『月は踊る、漆黒の闇の中で・・・』
第五幕 「長き夜の幕引き」
ふと時計を眺めると既に短針は1の部分を指している。
「怪我は平気かい?」
「ああ、一応止血もしてあるしこのままという訳にはいかないが平気だ。」
本当ですか?といった感じで志摩子は心配そうに恭也を眺める。
「ならフィリスを呼ぶ前に少し説明してもらおうか?彼女の事も含めて、電話の後になにがあったんだ?」
リスティは真面目な顔で恭也に問う。
「それより俺も説明して欲しいのだが、、この状況を。。」
あきれた表情でドアのあった場所に視線を送る恭也。
ごまかす様にリスティはゴホンッ!っと咳払い一つ。
「まぁそれは置いといて。」
「置いとくのか?」
「置いておくのですか?」
二人の言葉にキッっと睨んで牽制する。
「な に が あ っ た ん だ ?」
一文字一文字くぎってもう一度言った。
はぁっとため息をつくと諦めたように恭也はゆっくりと語りだした。
「そうか、、長い白髪の男は確かにホーンと名乗ったんだな?」
「ああ、知っているのか?」
「知っているも何も。。僕の仕事の一つだよ、そいつは。。まだ断定はできないけどね。」
ふぅっとため息をついて、参ったなって顔をするリスティ。
「なんでもいい、知っている事を教えてくれ。どうやら俺にも、、というより御神に関係のある奴らしい。」
「WHAT?どういう事だ恭也。」
ホーンと名乗る男と自分の会話を詳しく説明する。
「そうか、、もしその男が私の追っている奴ならば、、」
そう言って言葉を止める。
「どうしたんだ?説明を続けてくれ。」
「もしそうなら、厄介な相手だよ。特に恭也にはね。」
どういう事だ?っとリスティに視線を向ける。
「『白い牧師』彼は裏でそんな風に呼ばれてる。老人から赤子、男だろうが女だろうが平等に殺す。みなに平等に死をもたらす。
それはそういう存在なんだ。確実にまた恭也を狙ってくるだろうね、周りを巻き込んででも・・。」
「そうか。。」
自分のせいで回りのみなに迷惑をかける、恭也が一番嫌う状況だ。
「まぁでも、恭也に関しての情報はこっちで漏れないようにしてるし。高町家には美由希もいるから、大丈夫だろうけどね。」
「俺も不破の姓を名乗ったし、大丈夫だとは思うが。。」
「奴の素性は全くの不明だし奴の動向を探るのも不可能と言っていい、だから一応注意しておいてくれ。」
真面目な表情で恭也に一応の注意を促す。
「それと恭也。話は変わるが最近の仕事に納得がいってないようだね。心に迷いを感じるよ?」
彼女は人の心が読める能力を持っている。読もうとしなくても多少周りの感情を読み取ってしまうらしい。
「ああ。。」
そう短く告げる。
「余りいい噂をきかないからね、得に裏では、、まぁあれだけの大企業だからね、色々あるんだろうけど。」
「わかってはいるのだが、、自分が何を護っているのか時々分からなくなる。。」
そう言って表情を曇らせうつむく。
「おやおや、うちの企業は嫌われているのかね?」
怒った風でもなくむしろ楽しげにそんな言葉が会話に割り込んできた。
視線を声の方向に向けるとスーツ姿の中年男性が立っていた。
「小笠原さん!?」
「小笠原の小父様!?」
リスティと志摩子は驚いて声をだす。
恭也は気配にきづいていたのか得に驚くわけでもなく今回の依頼人の男性の姿を眺める。
(リスティはともかく何故志摩子は融氏を知っているんだ・・?)
そんな事思ってる恭也もリスティを仲介しての依頼なので彼と対面するのは初めてだ。
「いや、すまないね。ノックしようと思ったのだけれど。ノックするべきドアがなくてね。
どうしたのかね?まさかここまで敵が・・?」
そう言った男性はこちらを見ている。
いえ。。少しね。。って感じできまづそうにリスティに視線をむける。
そっぽ向いて恭也から視線をはずした。。
はぁっとため息一つ、志摩子も苦笑しながら二人を見ている。
「それより小笠原さん。どうしてここに?」
「ああ、襲撃を受けた事を聞いてね。状況を聞こうと電話したんだけど、繋がらないものでね。
こうして直接来たっというわけさ。」
しまったって顔してるリスティ。どうやら携帯を自分の部屋に忘れてきたらしい。
「でも、どうやらその様子だと祖父は無事のようだね。それとお疲れ様。随分ひどそうな怪我だが大丈夫かい?」
恭也の方をちらっと見て事務的にそんな事を言う。
コクっと軽く頷く。
「なんならこちらで治療の手配をしようか?」
「それには及びません、かかりつけの医師にお願いしますので。」
「あ、忘れてた、、フィリスに連絡いれないと。。時間は時間だけど、恭也のためならすっとんでくるだろうしね。」
リスティは部屋の電話を使って電話をかけ始めた。
「ところで、何故君がここに?」
融氏の視線は志摩子の方を向いている。
「お久しぶりです、小笠原の小父様。ええっと・・それは・・」
軽く挨拶して言いよどむ。なんと説明したらいいものか困ってる様子。
(やはりこの二人は知り合いの様だな。。)
恭也はそんなことを考えながら志摩子のフォローをする。
「融氏、実はこの子は俺のせいで巻き込んでしまったんです。」
そう言って事のてんまつを軽く説明する。
「そうか。。それはすまなかった。志摩子君はこちらでお送りしよう。」
お願いしますと二人は融氏に頭を下げる。そこに電話を終えたリスティが会話に加わる。
「お二人は知り合いなのか?」
「ええ、実は学園の仲の良い上級生のお父様でいらっしゃるんです。」
頷きながら志摩子の話を聞いてる融氏、そして志摩子に視線を向け。
「すまないがこの事は祥子には黙っていてくれ。あの娘には家のこういった事を話していないのでね。。」
きまづそうに笑いながら志摩子にお願いする、。
「もちろんです、小父様。今回の事は誰にもお話しませんので。」
そう言ってニコッっと笑った。
融氏は「ああ、頼むよ・・」と言って携帯を取り出し車の手配している。
(世間は狭いな。。)
二人の関係を知った恭也はそんな事を考えながら志摩子をみている。
すると志摩子の視線がこちらに向く。どうかしましか?って感じで微笑みながら首を傾げる。
いや、何でもないとジェスチャーして笑顔を返した。
「随分仲が良さそうじゃないか?」
不機嫌な声が二人の耳に届く。
「え!?そうか?そんな事ないと思うが・・」
焦りながら恭也は返答する。
「私と仲が良いのはお嫌ですか?」
笑顔の志摩子。
「え?あ。。いや。。そういう意味じゃ・・」
焦る恭也を見て志摩子はクスクスと笑って見ている。
からかわれた事に気づいた恭也ははぁっとため息をつくと逃げるように視線を志摩子からそらした。
そこには何故か不機嫌なリスティの顔があった・・
「何を怒っているんだ?」
「別に!」
取り付く島もない。分けがわからないと言った表情で再びため息をつく。
上機嫌な志摩子と不機嫌なリスティに挟まれ恭也は困った表情をしていた。
「恭也君、君は二人の気持ちに気がつかないのかい?」
電話を終えた融氏は苦笑しながら恭也に問う。
「小父様!」
「小笠原さん!」
融氏の発言に二人が焦る。
「どういう事ですか?」
本気ではてな顔の恭也。
「・・いや、すまない。きにしないでくれ。ところでリスティ君、彼は相当に『鈍感』なのかね?」
ええ、実はって顔のあきれた顔のリスティ。
何故俺が鈍感なんだって顔で不機嫌な顔の恭也。やっぱりそうなんだって顔の志摩子。
四者四様な表情をしていた。
突然コール音が鳴る、
「お、フィリスかな?」
そう言ってリスティ受話器を取る。
「ついたって。迎えにいってくるよ。」
ああ頼む、と言って恭也はリスティを見送る。
「さてこちらも迎えの者がもう到着している頃だろう。志摩子君、すまないがロビーでスーツ姿の男が待っていると思う。
私の名前を出せば送ってくれるから行ってくれたまえ。」
「分かりました。お世話になります。」
そう言って融氏に深く頭を下げ、恭也に顔をむける。
「恭也さん、色々とお世話になりました。」
そう言ってもう一度頭を下げた。
「いや、世話になったのはこっちの方だ、本当にすまない。お詫びのしようもない。。」
申し訳なさそうな顔をした恭也に志摩子は笑顔で返す。
「よろしいのですよ。今度会ったらお詫びしてくださるのでしょ?」
そこには今回巻き込まれた事に対する怒りの感情は一切みられなかった。ただ優しい笑顔。
「ああ、もちろんだ。」
そう言ったあと「あ、そうだ」と何か思いついた様子の恭也。なんですか?って顔で志摩子が見る。
「海鳴と言う町を知っているか?そこに『翠屋』という店があるんだが。」
ええ、と頷き、続きを促す志摩子。
「もしよければ遊びに来てくれ。何かご馳走しよう。」
このくらいじゃお詫びにもならないが・・と苦笑して恭也は言った。
「もちろんです。今度うかがわせていただきますね。」
っと言っても恭也さんはしばらく入院でしょうけどね。っと付け足した。
「そうだな、一週間もすれば退院できるだろう。その後にでも・・」
「馬鹿な事言わないで下さい!最低でも二週間は入院してもらいますからね!?」
聞きなれた声が響いた。
「フィリス先生!?」
驚いている恭也を脇に融氏が志摩子にそろそろ・・と告げる。
「はい。お待たせして申し訳ありません。では恭也さん、『二週間』よりも後にうかがわせていただきますね。
それではみなさんごきげんよう。」
そう言って志摩子は銀髪の医師であろう白衣の少女に軽く会釈して部屋を退出していった。
現在部屋にいるのはベッドで壁に上半身をあずけている恭也、ソファーに腰掛ける小笠原 融氏
入り口で恭也を恨めしそうに見つめるフィリス先生、そしてその後ろにリスティって感じだ。
まだまだ一悶着ありそうな予感。
「あ、、フィリス先生。俺のためにわざわざ申し訳ありません。」
夜更けに急に呼び出した事を謝る。
「そんな事はどうでもいいです。それよりまたやっちゃってくれたみたいですね。」
笑顔だが、目はわらっていない。。
「うそつけ。どうでもいいなんて。。こんな夜遅くになんて僕に愚痴った癖に。。。。。いや。なんでもない。」
フィリスがそのままの表情でリスティに視線をむけた。するとあのリスティが黙った。。
ふぅっと諦めた感じでため息をつくフィリス先生。
「もういいです、、とりあえず傷を見せて下さい。話はそれからです。。」
そう言って恭也に近づいてきて包帯をはずしていく。
「恭也君。そのままでいい聞いてくれたまえ。」
融氏が真面目な顔でこちらを見ている。なんですか?っと恭也はそちらに視線を向けた。
「君達の先ほどの会話がきになってね、恭也君は何故私達のような企業が気に入らないのかね?」
すっと視線を落とし恭也は考える。
「気に入らないってわけじゃないんです。ただ自分が何を護っているのか。。最近そんな事を考えてしまって。
そこに裏で小笠原グループの色々な噂を聞いてしまって。。それで・・」
言いにくそうに恭也は語った。それを見た融氏はニコッっと笑う。
「君は正義感が強いね。それに優しい瞳をしている、君が悩むのはそれゆえだ。僕は君のような人間が好きだ。
だから少しその噂について言い訳をさせてくれたまえ。」
いえ、そんな事と言って融氏に話の続きを促す。
「そうだね。君に一つ謎かけをしよう。『君は何故刃を握っているのかね?』」
恭也はひとしきり考え、そして答える。
「どういうことでしょうか?俺が刃を握るのは・・護るため。そう、俺の大好きな、大事な家族や友達。
頑張っている人たちの笑顔。優しい人たちの笑顔。そういった俺の好きな人達を護るためです。」
私も一緒だよ。そう言って俯いてからもう一度恭也の顔を見る。
「もう一つ、どうして護るために刃が必要なのかね?」
「あ・・・」
恭也は何かを悟り、そういうことか。。と呟いた。
そんな恭也の様子をみて優しい目になる。
「察しが良くて助かるよ。『そういう事』だ。」
刃を持たなければ護れない事もある、そのための刃だ。彼に置きかえれば。そういった悪い噂の様な事をしなければ
護れなかったのだろう、彼の企業の元で働く数万人の人々の生活、笑顔を。つまりそういう事なのだ。
「まぁそんな事をしながらうちの企業は生き残っているから、そういった噂も多くでるのだろうけどね。」
「申し訳ないです。それと俺も、あなたのような人が好きです。」
融氏はフッっと満足そうに微笑むと席を立つ。
「分かってくれてありがとう。それじゃぁ私もそろそろ行くとするよ。これでも忙しい身でね。」
そう言って三人に会釈して部屋をあとにした。
恭也の心の中の疑念は晴れていた。
(かなわないな、俺なんかよりずっと大きい。)
恭也は融氏の背中を見ながら苦笑する。
話している間にフィリス先生は傷の確認を終えたらしい。やれやれとため息をついている。。
「仕方の無い人ですね、恭也さんは。このまま私と病院にいってもらいます。肩の方は一週間もしないうちに傷口もくっつきます。
でも。膝の方は・・だいぶ無理なさったようですね。あれほど言ったのに・・」
「すみません・・」
「謝られても傷はなおりません。いいですか?無理をすれば本当に使い物にならなくなるんですよ?」
どうせ言っても聞いてくれないんだろうけど。と諦めた様にに注意する。
「それにしても、応急処置の方は的確にできていますね。リスティがやったの?」
フィリスの言葉に意地悪そうな笑みを浮かべるリスティ。
「それがね、フィリス聞いてくれよ。さっきすれ違った娘がいただろ?その子に手厚く手当てされたみたいだよ。
会った時はまるで『初めて二人で迎える朝』みたいな雰囲気だったんだ。いったいどんな手当てをされたのやら。」
そうニタニタと笑いながらフィリスに告げる。
キュピーンっとフィリス先生の目が怪しく光る。機械仕掛けの人形のようにギギギっと顔がこちらを向く。
極上の笑顔だ。もう怖いくらいに・・
「あらあら、恭也さん♪心配してきてみれば。そんな事なさっていたんですか♪」
「リスティ!分けのわからない事言うな!あ、おい!」
恭也の言葉にリスティはベーッっと舌をだして答え、立ち上がる。
「さぁて。後はフィリスに任せて僕は寝るかな。明日も仕事だしね。」
そう言ってフィリスにおやすみと言って部屋を出て行く。
恭也はただならぬフィリスの雰囲気に後ずさろうとするが、無慈悲にも背には白い壁があった。
「恭也さん♪どこへ行くんですか?そんな身体で・・♪」
(・・恨むぞ、リスティ・・・)
今夜何度目かの死の予感に恨みの呪詛を心に刻み、目を閉じる恭也だった。
そんなこんなで長い、長い夜は終わりをつげた。
医者は怒らせてはいけない…。
美姫 「鉄則ね」
うんうん。さて、とりあえずは、一段落したみたいだけれど。
美姫 「今後、どう話が進んでいくのか、楽しみよね」
ああ、楽しみだ〜。
美姫 「次回が待ち遠しいわ」
次回も楽しみに待ってます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」