目覚めは最悪だった。
否応無しに、あの日のことが思い出される。
今まで、何度と無く夢に見てきた光景。
決して・・・・・・忘れることが出来ない。
私はその復讐心を糧に、今まで生きてきた。
『兄さん』から連絡は無い。
まだ時では無いのだろうか。
せっかく、あいつが一人日本に帰国したというのに・・・・・・。
復讐したい。あいつをこの手で殺したい。
だけどそう思う度、首に下げているロザリオが気になってしまう。
一体どうしたというのだろうか。
私はあの少女たちの中に混ざる資格などありはしないというのに。
心が乱れる
こんな心地よい場所にいると、自分が駄目になってしまう
復讐心や怒りこそ、私の力の源なのだから
家族を失ったあと、私は親類に施設に預けられた。
あとで知ったことだが、私は売られたのだ。
ある研究所の、人体実験の被験者として・・・・・・。
そこでは、先天性疾患と言われるHGSを、人工的に移植する研究が行われていた。
研究に成功した人間を、自分の組織の兵隊とするために。
私以外にも、3人の子供がいた。
皆家族は無く、孤児たちだった。
その中で一番年上だったのが、『ユウ』という青年だった。
外国の血が混じっているらしく、彫が深く美しい顔をしていた。
彼は2人のお兄さんのような存在で、私にも優しく微笑みかけてくれた。
彼を慕っていた少年と少女もいた。
カイとミカという名前で、二人は本当の兄妹だった。
ミカはいつもカイの後ろにいて、片手はカイの服を、もう一方でお人形を抱えていた。
カイはユウに憧れを抱いている、ちょっとやんちゃな男の子だった。
いつもミカを大事に護っている、いいお兄ちゃんだった。
みんな捨てられた人間だったが、私たちはそれでも幸せなひと時をすごした。
庭で遊んだり、花を育てたり・・・・・・
ミカは、女の子同士なのもあり、すぐ打ち解けた。
カイはいつも私にちょっかいを出してくるが、根は優しい男の子だった。
ユウは大人で、私達のお兄さんだった。
私が受けた心の傷は、少しずつ癒えていくかに思えた。
だけど、終わりはすぐにやってきたのだ・・・・・・
健康診断が行われると言うことで、月咲たちは施設の中の病棟にいた。
この日、ついに・・・・・・実験は行われた。
事前に麻酔で眠らされていた月咲たちに・・・・・・HGSの遺伝子を埋め込んだ。
暗く深い闇の中に私はいた。
闇の中で、声が聞こえた。
カイの叫び声と・・・・・・ミカの弱々しい声が・・・・・・。
ミカの声は今にも消えそうで、カイは必死に呼びかけていた。
ミカの声が消え・・・・・・カイの声も消えていった・・・・・・。
そして、今度は別の声が聞こえた・・・・・・
「・・・・・・は死亡しました」
「3番は成功だ。1番2番は適合しなかったのか」
「はい。2番が死亡してから後を追うように1番もです」
「つまり、兄妹愛より憎しみの力が勝ると言うことか。いいデータがとれたな」
聞こえてきた声で、月咲は事の次第を理解した。
つまりこいつらは・・・・・・自分達をなんらかの実験台にしたのだ・・・・・・
「しかし、遺伝子を埋め込んだHGSはどんなタイプでしょうね?」
「それはイメージ次第だ。翼の形状などもそれで変化することがあるらしいからな」
憎い・・・・・・こいつらが憎い・・・・・・
人を実験台にして、カイとミカを殺したこいつらが憎い・・・・・・
両親を・・・・・・兄を殺したあいつが憎い・・・・・・
憎い・・・・・・憎い・・・・・・
全てが憎い・・・・・・!
私がイメージしたのは、あの二刀の刀だった・・・・・・。
あの女の持っていた武器。
私の持っていたイメージが生み出した、私の力・・・・・・。
そして私は、その場にいた全ての研究員を消した。
「そこまでよ・・・・・・」
施設を出ようとしたとき、殺し損ねた研究員が私に銃を向けていた。
「目覚めたばかりだから、避けられないでしょう。もったいないけど・・・・・・消えなさい」
私はその銃弾を避けようとも思わなかった。
別にもう死んでも良かった。
だが銃声はいつまで経っても聞こえない。
代わりに、その研究員は大量の血を吐いて倒れていた。
そしてそこに立っていたのは・・・・・・
「ユウ・・・・・・兄さん」
「月咲、君は生きてたんだね」
「あなたは・・・・・・」
私がそう言った瞬間、ユウが突然姿を消した。
「僕も・・・・・・君と同じさ」
声が後ろから聞こえ、振り向くとユウは空を見上げていた。
大切なものを『二度』壊されたのと引き換えに、私は復讐の刃を手にした。
血塗られた刃で人を斬るたび、私の心は深く沈んでいく。
だけど二度目に大切なものを失ったとき・・・・・・
絶望・怒り・憎しみ・・・・・・負の感情が全てを覆った私に、ユウ兄さんはこう言った。
『月咲・・・・・・誰もが平等な新しい世界を創らないか?』
奇しくも、今は亡き本当の兄が目指すものと同じだった。
兄は、貧しい者や戦渦に巻き込まれた被害者を助けたいといつも言っていた。
だから私は『兄さん』についていく。
たとえそれが、あの女と同じ道を辿ることになろうとも・・・・・・
「月咲・・・・・・」
部屋でぼうっとしていたところに、兄さんは現れた。
「月咲、明日の学園祭に君が参加するのは本当かい?」
ユウは心底不思議そうな顔をするが、月咲がうなずくと少し考えたような顔をした。
「あの・・・・・・」
「ああ、咎めるつもりはないよ。別に構わないさ」
ユウは笑みを浮かべた。
「僕も顔を出すかも知れない。そのときは学校内を案内してくれるとうれしいかな」
「はい、わかりました」
「最後だから、楽しんでおいで」
ユウは手を上げて後ろを向いた。
「そうですね・・・・・・またすぐここを出ますからね」
その言葉にユウは答えず、その場を後にした。
ユウが、さも愉快そうな顔をしていたことに、月咲は気づかない。
ユウと月咲の、言葉の意味合いの違いにも・・・・・・
そして彼が、何者かと言う事さえも・・・・・・
ユウの考えている事とは何だろう。
美姫 「嫌な予感がするわね」
月咲は、恭也は、そして、山百合会の面々は今後、どう動くのか。
美姫 「非常に気になるところで、また次回〜」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それでは、次回を待ってますね」
ではでは。