『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




C] コンサートを守れ! 〜一と青龍

 彼等の戦いは、前に辛勝を得た二人とはまるで異質。異なった内容だった。
 戦闘時間僅か一分。
 その全てをここに語ろう。

「我は青龍。四神の中で一番知略戦を行うもの」
 青龍大刀という青龍刀の柄を刀と同じ長さにした武器を構えて、青龍は斉藤に向けて刃を向けた。
 向けられた彼もまた無言で愛刀を左手で持ち、柄尻ぎりぎりに持って肩の高さで切っ先を敵に向ける構え――牙突の姿勢をとった。
「知っているぞ。新撰組三番隊隊長斉藤一。その得意技牙突。狼の牙の如き一撃は、どんなものすら貫き通す。しかし! しかししかし! その程度の黴の生えた技など、我が剣技の前には無駄!」
 そこまで言われても、斉藤は無言のままだった。
 刀の切っ先が僅かに煌く。
 それが戦闘の合図だった。
 強靭な脚力で一足飛びに青龍へと飛び掛った斉藤の牙突が、容赦なく青龍の腹部へめがけて突き進む。合わせる様に青龍大刀の刃が落ちてくる。日本刀は滑らかな曲線と火花を散らしながら、目標を逸らされて牙突の弱点ともいえる体の流れがむき出しになる。
 そこを見逃す青龍ではない。
 地面に向いていた刃を手首の返しだけで跳ね上げた。
 右脇腹を薄らと切り裂かれても無表情を変化させず、そのまま交差気味に二人は再度距離を取る。
 すぐさま斉藤は二撃目の牙突の構えから突進をかけた。
 同じく青龍もまた再び牙突を完全に防ぎきった。
 三度対峙する二人。 
 彼等の戦いは一志の闘いよりも無言だった。
 そして青龍は斉藤を理解していたのだ。
 名が知られるという事は、それだけ未知の相手に当たった時に不利になる。だからこそ、青龍は今まで確実に勝利を得る相手としか闘ってこなかった。
 目の前で何度も同じ構えを取る相手に、笑みが零れそうになるのを抑えながら、頭の中でどれくらいで闘いを終えるかを計算していく。
 斉藤は牙突一辺倒だ。
 あの五色不動のクラインを倒した時も牙突のみである
 そして牙突の中にも種類が確認されている。
 まずは今すでに二回打ち破った通常の牙突壱式。地面に平行にした突きだ。かわされてもその後斬撃に繋げられる。
 続いて牙突弐式。
 頭上に持ち上げて刃を上にして切っ先が目線の高さに習うようにする。手加減無用。自重すら完全にかけられるこれが本物の牙突である。
 最後に牙突参式。
 対空迎撃用の牙突だ。下から打ち上げ、更に斬りにも変化可能。
 以上の三種類が彼の技の全てだ。
 いや普通の剣術も心得てはいるが、明治維新の時の斉藤一と同じく、彼は牙突以外の技で勝敗をつけた事がないのも調査済みである。
 相手の得物は日本刀一つ。
 こちらは青龍大刀。この間合いの差は致命的だ。元々牙突は圧倒的な速度で間合いを凌駕して一撃必殺を持つ技だ。それもあっさりと自分の技が破った。これで勝率は百パーセントになった。
(これで俺の勝ちだ! あの新撰組の斉藤一に勝った!)
 青龍大刀は牙突では打ち破れない。それは今の二撃で理解した。
 その間に斉藤が三撃目が襲い掛かってくる。
 だが今度は青龍は打ち破らず、大刀を回転させて柄で刀を弾くと、回転させた刃で斉藤の太股を深々と切り裂いた。
 斬り裂かれたのは着地に使う右足。
 思わず斉藤の動きが鈍った。そこを見逃さず、青龍は続けざま軸足になっている左足にも深く刃をつき立てた。
(これでおしまいだ! 完全勝利!)
 動きが完全に止まった斉藤を縦に切り裂こうと、青龍は大刀を思いっきり振り上げた。
 だが彼は四神一の知略家を名乗りながら、一番見なければならない場所を見落としていた。
 狼は瞳が輝きを失うまで、勝負を捨てないという事を。
 青龍大刀が高速で空気を切り裂きながら振り下ろされる。しかし狼は見るもの全てを斬る鋭い瞳で、青龍を見据えていた。
 青龍の背筋にドライアイスのような、冷たさではなく痛みを伴う悪寒が走る。
 次の瞬間、斉藤の上半身がブレた。
 大刀が頭上に来ているにも関わらず、筋肉の限界まで腰を左に振ると、捻ったゴムが反動をつけて戻ると同じく、右に回転がかかる。そして突き出されたのは――。

 牙突――!

 狼の牙が深々と青龍の腹部を貫通した。

 零式!

「ぐ、がぁぁ!」
「ふん。何を思っていたか知らんが、この程度で俺が負けるか。どうせくだらない噂話ばかりで実戦を殆ど無視していたんだろう。いいか良く聞け」
 吹き飛んだ青龍は舞台袖の壁に日本刀ごと貫通されながら、踵を鳴らして近づいてくる斉藤を睨み上げた。
「俺を倒したければ悪・即・斬の信念を折ってみろ」
「くぅ……」
 それだけ言葉を交わすと、斉藤は近くにあった黒い布を青龍にかぶせた。
 これで見た目は怪我人とは思わない。
 自分の足をそのままに、近くにあった箱に腰を下ろすと彼は懐から取り出した煙草を吹かしながらステージから聞こえてくる椎名ゆうひの歌声を聴いていた。





斉藤強し!
美姫 「流石よね。悪・即・斬」。私も見習わないと」
じゃあ、鏡に向かって……ぎゃっぁぁ〜〜す!
美姫 「私の場合は、浩・即・斬だけど」
……そ、それって、俺を見たらすぐに?
美姫 「そう。斬る!」
ひ、酷いよ、美姫ちゃん。
美姫 「いやなら、書け。書かねば斬る」
う、うぅぅ。
美姫 「さて、これでコンサートのあちこちで起こっている襲撃も後少し」
一体、どうなるのか!?
美姫 「次回も楽しみね♪」
次回も待っていますね〜。



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