真っ白な部屋に、私はいた。

 

白で満たされた部屋で私は眠っている。

 

すぐ横で、志摩子さんが私の髪を撫でてくれている。

 

私は、志摩子さんの顔に手を伸ばす。

 

「乃梨子・・・・・・」

 

志摩子さんは、私の手をとって微笑んだ。

 

 

 

わかってる、これは夢なんだ。

 

私が望んでいた光景。

 

そして、もう叶うことは無いだろう世界・・・・・・

 

私は、志摩子さんの手を払ってしまった。

 

拒絶してしまったのだ・・・・・・

 

あまつさえ私は、自分を呼ぶ志摩子さんに背を向けてしまった。

 

逃げてしまったら、もう二度とこの距離は縮まることは無いのに。

 

 

 

景色は白。

 

だけど無機質な白。

 

暗く閉ざされ、私はただ一人

 

何も無い、色すらも無い世界で私は、一人涙を流す。

 

 

志摩子さん

 

 

志摩子さん

 

 

一緒にいたいよ

 

 

 

 

しまこさん!

 

 

 

 

泣きながら目覚めた乃梨子に、見知らぬ天井が広がった。

 

「あれ・・・・・・」

 

自分はいったい・・・・・・そしてここは・・・・・・?

 

現状に混乱していると、自分の手にある暖かいぬくもりに気がついた。

 

「っ!!」

 

乃梨子は、危なく飛び出そうになった声を抑えた。

 

憔悴しきって、乃梨子が寝ていたベッドにもたれている志摩子が、自分の手を握っていたのだ。

 

(落ち着け・・・・・・)

 

乃梨子は努めて冷静になり、あたりを見回す。

 

どうやらここは、保健室のようだった。

 

でも自分は聖堂に居たはずだ。

 

「う、ん・・・・・・」

 

乃梨子が起きて、志摩子の意識が覚醒しつつあるのか、少し身をよじった。

 

そんな志摩子を見て一瞬乃梨子は目を細めるが、もはや自分にそんな資格は無い。

 

ゆっくりと乃梨子は、志摩子の手をはずそうとするが・・・・・・

 

(え・・・・・・?)

 

志摩子の、乃梨子の手を握る力が強くなった。

 

「だめ、のりこ・・・・・・いかないで・・・・・・」

 

夢の中だろうか・・・・・・眠ったまま志摩子は、乃梨子の手を握っている。

 

(私・・・・・・馬鹿だ)

 

乃梨子の目から涙が溢れ出した。

 

乃梨子にとって志摩子が必要なように・・・・・・

 

志摩子にとっても、乃梨子はかけがえの無い存在のままだったのだ。

 

それを勘違いして、自分は志摩子をこんなにも悲しませてしまったのか。

 

「ごめんね、志摩子さん・・・・・・ごめん・・・・・・」

 

乃梨子は志摩子の手を握り返し、自分の頬に当てた。

 

乃梨子の涙が頬を伝い、志摩子の手に触れた。

 

その感触で、志摩子の意識は覚醒して、志摩子はゆっくりと目を開けた。

 

「志摩子さん!」

 

「・・・・・・のりこ?」

 

目覚めたばかりで志摩子は、まだ意識がはっきりしない。

 

だが、すぐに乃梨子の顔を見て・・・・・・

 

「のりこ・・・・・・乃梨子!」

 

乃梨子を自分の胸に抱き寄せた。

 

「乃梨子・・・・・・心配したのよ・・・・・・」

 

志摩子は、もう二度と離さないと、しっかり乃梨子を抱きしめた。

 

「ごめんなさい・・・・・・」

 

乃梨子も二度と離れない、と志摩子を抱きしめ返した。

 

「乃梨子・・・・・・私ね、怖い夢を見てたの。私の前から乃梨子がいなくなってしまう夢だったわ」

 

「私も・・・・・・同じ夢を見た。志摩子さんがいなくなって・・・・・・世界から色が消えたの」

 

二人で抱き合って泣いている。

 

こうして、お互いのぬくもりがあることが何より嬉しい。

 

「乃梨子・・・・・・もう離さないわ」

 

「うん、私も志摩子さんから、もう絶対離れない・・・・・・」

 

前の誓いは、さっき破ってしまったけど・・・・・・今度こそ守る。

 

少なくても、恭也と志摩子が結ばれるそのときまでは・・・・・・

 

 

 

その言葉を廊下で聞いた恭也は、ゆっくりと館へ向かった。

 

乃梨子と志摩子は大丈夫だと、館で心配する仲間へ伝えるために。

 

 

 

恭也の足音が遠ざかっていくのを確認した志摩子は、少し真剣な顔をして乃梨子を見た。

 

「乃梨子・・・・・・最近あなたの様子がおかしかったのは、恭也さんのこと?」

 

志摩子の質問に・・・・・・乃梨子は硬直した。

 

「志摩子さん・・・・・・な、なんで・・・・・・」

 

乃梨子の顔に、明らかに狼狽が見てとれる。

 

「それは、乃梨子がお御堂で倒れていたとき・・・・・・」

 

 

 

志摩子と恭也は、聖堂の長椅子に横たわる乃梨子を見つけた。

 

『乃梨子・・・・・・』

 

志摩子はそんな乃梨子を見て、思わず卒倒しかけた。

 

だが恭也は即座に乃梨子に駆け寄って、迷わず乃梨子を抱き上げた。

 

そして、乃梨子の額に自分の額をくっつける。

 

『熱は出てないが・・・・・・身体が冷えてるな』

 

一度乃梨子を降ろし、自分の服を脱いで乃梨子にかける。

 

それから再度乃梨子を抱き上げた。

 

志摩子は・・・・・・そんな恭也の行動に、軽い嫉妬を覚えた。

 

そしてすぐにそんな自分を戒めた。

 

(何を考えてるの・・・・・・自分の妹なのに・・・・・・)

 

半年前にも感じた独占欲が、つくづく嫌になる。

 

そのとき、志摩子ははっと気がついた。

 

そういえば乃梨子は、恭也と自分の話になると少しむっとした顔になっていた。

 

恭也ばかりになって、乃梨子がさびしがっているのか、と思った。

 

そしてそのうち、恭也と自分がいると、乃梨子は自分から離れていった。

 

最初は、自分に気を使っているのかと思ったのだが・・・・・・まさか・・・・・・

 

『・・・・・・こ・・・・・・しまこ!』

 

そんなことを考えている間に、保健室の前まで来ていた。

 

『志摩子・・・・・・保健室の鍵を借りてきてもらえないか?』

 

『あ、はい。ただいま・・・・・・』

 

志摩子は職員室まで、保健室の鍵を借りに行った。

 

 

 

「そのときにね・・・・・・もしかしたらと思ったの」

 

「そうだったんだ・・・・・・でも、もういいんだ」

 

乃梨子は顔を上げた。

 

「私は、志摩子さんと恭也くん、どっちかを選ぶことなんて出来ないから・・・・・・」

 

痛みに耐え、決意にも似たような顔を、乃梨子はしていた。

 

そんな乃梨子に、志摩子はくすっと笑った。

 

「あわてんぼうの乃梨子」

 

乃梨子は、その言葉に聞き覚えがあった。

 

「どっちかを選ぶ必要は無いのよ。私はあなたを好き。そして恭也さんも好き。それでいいと思うの」

 

それは、祥子にどっちを取るのかと問い詰められたとき。

 

乃梨子は志摩子に、片方を切る必要なんて無いと言った。

 

「志摩子さんは欲張りなんだ・・・・・・」

 

乃梨子も、かつて自分が志摩子に言った言葉を繰り返した。

 

「そうよ。でも、乃梨子もそうみたいね」

 

志摩子は、乃梨子の両肩に手を乗せる。

 

「一度好きになったら、もう止まらないわよ」

 

くすっと志摩子は笑った。

 

「前にね・・・・・・もう寒くないって言ったけれど・・・・・・今は違うわ」

 

そのまま乃梨子を自分の胸元に抱き寄せて・・・・・・

 

「寒くないのでは無くて・・・・・・とても暖かいのよ。こうして乃梨子がそばに居てくれるから」

 

乃梨子の髪を撫でながら、志摩子は諭すように言う。

 

「志摩子さん・・・・・・」

 

乃梨子が笑顔になったのを見て、志摩子が嬉しそうに微笑んだ。

 

「やっと笑ってくれたわね・・・・・・」

 

 

 

恭也が校舎を出ると、外はすっかり暗くなっていた。

 

館へ向かって歩いていると、月咲が館から出てきていた。

 

恭也には気がついていない様子で、外へ歩き出していた。

 

そんな月咲に声をかけようと、恭也は前へ踏み出そうとしたそのとき・・・・・・

 

(・・・・・・!?)

 

恭也が怪しい気配に気がつき、その方向に目を向けた。

 

明らかに敵意・・・・・・むしろ殺気をはらんだ気配が恭也・・・・・・いや、その対象は月咲に向けられていた。

 

 

ドクンッ!

 

 

銃声が鳴り響くか否かの瞬間に、恭也は神速の領域へ突入した。

 

 

ドクンッ!

 

 

ドクンッ!

 

 

恭也は地面を爆発させるほどの勢いで、月咲へ向かって走る。

 

銃弾は確実に月咲へ向かって飛んでいる。

 

だが、一歩分・・・・・・コンマ何秒か恭也の到達が早い。

 

恭也は月咲を助けるべく、月咲へ向かって飛びついた。

 

しかし・・・・・・

 

 

 

(!?)

 

 

 

恭也の腕は、空を切ったのだった・・・・・・

 

 




志摩子と乃梨子の方は何とかなったみたいだな。
美姫 「良かったわね〜」
うんうん。一安心だな。
美姫 「それにしても、月咲は一体…」
果たして、恭也の腕が空を切った意味とは。
美姫 「次回以降も目が離せません!」
次回も非常に楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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