『月は踊る、漆黒の闇の中で・・・』




第六幕 「砂漠の中で求める物」



   一面の砂漠、黒の衣服を纏う青年の姿が見える。見上げると漆黒に染め上げられた空に、自分をあざ笑う月が見えた。

  ココニイテハイケナイ。青年はそう思い、果てしない砂丘を眺める。

「寒い。」

   一人呟く青年。そして思う、家に帰らなきゃ、みんなが待ってる・・暖かい会話。暖かい食事。暖かい場所・・・

  歩きはじめる。一歩、二歩、三歩、、足が砂にとられて思うように前に進めない。

  カエラナキャ、、。ここは何処なのか、どっちに進めばそこへ辿り着くのか。どれだけ進めば・・

  考えを振り払って更に進みつづける。

             ただひたすらに歩き続ける。歩いて、あるいて、アルイテ・・・・・

  何時間歩いたろうか。夜は明けない。月は今も青年をあざ笑い続けている。

  ふと、遠くの彼方に人影が見える。意識がはっきりとしていく。

「人だ!」

   走った。人影に向けて、距離が近づく。金髪の長い髪の女性が見える。

「フィアッセ!!」

   女性はこちらに気づいたようで笑顔がこぼれる。

「恭也!!」

   あと少し、あと少し。すると女性が手を伸ばしてくる。微笑みながら。

  手が届く距離になり、女性の手を掴む。

「恭也・・。」

   安心した二人の顔、掴んだ手を見つめる。すると女性の綺麗な手は風化したように乾燥していきボロッっと崩れる。

「なっ!」

「恭也!なにこれ?助けて・・・」

   もう片方の手を差し出して助けを求めてくる。

「フィアッセ!!」

   差し出された手を掴む、するとまた乾燥していき、ボロッっと崩れた。ひょうしにバランスを崩してよろめく女性。

  咄嗟に支えようと身体を抱きしめる。とたんに女性の全てが砂になって崩れた。

「フィアッセーーーーー!!!」

   青年は涙を流した。砂漠に吸い込まれるように消えていくシズク。砂の上には一枚の白い羽根が落ちていた。

「どうして泣いていらっしゃるんですか?」

   優しい声が聞こえる、涙を流しながら見上げるとそこに一人の少女が優しく微笑んでいる。

「志摩子さん?フィアッセが・・フィアッセが砂に・・」

   あらあらと言った感じでこちらを見て微笑む。

「護って差し上げられなかったのですね?」

   かわいそうに・・と呟いて恭也の頭を撫でてくれる。瞬間、少女の手も砂に溶けていく。

   そんな様子を呆然と見詰めていた。そして気づいて叫ぶ。

「駄目だ!俺に触れないでくれ、砂になってしまう!」

   無くなった手をみてなおも微笑みつづける少女。視線が恭也に向けられる。

「気になさらないで下さい。私ならいいのですから。」

   そう言って青年の身体を抱擁する。寒かった身体が温もりであたたまる。

  青年も少女に手を回し強く抱きしめ、目を閉じた。

  薄れていく温もり。目をあけると手には砂が握られていた。

  青年は心を殺されていく。涙を流し空を見上げる。月は笑う、淡い光ともに。

  モウイヤダ、モウイイ・・そう思い、砂に身体を預ける。

  青年の周りでは何時の間にか家族達が暖かい笑顔で恭也を眺めていた。

「母さん、美由希、、なのは、忍、、那美さん、、フィリス先生、リスティ・・、それに・・レンや晶・・」

  数えるようにみなの名前を呼ぶ、身体に力は入らない。砂に背を預けたままで皆を見る。

「恭也」

  女性が恭也に寄り添い、そして砂に変わる。


「恭ちゃん」
「お兄ちゃん」

  二人も砂に変わる。

  次々に青年を呼び、寄り添い、抱きしめ、砂に変わっていく。

(もうやめてくれ・・俺に近づかないでくれ・・)

   涙も枯れ果て、恭也は砂に埋もれていった。

   砂に埋もれ、もう見えない筈の瞳には月の淡い輝きだけがくっきりと焼きついていた。

               
                    暗転



「恭也さん!恭也さん!」

   誰かの声が聞こえて目を開ける。すると白い天井が見えた。

「・・・・誰・・だ?」

「フィリスです。もう・・、おはようございます、恭也さん。」

「おはようございます。」

   まだ寝ぼけている様子の恭也を見て白衣の少女は微笑んでいる。

「ん・・フィリス先生?」

   なんですか?っとこちらを見ている。そこで何かに気づいた。

「恭也さん・・泣いているんですか?」

   え?っと恭也は自分の目元に触れると、濡れた感触があった。

(さっきの夢のせいか・・みっともないな。)

「すいません・・。」

    反射的に謝って目を擦る。

   心配そうに見つめていたフィリスはフッっと優しい笑みを浮かべ恭也に近寄っていく。

   夢の光景と重なり、恭也はまずいっとベットに手をついて逃げようとする。

   瞬間ずきっと傷が痛み、ぐぅっと目を閉じる、すると暖かい温もりに包まれた。

   ビクッっと身体を震わせおそるおそる目を開けると、予想に反してフィリスの身体は砂にならなかった。

(なるわけないか・・)

   ほっと安心して温もりに身を任せる。

「こんな恭也さん初めてですね。もう大丈夫ですよ、怖い事なんて何もないですから。」

   そう言って恭也の背中を撫でる。心地が良くて目を閉じた。

   

   ゆっくりと時間が流れてふと目をあけると、ドアのところにいる女性と目が合った。


「・・・・」
「・・・・」

「待て、忍。誤解だ。」

   誤解もへったくれもない。抱き合ったままの二人、フィリス先生はまだまだ気持ちよさそうに恭也を抱きしめている。

「忍、頼むから無言で携帯持ち出すのはやめてくれ・・・。」

「あ、ノエル?緊急連絡をお願い。・・・・、そうよ。コードブラック666、五分で来て。場所は海鳴病院、、ええ、部屋は・・」

   物騒な電話にたじろぐ恭也、ようやくフィリスも気づいたようで真っ赤になって恭也から離れる。

「思わぬ伏兵ね。。いや、十分に予想できたはず・・」

   電話を終え、なにやら呟く忍。

「し・・忍?・・」

                  ベキッ!

   携帯が握りつぶされた。何時の間にか瞳の色は青から赤にかわっている。

「あはははは。。恭也さん、忍さんがお見舞いにきてますよぉ、、、って言いに来たんでした・・・。」

「・・・致命的に遅いです。」

   フィリスの乾いた笑いに落ち込む恭也。

「それより、忍。お見舞いにきて・・いや、すまん・・。」

   ごまかそうとして忍に一睨みされ、黙る。

(なんなんだこのきまづい状況は・・なんとかしなければ。)

「「・・・・・」」

    沈黙の時はかれこれ五分もあったそうな・・そして廊下から騒がしい音が聞こえてくる。

「恭也がフィリス先生と抱き合ってるって!?」
「恭ちゃん!何があったの!?」
「お兄ちゃんが『ふじゅんいせいこうゆう』してるってほんとう!?」

「「・・・」」

    
    かぁっと二人して真っ赤になる。

「あ・・あの、みなさん!病院では・・・静かに・・して・・」

    注意するフィリスはみんなの雰囲気におされてだんだんボリュームが落ちていく。

    はぁっとため息一つ。

「なのは、意味分かってるのか?」

   アハハと笑ってごまかすなのは、どうやら知らないで使っているらしい。

「みんなどうしてここに?」

   一応聞いてみる。

桃子 「なんでって、ノエルさんから連絡があって恭也が666だって言うから。」

美由希 「かーさんに恭ちゃんが666だって聞いて。」

なのは 「ノエルさんからメールでお兄ちゃん666だって・・」

(『とりぷるしっくす』ってなんだ・・)

                  ダンッ!!

  恭也の近くのテーブルに手が叩き置かれる。

「そんなことどうでもいい!これはどういう事?」

   忍がようやく恭也に言葉を向けた。

「はぁ・・、ただ慰めてもらってただけだ。」

   呆れて短くそう告げる恭也、しかし回りは何故かビックリしてるご様子だ。

「待て、何故驚く・・っというか、フィリス先生まで驚かないで下さい・・」

   そうだったんですか?なんて顔でこちらを見ているフィリス先生、当人がこれではどうしようもない。

「夢見が悪くてな、少し感傷的になっているのを見られてしまったんだ。」

   なんだ、そういう事かと一同納得してくれた様子。

「そっか・・そうよね。フィリス先生はカウンセラーだもんね。そのくらい当然か。」

   忍は無理やり納得して笑顔に戻る。

(恭也さんじゃなければ抱きしめたりしません・・・)

   なんて思ってる人もいるような、いないような・・・。

「か〜さん恭也がお医者様に逆玉だと思って、仕事抜け出してきたのに・・・残念。」

「フィリス先生に失礼だろ?俺みたいなのと・・それにそんな事で仕事抜けださないでくれ・・。」

「あら、息子の一世一代のシーンに立ち会うのは母としての義務よ?」

「松尾さんに怒られても知らないぞ?」

   う・・・っときまづそうにそっぽ向いた。

「おにいちゃん?」

   ツインテールが少し下がり気味な感じで心配そうにこちらを見ている。

「ん?」

「なんか寂しそうだよ?どうしたの?」

   みんなを見てるとさっきの光景が浮かんでしまう、それが表情にでてしまっていたのだろうか。   

  なんでもないよ。と言って苦笑し、なのはの頭に手を乗せ軽くなでてやる。
   
「そっか、それならいいよ。」

   テヘヘっと笑ってなのははくすぐったそうに微笑んだ。

「無駄足になっちゃったかな、まぁ恭也のお見舞いにはどうせ来るつもりだったからいいけど。」

「今朝、恭ちゃんが怪我して入院するって連絡受けてみんな心配してたんだからね。」

   桃子と美由希がはぁっとため息をつく。

(ため息つきたいのはこっちだ・・)

   苦笑してふと外の景色をみる。

「そういば今何時なんだ?」

「もう11時ですよ。」

   フィリス先生が時計を見て答える。

「恭也も大丈夫そうだし、母さんそろそろお店にもどるわね。」

「ああ、ありがとう母さん、一応心配して来てくれたようだしな・・」

   一応ですって、失礼しちゃう。なんて言いながらばいばいと手を振って桃子は退室していく。

「なのは、私たちも帰ろうか。休み時間終わっちゃう。。」

   どうやら美由希は授業と授業の合間に抜け出して来たらしい。

「待て、美由希。今度来るときにあれ持ってきてくれ。」

    あれとは何の事か、少し考えポンっと手を叩く。

「あれね、了解。明日着替えと一緒に持って来るね。」

「ああ、頼む。それじゃ、なのはもありがとな。」

「うん!お兄ちゃんも怪我人なんだからあんまり無理しないでね。」    

   と元気に返事をして美由希の手を引っ張って二人で部屋を出て行った。

「あれ・・ってなんですか?」

   フィリス先生がクエスチョンマークを出しながら恭也に尋ねてくる。

「たいした物じゃないですよ。」

   そう言って心の中で付け加える、フィリス先生には言えない物です・・と。

「そうですか?なんか気になるんですけど・・、私もお仕事に戻りますね。恭也さん、安静にしててくださいね?」

   いいですか?って感じで釘をさされる。逆らうまい、あれはもう嫌だ・・・

「それでは月村さんも、あまり騒がないでくださいね?恭也さん、一応怪我人ですし。」

   忍はもちろん、わかってますよっと言って笑った。そしてフィリス先生も退室していった。

「それにしても、恭也がこんな怪我なんて、今回のお仕事そんなに大変だったの?」

「ん?まぁな、あの小笠原グループの護衛だからな。」

   あぁ、、あそこのね。なんて呟く忍。

「知ってるのか?」

「ん〜、まぁね。あれだけ有名な企業だしね。それに・・まぁちょっとね。」

   話していいものかと悩む忍。

「まぁいいさ。それより忍、時間はいいのか?」

「大丈夫、ノエルが送ってくれるし。それより恭也、さっきなのはちゃんも言ってたけど少し変よ?」

「そうか?そんな事ないと思うが。」

「私たちが近づくと恭也の表情が一瞬曇る・・。そのくらいお見通し。忍ちゃんをなめないでくれる?」

「そうか、そんなに顔に出てたか?」

「そうでもないけど、あの桃子さんも気づいてる様子なかったし。なのはちゃんはあれで鋭い子だから特別かな。」

   恭也は少し思案して忍に打ち明ける。

「そう、夢でね。ん〜・・良くわかんない。そういうのはフィリス先生に相談した方がいいかも。」

   そうだな・・と変事をして思う。

(なんであんな夢をみたんだ・・・)

「よぉっし!気にしててもしょうがない、違う事話そ!」

「いいけど、忍。あまり騒ぐと怒られるぞ?」

   そうだった。なんてチロっと舌を出して苦笑してる。

  この後、忍のおかげで夢の事を忘れて色々と話す恭也だった。といっても喋ってるのはほとんど忍だけど・・


  

   次の日、軽い検査と傷口の包帯やガーゼなどを新しくして病室で休んでいる恭也。

  夕方くらいになって美由希がお見舞いにきてくれた。

「恭ちゃん、着替えと。あれ、持って来たよ。」

「ありがとう、怪我してるとはいえ。さすがに病室は退屈でな。身体が鈍ってしまう・・」

「分かるよ〜、私も鍛錬できない日があるとおちつかないもん。」

   変わった兄妹だった、ちなみに美由希がもってきた物はというと。

  鋼糸と八景の重さに合わせた鉄の棒だ。両手に小太刀を持って鋼糸を使うのは結構難しいらしい。

  感覚を忘れないための練習道具と言うわけだろう。

(さすがに刃物を病院に持って来るわけにはいかんしな。)

   鉄の棒と鋼糸も十分まずいと思うのだが・・・。まぁそれはそれ。

「じゃぁ恭ちゃん、私戻るね。」

「ああ、わざわざすまない。母さん達にもよろしく伝えてくれ。」

   それじゃぁと頼んでいたものを恭也に渡して美由希は部屋を出て行った。

  渡された物の感触を確かめているとふいにドアがノックされた。

  まずい、フィリス先生だったら全部没収されてしまう。そう思って急いで物を枕の下に隠す。

  そして「どうぞ。」と返事をすると意外な人物が部屋に入ってきた。

「ごきげんよう、恭也さん。いきなり押しかけてしまって申し訳ありません・・。お見舞いに参りました。」

「志摩子さん!?」

「おー、あなたが噂のナイト様か。」

   制服姿の志摩子と見知らぬ私服の女性、この人は?っと志摩子に視線を投げる。

  はぁっとため息をつき苦笑しながらその女性を見る志摩子。

「お姉さま、初対面の人にたいしてそれはあんまりではないでしょうか?」

   そう?仕方ないなぁ・・って顔の女性。

「初めまして、佐藤聖です。志摩子がお世話になったようだね。」

   意味ありげに薄い笑いを口元に浮かべながら自己紹介する女性。

「初めまして。高町恭也です。世話になったのはこっちの方ですよ。それにしてもまさかここに来るとはね。少し驚いたよ。」

「ご迷惑でしたか?申し訳ありません。でも、その・・心配で・・。」

「いや、構わない。でも俺が入院してる病院が良く分かったな。確か言ってはいないと思うが?」

   疑問を投げかけると、志摩子は少しきまづそうな顔で視線を泳がせる。

「ええ。その・・小笠原の小父様に教えてもらったんです・・小父様の娘の祥子様にお願いして・・。」

「そうか、良くきてくれた。正直退屈してたんだ。」

「いえ、こちらこそ勝手に調べて押しかけてしまって・・」

   恭也に受け入れらて安心したように微笑みを浮かる志摩子。

  その様子を楽しげに見つめる聖が口を開く。

「恭也君・・でいいかな?」

「呼び捨てでも構わないですよ。こっちは佐藤さんでいいですか?」

「そっかそっか、じゃぁ恭也で。こっちも聖でかまわない、それに敬語もいらないよ。」

「お姉さま・・」

「何よ、志摩子。本人がいいって言ってるんだからいいじゃない。」

   気にした風も無く無邪気に笑う聖。志摩子はため息をついて諦めた。

  そして今度は恭也を眺める。

「ふむ、、ルックスも良ければ性格も礼儀正しくてよろしい。70点はあげてもいいかな。」

   なんか採点されてる、落ち着かない様子で苦笑しながら恭也はたじろいだ。

「お姉さま・・やめてください。人に点数をつけるなんて失礼ですわ・・。」

   連れてこなければ良かった・・なんて後悔してる志摩子。

「なによ〜、お姉さまとして妹が好意を寄せている相手を評価するのは当然でしょ?」

「何をおっしゃってるんですか・・。面白そうだからついて来たようにしかおもえませんわ・・。」

   あはは。ばれた?なんて悪びれた様子もなく笑う聖。志摩子はもう一度深くため息を吐いた。

「それにしても恭也さん、お元気そうでなによりです。」

「まぁな、丈夫さだけが取柄みたいなもんだからな。でも驚いたよ。まさかこんなに早く会うとは思ってもいなかったからな。」

「私も退院してからと思ってたのですが・・その・・」

   そう言ってチラッと聖の方を見る。

「私は助言はしたけど。強制はしてないわよ?それに、志摩子があんな顔してたらお姉さまとしてほっとけないじゃない?」

   意地悪そうに志摩子の方を見つめる。

「いえ、お姉さまは確かに行くべきだと言われました。」

「なに?じゃぁ志摩子は私に言われなかったら恩人のお見舞いにも来てあげないのかな〜?」

「そんな事ありません。。」

   そう言ってそっぽを向いてしまう志摩子。

「あらら、拗ねちゃった。ごめん志摩子、心配したのは本当よ?説得力ないけど、あなたは大事な妹だからね。」

   そっぽを向いた志摩子が分かってますわと呟いて聖を見て苦笑した。

「お姉さまにはかないませんね。」

   そんな様子をみていた恭也が会話に加わる。

「仲が良いんだな。それに姉妹というだけあってどこか似てる。」

   へぇ?っと興味深そうに聖が恭也を見る。

「そんな風に言う人は珍しいね。何処が似てる?」

「なんていうのかな、雰囲気・・かな?いや、、もっと深い根っこの部分が似ている気がする。うまく説明できないけど。。」

   ただそう思っただけで言葉にするのに困り苦笑する恭也。

「いや、鋭いね・・いいとこついてるよ。私たち二人を似てると言ったのはあなたで二人目よ。

   志摩子が興味を持つのも納得できるわ・・。」

「そうか?まぁ見ての通り変な奴だからな。興味を持たれても仕方ないか・・」

   「へ?」っと聖は呆気として志摩子の顔を見る。

  聖に視線を向けて志摩子は一度だけ大きく頷いた。

「あっはっはっは。いや〜、参った。やっぱり80点あげよう、あなたは面白い。」

   聖が高らかに笑って志摩子もつられるように笑っている。

  何故笑われているのか理解できない恭也は面白くなさそうにしている。

「いや、ごめん、ごめん。鋭いくせに鈍感で、真面目なのに天然で。正直言って変わってる。」

   謝ってるくせにフォローでなく追い討ちをかける聖。

  色々言われて仏頂面な恭也だったが、ふと目を閉じて囁く。

「そっか、やっぱり俺は変わってるのか・・」

   そして諦めたようにフッっと無邪気に微笑んだ。

「「・・・・」」

   笑うのを止めて二人がこちらを見つめている。

「なんだ?俺また何か変な事言ったのか?」   

   困っている恭也を二人が優しそうに見つめる。

「恭也さんが余りに無邪気に微笑まれるので見とれてしまったんです。」

   志摩子の言葉に恥ずかしくなりそっぽを向いて顔を赤くする。

「俺の顔なんか見たって何も面白くないだろ。」 

   ぶっきらぼうに答える恭也。

「恭也は自分の顔を鏡で見たことがあるかい?」

「なんだ、やぶからぼうに。いくら俺だって毎日身だしなみくらい整えるぞ・・」

「いやいや、そういう意味じゃないんだけどね。まぁいいや、よく分かった。」

   何故か納得されてまた笑われてしまった。

「志摩子、ちょっとこっち来て。」

  なんですか?っと聖に近づくそして二人で密談をはじめる。



「会って数分だけど・・私も彼の事気に入っちゃった。志摩子には悪いけど・・・。」

「それはいったいどういう・・」

「言葉のまんまだよ。」

「・・・余り恭也さんをからかわないでください、お姉さま・・。」

   はぁっとため息をつく志摩子。

「違うって、そういう意味じゃない。志摩子と一緒よ。」

   そう言っていじわるな笑みをうかべる。

「あ、、あの。私は別にそういった、、」

「そういう気持ちはないの?本当に?もらっちゃうよ〜?」

「な・・恭也さんは物ではありませんよ!」

   外を眺めていた恭也がこちらを向く。

  あ、、いえ、なんでもありませんっと苦笑して聖に向き直る。

「私はあなたのお姉さまよ?誤魔化しても無駄、認めなさい。」

「・・・意地悪です。」

  そう?っと微笑む聖。

「いえ、お姉さまのおっしゃる通り、私は惹かれています。恭也さんという人に・・。」

「フフ・・OK。じゃぁ次から彼の前では姉妹の関係は忘れよう。一人の女として勝負ね。」

   満足そうに微笑む聖にムッっとした様子の志摩子。

「分かりました、お姉さまがそうおっしゃるのでしたら・・受けてたちます。」

   密談を終え二人は恭也の方を向く。

「恭也、もう終わったよ。ごめんね、二人で話す事があってね。」

「かまわない、何だったんだ?俺の名前が聞こえたが。」

「気になさらないで下さい。」

「そうそう、女の子の秘密の会話を詮索しちゃ駄目よ?」

   そういうもんなのか?と恭也は聞くのをやめる。

「さて、長居すると遅くなってしまうし・・。そろそろ帰るとしますか。」

「そうですね。恭也さん、また来てもよろしいですか?」

「ああ、いつでも来てくれ。」

「それでは恭也さん、お体に気をつけて。ごきげんよう。」

「またね〜、恭也。」

「ああ、二人ともまたな。」

   そして病室を出ようとして志摩子がふと、こちらに振り返った。

「どうしたんだ?」

「一つだけ。今度からは私の事も『志摩子』とだけ呼んでください。」

   そう言って返答も待たずに志摩子は病室を出て行った。

  それを見ていた聖はあの子もなかなかやるわね・・。なんて呟いて、こちらにばいばいと手をふって退室していった。



   自分独りになった病室。少し寂しい気持ちになる、昨日の夢をふと思い出した。

  あれは、俺の心の反映なのだろうか。心が少しづつ欠けていく、そんな錯覚を覚える。

  俺の夢は俺に何を伝えたいのだろう・・。考えても分からなかった。

(まぁ、夢なんてそんなもんか。)
 
  そして考えるのをやめた。

  その日の夜も夢を見た、しかし今度の夢に自分以外の人物はでてこなかった。

  ただひたすら砂漠を歩き続ける、そんな孤独な夢だった。





恭也が見た夢…。
美姫 「それは一体、何を意味しているものなのかしら」
恭也の心の中にある不安なのか、それとも別の何かなのか。
美姫 「それはそれとして、聖の登場ね」
うんうん。しかも、いきなり志摩子にライバル宣言!
美姫 「今後の展開が楽しみよね」
うんうん。次回も非常に楽しみに待ってます!
美姫 「待ってますね〜」



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