『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




C]T コンサートを守れ! 〜操と朱雀

 激烈な鍔迫り合いが周囲に、耳障りな金属の擦れる音を響かせた。
 競っている二人の男は互いに直刀と小太刀という同程度の長さを持つ武器をぶつけ合い、そして少しの間均衡させた後、どちらかともなく後ろに飛んで間合いを取った。
「またか……」
 その結果を見て、四乃森操は相手に聞こえない程度に苦渋の混じった呟きを零した。
 すでに打ち合いは数分間に渡って行われている。
 敵――四神・朱雀は、縦横無尽に走る操の小太刀二刀流と同じ軌跡を描いて、全てを武器対武器に当ててきたのだ。
 これが全く違う軌道で、身を守るために行った技術であれば別段気にする事はない。だが今回は同じ軌跡なのだ。
 まるで鏡に写したかのような同じ力量と速度を持った剣戟。
(しかし今までは全て単独の斬戟。技となるとどうか……)
 若干左足を引き、大きく小太刀を同直線状に水平に並べる。
 すると朱雀もまた。操に習う形で同じ構えを取った。
 そこまでは予測通りだったため、表情一つ変えず技を繰り出す。

 隠密御庭番衆・小太刀二刀術! 陰陽撥止!

 前に岡本みなみを守るために使った一刀による飛刀術ではなく、二刀による技。
 一刀をぎりぎりまで相手の近くに突き出し、放つ。
 そして残りの一刀を影になるようにして同軸上で解き放つ。二本の小太刀は一直線に朱雀に向かう――。

 隠密御庭番衆・小太刀二刀術! 陰陽撥止!

 だが、ちょうど操と朱雀の中間地点に飛刀が差しかかろうとした瞬間、朱雀からも同じく陰陽撥止が飛び出した。
 直線空間で四本の刀が一点のブレもなく正面衝突した。
 それも二人の中間地点で。
 四本の刀は互いに空中を回転し、それぞれの主人の足元まで転がり、そして動きを止めた。
 それを涼やかな眼差しで確認して、操は二本の愛刀を拾い上げた。
 無造作に手にしてすぐに動きを流水になぞらえた歩法へ移行させた。
 隠密御庭番衆奥義の歩法流水の動きで朱雀の周囲を円形に囲む。
 だが――。
「この程度の動き、できないと思ったか」
 朱雀もまた流水の動きで、完全に操を牽制に入ったのだ。
 本来流水の動きとは、水の如くどんな状態にも合わせて変化し、緊急の状況下でも己の間合いを失わないためのものである。動き自体も忍者独特のものがあり、網膜に残る残像現象も合わせて幻覚と動きで撹乱する働きもあるため、小太刀の技と違って見様見真似で繰り出せるものではない。
 もちろん、各々の武術には似ている技というものは存在しているため、純粋にそれを使っている可能性も否定できない。
 しかし、今の動きはどう考えても御庭番衆の流水の動きである。
「……相手の技をコピーする、か」
「ほう? 気付いたか」
「アレだけ真似されれば、馬鹿でも気付く」
 言い放ちながら、右手を順手。左手を逆手に構えると、無駄な動作なしに今度は一直線に朱雀へと駆け出す。
 右手の小太刀を最短距離の突きで出す。それを同じ動作を行ってきた朱雀の刀とぶつかり合うと、止まった相手右腕に逆手の小太刀を切り上げる。だが朱雀は構わずに操の腕目掛けて切り上げた。
 これまでの真似を見ていて、恐らく自分が引かなければ構わず切り上げるだろうと読み、一旦腕を引いた。もうこれ以上ないタイミングで同時に朱雀も腕を引く。
 互いの切り上げだけが若干空を斬ってそれぞれの懐に腕が収まった。二の腕に薄らと切り傷が本当に鏡に映ったものに見える。
「くっくっく! どうだ! これが四神で一度も負けた事がない朱雀の真骨頂! 瞬時鏡明!」
 将棋や盤上ゲームには相手と同じ駒の動かし方をして、実力差を埋めるというものがある。この場合、勝負どころの読み間違いや自力の差がなければ経験不足を補える手法と言われている。
 朱雀の技もこれと全く同じで、相手の出てきた技をそのまま真似ているだけなのだが、ゲームと実戦の戦闘は全く違う。
 実戦では相手が技を出すと同時に軌道、動作、癖、タイミングの全てを瞬時に見抜かなければならない。つまりどんなに速くてもコンマ数秒の差が出てもおかしくないのに、これまでの交差は全て同時であった。
 それが何を意味するのか、口に出さずとも理解しているのに朱雀はあえて口にした。
 他の三人と同様にいやらしい笑みを浮かべて。
「同時に中間でぶつかり合うという事は、我の方が技が速いという事だ」
 そんなものは気付いていた。
 だが頭で理解しているのと実際に言葉と言う感情を形にするのとでは相手に与えるプレッシャーが違う。
 それですら操は判っていたが、それでも実際に言葉にされるとそれなりのプレッシャーはかかる。
 顎にじんわりと滲んだ汗を手の甲で拭い、それでもやるべき事は決まっているため、朱雀と再び対峙する。
(技の単独はダメだ。ならば連続で畳み掛ける)
 流水の動きではなく、それでも円を描くようにして駆ける。朱雀もまた同じ動きだ。完全な円で相手を睨み続けた二人だったが、数周してから攻撃へと変化する。
 今度は両手共に逆手に構えた刀が十数回火花を散らす。
 右から左、再び左から右へと縦横無尽に変化する操の剣戟に一寸の遅れもなく、朱雀もまたもや同じ動きで操の小太刀に合わせて行く。
 ここからだ!
 左の薙ぎから一回転し、遠心力をつける。その間に両手は無形の位の位置に落とす。
 完全に体が回転しきる直前、操の体が急激に切り返した。
 太股の前に置かれていた二刀小太刀が上昇し、刃が鋏の如く鍔元で交差する。

 隠密御庭番衆・小太刀二刀! 呉鉤十字!

 隠密御庭番衆・小太刀二刀! 呉鉤十字!

 同タイミングで呉鉤十字がぶつかり合う。
(ここだ!)
 それが操が待ち望んでいた瞬間だった。
 伊達に無駄だと思いつつも技を出し続けていた訳じゃない。
 剣道で技を出し終えた後で相手の横をすり抜けて振り返るのを残心というが、その技の出し終えた瞬間だけ朱雀はほんの少しだけ剣先がぶれるのだ。

 隠密御庭番衆・小太刀二刀!

 そして先に無形の位にしていたというのも、布石である。そこから技が必ず出てくるという――。
 この技は翼のように広げた腕と回転からなされるものだから。

 回転剣舞!

 大気に交差する六つの斬戟が走る!

 六連!

 しかし……。

 隠密御庭番衆・小太刀二刀! 回転剣舞! 六連!

 もう一つ、同じ交差した斬戟がぶつかり合う。
 ぶつかった四つの刃はそのまま硬い床に斜めに走った痕を残した。
「な……!」
 回転剣舞・六連。
 御庭番衆小太刀二刀術の奥義にあたるものだ。
 だがそれをあっさりと真似されて、操の動きが止まる。
「くっくっく! 無駄だ! 技を幾つ繋げようと意味はないのだ!」
 さすがに同様が隠せない操の小太刀を、瞬時に叩き落す。
「あ……」
「勝負ありだ!」
 これが朱雀の戦法である。
 彼ら兄弟の特徴とも言える性格の根にある残虐性である。
 特に朱雀は相手の技を真似できる瞬時鏡明を使い、相手の奥義までも完全にコピーし、剣術家のプライドを打ち砕いてからトドメを刺す。弱者をいたぶる趣味の玄武とは違うが、近い性癖を持つ朱雀は、名の知れた四乃森操を倒せるという確信に、背筋が快感に奮えた。「ふん!」
「がふ!」
 しかし、弱々しい痛みの声を上げて反り返ったのは朱雀であった。最短距離を走った操の長い足が、彼の鼻を完全に捉えたのだ。
 鼻血が溢れてくるのを抑えながら、後ろに数歩蹈鞴を踏んだ朱雀に大きな溜息が聞こえた。
「……さすがに回転剣舞・六連まで真似されるとは思わなかったよ。でも一つ勘違いしてるみたいなんだけどな」
 話しながら左半身を引き、腕を腰溜めにする。右手を指先を前に突き出して肘を少し折り曲げる。
「隠密御庭番衆ってのは忍者だ。忍者ってのは剣術だけじゃなくて体術も習うんだ」
 
 そこから、朱雀が地面に体を横たえるまで、たった数十秒で決着がついたのだった。





こちらも決着だな。
美姫 「これで、四神は全て倒れたわね」
うんうん。さてさて、次はどうなる〜。
美姫 「コンサートは無事に終わるの!?」
次回もまだまだ目が離せません!
美姫 「それじゃあ、次回を楽しみに待っていますね〜」
ではでは。



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