありえないですって。大体ソロならいざ知らずコイツとツインボーカルですよ?」
「そうそう。ウチの美声がオサルの声で潰されてまうわ」
「なんだと! それはこっちの台詞だろ! あ、悪い。声じゃなくてリズム感ゼロだったっけ? 亀だもんな」
「なんやて? それはそっちやろ。キーキー煩いもんなぁ。周り見ると耳塞いでるで」
「……亀、ここで決着つけてやろうか?」
「お〜。いい提案やな。これ以上その顔見てるのも飽きてきたところや」
「喧嘩はダメ〜!」
 完全にごりごりとぶつかり合う額を突き放すように飛び出したなのはに、思わず場所を考えずに手を出しそうになった二人は即座にはっと気付くと、もう最近は条件反射になっている動作を行った。
「ごめん!」
「食事時やったなぁ。楽しく食べんと消化にも悪いわ〜」
 半分は条件反射。
 だがここまで見事に息を整えられれば、なのはとしてもこれ以上何も言わず渋々と何処か残念そうに席についた。
 もちろんテーブル下では激しい足の踏み合いが行われているが、それは誰も気付かない。
「でも……」
 ここでフィアッセが再度微笑みながら二人を見つめた。
「声をかけてきた二人、晶とレンに何かを感じたから頼んできたと思うの。だからただ嫌だって断るんじゃなくて、理由を聞いてちゃんと考えてほしいな」
「はい」
「うん……」
「それでも、私は二人の歌聞きたいけどな」
 そう言って、フィアッセは湯気の立つご飯を美味しそうに食べた。

 ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪

「城嶋!」
「鳳、考えてくれたか?」
 翌日相変わらずスケボーを使って登校した晶と蓮飛に、左右同時から男子生徒から声をかけられた。
 学年カラーは蓮飛と同じ三年。
 全く多色の混じらない黒の短髪に、晶に声をかけた男子生徒は肩にギターケースを担いでいる。すっきりとした顔立ちに大きな瞳が幼い印象を与えている。声質も顔に合って高く、より一層実年齢とのギャップがあった。
「考えてない。と、いうか断っただろ」
「そんなの諦める訳ないじゃん」
 昨日のフィアッセの事もあり、しっかり話は聞こうと思っていたが朝一から当事者の一人に詰め寄られて、晶は隠そうともせずに憤慨した声を上げた。しかしギターの男子生徒は気にせずさらりと受け流した。
 がっくりと肩から力が抜けた晶を苦笑しつつ、今度は蓮飛がギターのない男子生徒を見た。
「とりあえずもうちょい話を聞こうかとは思ってたとこやからええんやけど、ウチラ、あんたらの名前自体知らんよ? さすがにそこはじょーしきとして名乗るものやないん?」
 確かに音楽のクラスが一緒であるとか接点自体はあるものの、興味がなかったので全く知らない。
 そこで男子生徒二人組も気付いたのか一度顔を見合わせると照れ隠しに視線を他所に外しながら苦笑いを浮かべた。
「はは。俺、牧野信吾」
 と、答えたのはギターをもった少年だ。
「俺は牧野信二」
 こちらは蓮飛と話をしていた少年だ。
「双子か。珍しいな」
「そうかね?」
 晶の感想に双子は同時に首を傾げた。
 とりあえず朝であるという事もあり、細かい話し合いは昼休みに学食で行う事になった。
 席を確保して四人の前に食事が並び終えてから話し合いは厳かにスタートされた。
「まず、何でうちらかと言う事や」
 尤もである。
 いくら音楽の選択授業が一緒だったり、鼻歌を聞いた程度でボーカル抜擢の扱いうけるレベルではない。 
 本日のお勧め・大盛カツ丼を食べながら双子が頷いた。
「うん。さすがにそこまでバカじゃない」
「一応納得してもらえるか知らないけど、理由はあるよ」
 なんと言うか似た音程で左右交互に話すので微妙に音響のサラウンド効果を感じつつ話に耳を傾ける。
 一旦間を置いて水を一口飲んだ信吾は一回だけ信二を横目にして、語りだした。
「強いて言うなら音楽性の違いかな」
「音楽性?」
「うん。俺達、今は二人でバンド組んでるんだけど、互いにボーカルに求めるモノが違ったんだ」
「俺がほしいのは火のように一本の芯があり、勢いとリスナーを引っ張れる人」
「俺がほしいのは風のように全員をしっかり掴み取れる人」
「それが俺達だって?」
 双子は頷いた。
「バラバラでもいいけど、多分……いや絶対二人が一緒に歌うといい音が生まれる。だから……」
 そう説得する信吾の姿は今回だけのお遊びではなく、音楽が好きで真面目に取り組む姿勢があった。それはプロであり二人と面識のあるフィアッセやアイリーン、ゆうひと通じる部分があり、その点は晶と蓮飛は素直に納得できた。
「……でもなぁ。人前で歌うんだろ? ちょっとそれはオレみたいなのがやるってのがなぁ」
「ウチも一緒や。大体もっと歌の上手い人いっぱいいるやろ?」
 風ヶ丘には声楽部も存在しており、全国クラスの人物も山のようにいる。
 だが双子は同時に首を横に振った。
「上手いのは上手いんだけど、求めるものはそうじゃない」
「ほしいのは俺達の曲をしっかりと人に伝えられる人物がいいんだ」
 それは拘りなのだろう。
 どうしても譲れない一点のために、双子は真摯な眼差しを向けた。
 自分達にもそういう部分はある。
 それで周囲を巻き込んでしまう事も多々あるのも自覚している。
 だからただ嫌だと断るというのだけはできず、何度目かになるか数えていないが晶と蓮飛は顔を見合わせた。
 そんな葛藤も理解しているのか信二は一回にこりと笑顔を浮かべると制服の内ポケットから一枚のMDを取り出した。
「これに俺達の曲が入ってる。まだ曲数少ないからステージだとカバーも入るけど、このオリジナルは譲れない。これを聞いてから改めて返事もらえないか」
「それで駄目だったら俺等も諦めるよ」
「あ、うん。わかった」
「それじゃ」
 さすがというか、同時に食事まで終えた双子はそのまま席を立つと音楽談義をしながら学食を後にした。
 その背中を見送って、置かれたMDへと視線を落とす。
 と、そこにすっと影が落ちた。
「ういっす」
「こんにちは」
 顔を上げた先には疲れた表情の剣心と夕凪、そして定位置に収まるように三歩下がってついてきた巴が小さく頭を下げていた。
「また勧誘ですか?」
「うん。今度はしっかり理由を聞いてた」
「それでこれ?」
 テーブルの上に置かれたMDを指差し、蓮飛を見ると小さく頷いた。
「まぁ断るにしても、ちゃんと理由を聞いて相手を理解してから……ってね」
「それ、フィアッセさんのお言葉やないか」
 完全な転用なので、晶も意識的に無視する方向にして置かれたままのMDを手にした。
「で、うちらはええとして、そっちの殺陣はどうなったん?」
 まぁ聞かなくてもわかるんやけど。という心の声をあえて口にはしないで剣心達に問い掛けた。
 途端に剣心と夕凪の肩にどかりと重苦しい雲が重量を持ち始めたかの如く、ぐったりとテーブルに突っ伏した。
「ふ……ふふ……。演技なんて……演技なんて……」
「寮で横島さんへの制裁で疲れているのに、演技……。死ねと? いや言われてるね……。うん。ふ、ふふふふ……」
「や、ごめん。聞いたオレ達が悪かった……」
 どうやら引き受けてしまったらしい。
 特に夕凪など、風呂場監視組ができたとか、何発二重の極みをぶつけても復活するとか、夜這いとか、女子高生が本来口にしないような単語をぶつぶつと並べている。どこか怖いものを感じる。
 椅子に座ったまま二歩下がった二人は隣で平然としている巴を尊敬の眼差しで見てしまった。
 不思議そうに首を傾げる巴を、咳払いで佇まいを正して晶は立ち上がった。
「さて、んじゃオレは放送室行ってくる」
「なんで?」
「あそこに知り合いしてさ、MDプレーヤー借りにな」
 どうやら真摯な眼差しに、曲に興味が湧いたらしい。
 同じ思いの蓮飛もそれは名案とばかりに後に続く。
 残されたのは半分鬱になっている夕凪と、何処か遠く黄昏ている剣心とうどんを美味しそうに啜る巴であった。
 
 ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪ ♪   ♪

 スピーカーから激しいロック調の曲がスムーズに流れている。
 再生させた放送部員も手を止め、別にそこにいる筈もない演奏者を眺めるようにスピーカーを見つめていた。
 それは晶と蓮飛も同様で、すでに五曲目に突入したというのに一向に反らす事などできない。
 そして曲が終わった時、晶はぽつりと呟いた。
「……オレ、手伝ってもいいかなって思った」
「奇遇やな。ウチもや」
 こうして二人のバンド参加は決定した。



バンドに参加することを決意した二人。
美姫 「うんうん。二人の歌声が響くのね」
剣心たちの方は、ちょっと苦戦してるみたいだな。
美姫 「この二人の劇も楽しみだわ」
近づく文化祭〜。
美姫 「これからどうなっていくのかしらね」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね」
ではでは。



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