『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




CT 夏休み? 今の俺はそれどころじゃない。

 思い出せ! そして思い返すんだ!
 あの時、俺は突然目隠しをされて昔の職場に押し込まれた。なのに一緒に人質になった奴らは俺はいなかったという。しかも移動させられなかったのは俺一人。なるほど。普通に考えれば単独もしくは共犯者がいるように見えるな。
 点数稼ぎしか頭にない今の警察には俺は格好の獲物なんだろう。
「ねぇ」
 と、また俺が人質に取った女が声をかけてきた。
 全く。俺が思考の海に浸らなければならない時に、何度黙れと言っても少し時間が立つすぐに話しかけてくる。
 代官山で目の前に立ちふさがった時の動きから反射的に倒してしまい、そのまま連れて来ただけだから開放してもいいんだが、今するのはまずい。警察に駆け込まれると足がつきやすくなる。
 そのまま無視して思考に没頭しようとすると、また女が声をかけてきた。
 うざったい。
 どうして女はこんな状態でも口を塞がないんだ。
 いらつきを隠す事無く、力を込めた視線をぶつける。
 女は――なれているのか?――それを簡単に受け流すと、予想をしなかった言葉を口にした。
「私は千堂瞳。東北千尋大学護身道部コーチをしてるわ。貴方は?」
 おそらくとてつもなく間の抜けた顔をしたと思う。
 いやそれは普通の反応だ。
 まさかこんな状況で自己紹介をするなんて、考えもしない。
 動きかけていた思考の海が急激に遠のいていく。目の前にいる女の考えが読めずに今度は反対に俺がまじまじと眺めてしまった。
「いくら人質でも名前くらいは知っておいてもいいでしょ」
「……橘修吾だ」
 必ずわかってしまう事を隠すつもりは無い。
 あっさりと名前を告げると、心に浮かんだ疑問をそのままぶつけてみる事にする。
「護身道?」
「ええ。短い棍と合気道と柔術を組み合わせた護身を目的とした武術よ。それの合宿に来ただけでこんな目にあってるわ」
「そうか。不運だったな」
「本当に自分でもそう思うわ。で、相談したい事があるの」
「相談?」
 これまた面白いことを言い出す。
 まぁいい。
 薄らと口元を引き伸ばして、俺は脚を組み替えた。
「素直に取引と言え。何が望みだ」
 すると女は子供を褒める様に頷くと、わざとらしく座り直した。
「じゃ取引。何を悩んでいるかしらないけど、さっきの警察に関係する事なら、私もさっさと開放されたいし、一緒に考えさせてくれない?」
「……はぁ? クックック。何を言い出すのかと思えば……」
「現場にいなかった。だからわからない。そんな事しか考えられないと迷宮に迷い込んでしまう。だから完全な第三者からの見方が必要になる。貴方探偵? 違うなら素直に協力者を仰いだほうがいいわ」
 この女……。
 俺が一番心の中に埋め込んだものを掘り起こしやがった。
 確かに俺は探偵じゃない。
 だがそれでに自分の無実を一番知っている俺は、どうにかして馬鹿の集まりである警察をおとなしくさせる方法を考えたいところだった。一緒に考えてくれるメンバーがいるのは助かる。
「だがお前がわざと俺の機嫌取りをする可能性があるな」
「そんな程度で開放するんなら、最初から人質を取るとは思いません」
 きっぱりと言い切る姿に、俺は声を上げて笑ってしまった。潜まなければならないのに気にする事もなく……。
「わかった。俺が持っている情報を提供する。それで逃げられても俺がそう判断したからだ。何が起きても後悔はしないし、恨みもしない」
「交渉成立ね。それじゃ何が起きてどんな冤罪を被せられたのか聞いていいかしら?」

 その頃、剣心達分かれた一行はやる事もないのでゆうひ達の陣中見舞いもかねて会場を訪れていた。新宿新国立劇場で行われるコンサートの準備で頻繁に人の行きかう劇場横に出るエスカレータを出て関係者入り口へと向かう。
「あれ?」
 その途中でなのはが見慣れた後姿が二つある四人組が佇んでいるのに気がついた。
 一人は濃紫のロングストレートで、一人はショートカットの薄い紫色をした互いに長身の女性だ。隣には赤紫に見えるウェーブのかかったロングのスーツを着た女性と、長い弓道袋を持った黒髪ストレートの女性が会話していた。
 しかしどう考えても海鳴でしか見かけない姿に、隣で驚いている那美と顔を見合わせてしまう。
「え〜っと、忍さん?」
「ん? あ、みんな発見。高町家に行ったら東京だ〜っていうから、絶対ここにいたら会えるって思ったのよ〜」
 そこには白のノンスリーブに赤いタイトミニの月村忍と淡い青色シャツとブルージーンズ姿のメイド・ノエル。そして少し険しい表情の綺堂さくらと神咲葉弓が、大人数で現れた親友達に、頬を緩めた。
 忍達は早足でなのは達に近づくと、ふと中に顔の数が少ない事に気がついた。
「あれ? 恭也は? 美由希ちゃんもいないし……」
「ああ、二人ともリスティさんについて……」
「千堂先輩の捜索ですか?」
「へ?」
 今度は説明役を買って出た真一郎が頭にハテナマークをつける番だった。
「何で知っているんだ?」
「私と葉弓さんは先日千堂先輩の誘拐現場にいましたから」
「いたのに、助けられなかったの? それだけの力があって?」
 一体どうなってるんだ?
 今まで夕凪の後ろでぼ〜っとしていた筈の美姫が、これまた関係のない一言を口に挟んだ。
「ええ。相手は周到でした。わざと千堂先輩の意識が朦朧とする一撃を加えて、更に動脈を微妙な力加減で圧迫していく。隙をついてと考えましたが、私の弓でもさくらさんでも見つけられませんでした」
 美姫の質問に答えたのは葉弓だった。
 三人の美女は互いに視線を一瞬だけ交わらせると、忍出現によって上がった空気の温度が瞬時にマイナスまで低下したかのような錯覚を見ている人間に与えた。
(ゆ、夕凪ちゃん、止めて〜)
(無茶言わないでください! あたしが殺される!)
 会話内容丸聞こえの内緒話を敢行している夕凪と那美に、とばっちりで三者の視線が突き刺さる。
 カキンと音まで聞こえそうなくらいに固まった二人に、小鳥となのはが同時に苦笑を浮かべた。
 だがこの状況でただ一人、問答無用で動ける人間がいた。
「あ〜。三人でガシガシやるのはいいけど、結局恭也はどこ〜!」
 暴発機械娘忍が、久々の出番……いやいや恭也と遊べると思っていた期待と、忙しくて会えなかった鬱憤が爆発させた。両手で握り拳を作って高らかと吼えた。後ろで全くの無言でノエルがどうどうと馬を落ち着かせるように肩を抑えている。
「とりあえず新宿警察署でリスティさんと一緒のはずだよ」
「わかった! アリガト! ノエル行くよ〜!」
 終始無言のメイドを引き連れて、場の雰囲気を全く読まない忍はのしのしと消えていった。
 その後姿を見送って、毒気を抜かれた三人は大きな溜息二つと苦笑を一つ浮かばせた。「とにかく私は一度忍と約束があったので合流して、千堂先輩救出を考えていましたが、あの三人が行ったのであれば変に首をつっこむのも混乱をさせる上に警察にも不信感を与えてしまうので今は結果を待つつもりです」
「微妙に白状ね」
「否定はしません」
「でも信頼してるんだ?」
「……長い付き合いですから」
 ぴりぴりとした空気がさくらと美姫の間から消えて行く。
 それを察知してか、真一郎の後ろに体半分を隠すようにしていた小鳥が、恐る恐る提案を発言した。
「あの、そろそろ二人の応援に行かない? あまり遅いと逆に迷惑になっちゃうかもしれないし……」
「あ、そうだな。じゃ紅さんもさくらもそこでお開き。椎名さんとフィアッセさんの陣中見舞いに行こう」
 納得したのだろう。
 今まで睨みあっていた三人はまるで昔からの友人のように隣に並ぶと、和気藹々と話し始めた。もちろんそんな美姫を始めて見た夕凪は心の中で驚いて、心の中で転んで、心の中で滑って、心の中で溺れたが、何とか顔に出さずに済んだのだった。


 ※           ※           ※          ※

「ここか?」
 海鳴メンバーが会場に入った後で、二人の女性が新国立劇場の前に飾ってあったコンサートPR用看板を見ていた。
「志野、まさか?」
「ああ。どうせ兆冶のバカの計画に入っているんだ。先にやっておいて問題ないだろ?」「だがここで目立つのはまずい」
「うるせぇな。オレはさっさと計画を終わらせて不破夏織を殺してぇんだ! 咲那、邪魔するなら殺すよ?」
 それは会話からわかるように、瀬田雅孝と別れた天美志野と咲那の二名だった。
 だが志野の殺害予告に、咲那の瞳がすぅっと薄くなる。
「試してみるか?」
「……楽しそうだがな、今は目的を先にしたい」
「そうか。なら私の部下も含めて確実に襲撃しよう」
「いいのか?」
 しかしそれ以上咲那は答えず、一心に戦場となる新国立劇場を見つめていた




夕凪「ちょっとちょっとちょっと!」
な、なんだよ? ビックリしたなぁ。
夕凪「アンタ、美姫さんのサイトの更新履歴見た?」
いや、だからあれは浩さん……ってナンデモナイデス。
夕凪「そんな戯言はいいから! 更新履歴みなさい!」
(戯言って……)んと何々? 2004/09/06? あ、これはボクの初投稿の時だね。いきなりメールしちゃったからすごく失礼だったね〜。
夕凪「そうそう。アンタもすでに○○才なんだから……じゃなくて! 投稿1周年なのよ!」
……おお。
夕凪「おお。じゃない! どうすんのよ!」
何が???
夕凪「抗議文が山のように着ているのよ!」
何だって!?
夕凪「あたしが出したんだけど」
だぁぁぁぁぁぁぁぁ!
夕凪「でも、shirfide@yahoo.co.jpまで1周年なので『こんなにつまらないSS書くんじゃねぇ!』係でメール待ってます」
勝手に公表しないでくれ〜〜〜!



おおー、一周年! おめでとうございます!
美姫 「おめでと〜。夕凪もお疲れ〜」
いや、そこは夜上さん……イエ、ナンデモナイデスヨ。
美姫 「さて、捕まった瞳とは別に、劇場側でも嫌な雰囲気が…」
うお〜! 無茶苦茶気になりますな!
美姫 「本当に、次回が待ち遠しいわね」
一体、何が起こるのか!? 次回も楽しみです!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。



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