まず始めにこの小説を読む上での注意をさせていただきます。この物語の主人公はオリジナルキャラです。オリジナルのキャラクターが苦手な方はご遠慮ください。また、この物語の本編キャラは多少壊れ気味なところがあります。キャラのイメージが壊れるのが嫌な方は読まないほうがいいかもしれません(そんなに酷く壊れることはないと思いますが;;)。最後に作者はマリみての原作を読んだことがありません。TVアニメと他の作家さん達が書いた二次創作、またはマリみて関連HPのDBを元に小説を書かせていただきました。原作と細部が異なることがあるかとも思いますがその点はご了承ください。ここまでのことを気にしないという寛大な方は是非先にお進みください。
頭が真っ白になるとは、こういう事なのだろうか。
柏木に頼まれて、代理としてやってきたリリアン女学院との打ち合わせ。まさかここで、自分にこのような運命が待っていようとは思いもしなかった。
隣では妹の祐巳が、何かしら叫び声を上げている。ただ、そんな祐巳の叫び声も、どこか遠くのものに感じた。
祐介の頭の中は、軽いパニックに陥っていた。先ほど蓉子達が言ったことを思い返してみる。
「(俺が王子様?)」
今まで、あまりもの出来事に活動を小休止していた祐介の頭が、ゆっくりと活動を再開し始める。そして蓉子達の言葉の意味を理解したとき、祐介は少し泣きたくなった・・・
マリみてif〜お兄様もみてる?〜
第四話 妹の行動と兄の教え、そして少女たちの門出
「ちょ、ちょっとまって下さい。何でお兄ちゃんが王子様なんですか!?」
蓉子達の衝撃の言葉に、誰よりも早く反応したのは祐巳だった。ここ数日色々と驚かされてきたが、またしてもびっくり発言が飛び出した。お兄ちゃんが王子様役・・・、王子様になった兄を思い描き、ピッタリだと思ってしまう。だが、それとこれとは話が別である。祐巳はなんとか気を取り直し、蓉子達に詰め寄った。
「私たちは、今日花寺学院から来る方が王子様役だと、あちらの生徒会長さんから聞いているわ。だから今日来た祐介さんが、王子様役ってことになるのよ。」
「し、しかし俺は柏木の代理で来たわけですから、王子役は柏木ということになるんじゃ・・・(汗」
蓉子の言葉に、なんとか頭を再起動させた祐介が抵抗を試みる。
「でも昨日、学校に連絡があって今日来る人が王子様役だって柏木さんが言っていたわよ。祐介さんが代理の話をされたのっていつ?」
面白おかしく言った江利子の一言に、冷や汗を流す祐介。祐介が代理を頼まれたのは今日のことである。
「す、すいません少し失礼します(汗」
祐介はその場にいるメンバーに断りを入れると、携帯電話を取り出しどこかに電話を掛け始めた。何度かの呼び出し音が鳴った後電話の相手が出た。
「もしもし、柏木だけど祐介君どうしたんだい。今は打ち合わせ中のはずじゃなかったかい?」
「柏木!!どういうことだ、話がおかしいぞ、俺は代理のはずじゃなかったのかっ!!」
「あぁ、そのことか。薔薇様達から聞いたと思うけど、王子様役がんばってね♪」
「がんばってじゃない、俺はあくまで代理として・・・」
「祐介君・・・」
電話に出た柏木に事の説明を求める祐介だが、柏木はさも決定事項だといわんばかりに笑いながら話を流そうとする。そんな柏木にあくまでも食い下がろうとする祐介だったが、不意に柏木が神妙な声を出したので言葉を止めてしまう。
「確かに役のことを黙っていたのは謝る。だけど、君が一番適任だと言ったのは本当なんだ。君ならなんとか出来るかもしれない。だから・・・」
「柏木・・・」
自分ならなんとか出来るという言葉に、多少疑問は残ったが柏木の様子から、決して思いつきで自分をリリアンに送り出したわけではないことは理解できる。柏木には何かしらの考えがあって自分を選んだのだろうと、祐介は納得しかけたが・・・
「だから、王子役がんばってね、僕も本番を楽しみにしているから♪分からないことがあったら山百合会の方々に聞いてね、それじゃまた♪ガチャ・・・」
「お、おいマテ柏木!!話はまだ終わって・・・、オイッ!!」
ツー、ツー、ツー
先ほどの神妙な様子から一転して、悪戯を成功させた子供のように喜色満面といった様子で電話を切る柏木。そんな柏木を祐介は必死に呼び止めるが、時すでに遅し、携帯電話から聞こえてくる音に虚脱感を覚えながら、やはり自分は嵌められたのではないかと祐介は考え直した。
「祐介くん、話は終わったみたいだね。疑問は解決した?」
力なく席に着いた祐介に、最初から結果は分かっていたとばかりに声を掛ける聖。とても楽しそうな笑顔を浮かべている。
「解決したといいますか・・・、もう逃れられないという事が分かりました・・・」
「まぁ、人間諦めが肝心よね♪」
「祐介さん、いい劇にしましょうね。」
江利子と蓉子の言葉に、頭を抱える祐介。仏様は自分を助ける気がないらしい。
三人の薔薇様以外の山百合会メンバーは、まさかの展開についていくことが出来ず、呆然と事の成り行きを見守っていた。
「しかし、俺は演技なんてしたことがありません。きっと皆さんに、特にシンデレラをやる方には迷惑をかけてしまうでしょう。他の配役はどうなっているのですか?」
やるからには全力を尽くしたい。しかし、演技などやったことはない。特にパーティーの場面ではダンスを踊ることになるだろう。しかし、祐介にはダンスの経験すらない。きっと相手役のシンデレラには迷惑をかけてしまうだろう。祐介にはそれが気がかりだった。
「シンデレラは一応、祥子がやることになっていたのですけれど、訳あって今は未定なんです。ただ本番まで時間もありませんし、近日中には決定したいと思います。それまでは、練習では祥子にシンデレラの役をやってもらおうと思っています。」
「そうなんですか。」
蓉子の説明に疑問が残るものの、色々と事情があるのだろうと一応は納得する祐介。シンデレラ役が未定なのは、祥子と薔薇様達との賭けが原因なのだが、祐介にはしる由もない。
「祥子さん、どうなるかわかりませんが、練習の間はよろしくお願いします。きっとご迷惑をおかけしてしまうと思いますので。」
「い、いえ、こちらこそよろしくお願いします(////」
自分に対して真剣な表情で頭を下げる祐介に対し、顔を赤くした祥子も慌てて頭を下げる。先ほども同じような事があったなぁと思いながら他のメンバーは二人をみる。
男嫌いであるが故に、シンデレラ役を拒否し、薔薇様達と賭けをおこなっている祥子だが、祐介が相手ならやってもいいかもしれないと無意識に思ってしまう。
「あれぇ、祥子どうしたの?あんなに嫌がっていたのに満更でもなさそうじゃない♪」
「べ、べつに私は嫌がってなんか・・・」
聖の言葉に、心の中を読まれてしまったような感覚を覚え、恥ずかしさのあまり真っ赤になる祥子。否定の言葉にも力がなく最後まで続かない。
そんな祥子と聖のやり取りを、蓉子と江利子は微笑みながらまた、由乃と志摩子は今までに見たことのない祥子の様子に呆然としながら見ていた。令にいたっては、祐介の相手役を練習の間だけでも務めることが出来る祥子を、羨ましそうに眺めている。祐介は祥子が赤くなっている理由がわからず、熱でもあるのだろうかと的外れなことを考えていた。
そんな中、その様子を冷静に見ている人物がいた。祐巳である。最初、祐介が王子様だと聞いたときにはパニックになった祐巳だったが、状況を理解するために頭脳をフル回転させていた。
シンデレラの王子様を祐介がやる、物語の内容からして王子様はシンデレラと結ばれる。学園祭の劇とはいえ祐介が自分以外の女性と結ばれる。その事実を祐巳の頭脳は導き出した。これは祐巳にとって由々しき事態である。自他共に認めるブラコンである祐巳にとって祐介が他の女性と結ばれることはあってはならない。それが劇の中であってもだ。賭けがあるため、まだ決定してはいないがこのままでは祥子がシンデレラをやることになるだろう。
祥子のことは尊敬しているし、憧れてもいる。しかし、祐巳は大好きな兄を取られてしまうようで不安な気持ちになる。
どうすればいいのだろう、祐巳は再び頭脳をフル回転させる。祐介が王子様をやるのは決定事項だ、もう変えられそうにない。となれば残るはシンデレラ役の方だが、しかし仮に祥子がシンデレラをやらなかったとしても、他の誰かが代役を務めることになれば、それは同じことである。
絶望的な状況に頭を悩ます祐巳だが、一つの方法に思い至った。そしてその方法を早速実行に移した。どうも祐巳は、祐介のことになると周りが見えなくなるらしい。
「祥子様っ!!」
「ど、どうしたの、祐巳(汗」
聖とのやり取りに、しどろもどろになっていた祥子だが、突然祐巳に名前をよばれ祐巳のほうを見る。しかし、祐巳の鬼気迫る表情と勢いに気圧されそうになる。他のメンバーも何が起きたのかといっせいに祐巳を見る。
「祥子様、私を祥子様の妹にして下さいっ!!」
「「「「「「「「・・・へ?」」」」」」」」
祐巳の突然の言葉に、祥子のみならず他のメンバーも気の抜けた返事をする。全員が、何が起こったのか分からないといった顔をしている。特に祥子は混乱していた。祐巳を妹にしようと、ここ数日アプローチをし続けていたが色よい返事は貰えなかった。それが何故急に妹にしてほしいと言ってきたのだろうか。祥子だけじゃなく他の山百合会メンバー達にも分からなかった。
「そして薔薇様方」
いまだに呆然としている祥子から祐巳は、蓉子達に向き直る。急に話しかけられた蓉子たちも我に返り祐巳を見つめる。
「私に祥子様の妹として、祥子様の代わりにシンデレラの役をやらせてください!!」
「「「「「「「ええぇぇ〜〜〜!?」」」」」」」
祐巳の口から再び飛び出した衝撃の発言に、山百合会メンバーが驚きの声を上げる。
祐巳は、祥子と薔薇様達の賭けの話の時に、祐巳が祥子の妹になってシンデレラ役を免除になった場合、姉の穴を埋めるのは妹の役目だと聖に言われた事を思い出したのだ。
聖達もその事を思い出したようだ。今までの祐巳の態度から、祐巳の祐介に対する想いが普通の兄妹としての兄に対するものではないということは分かっていたが、まさかこのような行動に出るとは思わなかった。その行動に、祐巳の思いの強さを感じるが、突然の出来事に誰も答えを返すことが出来なかった。
そんな中、当事者の一人である祥子の心境は複雑だった。この展開は自分が望んだものだったはずだ。祐巳を妹にすることができ、シンデレラの役も降りることが出来る。祐巳と出会って妹にすると宣言してから数日、わずかな時間ではあるが祐巳と接することで祥子はシンデレラ役とは関係なく、祐巳のことを妹にしたいと思うようになっていた。
そして今、祐巳は自分の妹になりたいと言っている。願ってもない申し出のはずだ、なのに何故だろう、祥子は素直に喜ぶことが出来なかった。祐巳は心の底から自分の妹になりたいと思っているのだろうか?そんな不安が祥子の心の中をよぎっている。ただし、その不安を口にする勇気は今の祥子にはなかった。祥子もただ呆然と事の成り行きを見ていることしか出来なかった。
「ちょっと待ってくれ、祐巳お前に聞きたいことがある。」
そんな状況に口を開いたのは、意外にも祐介だった。名前をよばれた祐巳だけでなく、その場にいた全員が祐介に注目する。そんな中、祐介は神妙な表情で祐巳に語りかける。
「祐巳、お前は本当に心の底から祥子さんの妹になりたいと思っているのか?」
「え・・・」
予想もしていなかった祐介の発言に、祐巳は言葉を詰まらせる。
「俺にはさっきの話では、シンデレラをやりたいから祥子さんの妹になりたいと言っているように聞こえたぞ。」
「そ、そんなことは・・・」
いつものやさしい表情とは違い、厳しい視線を向けてくる祐介に祐巳は怯んでしまう。
「祐巳、お前はよく俺に話してくれたはずだ。リリアン女学園のスール制度は姉妹が互いを支えあい、共に成長していくすばらしい制度だと。スールの絆は、実の姉妹の絆にも勝るとも劣らない大切なものだと俺に教えてくれたはずだ。」
「・・・」
祐介の言葉に言葉を無くしてしまう祐巳。その場にいる誰もが祐介の言葉に耳を傾け、その言葉の重さを考える。
「お前が何故シンデレラをやりたいと思っているのかは俺には分からない。だがお前は、祥子さんの妹になるということを、真剣に考えて答えを出したのか?残念だが俺にはそうは見えなかった。」
祐介の厳しい言葉に祐巳は俯いてしまう。目には薄っすらと涙が滲んでいた。
「スールの契りを交わすということは、学生の間だけではなくきっと一生続いていく関係になるだろう。そんな大切なことに安易な考えで結論を出してしまうと、お前はこの先きっと後悔することになるし、何よりもお前を妹にしたいと言ってくれている祥子さんに対してとても失礼な行為だ。」
「!!」
祐介の言葉にハッとして顔を上げ祐巳。自分の安易な考えが、祥子に対してとても失礼にあたるという事実に顔色が真っ青になる。祐介のことで周りが見えなくなっていたとはいえ、自分はそんなことにも気づけなかったのか・・・。祐巳は自分の行動の浅はかさに涙が出た。両手で顔を押さえすすり泣く祐巳に、祐介は静かに近寄っていき、そっと抱きしめた。
「いいか祐巳、失敗して反省することは構わない。人は失敗を見つめなおし反省していき、次に生かすことによって、また一つ成長することができる。だが、後悔だけはするな。後悔は人の成長を、人の歩みを止めてしまう。どんなに小さな事でもじっくりと真剣に考えて結論を出すんだ。どんなに時間がかかっても構わない。真剣に考えて自分が最良であると思う結論を出すんだ。そうすればたとえそれが間違った結論だったとしてもきっと後悔することはない。」
「うん、わかった・・・。ごめんなさい、ごめんなさい。」
祐介の腕の中で泣きながら謝罪の言葉を繰り返す祐巳。祐介は祐巳が泣き止むまで無言で頭をやさしくなで続けた。そんな二人の姿を、その場にいた全員が静かに見守っていた。
「どうだ、落ち着いたか?」
「うん、もう大丈夫。お兄ちゃん、ありがとう。」
数分後、優しく語りかける祐介に笑顔で祐巳が答える。その祐巳の顔みて祐介は、もう大丈夫だろうと思った。
「それならお前にはやらなければいけないことがあるはずだ。きちんとケジメをつけてこい。」
「うん、わかった。」
祐介に笑顔で返事をし、祐巳は向き直る。その祐巳の視線の先には祥子がいた。
「祥子様。」
「何かしら祐巳。」
祥子と祐巳、向かい合う二人の表情は迷いのない、晴れ晴れとしたものだった。
「すいませんでした。さっきの私の発言は、私を妹にしたいと言ってくださった祥子様の気持ちを裏切る行為でした。本当に申し訳ありませんでした。」
「もういいのよ、気にしないで祐巳。」
祥子に対して最大の誠意を持って祐巳は頭を下げる。そんな祐巳を見つめる祥子の瞳はとても優しかった。
「それと、私がこんなことを言えた義理ではないのでしょうが、私にもう一度考える時間を下さい。今度こそ私なりに一生懸命考えて、私が一番いいと思える答えを出したいと思います。ですから、私に時間を下さい、お願いします。」
そして祐巳はもう一度、祥子に頭を下げる。そんな祐巳に、祥子は優しく微笑みかける。
「祐巳、頭を上げなさい。私からも是非もう一度お願いするわ。私の妹になってもらえないかしら。どんなに時間がかかってもいい、あなたが一番いいと思った答えを、私に聞かせて頂戴。」
「はい、ありがとうございます。」
祐巳は満面の笑みを浮かべた。それを見た祐介は、妹はもう間違った決断を下すことはないだろうと確信した。
「祐巳、私は絶対にあなたの姉になってみせるわ。だから覚悟しておきなさい。」
「はい、よろしくお願いします。」
二人の少女は笑顔で向かい合う。そんな二人を見守る眼差しは優しく、そして暖かなものだった。
ここリリアン女学園で、大切な仲間達と、マリア様に見守られた二人の少女の物語は、今本当の幕開けを迎えた。
つづく
あとがき
本当にお久しぶりです。シュウです。
兄みて第四話、やっとお届けすることが出来ました。第三話を書き終えてから、インフルエンザで一週間寝込んだり、プライベートが慌しかったりと、なかなか小説を書く時間がなくやっと第四話を完成させることが出来ました。
今回は今までの話と違い、結構まじめな話でした。祐巳の行動については結構予想が当たった方もいると思います。美姫様にもばればれでしたし(汗 さすが美姫様、俺の考えなんてお見通しなのですね(笑
こんなの祐巳じゃない!!と思われた方ごめんなさい。今回の話はどうしても書きたかったんです。祐介が祐巳に言った言葉は、昔俺がある人から言われたことです。この言葉は今も俺の心に残っています。これからも忘れることはないでしょう。
今回は少し真面目な話になりましたが、また次回からは祐巳ちゃん奮闘記が始まります。これからもうちの祐巳を暖かく見守ってあげてください。
それではまた次回までごきげんよう♪
祐巳ちゃんが少し暴走!
美姫 「しかし、そこはお兄ちゃん。ちゃんとそれを抑えたわね」
さて、こうなってくると、次回からの姉妹の賭けが更に盛り上がるぞ。
美姫 「一体、どう話が進み、最後にはどうなるのかしら」
次回からの祐巳ちゃん奮闘記が待ち遠しい。
美姫 「それでは、また次回を待ってますね」
ではでは。