前書(必ずお読みください):このSSは原作の設定とは違い、オリジナルの要素が含まれています。

そういうものが嫌いな方、許せない方はこれ以上読み進めないことをお勧めします。

それでも良いという方だけ先にお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

-HiME〜運命の断罪者〜

4th Step 燎原の跡に/偽りの真実/神楽笛

 

清涼な風が吹く。

清々しく澄んだ風は木々を、草花を、人工の建造物を伝い、触れ、駆け抜けてゆく。

誰にも妨げられず、自由に。

昔、ある詩人がこう言ったという。

風は悠久の旅人だと。

何者にも束縛されず、永遠に常世を巡る異邦人だと。

それはこの風華の地でも同じこと。

風は土と草花の香りを運び、人々の営みの様子を音として運ぶ。

世界はこんなにも様々な存在に満ち溢れていると(うた)う。

賛美する、世界は素晴らしいと。

そんな中ある風がとある音を拾う。

太く神秘的な音。

悲しく儚げなメロディーライン。

だが何か聴くものを元気付けようとする曲調。

不思議な曲。

楽器に詳しくなくとも聴く人が聴けば分かるだろう。

これは笛の()だ。

其れも西洋のモノではない。

笛と言えば煌びやかな装いの金属性の管楽器が主流となった音楽界には最早影もない。

日本純正。竹製の和の笛の音。

何処までも、何処までも、風に浸透する音。

大気を揺らし、奏でられた音色は力強く繊細で。

耳障りな騒音さえこの音色の前では平伏してしまうではないか。

そんな笛の()

風はその源を探り当てる。

遡り自らがこの音を拾った場所へと戻る。

それは竹林。

緑黄色のその身を直立させ刃のような葉を纏い竹達は立ち並ぶ。

風が通ることによってはその身を左右に揺らしお互いに細くも頑強な枝に付いた葉をこすれ合わせる。

風は竹達の中を巡り巡って、広場に出た。

開けた空間。

柔らかい土の地面に竹の枝から落ちた笹の葉が折り重なる。

竹林の中、自然に其の空間は存在している。

意図して其処に竹が生える事を拒んだように。

其処だけが土の大地を剥き出しにしている。

其の中央にぽつりと大きな岩、其の岩に人が腰掛けていた。

顔立ちが整った美麗な青年。

瞼を閉じ、凛とした雰囲気が青年を囲んでいる。

此れは青年が本来持つ気風だ。

彼は、一つの事に集中している。

そう其の手もった笛を奏でる事に…。

青年が手に持っているのは黒、いや其れより深い黒。

漆黒と言えば良いのだろうか?

(うるし)によって光沢を与えられた純日本製の横笛。

長さにして一尺五寸(45.5cm)

一般的に知られている竜笛より長い。

指孔は六個ある事から高麗笛という可能性もあるがやはり其れより長い。

そう違う。

この笛は竜笛、はたまた高麗笛でもない。

御神楽(おかぐら)神楽(かぐら)(まい)といった限定された演奏でしか吹かれないため。

余り知られていないが、雅楽三管のうち最も長く、一番低い音を担当する横笛。

神楽笛。

バスフルートのような太く神秘的な音色が特徴のこの笛。

青年は唇で風を“切り”、奏でる。

彼は贈る。

風に乗せる。

全てのモノに届けと、常世に届けと、 幽世にさえ届けと。

これは相手に安寧を齎す音色。

非業に死したものへ。

悔やみ死したものへ。

憎み死したものへ――――全ての負の死への。

幸福に死したものへ。

安らぎ死したものへ。

愛し、慈しみ死したものへ――――全ての正の死への。

そう(かれ)が、()の青年、高町恭也が奏でているのは鎮魂の曲、勘違いさられるなかれ、葬送曲ではない。

ただ幽世へ送るための曲ではなく、魂に安らぎを与える曲を彼は“贈る”

それは、迷い児たちへも同じ事。

自らが手にかけたモノだけではなく。

全ての迷い児達へ次の生では幸せであれと。

―なぜ?

――なぜ?

―――なぜ?

なぜ恭也はあの異形の化け物の事をそれほど思うのか。

お構いなしに人を襲うあのような怪物どうでも良いではないか。

誰もがそう思おう。

しかし、其れは違うのだ。

迷い児、あのオーファンたちは風華に住まう人々の想いがこの地の力で結晶化し無理矢理、魂をもたされ生み出された悲しき存在。

故に自らの存在意義を知らず、知りようにも人のように完全に確立した思考を持ち合わせていないので知る事ができない。

ただ彼らは人の想いの力で生を受けている。

だから必要とする、求める、想いという力を。それが何より不確かなものでも彼らは分かっている。

その喰らい方を、そして実行する。

生きるために、彼らとて死という概念には抗いたいのだ。

特にHiMEの想い。

それは彼らにすれば極上の馳走だ。

喰らわば永劫の生を得られん思えるほどに、彼女たちの思いは神々しい。

元より彼らは其の本能に抗えないように創られている(・・・・・・)のだから。

だから恭也は神楽の笛を吹く。

そんな理不尽な生ではなく。

そんな傀儡としての生ではなく。

真なる意味で自由な生をおくってくれと。

せめて来世では。

恭也は曲を終え、空を見上げる。

彼の心に浮かぶ夢想は馳せる。

晴れ渡っている。

無限に突き抜けるような蒼穹。

雲も疎らに散っている、綺麗な空だ。

恭也は心からそう感じた。

ただ、一部でそれがこれから起こる現実からの逃避ではないかと自らの心がいっている。

裏山にありありとその姿を見せる、昨夜の燎原の爪痕を脇目に捉えながら。

この学園の長と自らが所属する生徒会の長の苦言と紺藍色の髪の少女の追及の言葉にどう返すか考える。

そして、ブロンドの髪を揺らしながら事態に究明に乗り出すであろう、執行部における自らの部下のことを考えて、

恭也は幸せが一機に逃げていくのではないかと言う大きな溜息をついて歩き出す。

「……今日が平和に終わりますように………。」

無理だな。

そこには自らの言ったことに即答で考えを導き出す自分が居た。

恭也は眉間に皺を寄せながら片手に漆黒の神楽笛を持ち、風華学園へと山中を下っていった。

 

 

 

幼い自分がいる。

病院のベッド。

医療器具と生命維持装置の電子音。

隣に巧海がいて、死んだはずの父が自分たちの後ろに立っている。

何だろう分からない、虚無の中に佇んでいるようなそんな感じ。

周りがとても曖昧でぼやけているのが分かる。

だが何だろうとても悲しくて、胸が締め付けられるように痛い。

 

 

 

 

 

白い部屋。

と言っても壁紙が白いだけの部屋だ。

否、他にも白で統一されたものは多々ある。

部屋の役割からして、清潔感を出すためなのだろう。

部屋の中はほんのりと消毒薬の匂いに覆われている。

たとえ何度、換気のため窓やドアを開け閉めしたとしても。

この匂いは消えることは無い。

根本から染み付いているのだ。この室内に。

部屋の奥まった所には、仲良く二つのベッドが並んでいる。

双方、純白のシーツでその身を整えられ、患者を待っている。

いや、片方にはもう既に患者が横たわっている。

そう此処は風華学園の保健室。

一学園の保健室でありながら、他と比べ医療器具の数は充実している。

それも、小さな医療クリニックを経営できるほどに。

其れはなぜか?

理由として上げるならば、学園の敷地内に生徒達が住まう寮があるのが大きな要因だ。

正直この風華学園からこの地で有数の医療機関である。

財前総合病院までの距離は近いとは言いがたい。

だからだろう。

だが学園側にしてみれば当然の処置と言える。

大切ご子息やご息女を、親御さんから預かっているのだから。

「―――んう…ん………。」

室内に呻き声にも似たものが響く。

発信源は少女。

オレンジ色のショートヘアーに同色の風華学園、高等部の制服を着ている。

そして、患者である栗色の髪の少年が寝息を立てている脇で、彼女は椅子に座り、ベッドに寄りかかって寝ていた。

肩には誰がかけたのか毛布が添えられていた。

ただ、今その意識は覚醒を迎えようとしているが…。

ゆっくりと目を開けた彼女、朝の光が彼女の覚醒を即す。

眩く、暖かい朝の光、なんとも表現しがたい日の匂いが彼女の、鴇羽舞衣の鼻をくすぐった。

舞衣の意識はだんだんと明瞭になっていく。

ベッドにもたれていた身を起こし、目を擦る。

目を開けたとき目の前にあったのはベッドの上で寝息を立てる自らの弟。鴇羽巧海の姿。

その顔はとても穏やかだ。

「呼吸も安定してるし、大丈夫よ。」

そんな、舞衣の後ろから飛んできた声。

大人の女性の声。

舞衣は振り向く。

其処にいたのは黒髪に白衣を羽織ったこの風華学園の保健医、

鷺沢陽子が保健室に備え付けてある自らのデスクに向かいペン片手に舞衣と巧海のほうに視線を向けている。

その表情はとても穏やかだ。

「昨日は、ちょっとスリリングだったけど…。」

巧海はもう大丈夫。

そう知らされ、舞衣の中にあった心配という二文字が霧散し消える。

 そして、まるでタイミングを見計らっていたかのように、

「んっ……お姉ちゃん。」

巧海が目を覚ます。

しっかりと、その瞳で姉を捉え、その上半身をベッドから起こす。

少し気だるげだがそれでも、彼が浮かべた笑顔に。

「巧海!!!!」

姉は安心して。

思わず抱きしめていた。

飛び込むように勢いよく、巧海の小さな身体に己の身体を密着させる。

「ちょっ、おっお姉ちゃん!!」

突然の姉の行動に驚く巧海。

姉の豊満な胸とその身体全体の重さに耐えられず。

再び巧海は、ベッドに背中を預ける。

それだけ鴇羽舞衣は弟が無事であることが嬉しかった。

 

 

 

「芝生ときて裏山ですか。」

「話題に事欠きませんなぁ。」

風華学園にて人の口伝いに噂は広がる。

今朝出勤してきた、職員たちが裏山に広がる灰の海、燎原の跡を見て口々に呟く。

昨日のミステリーサークルといい、

この学園はワイドショーネタには事欠かないのではないか。

そんなことを口から漏らす。

この学び舎に通う学生たちも同様だ。

「放火?」

「ええ!あんなにならないでしょう。」

「そうかなぁ?」

女学生たちが口々に原因を挙げる。

此れが本当の姦しいではないだろうか?

どれも正解とは程遠い。

当たり前といえば、当たり前だ。

ここで正解が出せるものがいるとすれば其れは事態の当事者か、極大の妄想を抱く夢想家だろう。

UFOが着陸した後だ!!」

「お前それ、痛すぎ。」

別の方向で、妄想を抱く夢想家がいたようだ。

友人は可笑しそうに笑いながら、応対している。

「執行副部長の珠洲城が切れて、“調査委員会を作らせろ!”って騒いでるらしいぜ。」

「誰か、あいつに男でも紹介してやれよ。」

「いやそれなら、恭也なんてどうなんだ?いつも近くに居るし。執行部長だし。」

「いやあいつはほらアレだから…。」

「そうだな……アレだしな。」

アレとは言うまでもあるまい。

鈍感で、朴念仁なところをいっているのだ。

最早、この学園にとってほぼ常識と成りつつある。

それでも、あの容姿に人格。

この学園の美系生徒会副会長、神崎黎人に劣らないぐらい人気がある。

主に女性からだが。

ファンクラブがあるのも恭也本人は知らないが周知の事実だ。

「まあ、暴走状態の珠洲城は恭也が何とかしてくれるだろう。」

「そうだな。」

恭也と同級である、男子生徒たちはそんな事を話している。

今日の風華学園は謎の事件が起こっている中も結構平和だった。

 

 

 

「なんで次から次へとこんな不祥事ばかり、

これはもう生徒会執行部への挑戦としか思えないわ!雪之あなたもそう思うでしょ!!」

強気な女性の声が空気という媒体を通し、学園の空に響く。

現場は中庭。

そのブロンドの髪を振り乱し、彼女は白い制服に身を纏った執行部員たちに指示を飛ばす。

昨日の朝から……いやもっと前からだが、起きている奇妙な事件に続き、またも起きた不祥事に彼女は怒り心頭だった。

そう、珠洲城遥は怒り心頭、怒髪天につく勢いで怒り狂っていた。

自分たちを嘲笑うかのように起きる事件(遥の主観)

一夜にして裏山は灰の砂漠と化した何らかの現象。

おかげで学園は朝から消防車を呼ぶほどの大事態。

既に鎮火していたが、朝一番できた職員がもしものために一応呼んだようだった。

ここまで大きな騒動、まさにこの風華学園史上前代未聞。

「落ち着いて遥ちゃん、ただの火事って可能性もあると思うよ。」

そんな完全に暴走状態に入っている遥の横で、眼鏡をかけた彼女の執行部における秘書的存在。

幼馴染で親友でもある、

菊川雪之が遥をなだめながら諭す。

だが、そんな雪之の言葉はまったく意味をなさないようで――――。

「雪之、此れが落ち着いていられる!?敵は私たちを完全に()笑っているのよ!」

遥は硬く拳を握り、正義は我にアリといった感じで言い放つ。

雪之は苦笑しながら遥をもう一度宥めようとする。

何か彼女の瞳に炎が見えるのは気のせいだと思いたい。

「…遥ちゃん。たぶんその発音だと漢字、間違ってるよ。」

「そんなことは、今は気にするべきところではないわ!囚われないで雪之!!気をしっかり持つのよ!!!」

がしっと雪之の肩をつかみ遥は強く言い放つ。

「遥ちゃん……」

完全に自己中心的な思考を展開中の親友にちょっと悲しくなる雪之。

それでも私が何とかしなければ駄目なのだ。

ちょっと決意する雪之を他所に遥が口を開く。

「それで雪之、部長は?見つかった!?」

「うんうん、まだだよ。学園には来てるみたいなんだけど……。執行部室にも教室にもいないみたい。」

そう、恭也のことをこの二人は探していた。

執行部全体で裏山のことの処理にあたっているのだが、その頂点である執行部長がただいま行方不明。

ここ最近良くあり、遥たちも彼が彼なりに事件解決のために動いているのだと思い、黙認している。

実際、恭也が学園で起こった問題を解決するとき一人で行動することが多い。

嘗て、あった事件をあげるならば、

風華学園付近で恐喝被害が頻繁に発生する所があった。

多数の生徒の被害と要望もあって執行部が動くこととなる。

執行部で調査した後、そこら一帯は不良グループの溜まり場になっているとわかり、

遥が直接注意しに行くと言い出したのだ。

だが、相手は地元でも悪名高い不良グループ。

学園での地位はそれなりとはいえ、遥も彼らにしてみれば唯の小娘。

まさに其処に飛び込むなど無謀の一言に尽きる。

何されるか分かったものではない。

雪之や執行部員に止められるが遥は制止を聞かずその場所に赴いた。

だがそこで遥の目に飛び込んできたのは。

倒れ付し、ピクピクとヤバイ位に痙攣する不良たちの姿。

10人どころではない4、50にはいるのではないか。

手にはナイフや金属バット、特殊警防、スタンガンなどの凶器を持っているがそれがまるで意味をなさなかったようだった。

そしてその屍の山の真ん中に立っていたのは、遥の見知った人物。

男性にしては綺麗な黒髪と凛とした表情。

『遥か?どうしたこんなところで?』

そこに立っていたのは自らの所属する執行部の部長。高町恭也だった。

彼は己の制服についた埃を徐に払うと、

悠然と遥のほうに歩み寄ってくる。まるで何も無かったかのように。

遥が聴く、何があったのかと。

そうすると彼からは平然とさも当たり前といった具合で答えが返ってきた。

『うちの生徒からここらへん一帯で被害の報告が出ていたろ?

そこで彼らに恐喝行為を止めてくれと頼みにきたのだが聞き分けてくれないので、ちょっと(・・・・)痛い目を見てもらった』

遥の後を追いかけてきた雪之や執行部員たちがその光景を見て、呆気にとられたのは言うまでもない。

のちに此の事は幾ばくかの尾鰭が付いて“執行部長の不良100人切り”と銘打たれている。

このことで恭也の株が上がったのは言うまでもない。

本人は“自分は何かしただろうか?”とまったくもって気付いていなかったが……。

「ああもう、こんな一大事に何をやっているのよ、あの人は〜誰でもいいから荒縄でふんじばって連れてきなさい。」

しかし、今回は此れだけの大事。

恭也も事件解決のため一人で動いてるのだろうが、やはり執行部員。強いては執行副部長として協力させてほしい。

若しくは、何か助言を貰いたい。

遥がイライラしながらそんな事を考えている脇で雪之は困ったような顔していた。

「連れてくるのはいいんだけど、なんで荒縄なの?遥ちゃん。」

 

 

 

学園中に噂がひしめき合う中。

時はいつも通り止まらず、揺るりと歩みを進める。

時が刹那に過ぎていく。

そして、あっという間に授業が終わり放課後となる。

生徒たちの頭の中にはあの裏山が当然の情景として学習されてくる。

いわゆる慣れというものだ。

実に、人の脳というものは良く出来ている。

まさにこの脳というものこそ。

生物の進化において、最大の神秘だろう。

さまざまな人がさまざまな行動を開始する。

そして―――。

「この娘やな。」

そんな最中もやはりいつもの様に藤乃静留、彼女は生徒会室に居た。

生徒会室のいつもの定位置。

生徒会長用の重厚で大きな卓の前に腰掛。

艶やかな長髪と共に綺麗な瞳をパソコンのディスプレイに向ける。来訪者と共に。

「出たか。」

紺藍の長い髪を片手で押さえながら来訪者、玖我なつきはディスプレイを覗き込む。

卓に腰掛、美麗でスラリとした脚が少し短いスカートから覗いている。

少々行儀が悪いようにみえるが、そんな彼女を注意するものは此処にはいない。

「やはりな……。」

彼女たちの見るディスプレイに映っているのはある生徒の個人情報。

本来、普通の学校ならば生徒が見られるものではないのだが。

この風華学園では生徒の自主性を嵩んじていることもあり

学内ネット上にある生徒の情報データベースへのアクセス権はレベルわけされ、

クラス委員など学校の役職についているものならばより詳しく見ることが出来るのだ。

ちなみに生徒会長である静留のみられるレベルは教職員と同程度。

登録されている生徒の個人情報はプライベートな理由で記載されていない限り、殆ど閲覧することが出来る。

風華(かざはな)奨学金をとってここに来たのか。」

鴇羽舞衣。

その個人情報の氏名欄に記された名前。

写真もまた彼女本人のものであり、結論としてこれが鴇羽舞衣のものであることは明らかだ。

「なんでこの娘、気にかけはるの?」

静留はその紅色の瞳をふっと自然になつきに向ける。

聞かれて当たり前の質問になつきは瞬時に答えを返す。

「…別に。」

素っ気無く。

これを彼女の事を良く知らないものが見たならば。

怒っている、機嫌が悪い、嫌われているなどと感想を述べるだろうが、

実際はそんなことは皆無。

これが玖我なつきのデフォルトなのだ。

「裏山の件と関係ありますの?」

静留のその一言に顔には見せないがなつきは動揺する。

確かに、関係している。

あの鴇羽舞衣のチャイルドの力は同じHiMEであるなつき自身から見ても異常だった。

竜。

数々の神話、伝承で登場する想像上の生物。

古今東西その姿は様々だが、

天空を翔け、嵐を呼び、口からは焔を吐く。

血には不思議な力があり、浴びると不老不死になる。

このような言い伝えが存在する。

なつきは人の幻想が生んだ長物だと思っていた。

しかしそれが昨夜、目の前に現れたのだ。自らも知るチャイルドと区分され。

白き身に、焔を纏う神々しい姿態。

圧倒的な焔の力を持ってオーファン三体を一瞬で、跡形も無く葬り去り。裏山をあの姿へと変えた。

その竜のチャイルドの御者たるHiMEのことが気にならないはずが無い。

だからこそ、学内ネットに上位の権限でアクセスできる静留に

舞衣の個人情報を見せてくれるよう頼んだのだ。

静留には調べてくれるよう頼んでおいて、勝手だが。

この件について説明するわけにはいかない。

否、出来ない。だからなつきはこう答える。

卓の上から腰を下ろして、やや乱れた制服を整えながら。

「すまないな、静留は巻き込みたくないんだ。」

心から出たなつきの本心。

あんな非日常な世界に、唯一ともいえる本当の意味で心を許せる親友を関わらせたくない。

そんな、なつきの返事を聞いて静留はクスッと口元を綻ばせる。

「可愛いらしいことゆうてくれますな。」

本当にうれしそうに静留は言う。

それを見て、なつきは気恥ずかしいものを感じた。

静留のこういう所がどこか憎めない。

そんな考えを浮かべる。

だが其れとは別にふとなつきは思いいたって口を開く。

「静留、ついでにちょっと聞きたいことがあるんだが……。」

顔を少し神妙な面持ちにしてなつきは静留に向き直る。

なつきは昨日のこともあり、その男についてもっと知る必要があった。

「その……静留から見て、恭也(・・)はどんな人物だ?」

彼女は彼の事を以前のように苗字では無く名で呼ぶ

なつきには何の他意も無かった。

昨夜、相手に名で呼ぶように強要したのだから自分が彼奴を名で呼んでも何の不思議も無い。

ただの質問、それ以上の意味はない。

ただ自分ではその正体が曖昧な、高町恭也の人物像を静留に尋ねたかっただけ。

なつきにしてみればそれだけだったのだが……。

「そうでっか…あのなつきが――。」

静留はそう受け取ってはくれなかった。

なつきの視線の先では卓に身を預け、泣き崩れる静留の姿。

瞳の端に少しばかり涙を浮かべ、多少髪を前方に振り乱し妙に哀愁を誘う格好をとる。

その行動がどうみても演技がかっているはご愛嬌だ。

「恭也はんにそんな想いを抱いていたなんて……。」

深読みしているのか、それともわかっていてやっているのか、たぶん後者だろう。

言わば静留はなつきが恭也に対して恋愛感情なるものをもっているといいたいのだ。

そんなモノは露ほども(?)感じちゃいないなつきが反論する暇もなく静留は拳を片手に力強く宣う。

「でもうちは負けまへん!きっとなつきを振り向かせて見せます!!」

心なしか静留の後ろに背後に炎を幻視するなつき。

絶対無敵に勘違いしている“ように見える”親友になつきは大声で叫ぶ。

「いったい何をいっているんだ静留!」

必死の表情ともいえなくも無い、顔の前面の血管に血が上り朱に染まるなつきの表情。

さもあろうに、それに対して静留はきょとんとした顔で返答した。

「だからなつきが恭也に純で淡い恋心を―――」

「そんな訳あるかぁ!!!今の言葉のどこをどう取ればそんな結論行き着く!!!!」

間髪いれず、静留の言葉が終わる前になつきは自分の言葉をねじ込む。

何で自分がアイツにそんな感情を…。

心なしか赤面し目を伏せながらも、なつきは意識化で恭也に対する静留の言うところの“感情”全否定する。

そもそも、彼女が恭也に抱いている感情は其の存在の不可思議さのほうが大きい。

「そうなんどすか…なんやそれはそれで面白みに欠けますなぁ……。」

先ほどまでの態度から一転、そんな事を言っている静留。

はっきり言ってかなり残念そうに見えるのはなつきとしては勘違いだと思いたい。

なつきは静留のそんな態度に少し頭を抱えたくなる。

そんな中、なつきの思考は最終局面的な境地に行き着く。

自分は確実に彼女の玩具になっているのではないかという認めたくない事実に行き着いてしまったのだ。

哀れなり己自身。

「で、どうなんだ?」

彼女は強引に話の流れを戻す。

其の表情も先ほどの赤面から真面目なものに戻っている。

「静留は昔からの知り合いなんだろ?ほかの誰よりも詳しいと思ったんだが。」

あらためてなつきは、問う。

高町恭也について。

彼に関するなつきの今までの評はかの神崎黎人と同じく“規格外の人物”この一点で間に合っていた。

だがあくまでそれは今まで(・・・)の話。

昨夜の事件で彼を目にする前の――。

「う〜ん。うちとしては何で恭也の事をなつきが知りたがるのかもうちょっと色々と追求したいところやけど、まあええでっしゃろ。」

静留はからかうことを内心非常に残念ながら止め、徐にお茶を愛用の湯のみで口に運ぶと一拍おいて話し始める。

「そうですな、実際は昔から(・・)というんはちょっと違いますな。」

何処か意味ありげな言葉を吐く静留。

その言葉になつきは怪訝な表情を浮かべる。

前に彼女から聞いたときは、

静留からは恭也は幼馴染だと聞いていた、なのに今の発言明らかに矛盾している。

「というと?」

なつきは少し引っかかることを感じながらも話を即す、静留もすぐに求める答えを直ぐに言葉にしてくれた。

「うちが恭也とは会ったのは確かに小さなときです、うちが7歳の春。今でもあれははっきりと覚えてます。」

とても懐かしそうな表情で瞼を閉じ、静留は記憶を逆行させる。

八重桜が咲き散る古都たる京都の町。

その一角に存在する。

藤乃の屋敷にその親子は訪れた。

豪傑で人の良さそう笑顔をみせる男性。

そんな自らの父に説教する彼。

どう見ても小学生とは思えない気風をもつ彼。

どこかずっと年上の兄のようだった彼。

そう彼の名は恭也。

まだ嘗ての姓(・・・・)を名乗っていたころの。

静留の顔が知らぬ間にそっとほころぶ。

其の彼女の顔はどこかとても嬉しそうになつきには見て取れた。

「恭也が恭也のお父はんと一緒にうちの家に三ヶ月ほど逗留しとったんよ。其の間に顔合わせて何時の間にか仲ようなってた。」

あのころ。

まだ少し臆病で屋敷からも碌に出ることが無く人見知りしてばかりだった。

人のくらいところを幼いながらたくさん知ってしまったために…。

そんな自分の手を引き暗い部屋から連れ出してくれては、屋敷の縁側で彼が色々な話をしてくれたのを覚えている。

旅の思い出話、自らの家の人々のこと。己の父の破天荒さ。

後者は愚痴がほとんどだったがとても暖かく楽しかったのを覚えている。

「三ヶ月もか?そんな長い間何をしに?」

静留と恭也の出会いの経緯を聞きながら、なつきは問う。

三ヶ月という長い期間での長期逗留。

理由としては色々あるだろう。

例を挙げるならば。

親戚だったり友人だったりで、其の縁で出張中の仮住まいにさせてもらったとか、

仕事関係のなにかしらだったりとか。

いや、其の場合子連れはおかしいか……。

なつきは多々憶測をたてるが結局静留の答えを待つことにする。

「恭也のお父はん。士郎さんいうんやけど……ボディーガード。所謂、護衛の仕事をしていてなぁ。

あのころ、うちの家は当主の爺様が死んだ直前で結構きな臭いことになっとったから。

えろう腕が立つと聞いて。うちのお父はんが呼んだんよ、身を守って貰うために。」

静留は少なからず暗いであろう過去のことを話しているのに関わらずあだやかな表情のまま話を続ける。

静留の実家は京都でもかなりの名家だとなつきは聞いていた。

もちろん本人から。

改めて其の話を聞いて静留の姿を見ると、確かにどこと無く感じ取れる其の気品はお嬢様のものといって支障は無い。

一応。かの執行副部長もお嬢様なのだが、そうは見えないという事実はこのさえ置いておこう。

きな臭いというのは遺産相続や当主の候補者問題とかだろうとなと、なつきは勝手に推測した、まあそれで正解なのだが。

いい家に生まれるのも大変なのだなと思いながらも。

なつきはそんな静留の心情を気にしながら話しの中にあった単語に意識がいった。

“ボディーガード”、“護衛”。

少なくても普通の生活をしていれば関わらないであろうモノだ。

昨夜の恭也の身のこなし、彼がヤマダのような所謂“裏の世界”に関わりがあるものなら納得がいく。

それならばヤマダに調べてもらえば何か分かるかもしれないとなつきは思案する。

「それで、まあ其の間結構色々とあったんやけど……ごたごたも解決して。

そんなこんなで士郎さんと恭也との別れの日。うちはえろう駄々捏ねてなぁ、あの頃うちには年の近い友達が居らんかったから。」

駄々を捏ねる静留。

余り想像できないとなつきはしみじみ思う。

表情からなつきの思うところを感じ取った静留は可笑しそうに笑う。

「想像できへん?うちが駄々っ子になるところなんて?」

静留の其の問いに素直になつきは肯定する。

「あっああ……。その静留はいつも悠然としてるというか何と言うか……。」

悠然と穏やかに凛々しく。

驚くほどの落ち着きをもって。

あらゆる事柄に対処する完全無欠の生徒会長。

それがなつきの知る静留の側面。

だが今聞いてる話はそれとはかけ離れた彼女の幼いころの話。

「そうやろな。でもあの頃のうちは違ったんよ。泣いて目(あこう)して、“行かんといてって”アレほど人前で泣いたん生まれてこの方

あの時が始めてやった。」

屋敷を去ろうとする恭也の服の端をつかみ泣きじゃくる幼き自分。

それは過去の情景。

静留は不意に立ち上がり窓の方へ足を向け空へと視線を向ける。

なつきはそれを黙ってみていた。

「でもそんなうちになあ…恭也はこんな事言ってくれたんよ。それを聞いてうちは泣くのを止めた。」

其の身を窓枠に預け、顔だけをなつきに向ける。

 

『お願い、泣き止んで僕は絶対また会いに来る。

それで大きくなったら僕が静留ちゃんの傍にずっと一緒に居て、君の事を守るから。

だから…泣き止んで。僕は静留ちゃんの笑顔が好きなんだ。』

静留の口を借りて、その言葉は思い出の中から抜き出される。

少年は少女の頭を撫でながらそういってくれたと。

 

が……それを静留が声で紡いだ瞬間。

あるモノが静留の頭上に高速で飛来した。

なつきの横を高速で抜け、それは小気味良い音と共に静留へと着弾する。

もうそれはもう問答無用、見事なまでに。

「っ痛ぅぅ……ちょっと痛いどすえ」

少しばかり苦悶の表情を浮かべ、文句を吐く静留の頭に着弾したものの正体は――――スリッパ。

全体は緑色で其の上部には金字で私立風華学園と書かれ、さらにあろう事か黒マジックで“静留ツッコミ専用”と書かれていた。

なつきは余りの出来事に口をポカーンと明け固まっていた。

「自分の事を話しているから、入るのも気が引けて途中からドアの向こうで黙って聞いていれば、

最後の最後で大嘘つくな静留、俺はそんなことあの時言った覚えはまったくもって無いぞ。」

命名。“しずるんつっこみ専用スリッパ”の発射地点。

そこは生徒会室入り口。

そしてそこにいたの今まさに話題に上げられていた高町恭也その人。

因みに言わずとも分かるだろうが“しずるんつっこみ専用スリッパ”は彼が投げたもの。

恭也の言葉に静留は床にへたり込む、どこから出したのかハンカチを噛みながら涙を浮かべる。

「酷い!!何でそんなこと言うんやあの言葉は嘘やったの!!!

うちはいままであの言葉だけを信じて生きてきたのに………それやのにあんまりや!!!!」

さながら、悲劇のヒロインのように。

静留はのたまう。

だがここに展開しているこれまさしく喜劇。

「おもしろいか……静留?」

やれやれと肩を竦めながら恭也は今日、何度目かのため息を吐く。

その数は大よそ執行部関係で占められていることは言わずもがら当然といえば当然か。

「はいとっても〜♪」

語尾に音符までつけて、静留は満面の笑みで立ち上がる。

うちはめちゃくちゃ楽しいえ〜♪とでも言いたそうな其の笑顔。

先ほどとはうって変わってこの態度。

本気でもう一発スリッパによる打撃を今度は徹付きでもお見舞いしてやろうかと恭也は思った。

「大丈夫か?なつき?」

恭也はいまだに固まっているなつきに声をかける。

なつきの顔の前にヒラヒラと手を翳しながら。

それによってなつきもフリーズ状態から再起動。

「あ、ああ大丈夫だ。」

あれしきの事で固まってしまった自分をなつきはちょっと反省しながらも恭也が床から拾い上げたスリッパを視線で追う。

「ところで何だ、そのスリッパは?」

なつきはちょっと、と言うかかなり気になったので疑問をぶつけてみた。

あんの上その答えは直ぐに返ってくる。

「対静留用に用意した武装だ。実家にいる妹分に進められてな、此れがまた重宝している。」

恭也はうんうんと嬉しそうに頷きながら自分のことを“お師匠”と呼び、中華料理のプロフェッシャルたる中国娘のことを考える。

昔、“友人(静留)のボケにどう対処していいか”と相談したところ、此れが良いと教えてもらったのだ。

なかなか役立っているぞレン。

恭也は心の中で自分の妹分に感謝の言葉を送った。

「まあそれに関してはわかった。確かめたいんだがさっきの静留の話は全部嘘なのか?」

「いや、最後のあのプロポーズ紛いの言葉以外は本当だ。」

まだ根に持っているのか恭也は静留に鋭い視線を送るが

その飄々とした笑顔で柳のように流される。

「じゃあ、“昔から”ではないというのは………。」

なつきは静留と恭也にそれぞれ視線向けながら、静留のいった言葉の真意行き着く。

“昔から”ではないということはそのから(・・)の過程が無いという事。

つまり―――。

「うちと恭也は高等部一年のときに再開したんどす。ほんま9年間なんの音沙汰もなくいきなり現れて、あの時は驚きました。」

静留がなつきの行き着いた答えを口に出す。

其の身は再びいつもの定位置に収めながら。

恭也も其の言葉に瞼を閉じ、自らの意見を返す。

「人をまるで幽霊みたいに言うな。こっちにも色々と事情がある、それにあの時は俺も驚いたんだ。」

その言葉にお茶を入れ直しながら、静留は再び恭也に返答する。

「だって、まさかうちと同じ学年やなんて誰が思います?」

「むっ……。」

それを言われると恭也は言葉に詰まる。

責は自分にあるので言い返せない。

因みに静留は恭也が留年した理由を知っている。

だからこそ尚更意地が悪い。

「話が見えないのだが…こいつが静留と同じ学年なのが可笑しいのか?」

話の内容に疑問を感じ、なつきは静留へと問う。

其の問いに何か納得したような顔でポンと手を合わせる。

その顔は、それはもういい笑顔に染まっている。

恭也にしては小悪魔の笑顔に。

「ああそう言えばなつきは知らんかったんやね、恭也言わばなつきと同じなんよ。」

その静留の答えを聞き、なつきの中で先ほどの話の内容が明確になる。

自分と同じということは、答えは1つ。

「お前!留年してたのか!!」

なつきは恭也に視線を向け驚きの声を上げる。

なつき自身も色々な事情で留年していたがまさか自分と同じ境遇の者が他にもいようとは思ってもみなかった。

そんななつきの予想道理の反応に静留は終始笑顔。

まあ、静留の悪戯好きはいつものことかと苦笑いをうかべ口を開いた。

「ああ今年で19だ。小学校の頃、諸事情で一年留年している。」

それを聴きなつきはさらに情報を集めようと口を開こうとするが

それは新たな来訪者が現れたことで止められる。

生徒会の黒板側の入り口が開き二つの影が入ってくる。

「あれ?玖我なつき…。」

風華学園高等部の制服を着用し頭髪の上部をブリーチさせた男子生徒

同じクラスの鴇羽舞衣曰く『使いパッシリ』

楯祐一と

「おや、お邪魔だったかな」

恭也と同じく生徒会役員用の色違い、黒い制服を着た黒髪に整った美麗な顔立ち。生徒会副会長

神崎黎人の姿。

「いけずやなぁ。ええとこやったのに」

黎人の言葉に呼応して静留もそんな事を言い出す。

「静留!」

なつきは少しばかり顔を赤くして静留に注意するが。

「ああ、俺も邪魔をしてな。早々に御暇しようと思っていたんだ。」

もう一人伏兵がいた。

「恭也!」

恭也の言葉になつきは顔をさらに羞恥に染める。

さすが生徒会なかなかのコンビネーション。

其の様子を見て黎人は可笑しそうに笑うと口を開く。

「冗談だよ、ごゆっくり。ああそうだお茶入れてあげよう。」

そういって黎人は横にいる祐一のほうを向く。

人差し指を立て何か思い出したかのように祐一に言った。

「マンデリンの良いのがあったじゃない?」

「で、俺が淹れるんすね。」

さも当然のように自分がお茶を入れることになっている事にげんなりする祐一。

「もう戻ります。」

不機嫌な顔でなつきはお茶の誘い断ろうとする。

自分は鴇羽舞衣の情報と恭也についての話を静留に聴きに来ただけ。

もう其の用事は済んだここにいる理由がない。

そんななつきの顔を見て静留は優しげな笑顔を浮かべ制止した。

「まあそう言わんと、ゆっくりしはったらええやんか。」

「そうだ、たまには休め。祐一、俺にはミルクティーを頼む。」

「やっぱり俺が淹れるんすね。」

静留一言と恭也の言葉でなつきは少し葛藤する。

コーヒー(マンデリン)を淹れるように頼まれた祐一に対して態々ミルクティーを頼む恭也になつきは視線を向ける。

もう少しここに残ればこいつの情報がさらに手に入るかもしれない。

今の“たまには休め”という言葉には自分の行動を把握されているような懸念を感じた。

そんな意味もあり、なつきにとって舞衣よりもはたまた命よりも恭也という謎の因子(ファクター)のほうが、重要度が高い。

そんなことをなつきが考えている中、黎人は苦笑いを浮かべながら恭也に言った。

「……恭也。たぶんゆくっりはできないと思――「部ぅ長ょぉおおおお!!!」――ほらね。」

怒声ともに生徒会室の引き戸は勢いよく開かれる。

それはもう壊れるんじゃないか?という具合に。

そして、入ってくるはブロンドの髪をワナワナと揺らす暴君。

またの名を生徒会執行部副部長、珠洲城遥。

ちなみに例の如く後ろには菊川雪之が追随している。

「部長!突然居なくなったと思ったら、何こんな所で油を売ってるんですか!!事件はまだ解決の糸口さえ掴めていないんですよ!!!

それに部長には陣頭指揮を執ってもらわないと困ります!!!!」

いつもの如くマシンガントーク。

其の声量もさる事ながら彼女の声帯はどうなっているんだと真面目に考えたくなる恭也である。

窓側の壁に背を預け、そんな遥に向かって口を開く恭也。

あまり自分の口から、言いたくはないが所詮時間の問題。

「裏山の件は学園側の方から落雷が原因という公式見解が発表された。

俺は直接理事長に聴いたが、そろそろ学園全体に伝達がいくはずだ。」

其の言葉にそこ居た全員が大小、その内容の違いはあれ驚く。

裏山のアレが落雷によるもの?

落雷でそれは可能か?

答えるならばそれはYESでありNO。

ただ落雷では絶対にああはならない。

せめて木が一本、炭化するか。

先の生徒達の噂にあったようにそれが火種になり山火事が起きるかだ。

それにしても木の根元さえ跡形も無くなり、灰となり砂漠化するということはありえない。

その意味ではNO。

だが何十回、何百回並の熱量を持つ雷が裏山に直撃したら似たような現象が起きるかもしれない。

それならば可能、つまりYES。

しかし、それは超常の領域だ。

そんな雷。誰も見たことはないしあるとは思えない。

常識人である程度、そう言った知識を持っているものならば原因が雷という発表は信じられない。

それに恭也になつき、静留は昨夜あそこで行われた。

裏山をああした本当の原因をしているのだ。

この公式発表が虚偽の発表だということは直ぐに分かる。

「………それを信じろとでも言うのですか?」

そして、この珠洲城遥は“知識を持った常識人”だった。

「俺としては信じろと言わない。あれが落雷で起こったとは正直な話し、思っていない。だが学園側がそう公式見解を発表した以上。

学園に所属する機関である生徒会執行部が動くわけには行かない。もし勝手に動けば何かしら圧力が来るだろう、だから調査は停止だ。」

ゆっくりと真面目な口調で恭也は遥に諭すように告げる。

遥自身、求めているのは真実だ。

彼女の性格から来るものなのか遥の正義感は強い。

いつもは猪突猛進に見られがちだがそれは彼女が感情で動く人間だからだ。

だが一度冷静になれば頭のいい人間だ。

少しの矛盾があろうモノならば突っ込んで其処を叩いてくる。

だから恭也は誤魔化さず、はぐらかさず自分の意見を述べる。

自らは其の真相を知らぬものとし、客観的に。

そこに“在る材料”だけで己の意見を告げるのだ。

そうすれば遥は自分が真相を知っているとは思わないだろう。

自分に疑念を持つには彼女の持つ材料は少なすぎる。

それに真の意味で恭也は彼女に“蝕の祭”に関わって欲しくなかった。

「私は納得しません!!私個人ででも調査は実行します!!!」

「遥ちゃん!!」

そう言って遥は踵を返し生徒会室から出て行く。

雪之はそれを追いかけようとするが―――。

「雪之。」

恭也の声によって止められる。

雪之は不安そうな表情で振り向くのを確認して、恭也は一言告げた。

「遥のほろうを頼む。」

「はい!」

その一言をきいて雪之は顔を引き締めると遥を追いかけるように生徒会室を出て行った。

それと同時に生徒会室の電話がなった。

「生徒会室です。はい理事長さんが?」

その電話を一番近くに居た静留が取る。

言葉遣いは丁寧な標準語。

電話の内容は先ほどの裏山の学園側の公式見解の伝達と“鴇羽舞衣の風花邸への呼び出し”だった。

其れを聴いて、なつきは顔を顰め、恭也と静留は神妙な顔付きをしていた。

そして、また偽りの真実が一人のHiMEに伝えられるのだと。

 

 

 

橙色に染まる緑の丘が、土色の地面がそして、あれほどに蒼穹であったはずの空が。

夕刻。

今日も日が落ちる、一日が終わる。

この時はかくも短く、それでいて永遠に続きそうな幻に囚われる。

さしも、魅入られる人々は囚人か。

夕日と言う光の格子に絡めとられ。

太陽が闇に堕ちるまで魅惑の檻へと幽閉される。

だがそれが如何したことか。

此の時が終われば、まだ見ぬ明日。

戦い、戦い、血を流し。

彼女たちの返り血を浴びて御身は赤く染まる。

そんな事をするよりなら、私はあの人といたかった。

あの人の児を孕み、生み、共に育てたかった。

だがそれは叶わぬ願い。

それならばいっその事、永劫に囚われてしまいたい。

だってもう直ぐ世界は―――――。

≪風華史-炎凪著- ある一族から参戦せし戦巫女の言葉より抜粋≫

 

 

アスファルトで舗装された地面。

だからと言って完全に自然を排除するのではなく。

そこに残る草花が無機質なアスファルトと共存する。

「何か良いよね、副会長さん。いいお兄さんて感じでさ」

夕日に染まる大気が振るえ少女の声は虚空へと響く。

鴇羽舞衣はどこか嬉しげに顔に笑顔を貼り付け、口を開く。

それを聴くのは彼女を先導する、青年。

楯祐一ただ一人。

「まああれでさ、いろんな意味ですごい人ではあるけどなあ」

祐一の口から出る、生徒会副会長。神崎黎人への評価。

ことはほんの少しだけ遡る。

あの後。件の電話を受け、黎人と祐一は鴇羽舞衣がいる中央棟の保健室へと向かった。

到着してすぐ舞衣と弟の巧海を見つけ、

舞衣に理事長宅、風花邸にご足労願いたいと伝えたところ。

まだ病み上がりの巧海を心配する舞衣に向け、黎人は優しげな笑顔で

『自分が巧海君を学生寮まで案内するので心配しないでください』

と言ってくれたのだ。それで舞衣は黎人の対し好印象をもち、必然的に残った祐一が彼女を案内することになったという訳だ。

そして今は向かっている最中。

「藤乃会長と学園史上最強のカップルって言われてる。」

「ありゃあ、売約済み?」

「いや、あくまで噂。実際付き合っちゃいないらしい。

俺としては恭也先輩と藤乃会長というせんのほうが濃厚だと思うんだがなあ」

噂は噂。

生徒会を近く見ている祐一だから分かる。

黎人と静留、あの二人の間に恋愛感情なるものは皆無だ。

会長と副会長の間柄、そこにあるのはただの友人関係。

それより彼には恭也と静留のほうが親しく見えた。

まあ恋人云々というより親しい友人という感じだが、真相はどうかは未だ不明。

前に恭也に尋ねてみた祐一だがやんわりと受け流されてしまった。

それに静留に関してはとある噂(・・・・)があることもあり、はっきりと確定できない。

「そっかあ。だったら私、狙っちゃおかなあ――――。」

にやけ顔でそんなことを言いながら、舞衣の瞳はある風景を捉えた。

裏山の一部を削ぐようにそれは存在している。

緑林の深い緑色の中にそこだけが灰色。

舞衣はそれを見て足を止めた。

其の舞衣を見た祐一も同様に足を止め、裏山のほうを見上げる。

「ひっでえなあ。雷ってこんなふうになるものかねえ。」

祐一の一言に舞衣は再び昨夜の光景を思い出す。

焔の海。

そう表現して差し支えないだろう。

あれはまさにそれだった。

この世成らざる場所。

絶対熱量に覆われた燎原。

あのとき確かにあそこ神界を再現していた。

そして、あれは再現したのは紛れもなく自分がよんだあの火竜。

チャイルド、カグヅチ。

舞衣は自らの顔が強張るのに気付く。

それは恐怖。

えたいの知れない非日常への。

自らがそれにのまれていくのではないかという未知への恐怖だ。

舞衣は自然に手を握り、胸の前におく。

「フェリーの事といい、妙な災難が続くよなあ。お前さ、何かにとり付かれてるんじゃねえの?」

祐一は舞衣に歩み寄るとおどけながら俗に言うウラメシヤのポーズをとってみせる。

一応これは彼なりに不安を解消させてやろうというものなのだが、

「見てたの!」

「は?」

まったく効果がない。

「いや…その……。」

舞衣は瞬時に自分の失態を考え取り繕うとする。

それに対し。

本気で驚く舞衣を見て、祐一は少し考えると口を開いた。

「なんならさ、御祓いでもすれば。格安でやってると紹介してやろうか?本気(マジ)で?」

此れもまた祐一としてはクラスメイトを心配して出た言葉だったが、舞衣は話の内容が内容なので馬鹿にされていると思い。

怒りの表情を浮かべる。

「大きなお世話!大体あんたもう私とは関わんないんでしょ!!」

「いきなり逆切れするこたあねえだろ?」

「うるさい!!とっと行く!!!」

祐一は反論するが、其の行動むなしく。

舞衣は祐一の横を通り過ぎ、ズンズンと先に行ってしまう。

祐一は其の後姿を見ながら困り顔でこう漏らす。

「訳わかんねえ奴……。」

そもそも一人で進んでいるがあいつは目的の場所がわかっているんだろうか?

そんな事を思い祐一は、舞衣を追いかけだす。

「おっおい待てよ。」

こうして二人は、目的地である風花邸へと向かうのであった。

 

 

 

祐一はしっしと手を払い。

舞衣は舌を出し、べーっと反撃するという。

険悪な別れの後。

舞衣は風花邸を見上げる。

それは総じて御屋敷といってさしつかえないだろう。

洋風建築独自の大きなガラス窓。

夕日の中でその建物はとても絵になった。

舞衣はおずおずと入り口に歩み寄っていく、すると玄関の扉がまるで舞衣が来るのがわかったかのように開かれる。

そして、其の向こうには一人の人物が立っていた。

「お待ちしておりました。鴇羽舞衣さん。」

ピンクを基調としたメイド服を身に纏った女性。

前方で両の手を重ね、上品に上体を傾け舞衣に向け礼をとっている。

其の姿まさに従者の御手本といえた。

「……あの時の。」

舞衣も先日の庭園でも邂逅を思い出し、失礼ながら指をさしながら呟いた。

まさか、こんな所で再開しようとは舞衣とて思っていなかった。

そして。彼女、姫野二三の脇に舞衣の見知った影がもうひとつ。

「舞衣!」

高らかに彼女の名を呼ぶと、一気に駆け寄り飛んだ。

その野生で育まれた跳躍力がものを言い。

少女の身体は宙を舞う。

「まぁいぃーーーーー!!」

というやり、何という滞空時間。

物理の法則を無視している。

「命!!!」

そう其の少女の名は美袋命。

先日、着ていたあのダボダボのTシャツをそのままに空中から勢いよく舞衣に抱きついた。

其の満面の笑顔が彼女の舞衣への好意の深さを窺わせる。

「うふ。お二人はもうすっかり仲良くなられているんですね。」

さらに新たな声がその場に現れる。

舞衣は其の声の発生源に視線を送るとそこには車椅子にのった少女。

上品な微笑みを浮かべ、舞衣たちを見ている。

「…あなた。」

舞衣は突然の少女の登場に戸惑うが、命はなぜか彼女に敵意の視線を向けていた。

そんな中、二三が口を開く。

「風華学園理事長。風花真白様です。」

さらりと驚きの真実を告げる二三。

それを聞き舞衣はしばらく驚きの表情を浮かべていた。

 

 

 

「いいんどすか?理事長の説明に立ち会わんと?」

もはや二人の人間しか居なくなった生徒会室で静留の声が恭也へと紡がれる。

黎人と祐一は保険室へ。

なつきはもう用は済んだと言わんばかりに出て行った。

残されたのは二人だけ。

静留に背を向けるように卓をはさみ恭也は目を伏せる。

「彼女は昨夜の一件であんたのことを知っている。そやったら別にその場にいても可笑しないんやない?」

静留には先ほど昨日の件を説明した。

舞衣、命、そしてなつきに正体がばれたことも話していた。

「いや、俺は居ないほうが良い。俺が居ても彼女は混乱するだけだ。」

理事長、風花真白の横に居る恭也を見てまず舞衣が思うのは、

恭也がなぜ理事長と一緒に居るのかと、関係性への疑念。

そして、あの説明

『オーファンを倒すためにHiMEの力が必要。だからあなた方に来てもらった。』。

はっきり言って傍迷惑な話だろう。

自分達が倒せないから、代わりに倒してくれ。

何人のHiMEにそんな理由が通じるか?

先日、彼女の弟。鴇羽巧海がそのオーファンに襲われ、命を落としかけた件。

それが、学園側が仕向けた事。本当は凪が仕掛けたものだが、舞衣にしてみれば同じ事だ。

それを知れば彼女の激情は必死。

そして、其れを説明する真白側に居る自分。

恭也の立場は舞衣にしてみれば。最悪、自分を苦しめた学園側()に与するHiMEとなる。

少なくても、いい印象は持たれない。

今彼女に、嫌われるのは得策ではないのだ。

「それに、今はHiME達と敵対するわけにはいかない。」

「それは、うちも含めてどすか?」

恭也の考えを読み、彼の言葉に意味ありげな笑みを浮かべ問う静留。

恭也もまた苦笑しながらはぐらかした。

「………さあ、どうだろうな。」

其の言葉と共に一歩踏み出し、生徒会室の出入り口へと向かう。

「あら、もう帰りはるん。」

「ああ。もう一人、色々と言わなければいけない奴が居るからな。そういう訳で借りていくぞ。」

恭也は先ほど静留から預かった鍵を見せ歩き出す。

「あんじょう頼んますえ。」

さびしげでどこかかなしげな表情で恭也を見送る静留。

恭也は戸を潜り生徒会室から出て行く。

恭也の姿が完全に消えると。

もう一言彼にむかって静留は漏らす。

「阿呆、あんたはいつも背負いすぎなんや。

でも、そんなあんたに頼みごとしとるうちはなんなやろな……。」

うちも、阿呆なんかなっと、

何処か悲しげに伝わらぬ言葉を静留は虚空に紡いだ。

 

 

 

オーファン。

この世ではないどこからか迷い出てくる異形のモノ。

HiME。

星に導かれし乙女の持つ力。

そして、自分や命はそのHiMEであり、オーファンを倒すために。

ここに呼ばれた。

風華学園理事長。風花真白はその姿からは想像できないほど凛として、

自分に説明した。

奨学金もそのために受理した。

ずるい。

鴇羽舞衣はその理不尽な要求に怒り、そして、逃げ道のない自らを悔やむ。

ズルイ。

やることがある。自分にはそれ以外、他のものに手を付かない。

そういうと、少女はまるで見透かすかのようにその根底にあるものを言い当てた。

そして、援助を申し出ようともしてくれた。

だが――そんなもの必要ない。

巧海は私が守るんだから。

 

寮の部屋の風呂の湯船に嫌がる命と共につかりながら舞衣は今日の理事長との会合を思い出す。

あのときの怒り。

憤怒ともいえただろう。

今冷静に考えても理事長のいったあれはズルイ―――。

舞衣と巧海は身寄りがないし、この学園を出て行けばまさに路頭に迷ってしまう。

だから逃げ道なんてないのに。

理事長さんは舞衣自身の自由にすればいい、それで奨学金を取り消すことはしないといってくれた。

その顔が終始とても悲しそうだったのを思い出す。

あの少女にも何か理由があるのかもしれない。

ふと浴槽の隅でお湯につかりながらぶーたれている命が目に入った。

どんな田舎に住んでいたのか?

この少女は風呂というものを知らなかった。

嫌がるのを取り押さえ、無理やり服を脱がし身体を洗ってやり今の現状にある。

考えてみれば、この少女も何者なのだろう。

身の丈ほどの大剣。

たぶんエレメントだろうが。

それをまるで手足のように操り、オーファンを倒していた。

舞衣はそんな命は此れからどうするのか聞いてみたくなった。

「ねえ、命。あんたはどうするの?あの理事長が言ったように戦うの?」

「あいつ、嫌いだ。」

そうなぜか命は風花真白を嫌っている。

命自身なぜかはわからないが真白を見るとなぜか不快になる。

「一応あんたの保護者なのよ、生活費も学費もみんな。」

なぜなのかわからないがそうなっていると聞かされた。

そして命は舞衣とは相部屋。

明日から中等部3年に通うことになっている。

「私は兄上を捜す。邪魔する敵がいれば戦う、それだけだ。」

まさに簡潔明瞭。

命にとって目的の前には全てが無意味なのだ。

そこで舞衣に疑問が生じる。

「あれ?命のお兄さんって高町先輩じゃなかったの?フェリーの時、確か言ってたじゃない?」

あまり明瞭に思い出したくないが、フェリーの事件のとき。

あの能面をかぶっていた人物が恭也ならばそういうことになる。

「うむ、恭也のことか?私も最初、そう思ったが恭也は違うといっていた。でも、あれは兄上の手だった。気配もそうだ。」

命の中でまだ完全には“恭也兄上説”がまだ霧散していないようである。

舞衣としても彼には色々聴きたいことがあった。

それは玖我なつきにも同じことが言える。

「じいが言っていた、兄上は風華の地に居ると。だから…その……。」

ちらちらと舞衣を窺いながら、命は自らの心情を口にする。

「舞衣は私が居ると迷惑か?」

湯船に向かって俯きながら呟く。

それは、まるで捨て猫のように可愛い。

「もし、そうだとして他に行くとこあるの?」

「…ない。」

「じゃあ、しょうがないんじゃない。」

笑顔で不安げな表情を浮かべる命に返答する。

「じゃあ。」

それを聞いた命の顔はとてもいい笑顔だった。

「そうか。よかっ―――――。」

そんな矢先。

命は言葉を紡ぐ前に湯船の中にへたり込む。

目をぐるぐると回し、此れは完全に湯あたりだ。

つまりのぼせえたのだ。

「こら、しっかりしなさいよ!」

舞衣は何だかんだ言いながらも命を湯船から引き上げ解放する。

それはとても微笑ましい日常。

そうだ、何とかなるよね。

こうして、舞衣の長い長い一日が終わりを告げた。

 

 

 

そこは自分の部屋のはずだ。

玖我なつきは今、目の前で起こっている現象に困惑していた。

鼻を擽るいい香り。

食欲を刺激され、空腹な胃にクリティカルな一撃を見舞われる。

なつきは淡々と自分の部屋のテーブルに料理を並べる男に視線をやる。

黒いエプロンを着け、主にパスタやクラブサンドなどの洋食を其の手に並べている。

そうアレは、なぜ自分の家であるこのマンションの一室に居るのだ。

「遅いお帰りだな、なつき。夕飯は出来ているぞ。」

そう、あの高町恭也は。

「なんで……なんで…お前が私の部屋にいるのだあ!!!!!」

玖我なつきの叫び声がマンション中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 


枕菊聖です

大変お待たせしました。

まあここ数ヶ月パソコンが壊れたりで大変だったので

ご勘弁ください。

さあ、ここでようやくアニメ第3話の内容は終了です。

次回は第4話。

その前にちょっとなつきと恭也のからみがありますが。

ではでは

次回もよろしくお願いします。





何か、恭也と静留が暗躍しているみたいな感じもしないでもないかも。
美姫 「面白くて良いわね〜」
うんうん。益々、次回が待ち遠しいです。
美姫 「次回がどうなるのかしら」
その前に、なつきの所に現れた恭也とのからみかな。
美姫 「こっちも非常に楽しみね♪」
次回も楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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