『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




XXXT・旧知回廊

「いやぁ、本気で助かりました……」
「うふふ。そんなに喜ばれると何か偶然でも悪い気はしないわね」
 迎えに来ていた姉の真由から借りたキューブを運転しながら、瞳は隣で安堵の息をついている剣心を横目で見て小さく笑った。
「それより、何でおまえ海鳴にいるんだ? 確か東北の大学で護身道のコーチに行ってるって聞いたけど」
 耕介と瞳は故郷である長崎で幼馴染の関係だった。幼い頃より格闘技に親しみ、しかも道場破りの真似事までしていた瞳と、料理人になるまで完全に不良のレッテルを貼られて、もう人には知られたくないあだ名まで付けられていた。そんな変に強かった二人が幼馴染で、更に互いに好意を持っていれば一緒になるのは時間がかからない。しかし、耕介の若気の至りのおかげで喧嘩をしてしまい、タイミング悪く瞳は海鳴の隣町である矢後市へ引越し、その後瞳が当時さざなみ寮の一員だった薫が友人として寮に連れられて来たところ、さざなみ寮の管理人に着任した耕介と再会して過去の過ちを互いに謝り、今では仲の良い友人だ。
 瞳は小学四年の頃から始めた護身道で一躍ヒロインとなり、大学卒業後も様々な大会で優勝。現在は様々な大学や道場から護身術のコーチを頼まれている。つい学期変りの三月中旬に瞳から届いたハガキには東北の有名な大学でコーチを引き受けたと書いてあった。
「うん。別に辞めてきたとかじゃないんだけど、簡単に言うなら遅いゴールデンウィークかな?」
「ゴールデンウィーク?」
「今年は大会日程の変更でゴールデンウィークは返上しちゃったのよ。それで、大会が終わって一段落したから骨休みに来たの」
 でもまさか耕ちゃんと相川君に会えるとは思わなかったわ。と、瞳は赤信号でブレーキをかけながらまた楽しそうに笑った。
「それじゃ千堂先輩はしばらくこっちにいるんですか」
「ええ。一応相川君と小鳥ちゃんの結婚式にも帰って来る予定だけど、その前に御祝いを言いに行こうと思ってたしね」
 青信号で体の前面に緩い重圧を与えながらキューブは国守山へ入った。
「でも随分とたくさんの荷物ね。何かパーティでもするの?」
 量もさる事ながら、荷物を下ろした時に三人同時に真っ赤になった掌を揉み砕く様を思い出し、ちらりと横目で後部席の二人を見た。
「いや最近は剣心君が来ると真雪さんが飲むんだよ」
「真雪さん相変らずね〜」
「いや、遊ばれるだけなのでできれば勘弁を……」
 一度みなみに連れられてさざなみ寮を訪れた時に、真雪だけはなくその頃はまださざなみに居たゆうひも混ざって良い様に遊ばれたのを思い出し、真一郎は内心でこれから起こる出来事に涙する剣心に手を合わせた。
「でもそれにしては量が多いと思うんだけど?」
 しかもキャベツやレタスと言った青葉系の野菜が多く見られる。
 前に耕介の実家『洋食サフラン』特性のスープをご馳走になった時は幾種類もの野菜を煮込み、具にもキャベツが入っていたのを思い出す。
「まぁ、それも色々とね……」
「何それ?」
「さっきから耕介さん、ずっとこんな調子なんです。聞いても答えてくれなくて」
「緋村君は何も聞いてないの?」
「俺も面白いものが来たからさっさと来い。としか聞いてないですね」
 今回も学校から帰宅早々に真雪から電話があり、最初は五月末に控えている中間テストのために勉強に勤しむつもりで断ったのだが、何処からともなく現れた栄治の、
『剣心君、行かないと家賃取るよ〜』
 と、いう笑顔の脅迫に屈服してしまった剣心は、耕介からの伝言で真一郎を連れて駅前に出ただけなので、内容までは知らない。
 余談だが、真雪の頼みを聞く毎に栄治に幻の銘酒が一本転がり込む手筈になっている。
「でも瞳にも一概に関係無い話じゃないんだよ」
「何それ?」
「うん。まぁ、見てからね」
 自分で話を煽っておいて、すぐに歯切れの悪くなる耕介に、残された三人は不思議そうに眉を顰めた。
 そんな雰囲気のままキューブは坂を駆け上がり、ようやくさざなみ寮へ到着した。
「俺が裏から荷物運ぶから、三人ともリビング行ってて」
「手伝いますよ」
「いや……真一郎君は絶対にリビングに」
 そのまま耕介は口を閉ざし、裏口へと消えていった。
 一体何を企んでいるのか。そんな疑問が三人の脳裏を過るが、折角さざなみ寮まで来て挨拶もしないのは失礼と考え、顔を見合わせながら玄関へ向かう。念のためインターフォンを押し、多少警戒しながら瞳が先頭になって玄関を開けた。
「こんにちは〜……」
 寮内はシンと静まり返り、人の気配が感じられない。
 瞳の後ろから覗いている剣心と真一郎も、普段は何もしていなくても賑やかなさざなみ寮の様子がおかしい事に廊下をきょろきょろと見回している。
「一応、耕介さんいるし、入っても大丈夫……だよね?」
「うん。そうね……多分」
「まぁ、満更知らない仲じゃないし、誰か居たら事情を説明したらいい……かな?」
 どうも自信無く三者三様の反応を示すが、寮からは誰か出てくる気配は無い。仕方なく何故か静かに靴を脱ぐと、足音をできるだけ立てずに移動して耕介がいると思われるキッチンを覗き込む。
「……いないわね」
「いないですね」
「どこいったんだろ?」
 荷物を運んでいた筈の耕介がキッチンにない事で、ますます三人には疑問符が募っていく。
「上に行く訳にはいかないし、リビングで誰か来るまで待ちます?」
「それが妥当かしらね。あれだけ寮に招きたかっていたんだから、少し待てば来ると思うけど」
 確かに許可は貰ったとは言え他人の家を色々と詮索するのは体裁が悪い。
 瞳の意見に頷いて、引率の先生と幼稚園生という構図のようについてく男二人を引き連れて、瞳はリビングへ続くドアを開けた。
「きゅ〜!」
「へ?」
 瞬間、瞳の視界は真っ白な物体に生め尽くされた。
「あ……」
 後ろで剣心が何か呟いたが、瞳にそれを確認している暇は無く、白い物体は彼女の顔面に衝突した。
「あう……」
「わわっ! せ、千堂先輩!」
 白い物体の衝突で後ろに倒れてきた瞳を慌てて抑えてた真一郎は、同時に視界に入った白い物体を見て突如力が抜けたように手が落ちた。
「うわぁぁぁ! 手、離しちゃダメですよ!」
 何とか床に激突前のぎりぎりの線で剣心がキャッチに成功した。
 しかしそんな側であわや大惨事が起ころうとしていたのに、真一郎は瞳の顔に張りついた白い物体に目を奪われていた。
「ひ、氷那……?」
「やっぱり真一郎君は覚えてたか」
「え? 耕介さん?」
 リビングから聞こえてきた声に、ようやくリビングに耕介をはじめ愛を除くさざなみ寮のメンバーが揃っているに気付いた。
「まぁ相川はアイツと一番親しかったしな。覚えてても納得か」
「うん。氷那と言ったら真一郎とゆうひなのだ」
 真雪も美緒も少しの戸惑いもまく名前を口にした真一郎に、頷いた。
「氷那が……いるって事は……彼女は……?」
「見つかったのは目を回していた氷那だけだ」
 愛らしい笑顔で懐かしい真一郎を見上げている氷那を抱きしめる彼に、ビールを飲みながら真雪は冷静さを求めるために先手を取って諌める。
「そう……ですか……」
「千堂もいるなら丁度良い。ちょっとこれから池に行ってみようかって話になったんだ」
「行きます」
 十年前に起きた一つの事件を思い出し、真一郎は決意を秘めた表情で頷いた。

「あの〜……御願いだから千堂さんも俺も忘れないで……」
「剣心君、今回は御笑い?」
「奈緒さん、洒落にならんす……」



今回の舞台は海鳴だったね。
美姫 「そして、真一郎たちは池に向うわけね」
そこで一体何が起こるのかな。
美姫 「うーん、やっぱりざからかしら」
さて、一体どうなんでしょうかね。
それじゃあ、また次回でね〜。
美姫 「投稿ありがとうございました〜」



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