とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




XC\ 妹達の引率で東京見物です。

 その夜はとても賑やかなものになった。
 思いがけずに飛び込んできた客人は、一ヶ月前に剣心が連れてきた高町兄妹であり、更には当の本人緋村剣心も兄の浩と共に四人も客連れてきた。しかも内二人は世界的に有名なCSSのフィアッセ=クリステラとSEENAこと椎名ゆうひである。雫は見た目変わらず微笑を浮かべたが、追い討ちの如く帰宅した緋村ほのかは大のCSSファンであり、目の前にいるのが本物だと知ると、挨拶をする間もなく自室から色紙を数枚持ち出した(もちろん、雫にきつい一撃を喰らって昏倒させられたが)。ともかく増えた客人に、父親の良も腕を振るい、気付いた時には道場のスペースがなければ一同に介せない位の料理が溢れる始末である。
「兄さん、俺、頭痛くなってきた」
「奇遇だな。俺もだ」
 と、いう兄弟の会話があったりなかったりしたが、途中で加わった全員を含めて宴会となったのでありました。
「あら? ホテルに?」
「ええ。一報入れておきましたので、チェックインハギリギリまで大丈夫にしてますが」 宴会開始早々、雫が面識のある美由希達の輪に混じり、滞在中の宿について聞いたところ、恭也から上記の答えが返ってきた。
 そのまま下唇にすらりとした指を当てて「ん〜」と悩んだ後で、ぽんと彼女は手を叩いた。
「だったら家に泊まりなさいな」
「え? でも……」
「剣ちゃんもお客様連れてきてるし、まだ部屋は余ってるもの。ホテル代も高いし、それに……」
 ここで間をおくようにコップに注がれていたビールを飲み干すと、恭也の腕にゆっくりと手を這わせた。
「!」
「これだけ鍛えてあるのに、旅行中鍛錬ができないのは苦痛ではない?」
 思わず雫の仕種と表情に妖艶な色気を感じて、少しだけ恭也の頬が熱くなったが、確かに彼女の言うとおりである。
 ちらりと隣を見ると、美由希となのはが浩とほのかを相手に談笑に入っている。
「そうですね。妹達もリラックスしてますし、出稽古に来たつもりでお世話になります」
「はい」
 嬉しそうに返事すると、そのままフィアッセ相手に話をしている良の元へと移動していった。
「ただ美由希達のお世話になった挨拶に来ただけなんだがな」
 嫌いではない日本酒を喉に流し、大きく息をついた。
「あやや。恭也君調子悪いのかな?」
 こちらはゆうひを含めて飲んでいる大人四人。
 恭也の様子に気付いた小鳥に真一郎。それにゆうひとつい先日退院した源柳斎も何気に若い女性に囲まれて嬉しそうだ。
「でも椎名さん、ここにいていいんですか? コンサートの打ち合わせとか、スタッフが探してるんじゃないんですか?」
「ええのええの。今回は殆どアドリブコンサートの予定なんや。それに久しぶりの再会やんか。今日はここでパ〜っと楽しまんかったらバチ当たるで〜!」
「おお! よく言った! お笑いの姉ちゃん! 気に入った! 東京に滞在中……いやこれから東京にきたら神谷道場に泊まるといいわい」
「ホンマ? ええの? いやん。おじ〜ちゃん太っ腹や〜」
 何やら波長があった二人に、さしもの婚約カップルもノリから外されたようで、唖然としてしまった。だがふと合った視線を小鳥はそそくさと外した。
 それを見て、真一郎も大きな溜息をついた。
 小鳥が何を気にしているのかは薄々真一郎もわかっていた。
 北海道に行って帰ってきてからなのだから、間違いなく雪の事である。そして気にしているのは真一郎が雪の記憶を持っていたというほぼ百パーセントの確立の推論を心の中に持っているからだ。
 何時になったら前に戻れるんだろう?
 綺麗に繊維が潰れずに切断された腕は時間がかかるが元に戻るとフィリスに言われた。同じように小鳥との関係が再び戻るのを思い、今は注がれていた日本酒を半分位飲んだ。 そんな二人の様子を雫より開放された恭也は、不振を心の中に浮かべながら何気なく隣でゆうひと談笑している源柳斎と視線が合った。
 瞬間、生身一つでライオンの檻に入れられたような悪寒が背筋を奔った。
 何処か遠く高みより研ぎ澄まされた牙で狙われている、食される側の空気が体中を包む。が、それも一瞬の事だった。すぐに悪寒は過ぎ去り、空気に紛れた牙は霧散していった。「あの爺さん、性質悪い事してるな」
「あ、気付いた?」
「あそこまであからさまにかましたら、剣術してなくてもわかる」
 何故か兄弟二人で夕飯を囲む事になった剣心と浩は、疲労感に捕らわれた恭也とゆうひにセクハラ紛いぎりぎりの触り方をしていた源柳斎を睨むように見て、同時に溜息をついた。
「でも、兄さんがフィアッセさんと知り合いだったとは驚きだったよ」
 前回帰ってきた時にそんな話をしていたなぁと思い出しつつ、手作りのガンモを半分頬張った剣心は、同じく茄子の天麩羅を口にした兄をちらりと見上げた。
「そうだな。何か煩くて名前が聞こえなかったが、まさかあのCSSの関係者だとは思わなかった」
「まぁこっちも美由希さんとか、相川さんとかが知り合いってのも驚いたけど」
 普通に考えて世界規模の親友を持つ家族など数える程度しか居ない訳で、更に家族とCSSの二人の話を聞いていると、妙な順応性から神谷道場も不思議な輪の中に巻き込まれてしまった可能性が高い。
「は〜。落ち着いて生活したいから海鳴で一人暮らしって思ったのに……」
「この家に生まれた時点で平凡からは一番遠くなるのさ」
「一人で達観しないでよ」
 人一倍不安定な職業についている兄の一言に、しっかりと関西風出汁が染み込んだ大根を四分の一に切り分ける。
 それを二人で二個ずつ取り分けると剣心は浩が向けている視線の先に気がついた。
 今まで気にしなかったが、話の最中に頻繁に眺めていた女性に、絵とギター以外に興味を持たなかった兄が家族以外の人に興味を持った事実は、驚愕に値するものだ。
「兄さん?」
「ん? ああ、また彼女の歌を聴きたいと思ってな」
 どうやら予測は完全に当たったいるらしい。
 一言聞けるといいな。とだけ感想を述べて、ふと舞い降りた沈黙に耐え切れなくなり道場で宴会を行う時に使用するテレビの電源を入れた瞬間、沈黙は唖然とするものに変化した。

『――繰り返します。昨日東京都新宿区の東和銀行四億円強奪事件の容疑者橘修吾が、護送中に脱走。近くを通りかかっていた東北千尋大学護身道部コーチ千堂瞳さんが巻き込まれ、橘容疑者に連れ去られたとの事です。現在警察が行方を追っています』

「はい?」
 それを呟いたのは誰だったかわからないまま、海鳴からの来客は意識が完全に止まった。




美姫「連載九十九話〜! ひとえに私のおかげね! 作者が違っても私は私。私が居たからこその連載!」
……また夕凪じゃな……がふ!
美姫「何か?」
いえ……何でもありません。
美姫「よろしい。浩より物分りがいいわね」
(死にたくないから刃向かえないとは言えないわ)お、お褒めに預かり光栄です(汗
美姫「それはそうと、本当によく続かせるわね」
ああ、それに関しては自分でもそう思う。最初は五十話くらいのつもりだったけど、気付いたらあれよあれよと百話だし。
美姫「無謀ね」
ぐふ!
美姫「蛮勇ね」
げふ!
美姫「バカにつける薬はないと言うけど、事実だったとは……。MITで論文にでもしようかしら?」
そ、それくらいで勘弁してください……
美姫「とにもかくにも、後一話で百話の大台!」
せこせこと情けなく書いていくので次回もよろしくお願いします〜



……美姫があっちに行っていると言う事は……。
夕凪 「正解〜。美姫さんの変わりに登場〜」
スピスピ〜ZZZ
夕凪 「って、寝ないでよ!」
いや、冗談だって、冗談。
夕凪 「それにしても、後一話で大台なんですよ、大台!」
うんうん、本当に凄いよな〜」
夕凪 「でも、私や美姫さんの出番が少ない〜〜」
まあ、まあ。それに、今回の話では、出番ないんじゃないの?
夕凪 「……うわぁぁん、浩さんの所為だ!」
ぐげっ、ぐぎょ、な、なして……。
夕凪 「空が青いのも、郵便ポストが赤いのも、みんな、み〜〜んな、浩さんの所為だ〜〜!!」
がっ、ちょ、ま、や、やめ……がはぁっ! ぐぅぅっ!
夕凪 「……ふぅ〜、すっきりした〜」
お、俺はガクガクしてる……。
夕凪 「あれ? どうして寝てるの?」
……シクシク。
夕凪 「泣かない、泣かない。よしよし」
うぅぅ、ありがとう夕凪ちゃん。…って、アンタが原因でしょうが!
夕凪 「きゃぁっ。こ、怖い」
あ、ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。
夕凪 「もう、虐めない?」
勿論。
夕凪 「大声で怒鳴らない?」
コクコク
夕凪 「じゃあ、許してあげる(くすくす、成功〜♪)」
と、とりあえず、次回も楽しみに待ってますから。
ではでは。



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ