『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』
C 特別練習に来た……筈だったんですけど、どこでこうなったのか……
さてどうしようか?
折角の東京観光なので、少し無理をして購入した真白のワンピースに薄いグリーンを落とした薄手のカーディガンという夏に相応しい涼しげな格好なのだが、それもこんな森と呼んでもおかしくない場所では、逆に寒々しい。更に手を後ろ手に縛られているのなら雰囲気すら険悪なものが流れてしまう。
そんな千堂瞳の前に腰を下ろして、手を顔の前で揃えた橘修吾は、必死の目付きで地面を見つめていた。
「とりあえず、開放してくれないかしら?」
「ダメだ。俺の無実を証明するまでは付き合ってもらう」
「それは何時?」
「……終わるまでだ」
何度この問答を繰り広げたのだろう。
結局はその後、黙ってしまい終了だ。
繰り返されてしまう質問に、瞳は溜息をつきながら何故こうなってしまったのかを思い出していた。
前日の昼過ぎ。
さくら達と合流した瞳は、ホテルも一緒にしようという申し出を受けて素直に綺堂家系列のホテルに宿泊先を変更した。
場所は合宿所にも近いため、時間を気にする必要もなくなった。
と、いうのも体育館や道場は借りられたのだが、宿泊施設が丁度陸上の世界大会と重なってしまい、それぞれ協会出資でホテル住まいを余儀なくされていたからだ。
「原宿も近いですし、たまには御洒落もしたいですね」
それは葉弓の談だったが、妙齢の女性が三人も揃えば姦しくもなる。
移動日に当てていた初日が一気に華やいだので、三人はそのまま世田谷代官山に出向く事になった。
平日にも関わらず人出の多い代官山は、それでも歩くには問題のない量だった。
露天でアイスを買い、ウインドウショッピングをしながら歩を進めていく途中で、ふと通りの奥が騒がしくなった。
何事かと振り返ると、両手をしっかりと手錠が押さえ込み、更にヨレヨレのジーンズと無地の青色のシャツの組み合わせの男性が猛然と賭けて来ていた。
逃げ出したこそ泥か?
瞳の第一印象はそれくらいにぼさぼさになった髪と無精髭に集約されていた。
一歩前に出た瞳を止める事もせず、さくらと葉弓は邪魔にならぬように一歩引いた。が、それが間違いだった。
男と瞳の視線が交わると同時に、瞳が腰から下に向けてタックルのように不安定になっている片足を払いに出た。しかし男はしなやかな猫科を思わせる彼女の瞬檄を、瞳の更に下に潜り込む事で回避した。しかもそれだけではなく、両手を頭上すれすれにある腹に当て、膝を伸び上げると同時に突き上げた。
スペースにして僅か五十センチ。
瞳の頭一つ分大きい男が行った動きに、さくらと葉弓も瞳が引き締まった。全くただの男が瞬時に達人へと変貌したのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
何とか反射神経だけで腹への双掌打を肘で受け止めた瞳だが、如何せん余りある体重差と男女の筋力差が、細身の肢体を完全に浮かび上がらせる。
威力は武道を嗜む瞳の意識を数瞬に渡り朦朧とさせる威力があった。
だがこれだけでは済まなかった。
男は瞳のワンピースを掴むと、強引に自らの胸元に引き寄せ、手錠の鎖で首を締め付けたのだ。
「動くな!」
想像より高い声が警官とさくら達の動きを止める。
「手錠の鍵をそこに置け。で、五メートルは離れろ」
強めに鎖が喉にしまる。
「あぅ……」
小さい悲鳴が口をついた。
(そこで意識が途切れてる。おそらく周囲に気付かせないで私をオトしたんだわ)
実際、人の意識を失わせるのは指二本あれば事足りる。
頚動脈を僅かに押さえればそれだけで血流が止まり、ブラックアウトするからだ。
一度患部を触ってみたかったが、気付いた時にはすでに後手に縛られていて、そうする事もままならない。
「ねぇ? ちょっといい?」
「何だ?」
「とりあえず、あるなら事情を説明してもらえないかしら?」
「相楽? それに紅先生と那美さんまで? 何でここに?」
「そっちこそ勢ぞろいなメンバーだけど、わざわざ海鳴から来たの?」
ニュースを見た翌日、剣心達についていこうとしたフィアッセを、珍しくゆうひが抑えてコンサート準備に出かけてから、残りのメンバーは新宿警察署に来ていた。
そこで同じくコンサートのために、東京観光をかねて二日前に訪れていた夕凪達海鳴組と鉢合わせた。その顔を合わせた第一声が冒頭の状態である。
「いや俺は実家こっちで、小鳥さん達は家に泊まってもらってるけど……。そっちは?」「椎名さんからコンサートのチケットを頂いたんです。でも遠いのでチケットは三枚でして、それで昨日東京に来たばかりなんです」
相変わらず久遠を胸に抱いて、那美も心配げな表情で偶然再会したメンバーの顔を見回した。
「でも、警察が全然情報をくれなくて……これからどうしようかって……」
「あれ? ユナにナミ? それに恭也達も……。どうしたんだい?」
そこへ再三懐かしい声が聞こえて全員が声の方向へ振り返ると、そこには煙草片手のリスティ=槙原の姿があった。
※ ※
「ああ。確かに今回の事件はボクのミスだよ。解決の為に呼ばれたんだけど、まさか脱走するとは思わなかった」
リスティの話を統合するとこうだ。
剣心達が上京する前に起きた銀行強盗の捜査に、海鳴から栄転になった刑事が助けを求めた。
事件の概要は西新宿にある東和銀行に銃を所持した強盗が襲撃した。強盗は中の人間を全て目隠しし、監視カメラの電源を全て抜くと人質となった人々を二階に連れて行ったりまた一階に下ろしたりを数回繰り返させ、最後に二階窓を割って逃走した。この中で唯一アリバイが成立しなかったのが橘修吾だった。彼は一人だけ店の奥に連れられ何故か暴行を加えられた――と主張している。しかし人質だった誰一人として呻き声一つ聞いておらず、暴行の後は修吾の体にあるが血痕一つついていない。しかも彼は連れられてきたと言っているが、実際は東和銀行の警備員としてアルバイトをしていた経験もある。中の状態、一人だけないアリバイから警察が状況証拠でまずは逮捕して、リスティが後でHGSで心を覗く予定だった。
「その途中で先走られて、逃げられたって訳さ。トイレに行きたいと言われて何か格闘技でもしてたんだろ。ものの数秒で警官一人を落として、逃走。瞳を一瞬でダメしたんだからかなりの技量だね」
場所を警察署近くの喫茶店に移して、相変わらずのチェーンスモーカーぶりを露にしながら事の一部始終を語り終えた。
「あの人を倒すって……一体……」
隣で小鳥が頷く中でげんなりと真一郎が感想を漏らす。
「ですがこのまま放置と言う訳にも行きませんしね。どうするんですか?」
うん。と小さく唸って、リスティはぐるりとメンバーを見回した。
「恭也と美由希ちゃん、それに緋村君にボクと一緒に瞳救出と事件解決の手伝いを頼みたい」
「わかりました」
「了解です」
「ええ! 俺? かったる……是非ともやらせていただきます」
思わず背後から伸びた那美の短刀に、丁寧語になる剣心だった。
「美姫さん、何時の間に私の〜!」
「いいじゃない。減るもんじゃないし」
「俺の寿命が縮みます」
夕凪「祝!」
連載!
二人「100話達成〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
夕凪「っておめでたいの?」
……微妙。
夕凪「オイオイ」
だってね〜。100話でこれって事は、間違いなく200話コースな訳で、で、一瞬でも『原作と同じ話数だと面白いな〜』なんて危険な事も考えちゃった訳だし。あっはっは〜。
夕凪「本気で笑い事じゃないわ。どうするのよ?間違いなく美姫さんを困らせてるのってアンタよ?」
自覚はあるんだけどね〜。むぅ……。ボクがレンタルサーバーを借りて、浩さんに譲渡するか。
夕凪「ついでにINDEXくらい作ってもいいわね。簡単なHTMLなら使えるんでしょ?」
うん。リンクまではね。JAVAは苦手だけど。ま、考えておきますわ〜って、今気付いたんだけど。
夕凪「なに?」
今日は夕凪だったんだね。
夕凪「遅いわ!」
ハギャァァァ!
全然、問題なし!
美姫 「そうそう、こんなに面白い作品が読めるんだもんね」
うんうん。
美姫 「それに、苦労するのは浩だけだしね」
うんう……って、おい!
美姫 「という訳で、どんどん投稿してきてね」
いや、まあ、それは確かに歓迎します。
美姫 「でしょう」
ああ。
美姫 「さて、攫われた瞳を救出するメンバーも決まって、いよいよね」
さて、どうなるのか。
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃあ、次回も待ってますね」
うーん、果たして、瞳は無事に救出されるのか?
まあ、瞳と話をしている橘って人の言葉を信じるなら、大丈夫そうだけど。
美姫 「それでも、少し心配ね。まあ、浩が攫われたんなら、間違いなく放っておくけどね」
言うと思った……。