『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』
XIII・そんなこんなで。
昨日の話と言われても剣心は詳しく知っている訳ではない。
二日続きの徹夜を覚悟していたところに、半泣き状態の美由希が駆け込んできて、風校に到着するやいなや、恭也が斬られそうになっていたので助太刀に入っただけなのだ。
返答に困って眉を顰めていると、薫の後ろから恭也が声をかけた。
「すいません。彼は俺を助けてくれただけで、詳しくは知らないんです」
「そうなのか?」
「全くもって知りません」
あっさりと肯定して、剣心も恭也に顔を向けた。
「もっと詳しいのはボクだけどね」
だが口を開きかけた恭也よりも先に、フィリスを大人にした女性が入り口で火のついていない咥え煙草をして中を覗きこんでいた。
「リスティ!」
「ハァイ。フィリス。恭也も元気そうで何よりだ」
フィリスと同じ皮手袋をして、灰色のスーツを着たリスティは顔見知りに軽く手を上げて挨拶をした。しかし夕凪に顔を向けた時、彼女は慌てて視線を逸らした。その様子に嫌われたもんだ。と、内心でゴチて、人口密度の少ない剣心と窓の間に置かれた椅子に座った。
そそくさとその場から離れて、那美の隣に移動する夕凪に恭也とフィリス、そして薫の視線がリスティに突き刺さる。
「リスティさん……」
「リスティ……」
「一体なんばしたとですか?」
薫は入学式の朝に到着したので詳しくはわからないのだが、少なくとも新人である夕凪が怯える出来事があったようだ。思いっきり警戒色を強めて那美の影に隠れている夕凪に、リスティは小悪魔的な笑みを浮かべた。
「べっつに〜。ただボクと真雪が内緒で購入した秘蔵の日本酒『狼の酒宴』を一口飲ませただけだよ」
「それだけ……ですか?」
「ちょ、リスティさ……」
「それだけだよ。ただ、その後酔っ払ったユウが上半身裸になっただけ」
もちろん、常識人である耕介と愛は真雪やリスティを止めようとしたが、一杯だけなら問題ないだろうと酔っ払い二人の主張を黙認してしまったのだ。結果、極端に酒に弱い。もとい、下戸と言ってもおかしくない夕凪が魔王と魔人の二人に煽られて、ストリップショーを始めてしまった。そこにたまたま現れた美由希が宴会に巻き込まれて罰ゲームを受ける羽目にあったのだった。
必死に話を止めようと大慌てでリスティに駆け寄る、真っ赤になった夕凪をひらりひらりと避けて、全てを語り終えた時には恭也のベットで胡座をかいて、ニヒルなイヤらしい笑みを浮かべたリスティと、完全敗北に打ちひしがれる夕凪の亡骸がぐったりと椅子の上に転がっていた。
「アッハハハハハハ! あれは楽しかった」
「はぁ……。すいません。私じゃ止められなくて……」
当時現場にいた神咲那美被告が項垂れるが、二人の酒飲み相手にどちらかと言えば気弱な那美が勝てる筈もなく、恭也も返答に困ってしまった。
もちろん止められなかった中に罰ゲームも含まれている。
「まぁ、リスティの躾は私とシェリーでやっておくから」
「ちょっとマテ。ボクは犬かい?」
「あ、まだ犬の方が聞き分けいいわね」
普段、余程からかわれている事への仕返しを考えていたフィリスがリスティと同じ小悪魔な笑みを浮かべたが、すぐにジト目からにやりと悪党がしそうな笑いで小さな口を横に裂いた。
「そうか。ならこの間シェリーの大切な香水の瓶を割ったのを、会うついでに話しておくか」
「はう!」
「あ、ちょっと前にシェリーの大切にしてたドレスを内緒で着てたな」
「うう〜」
「そうそう。ドレスと言えば……」
「ご、ごめんなさい……」
三人姉妹の強弱関係を垣間見た剣心だった。
まだ頭を抱えているフィリスをそのまま放置を決定して、リスティは蚊帳の外にされて大人しくあんまり興味のない新聞に目を通し始めた剣心をアイスブルーの瞳で捉えた。
「君が緋村剣心君かな?」
「え? ええ、俺がそうですけど」
「一昨日は済まなかったね。ボクがまだ未確認情報を恭也に上げちゃったから、警察沙汰になっちゃって」
最もあの時点では剣心も逆刃とはいえ刀を持っていたため、容疑者との一人と思われても仕方がない。
「未確認情報?」
「ああ。恭也の使う剣術は御神流っていうんだけど、その御神流に恨みを持つ者が海鳴に入ったっていうんだ」
事実、情報が伝えられた後に注意を含めて見回りを行っていた際に一人の女性が切り殺された。まだあまりに情報が少ないため、警察でも単なる通り魔として扱い、新聞にも三面記事地方版に小さな枠を作られるのみであったが。
「それで更に見回りをしていて、風校であの男に会った」
「そうそう。まだ恭也からその闘った男の話を聞いてなかったね」
「ええ。男は鵜堂刃衛と名乗ってました」
「名乗った?」
普通通り魔的な反抗は自分が表に出るのを極端に嫌う突発的な犯行が多い。数年前に模倣犯が多発した赤い帽子を被った通り魔事件が日本中で頻発したが、それも犯人を他の方向へ向けたいがために行われたのだ。つまり、通り魔が自分の素性を語るなど考えられないのだ。
「他には何か言ってなかったかい?」
「そうですね……」
さすがに戦闘中に交わされた会話の全てを記憶はしていない。
だが顎に手を当てて、しばし考えて、ある事を思い出した。
「そうだ。確か元新撰組で二階堂平法を使う剣客でした」
「新撰組?」
「二階堂平法に関してはウチも話には聞いた事がある」
「そう言えば、俺を見て抜刀斎って言ってたっけ」
剣心の逆刃刀を抜いた姿を見て、刃衛が高笑いした時を思い出し、確認のために恭也と視線を合わせる。
「ええ。明治が出来た幕末の時に活躍した維新志士で、父から何度か凄い強いみたいだと話を聞いてました」
士郎と回った全国修行の旅は、何も遊びだけではない。実際に現地では一番強いと言われる剣術家と試合を行ったり、新しい技術の開発のために過去の歴史を調べる事も珍しくなかった。
ある時京都に到着した際に戦った流派があるが、そこで見せてもらった文献に載っていたを話すと、リスティは仕事でしか見せない真剣な表情で腕を組んだ。
「しかしわからないのは、呪いを与える刀か。」
「あれから実家の和真に色々調べてもらったんですか、ウチの文献にもそんな刀は存在すら書かれておらんとです」
だからこそ、剣心と恭也から何か情報でも手に出来ればと薫は考えた。
しかし二人は首を横に振るだけだった。
「仕方なかね。ウチはもう少し知り合いも含めて調べてみるよ」
「ボクは幕末に焦点を合わせてもう少し追ってみる。その間、恭也は無理しちゃだめだよ」
そう言うと、薫とリスティは同時に立ち上がった。
「もう帰るの?」
フィリスが見送るために二人に続いた。
「ああ。やる事ができたからね」
「今度はフィリスに会いくるよ」
言いながら引き戸を開け、ふとリスティが足を止めた。
後ろを着いて来ていた薫が不思議そうに首を傾げる。
「そうだ。耕介と桃子さんから言伝。恭也と緋村君が回復したら退院祝いでパーティするから日曜はさざなみ寮に来てくれって」
「俺も?」
「君は恭也の謝罪をしたいからってさ」
恭也が小さく不満を洩らしたが、確かに謝罪しなければいけないのでそれ以上何も言わなかった。
ピクピク。
美姫 「はー。面白かった。じゃあ、次の話を読もう」
ピクピク……。って、爽やかに無視していくな。
お前な、いきなり後ろから首を蹴るなよな!
洒落にならんぞ!
美姫 「まあまあ。それよりも…」
いや、そんなにあっさりと流されても…。
美姫 「色んな謎が残ってるわね」
だな。ここから辺も徐々に明らかになて行くことだろう。
その辺りも楽しみにしつつ、次の話だ!
美姫 「残念。次の話はここよ」
て、てめー。いつの間に。
美姫 「んーと…。浩が痙攣している間かな?」
……ちっくしょー!
美姫 「はいはい。それよりも、読まないの」
読みます!
美姫 「じゃあ、少しは大人しくしてなさい」
…何か理不尽なものを感じるが、とりあえず、うん!
美姫 「はい、じゃあ、開くわよ〜」
ワクワク。