『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




XCZ 夏休みのご予定は?

 その一:野々村家

「帰省?」
 夏休みに入って三日目。
 北海道でのわだかまりが剣心ですら気付かないくらいに小さくなったように思える頃、前々から決まっていた修行をかねた帰省を告げたところ、箸を加えながら小鳥が目をぱちくりと瞬かせた。
「ええ。修行をかねて……」
「で、父さんも取材で夏は休みが取れないし、剣心君も良いって言ってるから、一緒に東京観光でもしてきたらと思ってな」
 栄治は風呂上りのビールを煽りながら、から揚げのロースト風味というオリジナル料理を持ってきた真一郎を含めて交互に顔を見比べた。
「それじゃホテル取らなくちゃいけないね」
「いえ、家は無駄に広いんで、家に泊まればいいです」
「いいのかい? お邪魔じゃないのか?」
 気にしなくていいです。その一言で三人の上京が決まった。

 その二:さざなみ寮

「……と、言う訳で、チケットが余っちゃったんだ」
 テーブルの上に置かれた『椎名ゆうひ&フィアッセ・クリステラ ツインクルコンサート』と書かれたチケットが三枚置いてあった。
「俺は寮を離れる訳にもいかないし、愛も病院を休めない。でも折角だから誰か行って来たらいいよ」
 チケットの下の部分に開催会場が新宿新国立劇場となっている。
「あったしパ〜ス。風高の臨時コーチ頼まれてるの」
「う〜……アタシも愛を手伝わないといけないのだ……」
「美緒はそれだけじゃないでしょ?」
「な、舞! 何を言うのだ!」
「はいはい。いつもの獣看護士のギタリストね。私は一度実家に戻る予定なのでいけません」
 奈緒も同じなのかコクコクと頷いている。
 すると必然的に残るのが二人になる。
「まぁ札幌に帰る前にって事でいいなら。美姫さんも暇だろうし」
「ゆうひさんの歌好きなので私はOKです」
 こうしてこちらも三人が東京行きが決定した。

 その三:高町家

「フィアッセからコンサートのチケットが届いたって?」
 携帯に桃子よりメールが届いており、夕方の練習より戻った恭也は居間に入るなり夜のニュースを見ていた母に問いかけた。
「おかえり〜。そうそう。で、桃子さん行けないから、美由希となのはを連れて行ってきなさい」
「晶とレンは?」
「ん〜……二人とも用事があるから遠出できないって断ってきたの」
「そうか」
 台所に入り、グレープフルーツジュースをコップに注いで戻ってきた恭也は、半分ほどジュースを煽ると、こう聞いてきた。
「日付は?」

 その四:北海道新千歳空港

「千堂先輩?」
 機上手続きをしている瞳の後ろから、聞き覚えのある声で呼びかけられて反射的に振り返ると、高校時代の後輩が体の前で手を組んで微笑んでいた。
「綺堂さん。それに……」
「初めまして。神咲葉弓と申します。いつも薫からお話は伺っています」
「ああ、従姉妹の。初めまして。千堂瞳といいます」
 長身で髪の長い二人が微笑みながら握手を交わす仕種は、遠巻きから男女問わず見とれてしまった。
「それで北海道なんかでどうしたの?」
「ええ。家の頼みで調べ物をしていまして、葉弓さんにも付き添いをお願いしたんです」
 実際は氷村遊の痕跡を辿っていて北海道に辿りついただけである。だが綺堂家の裏側を詳しくまで知らない瞳に、それ以上の説明をさくらはしなかった。
 瞳もまた、さくらが秘密を持っているのは知っているが、あえて口にしようとはせずに小さく頷く事で返事をした。
「千堂先輩はどうして北海道に?」
「私は護身道の特別コーチに呼ばれて、大会が終わってから北海学園で学生の指導に来てたの」
「ふふ。薫の言っていた通り、ひっぱりだこですね」
 そんな事ありませんよ。と、言ってはみたものの、最近は指導依頼が殺到している事実と、それをわかっているさくらは笑いを溢した。
「で、これからどちらに?」
「東京で社会人の強化合宿があって、二週間くらい行く事になったの」
 東京。
 その一言にさくらと葉弓は顔を見合わせた。
「何?」
「いえ、実は私達もこれから東京で、忍とノエルさんと」
「私の従姉妹にあたる神咲楓と北斗と会う予定なんです」
「それは……すごい偶然ね」
「本当に」
 こうして三人は羽田空港での合流を約束して、各々の座席へと移動していった。

 その五:イギリス・ヒースロー空港

「じゃ恭也達によろしくね」
「了解や! しっかり御土産話聞かせたるためにも、椎名ゆうひと!
「フィアッセ=クリステラは行ってまいります〜」
 ゆうひは右手で、フィアッセは左手で敬礼をして、見送りに来ていたアイリーンとマリーに満面の笑顔を向けた。
「……この二人っていうのが不安ね。何を壊してくるのか、どんな不幸をばら撒いてくるのか……」
「はうぅ! マ、マリーそれは酷いんちゃうか〜」
「そうだよ。私だって小さい頃はずっと日本だったから大丈夫だよ」
 辛辣な一言と大仰な溜息の併せ技に、ちょっと本気で涙を流しながら膝をつくゆうひの背中を軽く摩りながら、フィアッセとアイリーンも苦笑を浮かべた。
「ま、ゆうひには専属のボディガードがいるから大丈夫か」
 そんな何気ないアイリーンの一言に、途端にゆうひの頬が風船のように膨らんだ。
「何であんな冷血漢がウチの専属なんや! ムカツクムカツクムカツク〜!」
「ゆうひの話だけなら、ね。でも、あたしは何かあるように思うんだけど?」
「アイリーンは知らな過ぎ! 言ったやんか! お礼を持って行った時の態度!」
 二ヶ月前のCSS襲撃事件後の気持ちをぶりかえし、夕日の猫型の目尻が更に釣りあがる。
「何でアイツは仕事終わった言うんに、まだウチの傍にはりついてんのやぁ! うがぁ!」
「あ、あははは。も、もう行くね。日本についたら連絡するよ」
「うん。気をつけてね」
「飛行機落ちないこと祈ってるわ」
 二人のささやかな(?)見送りに手を振りながら、怒り心頭のゆうひを引きずって、CSSの校長はターミナルの中に消えて行った。
 完全に姿が見えなくなるまでその場に立っていたアイリーンとマリーは同時に溜息をついた。
「あれ、言わなくても良かった?」
「いいんじゃない? 斉藤から今回のチケットを融通するように頼まれたなんてさ」

 その六:大阪・大阪親日生命体育館

「お疲れ様でした〜」
 百五十しかない小柄な女性の挨拶に、全員が笑顔で挨拶を返していく。
 その様子を二階観客席から眺めて、四乃森操は仰々しい溜息をついた。
 セルゲイに首を噛まれてから一ヶ月。
 置き土産を言い渡されたにも関わらず、岡本みなみは普段と全く変わりなかった。性格、態度、筋力、好み。全てが調査した期間と同じであり、変化は見られない
「アイツにだまされたか?」
 しかし他人を見下す事に命かけているような吸血鬼が、わざわざ小細工のような事をするだろうか?
 そこまで考えると、再び大きな溜息をつく他なかった。
「おまたせ〜!」
 そこへ着替えを終えたみなみが駆け足でやって来た。
「別に待ってないから大丈夫だ」
「えへへ。じゃ、行こうか」
 二人並んで出口へと消えて行く様をみて、みなみのチームメイトは微笑を絶やさず互いの顔を見合わせた。
「アレがみなみの彼氏か〜。メッチャカッコイイね」
「まだ彼氏じゃないみたいよ? 何か色々と事情があるっぽい事言ってたし……」
「でも明日からの日本代表の選抜チーム合宿、東京まで一緒に行くって」
「うそ〜? 仕事大丈夫なのかな? 彼氏。それともみなみのヒモ?」
「そ、それは言いすぎじゃ……」
「ま、何の仕事してるかはともかく……」

『彼氏ほしい〜!』

 お後がよろしいようで。

 その七:緋村家

 夕飯の支度をしている雫の耳に、聞き慣れた軽い足音が聞こえた。
 肉じゃがの味見をしていた彼女は、くるりと純和風の着物の裾を翻す事もなく振り返るタイミングで、台所の木の引き戸は思いっきり開かれた。
「お母さん、お兄ちゃん帰ってくるって?」
「あら? 誰から……ってお父さんね。もう。ほのかには驚かせようって話したのに」
「それはいいから! 何時戻ってくるの?」
「明日よ。後、海鳴でお世話になっている人も東京観光をかねて来るっていうから、後でお部屋のお片づけのお手伝いお願いね」
「うん。わかった」
 聞きたい事を聞き終えると、ほのかはまた足音を立てて自室へと戻っていった。
 そんな娘の行動に少々溜息をつきながら、某ゲームに出てくるとても高校生の母親には見えない、不思議な完全無欠のお母さんと同じく頬に手を当てるとあらあらと呟いた。
「リリアンに入っても性格は元のままね。だから御姉様もできないのかしら?」
 自分の高校時代も御転婆が祟って、誰の妹にもならなかった事を棚に上げて、雫も明日からの客人に出せる献立を頭の中で思い描き始めた。

 こうして何の偶然か、様々な人々が東京に集まる事になった。
 そして裏で暗躍する者もまた動き出していた。

 そのEX:???

「俺じゃない!」
 男は圧倒的な数の警官に押さえつけられていた。
 周囲には赤い回転灯がランプ回り、これが捕物であるのは周辺の野次馬達にもすぐに理解できた。だが取り押さえられている男は罪状を告げた刑事に向かい、必死に懇願とも取れる否定を繰り返していた。
 しかし刑事は聞く耳を持たず、警官に連れて行くように指示をし、男はパトカーへ押し込められた。
「刑事、本当にアイツなんでしょうか?」
「さあな。突然証拠が出たとか言われて、突然逮捕状が出て、突然の逮捕劇。け。胸糞悪い」
「……後は取り調べですか」
「そうだな」
 返事をしながら刑事は再度逮捕状を見た。
『東京都世田谷区在住橘修吾』と書かれた書類を握りつぶして、しばらく自分勝手に事件を追っていく事を決意した。
 そんな現場を野次馬に混じりながら見ていた瞳があった。周囲と違って好奇のではなく、結果を知るために観察をしているように全体像を眺めていた。
「これで資金の最終調達は成功しましたね」
 剣心と同じくらいの身長の優男が、隣にいる二人の女性に視線も送らずに声をかけた。
「け。こんなのオレが強奪してやったのに、こんなまだるっこしい事させやがって」
「力押しではなく結論を出す事によってぎりぎりまで存在を隠す。当たり前の事だ」
 一人はミリタリールックに身を包み、もう一人は感情が篭らない冷え切った瞳で現場を見ていた。
 優男は刑事とは違うタイプの息をつくと、くるりと身を翻した。
「どこへ行くんだ?」
「え? いえ実は志々雄さんに頼まれて今回の計画の最終調整をしにいかなくちゃいけないんですよ」
「最終調整?」
「ええ。ごめんなさい。ちょっと内容は言えないんですが……近々結果はでるので、待っててください。あ、志々雄さんから東京見物してこいって話も出てるんで、良かったらお二人でどうぞ」
 一方的に言い終えると、優男は街中へと消えていった。




ちょっとした休み中のや仕事。
美姫 「しかし、偶然か何かしらの運命か」
皆、一つ場所へと導かれるように集う。
美姫 「果たして、何かが起こるのか!?」
一体、何が待っているのか!?
美姫 「次回がとっても気になるわ」
うんうん。次回も非常に楽しみに待ってます!
美姫 「待ってますね〜」



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