『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




XCW 奪われた力

 血液を流し、重々しくなった足が風によって劣化した石段を一歩一歩踏みしめていく。時折、限界まで酷使された体は足を滑らせて前のめりに、受身すら取らずに石段に倒れ込む。
 骨と意思がぶつかり合う鈍い音が辺りに響き、そのまま森に吸収されていく。
 荒く擦れた吐息は、色っぽさではなく精神が破綻しているようにも聞こえる。
 そうして横島零は、八束神社の鳥居に続く最後の一段を昇りきった。

「いい? おキヌちゃんはいいって言ったかもしれないけど、あたしはまだアンタ達に協力してもらうなんて認めた訳じゃないからね」
 建物の外に出てきた剣心達の顔を見るなり、開口一番そう切り出した美神ひのめは特に一番前にいた恭也の鼻先にすらりとして形のいい指を突きつけると、そのまま踵を返して石畳の真ん中で破魔札を何処からともなく数枚取り出すと、キッと鳥居の方向へ向いてしまった。
「すいません。彼女、お姉さんもあんな感じで、素直じゃなくて」
「おキヌちゃん! 余計な事言わない!」
「……納得した」
 ひのめがどれだけ怒鳴っても、後に続く数々の溜息が全てを物語ってしまった。
「とにかく、文殊という決定的な差がある以上、連携を持ってあたった方がいいでしょう」「そうでござるな。先程のように四人がかりもいいのでござるが、如何せん今度は取り押さえてネクロマンサーの笛を聞かせなければならないでござる」
「瞬時に相手の懐に入れて、文殊の発動すらさせない……そうなると恭也君と美由希ちゃんにお願いするのがいいか」
 薫の進言に、御神流二人が同時に頷く。
「次に文殊発動の場合、大きな負荷をかけて破壊するしかないが……ウチと緋村君、それに犬塚さんと美神さんでそれを行うのが妥当だ」
「ちょ、勝手に人を人数に……」
「ひのめちゃん、これはそんな場合じゃないの」
「う……」
 姉とも思えるおキヌに窘められ、一度は怯んだもののそこは美神の血筋か、すぐに眉をきっと吊り上げてまた明後日の方向を向いてしまった。
 その様子を那美の懐に抱かれながら眺めていた久遠は、不思議そうに飼い主の顔を見え上げて少しだけ小首を傾げた。
「くぅん?」
「ん……大丈夫だよ。久遠は絶対に私達が守ってあげるからね」
 強めに力を込めて、抱きしめる久遠の温もりを肌で感じて、那美はきっと意思の強い瞳で今回も来るであろう鳥居を睨むように見つめた。
 瞬間、そこへ一人の人影が訪れた。
 巴は境内の上から姿を見て軽い貧血を起こし、美姫ですら眉をぴくんと動かした。今回は巴達のボディガードとなる夕凪も口を手で覆い隠し、シロとひのめは憎々しげに睨み、おキヌは沈痛なる面持ちで笛を口元に当てた。恭也と美由希は異形なる状態にコンマ一秒だけ呆気に取られてから気を引き締め、薫はゆっくりとようやく袋から出した十六夜を抜いた。そして剣心はあからさまに嫌そうな顔をしつつも、無行の位に刀を添えた。
 僅か数時間で一メートル程に成長した節毎に広がりを見せる角を生やし、合わせて噴出す血量で服を真っ赤に染めた横島零が、そこに存在した。
「最大の……妖気を持つ……妖狐……くぅ! 頂くぞ……」
 言葉の合間に苦痛を含ませながら、零はさっきよりも殺意を強めた視線で一同を見渡してからぴたりと久遠のところで動きを止めた。
「そんな事させない! ゴーストースイーパー美神の名に懸けて!」
 懐から数枚の破魔札を取り出して両手で扇のように広げると、ひのめは薫が立てた作戦を無視して先陣に飛び出した。
「美由希、行くぞ!」
「うん!」
 多少の変更はあれど、高町兄妹は作戦通りに行動を開始した。ひのめという不安分子の乱入はあれど、彼女を中心において二人は左右に大きく展開した。そして三方向に分かれた三人の誰を迎撃するべきか迷いを生じさせた零に、御神流奥義の歩法が発動する。

 ――神速!

 一寸たりともずれのないタイミングで、恭也と美由希の視界から色が抜け落ちた。
 体に纏わりつく灰色の水の中を全力で走り抜けるような不自由空間の中を、兄妹は同じ速度で零に到達する。
 瞬間、色が戻った。
 突然目の前まで接近した高町兄妹に、零の眼が大きく見開かれる。
(目標までの距離は手を伸ばして十センチ!)
(文殊を使う前に捕まえ――)
 恭也は飛針を抜き、美由希は小太刀で零の両腕を固定するべく得物を伸ばす。
「ち……かよ……るなぁ!」
「!」
「キャア!」
 だが零の叫びに合わせて、黄色に輝く光の壁が彼の内側から膨れ上がると、二人を吹き飛ばした。
 予測していたのだろう恭也はそれでも着地に成功したが、美由希は腰から地面に落ちた。「すでに発動していた? ならばひのめ! 不本意なのはわかるが作戦通りに行くでござるよ!」
 走る速さのおかげで文殊の結界に触れずに済んだひのめに、出力最大で霊剣を具現化させたシロが隣に控えていた薫と剣心と、先発した二人に代わるように前に出た。
「シロ……。あ〜! もうわかったわよ! 合わせてあげるわよ!」
 姉譲りのガンコ性が、それでも状況を読む理性に打ち負け、不承不承発火能力を放出し始めた。
 神社の社殿を丸ごと包み込む位の火柱を吹き上げさせると、先手とばかりに火柱を零に真上から叩き付けた。
 その姿はまるで大蛇。
 波うち光の壁を包み込むと、大蛇は再び牙を突き立てた。
「ぐうぅぅぅぅ!」
 ひのめの発火能力の最大破壊力を受け、流石の光の壁も一撃で軋む音が周囲に響いた。「緋村殿、神咲殿! ひのめの炎は指向性! 彼女の意識しないものは燃せないでござる!」
「つまり……どういう事だ?」
「緋村君、炎を気にしないで突っ込んでいいって事だよ」
「ええ! メッチャ怖いですけど……」
 と、文句をいいながらも、飛天御剣流の速さを最大限に生かし、数時間前にも壁にぶつけた技の体勢に入った。

 ――飛天御剣流・九頭龍閃!

 九つの斬撃が空気を切り裂く。

 『壱』『弐』『参』『肆』『伍』『陸』『漆』『捌』『玖』!

 ――神咲一灯流。

 練習刀に神気発勝した薫の霊気が、収束していく。顔横に水平に刃を持ち上げた構えを取ると、頭上に持ち上げて一気に振り下ろした。

 ――真威・楓陣刃!

 黄金色の霊気の塊が美由希が尻餅をついた右側から、薫は恭也の左側から時間差で技を撃った。
 より一層軋みが激しくなる。
 合わせる様にそこにシロが突貫した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 狼独特の雄叫びに似た叫びを上げ、霊剣が彼女得意の唐竹で命中した。
 炎の大蛇、九頭龍閃、楓陣刃、そして特大サイズの霊剣。
 四種類の、それでいて純粋な破壊力ならば数時間前を凌駕する衝突を眺めて、那美はほっと息をつき、社屋にいる夕凪は小さくガッツポーズをとった。
 光の壁はチューブラーベルの妖気を含んで作られた文殊の壁を急激に狭めていく。
 おキヌはネクロマンサーの笛を唇にあて、大きく息を吸い込んだ。
 だが一気に押し込めると確信できる勢いを持つゴーストスイーパーチームの外で観戦していた巴と美姫が、殆ど同じタイミングで零の手の動きに気付いた。
「あれは……?」
「まだ終わらなそうね」
「え?」
 技と戦闘に参加している全員を色々と見回していた夕凪は気付かなかったのか、ぽつりと呟かれた言葉に、首を傾げた。
 壁の維持から霊力を外してまで、零はポケットから数個の珠を取り出した。
 それにはさすがにシロとおキヌも驚愕を隠せなかった。
「これだけの霊力を放出しているのに、まだ念を込められるでござるか?」
「タマモちゃんの妖気を使って……! みんな気をつけ……」
 しかし注意を呼びかける彼女の叫びが言い終える前に、六個の文殊は発動した。

 『複』

 全てに同じ文字が浮かび上がる。
 念を込められた文殊は、封印を解かれて薄い青色に発光する。
 それを確認してから零は文殊を壁の外に放り投げた。
 文殊はひのめ、シロ、恭也、美由希、薫、剣心の前に落ちると、次の瞬間一つの珠より一人、計六人の人影が生み出された。
 全員が片手に神通棍を持ち、片手に大きな霊剣を構えている。
 その姿に遠巻きに見ていた夕凪は口をぽかんと開け、巴は口元を両手で抑え、美姫も大きく手を上げて驚きを表現した。
「六人の零だって?」
 文殊の壁が破壊されるのを準備しながら待っていた恭也と美由希が、すぐさま目の前に出現した零の一撃を小太刀を十字に交差させて受け止めた。
「自分を『複写』したのか! くっ!」
 薫も霊剣を神気発勝させた刀で受け、そのまま後退しながら体勢を立て直そうとする。 だがコピーとはいえ零も何度となく妖怪達との戦闘経験がある熟練者だ。すぐさま追いすがって来る。
 自分を追い詰めていた六人の剣士をぐるりと見回し、後は攻撃力のないおキヌと参加していない三人。そして……。
 胸にした久遠を力を込めて抱きしめるターゲットの那美と久遠。
 背後で聞こえてくる剣戟の音を聞きながら、零はゆっくりと大股で近づいた。
「く、久遠には近づけさせない!」
 狐を自分の背中越しに置き、襟元を正した胸元から短刀を取り出すと、退魔より鎮魂を得意とする那美の小さな神気発勝が、解き放たれる。
 しかしチューブラーベルの力が上乗せされた彼には、傷一つつける事ができずにそのまま霞の如く消された。
「零! 止まりなさい!」
 おキヌが効かないのを承知の上で、笛を奏で始める。
 だが、数時間前と違う文殊の壁は、笛の音を完全に遮断した。
「じゃ……マだ!」
「キャア!」
「ツゥゥ!」
 切れ味のなくなった霊剣の腹で、那美ごとおキヌを吹き飛ばすと、怯えで動けなくなった久遠を血塗られた眼差しで射抜いた。
「その……ちかラ、もらう」
 チューブラーベルの角が禍々しい紅に輝くと、輝きは久遠のか細い悲鳴と共に、狐を飲み込んだ。



夕凪「さって問題!」
な、何だ? 何だ?
夕凪「こんなに投稿が遅れたのはどうしてでしょうか?
   1:璃斗さんが夏風邪で倒れていた!
   2:璃斗さんが夏風邪で寝込んでいた!
   3:璃斗さんが夏風邪で死んでいた!」
全部同じじゃないかぁ!
夕凪「仕方ないじゃない。事実だもの」
う……、そ、そうだけど……ってもしかして本編で出番が少なくて、活躍できないから怒ってる?
夕凪「そんな事ある訳ないじゃな〜い♪
おおおおおおおおおおお!? あ、頭を両側からグリグリしながら微妙に二重のきわみいれないで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
夕凪「以上! 後書きという名の尋問会でした!」
うう……、しばらく会ってない間にキャラまで変えるとは……ガク
夕凪「ん〜……今度は美姫さんをこっちの後書きに呼んで、璃斗さんと遊びたいなぁ……」



投稿ありがと〜。……って、美姫、何をしているんだ?
美姫 「お出掛けの準備♪」
…えっと、何処へでしょう。
美姫 「これが招待状」
夕凪ちゃんから? …って事は。
美姫 「うふふ♪」
あ、あははは……。
美姫 「それじゃあ、行ってきま〜す」
い、行ってらっしゃいませ〜。
……と、止めれなかった僕を許して(涙)
えっと、気を取り直して(?)
飲み込まれてしまった久遠はどうなるのか!?
緊迫した状況がまだまだ続きます!
次回も非常に楽しみに待ってますね。
ではでは。



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